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生きるとは他者を食らいて思うこと それにつけても触手なりけり

●生贄の儀式
 生贄という儀式は、古今東西どこにでもある儀式である。自らを差し出し、超自然的な何かに対する保険を得ようとすることは、自然への敬意と、そして恐怖から来るものだ。
 科学により自然への正体が知れても、その科学で証明できないことがある。こと、神秘にかかわったものはその正体を知ってその上で諦めることがある。
 それは強さ的な意味もある。世界のバランス的な意味もある。自らの信念的な意味もある。
 その答えを、愚かと罵る者もいよう。偽善と嘲る者もいよう。
 だが彼らは選び、そして続けてきた。年一度の生贄。それにより集落が護られるのならそれもよし、と。
 森の中に作られた祭壇に立つ少女。それをに語りかける声が響く。
「すまんな。つらい思いをさせる」
「いいのです。これも皆が生き残る為。すべて覚悟はできています」
 森の中でもっとも大きな樹木が蠢く。蔦が生贄の動きを拘束し、そしてその体を弄っていく。生贄はその感覚に苦しみ、震え、そして悶え始める。
「きゃ、んっ、ひっ……ううん!」
 鋭い痛み。そこから血が吸われていく。痛みは次第に薄れ、痺れるような甘い感覚が全身を襲う。自分の体とは思えない浮遊感。体を襲う感覚だけが生贄の少女を支配していた。
 いつから始まったか分からない生贄の儀式。
 炎は生贄と巨木のアザーバイドを照らしていた。

●貴方は従う? それとも逆らう?
「と言う儀式があるんだが、参加してみないかお前達」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。
「全力で断る!」
「っていうか滅ぼせ、その樹木!」
「予想通りのアンサーだな。実際予知したミズ和泉もそういう意見なので、俺が変わって説明させてもらうぜ。
 まずこの樹木、フェイトを得たアザーバイドだ。放置しても崩界には関係ない」
 何? とリベリスタたちが怪訝な瞳をする。
「この樹木『マイナスイオン』を拡大強化したような能力を持っていてる。このアザーバイドがいるだけで森の動植物の成長を促し、同時に近隣の土地の収穫量が増える。性格も基本的に温厚で、アークとしても問題なしという判断となったみたいだ」
「いや、生贄とか言ってるじゃないか」
「生きていくためには何かを喰わなきゃならん。このアザーバイドの食料は『人の血と精力』だ。一年に一度に死なない程度に『儀式』を行えばいい。
 いつもなら生贄は死なない程度に血と精力を奪われ、アザーバイドもそれで満足だったのだが……今回はいつも以上に血と精力を食らってしまう。その結果生贄はノーフェイス化だ。何故食欲旺盛になったかは不明だが、『楽団』がこのあたりの土地を汚したというのが最有力候補だ。まぁ今回限りなのだろうが」
「……むぅ」
『楽団』……その名前に覚えのあるリベリスタは唸り声を上げる。死者を操り、日本全国を汚したフィクサード軍団。
「解決策は二つ。アザーバイド討伐と、生贄の数を増やすこと。
 前者は生贄の少女と、そしてアザーバイドが襲い掛かってくるだろう。彼らなりの信念もあるので説得はインポッシブルと思ってくれ。後者はまぁ、色々がんばってくれ。死にはしないだろうが、こっちはこっちで痛い目にあう」
 アークとしてはどちらを選んでも構わない、とのことだ。
 後顧の憂いをたつために巨木を破壊するか、今の平和を護るために生贄を捧げるか。どちらも楽とはいえないだろう。
 だが選ばなければならない。何もしない選択肢は、悲劇しか生まないと知っているのだから。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月30日(土)23:13
 どくどくです。
 信念のためにアザーバイドを討つもよし、自らを捧げてもよし。それは自由です。

 本シナリオは第四回BNE公式オフの景品である『どくどくの次のシナリオ傾向を決める権利』により作られました。シナリオが一本とは言っていない!
 そのご期待に沿える形になれば、幸いです。

◆成功条件
『生贄』をノーフェイス化させない。
 アザーバイドの生死等は成功条件に含みません。

◆敵情報
・『巨木』ティエラネザー
 アザーバイド。フェイトを得ています。年齢は推測で5百才ほど。見た目は巨大な樹木です。触感などもそれと変わりません。
 人の血(HP)と精気(EP)を吸う事で命を維持しています。とはいえ年に一度ぐらいの供給でいいので『積極的に滅ぼす必要はない』とアークは判断しています。
 基本的に温厚です。ただし生贄を捧げないとなれば、死にたくない為戦いを挑んできます。生贄の血を吸いすぎることに関しては、現時点では理解していません。言葉は通じる為、交渉は可能でしょう。
 生贄になったキャラクターは、実際にHPとEPが減ります。EP不足分はHPからいただくことになります。それによりHPが0になれば、相応の処理をさせていただきます。生贄なる数が多ければ多いほど、一人に掛かる負担は減ります。
 戦闘になれば『蔦を使った物理の遠距離複数攻撃』と『花粉を全体に散布して猛毒を与える攻撃』をしてくるでしょう。ノックバックなどで移動させることはできません。

・『生贄』龍田安芸
 リベリスタ。十八才。体系は年齢相応。儀式のために簡素な服を着ています。破界器の類は持っていません。ジョブはフライエンジェ×マグメイガス。読み方は「たつた・あき」です。「たつた・あげ」と呼ぶと怒ります。
 森とその周囲の集落の為に、身を捧げる気でいます。儀式は三度目なのでアザーバイドのことを信用しきっています。
 一人で生贄にささげられれば、血と精気を過分に吸い取られ、フェイトを大量に失いノーフェイス化します。そのことについてはまだなにも知りません。
 戦闘で倒れれば、フェイト復活することもなく気を失います。この場合、ノーフェイス化はしません。
「マグスメッシス」「チェインライトニング」「魔術師の瞳」「「魔術回路」等を活性化しています。

◆場所情報
 森の中。時刻は夜。祭壇を作る為に木の板やらたいまつやらが設置されているので、足場や明かりは問題なし。
『巨木』に設置するように祭壇があり、その上に『生贄』がいます。儀式はまだ始まっていない為、交渉は可能です。
 事前付与は可能ですが、それを行えば相手は敵対行動と判断するでしょう。
 リベリスタの初期位置は自由に決めていただいて構いません。いきなり祭壇の上にいえもいいし、遥か後方でタバコを吸っていても構いません。

 シリアスになるかもしれません。ネタになるかもしれません。八人で攻めれば戦闘はあっさり終わるでしょう。
 皆様のプレイングをお待ちしています。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)

大石・きなこ(BNE001812)
ハイジーニアスホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
ハイジーニアスミステラン
風宮 紫月(BNE003411)
フュリエミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
ビーストハーフレイザータクト
イリア・ハイウインド(BNE004653)
ジーニアスデュランダル
五十川 夜桜(BNE004729)


 すべての生物は単体では生きてはいけない。
 燃え盛る太陽の光を受け、植物が生み出した空気を呼吸し、そして自分以外の者の命を奪って生きているのだ。
 故に口にするのだ。感謝と、謝罪と、そして祈りを篭めて。
「いただきます」


「こんにちはアークでっす! お邪魔します!」
 元気よく手を上げて現れたのは『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)だ。アザーバイドと、その生贄になろうとしている龍田は、その声に動きを止めて振り返る。
「二人にお話があります。少々お時間を頂けますか?」
「初めまして、龍田様。そして尊い巨木――ティエラネザー。美味しそうなお名前……あ、いえ、何でもありません」
 一瞬意識を食欲に支配されそうになりながら『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は一礼する。武装を外し、敵意がないことを示しながら祭壇に近づいていく。事実、集まったアークの面々に敵意などないのだが。
「箱舟が察知したのですが、今回の儀式はとても危険です。巨木よ、貴方はいつもより多くの血と精気を必要としています」
「どういうことだ?」
「大地の穢れか或いは別の理由か確かな理由は分かりませんが、恐らく今のティエラネザーは何時になく消耗している可能性があります」
 アザーバイドを真っ直ぐに見ながら『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は自分達が知っていることを説明していく。このままだと悲劇しか起きないことを。そして自分達はそれを塞ぎに来たことを。
「私達の力を使う事をそして血と精気を提供する事を、如何か許してほしいのです」
「確かにアークの『万華鏡』の予知的中率は聞いていますけど、ええと、この儀式はその……」
「あー、大丈夫。献血よね、これ。分かってるから」
 顔を赤くして説明に戸惑う龍田に『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が頷きながら龍田をなだめる。『万華鏡』の映像で大体何が起きるかは知っているが、それを説明させるつもりはないし、その覚悟もある。
「お互い同意の上だし今のあなた達の関係は私も良いと思うわ。何より死人が出ないのが素晴らしい」
 アークのリベリスタとして過酷な戦いを潜り抜けてきたアンナにとって、この関係はほほえましいものだった。すべてこういけばいいのに。
「生贄……それだけ聞けば悪いものに聞こえますけど、年に一回だけでそれも死なない程度なら大分良心的ですね」
 うんうんと頷きながらイリア・ハイウインド(BNE004653)がアンナの言葉に同意する。革醒したので戦わなくてはいけない、といささか背負い気味のイリアだが、共存できるならなら戦う理由はない。肩の力を抜き、体をほぐす。
「死なない程度に血とかを吸われるくらいならきっと大丈夫ですから、一緒に頑張りましょう!」
「祝福を得ている樹木ってなんだか素敵かも」
 五十川 夜桜(BNE004729)はティエラネザーを見上げながら感慨深げに呟いた。弟をエリューションに殺されて革醒した夜桜は、その経緯もあって悪人への対応が感情的になりがちである。だが今回はそうではない。
「周りにもいい影響を与えているんだし、切り倒しちゃうのはかわいそうだよね」
 使い慣れた剣を納め、祭壇に歩を進める。アザーバイドも龍田も、それを止めることはない。
「生贄の際にお願い事があります」
 一礼して『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)がティエラネザーに提案をする。アークが積極的な討伐の必要なしと判断したのなら、紫月からは何も言うことはない。真っ直ぐにアザーバイドのほうを見て、口を開く。
「負担軽減の為に、生贄へ回復を施してもよろしいでしょうか?」
「拒否する理由はない……だが、いいのか? 貴方達の話を聞く限りでは相当の負担を強いるようだが」
 心配するようなティエラネザーの言葉に、祭壇に上がったリベリスタたちは頷いた。
「分かった。感謝する。それでは――」
 言葉と共にティエラネザーから蔦が伸びる。
「ザ・一番槍希望!」
「あ、それだと龍田さん一人で儀式にしたのと同じ扱いになりますよ。なので生贄になるのは全員同時の方がいいみたいです」
 明奈の言葉に『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)が答える。防御力に定評のあるきなこだが、今回は体力勝負。がんばるぞと気合を入れて祭壇に進む。伸びてくる蔦に手足を拘束されて、昔いじめられたときのことを思い出す。
「そのほうが回復もやりやすいしね」
 回復を行うリベリスタは後方に控えることになる。生贄の血が足りなければ参加するのも吝かではない。とにかく平和に終わればそれに越したことはないのだ。
「それでは、いただきます」
 言葉と共に枝葉が伸び、乙女の柔肌に触れる。
 年に一度の『儀式』の始まりである。


 しゅるりと伸びる蔦が全身を這うように絡まっていく。
 手、手首、腕、そしてわき腹。
 足、足首、踝、そして太もも。
 ぬるりとした感覚が肌から伝わってくる。龍田の説明によれば、消毒効果を持つ樹液だとか。その匂いが鼻腔をつく。甘く、それでいて眠くなるような香。
 蔦の動きは少しずつ強く、激しくなる。硬く、樹液で滑り、そして蛇のように不規則な動き。それに悪意などないと分かっていても、未知の存在に自分の体を触られるのは気分のいいものではない。
 少しずつ、心臓の鼓動が早くなる。蔦の動きは体を流れる血管を探るように動く。強く探られるたびに、心臓の鼓動はさらに速くなる。
 そしてついに鋭い枝が迫ってくる。暴れて吸入部分から抜けないようにしっかりと蔦が四肢を固定し、必要以上に出血しないようにきゅっと締まる。
 痛みは一瞬だった。自らを貫く痛みは、同時に注がれるアザーバイドの樹液により沈静される。自分の中に何かが刺さっている感覚だけはあるのに、その痛みも何も感じない。ただ刺さっている感覚だけがクリアに感じられる。
 そしてそこから血と精気が吸われていく感覚も。それはとても甘美。思わず呼吸が乱れるほどに動悸が激しくなる。
 そして血を吸われる乙女達はというと……。
 
 きなこは自分の腕に絡みつく蔦の力に体を震わせる。
 暴れて血管から針が抜けないように強く拘束しているのだが、それは苛められていたきなこの心の傷を想起させた。
 ティエラネザーの行為に明確な悪意などないが、心の震えが体に伝播しきなこは身をすくませる。呼吸が乱れ、鼓動が早くなる。
「ああ……はいって、来……っん」
 そこに鋭い刺激が走る。うなじから伸びた枝がきなこの首筋に突き刺さった。入ってくるのは採血用の細い枝だからね。そこを通じて痛み止めの樹液が注ぎ込まれた。
「中にいっぱい……注ぎ込まれて、ますぅ……」
 中って血管内のコトだからね。
 震える体を律するようにきなこは自分に活を入れる。しかし意識すればするほど苛められたときの記憶が蘇る。混乱する心は現在の記憶と過去の記憶を混同させ、まるでアザーバイドに苛められている錯覚を起こす。
 蔦に全身を拘束され、身動きもとれずにただ血を吸われる。その姿を仲間に見られ、しかし助けられることはない。
 まるで自分の苛められる姿を楽しんでいるように……ああ、皆が私を苛める……為すすべもなくアザーバイドに攻められ、そして堕ちていく。
 きなこの意識は白く染まり、そのまま気を失った。

「こう見えてワタシはタフなんだぜ?」
 明奈は自己再生の加護を付与し、アザーバイドに近づいていく。はじける笑顔で両手を広げ、自ら蔦に身を寄せる。
「あ……これは、ひゃぅ、くすぐった……んっ」
 全身をまさぐる蔦の動き。小麦色の肌を這う植物の感触。羽毛のように軽いタッチで張ったかと思うと、突如強く体をまさぐってくる。
(分かってるよー。これは血管の位置を探ってるだけ。分かってるけど)
 事前に聞いていたこととはいえ、実際に経験するとその感覚は想像を絶するものだ。無体をさらすのはアイドルの名折れ。むしろアイドル生命の危機といえよう。
 ……まぁ、過去の依頼を見るに、アイドルってなんだろうと思わなくもないのだが。
「アンナ、回復は任せたッ! ワタシの溢れる生命(あいどるぢから)、持っていけ!」
「……任せるのはいいけど、アイドル力は渡しちゃダメでしょう」
 相棒に回復をゆだねて耐える明奈。元々彼女はドラマ型。しかし忘れるな、どくどくダイスの不遇っぷり。ドラマ57だって普通に外すのだから。
 もちろん明奈の準備はそれだけに留まらない。リジェ40で微妙に回復しつつ、相棒を初めとした各種回復。フェイト使用とて視野に入れているのだ。
 だがそれは、
「あれ、これってもしかして……くっ、うん……延々とこの感覚が続くってコト……?」
 頬を上気させ、明奈はアザーバイドの吸血に耐えている。終わりの見えないマラソンは、まだまだ続く。

「回復スキルで血液って補給できるの? うむむ、謎……」
「まぁヴァンパイアも『吸血』とか言ってHP吸収するわけですし」
 夜桜の疑問に龍田がメタに答えた。どくどくは目をそらした。
 それはともかく、夜桜にも蔦が伸びる。大胆にカットされた三高平中学校の制服。その露出している部分から蔦は夜桜の未発達な体をまさぐっていく。
(痛みだけなら耐えられるけど……これは……)
 蔦が触れた部分がひんやりと冷たい。それが樹液であることは聞いている。軟膏を塗るように体にしみこむ樹液は、すぐに熱を持ったように肌が熱くなる。血流が早くなり動悸が激しくなる。
「は、ぁ……熱、いよぉ……」
 未知の感覚が夜桜を襲う。その正体はわからないが、このまま続けばよくないことが起きる気がする。止めたほうがいいという理性は、しかし任務の為という判断で押さえられる。大丈夫、これは血をあげるだけ。たいしたことない。
「痛……っ、い……よぉ、ふえぇ、ん……あっ」
 血管に枝が突き刺さり、血を吸われ始める。痛みだけなら耐えられた。だけどこの感覚は痛みだけではない何かだった。体の中に何かを注入され、体の力が抜けていく感覚。よくわからない何かが体を侵略し、新たな感覚を刺激する。
 夜桜は涙をこらえて、それに耐えていた。

「――さあ、『お祈り』を始めましょう」
 そう言って祭壇に登りアザーバイドに身を捧げるリリ。
「う……ぅんっ!」
 血を吸われるたびに襲い掛かる感覚。リリは知っている。この感覚はティエラネザーとは違うアザーバイドがもたらした感覚。乙女の内から沸きあがる熱い激情。熱いマグマのように湧き出て、全身を火照らせていく。
「んくっ、うん、あふぅ……や、はあぁ……うふぇ、はっ、あっ、ふっ……」
 呼吸が乱れる。自らを律することが難しくなる。冷静を保とうとすればするほどティエラネザーの動きを意識してしまう。その動きが大胆になればなるほど、リリの熱が高まっていく。
「だ、め……ひぃ……んっ、んんっ、ん、あっ」
 流されるな。必死に抗うリリだが、それが無駄な抵抗だと心のどこかで理解していた。動きは完全に拘束され、祈りの為の銃はここにはない。脱出することはできず、また状況がそれを許さない。仲間の助けはなく、ただ己のみがこの状況を脱する鍵なのだ。
 だが、その自分自身がこの体たらくだ。体内でどうしようもなく暴れる熱。体が自分の意志に反して、小さく跳ねた。吸われていく血液の感覚が抵抗の力を奪い、できるのはただロザリオを握り締めるだけ。
「主よ、ご加護を、どうか……」
 必死に耐えるリリ。肉体的精神的な苦痛からか、涙が一筋流れて落ちた。

「こう言うのは初めてなので、やっぱり少し緊張すると言いますか……やさしくしてくださいね?」
 イリアは軽く頭を下げてティエラネザーに身をゆだねる。手足に絡まる蔦。そして全身をゆっくり撫でる優しい動き。
「あ、なんだかくすぐったい。痛いのは苦手なので優しく……あっ」
 その刺激に思わずイリアの口から声が漏れる。自分の体なのに自分で制御できなくなっている。少しずつ熱を帯びる自分に驚きを感じていた。
「はあぁ、にゃあん……ふぁ」
 ふわふわと体が宙に浮くような錯覚。重力から解き放たれた開放感と、全身が温まる愉悦感。まるで温かいお湯の中で手足を伸ばしているような感覚。それでいて断続的に体を襲う刺激。
「こんなの、はじめて……」
 失った記憶の中にはこういう行為があったのだろうか? ただイリアはこの感覚に抵抗しようとは思わなかった。アザーバイドに血を吸われながら、自分でも分からない領域に意識を持っていかれそうな予感。体内で渦巻くうねりが、少しずつ激しくなる。
「んあ……ふあぁ、あん、うやん、んぅ……!」
 体の力が抜けていく。だけどどうしようもなく湧き上がる情動が、イリアの意識を突き上げてはじけそうになる。
「いしきがどこかにいっちゃいそう――」

 ファウナは故郷にある世界樹とは違う樹木のアザーバイドを見た。意志の伝播こそできないが、それが悪戯に命を奪う存在でないことは理解できる。
「ティエラネザー……よろしくお願いします」
 大地を活性化するティエラネザー。それが血液を吸いすぎてしまうのは、この土地が穢れた為。ならばこの生贄を買って出るのはファウナとしては望むところだった。命を奪わずにことがすむなら、それに越したことはないのだ。
 蔦に身を任せ、ファウナは呼吸を整える。緑色の長髪がふさぁ、と流れる。淡く緑色に光るフィアキィがティエラネザーに癒しの光を放つ。同時にファウナ自身も自然と一体化するように呼吸し、体内にエネルギーを蓄える。
「ふっ、はっ、んんっ……」
 むず痒いような熱いような。そんな感覚がファウナを襲う。呼吸が乱れ、熱いと息が漏れた。水の中にいるようで、それでいて熱い太陽が体内にあるようでもある。
 未知の感覚に戸惑いながら、しかしこの地を護るためにファウナは耐える。かつてボトム・チャンネルの人間は自分達の世界を救ってくれた。なら今度は自分が助ける番だ。それでもその恩に報いるために、この身を捧げよう。
「……んん、うっ、ゃ、ふっ……」
 どれだけ決意を固めようとも、声が漏れることだけは止めることができなかった。


 そしてそんな様子を一歩離れた所から見ているものがいた。別に静観しているわけではなく、回復を行い生贄を助けている者が。
「おっしゃ頑張れ明奈ー! 踏ん張れば四方丸く収まる仕事なんだから気合の入れどころよ!」
 アンナは相棒に活を入れながら、回復の神秘で仲間を回復していた。目の前で繰り広げられるアザーバイドと生贄たちの饗宴に関しては、深く考えないことにしていた。
「問題? ないわ。ぜひこのままでいって頂きたい」
 うんうんと頷き、背筋を伸ばす。額から肺までを真っ直ぐに正し、お腹一杯に空気を吸い込む。体内で回転させているマナの力を加速させ、吐き出す息と共に神秘の祝詞を唱える。癒しの技の最上といってもいい神秘。それが生贄たちの体力を癒していく。
「はっ、みゅぅ……あん、ひゃっ」
「献血献血。問題ないわよ」
「もう……はひ、んああ!」
「気張って気張ってー!」
 アンナは呼吸乱れる乙女達に向かって檄を飛ばす。
「見目なんて多少アレでもいいのよ。誰も傷つかない解決策があるんだからそれが大事!」
「いやそういう作戦だけどなんか不公平じゃね、これ!」
 叫ぼうがわめこうがこれが役割分担である。実際問題として、この回復がなければ何人かダウンしていたわけだし。
「ところで質問があるのですが」
 紫月が生贄たちに回復を施しながら、アザーバイドに問いかける。紫月の家は西洋魔術の家計である。だが彼女が行使するのは西洋の魔術ではない。異世界の術を学び、行使していた。
「答えられることなら答えよう」
 こんな行為の最中なのに変わらぬ口調でティエラネザーは言葉を返した。
「ありがとうございます。貴方様は植物型アザーバイドということなのですが、その枝を他の土地に植えることはできないのでしょうか?」
 植物の生命力は高い。切り株に枝を突き刺し、そこから成長する樹木もある。もっともそれは、
「過去に試したものがいるらしいが、芳しい結果は聞こえなかったな」
 全ての植物が持ちえる能力ではない。ましてやティエラネザーはアザーバイド。運命の祝福を受けたとはいえ、元はこの世界の存在ではないのだ。
「そうですか……それが可能でしたら、他の大地も活性化させることができるのですが」
「……さすがに、年一回、こういうことされる場所が増えるのは……子供の教育上、良くない……」
 息絶え絶えになる生贄たちの反論。紫月はまぁ、と手を口に当てる。中断していた回復を再開した。


「ご馳走様でした」
 かくして儀式はつつがなく終わった。蔦が生贄から離れ、乙女達が解放される。
「つつがなく……?」 
 色々あったり失ったかもしれないが、死人が出る事はなかった。真っ白になったきなこが横たわっている程度だ。
 血を抜かれた生贄たちは気だるそうにジュースを飲んでいた。これで一年は持つだろう……そう安堵する。
 だが、土地がまた穢れればティエラネザーの食欲は増進する。神秘事件の規模が高まれば、その確率は高くなるのだ。
「……これで終り、ですよね?」
 答えはない。未来は誰にもわからないのだから。

 そして報告書には、事細かに生贄がどうなったかが書かれるのであった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 セウト!