●A 1/2 鐘が鳴る。 白亜の教会、祝福の音色。 純白のドレスを身に纏い、厳かに花嫁は入場する。 結婚式。 神聖にして尊い儀式は、今、未来ある二人の門出を祝す。 希望ある未来を夢見て、神の御下にて、新郎新婦は誓いを交わす――。 聖母の描かれたステンドグラスが突如、粉塵となって降り注ぐ。 影。 不意に躍り出でた人影が、瞬く間もなく純白のドレスごと花嫁を切り裂いた。 ブーケは舞う。 オルガンに代わって響き渡るのは悲鳴だ。 開け放たれていた教会の扉が、ひとりでに閉じる。 外に漏れるのは断末魔の叫びのみ。やがてそれさえも失せ果てて、静寂がすべてを呑み込んだ。 ●偽装結コンコン 「偽装結婚、してください」 作戦司令部第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽(nBNE000247)は婚姻届の用紙を貴方たちに差し出した。 ――そういわれましても。 「これはいわゆる囮作戦にございます。結婚式場を襲撃するエリューションに対して、一般人とすりかわって待ち伏せ罠を張る、という次第です」 佐幽は淡々と、のうのうと婚姻届に勝手にリベリスタAさんとBさんの名前を書きつけてく。 「あの、それは一体……?」 おそるおそる誰かが問い訪ねると、佐幽は微笑も湛えず心底不思議そうに答えた。 「? 婚姻届ですが、何か」 「いや、いやいや! だからなぜ婚姻届に勝手に名前をですね!」 「偽装結婚式をやるにあたって必須の、新郎新婦役を誰にしようかと考えておりまして。どうせだったら勝手に決めてしまった方が面白いかと」 「な、なるべくこちらで決めさせてもらいますから!」 「左様で」 すると更に佐幽はもう1枚、婚姻届にリベリスタCさんとDさんの名前をさらさら書きつける。 なおCさんは男性、Dさんも男性である。 「あの、それは一体……?」 おそるおそる誰かが問い訪ねると、佐幽は微笑も湛えず心底不思議そうに答えた。 「? 婚姻届ですが、何か」 「いや、いやいや!! ♂×♂じゃないですか!!」 「じつは式場の襲撃は同時刻に二件ありまして、もう片方は、同性結婚の一般人が被害者なのです。さういうわけで偽装にあたってはなるべく再現度を高くしておきたいわけです」 「誰得」 「さぁ」 なお女性同士でもOKの模様。 「それでは、くれぐれもお気をつけて――」 ●B 牧歌的なレストランを会場として、和やかに結婚式は執り行われていた。 家族や友人だけの、こじんまりとした結婚式なれども、それは心暖かな一時であった。 白いタキシードの、ダンディな青年が仲良くふたりケーキ入刀の共同作業を行う。その絵面はともかく、参列者一同の祝福のおかげか奇異に見えても幸せそうな一場面であった。 いよいよブーケトスだ。 宙を舞う花束。 その時、乱入者が弾丸の如く人ごみを掻き分けて突撃してきた。 「どけええええええええええええええいっ!!」 キャー、ワーと悲鳴が上がる中、乱入者は三回転空中ひねりで軽やかにブーケをキャッチする。 着地際、凄まじく重い体重によって木床が壊れて穴が空く。 誰もがざわつく中、ゆっくりと乱入者は穴の底から這い上がってきた。 その異形、天使の意匠が施された白き全身甲冑は、しかし中身が入っていなかった。 「どうして……」 刃渡り1.5mの巨大すぎる剣を掲げて、白甲冑は咆哮する。 「どうしてわたしは結婚できなかったのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 Eフォース:フェーズ2『おひとりさま』。 それは正義の戦いに明け暮れた果てに、素敵な結婚を夢見ながら最期まで出会いもなく力尽きたリベリスタの成れの果てであった――。 ●A 2/2 母が再婚した。 母が離婚した。 母が死亡した。 血の繋がらない元父親に引き取られた。 父が離職した。 父が乱暴した。 父が死亡した。 ――私が、殺した。 殺らなければ殺られる。そんな極限の状況下だった。 捨てた女の娘のために、切羽詰った金銭を切り崩して養育する。私はどこかで他人行儀で、良い子を装って本心を晒さない。懐きやしない。そんな子供に嫌気が差しても不思議じゃない。 けれど、私は弱かった。 人ひとり殺して、そこでもう、生きる気力を使い果たした。なんて情けない話だろう。 それでも死ぬに死ねなくて、おめおめと罪をひた隠し罰を受けることなく生き続けようとした。 そんな私には過ぎた幸福だったのだ。 人並みに恋して、将来を誓い合い、こうして今、バージンロードを花嫁として歩いている。 ――だからこれは必然の罰だ。 父は襲来した。 父は復讐した。 父は殺戮した。 私の最愛の人を、親しき友を、見ず知らずに人々までをも殺し尽くした。 悪魔に魂を売ったのか。 異形と成り果て、人としての面影もない黒き魔獣が父だと理解できたのは他でもない。 鉄鎖で縛った両腕。 包丁で抉った喉元。 灯油で燃やした焦痕。 復讐せねば傷も疼こう。無力な私はされとて父に詫びる心の欠片もなく、ただ、無様に死ぬ。 ――結婚など、するべきではなかった。 人と認識しがたいまでに辱められた最愛の彼に、私は悔いる。 ごめんなさいと、言葉にできぬままに。 私は死亡した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 1人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月04日(水)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 1人■ | |||||
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●A:0 奥津城を夜月が見守っている。 墓所を巡る影ひとつ。 懐中電灯の光が揺らめく。 『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)はある墓前で立ち止まり、刻まれた名をつぶやく。 「黒谷、カオル」 ●A:1 白を礎とした教会の中央を走るのは赤い絨毯のバージンロードだ。 新郎――。 『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)が凛と佇んでいる。その様はブラックダイアモンドのように気高く美しくも妖しい。 演技という点においてはいささか不自然なくらいだ。無理もない。その鋭敏な聴覚を以って“敵”を警戒している以上、否応がなく演技に集中できはしない。 この式場、参列者は全てリベリスタだ。 偽装して敵を誘き出し、これを叩く。 その為に、A班は皆一様に新郎、新婦、そして残る三名は友人たちという設定で演技する手筈だ。 とはいえ、エキストラも含めて皆本職の役者ではない。 『結婚式に出席なんてもう何回目だっけ、新婦だけでも9回は経験してるわ』 無論、離婚と結婚を繰り返したという意味ではない。 青島 沙希は舞台女優。アーク広しといえど彼女は匹敵する演技力の持ち主はそう居ないはずだ。 そんな彼女の演技指導は的確で厳しく、そのために少々一部のエキストラの不評を買いつつも全体としては即席なりに本物さながらの結婚式模様を再現できている。 いよいよ花嫁の入場だ。 新婦・黒谷ユミ――。 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が深く白のベールを被り、面を伏せて粛々と姿を表した。 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が付添人だ。ユミの父親は本来、死んでいる。花嫁の親友、という設定のロウが連れ添うのはそう不自然ではないはずだ。 『花喰い蝶々』ルクレツィア・クリベリ(BNE004744)は花嫁の仕事上の先輩という設定だ。花嫁に気遣った端役然とした装いで、うまく他のエキストラの中に埋没して存在感を消している。 「ユミさん、おめでとう」 まっすぐな祝福の言葉。偽装の結婚式などということは忘れて、ただ純粋に祝おうと心懸けるルクレツィアに対して「はい」とリリも釣られて素直に返事する。リリの緊張もやわらいだようだ。 「さ、新郎がお待ちかねですよ黒谷さん」 親しげに振る舞うロウに促されて、内心アレコレと複雑な想念渦巻くリリは一歩を踏み出した。 「ま、参りましょう」 ●A:2 「今日は、一段と綺麗だ。行こうか、ユミ」 桜庭は微笑する。 差し出された手に誘われて、リリは桜庭の隣に立つ。神父の祝詞がはじまった。 一連の手順を踏み、順当に挙式は進む。 「ど、どのタイミングで出てくるのでしょう」 リリは小鳥のように囀る。 「さあな」 桜庭は狼のようにささやく。 少々意地悪なのは、きっと、リリの表情がいかにもからかい甲斐がありそうだったからだろう。 蒼眸が心もとなく震えている。 『汝、病める時も、健やかなる時も、この者を愛し、支え、共に歩む事を誓いますか』 「誓います」 桜庭が悠然と答える。ここを越えてしまえば、残るは指輪の交換、そして誓いの接吻――。 同じ問いかけに、リリは返事ができない。それは単に乙女心がどうこう、というだけでない。 ――例え正しき事の為、例え演技だとしても。 神の御下において、嘘偽りの誓いを述べるということはリリにとっては重い問題なのか。 あるいは、もっと別の理由で――。 「あ、えと、その……」 誓いの言葉に困惑するリリ。 「リリ」 桜庭が、強引にリリを抱き寄せて迫る。 真剣な表情、息が止まる。 「言葉はいらない」 キス。 されるのか。してしまうのか。 リリの思考が停止しかけた寸前、彼女の超直観が働いた。聖母が描かれたステンドグラスに映る黒影。桜庭に抱き寄せられた際に立ち位置が移ろい、ごく自然に、視界内にソレが収まっていた。そう誘導されていた。桜庭は敵襲を、演技に乗じて告げてくれたのだ。 思考が激動する。全てが戦闘を中心としたロジックに切り替わる。フォーム・アルテミス。月の女神の加護を宿して、閉じた瞳の中に蒼月が灯る。 砕け散る七色の聖母。 硝子の破片が降り注ぐ中、電光石火、黒影が強襲する。 黒死鬼の狙うはリリ。その邪魔となる桜庭の背中。 赤錆た鉄鎖が地を砕き、桜庭を真っ二つに切り裂いた。もっとも、それは分身、残像だ。 「……此処までか」 舌打ちが鳴る。 ソニックエッジ。処刑人の剣が閃く。 既にトップスピードに達した桜庭の超音速剣が背後より黒死鬼を横一閃に切り裂かんとした。が、変幻自在に赤錆た鉄鎖が蠢き、それは盾代わりとなって威力を削ぐ。いや、それでいい。 『十戒』と『Dies irae』が明滅する。 「大切な人と共に生きる、とても素敵な行事」 呪詛の弾雨を幾重にも浴びた黒死鬼がよろめき、己が身を蝕む呪いに憤怒の轟きをあげた。 「その幸せ、壊させはしません。――さあ、『お祈り』を始めましょう」 弾道上に淡く蒼白い光の軌跡が煌めく中、白のベールで面を伏せた花嫁は宣告する。 「制圧せよ、圧倒せよ」 弾幕世界。 三千を越える魔弾を従えて蒼月のベールを紡ぎ、二対の銃口を突きつける。 「祈りの魔弾の聖域にて」 ●A:3 事実。ロウの推察は正しかった。 『敵の目的は、恨み骨髄の復讐対象である黒谷さんに“少しでも長く、多く、広い苦痛を与える事”であると考察します。 黒谷さんは初撃を喰らっているにも拘らず、被害者が死に絶えるまでを見届けてから死亡しています。つまり、黒死鬼はわざと見せつけていると考えられるのです。 しかも、最愛の人から順に直接関係の無い参列者までね』 最高速にまでギアを加速させ、ロウは桜庭と挟み撃ちになるよう前衛として奮戦する。 その間、沙希はエキストラを撤収させる。予備戦力の彼らでは居るだけ足手まといだ。 後衛。ルクレツィアを狙わせない為の戦術は、見事に功を奏す。 「貴方の復讐心も分からないではないけれど……」 紅玉の瞳が闇灯す。 燐光が舞う、花喰い蝶々の名を体現するが如く。 「人の幸せを呪うよりは祝う方が好きなの」 魔女の繊手を掲げ、魔法陣を編む。 「ごめんなさいね?」 掌にふわりと浮かんだ光球が、吐息によって、たんぽぽを吹き散らすように空を舞う。 幻想的な光る綿。 指を鳴らせば、それらは一斉に魔力の矢と化して黒死鬼へ殺到した。 迅速な回避運動。飛翔する黒死鬼は飛竜のように自在に空を支配する。幾らか被弾を奪っても、全身に纏う黒炎が魔力防壁の役割を果たして大打撃には至らない。 黒死鬼は強靭だ。 高い不死性と俊敏さは巧みに致命打を避け、リリの弾幕世界さえ敵を圧倒するに至らなかった。 反撃は強烈だ。 黒死鬼は黒炎を纏った鉄鎖で一帯を薙ぎ払い、挟撃作戦を展開する前衛のロウと桜庭をまとめて滅多打ちにする。直撃はせずとも、確実に削られている。 A班に癒やし手はいない。削り合いになれば不利なのはどちらか一目瞭然だ。 ひとつ、戦術ミスがある。 囮役の運用法だ。 黒死鬼は攻撃目標が読みやすい。一番に黒死鬼に狙われるのは桜庭であるが、その桜庭当人は積極攻勢を狙う。回避力に長けた桜庭とて、限界はある。回復や防御的支援もない以上、桜庭自ら時には攻撃を捨てて回避や防御を優先させることも必要だったやもしれない。 (このままではダメだ、ダメージ覚悟で首を掻き切る!) その判断もけして間違いでない。しかし大博打だ。 一瞬の好機。 桜庭は疾駆する。ロウの剣舞、ルクレの魔弾に一瞬ひるんだ直後の黒死鬼へ。 絶叫する黒死鬼。 黒焔の鉄鎖が幾重にも殺到、桜庭を絞殺せんとする。懐がガラ空きだ。今ならば――。 「この剣には御誂え向きな位置だ。丁度此処は教会だ、神様にでも祈るんだな!」 乾坤一擲。 横一閃に首の傷跡をなぞり、刎ねる。その筈だった。 突如、傷跡より噴出した漆黒の豪炎が一縷の希望を焼き尽くした。博打に必勝はない。黒炎は満身創痍の桜庭に直撃、炎上する。さらにそこへ鉄鎖が――。 「桜庭様!」 リリが庇う。赤錆た鉄鎖にリリが磔られる。常人ならば一瞬で灰と化す黒炎を、彼女の宿す加護がどれほど和らげようとも一方的に身動きを封じられたまま喰らえば――。 地獄の責め苦だ。 黒死鬼はリリを拘束したまま空中へ運び去り、急降下して聖母像へと投げ捨てた。 砕け散った瓦礫の下、リリは奇跡的に息を吹き返す。 「か、は」 運命の奇跡、そして“黒谷ユミは最後に殺す”という黒死鬼の行動原理のおかげだ。 「生きてるか、リリ」 桜庭は傷だらけの上、朦朧とした意識の中、死力を尽くして立ち上がる。 ――次は無い。 ●A:4 起死回生。 逆転劇のはじまりを告げたのは、意外すぎる人物だった。 黒谷カオル。 黒谷ユミと通じる面影の、凛然として覇気のある気高い薔薇のような女だ。西欧貴族のような大きなパニエの黒いドレスを纏い、一種、ルクレツィアにも通じる神秘的な雰囲気がある。 カオルは花嫁――リリを庇うように佇み、射るように黒死鬼を見つめる。 不思議なことに、凶暴そのものであった黒死鬼は突如として攻勢を止め、困惑している様子だ。 「そう、私よ、アナタの愛してやまない私よ」 『グ、ルル……』 「アナタにお礼を言わないといけないわね。ありがとう、私とアナタの大切な娘を育ててくれて」 演じる。 演じるのだ。 黒谷カオル――その“役”を、青島 沙希は女優魂に賭けて演じてみせる。 「で、そんな“優しい”貴方は、本当はどうしたいの? 本当に、これが望みなのかしら?」 唸る。 黒死鬼が低く唸りつつ、ゆるやかに地に降りる。 ごく単純な暗示だ。 「貴方は良い人だ」といわれたら良い振る舞いをしたくなるし、「貴方は悪い人だ」といわれたら悪い振る舞いをしたくなる。無論、これだけで復讐心が綺麗さっぱり拭える筈もない。 ただ――時間稼ぎには十分だ。 黒死鬼は悩み苦しみ胸を掻き毟り、黒炎を滾らせ唸り声をあげる。 そして猛然と、全てを振り切るようにカオルへ迫る。 「そう、それが貴方の選択――であれば」 早希はパニエをめくる。その下に隠れていたのは――。 「不幸な未来は砕いてしまいましょう」 最大限に魔力を収束させたルクレツィアが、片目を閉じてウィンクした。天井へ合図を送る。 一直線に迫る黒死鬼。 一撃必中。 「死が二人を分かつ前に」 魔弾が閃く。光輝く蝶々が壮絶な爆光を伴い、首の傷跡を撃ち貫いた。 否。首の傷跡を貫通したが為に皮一枚まだ繋がっている。 『ユ、ミ』 黒死鬼はのけぞりつつも踏ん張り、千切れかけた喉元が黒炎を噴く。あと一撃――。 天井に響く、蹴り音。 「神魔須らく掃うべし」 縦一閃。 斬首一刀、稲妻が如く。“仕事”を終えたロウは大般若を鞘に納める。 鍔鳴り。 断末魔の叫び等なく、躯の倒れ伏す鈍い音がこと静かに、死闘の終わりを告げた。 ●B:1 レストランは大盛況。 エキストラのみなさん(なお募集の結果、出席者の内訳は腐女子4:BoZファン2:暇人3:そっち系の人1)の熱気は最高潮に達していた。 『かたなしうさぎ』柊暮・日鍼(BNE004000)は天真爛漫に愛想を振りまく。 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)はぎこちない笑顔で声援に応える。 双方ともに白のタキシード、サングラスを外している。華奢な日鍼がなんとなしに受……花嫁っぽくみえる。髪を解き、兎耳を隠すとついでにドレスも着せたいほど可憐だ。 ねたましい ホモップルさえ けっこんしき しあわせいっぱい ねたましい 「オメデトウフタリトモ」 『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)は慣れない演技で半ば片言になっている。 心の中ではジェラシック(嫉妬病)パークが開園、ジェラ期の恐竜ジェラノサウルスが白兎を追っかけてる。――というのは誇張表現、所詮ホモはホモ、自分は自分だ。 「これ、ご祝儀」 なお蝶々結びで『結婚呪い 蛇目』と書いてある。 「……ああ、ありがとう」 「わあっ、愛美さんおおきになー♪」 のんきな日鍼をよそに、伊吹は超直感を働かせる。――よかった、カッターは仕込んでない。 愛美はなぜだかスッキリ晴れやかに微笑んでいる。 ●B:2 誓いの言葉をふたりはすらすらかわす。 問題はKISSだ。 「口、付け? そ、そこまでするのか」 動揺する伊吹をよそに、はじめキスにノリノリでおちゃらけてた日鍼は、次第に現実味が増してきたのか、直前になって照れてしまって棒立ちに。 そんなパートナーを、伊吹はオトナの余裕で手とり足とりリードする。 「か、堪忍な伊吹君……」 「楽にしてろ、怖がらないでいい」 そっと優しく、豊富?な恋愛経験を元にKISSをする。 ヒューヒュー! キャーキャー! 会場は大賑わい。実際は視覚の錯覚を利用して、角度を工夫してそっと頬をくっつけてごまかしているものの、逆に言えば見た目だけはラブラブKISS成立だ。 (うさ耳やわこい) もふもふと無意識に撫でてしまう伊吹に、日鍼は可憐に恥じらい頬を染める。 パシャッ。 写メ撮られまくってますが何のフラグかは知りません。 ケーキ入刀。 終始ハートマークの尽きない展開に、黙々と愛美はケーキを食べながら敵襲を待つのだった。 ●B:3 ブーケトス。 いよいよ敵襲だ。日鍼の五感がそう告げる。おひとりさまが、来る――! 扉が開く。 ブーケが舞う。 「どらっせぇえええいっ!」 白甲冑が猛然とブーケへ突進する。その時だ。 電光石火、影が舞う。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)がブーケを掠め盗ったのだ。 「わたし以外の誰かが幸せになるなんて許せない。世界中全てがヒトリボッチになればいいのよ」 役名『熾竜伊吹に捨てられた女』。 「熾竜伊吹、わたしの純真を弄び、ゴミのように捨てて、あまつさえ男に走るだなんて」 憎悪のオーラが滾る。 「わたしより幸せになろうとするひとは、皆ミんナこロしてやる。 Eフォースを屠ろしたら……つぎはおまえだ、熾竜伊吹」 舞姫の鬼気迫る演技は、もしこの場に沙希がいれば「舞姫、おそろしい子……!」と評されていたに違いない。というか、本当に演技なのかも危うい。 「あなた、自分だけがおひとりさまから卒業する気なの? ユるセなヒ」 瀟洒なる刺突連剣。光の飛沫をあげ、舞姫は苛烈に攻める。が、白甲冑は重装甲な上、見かけに反した高い技量で大剣を盾に裁き、逆にタックルで弾き飛ばす。 「背後がガラ空きだぞ」 後背斬首。兜が床に転げ落ちる。 舞姫は囮。一瞬の隙をつき、熾竜伊吹は迅速に背後にまわって強襲したのだ。 「生憎我らは貴様と違っておひとりさまではないのだ」 確かな手応え。霊体を、確実に切り裂いた。 が、しかし次の瞬間、五体バラバラになった白甲冑が空中に浮遊、変幻自在に暴れまわり、ガントレットが伊吹を殴りとばしてひるませた隙に再合体を果たす。 「黙れ小僧ッ!!」 「なっ」 おひとりさま、誤解&義憤に吠える。 なお、この間に安全圏で着々と日鍼と愛美は後衛らしく自己強化に努めている。 「わたしは結婚できずに、縁も縁もない他人の幸福のために死んだ! 幸福なモノが憎い! ましてホモ結婚!? 未来に繋ぐ希望のブーケ!? ふざけないでよ!」 「うん、確かに」 首肯する愛美。 「あの娘はまだ生きている。結婚できる。貴方があの不幸な娘を幸せにしないでどうするの!?」 「いや、それは演……」 「コロスコロスコロス」 伊吹の背後では、舞姫が不気味に瓦礫の中から立ち上がる。 (……おい敵が一体増えてないか) 「けど、元カノとヨリを戻したら日鍼さんが不幸になるわ」 「うんうん」 肝心の日鍼はこっそりトラップネストを仕掛けつつ相槌。 「第一、誰がどう結婚しても私は蚊帳の外、不幸せなままじゃない……。妬ましい」 負のオーラが渦巻く。 舞姫が動の病みならば愛美は静の病みだ。キャッキャウフフと本当に楽しげな伊吹と日鍼を見てたら黒い感情が根付くのも無理はない。 「男ッ!」 「な、なんだ」 「責任をとりなさい」 「は?」 「貴方がわたしたち全員と結婚すればいいのよ」 「……何を言っているんだ貴様は」 「名案ね」 「ふ、フフフ……結婚、フフ」 唖然とする伊吹に愛美と舞姫が賛同を示す。日鍼はこっそり耳打ち。 「ここはおとなしく乗っとけば、満足して成仏するかもよ?」 「……」 拒否権? ある訳ない。 ●C レストラン組に合流した教会組の面々たちは目撃する――。 熾竜伊吹のそばに愛しげに寄り添う、三人の花嫁たちを。 「いやーうらやましいですねぇ~♪」 「あら、ご結婚おめでとう皆さん」 気楽に茶化すルクレツィアとロウ。伊吹は苦笑する。 あれから結婚式は仕切り直し、日鍼、愛美、舞姫はお色直しでウェディングドレスに着替えている。愛美のドレスは黒一色だったり、舞姫のドレスはべっとりミートソースで汚れているが。 「……伊吹、顔色が悪いぞ」 「ちょっと敵に、な」 桜庭は追求せず、黙す。熾竜伊吹、――男だ。 「それではおひとりさまは無事に消滅なされたのですね、日鍼様」 「そ! 来世では幸せになるんやよー」 くるりと踵を返して、日鍼は伊吹へはにかみ微笑む。 「ところで伊吹君、婚姻届はいつ書く? ……なんてな!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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