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【初級任務】非矯正式不幸存在

●だって何も見えなかったから
 吾妻 浩にとって、視力検査はこの上なく憂鬱な行事の一つであった。
 彼は視力が決してよくはなく、かといって実生活に困るほどでもなかった。
 遠くの看板が見れなくても、近くの事実が見通せるのであれば特に困ることもない。尤も、自動車の運転が可能な年限に達すれば話は別だろうが、相当先の話でもある。
 視力の悪さが何らかのメリットになりうる事態など、この世界には存在しない。身体能力は良きを善しとするのが一般的だ。
 だから、と家族の押し付けに似た勧めもあって眼鏡をかけることとなった彼は、数日を待たずして発狂した。
 この上ない皮肉であるが。
 彼に与えられた眼鏡が、彼にとって「良すぎた」のだ。もう少し簡潔に言えば、「見え過ぎた」というべきで。
 彼の周囲で殺人事件が頻発したのと、同時期でもある。

●きっとどこにも居場所なんてないから
「眼鏡、と一言で括っても、割と多岐にわたります。視力矯正具として、ファッションとして、異形の道具として、まあ結構色々と。今回、吾妻少年が手にしたのはその最後だった、ということです。何とも……そう、何とも皮肉めいている」
「つまり、この眼鏡ってこの世で本来出来得ない物体……アーティファクト、なのか」
「おや。任務は初めてかと思いましたが、予習してきましたか。重畳、重畳」
 返答を向けたリベリスタにへらりと笑いを返した男は、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)と名乗った。
 包帯をぐるぐる巻きにした容姿は、その下に見え隠れする素肌のせいか何処と無くアウトローに見えなくもない。高等部に属する者は、非常勤講師として勤務する彼の姿を知りうるだろうが、どちらにしろ怪しいのは変わりない。
「今回の任務の内容は二つ。アーティファクト『タナトス・グラス』の破壊。もう一つは、『吾妻 浩』……フェーズ2のノーフェイスとなって久しい彼の撃破です」
 その言葉に、場を埋めるリベリスタはにわかにざわついた。今しがた、映像に映っていた相手を殺す。ただ、不幸だっただけのはずの相手を殺す。それはたしかに、神秘に触れて間もなければやや刺激が強い内容かもしれなかった。
「アーティファクトの起動条件は、『眼鏡を掛けた人間が何らかの敵意・悪意を以て相手を見ること』。能力は、『相手の内心に基づいた幻想存在の顕在化』。つまりは、エリューション・フォースを生み出すことです。当然、相手の悪意がバケモノとして出現したら混乱するのは当然ですし、それで感情が蝕まれて神秘との融和性が上がった、というのは不幸だと思いますが……」
「……でも、ノーフェイスで、フェーズ2ならまだ、救いはあるんじゃないのか? その、フェイト獲得は確かまだ」
「無理です」
 現実を見つめられなかった一人に、夜倉はぴしゃりと言い放つ。フェーズ2までならフェイト獲得の可能性はある。それは事実だ。だが、討伐を旨とされたということは、それが許されないということ。
 何より、随分と人が死んでいるのだ、と彼はこぼした。
「これが未来視の結果だったらよかったのですが……過去です。既に『自らの悪意に食われた』人間は二桁を下りません。多くの場合、当人を殺せばエリューション・フォースは消滅するとのことですが、残っているものが幾つかあり、今後増え続ける可能性もあります」
「幾らなんでも、そのアーティファクト強力過ぎやしないか? そんなもんがホイホイ出てきたらとっくに崩界が進んでると思うが」
「ええ。製造年限から随分経っているようなので調べさせて頂きました。どうやら、よほど波長が合う相手じゃないと装着しても効果はなかったらしいです。物珍しい眼鏡、程度で古物商を回っていたようでして」
「そんなもんを視力矯正具として買い与えるとか、親はどうなってんのよ」
 まったくですね、と溜息をついてから、返答が返ってきた。

「彼の親は、彼に対して徹底して無関心だったそうですよ。そんな親の情念が、彼の操る思念として死後、残るというのも皮肉な話です」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月07日(土)22:24
●参加条件
Lv20以下(Lv21以上の場合、参加ボタンが押せません)

●達成条件
・アーティファクト『タナトス・グラス』破壊(回収する、自分のものにする、などは不可です)
・『吾妻 浩』の撃破

●エネミーデータ
・吾妻 浩:ノーフェイス、フェーズ2。視力が決してよくなく、そのコンプレックスを強く持つ。『タナトス・グラス』と波長が異常に合ってしまったが為、使いこなすと共に神秘に引きずられ革醒。
 盲細次元(神近範・ショック)
 イービルスキャン(神遠単・[弱点]・隙)
 排斥(物近単・[ノックB]・重圧)
└『タナトス・グラス』:眼鏡型アーティファクト。非革醒の対象に悪意を以て視線を向けることで、対象の心中にある悪意がE・フォース化する。リベリスタには効果無し。

・悪意(ネグレクト)×2:エリューション・フォース。フェーズ1。吾妻少年の両親から生まれた悪意。
 近距離・遠距離の通常攻撃を行い、クリーンヒット(100%ヒット)以上に状態異常[虚脱][不吉]を付与する。

●戦場
 住宅街沿いの道路、夜。舗装は比較的新しく、足場に不安はありません。ブロック塀等もあります。
 ただ、光源に乏しいため対策は必要です。

●プレイングについて
 本部マニュアル等を読むといいと思います。
 半角1200文字(全角600)記入可能なので、極力埋めることが成功につながるかと思います。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ジーニアスクリミナルスタア
篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)
ヴァンパイアダークナイト
七海 紫月(BNE004712)
ビーストハーフスターサジタリー
クリス・キャンベル(BNE004747)
フライエンジェクロスイージス
ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)
ヴァンパイアデュランダル
蔵前・優奈(BNE004830)
フライエンジェホーリーメイガス
リート・マリオン・エンデ(BNE004831)


「よう、少年。君を殺しに来たよ」
 道端に転がる石を蹴飛ばす程度に軽快に、いっそ同情や後悔などといったものは忘れてしまったかのように。篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)のごく自然な振る舞いを前に、少年――吾妻 浩は足を止めた。彼の周囲を守る二体の思念体と同様、彼には明白な意思が無いようにみえる。表情が希薄で、思考が読めない。自らの死を宣言されても、表情にこれといった変化が見られないのは異常だ。受け容れているのか拒絶したいのか……。
「……家族だからこそ上手くいかないことも、あるよな」
 人払いの結界を展開した『鏡の中の魂』ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)は、能動的な戦闘力に乏しい。自ら先陣を切って戦うことを避けているからだ。だが、かと言って敵に対して恐れているかといえば逆だ。よりはっきりと、相手を見据えた上で戦場に立つことを選んだからこそ、相対した敵の存在がより強く認識できる。彼が家族を従えている理由は複雑なものだ。誰に語ることもしない過去が首をもたげ、少年の境遇と擦り合わせようと蠢く。苦い思考だ。
 少年にその呟きは聞こえない。届かない。殺しに来た、と言われてはいそうですか、とは言うまい。軽く振るった手が侍らせた存在への合図だと理解した以上、仲良くしている場合でもない。
(本当は浩は寂しくて、愛されたかったのかな……)
 その『悪意』が動き出すのを遠巻きに視界に収めた『謳ウ人形』リート・マリオン・エンデ(BNE004831)の思考も、ユーグと然程遠くないものだ。家族ならば、ではない。家族だからこそ、の断絶。
 その死自体が自ら引き起こした事故に近いものであろうし、愛してくれないことを知っていたとしても、愛して欲しかったのかもしれない。
 でなければ、ああも歪んだ感情表現になどなりはしない。必要とするべき存在が、必要とは言ってくれない断絶感は胸を締め付ける。そういう意味で、彼女は幸福だったのだろう。
「もしかしたら、運命が交わらなければ、俺もああなっていたかも知れないんだよな……」
 そう言ってグレートソードを抜いた『偽りの優しき闇の刃』蔵前・優奈(BNE004830)に向けたリートの視線に熱が籠るのは半ば当然と言えるだろうか。
『運命の交わり』が救ったのは、優奈一人ではない。彼とともに歩むと決めたリートもまた、交わればこそ摩耗すること無く運命を燃やすことが出来るのだ。それはどこまでも幸運な事実である。
その『幸運』を享受するための最低条件は……時に非情になることだ。運命から転がり落ちた不運を弾く遠隔装置として時に自らを定義し、少年を打倒せねばならないのだ。
「……あ。ああ、あ」
(運の悪い男だよ、まったく)
 僅かな喘ぎ声と共に涙を垂れ流す少年の真意を捉えることはできない。だが、『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)には彼が幸運か不運かは十分に理解できた。不運ではある。
 ただ、自分の死の意味を理解する猶予が残されているだけ、『彼女』が殺したであろう者達ほど不運ではないのかもしれない。大抵は、その理由を伝えられず死ぬものだろうから。
「なんて……何、て、綺麗な世界なん、だ」
 眼鏡越しに自らの目を手のひらで覆い、吾妻少年は喘ぐように呟いた。悪意を生み出し顕現する自動装置は、彼の精神に極端な負荷を与え続けている。それは確かな事実のようだ。
 影響を受けることのない革醒者を前にして、美しい感情を垣間見たというのならそれは皮肉でしかなかろうが……何十人とその悪意にて殺害した彼の罪を思えば、確かにその感慨は理解できなくもないのだろう。
「きっと貴方は悪くない」
 相手の不幸を理解してやれるのは、痛みを受け容れることを由とするからだろう。七海 紫月(BNE004712)の言葉は少年への肯定だった。だが同時に、その全てを肯定することはできないという非情も内包する。
 悪意を従え悪意を曝し、数多を殺した少年に最早言い逃れは適わない。罪の深さは不幸の発露にはとても足りない。そういう意味では、確かに不幸であり続けるのだろう。
 滂沱と涙を流す少年が、しかし悪意を以て彼女たちを見据えた時点で既に、語らうだけの猶予などなかった。
 彼の侍らせた悪意が、感情もなくリベリスタ達へとするりと接近を開始した時点で、既に彼に対して同上の余地などなかったのかもしれない。
 ただ、それでもやはり世界は、彼に対して優しくもあり、厳しくもあり続けようとするのだろう。
 紫月が拒絶を以て放たれた拳を受け止めるのと、ユーグの与えた加護が彼女らに一時の翼を与えるのとはほぼ同時。
 皮肉なまでに正確に、戦場は蠕動する。


 緩やかな停滞の空気を纏い、悪意が蠕動する。
 伸ばされた手は、まともに触れれば動きを制限される厄介なものだ。逆を論じれば、触れねば何ら問題ないということでもある。伸び上がるそれを身を捻って躱した杏香は、するりと背後に回りこみ、ナイフを振り上げる。背を大きく切り裂く一撃は、思念体相手であれ相応の痛打になりうるものだ。血液と動揺に吹き出す、概念的な何かが確実な一撃になり得たことを容易く示す。
 そのまま背面をとり続けることは、恐らく彼女の腕前を持ってすれば不可能ではないだろう。だが、痛打を受け振り返った悪意に対し、彼女は身を退くことはしなかった。
 背後に、仲間を背負っている。彼らを容易に狙わせるわけにはいかない。前に出た以上、射線を身を持って防ぐことも含め、役割なのだと理解している。だから、ここは退かない。
 心配だから、ではなく、仲間意識が行わせる『最低限』を、彼女なりに履行するだけだ。
「後ろには行かせない」
 同等の、もしくはそれ以上の決意を以て挑むのは優奈。握りしめた柄の感触をしっかりと確認し、手から抜け落ちないよう集中し、振り上げる。
 杏香が相対するのとは別の個体……恐らく母親と思しき人影に振り上げた一撃は、自らの命を賭けるに足る威力と感触を彼の手に与えてくる。だが、相手とて木偶のように立ち尽くしてはくれない。
 す、と伸びた手が彼の首筋を掴んでねじ伏せようとする。その爪で首筋を削られながら後退した優奈の表情には、明白な恐怖が浮かんだ。戦闘の空気を、初めて自ら受け止めたという事実。それでも前に進まねばならないという事実。
 それは確かに重圧だ。それが何より重い楔だ。だが――だからなんだというのか。
 今、確かに避けられないと思ったタイミングを避けたのだ。運命の重みを感じ、敵の実力を理解して、それでも尚、自らの力で立っている。
「まだ俺の力は弱いけど、それでも守ることが出来る力だ!」
 右眼の下に傷痕が浮かび上がり、その瞳に写す表情が変化する。自らの力と決意の発露を、言葉に乗せてただ、彼は立つのみ。

 杏香の相対した悪意が、鬱陶しげに彼女を排除すべく一歩踏み出した瞬間、その肩口が破裂し、動きを大きく後退させる。
 十分すぎる威力を保って、且つ悪意の動きを大きく鈍らせたのはクリスの放った援護射撃。前に立つ者を主と定義し、副として放たれるそれとしては圧倒的ですらある威力は、対峙する杏香ですら驚きに目を瞠るものだ。同時に、その未来に繋がるものでもある。
(殺すのはオレじゃなくてもいい……だから)
 味方にとって戦いやすく、敵にはどこまでも戦いにくい状況を作り出す。自分が矢面に立って戦うことが難しい以上、できる事を最大限に行うのが彼女なりの戦いである。
 引鉄にかけた指が震えないように、意識をしっかりと保って撃てばいいのだ。援護に回る以上、何ら問題のないことだ。

「俺が杏香を回復する。リートは優奈を」
 ユーグがよく通る声で指示を向けたのに対して、リートは小さく頷いて応じた。
 回復役は、回復にだけ専念すればいい、という通説がある。だが、それは大きな間違いである。複数の回復要員がいる場合、最小労力で最大効率を出せるよう、互いに言葉と行動において確実に戦局を読まねばならない。そういう意味では、戦闘に一日の長があるユーグが率先して動く必要がどうしても存在した。
 だが、彼はそれを苦に思うことなど無い。悪意を、浩を、確実に倒す以上はそこから目をそらすことはしない。
 説得も、拒絶も、今の彼には不要だから、事実をありのままに受け容れるしかないのだ。
 無論、それはリートとて同じだ。運命的にも(或いは、皮肉にも)大切な相手、優奈の戦闘スタイルはデュランダルの多くと相違ない。つまりは、己の命を削り最大を叩き出すスタイルであり。
 無理をしない、というのを前提にしても、彼の身に振りかかる負荷は現状で耐えうるには相当な覚悟の要るレベルなのだ。故に、支える者がどうしても必要なのだ。
 隙あらば攻めに転じることができればいい。だが、前に立つ三名が三名共に激戦に身をおく以上、今の彼女の実力と状況判断はそれを易易と許してはくれないのだ。

 声のない絶叫を伴って、浩の周囲の空間が歪む。紫月を巻き込んだ空間の乱れは、彼女の身を苛むに十分な威力を有していた。幸運なのは、それをまともに受け止めずに済んだこと。不幸があるとすれば、それでも相当な威力を持っていたということか。
「それで気が晴れるのでしたら、気の済むまでこの身を晒しましょう」
 口元からこぼれ落ちた血を拭うこともなく、彼女は剣を振り上げる。痛みすら愛おしさに変換し、陶酔に収斂する。ある種の自己催眠にすら至ったそれは、しかし痛みを糧とし、自らを苛む暗黒騎士としての素養が彼女自身に存在したことを意味する。
 浩の攻め手は、確かに脅威だ。リートとユーグの二者が代わる代わる紫月を対象にして回復に据えても、十分な回復は見込めないほどに。だが、紫月にとっては却って好都合なのである。
「せめて貴方の心の痛みを、身の痛みで感じて共感して差し上げます」
 だから、彼女が放つ一撃は共感のほんの一部であり、癒やすことができない痛みを紛らわせ、彼方へ忘れさせるための一撃でもある。
「この痛みは、俺のものだ。俺だけの、もの、なんだ」
 虚ろな表情で言葉を繰る浩の攻め手は、止まらない。だが、確実に鈍りつつはあったのだ。

 クリスの援護射撃にタイミングを合わせ、杏香が悪意の背後に回りこみ、何度目かのナイフを引き下ろす。
 存在を消失せしめる一撃を放った彼女は、視線を浩へと照準した。
 殺すことを迷わない、躊躇わない彼女が自らを逸脱であると自嘲するのと同じように。
 生きることに毀れ、歪んだ浩は何処で道を間違ったというのか。


 クリスの呼吸が荒くなる。
 悪意二体が排除され、前衛が浩の撃破へと動いた時点で戦闘の天秤がどちらに傾いたかは誰が語ることでもない。
 だが、前に出る人間が多くなるということは、範囲攻撃の犠牲もまた増えるということだ。回復役は苦労する、と考えつつ、彼女は何度目かの集中に入る。
 チャンスは一度切り、リトライは無し。
 ビビリでも、ヘタレでも、勇気がないと自らを割り切り役割を認める彼女の何処に臆病などという要素があろうか。

「時間が掛かっても、生きていれば……もう少しだけ早ければ、分かり合える可能性だって、幸せになれる道だってあったはずなのに……」
 優奈の言葉は理想論だ。早く出会えることがあっても、きっと浩は幾人かを殺していた。わかりあえても、運命を得られぬならば道は無い。
 何より、アーティファクトが世界に存在する以上、それに引っ張られ意図しない革醒を招く可能性はいくらでも存在するのだ。
 それでもやはり、その道があればよかったのにと思わずにはいられない。
「無理だ。そんなこと、出来るわけがない、できっこ無いんだ! そういう言葉で俺を惑わすんじゃない……!」
「あたしらが1発2発ぶん殴っても生きてるような体だからさ、死んで貰うしかないんだよ」
 浩の慟哭は、しかし背後からの一撃が無惨にも断ち切った。できっこないのだから死ぬしか無い。人の姿をした異常なのだから生きていてはならない。何より、今の死角からの一撃をクリーンヒットにし得ない時点で、普通じゃない。
 殺す以上は、きっちり相手に異常を理解させる必要がある。納得づくて殺してこそなのだ。
「願わくば、心を強く持って欲しかった」
 無理だとわかっていても、紫月はそう口にすることしかできなかった。
 不幸に蝕まれた心をしっかりと、など到底かなうものではない。彼女の言葉はともすれば空虚に響くのかもしれない。それでも、受け止めた痛みを理解している以上、言葉にせずにはいられないのだ。
 痛撃を受け、時に紫月すら回復に動き、鬩ぎ合い痛めあった戦闘は、数十秒の間を置いて、動いた。

「……やれやれ、だ」
 そんな呟きが浩に届いたかはわからない。ただ、その目元を……アーティファクトを穿つ一撃が、アーティファクト『のみ』を穿つものとして終わるわけがなかった。
 弾き飛ばされた眼鏡と共に、浩の頭部から血がしとどに流れ出る。目尻を支点にくるくると独楽のように回転した彼の胴は、滑稽なほどにゆがんでいる。受け止めた攻撃全てを癒やすことができずに生き延びた結果が、無様で無惨な姿を晒している。
 言葉は出ない。ぐるぐると回る視界はなにも教えてはくれないし、悪意はどこにも映らない。美しい、世界だった。

「俺は忘れない」
 その視界の隅で、ユーグの声が響いた。


「せめて、最後は安らかに……」
 俯き、倒れ伏した浩の瞼をおろしつつ紫月が言葉を放る。
 死んでしまえば全ては終わりだ。安らかなまま終わることを願うばかりである。

「もしも、人の悪意が見えるようになったら……」
「……たとえ悪意が目に見えたとしても、私は大切な人と一緒に生きるよ」
 浩を襲った運命の悪戯を、自らに投影して優奈は僅かに苦悩する。だが、それに対して結論が出るより早く、彼の袖を掴んだリートが彼と同じ結論を紡ぎだす。
 生きていくしか無いのだろう、と。運命があるかぎりは、確実に。

「さーて、仕事も終わった。呑みにでも行くか?」
 そんな沈痛な雰囲気を打ち破るように、杏香が身振りを交えて皆に誘いをかけた。

 何人が同意したかは彼らのみぞ知るところだが……ひとつだけ言えるのは、未成年者が居るなら、些か居心地の悪い状況になりかねない事実でもあった、だろうか。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
(反動あり攻撃の)ご利用は計画的に。