● 指揮者とオーケストラ シン、と静まり返った音楽堂。灯りの消えたホールに、それらは突然現れた。ぱっ、とステージライトが点灯し、さらにスポットライトがステージ中央を照らす。 始めは何もいなかった。しかしすぐに、まるで浮き出す様にしてスポットライトの真下に燕尾服を纏った初老の男性の姿が現れる。深々と一礼し、顔を上げた。その目は真っ赤に染まっていて、黒目も白目も存在しない。 『………』 無言のまま、突き上げる様にして腕を振り上げた。その手に握られている細い棒は、指揮棒(タクト)と呼ばれるものだろう。タクトを握った手を振り上げたまま、しばしの静寂。 ゆっくりと、タクトを揺らす様に動かし始めると、それに合わせてどこからかヴァイオリンの音響きはじめた。 いつからそこにいたのだろうか。ステージの端には、いつの間にか燕尾服を纏った若い男性が立っている。 タクトは更に宙を舞う。白い軌跡を描き、空中を泳ぐ。ヴァイオリンの音に次いで、今度はトランペットの音も。金色のトランペットを抱えた小太りの男がヴァイオリンよりさらに奥に立っていた。 『……っ』 タクトの速度が緩やかに。ヴァイオリンより外側へ、次いでヴァイオリンとは逆側へと差し向けられた。ポロン、とハープの音色。それからチェロの音が演奏に加わる。 ヴァイオリン、トランペット、ハープ、チェロ。そして指揮者。真夜中の演奏会は続く。指揮者の動きが早くなる。音が、リズムが激しくなっていく。 だけど、足りない。たった4つの楽器では、オーケストラは成立しない。 だからこそ、指揮者は更に激しく演奏をするのだ。 ふらり、とホールのドアが開いた。虚ろな目をした男が1人。手にしているのはサックスだ。 さらに1人。2人、と増えていく人々。 彼らの演奏は、街中のあちこち、特に音楽に携わるものの耳に届き、音楽堂へと集結させる。 『………………………。ふっ』 オエーケストラの完成を想像し、指揮者は小さく微笑んだ。 ● 幻想楽団 「E・フォース(コンダクター)とその楽団達が今回の相手。音楽堂に陣取って、街の人間を音で呼び集めているみたい」 目的は、楽団の結成、完成であろうか。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言葉を続ける。 「コンダクターの指揮を受けると、体に大きな負担がかかる。衰弱、消耗して最悪死に至る事も」 そうなってからでは遅いのだ。そのためには、早い段階で楽団の結成を止め、コンダクターを倒してしまう必要がある。 「コンダクターの指揮能力は、広域に及ぶ。楽団への指示、遠距離攻撃の弾道の指揮、対象の体の自由を奪う事もできるみたい」 本来は、演奏の指揮を行うのがコンダクターの役割だが、今回の相手は少々違う。指揮できるものなら、なんでも指揮して意のままに操作する。 そういう特性を持った相手なのだ。 「それから他にE・フォース(ヴァイオリン)(トランペット)(チェロ)なども存在しているわ。それら3体は、音に寄る遠距離攻撃を得意としているみたい」 コンダクターの指揮により、その精度、連携は極限まで高められるだろう。 連携攻撃の厄介さは、リベリスタ達もよく知る所である。そんな中にあって(ハープ)だけが他と少々赴きが異なる。 「ハープの能力は、回復と量産。ヴァイオリン、トランペット、チェロの3体を複製し、新たなE・フォースを誕生させることが出来る」 ハープを倒すか、コンダクターを討伐し指揮系統を断絶するかしない限り、楽団の演奏と、ハープに依る回復、増員は止まらない。 街の住人も、続々と音楽堂へ向かって来ている。 「音楽会は真夜中にするものではないの。被害が拡大しないうちに、止めてきて」 そう言って、イヴは仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月30日(土)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真夜中の音楽堂 指揮者のタクトが宙を泳ぐ。燕尾服を身に纏った初老の男が、跳ねるように指揮をする。それに合わせ、音が響く。重なり、躍動し、そして収束する無数の音。目に見えないその音を、指揮者は捉え、1本の糸に紡ぐのだ。 だが、まだ足りない。 ヴァイオリンが、トランペットが、チェロが、ハープが。 もっと必要だ。楽団には程遠い。そう思うからこそ、指揮者はタクトを躍らせる。彼の束ねたメロディーで、もっとこの音楽堂に人を集める為に。 しかし……。 音楽堂にやって来たのは、8人の男女、アーク所属のリベリスタ達のみであった。 ●コンダクター 「無差別に人を巻き込んで不幸にするなんて音楽に対する冒涜でしょう。その演奏止めてもらいますね」 防音扉を閉め、それを鉄の棒で開かないよう固定する。演奏を続ける楽団相手にそう宣告したのは雪白 桐(BNE000185)だ。彼に並んで7人、同様にリベリスタ達がホールへ足を踏み入れる。 「この世界という舞台から、とっととご退場願いましょう」 マスケット銃を肩に乗せ『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は言う。音響に拘り抜いたホールに、彼女の凛とした声が響き渡る。 チラ、とコンダクターは横目でリベリスタ達を見やるが、しかし指揮を止める気配はない。そして、指揮者が指揮を止めない限り、楽団もまた演奏を継続し続ける。 「オーケストラは好きです。されどそんな悠長なことは言ってられないみたいですね……」 困りました、とそう呟いた『紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)。彼女を中心に、周囲の空気がピンと張りつめた。外と中を隔てる不可視の壁。結界を展開したのだ。 「これでこのステージには一般人はそうそう近づけないだろう」 す、っと『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276) は銀色のタクトを振りあげる。指揮者には指揮者。音には音、曲には曲だ。瞳を閉じ、意識を集中させる。 攻撃、回復、どちらにも対応できるようにセッツァーは戦況を見定める。 「もしも誰も犠牲者が出なかったら、こんな真夜中の夢も、悪くないんじゃないかなって思うけどね……」 そう呟いて『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は目を閉じた。意識を集中。自分を中心に、音楽ホール全体を包み込み、隔離するイメージ。 陣地作成。特定の範囲内を、外界と切り離す能力。コンダクターが呼び寄せている一般人達の侵入を、これで阻む事が出来る。 ホールを覆った異変に気付いたのだろう。コンダクターの持つタクトが鋭く振り抜かれる。それに呼応するように楽団の演奏が激しくなった。 音の波がホールを暴れる。椅子を撃ち抜き、音の弾丸がとらへと襲いかかった。 「神秘は秘匿しないといけないのに、一般の方も巻き込んで操ろうとするとかを、困りますよう。やーん」 吹き抜ける風。舞い散る羽が、音に撃ち抜か千々に散る。『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)がとらの身体を抱き上げ、天井付近まで急上昇。 音の弾丸を潜り抜けるようにして水無瀬・佳恋(BNE003740)が飛び出した。長い刀を肩に背負うように構え、椅子を飛び越え弾丸のように駆ける。 「早々に倒して平穏を取り戻しましょう」 「危険とまではいかないけど、BS等が厄介な相手だわ。気をつけていきましょう」 佳恋だけではない。ジークリンデ・グートシュタイン(BNE004698)も槍を片手に続く。長い金髪が音波に震える。観客のままでは、指揮者と楽団は討伐できない。ましてや相手は遠距離攻撃を指揮し、操る能力を持っている。 敵地の真っただ中に、身1つで攻め込むのが最善手、と言えるだろう。 音の弾丸がファンファーレの代わり。戦いの幕は切って落とされた。 ハープが奏でられる。波のような滑らかな音が響く。同時に、楽団員が1人増えた。音の厚みが増す。指揮したのはコンダクターだ。楽団員たちの奏でる音の波が、突出したジークリンドと佳恋を襲う。 左右に大きく展開し、貫通攻撃の警戒をしていた2人。だが、衝撃波に打たれ、2人共客席に叩きつけられた。コンダクターの指揮によるものか、狙いは正確。 刀と槍とで直撃はガードしたものの、動きが止まる。動きが止まってしまえば、手数の違いが如実に現れる。いい的だ。 だが……。 「回復も奏者を増やされるのも厄介です」 狙いが正確だからこそ生じた僅かな隙間。そこを潜り抜けるのは、桐である。巨大な剣を大上段に構え、客席を足場に急接近。 『……ぬ!?』 コンダクターの指揮が間に合わない。コンダクターがタクトを振り下ろすより早く、桐はハープへ跳びかかる。振り下ろされた剣が風を切り裂く。 刃がハープへ触れる直前、近くに居たヴァイオリン奏者がその身を間に割りこませた。ハープの代わりに切り裂かれるヴァイオリン。消失していく。 『……よくやった』 タクトを振りあげるコンダクター。周囲から伸びた気糸が、桐の身体を貫いた。血の飛沫が飛ぶ。 本来なら、このまま魅了し相手を操るスキルだが、桐の意識は途切れない。ジャガーノート。BSを無効にする。 更に剣を振ろうとする桐。だがしかし、次の瞬間大量の音の波が桐を襲い、その身を吹き飛ばす。 弾き飛ばされた桐を、シエルが空中でキャッチした。 「癒しの微風よ……」 柔らかな風が吹き抜ける。燐光を散らし、桐の身体を包み、癒す。暖かな光が、桐の体力を回復させた。地面に降りるシエルに向け、コンダクターがタクトを振り下ろした。 瞬間、渇いた銃声が1つ。 「ご機嫌よう、四重奏に指揮者さん……確かにその数で楽団とは呼べないわね。だからと言って、意思を無視した勧誘活動とは感心しないわね」 頬笑みと共にミュゼーヌは告げる。放たれた弾丸がまっすぐハープへ襲い掛かる。舌打ちを1つ、コンダクターのタクトが泳ぐ。弾丸は、ハープに当たるその直前で急停止。方向を変え、リベリスタ達の方へと飛んだ。 前線に出ていたジークリンドの頬を掠め、まっすぐ後ろへ。弾丸の先にはとらの姿がある。 「後衛への直接攻撃はブロックさせていただきますよ」 とらの前にイスタルテが飛び込む。弾丸をその身で受け止めた。肩を撃ち抜かれ、血が飛び散る。 「あ、うっ!?」 イスタルテの血が、とらの頬を赤く濡らした。直後、とらが目を見開く。 「陣地作成完了! 常時張るようにするね♪」 ぐい、と頬に付いた血をぬぐいとらは言う。一か所に纏まっていては、敵の攻撃の的になる。イスタルテととらは左右に展開し、距離を離した。 陣地作成により、音楽堂は外界と遮断されたことになる。これで、一般人の侵入を心配する必要はなくなった。荒れ狂う音の波や弾丸も、リベリスタ達以外を傷つけることはない。 ダメージを受けた端から、シエルの回復術で癒す。音の波と燐光が、薄暗いホールで吹き荒れる。音は反響し、光は飛び散る。ある種幻想的な光景に、セッツァーは目を細めた。 「この曲を奏でるには時間が必要だっ、すまないがよろしく頼むよっ」 魔力を練り上げ、意識を集中させるセッツァー。真黒いオーラが、彼の持つ銀のタクトに絡みついていく。 す、っとコンダクターの両手が上がる。ハープの音色に呼応し、新たな楽団員が生まれる。音の波が一際勢いを増した。指揮者の手が踊る、泳ぐ、優雅に激しく、楽団達の音を1つに束ねる。 『君達にも、届くだろうか……。素晴らしい音楽が』 叩きつけるようにタクトが振り降ろされる。 ドン、とホール全体が鳴動した。束ねられた音が解き放たれる。前線に飛び出していた佳恋とミュゼ―ヌを音の槍が撃ち抜いた。内臓を直接殴られたような衝撃。血を吐き倒れる2人。シエルとイスタルテが、即座に回復とBS回復を発動させた。ホール全体に眩い燐光が降り注ぐ。 「待たせたね。確実に当てられる状況だ」 音の槍の真っ正面。コンダクターに呼応するように、セッツァーがタクトを振り下ろす。彼の腕から血が溢れ、それは赤黒い鎖へと変化。鎖は数を増し、濁流となってホールを駆ける。 パキン、と硬質な音。鎖の一部が撃ち砕かれ音の槍がセッツァーに叩きつけられた。血を吐き、倒れるセッツァー。 しかし、鎖の濁流は止まらない。客席を砕き、ホールへと迫る。最前列に立っていたコンダクターと、その指揮下にある楽団員たちの半数近くをまとめて飲み込んだ。 ハープに鎖が届く直前、コンダクターは跳んだ。半ば鎖に飲み込まれながら、ハープを庇う。 澄んだハープの音色が耳朶を打つ。 黒い濁流の中から、コンダクター含め数体の楽団員が這い出る。鎖に巻き込まれたと同時、ハープの回復術を受けた者達だ。体力が尽きる事なく、なんとか命を繋ぎとめた。 ハープは無事だ。彼女さえ無事なら、楽団員はまた補充できる。そう思い、安堵の溜め息を零すコンダクター。視界の隅に、こちらへ飛び込んでくる影が2つ映る。 咄嗟にタクトを振りあげるコンダクター。だが、そのタクトは刀によって受け止められた。 「援助者や仲間なら兎も角、関係ない人の上に成り立つものを芸術とは言いません。オーケストラを称すること自体が全く以て侮辱です」 怒りの感情も顕わに、そう告げるのは佳恋であった。先ほどのダメージが尾を引いているのだろう。呼吸は荒く、口の端には血の痕が残る。 佳恋がコンダクターを止めているその隙に、ジークリンドの槍がハープを貫いた。ドス、という鈍い音。弦の切れる音。継いで、ハープがその場に倒れる音。 胸を槍に貫かれ、悲鳴1つあげることなくハープはその場に倒れ、消えていった。 「敵を駆逐する。基本的なリベリスタの任務だ」 表情を変えないままそう言い切る彼女の姿勢は、まさしく軍人特有のそれであった。 頭の中で音が響く。激しく奏でられる激情の戦慄。コンダクターの視界が赤く染まる。タクトを振りあげると共に、音の波が発生。佳恋とジークリンドはその場を跳び退り離脱。回避しきれず、音に打たれて客席に倒れる。 体勢を整えるべく、立ち上がり楽団員達へと向き直るコンダクターだが、そんな彼の真横を1発の弾丸がすり抜けていった。 『なっ……!?』 これ以上楽団員を失うわけにはいかない。慌ててタクトを躍らせ、弾丸の指揮権を捕まえる。姿勢を反転。客席のリベリスタへと弾丸を撃ち返す。 反転したコンダクターの視界に疾る銀色の一閃。円盤にも似たその形状。独特だが剣であろうか。弾丸を斬り捨て、桐がホールへ飛び込んだ。銃弾操作の為に、楽団員の指揮を怠った隙にを突かれた形になるだろうか。 してやられた、と悟る。瞬間、視界が黒銀に染まった。顔面に走る衝撃と激痛。 「さぁ、私の為に円舞曲の指揮を執りなさい……楽器は、この銃声よ!」 ミュゼ―ヌの放った回し蹴りがヒットする。大きくよろけるコンダクター。銃声が1つ。激痛。撃たれたのは肩だ。タクトを手放しはしない。しかし、振りあげる度に痛みが襲う。 歪む視界で、タクトを振るう。楽団員たちが音を奏で始める。音の奔流に嬲られながら、桐は剣を振り回す。血を流し、苦痛に顔を歪めながら、それでも剣を止めはしない。 コンダクターの伸ばした気糸が、ミュゼーヌを貫いた。意識が遠のく。魅了され、身体の指揮権を奪われるミュゼーヌ。構えたマスケット銃を桐に向ける。 「ちょっと待って下さい」 「止まって貰うわ」 ミュゼ―ヌにしがみつき、動きを封じる佳恋とジークリンド。コンダクターが舌打ちを漏らす。その間にも、桐によって次々と楽団員達が斬られていく。 「音楽は人を操る手段ではないですよ?」 血を流しながらそう告げる桐を、コンダクターは苦々しい顔で見上げていた。 「斃れることはできませぬ。癒しの微風よ……」 囁くようにシエルは言う。吹き抜ける微風が、傷を負った仲間を癒す。天井付近を飛びながら、ホール全体を見降ろしているシエルの目には、音楽堂の惨状がよく分かる。ボロボロの座席や壁、仲間達の流した血が床を汚している。 想いと想いがぶつかりあった証。それを思うと、判り合えないことが辛い。 「仲間を倒されない事を最優先、ですよ」 元気な声が響く。急速でホールへと飛んでいくイスタルテ。片手には光を宿している。ブレイクフィアー。魅了されたミュゼ―ヌの治療をするつもりだろう。コンダクターの指揮で、音の弾丸がイスタルテを襲う。 血飛沫を撒き散らしながらも、しかしイスタルテは動きを止めない。 「やーん!」 悲鳴と共に、叩きつけるようにミュゼーヌへと光を渡した。 ●終幕 必死にタクトを振るうコンダクターを見て、とらは言う。 「指揮者って、あれで結構体力勝負らしいよね」 そう問われたのはセッツァーだった。「えぇ、そうなんですよ」と苦笑いで返すセッツァー。先ほど受けたダメージはそのまま。口の端から血を流し、タクトを握る手は震えている。 真黒いオーラが銀のタクトに集中していく。 「チャオ☆ そして、アリーヴェデルチ!」 先に動いたのはとらだった。翼を広げ、空中へと舞い上がる。吹き荒れる魔風を束ね、ホールへと撃ち出す。嵐かと思うほどの暴風が、楽団員とコンダクターを嬲る。 巻き込まれないよう、仲間達が退去。ホールに残されたのは、初期段階と同様、楽団員たちだけだった。 「ワタシの声(うた)、どこまでも届けようっ!」 次いで、黒鎖の濁流が放たれる。血で作られた大量の鎖。コンダクターを、楽団員と飲み込んだ。最後に一度、タクトを振って、コンダクターの姿は消えた。 ホールに倒れ、身体も半ばほどが消えたコンダクター。両の手はすでになく、持ち主不在のタクトだけが転がっている。 そのタクトをそっと拾い上げ、セッツァーがコンダクターを見降ろした。 『私の想いは……届いただろうか?』 そう問いかけるコンダクター。既に頭部しか残っていない。残っている頭部さえ、光の飛沫と化して崩れていく。 「命を燃やし、ワタシは歌い続けよう」 セッツァーは言う。彼の言葉を聞いて、コンダクターはふっと笑う。 そして指揮者は、消え去った。 「いつか本物さんの楽団の音楽を、生で聴いてみたいね」 とらの声が、ホールに響く。楽団はいない。音を奏でる者は、誰もいない。 いつかまた、本物のオーケストラを聴きに来よう。その想いを胸に秘め、リベリスタ達は音楽堂を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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