● 『どこだここは!』 『姉様、景色を見るに異世界のようですが……』 年の頃は17か18か。 月夜に照らされ、引き締まった戦士のような体格の女が3人、『ここはどこだ?』と辺りを見渡している。 その内の1人が『異世界では?』と言った部分を拾い上げれば、彼女達はこの世界の住人ではない。 『……まったく、森の探索の最中に違和感を感じたかと思ったら……』 どうやら元いた世界を探索している最中に迷い込んでしまったらしく、『姉様』と呼ばれた女はポリポリと頬をかき、舞い込んだ不幸に天を仰いだ。 見上げた空に輝く星は、この世界も自分の世界も大差はないらしい。 (空は同じ、しかし大地は違う――か) 違うのは周囲を囲む森の木々の様相だけ。 アマゾンを思わせるような森か、そうでないかの違い。 『まぁ、迷い込んだものはしょうがない。戻る道を探すとしようか?』 とはいえ、このまま何もせずにいられないのも事実。『姉様』と呼ばれる女は、現状で取れる選択肢の中で最も前向きなものを選ぶ。 『ところで姉様』 『なんだい?』 『感じてますか? 先程から周囲に殺気が満ちている事』 そんな中、随伴する女の注意を受けて集中してみれば、周囲を取り囲むのはあちらこちらから感じる殺気。 1つ、2つ……否、数えるのも面倒なほどの多さ。 『……獲物は私達、か』 『そのようで。ですが……ね?』 『あぁ、あたし等は黙って食われる獲物じゃあない』 しかし簡単に食われてやるつもりはない。 普通の人間と変わりない外見の中、異彩を放つ伸びた尻尾の先にある毒針と、手にした武器は相手を倒す刃。 ――彼女達はさそり座のアザーバイド。 自分達よりも大きな敵を倒し、その肉を喰らい生きる者達。 まさしくそれは、戦う事だけを生きがいとするといっても過言ではない。 『しかし数が多いな』 『それに、小さいですね……』 唯一の不幸は、取り囲む敵が小動物程度の大きさのものばかりだったことか。 大型の敵ばかりを相手取ってきた彼女達にとって、こういった大きさの敵は逆に倒し辛い存在となる。 『やれるだけ、やってみるさな。良いかい?』 それでも彼女達は戦う。 戦いの中に生きている以上、戦わずに逃げる事は決して許されないのだから。 ● 「さそり座の……いやいやいや」 頭を振った桜花 美咲 (nBNE000239)の思い浮かべたフレーズは、どこかで聞いたことのあるような歌のタイトル。 そんな冗談はさておき、今回のミッションはいたってシンプルだ。 「彼女達を援護し、助けること。深いことは考えなくて良いわ」 本当に深いことを考える必要はない。 苦戦している彼女達を援護し、戦いを無事に済ませるだけでいい。 悠長に準備を整えて『いざ勝負!』というわけにはいかないかもしれないが、敵の大半はフェーズ1のE・ビーストばかり。 問題は夜のために暗い事、森の中の戦いであるために移動や攻撃に阻害が生じる事、敵が小さいために攻撃を当てにくい事。 そして、 「まぁ最悪でも彼女達を無事に保護してね。ただし――」 3人のアザーバイドが決して戦いから引かない性格である事。 独特の連携を得意とする彼女達は、決して指揮下に入ってはくれない。 故に逃げろといっても聞いてはくれず、こちらの戦いに歩調を合わせてくれる可能性も低い。 幸いにフェイトは得ているため、彼女達を保護さえ出来れば敗走してもそう問題ではないのだが、一緒に逃げる考えに至らせるまでが苦労するだろう。 「どうするかは現地に向かう皆に任せるわ。くれぐれも、挑発みたいな事はしないでね?」 彼女達への対応は、現地に向かうリベリスタ次第。 挑発やそれに類する行動は彼女達の好戦的な性格に火をつけ、リベリスタも敵と認識されかねないために厳禁だ。 そんな注意を最後に飛ばし、美咲はリベリスタ達を見送る。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月02日(月)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●さそり座の女戦士 『姉様、後ろっ!』 『……チィッ!!』 フィーからの注意に振り返った時には、既に遅し。 短剣を構えたアンの腕にめがけて飛び込んできたE・ビーストの野犬の牙が、目標に定めた『獲物』に深く深く突き刺さっている。 『こいつ等、ちょこまかと!』 『落ち着けレア、分断すればやられるぞ!』 大剣を扱うレアにとっては、フェーズ1とはいえすばしっこさが半端ではないE・ビーストを斬るのは容易な事ではないらしい。 唯一、弓による狩猟を得意とするフィーだけが、周囲を取り巻く獣達を上手く射抜いているといったところか。 『しかし、この数は骨が折れるな。こうやって喰らいついてくれれば簡単なものを!』 そしてアンは腕に喰らいつく野犬の喉をナイフで裂き、文字通りの『肉を切らせて骨を断つ』戦法で、この状況に対処していた。 大型の敵を狩る事に長けた彼女達がこういった小さく数の多い敵を相手にするのは、やはり相当に無理があるといえよう。 ――それでも3人は泣き言など言いはしない。 「……なんか、プライドの高そうな女戦士達だな」 呟いた『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)の言葉は的を得ている。 3人にあるのは戦士としての誇り。戦いの中に身を置くが故の闘争本能が、彼女達の存在意義。 「見知らぬ世界でたくさんの敵に囲まれたらボクだったらパニックに陥ってしまいそうだけど、彼女達は随分戦いなれているんだね」 そう『ロストワン』常盤・青(BNE004763)が評する程に、アザーバイド達はこの状況にあって獣達に背を向けることはない。 パニックを起こせば逆に危険だと、彼女達は知っている。 襲い来る敵は倒さねばならないと、本能が教えている。 「あからさまな敵じゃないのが救いよね。今回も無事に帰してあげないとね」 加えて、彼女達は降りかかる火の粉を払うだけで、『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)の言うようにこの世界の住人に敵意はない。 「様々な思惑が無き分、こちらも素直に援護できようぞ」 「個人的には嫌いなタイプじゃないし、うまく協力できるといいんだが」 別の視点から見れば、彼女達は巻き込まれただけだ。だからこそ接し方にさえ問題がなければ共闘も難しくはないとヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)は考え、カルラもその共闘に期待を寄せる。 果たして共闘は成るか? 「蠍座の女性が本当に執念深いかどうかは知らないけど、こちらに矛先を向けられるのは面白くないし、なるべく怒らせないようにしたい所だよね」 成すためには、彼女達に敵意を向けられる行動だけは避けなければならない。 挑発などは愚の骨頂と注意を促すのは、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)だ。 とはいえ、 「さそり座の女だから思い込んだら命懸けなのかな? 迂闊にナンパしたら地獄の果てまで付いてくるよ?」 「女性にはいい所を見せなきゃ、男じゃないんだぜ」 別方面の懸念に釘を刺す『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)に、軽く笑って返す『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の様子を見れば、挑発のような行動は決してとらないだろう。 そんな会話を交わす間にも、リベリスタ達は前へ、前へと進む。 もう少しでも走れば、戦場の端にいるE・ビーストは射程に収められる位置までは到達している。 最後尾にいるのは、1匹の熊。 ぬいぐるみ然とした姿ではなく、本物の熊がエリューション化し、凶悪な姿となった存在。 『ああいうサイズばかりならな……む?』 中央辺りで戦っている3人の戦士達の目にも、その姿は映っていた。 アンが『これくらいなら丁度良いのに』と愚痴を零した時、視界に飛び込んできたのは獣ではない、人の影。 「オレはフツ、焦燥院フツだ! アン、レア、フィー、お前さん達のことは知ってる。加勢させてもらうぜ!」 声を上げた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の、否、この世界の言葉が彼女達に通じているかはわからない。 それでもフツは声に出して言った。 「言葉が通じなくても、ここからは……」 「態度で示してみせるぜ!」 敵か味方かなど、自分の戦いを見てもらえば良い。 ――頷きあうフツと竜一に、迷いはなかった。 ●それぞれの戦い方 『……何を言ってるんだ、こいつ等は』 言葉が通じているか否か、いきなり現れ『加勢する』という発言を受けてこの言葉が出たのか。 アンは助勢に入ったリベリスタ達に怪訝そうな目を向け、言った。 「少なくとも言葉は理解しあえるみたいだね……」 しかしアンジェリカのこの言葉を聞く限りでは、後者というべきだろう。リベリスタ達は、アンの言葉を理解出来たのだから。 『敵ではない、と見るべきですかね』 『気を許すべきではないぞ、フィー。初めて出会った相手は警戒しなければ。ですよね、姉様』 それでもアザーバイド達は戦いの手を止めぬまま、彼等に対して信頼を置く気配はない。むしろ置けないというほうが正しい。 『態度で示すということだろう。お前達も頭の中に響いていないか、妙な声が』 そんな中、アンはやれやれとため息をつきながらも、リベリスタ達に敵意がないとだけは感じ取ったようだ。 加えて、 (私達はあなた達が元の世界へ帰る道を知っているわ。だからその手助けに来たのよ。そのためには、目の前の敵は協力して排除すべきじゃないかしら?) テレパスを用いた小夜香の言葉が頭の中に響いてもいる。 名前をなぜ知っているかはともかくとして、アザーバイド達には理にかなったその提案を呑まない理由がなかった。 「大きな敵に立ち向かおうとする勇気あるあなた達が、ちまちました小さい敵に煩わされないようサポートさせて欲しいんだ。よろしくお願いします」 続いたアンジェリカの言葉は、3人が勝てないはずがない、この小さな獣を相手に苦戦を強いられている現実を突きつけてもいる。 敵の数が少なければどうということはないのだが、100にも上る数は流石にアザーバイド達にとっても想定外の状況だ。 この戦況を前に、手数が多い方が状況をひっくり返せる事など百も承知。 だが諸手を挙げて『頼む』と言い切れないのは、戦士としてのプライドと、相手が見知らぬこの世界の住人である点か。 『警戒は怠るな、敵意はないようだが……』 『姉様、横から!』 ならば邪魔にならないように戦えと言ったアンに、フィーからの注意が再び飛ぶ。 肉を切らせて骨を断つ戦法をとっている彼女にとって、食いつかれる事は攻撃を当てるための手段でもあるのだから問題はないのだが、 「俺に出来るのは、単体攻撃と守る事さ。必要なら、言ってくれ」 自分に出来ることを簡潔に告げた竜一が、彼女に及ぼうとしていた攻撃が届く前に獣を屠る。 助けに来た、その言葉が嘘偽りでないと証明する一撃。 敵ではない、その気持ちを伝える守りの一撃。 「指揮下に入れてもらっても構いません、力を貸してください!」 自分がどういった攻撃が出来るかをこの後に述べた灯璃の放つガトリングの弾は、多少外しながらも、獣達の多くを撃ち貫いてき傷を与えていく。 単体で、しかも大型の敵を相手取ることを得意とするアザーバイド達にとって、その攻撃はこの戦場において最も理に適った戦い方だ。 『面白い戦い方をするな……だけど人に指示だとかは得意じゃないんだ。好きにやんな!』 2人の攻撃を間近で見たアンは、毛色の違う戦い方である事も判断に加え、思うが侭に動けとリベリスタ達に言う。 「お前さん達には独特の連携があるんだよな。オレ達がそれに合わせようとしても、3人の邪魔になっちまうか」 頷くフツも、その判断が懸命だと考えていたようだ。 「ならクマの内1体はこちらで受け持つから、もう1体を受け持って貰えないかな?」 『……辿り着ければな!』 周囲を取り巻く獣達の攻勢を捌くアザーバイド達は、青の要請にも現実的な判断をもって答えたものの、否定をしない辺りから共闘はしてくれる心積もりではあるらしい。 見渡せば熊は後方に陣取っており、フィーの矢がかろうじて届くかどうかという距離だ。 「ならば、わたくし達が道を切り開こう」 作るべきは、アザーバイドが熊へと辿り着く道。 ヒルデガルドの放つ気糸が、アン達を取り囲んでいる獣達の機動力を削ぐように足を正確に射抜けば、 「他の2人もアンと同じ判断だと考えて良いんだな? カルラ・シュトロゼックだ、そちらの援護をする」 これ以上の傷を受けるのは好ましくないと、3人のアザーバイドの進む道が阻まれぬよう、獣達の前に立ちはだかるカルラ。 もしも彼女達が、この行動に『NO』と判断すればすぐに離れるつもりだったが、どうやらその素振りはないらしい。 『なるほど、これがこの世界の戦士の戦い方ですか』 『腕試しをしたくなるけど、それよりは眼前の敵の排除かな』 フィーもレアも、頭の中にあるのは、まずは獣達を倒さなければと冷静に考えているからだ。 腕自慢の戦士であるが故に腕試しを考えたくなるのは仕方のない部分だが、それを後回しに出来ないほどに彼女達は子供でもない。 「……さぁ行って、小さいのはボク達が受け持つよ……」 進むべき道は灯璃やヒルデガルドの攻撃がラインを作り、そしてアンジェリカが作り上げる不吉を届ける月が完全に障害を排除するに至っている。 空に輝く月を白き輝きとすれば、妖しく輝くバッドムーンの月光は黒き輝き。 『風流であり、面白き技を使う。ならばこの道、押して参るぞ!』 2つの月光を浴びてもなお暗き道は、己が身から光を放つ小夜香とフツが照らす。 「癒しよ、あれ」 ここまでのやり取りで受けていた傷は、小夜香の息吹によって癒されていく。 「道はどんどん切り開く、行ってくれ!」 「此度は彼女等が主役だ。脇役たるわたくし達は手助けに徹しようぞ」 阻む敵を蹴散らし道を照らすフツは、さながらこの戦場における太陽のようで。 脇役に徹するように剣を振るヒルデガルドは、アザーバイド達の行軍を邪魔しないように配慮しながら、周囲の敵を屠る。 両者とも決して目立つ桧舞台に立とうとはしないが、こなす仕事は一流のそれである。 「これで彼女達が前に進めるわね。後は支えるだけかしら」 そしてリベリスタとアザーバイド、双方の戦いを支える小夜香は屋台骨。 彼女がいるからこそ、これだけの大多数の敵を前にしても戦士達の足は止まらない。 『姉様、彼等は』 『あぁ、敵対することは絶対にないな』 言葉だけでなく、態度と気持ちを持って伝えた誠意はついに伝わり、リベリスタに背中を預けるアザーバイド達。 「すごいな、これが彼女達の戦い方か」 踊るようなステップで獣達を刻む青は、その影響からか3人の戦い方に変化が起こった事を見逃さなかった。 否、それは他のリベリスタも同様だ。 狩猟本能による防御重視の戦い方から、敵を殲滅する攻撃重視の戦い方へ――。 「確かに獣達は小さいだけあって狙いにくいね。でも、これだけ手数を撃てば減らせるはずだよ」 『道理には適っている。だが、もう少し確実に当てる方が良いかもしれんぞ?』 敵が踊りかかる一瞬を狙いナイフを一閃するアンは『避けて斬る』戦法を取り、外れても手数による殲滅を狙う青とそんな会話を交わす。 『いやいや姉様、手数の多さは重要さ。私にはその方がやりやすいかな?』 大剣を旋回させ、盾とも刃の風車とも取れる攻撃を仕掛けたレアは、直接当てるよりも飛び込んできた相手を刃に巻き込む攻撃か。 「流石に異世界の狩人は違うね。素晴らしい腕だよ」 『一辺倒の戦い方は駄目なのさ! さぁ見てな、これがレア様の妙技だ!』 褒めるアンジェリカの言葉に気分を良くし、剣を振る彼女の刃は決して木を傷つけないモノ。 巧みに自分の位置をずらし、攻撃を誘うような戦い方にはアンジェリカやカルラも目を見張るものがあるのだろう。 とはいえ、 「ボク達も負けてられないね……」 「敵の位置にだけは注意してくれよ、奇襲を受ける事だけは避けたいからな」 この2人もアークにおいては一級の実力者だ。 下手に小手先の技に頼らずとも、自分の得意とする攻撃を行うだけで相当の獣が命を散らしていく。 不吉を届ける月も、ばら撒くガトリングの弾も、アザーバイドのそれとは違い、かなりの精度で命中する凄まじさを誇る。 『あれだけの手数を撃てたら、私ももう少し強くなれるのでしょうかね』 「そうでもないと思うよ。きっちり狙えるなら、こうやって……」 その攻撃に思わず見惚れるフィーではあるものの、彼女が得手とするのは1匹を確実に穿つ矢を放つこと。 しかしそれはそれで構わないと言った灯璃の緻密な射撃は、何時の間にかフィーの後ろを取っていたリスの心臓を確実に射抜いていた。 『なるほど……その射撃、今後の参考になります』 感嘆するフィーと、彼女の後ろを守るように立った灯璃の会話は、もはや戦い方の情報交換のそれに近い。 確かにアザーバイド達はプライドが高い存在ではあるが、フィーは相手の意見が良いと感じたらすぐに飲み込む柔軟性も持ち合わせている。 「……熊の相手してなかったら、俺もあんな会話に混ざれたのか!?」 「そうぼやくな、そいつの相手も大事な仕事だぜ」 アザーバイドに片方を任せた竜一は、残る片割れの熊を相手にしながら、どこか疎外感を感じてたとか。 軽いフォローをフツがいれるも、やはり女の子と会話したいと思うのは男のサガなのか。 「まぁしょうがない……森のクマさん。アザバだろうが女性にいいところを見せるのが男ってもんだ。そのための踏み台になってもらう! お前がオスでもう一匹がメスとかならお前も気合入れて見せろ!」 ならばせめて熊を倒して良い所を見せよう。 単騎での熊との勝負を挑む竜一ではあったが、 「そっちに飛ばすぞ、頼む!」 『よし、熊狩りだ!』 既に3人のアザーバイドは、フツによって吹き飛ばされてきた目の前の熊を倒そうと、刃を向けて彼に視線を移す素振りが一切ない。 「……なんてこった!」 熊を抑える。 そう判断したが故に、黄色い会話から外れた竜一の孤独な戦いは続く――。 ●戦士達の帰還 『これで全部、か?』 熊を倒したアンが後ろを振り返れば、獣達は完全に沈黙していた。 あれだけの数がいて、苦戦していたはずの相手が、そこにはもういない。 『すばらしい戦い方でしたね』 『よし、じゃあこれから私達と腕試しを――』 『……止まれ。今は他にやることがあるだろう』 フィーがリベリスタ達の戦いを褒め称える一方で、抑えきれずに腕試しを申し込もうとするレア。 そのレアを抑えたアンは、無言のままにリベリスタ達へと頭を下げた。 『この世界の戦士達、リベリスタといったか。今回は世話になったな』 「こちらこそ、一緒に戦えて勉強になりました」 互いに例を述べ合ったアンと青が、互いに拳を突き合わせて笑いあう。 どうやらこういった行動は、彼女の世界でも同じようだ。 なら、他の2人――レアとフィーももやっているのか? 「貴方達の素晴らしい戦闘技術はとても参考になりました、ありがとう」 『いえいえ、あなたの月は面白い攻撃ですね。あれはどうやって作っているのですか?』 アンジェリカとフィーは頭を下げあって、にこやかに会話が成立していた。 『よし、勝負だ勝負! 腕試しっ!』 一方ではレアはやはりうずうずした気持ちを抑え切れなかったらしい。 「いや、それは今度にしような」 「それより熊鍋とかどうだい?」 やんわりとフツが断りを入れれば、ならば食べ物で釣ろうと熊を指差す竜一。 別にエリューションだからって、食べようと思えば食べられるはず! 『鍋ってなんだ?』 ――しかし、アザーバイド達の文化に『鍋』は存在していなかった。 「穴があっちのほうにあるみたいだよ!」 「ということだ、帰り道はこれで見つかったな」 そんな時だ、彼女達の世界とこの世界をつなぐ穴を、灯璃とヒルデガルドが見つけてきたのは。 「なら、これで帰れるな」 腕試しだの食事だのと考えるレアはともかく、アンやフィーはもしかしたら早く帰りたいかもしれないと、カルラが穴への案内を2人に促す。 フェイトは得ているために彼女達がこの世界に滞在しても問題はないのだが、別所からやってきた誰かが穴を破壊したりと不測の事態が起こる可能性もゼロではない。 『では、帰ろうか』 「縁があればまた会いましょ。その時はお茶でも、ね」 もしも次があるのなら。 今度は一緒に戦うのではなく、歓談をと告げる小夜香やリベリスタ達に手を振り、レアとフィーが穴へと向かっていく。 が、それに待ったをかける存在があった。 「帰る前に、これはやっておかないとな! 親愛の意味があるんだぜ! じゃあ、むぎゅっと、むぎゅっと!」 最後の最後にアン達アザーバイドを抱きしめようと、ダイブしたのは竜一だ! 『不埒者がぁぁぁぁっ!!』 空を泳ぐようにして一直線。抱きつこうとした竜一の肌が感じたのは柔らかい女性の肌の感触ではなく、 「……星になったね」 「新しい星座の誕生だな!」 天まで届けと言わんばかりに激しく吹っ飛ばす威力を秘めた、アンの全力の拳だった。 この日、新たな星座が1日だけ天に輝いたことは、この場にいたリベリスタ達以外は誰も知らない――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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