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<裏野部>サカマキ逆説ロンリー論者

●悪鬼戦線
「狂人の真似をして大路を走らば狂人に同じ」という諺がある。
 これは、狂人の行動原理を理解しようと模倣することで、周囲から結果として同類と見做される皮肉を謳ったものであるが、同時に、フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉にも似ている。
 ――深淵を覗きこむ時、即ち深淵から覗きこまれているのだ、と。

 裏野部に所属していた研究員の一人が発狂し、処分された。
 理由は、「その男に合うアーティファクトの作成」により、狂気に寄り過ぎたからである。
 狂人のまま正気に戻ろうとしない男に合わせるために、狂気に舵を切ったからだ。
 ……彼と同行し、任務に就いていた二人は彼の元を離れてしまった。片や、あり方を求めて。片や、彼に愛想を尽かして。
 狂っている。分かっている。離れていく。突き放した。
 狂人に付き合わせるのは都合のいい使い捨てだけでいいし、狂人と突き合わせるのは敵方の矛で善い。

 狂気を伝播するために、男は命を惜しまない。
 感染のような日和見はしない。積極性のある伝播が、いい。

「あA、KUだらねえ物思いだ。こNな程度じゃリベリSUタにも勝てねえ……」
 男の名は、逆真という。
 先頃、活動を活発化させた裏野部の中にあってとうに波に乗り遅れた男だが、その狂気だけは一線級と言えるだろう。
 だから、彼の千切れた腕の意味が「その装備」にあるとは誰も思うまい。
 狂気に意味を求めることは、覗く事と何の違いがあるというのか……?


「この男……アークと交戦歴は?」
「そうですね、直接戦闘は一度。それと、アークの関わった事件に遠からず絡んだ事が、一度」
 男の姿に、訝しげな視線を送るリベリスタが問うと、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は鷹揚に頷いた。
 相手の質問の意図、『この相手を見たことがある』というものに十分な解答と言える。
「裏野部所属、『逆真』。下の名前に関しては、僕は存じません。ただ、彼の失っている片腕は、彼自身の意思によるものであること。それと、切断面のアーティファクト『イミテイショナル・アーム』がそれなりに厄介なこと、だけはお伝えできるでしょう」
「つまり狂人か。ところで、こいつ一人か? 確か……」
「本来はスリーマンセルで動いていたようです。ただ、それが形骸化して久しいのは事実のようで、現状では好き勝手動いているらしいです」
「三名が二名に減って、最終的にソロか。まあ、あり得ない話じゃないが」
 あり得ない、というよりは協調性に欠ける面々の多い同組織だ。普通だ、というのが正しいのかもしれない。
「一応配下は侍らせているらしいですけどね。で、このアーティファクトですが。能力の補助……というより、攻め手の選択肢を増やす類のようです。具体的に言うと、回数限定で、彼の攻撃は射程が伸びます」
「デュランダルの火力で、射程が延びる? デメリットなしに?」
「無しと言うかなんというか、彼自身にハンディキャップがあるようなものですが……まあ、回数制限があることぐらいでしょうか」
 デュランダルの特性は、近接攻撃主体で且つ爆発的な攻撃力を誇る反面、射程に難があるというところだ。これは、一部克服しうるスキルがあるにせよ、近接のそれに威力面は一歩及ばない為、それを由とするか否かで意味合いが異なってくる。
 それ完全な形で克服した、その意味は最早語るべくもない。外連味のある技は不要だ。
「彼の目的は、港湾地区の巨大な橋の破壊です。彼単独でもそれを為せる破壊力が有り、彼自身にその自信がある。正直、面倒な相手かと思われます」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月05日(木)23:23
 こんなヤツも居ましたねシリーズ。

●達成条件
・裏野部フィクサード『逆真』撃破
・裏野部フィクサードの撃破ないし撤退
(逆真敗北後、潰走する可能性が高い)

●エネミーデータ
・逆真:裏野部フィクサード。。メタルフレーム×デュランダル。機械化した腕を自ら引きちぎっている狂人。
 デュランダルスキル、暗視等を使用可。
 EX エンドレスサイクル(P):HP15%未満で発動。リジェネレート・チャージ大。
 イミテイション・クラッシュ(特殊):同一戦闘間に3回、任意のタイミングで使用スキルの射程を「遠」に拡張可能。
└『イミテイショナル・アーム』:腕輪型アーティファクト。上記スキルの発動キー。ちぎれた腕の根本に装備されている。
 個人に完全にチューニングされており、他者の運用は想定されていません。また装着に際し、実在の腕がある場合、幻肢痛に近い干渉を引き起こす事もある模様。
(登場シナリオ:『<裏野部>獣の本能(名前のみ)』『不敵装甲』『<裏野部>その身、不撓不屈に不動無常』。参考資料程度で、当該シナリオは知らずとも問題なく)

・裏野部フィクサード×5:インヤンマスター1(闇の世界持ち)、レイザータクト1、クリミナルスタア1、ホーリーメイガス2。
 逆真生存下での士気・忠誠度は極めて高い。

●戦場
 港湾地区・橋梁上。
 片側3車線の大型道路を擁する巨大な橋。戦闘間に破壊工作に走る可能性は低いが、逆真が完全フリーになればその限りではない。
 外灯はそれなりにありますが、照度が高い分影が多くなりがちです。

 暴力で解決するのが以下略。
 ご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
アウトサイドプロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスプロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
ハイジーニアススターサジタリー
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
ジーニアスマグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)

●Lonely Order
 橋梁を効率よく破壊しようとするなら、橋桁を潰せばいい。ただ力任せに拳を叩きつけるよりはずっと効率的に破壊できたことだろう。
 それすら思い至らなかったのか、或いは分かっていながらそうするのか。狂人の思考というよりは、ただの駄々をこねる子供にしか見えない。
 数多の拳と砲火を交えた後の戦場で尚、その威容を揺るがせないそれを見れば彼らの行為を無駄と笑う事もできただろう。
 だが、数度にわたり逆真の攻め手を受け、或いは流した『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は彼の言葉に些かの冗談も篭っていないことを理解していた。
「HEヘヘェ、もっと、MOっとだ! もうすKOし位楽しませろよo!」
「裏野部って本当に、いい感じにキチってるよね……!」
 渾身の力の激突に、何度思ったかわからない嫌味を交えながら攻め手を弾く。相手の隙を伺い、戦闘間の好機に備える『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)と連携を取るのがベストな選択肢であることは承知しているものの、双方の『タイミング』の認識に齟齬があった場合、十全な効率を叩き出すことは極めて難しい。
 もう少し端的に言うならば。夏栖斗の求めたタイミングが、『あり得べからざる夢想の産物』であったことが最大の問題なのである。

 他方、『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)を始めとした後衛は敵戦力を確実に殲滅することに主眼を置き、浮足立つ様子は薄いように思われた。
 一部の例外を除き、単体火力に注力する彼女と『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)による回復阻害は、神聖術師を重点的に配した(これも狂人の案にしては理性的に思われる)陣容を相手にするにあたり、有効な戦術のひとつであることも頷けよう。
 正しい選択に立って、正しい運用を行うことで戦闘が正確に進む。論理戦闘者にとって理想的な状況は、彼女ら二人がある認識を持ったことに起因するものでもある。
 曰く、「狂人と名乗るには理性的過ぎる」。過剰なほどの狂人としてのアピールは、裏を返すに常人としての捨てきれない理性の抑圧なのではないか、と。
「理由や目的があるなら、その程度は変人の――」
「無ェだろうよ、そんなもん」
 神聖術師の一人が膝をつき、荒い息を吐くのを他所に発せられた声は当然、リベリスタのものではない。
 全くのノーマークだったフィクサードの一人……閃光弾と共に放り投げられた彼の声だった。

 時系列をやや遡る。
 リベリスタ達が戦場に辿り着いた段階で、既に状況は一切の猶予を待つものではなかった、というのはある意味当然の帰結である。
 今にもその中の暴力を振り下ろさんとする逆真の手を止めたのは、『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)の拳撃による面制圧である。
 当然、その程度を想定していない彼らでも無く、受けるままに被害を被る訳ではなかろうが……ただ、『破壊より優先されるべき遊興』が現れただけの話でも、ある。
「そう易々とやらせてたまるか」
「HAッ、なら止MEてみな。言葉だけJAどうとでも宣えるぜリベリスタ共!」
 常識外の大口径の拳銃を両手に携え、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は周囲に対し視線を巡らせる。下手に影に隠れられたり、予め『闇の世界』を展開されることで不意打ちを受けることだけは避けておきたい。自分の為でもあるが、同時に背後に庇う恋人を慮っての行動でもある。逆真にとっては、努力を口にする相手ほど信用も出来ないし、御しやすいと踏んでいるのだろう。挑発的な言葉で誘いをかけている。
「……本当に、本当に哀れな人ですわ」
 そんなやりとりすら挑発の一環でしか無く、自らを鼓舞するための行為でしかないというのなら、『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)の言葉は理解できないものではないだろう。自ら切り捨てた正気が為により大きな要素を失わざるを得なかったという冗談は、正気の者だからこそ一笑に付す事が出来るというものだ。
「正気の時に求めたものが、正気を手放して手に入るとは、俺は思わない」
「綺麗事なRA他ァ当たりな。裏野部(ウチ)のバカ共じゃMUリだろうけどな!」
 身の裡から沸き上がる怒りを抑え、しかし若干の哀れみと決意を綯い交ぜにしたカルラの言葉は、しかしその男の耳朶に響いたのか、否か。荒々しい言葉の裏に、真意が隠れているならばそれは随分と……そう、随分と皮肉めいている。

 彼らの言葉のやりとりの裏、離宮院 三郎太(BNE003381)は緊張に呼吸を荒くしていた。実力的に自分を上回る敵を前に、加えて自分の能力を鑑みて不利な相手に立ち向かうのは中々意識しても恐怖だけは隠し切れない。
 例えば、闇。光量は大きいものの、橋梁に設置された街灯は分散している為その分の闇も深い。闇への備えを行っていない彼にとって、自らに課した役割である『自在に行動し得るプロアデプト』としての役割が十全に果たせるかといえば大きく疑問だ。それを超えうる意思を見せなければ、戦場に立ち続けることは許されない。
「これ以上先へは一歩もいかせませんよっ!」
 だから、言葉を、意思を叫ばねばならない。欲張りと言われようと、困難と止められようと、戦場に立つに不十分と誹られても、覚悟だけは一線級であると示さねばならない。
「ちーっす!ごきげんうるわしゅう、アークだよ。ロンドン橋気分で落としにきたの? 全く裏野部はご機嫌にキチってるね」
「またまた貴方をやっつけにアーク参上!」
「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」
「……く、イイNAぁ、凄ェなSOの緊張感の無さ! 気が違ってねE聖人気取りならそのHEンにしときな、背負うもん背負って能書きなんてMU駄だぜ、精々気張ってKUれよォ!」
 夏栖斗と壱也の挑戦的な言葉の意味は分かる。双葉の宣誓が、冗談ではなく意思を以て行われたルーチンであることも。彼らが如何程に実力者なのかなど、否、ここに居並ぶリベリスタの多くが『実力者』であることは承知の上で、しかし逆真は些かも自らが負けるビジョンを想定していなかった。それだけの覚悟と、それだけの自信が、彼を押し上げる気力の全てだったからである。

「シンプルに潰しあいと行こうかね。用意はいいかフィクサード」
 櫻霞の言葉が早いか、各々の最善の構えに、布陣に両軍が注力する。
 緊張感など、とうに張り詰めていた。感情など、互いの間でとうに臨界点に至っていた。互いを倒す、互いを殺す。その程度、彼らにとって十二分に存在したものなのだ。


「できる限り集中するんだ……攻撃さえ綺麗に当たれば、行動力と回復阻止その両方を行う事ができるはず……」
 緊張に声を震わせ、三郎太が拳を構える。
 戦局はリベリスタ側にやや優位かもしれないが、総合的には拮抗していると言っていいだろう。攻めに回って既に数度、神聖術師と陰陽術師とを主軸にその行動に楔を打とうと意思を放った。狙い定め、打ち込んだ。だが、彼の望む効率には届かない。理由は、明々白々である。見えないものには当てようがない。狙えないものに精密な一撃は加えられないのだ。
 闇の世界は、暗中を見据え得る革醒者には何ほどのものでも無い技術だ。だが、街灯やライトの光で抗うには十分ではないそれを、準備なしに看破することは不可能。
 増して、明暗くっきりと別れた戦場では尚の事。
 想定の外に置かれ、人間は先ず混乱する。意思が纏まらない状態で、十分な効率は出せはしない。どうすればいい、の繰り返しは彼の内奥で非情に響き渡る……
「落ち着いてください、各自で役割に徹すれば難しい相手ではありません」
 誰にでも無く発せられたレイチェルの言葉がなければ、そこで彼の戦いは終わっていただろう。
 自分の立場が「あらゆることを行える」ものだとすれば、「誰の代わりにもなる」し「誰かに取って代わられる」位置でもある。十分な役割が見込めない行動を続けることは本意ではない。
 何でも出来るなら、どうにだってやってみせる……三郎太の呼吸が、僅かに緊張から弛緩に変わる。行うべくを理解するために。

「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」
 自らの役割、という点で櫻子以上にそれをきつく定義している存在は少ないだろう。彼女にとっての役割というのは、戦場全てに対する責任も無論のこと、それに先立って櫻霞へ向けられた責任感にこそある。ともすれば危ういものになりうる感情を絶妙な域で制御し、戦況把握に転化できるのは彼女なりの才能といったところか。
 陰陽術師は、既にその体力を大きく損ない、回復もままならないのが見て取れる。
 それ以上に、損傷が酷いのは神聖術師……状態異常を押しとどめ、癒やしを届けんとする彼らをして尚、リベリスタの攻め手は苛烈だった。
「何人居ようが諸共潰す、邪魔をしてくるなら尚の事」
 櫻霞の持つ拳銃が吐き出す炸裂音と弾薬は敵対者全体を圧し潰す勢いで蹂躙する。
「この炎を以って浄化せん――紅蓮の華よ、咲き誇れ!」
 フィクサードが僅かでも固まろうとすれば、双葉のフレアバーストが叩き込まれ、分散を余儀なくされる。何より、彼らは前衛としての戦闘力の多くを逆真に依存する。
 逆真が引っ掻き回した戦場を、更に引っ掻き回すのが陰陽術師であり、戦闘指揮者。実力差さえ埋まっていれば、十分戦い得る編成ではあったのかもしれない。
 ……飽く迄、常識的な理論に基づけば。

「貴方もなんでこんな人についてるのやら」
「分からねえなら知る必要が無えってことだ嬢ちゃん。アンタが俺を殺そうってんなら、俺はその前に足掻くさ、足掻くとも……そうだろ?」
 虫の息で、ずたずたになった術手袋を正面に構えた陰陽術師は、壱也の爆発的な破壊が来るより一瞬早く術式を組み上げた。束縛を命じ、寿命を一瞬長く延ばそう。そして、その間で一矢報いよう……彼の決断は苛烈であった。正鵠を射ていた。唯一の例外は、運が悪かったことだけ。
「狂人に従ってると狂人になっちゃうのかな、わからないや」
 術式が壱也の腕を縛るより、男にはしばギガントが到達するほうが早い。
 圧倒的な一撃は男の存在を、返り血としてのみ認識可能な状態へと還元した。何十回と繰り返された、当たり前の戦力差からくる当たり前の帰結である。
(輪から外れたら死んでしまうのなら……)
 この男は常識人だったのだろうか。

「あんまり調子コイてんじゃねえぞリベリスタ。まだまだ俺らは倒れねえし諦めねえって、わかってンだろ?」
 閃光弾を放り投げた男が、中指を突き立てて挑発の姿勢を取る。それが布陣に相応する合図だったのか、かろうじて生き延びていた無頼漢は逆真の位置を確認し、小さく頷く。
 寡黙な男の構えた拳銃は、間違いなく後衛を照準していた。無防備な彼らを狙うには十分にタイミングを見据えた一撃だ。だが、それだけではない。
「Iィぜお前等、DEATHりそうなのによくやりやがる……!」
 夏栖斗の猛攻を凌ぎ、躱し、機を狙った逆真の表情が凶暴に歪む。火線を視界に収め、最も被害が大きい位置へと叩きこむ。攻撃に面制圧はいらない。単一対象を最大火力で叩き伏せる。
 神秘に至った戦闘者が常に行うシンプルイズベストを、すこし遠間に叩きこむだけだ。
 そこに隙は無い。何時もどおりを何十回も繰り返す上で、隙など出来ようはずがないのだ。
 得物を持つ手に添えられた『見えざる手』は、確実に後方に一撃を送り届けた。予備動作もなくエフェクトも派手ではない。ただ一瞬で行動に大きく支障を受ける程度。ただそれだけの一撃なのだ。
「そこまで練り上げといて狂うとか、俺には分からねえわ」
 刃を振り下ろし、クレーターを生み出した遠方を顧みない逆真の胴を穿ったのは、カルラの放った正拳突きだ。
 当然、彼の位置は直接打撃に適した位置ではない。十分な射程を以て放たれた、拡張された一撃……彼に対する意趣返しともとれるものだ。
 く、と血を吐き捨てながら逆真は笑う。目の前の英雄モドキが重ねた拳と言葉なぞよりよほど重い、覚悟と練成を感じる一撃。
 否、その「モドキ」が弱いわけではない。意識をしっかり保たなければ、すぐに倒れてしまっていただろう苛烈さは、しかし今のそれに比べれば何処か上の空に思えたのだろう。
 思うに、彼ではなく「裏野部」を照準したような攻め手だった。だからだろうか。
「分からなくて構わねえよ」
 逆真の声のトーンが、更に下がる。威圧感が更に増し、欠けた腕、その付け根が赤熱する。
「理解されたRA狂人はおわRIだ! もっと、MOっと! 戦わせろよリベリスタァ!」
「……あーあー、ありゃ本気だぜ逆真の旦那」
「こりゃ無理だわ。逃げる気しねえ」
 やれやれ、とため息を吐く二人に対し、しかし戦場は待ってはくれない。
「やはり貴方は、貴方がたは狂人でもなんでもない……のでは」
 冷徹な表情で、しかしわずかな困惑の色を残してレイチェルがつぶやく。その問いは届くことは無いが。その答えはどこまでもありありと、戦闘と言う形で示される。


「止めて、みSEろやァ!」
「いっちー、むっきむきのマッスルボディでやっちゃって!」
「誰がむきむきなのよっ!失礼な!ちょっとだけ力が強いだけだってーのっ」
 遠間に視線を移した瞬間を見逃さず、夏栖斗の言葉に応じるように壱也が間合いに滑りこむ。握られた刃は確かな破壊力を伴い、彼の胴へと吸い込まれる……直前で、その刃に弾かれた。
 視線移動はフェイント。最大火力を接近させるためのものだ。だが、それは同時に十分な狙いを付けず相手に叩き込み、自分を的にかける行為だ。この小柄な獣相手には危険すぎる行為でもある。
 仲間は倒れた。狂気に身を浸した代償としては十分なきがするが、未だ足りない。もっと、命を削ることが出来るはずだ。燃えたぎる体内器官がそう告げている……だが、その意識は残されたリベリスタ達の攻め手によって崩される。
「まあ真意はどうあれ。俺は狂人の思考回路なんぞに興味はない」
 櫻霞の嘲りとも無理解を貫き通す決意とも捉えられる言葉を最後に、逆真の耳朶は言葉を受け入れることを拒否した。

「貴方はまだ、人だったってことだね」
「やっぱり、狂ってなかったのかな……?」
 羽柴姉妹の、半ば疑問符混じりのやりとりは狂気の果てには届かない。それ以上、逸脱を求めて得られない常識は、彼の体ごと砕け散って消え去って。
 もう誰も彼の名前を呼ぶことはない。狂人と呼ぶことすら。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 明かりがあっても隙間の闇とか結構怖いですね、というお話でした。