● 街の郊外。一人の古風な格好をした男が、立っていた。髪を後ろで縛り、腕には無数の傷が入っていた。そして、彼の腰には長い日本刀と短い刀が鞘に収まっている。 まるで、時代外れの侍のようだ。 「強者は……どこであろうか」 刀の柄を触りながら男がそうつぶやいた。 そこに、二人組のの若い男たちがその古風な格好をした男の前を通りがかった。その刹那、 「うわあああああああああああ!」 若い男のうちの一人腹がざっくりと裂け、アスファルトを赤色へと染めていく。 「此奴も……違うか」 侍のような男はそうつぶやき、いつの間にか抜いていた刀を鞘へと収めた。彼は斬った若い男のことを見ようともしなかった。まるで、そこに何も存在していないかのように。 「よくもやりやがったな! こん畜生がああああああああ!」 若い男のうちの切られてないほうが、侍のような男へと襲いかかる。しかし、若い男が拳を振りかざした時には侍のような男はすでに、男の後ろに立っていた。 「え……」 若い男は一瞬遅れて自分の身に起こったことを理解した――自分はすでに斬られているのだ、と。 若い男の両腕がぼとり、と地面に落ちた。 「がっああああああああああああ!?」 「……」 侍のような男は斬った二人の男のほうを見向きもしないで、 「強者は……どこであろうか」 彼はそうつぶやいて、再び歩き始めた。 ● 「フィクサードが出現しました。ブリーフィングを始めますので、各自聞いてください」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が言った。 「今回は剣豪と呼ばれる人物がフィクサードになりました。フィクサード化したのは約一ヶ月前のことのようです」 和泉は続ける。 「剣豪の名は『荘武 蔵人(そうぶ くらうど)』。年齢は二十四。外見は随分特徴的らしいです」 和泉が淡々と資料を読み上げていくと同時に、荘武の姿がモニターに映し出された。 侍のような格好をしていることに、リベリスタは少々驚いた。 「一週間前から街の郊外で人が斬られる事件が多発しています。おそらく荘武のせいでしょう。なぜ今まで被害が出なかったのかと言いますと、荘武はこれまで山に篭っていたようで……街とはかなり離れた山の小屋で生活していたという情報が入っています。それのせいで今までフィクサード化を確認することができなかったのでしょう」 これには少し和泉も困惑した。今時、山にこもって生活などする人などほとんどいないのだから。 「そして、被害をこれ以上出さないためにも、早急に対応する必要があります」 リベリスタはそれを聞いて、まるで辻切りだな、と思った。 「その他詳細は資料をご覧下さい……あぁ、それと、荘武の周りにはフェーズ1のノーフェイスが確認されています。数は6体。いずれも、荘武と同じく剣術家だったと思われますが……」 その六人は荘武と違って、フェイトを得ることができなかったのだろう。 「それでは最終確認を行います。今回のミッションの目標はフィクサード、ノーフェイスの殲滅です。もしこれを取り逃がせば、被害はさらに拡大してしまいます……人命は皆さんにかかっています。健闘を祈ります」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:河道 秒 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月30日(土)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夜の広場にリベリスタたちが集まっていた。理由は、簡単だ。侍のような格好をしたフィクサード――荘武蔵人とノーフェイスを殲滅するために彼らはそこにいるのだ。 「あれが今回の目標ですか……」 『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がフィクサードを見てから、呟いた。 「あァ。きっと強ェんだろうなぁ。早く戦いてェぜ。アイツらと俺らどっちが生き残んのか……試してみようじゃねぇか」 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)が自分の拳を握りながらそう言った。彼の瞳は、獣のように鋭くなっている。闘争本能のおもむくままにしている、といったところか。 「今回はアイツをぶっつぶせばいいんだろ? いいねぇ、単純なのは好きだぜ。まったく、楽しくなってきやがった!」 『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)がネクタイを緩めながら、八重歯を剥き出しにして言った。その動作がなんとも彼らしい。 「そう焦らないでください……アイツのやっていることは強者を求めると言えば聞こえは良いがやってる事はただの辻斬りだ。許せるようなことじゃない」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)がはきはきとした口調で言った。 「まぁそうよね。辻切り、というよりはもうすでに狂戦士の域に達しているんじゃない?」 『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)がそう言うと、 「まぁそうだな。カレードの言うとおりだ。それに、本当の強者は何を斬るべきか分かってるもんだ……なぁ、新城?」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が横にいる『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)のほうを見ながら言った。 「そうだな。今は無闇に剣を振っていればいいだけの時代では無い……戦う術を持たぬ者を切り捨てるような真似は放置しておけないんだ」 「俺もお前には賛成だぜ。それじゃあ、そろそろ始めるとするか」 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE00210)が言うと、フツが強結界を周囲に展開した。これで一般人が近づくことはほとんどなくなる。リベリスタは心置きなく、全力で戦えるということだ。 そして疾風を先頭に、リベリスタがフィクサードらの目の前に立ちはだかり、 「君は強者を求めているのか?」 「そうだ……我は強者を求める。そして、己が力をより高めなければならない……聞こう。其方らは強者か」 「そりゃな……」 コヨーテが言うと、全員が自分の獲物を取り出して構えた。 「やってみてからのお楽しみってやつだぜェ!」 隆明が叫び、リベリスタは敵へと駆けていった――。 ● 「まずは……小手調べと行こうぞ」 荘武がそう言うと、後ろに居たノーフェイスたちがリベリスタの前に出た。フツが槍を構えながら、 「新城! フォローは任せて、最初から全力で行け!」 「言われずとも!」 拓真はノーフェイスたちをジャンプで越えて、先に荘武のもとへと向かった。ノーフェイスたちは彼を追おうとしたが、リベリスタがそれを許すはずもない。 「私は……私の力は抗うことさえ出来ない人々を守るためにあるんだ! 行くぞ、変身ッ!」 疾風が幻想纏いを起動し、装備を身に纏う。そして、一気に相手との距離を詰める。当然ノーフェイスもそれに応戦しようと、手に持った剣で疾風を斬ろうとする。しかし、疾風にそんな攻撃が当たるはずもない。最小限の動きで、剣術家の攻撃をかわす。 格闘戦を極めた彼だからできる芸当だろう。 そして、渾身の一撃を叩き込み、剣術家をひるませる。 「さすが疾風さんです。私も負けていられませんね……」 目の前にいる剣術家を見据えながらリンシードが言う。リンシードは全身の反応能力を高め、己の身体のギアを上げた。彼女はトントン、と軽く足踏みをして、身体の調子を確かめる。 故に。剣術家の練度の高い斬撃をいとも容易く避けることができるのだ。 「遅い……!」 リンシードは即座に相手の横に回り込み、無数の刺突を繰り出した。その刺突の一つ一つが芸術的な美しさを放つ一方で、その攻撃力は非常に凶悪なものだ。剣術家の身体に次々と穴が開いていく。 それに耐えかねた剣術家は蹴りを繰り出し、リンシードを突き飛ばそうとする。しかし、剣術家が蹴ったのは、彼女の残像でしかなかった。彼女はたった一瞬で、剣術化の動きを読み、後ろに回り込んでいたのだ。そして、彼女の猛攻が再び始まる。 一方、竜一は剣術家に二刀で応戦していた。柔と剛の二つの混ざり合った彼の独特の剣技で相手を翻弄している。それは芸術的なまでの速さと勢いを持っていた。 「悪いな、俺の武技は、喧嘩殺法みたいなもんなんだ。お行儀はよくないぜ!」 そう言いながら相手を圧倒していく。ノーフェイスが竜一の攻撃の時間差のスキを見て攻撃しても、彼は難なくその斬撃を受け止める。実践で鍛え上げた勘と技があってこそできるものだろう。彼は敵の斬撃を二つの刀で弾き返し、ゆっくりと息を吐いた。すると、彼の肉体が限界を超えて膨張した。 一歩踏み出すと、アスファルトの地面が砕ける。それだけの力がかかっているということだ。 「全力で行くぜェェェ!」 そしてそのまま、全力中の全力を以ってノーフェイスを刀ごと切り裂いた。抗いようのない破壊力を秘めた斬撃はノーフェイスさえも真ん中から二つに割った。まさに一刀両断。 「さて……ほかの連中はどうなってるかな」 竜一が見た先には、隆明がいた。 「うるぉおああああああ!!」 彼の雄叫びと共に、拳が放たれる。重く速い一撃がノーフェイスを捉えようとするが、さすがにそこまで簡単には当たらない。そして当然、敵からの反撃がある。素早い斬撃。 常人には見切れないその攻撃を隆明は避けるどころか、刃を素手で受け止めた。異常なまでの動体視力。 「さァて……本気で行くぜ。さくっと死んでくれや。テメェはお呼びじゃねぇんだよ!」 彼の攻撃は至って簡単だ。拳一つ。そして、正面からまっすぐ。彼の戦闘スタイルは最も漢らしく、どこまでもどこまでも――力強かった。 隆明の猛攻が始まった。右ストレートでノーフェイスの刀をへし折り、左フックを脇腹にぶち込み、右アッパーで敵を天高く吹き飛ばした。 ふぅ、と軽く息を吐きながら、彼は少しだけ笑っていた。まるでこの戦いを楽しんでいるといった感じで――。 ● 「おうおうみんなやってンなァ」 コヨーテが己の気を制御して、肉体を硬質化させ、戦闘準備を整えながら言った。しかしその口調は決して暗いものではなく、むしろその逆だ。楽しそうに笑っている。 「そんじゃ……遊ぼうぜ。どっちかが死ぬまでなぁッ!」 ノーフェイスへと駆けていく。それと同時に、彼は拳に炎を纏わせた。 そしてノーフェイスの懐へと飛び込み、その拳を叩き込もうとする。ノーフェイスはその拳を剣を使って弾いた。コヨーテは素早く切り返し、もう一方の拳でノーフェイスに攻撃を放つ。 それからは攻防の繰り返しだった。しかし、それは常人には見えない速さでの駆け引きだ。 「クソッ、これじゃ埒があかねぇ! こうなったら……」 彼は一旦飛びのき、態勢を整えた。そして一つ深呼吸をし、自分の利き腕により一層大きな炎を纏わせた。そしてその恐るべき熱量を持った腕で周囲をなぎ払った。 周りは一瞬で業火に包まれ、残っていたノーフェイスたちを焼いていく。 「おいおい、オレの獲物まで取りやがったな……まったく、バッドフェローは加減ってモノをしてほしいぜ」 フツがぼやくように言った。口調から察するに、彼の言葉はコヨーテを非難しているわけではないようだ。 「まあいい。これで私たちの手間は省けたんだ。よしとしようじゃないか」 シルフィアが肩の力を抜きながら言った。 「まぁこれで心おきなく本命と戦えるというわけだ。さて、畳み掛けるとするか」 彼女はそう言うと、荘武と戦闘中の拓真のほうを見た――。 ● 「はぁっ、はぁっ……!」 拓真は息を荒げていた。目の前の敵の攻撃を受けるので精一杯になっていた。 「其方、中々の強者とお見受けする。刃を交えることができた嬉しいぞ」 「俺もだよ……!」 彼がそう言うと、両者が激突した。二刀流同士の戦いかと思いきや、荘武はまだ長刀だけで戦っていたのだ。強烈な打ち込みを二連続で入れても、荘武は身体のバランスを一切崩さない。むしろ、拓真の攻撃のスキをつこうと鋭い斬撃を食らわせる。 しかしそう簡単に攻撃を食らうような拓真ではない。 荘武の斬撃を最小限の動きでかわし、次の攻撃態勢へと移る――その瞬間だった。 一条の雷が荘武を貫こうと天から降ってきたのだ。その雷は拡散し激しく荒れ狂い、荘武へ殺到する。荘武はそれを避けるために一旦拓真と大きく距離を取った。 「さぁ、舞え、雷鳴!」 「シルフィア! 助かった。感謝する」 「何、気にするな。それよりも、今は目の前の敵に集中するんだ。お前が苦戦しているということは、奴は相当な実力の持ち主なんだろう?」 「あぁ……しかも奴はまだ全開じゃないぜ?」 「ぞっとしないな、それは」 彼女に続いて、ノーフェイスを片付け終わったリベリスタが続々と拓真のもとへと集まっていく。 「ほう。アレを倒したか。其方ら、いい腕をしているようだ。こちらも全力でやらせていただこう」 荘武はそう言うと、腰からもう一つの小刀を抜いた。リベリスタに緊張が走る。 フツはシルフィアの前に立ち、 「敵をお前さんにゃ近づけさせねぇ。安心して、ガンガン攻撃しておくれ」 「了解した。頼もしいな」 「そりゃどうも!」 と言った瞬間。 一瞬で、フツの目の前にまで、荘武が距離を詰めていた。 長刀の攻撃をフツは、槍で受け流し、敵と一旦距離をあけようと槍を刀に向かって思いっきり振る。荘武は一撃目を難なく受け止めたが、 「こういう戦い方もあるんだよッ!」 フツは荘武に向かって足払いをし、バランスを崩した。そして二回目の攻撃で彼に距離を取らせることに成功した。 荘武が飛び退いた瞬間、 「舞え、雷鳴!」 再び雷鳴が轟き、拡散した雷が総武へと殺到した。今度こそ雷撃が荘武に直撃した。 「最近は」 シルフィアが魔道書――ハイ・グリモアールを撫でながら言った。 「剣豪だの、武士だの、そういう手合いが流行っているのだろうか? まぁ、どちらでも構わんか。武士道とか騎士道は私の理解の外だ……それに、今は奴は武士道を歩んでいるとは言い難いな。私の目からみても、だ」 「でもまぁ、そっちのほうが俺は楽だ」 隆明が前に出ながら言う。 そして一気に駆け出し、間合いを詰める。彼が好む超接近戦闘に持ち込むために。敵も駆け出す。 隆明は超直観を駆使し、次々と放たれる荘武の斬撃をかわしていく。ここぞというタイミングで正確に繰り出される拳は、荘武が警戒するほどに恐ろしい破壊力を秘めたものだ。 尋常ではない速さの攻防が繰り広げられる中、隆明はやはり笑っていた。 荘武の斬撃が隆明の頬を掠める。それと同時に彼の拳が荘武の脇腹を捉えた。そのまま拳を脇腹にめり込ませていく。荘武はまずいと感じたのか、一旦隆明と距離をとるべく、後ろに飛んだ。 「楽しんでるかぁ!? 剣豪さんよォ!?」 頬の傷から流れる血を拭いながら彼は叫んだ。 「よそ見してるヒマはない!」 疾風がK10C[陽炎]の射撃でけん制をしながら突っ込んできた。そして彼はどんどん加速していく。 ――その速さは疾風の如く。VDアームブレードには電撃が纏っている。その勢いを保持したまま、彼と荘武は激突した。荘武のほうも一瞬で加速し、疾風へとあたっていった。 二人の剣が激突し、火花を散らす。 しかし、二刀と一刀では手数が違った。それのせいで、疾風は少しずつ押されていた。その時、 「お前の相手はこっちだ!」 拓真が二刀を構えながら、荘武へと突っ込んでいった。荘武は疾風を突き飛ばし、拓真のほうへと剣を向けた。呼吸を整え、集中した拓真は先程とはうって変わり、荘武と互角にやりあっていた。 どちらも双剣を研鑽し続けた者同士だ。彼らは純粋なまでの実力勝負をしている。 剣を交える度に、拓真の攻撃は重く鋭くなっていく。そして彼は剣を振り続けながら言う。 「俺たちのような、古い考えをもった人間が生きるにはこの世界は少々平和すぎる。だが、俺にはこの世界で死ねない理由がある!」 肉体の限界を超えた力で振るった剣が、荘武の小刀をついにへし折った。荘武は一度下がり、体勢を立て直す。 しかし、そのスキを見逃さなかった者がいた。リンシードとコヨーテだ。 コヨーテが業炎擊を連続で繰り出し、荘武のバランスを崩す。荘武の長刀の攻撃をギリギリでよけ、リンシードが攻撃できるスキを生んだ。 彼女は一気に間合いを詰め、無数の刺突で荘武の足と手を刺した。 ● 「どうでしたか……強者と戦って、何か得るものはありましたか? でも、もうこんなことはできないとは思いますけど……」 リンシードが続ける。 「あなたは何のために強くなったんですか? 闇雲に強者を求めても、何もなかったんじゃないですか……すみません、説教なんて」 「いや、いいんだ。きっと、そう言ってやったほうがこいつのためにもなるだろう。こいつとは剣を交えたんだ……気持ちは少しくらいならわかる」 拓真が悲しげな表情で言った。 「俺は……弱かったのだろうな……」 荘武が弱々しい声で呟く。疾風はそんな荘武に、 「そんなことはない……君は十分に強かった。どうだろう、アークに来る気はないか?」 「その必要はない……これだけの強者と戦うことができたのだ……もう未練はない。殺せ」 「そォかい」 コヨーテはそう言うと、戦闘態勢を解除した。フツが槍で荘武の心臓を刺し、そのまま火で死体を焼いた。 「死ぬも生きるも剣の道ってところか――」 燃える炎を見ながら竜一が一人呟く。 ほんの少し冷たい夜の風が、リベリスタの頬を撫でた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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