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砂上の命

●砂の城
 穏やかな午後。ある公園には数組の親子連れの姿があった。
 広い砂場の真ん中で、一人の少女が砂の城を作ることに勤しんでいた。
 年の頃は四、五歳だろうか。
 小さな手で砂を盛り上げ、固め。一途とも呼べる真剣さで、彼女は砂上の城を築いていた。
「ユキちゃーん」
 遠くで母親の呼ぶ声がする。少女は頬を紅潮させ、母親の方を振り向いた。
「ママ!」
「そろそろ帰るわよー」
「はあい」
 少女は幾分不満そうに頷いた。遊び足りないの、と言いたげに。
 砂場に座り込んでいた彼女が立ち上がった時、異変は起きた。
 ごぽり、と不気味な異音を立て、砂が蠢いた。
「えっ?」
 砂はまず、少女の靴を呑み込んだ。
 傍目には少女が足を取られ、躓き転んだように見えただろう。事実、彼女はつんのめって砂場に倒れた。
 少女が痛みに泣き出す間もなく、次に両手が地中に呑み込まれた。
 ずぶり、ずぶりと、砂についた両膝が砂の中へと埋もれていく。蟻地獄と化した砂は、少女の両手足の半分ほどをも吸い込んでいた。
「――きゃあああ!?」
 呆然としていた少女が思い出したように悲鳴を上げた。少女の体は四つん這いの姿勢のまま、肩口まで砂に呑み込まれようとしていた。
「ユキちゃん!?」
「ママぁ!」
 異変を察した母親が駆け寄ってくる。
 少女が助けを求めて泣き叫ぶ。
 が、少女を助けようと伸ばされた母親の手をも、砂はあっさりと呑み込んだ。
 バランスを崩し倒れ込んだ母親の頭を、蟻地獄が呑み込んでいく。呼吸を奪われもがく手足を絡め取り、地中深くへと引きずり込む。
 泣き喚く少女の顔が、ついに砂の中へと消えた。ごぼごぼと不吉な音を立てながら、二人は砂の海の中へ沈んでいく。
 そのあまりにも儚い姿はまるで、崩れていく脆い砂の城そのもの。
 やがて完全に親子を呑み込んだ砂が、首をもたげるように蠢いた。
 まだ食い足りない、と。そう叫ぶかのように、枝を伸ばすかのように、砂はうねる帯となって、呆然と事を見届けていた周囲の人間たちに襲いかかった――。

●依頼
「これが私の見た全て」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、小さな声で呟いた。
「エリューション・エレメント。フェーズは2」
 昼の公園で起こる、人々が砂に呑み込まれる――いわば食い殺されるという惨事。
 その一部始終を予知したイヴの顔は、幾分か青ざめているようにも感じられた。
「形のない砂が相手か。どう対処すればいい?」
 リベリスタが問う。
「……砂の城は儚いもの。風に風化していくし、呆気なく水に流されて壊れてしまう。命と同じね」
 イヴは静かな声で答えた。
「砂の一粒一粒は小さいけれど、水を含めば重い泥になる。そうなれば動きも鈍るし、形が見えれば処置することもできると思う」
「なるほどな」
 リベリスタ達は頷いたが、幾許かの不安は捨てきれなかった。
 不安定に形を変える土を『殺す』など、夢物語のようにも聞こえる。だがそんな不可思議が事実起きるのがこの世界なのだ。
「今のところ確認できるエリューションは、砂場の土だけ。砂の蛇のようになって襲ってくる」
「敵の数は?」
「本体と呼べるものがひとつ。でも、三、四体に分裂する可能性がある」
 リベリスタの問いに、イヴは淀みなく答えた。
「対処するのは夜の方が望ましい」
 公園の只中なだけに、昼間に戦闘になれば人目につきすぎる。加えて人通りのなくなる夜に対処しなければ、周囲の人間が巻き込まれ捕食される危険性もあった。
「このまま時間が経てば、被害者が出るだけじゃなく、さらに周囲を巻き込んでエリューション化を起こすことになる。……なるべく早く、対処してほしい」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ニケ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月02日(月)22:42
以下詳細になります。

●目的
 敵エリューション・エレメントの撃破。
 
●状況
 夜の公園。視界は拓けていて、足場は平坦。
 目標エリューションのいる砂場の他、数点の遊具や小さな噴水・水道があります。
 街灯によって明かりは確保されています。
 人通りのなくなる夜間のため人払いの心配はありません。
 
●敵詳細
 エリューション・エレメント『砂の大蛇』×1
 本体と呼べる砂の集合体です。
 【噛み付き】物:近:単:出血……砂中に引きずり込もうと噛み付きます。出血を伴うことがあります。
 【突進】物:遠:単……帯状になり突進攻撃を行ってきます。
 【砂吹雪】物:遠:範……砂を巻き上げて攻撃してきます。視界の悪化を伴うことがあります。
 【蟻地獄】物:近:複……蟻地獄を起こし足元を掬おうとします。
 
 エリューション・エレメント『蛇』×3
 砂の大蛇から分裂する小型の敵です。本体よりも力は弱くなっています。
 【突進】物:遠:単……帯状になり突進攻撃を行ってきます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスデュランダル
雪白 桐(BNE000185)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ハイジーニアスプロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
ヴァンパイアインヤンマスター
冬青・よすか(BNE003661)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)

●嵐の前の
「こんにちは……」
 昼下がり、ある公園には、数人の少年少女たちの姿があった。
「こんにちはっ、はじめまして!」
 そろそろと歩み寄ってきた少女に、離宮院 三郎太(BNE003381)は作業の手を止め、笑顔で答えた。
 彼の柔らかな金色の髪と優しげな青い瞳は、見る者に穏やかな印象を与える。
 その笑みを見た少女はほっとしたように頬を緩め、ことんと首を傾げた。
「おにいちゃんたち、なにしてるの?」
「お嬢ちゃん、知りたい?」
 応えたのは、三郎太の隣にいた『骸』黄桜 魅零(BNE003845)だった。
「うん!」
 怪しげな笑いを宿した魅零の赤い瞳を見上げ、少女はこくこくと頷いた。
「これはね、悪ーい奴をとっちめるためのおまじないなんだよ」
「おまじない?」
 三郎太や魅零の手にあったのは、水の入ったペットボトルだった。
「そうなんですっ、これで悪い奴を退治しちゃいますっ」
 三郎太と魅零の言葉に、少女は不安げな表情を浮かべた。
「悪いひとがいるの? こわいの?」
「大丈夫だよ」
 少女の小さな頭を撫で、優しい声で言ったのは、雪白 桐(BNE000185)だ。
 桐は色白の頬に少女を安心させるような笑みを乗せ、少女と目を合わせながら答えた。
「怖いのは、これがあれば大丈夫だよ」
「そうですっ、ボクたちがやっつけちゃいますからねっ」
 三郎太も胸を叩き、拳を握り頷いた。
 少女は彼らを見上げ、ぱちぱちと手を鳴らした。
「おにいちゃんたち、すごい! それが悪いのをやっつける武器なの?」
「そう。これはね、ロケットにもなる魔法の瓶なんだよ」
 興味津々、といった体で見上げてくる少女に、桐はペットボトルを掲げてみせた。
 ポケットからカッターナイフやビニールテープを取り出し、くるくるとボトルに手を加えていく。
「じゃーん、完成! 飛ばすから、見ててね?」
 桐が作っていたのは、羽のついたペットボトルロケットだった。
 ロケットは広い公園の中を真っ直ぐに飛んでいく。風を切って奔るそれに、少女は飛び上がって喜んだ。
「すごい、すごーい!」
 えへへ、と桐が笑う。
「ユキちゃん、そろそろ帰るわよ」
 遠くで母親に名を呼ばれ、少女は大きな声で、はあい、と返事をした。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばーい!」
 少女が母親の元へと走っていく。それと入れ違いに、大きなビニール袋を持ってやって来たのは、『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)だった。
「皆さん、お疲れさまです! ああ、重かった」
「どうしたの、そんなにたくさん」
 ビニール袋の中には、大量の水のボトルが詰まっていた。
 驚いた様子の桐に、真咲は胸を張って答える。
「もちろん、今夜の戦闘のために! レインコートも買ってきちゃいました。備えあれば憂いなし、です! ……でもお水たくさんありますから、皆さん一休みしない?」
「いいね、待ってました!」
 魅零が指を鳴らす。いただきます、と三郎太も頭を下げた。

 彼らリベリスタたちが行っていたのは、公園の至るところに水の入ったペットボトルを設置する作業だった。
 対エリューション戦に備えた、戦準備だ。
 真白イヴが視た『未来』に現れる砂の怪異に対抗する手段として、水を使うことが提案されたのだ。
「あの子たちが悲しい目に合わないためにも……頑張ろうね」
 立ち去っていく親子連れの後ろ姿を眺めながら、真咲は決意を秘め、呟いた。
 
●静けさと争いの音
「おお、すげえ装備だな! 本気で持ってきやがったのか!」
 日が落ちて、星が瞬く頃。件の公園には、八人のリベリスタたちの姿があった。
 その中の一人、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が驚きの声を上げた。
 月明かりの下にあったのは、巨大な放水車だった。
「本気だよ~! 何でこんな物持ってるかって? 気にしな~い!」
 トントン、と車体を叩きながら自慢げに言ったのは、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だ。
 一体どこから持ち込んで来たのか、終は来たるエリューション戦のために、放水車を用意してみせたのだった。
「すごいと、思う。蛇さん、水浸しにできちゃう、かも」
 小さな細身の体で放水車の巨体を見上げながら、『お砂糖ひと匙』冬青・よすか(BNE003661)は呟いた。
「だな。ヤツが現れたら、こいつを喰らわせてくれ」
「りょーかい!」
 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉に、終はしっかりと諾を返した。
「戦いはどれだけの準備ができるかで大きく変わります……今回これだけの入念な準備を行える以上、失敗はありえませんっ」
 三郎太の言葉に、リベリスタたちは揃って頷いた。

 ざわざわと、不穏な風が吹いたような気がした。
 雲が動き、月が見え隠れを繰り返す。
「来そう、ね」
 よすかが言う。皆、その言葉に否はなかった。
 よすかの声を合図に、彼女と三郎太が周囲一体に強結界を張り巡らせた。
 それとほぼ同時、リベリスタたちが見つめる中、砂場がごぽりと異音を立てた。
 砂が奇妙に持ち上がり、寄り集まって形を作っていく。やがてそれは大きな蛇の形を象り、明かりの下にその巨大なあぎとを晒し出した。
「さて、公園の平和を取り戻しておきましょうか」
 桐の言葉と共に、闘いの火蓋は切って落とされた。
 
 巨大な一匹の蛇の姿だったそれは、リベリスタたちを認め、ぐにゃりと分裂を始めた。
「こっちもいっくよ~、打ち方よーい!」
 終が操る放水車から伸ばされたホースが唸る。
 ジャアアアッ!
 ホースはうねりながら大量の水を吐き出し、歪に形を変え始めた砂場に降りかかった。
「水鉄砲も楽しいけど、大人の水遊びはもっと派手にいかないとっ」
「ボクも、いきますっ!」
 三郎太の手にも、一本のホースが握られていた。昼間、公園の水道に取り付けていたものだった。
 ぐっと握られたホースの先から水が吹き出す。
 水を浴び、泥になった一匹の大蛇と、三匹の蛇に形を変えたエリューション・エレメントが姿を現した。
「まずは第一撃、成功だな!」
 夏栖斗が大蛇に向かって構えを取る。その背中にフツが叫んだ。
「小物は任せろ!」
 その声に反応したかのように、蛇の一匹がフツへと狙いを定めた。
 身を撓め、飛びかかってくる蛇に、フツは手近にあった水のボトルを放り投げた。
 投げつけたそのボトルを、フツは式符・鴉で寸分違わず打ち抜いてみせた。
 水を浴びながら、泥にまみれたエリューション――蛇がフツに襲いかかってくる。
 ガッ! と音を立て、蛇はフツの法衣の腕に噛み付いた。
「焦燥院さんっ!」
 三郎太の叫び声に、だがフツはにやりと笑った。これこそが狙いだ、と言いたげに。
 法衣に血を滲ませたまま、フツは蛇に魔槍深緋による一撃を喰らわせる。
 蛇に向かい、フツは次々と打撃を与えていく。蛇は苦しげに体を揺らした。
 細かな砂に象られた蛇の弱点は、湿気や液体――血液――である。フツの戦略はそこにあったのだ。
「ずいぶんオレの血を流してくれたが、その分お前の身体も重くなってるんじゃねえか」
 やがて蛇はずるりとフツの腕から滑り落ちた。
 大量の水と血を吸い込んだそれは、最早身動きをすることすら困難なほどの重量となっていた。
「欲張ったのが運の尽きだったな。さあ、お返しだ。ぶっ飛ばせ、深緋!」
 止めの一撃が、砂蛇の体へ吸い込まれるように落ちていった。
 
「鴉魔、パース!」
 続いて飛びかかってきた蛇を、フツはさらりと躱して終の方を振り返った。
「りょうかーい、いっくよー!」
 蛇に向け、終は放水車のホースを向け、勢いよく水を浴びせかけた。
 強力な水のシャワーを浴びた蛇はばしゃりと形を崩し、いくつもの泥の塊になって落下した。
「うわぁ……。どろんこになりそう……ま、半分自分のせいだけど!」
 突進してきた小蛇の真正面に瞬撃殺をぶつけると、小蛇はさらに細かな破片となるまで切り刻まれる。
 月の光を反射させるナイフが見えなくなるほどのスピードで繰り出される一撃は、敵の姿形を崩すには十分過ぎるほどの力を誇っていた。
「アレ、使わせてもらうか!」
 エリューションと化したいくつもの泥の塊の中心に立ち、終はくるりとナイフを手のひらの上で回してみせた。
 ナイフから滴る雫が、キィン、と音を立てて凍てついた。
 終のグラスフォッグだ。
 氷刃の霧に呑み込まれ、水を含んだ泥となったエリューションは完全に凍りついていた。
「終君、いっきまーす☆」
 宣言と共に、終の銀のナイフが、凄まじいスピードで泥の蛇を切り刻んでいった。

「ねえ、蛇さん」
 陰陽・刀儀を発動し、道力を纏う剣をその身の周囲に浮かべたよすかが語りかけた。
「よすか、砂に埋もれて死にたくないわ、苦しいのって嫌い」
 手にした水のボトルを放り投げると、展開していた剣の一本が過たずそれを貫いた。
 よすかに牙を剥こうとしていた砂蛇の上に水が降りかかり、その身体を泥に変える。
 重たげに動きの鈍った蛇を前に、よすかのヴァンパイアの象徴――金の瞳がぎらりと月光を弾いた。
「お砂糖になら、溺れてもいいけど、ね?」
 ――よすかの冷たい氷でも飲んで、凍ってしまいなさいな。
 陰陽・氷雨が、泥となった蛇に襲いかかった。
 よすかの呪力が雨を呼び、それはごく局地的な豪雨となって、蛇の上に降りかかる。
 業火に焼かれるかのごとく、地を打つ雨に翻弄される泥の蛇。
 そして、滴るそのひとふりの雫が次々と凍りついていく。
 その身に染み込んだ水と共に凍りついた蛇は、氷となって砕けていった。
 その様子を見守りながら、三郎太はフツに駆け寄った。
「お怪我、大丈夫ですかっ!? 今、回復を!」
 なんてことねえさ、と笑うフツに、三郎太は聖神の息吹を掛けた。
 噛み跡も生々しい傷口が、術の力で塞がっていく。
「助かった。すげえ力だな」
 フツの言葉に、三郎太は照れた様子で首を振った。
「そんなっ、お役に立てたのなら、ボクは」
 良かったです、と微笑み、三郎太は周囲の状況を確認する。戦闘では状況把握が命だ。
 大蛇から分裂した小型のエリューションは全て倒され、他に怪我人は出ていないようだった。
「ここまでの作戦は全てうまくいっています!」
 三郎太は、大蛇に向き合うリベリスタたちを励ますように、大きな声で叫んだ
「今回の任務にあたり、ボク達の行動には一部の隙もありませんっ! あとはあの砂蛇を倒すだけですっ!」

 放水車による水の一撃を受けた本体――砂の大蛇は、その巨体を重たげに動かした。
 誰から喰らうべきか、品定めをするかのように。
 その大蛇の前に、桐と真咲は並び立ち、身構えた。
「ボクは少し後方から援護するね。また蛇が分裂したら、対処するよ」
「よろしくお願いしますね」
 真咲の言葉に、桐は頷いた。
 いくつもの修羅場を潜り抜けてきた桐は、落ち着いた様子で大蛇に向き直った。
「動く砂、すべて斬り潰せばいずれ倒せるでしょう?」
 恐れるものは何もない。ジャガーノートの力を纏い、桐は剣を構えた。
 そんな桐に向かい、大蛇が大顎を開き突進する。その衝撃を、桐は剣と水の入ったボトルを使い受け止めた。
 一撃を受け、割れ飛んだボトルから水飛沫が吹き上がる。
 その飛沫を受け、大蛇の身体には水が堆積されてゆく。そうして動きを鈍らせるのが、桐たちの戦略だった。
 大蛇は構わず突進を繰り返し、桐を砂上へと引き倒そうとするが、彼女は身をひらりと揺らしそれを躱していく。
 しびれを切らしたように、泥となりつつある大蛇から伸びる砂の一部が、桐の足に巻き付いた。
「させません!」
 剣を地面に突き立て、桐は己を砂中に引き込もうとする大蛇を斬り払った。
 ハイバランサーでバランスを取る彼女を、大蛇は捕らえることができずにいた。
 ――その命を、いただきます。
 心中で念じ、真咲は攻撃を躱され隙のできた大蛇に向けて、ソードエアリアルを放った。
 速度を増した真咲は天高く跳躍し、大蛇に斧の一撃を与える。あらかじめ水を纏わされていた斧の刃は、大蛇に大きな泥の傷口を開かせた。
 真咲は大蛇に対して剣撃を繰り返した。周囲に点在する水のボトルを共に切りつけることで、大蛇の体に着実に水を含ませていく。
 やがて散り散りになった泥の塊が、小さな蛇を形作ろうと蠢き出すその中へと、真咲は飛び込んでいった。
 これ以上の蛇の分裂は、許さない。
 その断固たる思いを込め、アル・シャンパーニュを叩き込む。光を纏った鋭い刺突が、蛇の姿を取りかけた泥塊を貫いた。
 芸術的とも言えるその刃の軌跡は、月の光を受けて白く煌めいた。
 攻撃と共に切り刻まれたボトルから溢れる水が、美しい放物線を描いて真咲を取り囲むように散った。それはある種美しい舞踏のように。
「……ごちそうさま」

「こっちもいるぜ。忘れないでくれよな」
「君が人を壊す前に、私たちが君を壊すよ」
 着実にその体を削がれていく大蛇の背後に、二人の人影があった。夏栖斗と魅零だ。
 大蛇は夏栖斗と魅零を飲み込もうと蟻地獄を起こしたが、彼らはハイバランサーの力を使いするりと飛び退りそれを躱した。
 魅零は落ちていた水のボトルを剣で刺し貫き、水を纏う刃を作り出した。
 その刃で、大蛇の背中へと奈落剣・終を突き立てる。相手を幾重にも苦しめる容赦のない一撃。
 魅零の攻撃を喰らい、大蛇の尾が石と化した。身動きの一部を封じられ、大蛇は上体をくねらせた。
 その体の一部が、漆黒の闇に包まれる。呪いを宿した黒い霧にありとあらゆる苦痛を与えられ、大蛇の躯体が尾と頭、半分に両断された。
 その分かたれた石となった尾を、夏栖斗が狙う。白く、凍て付いた冷気を纏った拳が大蛇の尾を打ち砕いた。
 そんな姿になってもなお、大蛇は餌を食らおうと頭を捩らせる。
「カモーン! 鬼さんこちら……って蛇か!」
 夏栖斗の挑発に、頭のみとなった大蛇が泥を撒き散らしながら突進する。
 それをくるりと身を翻し、夏栖斗は公園の噴水の中へ飛び込むことで躱してみせた。跳ね上がった水が夏栖斗の全身を濡らし、黒い髪から水を滴らせながら彼は大蛇へと向き直る。
 勢い余った大蛇は、そのまま派手な音と飛沫を立てて噴水の中へと身を沈めていた。
「ヨッシャァ! 夏栖斗君の濡れたお肌に服がくっついて眼福キタコレ、イェア!」
 魅零の歓喜の声に、夏栖斗は悪戯っぽく肩をすくめて言い返した。
「って、みれー、へんな煽り文句はいらないから! 恥ずかしい!」
 噴水の中で、どろどろとヘドロのようになった大蛇が蠢く。
 そこに、再び夏栖斗の魔氷拳が炸裂した。噴水に満ちていた水と共に、大蛇の体がパキパキと凍りついていく。
 リベリスタたちの攻撃を受け続けたエリューション、大蛇の体は、今や氷となるには十分なほどの水を含んでいた。
「砕け散れっ! っとか言ってみたかったんだよね」
 凍て付き、動きを止めた大蛇が、嘆くように口を開く。
 その大顎に、夏栖斗の土砕掌が打ち込まれた。
 掌打と共に叩き込まれた気によって、頭だけとなっていた大蛇は、内側から弾け飛ぶようにして霧散した。
 
●闘いのあと
「勝負、あったな」
 夏栖斗が濡れた髪をかき上げながら言う。魅零とパン、と手を打ち合わせ、彼は周囲を見渡した。
「皆さん、お疲れさまでしたっ」
 三郎太ら、それぞれに闘いを終えたリベリスタたちが集まってくる。
 誰からともなく漏れる笑顔が、戦闘の終わりを告げていた。
 あちらこちらに点在している水のボトルを回収して、彼らの任務は終了だ。
「あとは後片付けだけですね」
 桐の言葉に、夏栖斗をはじめ全員が頷いた。
「そうだね、ついでにゴミも拾って帰ろうか。ガラスとか落ちてたら危ないしね」
 静けさを取り戻した夜の公園で、密やかな闘いの跡が消えていく。
「見よ、この砂で作ったジオラマ! だがしかし、これも夜が明ければ、子供達の手によってただの砂に戻るだろう」
 いつの間にか、砂の城とそこで闘う戦士たちの姿を作っていたフツに、終たちが笑った。
「めでたしめでたし、ってやつだな」
「砂のお城は、かくも、虚しき」
「砂遊びなんて久しぶりだったけど、意外と楽しめたかも。たまには、悪くないかもね」
 よすかの呟きに、真咲も言った。
 戦闘によって踏み荒らされた砂場を整地しながら、魅零が振り返る。
「夏栖斗くん! 公園で砂遊び楽しいね! 童心に返るって感じで……ねぇ、年上の女性って……どうかな?」
「さ、さっき童心に返ったばっかで年上のって…………はい、年上のお姉さん大好きです」
 夜の空に、リベリスタたちの笑い声が響いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
シナリオに参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。
皆様の数々の水を使った戦法、感服いたしました。
無事にエリューションとなった砂の蛇は倒され、任務は成功となります。
被害者も出ず、イヴの見た未来は無事避けることができました。
当シナリオが少しでもお楽しみいただけたようであれば幸いです。
お疲れさまでした。