● 紳士の主張 見よ、この一直線の弾道を。 我が正義と叫ぶ弟には作れまい。 見よ、この堅牢さを。 密林で壊れ行く弟の作品とは別格である。 そう、私こそ本物。 世界の誰よりも品行方正なものはいないだろう。 ● 現実の叫び 「せんきょーよほー、するよ!」 何時ものセリフでリベリスタ達を出迎える 『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン (nBNE000223) は今日も元気いっぱいだ。 対照的に寡黙な兄、『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン (nBNE000246) も直ぐ傍にいた。 「きょうはね、このゴーレムさんをたおしてほしいの」 スケッチブックをめくり、ばっと皆へ向けた一面。 そこに描かれていたのは奇妙な絵である。 肌色の多い人影、そしてなぜか腰まわりだけ白い。 そして頭が妙なのだ、なぜか横長の黒い物体で構成されている。 拙いクレヨンでのお絵描き故に、何を指し示すかわかりづらいことだろう。 「このゴーレムさんは、すごくつよいってみんなに教えたいの。でも皆、そんなことないっていうからおこっちゃって……大暴れしちゃうんだよ?」 頭部はともかく、全裸に近い格好をどうにかしてからだろうと突っ込みを入れたいリベリスタ。 反応に困った表情を見やり、紳護が苦笑いを浮かべながら補足に入った。 「ゴーレムの説明をする前に……一つ君達に見せたいものがある」 そういうと足元においてあったジュラルミンケースを開き、銃を取り出した。 黒とオリーブドラブの色合いで構成された突撃銃、上部には光学装備、マガジンが後方に付いた変わった形状をしている。 「イギリス軍が使用するライフルだ。正確にはその原型というべきか……そしてこれが敵だ」 目が点という言葉はこんな時の為にあるのだろう。 静寂の数秒間の後、なんだそれは!? とリベリスタ達の突っ込みに紳護は説明を続けた。 「おそらく原因はこの銃の不具合だろう」 紳護の説明を噛み砕くとこうだ。 弾丸を送り込むコッキングレバーというパーツが空薬莢を吐き出した時に、奇跡の連鎖反応で機関部に叩き返してしまうのだ。 それによる排莢不良による、発射停止。それだけならまだしも、運が悪ければ機関部が破損する。 マガジンが弾を押し上げるバネ、マガジンを支える銃側のバネ、この二つが弱く弾を押し込めず、弾倉を保持できず落下させてしまう。 華々しい成果といえば、銃剣突撃によるテロリスト制圧という何とも謎なものだ。 「ほかにも色々と欠点を挙げれば数え切れない。そして満を持して生まれた筈だったこの銃の怨念なのかどうか分からないが……E・ゴーレムと化したそうだ」 紳護は予想される格好を映像化したものをスクリーンへと投射する。 成人男性の体に頭が先ほどの英国小銃、そして服はブリーフ一枚。 どんな紳士なのかはさておき、放っておけば街中で発砲しまくり、大暴れするそうだ。 「発生地点はこの森林地帯だ、そしてここを南下すると市街地へ通じる大通りにたどり着く」 スクリーンには戦闘エリアとなる森のイメージが浮かび、進行ルートに赤い線が引かれていく。 リベリスタの配置は南側に集中するイメージが描かれた。 つまり、北からやってくる英国小銃を待ち構え、大通りに到達して逃げ出す前に倒す。 それが今回の作戦プランだ。 「……問題なのが、このエリューションが異常に強いことか」 予想される戦闘能力の数値の表示は、集まったリベリスタが全力を出し尽くして当たっても倒せるかどうかという極めて凶悪なレベルだ。 攻撃手段も遠近両方に秀でており、見た目とは裏腹の強さにリベリスタも唖然である。 「だが、ノエルの予知によると、どうもメンタルが弱点らしい。メンタルを完全にへし折って戦闘力を激減させれば、勝機が見えるが……貶すだけでは意味がないので気をつけてくれ」 どういうことか? 怪訝な表情を浮かべるリベリスタに紳護は苦笑いをこぼす。 「貶される言葉に慣れてしまっているところがあるようだ。理想としては褒めちぎって油断したところを欠点の羅列でもして追い立てるといったひと手間がいる」 面倒な紳士である。 「少々面倒だと思うが……君達なら問題ないと思っている、よろしく頼む。それと、どれだけ性能が劣悪かは手にとって確かめてくれ。施設内の試射場は空けてある」 作戦開始まではそれほど時間はないが、少し確かめる程度の時間はある。 ケースにしまい、差し出される銃は異様に重たい。 「みんな、がんばってね!」 ノエルは話の内容についていけなかった、紳護の傍でぽやんと微笑んでいる。 この笑顔が彼らの癒しになれば幸いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月05日(木)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呆れる ブリーフィングを終え、リベリスタ達は試射場へと移動していた。 時間はそんなに無いが、敵を知る為にも元となるライフルの試し撃ちである。 「訓練の一環で銃器を触る事もあるけれど、これはホントに悪趣味な敵ね」 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は銃口を下ろし、呆れた様に呟いた。 紳護から前々から説明があったものの、内容はまさにその通り。 マガジンを差せば抜け落ちない様に尻を叩き、バネの手助け。 レバーを引いて装填、引き金を引けば数発の発射で薬莢が詰まる。 落胆の表情を見せつつ、隣にいた『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)へライフルを差し出す。 一度マガジンを取り外し、レバーを引いて弾薬を吐き出す。 傍にあった万力状の道具にライフルを固定し、レンチで光学照準を取り外し、アイアンサイトをセットする。 常は目視射撃を主とする為、ただ撃つだけなら此方の方が慣れているのだろう。 その次に試射予定の『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)も近代装備無縁の火縄銃を使う射手だ。 照準をつける部分の高さを失い、よりいっそうストックへ頬付けが必要となる。 ぐいっと押し付け、縮こまるようにしてマンターゲットへ射撃を始めた。 初弾命中、次弾は上へ反れてしまう。ぐっとリコイルコントロールで狙いをあわせるも、照星と照門の距離が短い所為で狙いが安定しない。 「本気で使いにくいな、この銃……」 予想以上という反応を見せる木蓮から、龍治はライフルを受け取る。 指切りでシングルショット、そしてリロード。 だが、服の裾にマガジンキャッチが引っかかり弾倉落下。 今の数秒で殺されていたなと思いつつ、龍治は込め直す。 今度はバースト射撃、リズミカルに弾を吐き出すが……弾が出ない。 ジャムは起きていない、訝しげに木蓮と視線を合わせると先ほどのワークベンチへ。 分解すると、中で弾を突き、発射させる重要なパーツファイアリングピンが潰れて折れていたのだ。 こうなればパーツ交換しない限り撃てない。 「成程……これは酷いものだ」 射手二人に呆れ果てられる残念性能である。 「ちょっと調べてみましたけど、『いいから買い換えろ!』としか申し上げられないなこの制式銃」 備え付けられていたPCでデータを漁っていた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)も残念性能をたっぷり見せ付けられたようだ。 一同、より納得のいく情報を手に現場へと向かうのであった。 ●上げる (「銃はあまりいい印象がないですね……持ってる人は私に確実に当ててくる人が多いですし」) 先頭を歩く『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)にとって銃とは縁を持ちたくないものなのだろう。 そのスピードを活かした戦法を殺しにくる精密射撃や、制圧射撃と彼女にとって天敵が多い。 (「使うのも苦手ですね……やはり、剣がいいです」) 高速の世界では落ち着いて狙うのは難しい、だが近づいて刃を振るえば話は別だ。 そして後ろに控えた龍治をちらりと見やる。 (「目を光らせてるのが怖いです……」) 索敵に目を光らせる様が、自分を狙っているようにすら思える。 それだけ鋭いモノを感じるのだ、味方としては心強いものでもあるが。 「何者だね、君達は」 夕日を背に現れたのは、中肉中背の成人男性の姿。 しかし頭は銃、そして服はブリーフ一丁と珍妙過ぎる。 寧ろ貴様が何だ。 「おまっ、ブリーフって格好残念すぎだろこれッ!?」 「全く、なんて破廉恥な格好なのだ……」 木蓮の言葉に、仏頂面の龍治も同意である。 こっそりと『余計なところは見るなよ』と彼女に囁くのだが、見るかと突っ込みが返っていた。 「英国紳士なら、何故ちゃんとした服を着なかったのか。ジョンブルの考えることは分からないわね」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が嘆息をもらす。 彼女の言うとおり、何故こうなったのだろうか。 「英国出身だけど使って無くてごめんなさい」 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)の棒読みに近い言葉が、英国小銃の記憶を喚起させた。 本国の精鋭部隊SASに要らぬと一蹴され、憎き弟の国が作った銃を使っていたことを。 「お前も我が国の英知が分からぬというかっ」 怒りに任せて突破しようと試みるが、すっとリンシードが前に滑り込む。 「素敵な頭のお兄さん……私に貴方のいい所、たくさん見せて……?」 甘い言葉を囁きながらブロックに張り付き、続いて木蓮も距離をつめる。 「英国紳士の誇りを見よっ!」 頭部の小銃が火を噴き、重量と剛性を活かした安定した射撃が放たれる。 全力の防御を悟られぬ様、回避する素振りを見せつつリンシードは弾を体で受け止め、ダメージを抑えた。 反撃と彩歌の放ったオーラの糸は槍の様に収束し、変態へ直撃するもオーラは拡散して消えていく。 龍治、木蓮、ユウの小銃が精密射撃で攻撃を重ねるも、甲高い金属音を立てて体の表面をなでるだけだ。 (「余計な小細工を弄さん辺りは、紳士と言える……の、だろうか」) 龍治の視界には、追い討ちをかける鳩目の弾丸と恵梨香の弾丸が変態へと吸い込まれていた。 もちろん結果は先ほどと変わらない。 幻影で翻弄しつつ、諸そうなところを狙うフィティ・フローリー(BNE004826)の刃も、涼しい顔で受け止め、微動だにしない。 紳士かどうかは分からないが、威風堂々とはいえよう。 「凄く、硬くて……頑丈ですね。素敵です、お兄さん……」 このリンシードのセリフが妙に艶っぽく感じたのは気のせいだと思いたい。 ともかくおだてられ、変態のテンションは上昇し続けていた。 「その程度かね諸君、ならばこちらの番だ!」 再度射撃で傍に張り付くリンシードを狙う。 直撃しているものの、まだ致命傷という状態ではない。 「頑張って、避けても……当たっちゃいます。これでも回避には自信があるのに……素晴らしい命中精度です……」 更に褒めちぎり、英国小銃の勢いは増す。 「いいですよねブルパップ。機能はそのままにコンパクトに収めるのはわたしも大好きです。強度も命中製もいいし、低コストなのも魅力的です」 鳩目が更に続くが、各々視線を合わせる。 それが頃合という合図だとは、この浮かれた紳士が気づくよしもなかった。 ●落とす 「だけど」 先手は鳩目からである。 唐突にびしっと指差される英国小銃は思わず体を跳ね上がらせた。 「軍用銃として信頼性がないのはクソ。多額の金をぶち込んで盛大に改修した結果なんとかマシレベルとか設計レベルでカス。オマケにブルパップで銃身切り詰めて挙句その重量とか舐めてんのか」 テンションがあがりにあがっていたところへ、叩き落す言葉がぶちまけられる。 一つ一つが無防備な体にぶち込まれるストレート、フック、アッパーといわんばかりに体が揺れた。 「そう……ドイツのメーカーに改良してもらったと聞いたけれど、根本的な問題は改善されてないのね」 恵梨香が眉一つ動かさずに追い討ちを掛ければ、精神ダメージだけでも膝から崩れそうである。 「まあほら、なんだかんだで幾度も大改修受けては使われてる愛され小銃だし」 彩歌がフォローを思わせる言葉を苦笑いで呟くが、勿論それは傷口を更に広げる為の罠。 「二倍の重さで殴れば二倍の威力だし、頑張ればガシッボカッ敵は死んだ、スチール(笑)とかなるかも」 重さが完全にネタにされている、鳩尾に一撃食らったかの如く、精神ダメージで英国小銃の体がくの字に折れた。 「でも銃剣として使うのに、重さ5kgって重いよ。鈍器にしてもらったほうがいいんじゃない? あぁ、でもブルパップだから、銃剣つけるにしても銃身が短くなって不便だね」 「個人的には近衛兵のスタイルには『未来的デザイン』より、伝統的な木と鉄でできた長銃の方が似合うと思うわね」 フィティが鈍器としての性能すら疑い、恵梨香は最早すべてを否定している。 重たく、短い槍。それはいったい何のために存在するのかすら分からない、寧ろ銃として扱われてない時点で十分酷いが。 「銃剣突撃あるし対テロ向け、って言うけどね。今、時代はPDWよね……」 日本語では個人防衛火器等といわれたりする、貫通力のある弾を連続発射できる攻撃的なサブマシンガンだ。 彩歌の言うとおり、銃剣というのはあくまで最終手段であったり、発砲すると危険な状況に限るものと思われる。 PDWに軍配が上がるのは尤もだ。 「これは……このデザインは……私の、アイデンティティだっ!」 射撃性能を疑われ、形を否定され、それでも強気に言葉を返そうとする紳士。 「国産に拘る愛国心は素晴らしいけれど、そう欠陥が多くては、命を預ける兵士が気の毒だわ」 愛国心では戦いは勝てぬと、恵梨香の冷静な突っ込みが紳士を追い立てる。 しかし木蓮だけは、このロクデナシの言葉になるほどと頷いていた。 「趣があって良い銃だと思うんだけどなぁ。ほら、銃って撃つだけが大事なことじゃないじゃん? 俺様は結構好きだぜ!」 弱った心に優しい言葉は染み入る、これが再び仕込まれた罠とも思わずに。 「でも……やっぱりうちの銃にゃ敵わないなぁ!」 満面の笑みで見せ付けたのはM1ガーランドに似たライフルだ。 それを目に、英国小銃の動きが凍りつく。 「うちの子は撃ってヨシ飾ってヨシだからな。手入れすら娯楽になるんだぜ!」 焦げ茶の木製ストックや安定した作りをべた褒めする木蓮、そして震える英国小銃。 「ほら見ろよ、こんな撃ち方も出来るんだぞ!」 不意打ちに射撃を繰り出すが、防御も回避もない。 銃口を撃ちぬかれるが、それでも動かない。 偶然とは恐ろしく、この英国小銃の逆鱗に触れていたのだ。 「やはり、貴様は私の永遠の敵のようだなぁっ!」 (「ぁ、やっぱりそうだったんですね」) その様子を見やり、ユウが一人納得していた。 出撃前に、ノエルへ紳護のライフルについて知っているか尋ねたのだ。 『えーっとね、まーく ふぉー りす っていってたの。元は えむ39 っていってたの』 実は、この英国小銃。弾丸の国際規格に逆らって作られた経緯がある。 その時に弟である米国が推し進めたのはM1などに使用された7.62mm弾だ。 反動が強すぎると反論したが、ごり押し採用。英国は従わんと彼の開発を行った。 紳護の扱うライフルもM39というライフルが元になっているが、これはM1の遠い孫の様なものだ。 そして遠距離戦でユウが使うM21も同様。 3人のライフルが揃っていたら、恐らく怒りが大爆発していたことだろう。 この怒りを静めんと木蓮に掴みかかろうとするのだが、リンシードの攻撃が割り込み、一瞬の連続付きが冴え渡り、閃光の如く襲い掛かる。 「そんな身重では、銃剣格闘には向いてませんね……格好悪い……それに、私の攻撃も…フラフラで避けられない」 先程まで褒めるの使われた甘い声が、罵るのに使われるとここまで冷たく刺さるものか。 表情の変化の無さが更に破壊力を増し、豆腐メンタルに張り巡らされた薄く固い殻にひびが入っていく。 「兵隊さんは走って穴掘るのが仕事なのに、5kgじゃ可哀想ですー。ほら、その証拠に貴方の足も……プルプル震えてません?」 ユウの言葉に、そんなことは無いと言いたげに足に視線が向いた瞬間、その剥き出しの足へライフル弾が突き刺さる。 綺麗に視線誘導されて回避のタイミングをずらされていた。 更に一方的な攻撃に晒され、ダメージは大きくないものの、メンタルはドンドン弱っている。 「100発目にジャムるなら99発の弾丸で相手を蜂の巣にすればいいのよ、うん。ただ、自動小銃の発射速度からすると、あっという間よね?」 反撃の突撃体勢をとる英国小銃へ、彩歌が煽りをかける。 先程までジャムが発生していない、そろそろ来る筈と射撃部分を罵り、そちらを誘う。 「あいつらの様にばら撒けばいいものではないっ!」 至極あっさりとかかった。 そして、発砲! …ガキンと悲しいジャムが発生し、一発目の弾は明後日の方向へ飛んでいく。 「これがないと狙いをつける事もできないんですね……可愛そう」 そう思っているとは思えぬような容赦の無い刃が、スコープを貫く。 命中率の要ともなる場所を破壊されるのは、勿論致命傷だ。 「あれあれ? ガチャガチャやって…もしかして、ジャムっちゃいました? これじゃ祖国の若者が顔面イチゴジャムまみれですよー」 「装填不良のままでは次の弾は撃てないわよ」 「薬莢の自動回収機能って斬新だよね。排出口でやっちゃうから駄目なだけで」 四方八方から飛んでくる嘲罵……というか、事実であるが。 それに混じる攻撃は間違いなく心をズタズタにしていく。 「ど、どうしてだぁぁぁっ」 そして絶叫と共に所謂両手両膝が地面に落ち、彼の戦意が喪失されていく。 彼から力強いオーラを感じていたリベリスタ達だが、今、そこにいる英国小銃は頭が銃なだけの変態にしか感じられなくなっていた。 ●もうやめたげてよお べっきり折れているわけだが、それでも言葉は止まない。 「伏射もしづらいんでした……弱点だらけですねさぁ……これでも貴方は自分が素晴らしい銃と言えますか……?」 それはただ凹んでいるだけです、見下ろしながらもリンシードの言葉は容赦ない。 (「今なら」) 好機と恵梨香は再び魔法を放つ。 放たれた魔法は渦を描く様に四属性を収束させて迫り、直撃した紳士は直撃して地面を転がる。 あの堅牢な防御力が嘘の様に失われていた。 「ふーん、よく見たら龍治の方が大きくて立派じゃん! しょぼいな!」 仰向けに倒れた敵を見下ろし、木蓮が罵るのだが、何故か後ろにいる龍治の表情が崩れた。 「お、お前は一体何を言って……」 殆ど接射といっていい距離でトリガーを引く木蓮だが、その間際にツンツンと頭部を突っついている。 つまりそこの銃に関していっているわけだ、何をどう勘違いしたのかは分からないが。 一瞬、仲間の視線が自分に突き刺さった思いをする龍治ではあったが、いつもの冷静な表情に戻す。 「……うむ、銃は、そうだな」 銃は。 その『は』がつく理由はなんなのだろうか。 「どうしてその様な仕様になったと言わざるを得んな」 龍治は最後の気力を振り絞り、立ち上がる英国小銃へ淡々と語り始める。 先程の発言をごまかすのではなく、純にあの試射で感じたものを確かめるためだ。 「今の得物こそ三高平で製造した最新型だが、それまでは里で使われていた代々伝わる銃を使っていた」 まだ、まだ戦える。 言葉が聞こえているのかどうかは分からない、しかし音源は分かる。 彼に向けて脱落したマガジンを拾い上げると、崩れたフォームでマガジンを投げつける。 「マガジンにちゃんと名前書いた? みんなが落とすと、落とした時に誰のだか判らないと困るから」 リィフィがその攻撃すら否定しつつ、一足飛びで側をすり抜け、攻撃を重ねる。 悲しいか、攻撃は龍治にあたるもののろくなダメージではない。 「……あれも現代では一般的に扱えぬものではあるが、それでも当時は数多の戦場で活躍していた」 長篠の戦いの鉄砲は有名な話だ。 三段打ちの構えをとり、再装填の隙を潰す。 長所を活かし、短所を埋めるいい例である。 「どれだけ高性能でも、戦場で使えぬ物に意味はない。……何故生まれてきたのだ、お前は」 イギリスの兵士達の寵愛を受けんが為に生まれた英国小銃、だが、彼の体の大半を占めていたのは意地だろう。 その意地は実を結ぶことなく終わりを迎える、迫る彩歌のオーラの矢と龍治の弾丸に動けずにいた。 神秘の力を喪失した英国紳士は霧散し、乾いた音を立て元となったライフルが地面に転がるのであった。 (「ブルパップが好きなのも、硬くて大きくて重いのが好きなのも、低コストで量産に向く合理性が好きなのも、嘘じゃありません。だが貴公は不器用に過ぎた」) 人はそれをロマンという。 鳩目はこの戦いの間、技を使わず、その銃の性能だけで戦っていた。 勿論、力は弱かったことだろう。それでもゲテモノとなった相棒はよく働いてくれた。 外部動力で安定して連射させるシュレーディンガーは、代償としてとんでもなく重い。 ボルトアクションの拳銃を基にされたマクスウェルも、長くなり拳銃の領域を超えかけている。 「自前のこれも見てのとおりゲテものですが、今後改造する際には、貴公のようにならぬよう気をつけますよ。愛しきクソ銃」 本体とマガジンを埋め、空薬莢をぶら下げた墓標が森の中に生まれる。 こうして悲しい銃の事件は幕を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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