● 「あ、動いた」 教室に居たのは女子生徒四人。其々、片手の人差し指で十円に触り、其れが文字盤の上をススス……と動いたのであった。 きゃあきゃあ声を上げながら、やっていたのはこっくりさんだ。其の場居た四人誰しもが『きっと誰かが動かしているのだろう』と思い合っていた。 本当は、其処に居た五人目が動かしていた事を知らずに。 他愛も無い。 今付き合っている彼とは上手くいきますか? とか、そんな質問ばかりが言葉となって飛び交った。彼女達四人は面白かったであろう、楽しかったであろう。 けれど、けれど。そうして今日も、日が沈んだ。残っているのは果てしなく暗い、闇だけで。 「お憑かれ様」 ● 「皆さん、こんにちは。今日も依頼を一つお願いしますね……」 リベリスタを集めた『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は俯き加減。どうやらあんまり良い予知をしなかったらしい。いつもの事かもしれないが。 「皆さんにはエリューションフォースを倒して欲しいのですが、このエリューションはどうやら人間に憑依ができる様でして……憑依状態を解除するには依代の破壊、死亡が必要で……」 つまり、其のエリューションフォースは既に一般人に憑依してしまっており、最低でもその一人は殺さなくてはいけないというもの。 「憑りつかれた可能性があるのは女子生徒四人です……。 E能力を持たない人間が憑依されると、見つけるのが『ほぼ』不可能な程……完璧に一体化するのです。加えて、憑りつかれた本人も特に異常が無く普通に生活できるのです。 なのでこの子がオリジナルを宿していますとは、杏理は断言できません。少なくとも一体のオリジナルと三体の子が彼女達の中で育まれている……とかしか」 しかしそれだけでは終わらない。 「このオリジナルのエリューションは子を生みます。依代が肌で触れた他人に子を宿せるのです。子は増殖革醒の影響を生み、時間さえおけば母として子を生むくらいにフェーズ進行するでしょう。これを止めるにはただ一つ、母たるオリジナルを倒すことです」 母を倒せば一緒に子も死滅するのだ。急ぎの仕事であろう。 女子高生が各々の帰路を歩いている時にリベリスタは介入できるだろう。勿論、道中は関係ない一般人も多い。突然の戦闘はできないだろう。しかし街には人の死角になる場所は多いはずだ。そこを上手く利用するしかない。 「オリジナルを見分けられれば、死ぬのはたった一人で良いのです。見分けられないなら……運で四人を殺していくしかありません。依代が消えてからがエリューション退治の本番となるでしょう、そのことも忘れずに……」 杏理は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月04日(水)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「失礼、稲荷神社という場所は何処にありますの?」 突然呼び止められた風間 唯は少しだけ身体を揺らしながら、神社がある方向を見ながらどう説明すればいいか迷っている様に見える。 『□肉□食』大神 がぶり(BNE004825)はそんな彼女の姿を見つつ、顔から足先までを品定めした。この子にエリューションが宿っているだなんてがぶりの視界では言えない。むしろ一般人そのものであり、それこそ神秘に巻き込まれているだなんて、彼女は髪の毛程にも思っていないのであろう。 「上手く説明できないんで……これから私も行くので、案内しますね」 唯の返事を聞いた瞬間、がぶりは心の中でガッツポーズをひとつ。 それなら話は早いのだ。断られた後どう唯を尾行していくか悩まずに済む。 「ありがとうござーます。私、名前は風間唯って言うんでござーますよ」 「あ、そうなんですか……偶然ですかね、私も同じ名前なんです……」 「そりゃ、偶然でござーますなぁ」 本当は大神がぶりという名前があるものの、上手く食いついてくれたし素性を隠せた事にがぶりは再び心の中で拳を握った。 画用紙にならべた24の文字。はい、といいえと、鳥居を描けばウィジャ盤のできあがり。 そんな紙切れと10円玉に未来を視て見ようとするのは女の、それも高校生程度であれば誰しもが好奇心を向けてしまう事なのかもしれない。 「努力も苦労もありませんわ……」 『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は残念そうに尻尾が下へと傾いた。 「ん、どうした?」 「あっ、いえ独り言です……」 『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)はそうか、と一言。朔が見つめた目線の先には小山 亜由美と『ロストワン』常盤・青(BNE004763)が今まさに青春の甘酸っぱい中か。青が亜由美を呼び止め、用意したラブレターを差し出している最中だ。 「告白ですね、なんだか見てるこっちが緊張してしまいますね」 なんて『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)は両手に汗を握って興奮してみるもののあれは青が仕掛けた狐か見分けるためのものであるからか、何処か少し罪悪感もあったり。 「青さんが駄目だったら次は私がいってみますね」 「ええ、そうね……うーん、見分けつかないわね」 リサリサの隣に居た『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は顔を横に捻った。最初からそういうものだとは思っていたものの、いざ依頼をしてみればやはり腑に落ちないくらいのムカムカが胸にこみ上げて来た焔。 世界の理不尽さを目の前に、それでもリベリスタはエリューションを倒さなければいけない使命に踊らされるか。最低一人は死ななくてはいけない――それがどうしても焔にとって納得のしたくないものであった。 「先輩についてお話伺っても良いですか?」 少し顔を赤らめて、青は見上げる目線で亜由美を見た。そうすれば亜由美もなんだか恥ずかしそうにチラチラ青の事を見ながら少し震えた手で手紙を受け取った。 受け渡しの際、どさくさに紛れて亜由美の手を触ってみた青。しかしこれといって反応は無い。亜由美の中のエリューションは何かを察した様だろうが、亜由美は至って普通であった。 女性がオカルト好きなのはよくある事か。好きか嫌いかによるであろうが『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)が気にしている事は其処で無くて。 こっくりやら儀式やら、やっても良いが実際に憑りつかれている以上、笑い話では終わらなくなってしまった今回の事件。しかもその母が誰だが解らないだなんて、面倒極まりない。 形さえ見つけてしまえば、後は力でねじ伏せられるものの……クリスは服の中に仕舞った魔力銃とオートマチックを服の上から一回触り、はぁと大きな溜息を出した。 「暇だな……宮崎沙夜は母では無さそうだな」 沙夜は繁華街の方へ歩いていく。其の侭誰かと皮膚接触されるのは困るのだが。 「狐の行動にしちゃあ、やけに女子高生らしいからバツでいいかもな」 AFにそう言いながら、クリスは沙夜の背を追っていく。 只の遊びのつもりであったのだろう、ちょっとした好奇心で少なくとも一人は身を滅ぼす結果となった今回の事件に『白雪狐』天月・白蓮(BNE002280)の胸がズキンと痛んだ。 女性は怪談や噂話、色恋沙汰は大大大好きな者が多かろう。其処に危険があるだなんて思ってないのだろうし。 白蓮曰く、好奇心は猫をも殺すというやつか。ましてや呪いに手を出してしまったのなら――行く先は暗闇一途か。 心の中でぐるぐる廻る、やりきれない思い。しかし白蓮は一人のリベリスタとして遠野 美代の行動を監視していた。 特に見た感じ、何も変化が無い普通の少女。帰り道にあっちにふらふらこっちにふらふらしているだけの。 「彼女も、違く見えるのですが……」 AFの奥に居る仲間たちへ白蓮はそう言ってみるものの、確信は無いため後を追った。 どうやら亜由美では無さそうだ。というもの、幻想殺しが無いから見分けられないという事が引きずられていたものの、異常無く青のやりとりが終わってしまったのであった。 「どこからどうみても普通の子って感じだね」 「そうか、なら次の所に行かないとな……」 朔の言葉に同意したリベリスタ達は、次の女子高校生の元へ向かおうと足を動かした――。 刹那、AFから聞こえたのは異音か、雑音か、ノイズ混じりの危険信号。 「あら、向うから出てきてくれたみたいですかね」 「なら話が早いね、行こう!! 早く!!」 櫻子の背を焔が追いかけていく――追いかけっこの、鬼ごっこもそろそろ終盤が見えて来たというところか。 がぶりの他愛の無い話は続いていた。神社へ進めば進む程に自然が濃くなってきていて空気が美味しいだの、それくらいに他愛無いもの。たまに話が途切れては、遠慮気味に話を振ってみるよくある初対面同士の話だ。 しかし此処でがぶりは一つの石を水面に投げてみる事にした。只、道案内されてさようならではいけないのだ。探らなければならない――彼女が母であるかどうかを。 「お稲荷さんといえば、こっくりさんなどがござーますね」 「え……」 がぶりが神社の赤い鳥居を指差しながら言う。そうすれば唯は確かに焦った顔を一つしたのだ。明らかに動揺した姿をがぶりは見逃さない。 「あ……、あんなの嘘っぱちのものですよ」 「そうでごぜーますかねぇ?」 「そうだよ! だって誰が動かしてたかわからないもの!」 「……なんでそう、ムキになるんでごぜーます?」 沈黙は数秒も無かった。がぶりは再び質問をする。 「最近稲荷神社にいったでごぜーますか? あとなんで稲荷神社に行くんでごぜーますかねぇ?」 「うん、ちょっとお願い事したの」 「……そうで、ごぜーますか」 「うん、それがどうかしたの? ……え、やだ、手が勝手に」 「……唯。アナタがオサキだったんでごぜーますなぁ」 がぶりの首にひたりと当てられたのはカッターナイフであった。 違う、それだけでは無い。唯の足下、彼女の小さいはずの影に大きすぎる狐の影が重なっていた。 ● 「あなたがいけないのよ、だって私のこと探るんだもん。人とは違う、革醒せし人の子」 「そりゃああんたを探してたからでごぜーますよ……オサキ」 「子を感染させようとしたら、できないやつが居たわ。あれ、貴女のお友達でしょう?」 全身が燃え上がるがぶりを前に、唯――否、既にオサキである唯が笑った。手には狐火を具現化させ、されど身体は唯のまま。 長く伸びた爪を首にあてたオサキは挑発するように言うのであった。 「可哀想でしょ? ほら、攻撃してみなさいよ。この身体すぐに弾けますよ。いやでしょう、いやでしょうリベリスタ?」 「―――それが私に通じると思うか?」 「あれ?」 朔だ。唯の背後に立った彼女は体勢を低くして葬刀魔喰を敵の心臓に食い込ませていた。其の侭横に刃を回して、肺から肩先まで刃を横に引く。嗚呼、一般人のなんと脆い事。 「会いたかったわよ、貴方に。想いで身を焦すほどに……ね」 「あれれれれれ?」 焔が指さしたのは、崩れて死んだ唯では無く。具現化した巨大な狐。尻尾は五本で牙のある――尾裂狐。 朔は直後唯の體を掴んでは捨てる川が無いか探してみたものの、 「朔さんそれはあまりにも……?」 「そうなのか?」 突然飛び込んで来たリサリサに腕を掴まれ、今度は體を投げやりに放ったのであった。怖いよ朔さん。 「嗚呼、心無いリベリスタ。可哀想に、女の子が死んでしまいました」 「黙れ!!」 焔は少し尾裂狐から間が空いた場所に位置している。聞きたくない声に耳を傾け過ぎたか、焔の周囲には精神力が炎と成って舞い上がっていた。 されども撃つのは疾風の鎌鼬。 「貴方を倒せば子も全て消えてしまうんでしょう? だったら此処で倒し、全てを終わらせる。それだけよッ!」 大きく跳躍した瞬間に焔は大きく身体を捻ってそれを打ち放ったのであった。 尾裂狐の一言一言に込められた悪意にリサリサの毛が逆立っていく。絶対者である彼女は狐をブロックしていたからか、言葉一つ一つの其の耳が逃す事は無い。 「あなたっていうエリューションは!!」 犠牲が出るのであれば、なんとしてでも方法を掴んで犠牲を無くしたかったリサリサ。だが今はその優しい心が痛むのだ。 もはや死んだ、何も悪くない一般人――ならば尊い犠牲のためにも一刻も早くこの狐を倒さなければならないのだ。 「絶対者としてのワタシの力、今こそ発揮すべき時……っ」 憑りつかれようが、負ける気では無い。リサリサは噛みついてきた牙を双鉄扇の叩き、回避しつつ。もう片方の手で零距離より光の矢を放った。 櫻子の周囲に白色に淡く光る風が舞い上がる――其れは回復の兆し、救いを乞うそんな光。 少し早く一人で戦闘を始めたがぶりの体力は少々危険な数値であったものの、櫻子の光が温かく包み込む。ただ、櫻子の瞳は心底冷たかった。エリューションめ、ただ倒すのみではあるが全ての運命の凶運め、と。 「もう逃げられるとは思わない事ですわ」 「小娘が!!」 魔弓を構えた櫻子に尾裂狐は吼えた。飛ばされてきた炎に身を焦がした櫻子だがまだ瞳は煌々と。 「微力ながら、お手伝いを」 「ありがとうございます……白蓮」 「いえ」 しかし櫻子が被弾するより早く、白蓮の力が仲間を守りのベールに包み込んでいた。其処に戦場で鼓舞する、そんな激浪たる想いを込めながら。 相手は一体である事も含めて、戦場は非常にリベリスタが有利であった。結果的にはそうなのだが、やはりこの業が如何しても厄介か。 尻尾を振り回し前衛を跳ね除けた尾裂狐は、憑依の攻撃を――憑りつかれていたのは、櫻子だ。胸の中に消えて行った尾裂狐の感覚に吐き気を覚えた櫻子であったが次の瞬間には視界がブラックアウト。 「狙いは違ったけれど、まあいいですかね……うぅ」 尾裂狐か櫻子かいまいち分からない声が出る。 手は震えていた。魔弓から放とうとするアーリースナイプに狐の炎が乗っかり、しかしそれを仲間に撃つ事は無い櫻子。 青は今一度死んだ唯という少女と尾裂狐である仲間を交互に見た。胸の中で助けてあげられなくてごめんなさいと少年らしい心の傷から涙が漏れたか。 しかし知らないフリは大の得意か。青の表情は眉ひとつ動く事は無い。狙うは尾裂狐、占う神秘のカードの出目はジョーカー。 「仲間であっても手を止めないの!?」 尾裂狐は驚愕した声でそう言うものの、朔やクリスは絶対者である彼女が憑依を解くその瞬間を狙ってじっと待っていた。 されど焔は助走をつけて櫻子に飛び込んでいく。 「ちょっと痛いの、我慢してくれるわよね?」 右腕に纏わり着いた業の炎。灼炎の名を冠する焔は腰を回しながら右手を振りかぶる――最中、櫻子も覚悟を決めた様に目を瞑って衝撃に備えた。 ひとつの爆風と、吹き飛んだ櫻子の體。 分離するようにして尾裂狐が実体化したのを見やり、白蓮は櫻子の體を受け止め即座に回復を行った。 「実体化すれば食べれるのかしら?」 炎を吐いた尾裂狐の上空、跳躍したがぶりが舞い上がっていた。背に乗る感覚でブラックジャックを占いつつ、ナイフによく似たダガーを背へと突き刺した。 咆哮し、暴れるもののがぶりはそのままどんどんナイフを奥へ奥へと差し込んでいく。 「ワタシ達が押さえている間に皆様方は攻撃をっ」 前に出て来る敵を抑え、リサリサは背後に居る仲間たちへ顔を向けた。 「『閃刃斬魔』、推して参る」 前へ出た朔の、光の飛沫を纏う剣。呪いを纏っている様にも見える彼女の剣だったが、その時だけは美しく煌めいた。 「一緒にやる?」 再び炎をその手に。殺すのであればそのまま火葬してしまえと言わんばかりの業炎を手に。彼女の髪と目と同じか其れ以上に煌めく拳を振り上げた。 疑わしきは殺せか、そう思ってしまった自分を恥じた焔。其の胸糞悪さから素手に込めた怒りは、悪を砕くか。 尾裂狐の頭の頂点から、尻尾の先――切り裂き真っ二つになったエリューションは紅い血だまりに沈むと同時に――骨まで塵とし燃え上がっていった。 「どうか安らかにお眠りくださいな……」 白蓮は唯にひとつ、手をあわせてから尾裂狐を見据えた。濃い血と焦げた臭いに鼻を抑えながら、 「尾裂狐と言いましたか。狐ということもあって興味はあったのですが、こうなってしまったのは残念です」 仕舞うグリモアール。その隣でふるりと震えたのは青の肩。悪寒か、それとも――。 上半身が千切れている少女を見て、こみ上げて吐き出した謝罪に今、ほんの少しだけ顔が緩んだ青。 ヒーローみたいにはなれなかった少年。世の中はかくも世知辛い、理不尽な―――否、此の世界のよくある話のひとつか。 「還りましょ、皆さん」 リサリサは、一部思い空気の人々の背中を押した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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