●使われぬ公衆電話は何を思う 辺鄙な場所に置かれた公衆電話ボックス。辺りから聞こえてくるのは、土手の下を流れる川の水が流れる音くらいのものだろう。 ただでさえ使い勝手の悪い場所に置かれたこの電話。その上で、近年、携帯電話の普及率がほぼ、1人に1台となった状況では、ここに置かれた電話を使う者はいない。 どうやら、関係者すらもここに電話があることを忘れているらしい。他の場所の公衆電話は次々に撤去が進んでいるというのに、この電話はいつまでもこの場所に置かれたままだ。 この公衆電話が意志を持たぬままだったならば、それでも良かったのかもしれない。しかし、その電話はエリューションとなることで目覚めてしまった。 「ワタシハ、イッタイ、何ナノカ」 人通りこそわずかにだがあるこの場所で、素通りされる自分自身にふと、『彼』は疑問を抱く。誰にも必要とされない自分の存在意義に。 時折、近くを通り過ぎる人は、片手に持った携帯電話で楽しそうに会話している。それを見ると余計、『彼』は自身の存在が何なのかを考えてしまう。 「誰カ、私ヲ……」 使われる為に生み出されたはずの公衆電話は、自分を使ってくれる人を求めてふわりと宙に浮かび、ボックスから抜け出るように動き始めたのである……。 ●捨て置かれた旧世代の利器 プルルル、プルルル。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、鳴ったアクセス・ファンタズムを手に取り、ぽちりとボタンを押して会話を始める。しかしながら、その応対は短く、すぐに通話を終えた。 そこに集まるリベリスタ達の姿を確認し、イヴは依頼だよと話を切り出す。 「最近、公衆電話って使ってる?」 首を傾げるイヴの言葉に、ほぼ『使っていない』という返答がリベリスタ達から返ってくる。現代社会においては、メールやSNSなどと通信手段が発達している為、敢えて公衆電話をとは思わないのだろう。 「そんな公衆電話が、E・ゴーレムになったの」 イヴの説明によると、辺鄙な場所に設置された公衆電話がエリューション化してしまったようだ。フェーズは2。E・ゴーレムとなった公衆電話は、自身を使ってくれる者を求めて動き始める。動く公衆電話は、人々の注目を浴びる。それは、『彼』の望む用途とは異なる目的で使われることとなるだろう。公衆電話はやがて、自身の存在意義とのズレに悩み、人々に害なす可能性もある。 「相手はエリューションだから、放置することはできない。今のうちに倒しておきたい」 公衆電話は受話器による殴打や、本体での体当たりを繰り出す。緊急通報ボタンで仲間……自身と同じく使われることがなくなった公衆電話を呼び出してくる。こちらもE・ゴーレムでフェーズは1。最初は2体のみだが、戦闘が長引けばさらに多くの仲間を呼び出してくることだろう。 また、この公衆電話は、どこかへとダイヤルすることで様々な神秘系スキルを使うこともできる。これらの攻撃は実に厄介ではあるのだが。 「……電話線」 イヴがぼそりと告げる。電話線が切れるとこの電話機は通話ができなくなってしまう。それに伴い、神秘攻撃が不可になってしまうようだが、電話線はエリューション化の影響からなのか、ものすごく硬くなっている。場合によっては、本体を叩き壊すのに専念する方がいいかもしれない。 「もしかしたら、もう役目を終えるべきもしれない電話さん達を、皆の手で休ませてあげて」 リベリスタ達は公衆電話に様々な思いを抱きながら、依頼へと当たっていくのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月27日(水)22:15 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●久しぶりの通話 とても静かな川沿いの高台。 今日も件の電話ボックスの周囲には人通りはほとんどない。ごくたまに通りがかる人ですら、その通りに電話ボックスがあることすら忘れられたかのように、通り過ぎていく。 ハァ……。 どこからともなく聞こえる溜息。それがまさか、公衆電話から聞こえてくるとは、ごく普通の通行人は思うまい。 しかし、そこへ近づいてくる人影。公衆電話は久しぶりの利用者に驚いていた。しかも、集団で自分を取り囲むように集まる利用者の姿に、思わず身震いしてしまう。こんなこと、未だかつてあっただろうか。電話機は喜びで思わず機体を少しだけ浮かばせた。 そのうちの1人が、ボックスへと入ってくる。 「あのカード、まだ度数残ってたかな」 久々に、自分の役目が果たせるだろうか。声をちゃんと通話主へと伝えられるといいが。機体を元の位置へと着地させた電話機はふとそんなことを思っていた。 一方、電話ボックスに集まるリベリスタ達。 「わ~、電話だラッキー♪」 唯一の女性参加者、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が電話ボックスを見つけて真っ先に駆けつけてくる。 (公衆電話か……。今はみんな携帯電話持ってるもんね。ボクもスマフォ持ってるし) 皆がボックスの周辺へと集まり、『』離宮院 三郎太(BNE003381)が強結界を張ったのを確認した、『ロストワン』常盤・青(BNE004763)が1人、ボックスへと入っていく。 (でも、小さい頃におばあちゃんにテレフォンカードを貰った事があって、公衆電話からおばあちゃんに電話をかける事がマイブームだった事もあったな……) 彼が取り出す、少し使い古したカード。絵柄が少しだけ掠れていたが、0の表記の左側に穴はない。まだ度数が残っているカードを、三郎太はゆっくりと電話機へ投入した。 トルルル……、トゥルルル……。 「……おばあちゃん? 青だよ。元気?」 公衆電話で話す青を、ボックスの外で待つメンバー達。『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)は電話ボックスを上から下まで眺めて呟く。 「適応能力が長けている方が生き残れるっていうのは案外嘘では無いんだなぁ」 「だが、公衆電話って無いと困るんだよな」 電話ってのは此方から彼方への絆の担い手であり、そして時には命を救う事もある。そこにあると言うだけで安心を担う一面もあると、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は語る。 「そんな意味ではユニバーサルサービス料とか正直、もっと取ってくれても良いとは思うんだよなぁ」 通話代を上げてでも公衆電話は撤去しないで欲しいと、烏は語る。 「まあ、それはそれとしてね。災害時には必要とされるし、病院は公衆電話だったはず」 それを聞いた『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)も、公衆電話について思うことを話す。災害時は携帯電話が繋がりにくくなる。また、携帯電話やスマホを忘れたとかバッテリー切れ等、無いと困る時もあるのだと。 しかしながら、電話会社とて経営の都合としては採算の合わない公衆電話は撤去せざるを得ない。採算が合わないからだろう。 俊介も自身の考えを語る。 「……公衆電話を使うっていう人はまだいるし、けして公衆電話が悪い訳でも携帯が悪い訳でも時代が悪い訳でも無いけど」 俊介はそこまで話して、周囲を見回す。 「ただ……立地はちょっと悪すぎるわ」 俊介の言う通り、この川沿いの道はさしたる建物や住居のない、辺鄙な場所だ。川のせせらぎが聞こえてくるほどに辺りは静かである。 「公衆電話ってホラー話でもよくこういう場所のものだし。それが尾を引いてか俺だって使いたくないわ、特に夜!」 捲し立てるように語る俊介。確かに夜ともなると、不気味な雰囲気すら漂う場所だ。だからというわけでもないのだが、現在、太陽の照っている昼間にこの作戦は実行されている。 彼らは状況の推移を見守りながらも、いつでも戦うことができるよう、準備を、構えを怠らない。 「ボクの事は心配しなくてもいいから、身体を大事にしてね。また掛けるよ」 青は自身の近況を伝えつつ久しぶりの祖母との会話のひと時を楽しんでいたが、カードの残数が切れかけているのに気づいた彼は話を止め、そっと受話器を下ろした。 ●求められる役割とは 公衆電話は久々の役割を果たしホッと一息つく。 しかしながら、人間達は依然としてボックスを取り囲んだままだ。 「ハァ~イ☆ 私とらちゃん、お話したいな♪」 扉を開いたままにして、ボックスへと入ってきたとらと三郎太が話しかけてくる。 「……!」 通話をするでもなく、なぜか電話である自分に話しかけてくる人間達に、公衆電話は驚きを隠せないのだった。 灰色の公衆電話は、黙したままで入ってきた人間が何をするのかを待っている。 (さてと……、出来れば戦闘することなく穏便に済ませられれば良いのですが……) 三郎太は内心で考えながら、とらと共にE・ゴーレムと化した公衆電話の説得へと当たる。 「突然ですみませんが、聞いてください」 三郎太は前置きを置いて丁寧に自分達の主張を始める。 今はもう携帯電話の時代で、公衆電話自体使用されることが少なくなっていること、他の公衆電話もその役目を終えていっている事を説明し始めた。 「人間の勝手かもしれないが被害者を生み出す訳にもいかない。納得して大人しく撤去されればそれもいいのだが」 疾風はボックスの外からその状況を見守る。仲間の説得が成功するよう祈るばかりだ。 さて、公衆電話の説得を行う2人。 「でも災害時や公共機関の施設内など、数は少なくなっても設置され確実に人々に使われているものもあります」 「時代は流れても非常時は携帯って役に立たないから、公衆電話もあると安心なんだよ☆」 公衆電話は言葉を返すことはなく、ただ、その身を小さく震わせている。 「ねえ、動けるようになって、変だと思わない?」 とらの言葉に、そう言えばと公衆電話は改めて自身の機体をゴトリと動かす。E・ゴーレムとアーティファクトの境は曖昧だと、以前イヴから聞いた話を彼女は持ち出す。アーティファクトもフェイト持ちの覚醒者が所持してれば崩界の要因にはならないのだと。 「可能であればアークに身を寄せてみませんか」 さらに、三郎太が合いの手を入れる。それは、リベリスタ達の提示した、最良の条件。 「公衆電話さんさえ良かったら、一緒に三高平に来ない? そしたら大切に使わせてもらうよ♪」 とらはそっと、公衆電話へと手を差し伸べる。 しかしながら、2人の説得は公衆電話を困惑させた。 「ワタシハ……アアアアッ!」 突如、公衆電話の叫びに応じて現れる黄緑色の電話。電話線をぶら下げつつも、宙を浮遊してくる。 気持ちが高ぶり錯乱する灰色の公衆電話。動き出した彼を抑えるべく、リベリスタ達はダメだったかと残念がる。 「少々やるせないが……変身!」 疾風の体が光り、幻視纏いによって特撮ヒーローのような外見へと変貌する。他のメンバー達もボックスから少し離れて臨戦態勢に入っていったのだった。 ●困惑が感謝へと変わるとき その気持ちの荒ぶるままに動き始める公衆電話。緑色の機体は目の前のリベリスタ目掛けて体当たりを仕掛け、受話器を振り回す。リベリスタ達はそれらを避け、あるいは食らいながらも、攻撃を灰色の機体へと繰り出していく。 灰色の機体は無茶苦茶な動きをしつつ、ダイヤルをし始める。繋がる天気予報が告げたのは……曇り。前線でその機体をブロックしていた疾風に強烈な雷を落とす。彼はそのショックと痛みに耐えながらも、手甲から伸びる刀身を突き入れる。 一行の攻撃はその動きを止めるべく、灰色の機体へと集まる。 (叶うならば破壊せずに済めば良いんだがね) 烏はそう願うが、相手はエリューションだ。手加減をすればこちらがやられかねない。 そこで、灰色の機体のボタンが1人でに押されて行く。それは、時報の番号だ。 ピッ、ピッ、ピッ、ポーン。 一際高い音が鳴る。それと同時に烏の耳にだけ何か低い声が聞こえ、全身にまとわりつくような何かが取り付く。 烏はそれにも構わず、『告死の弾丸』を模して改造した弾丸を灰色へと撃ち込む。その狙いは電話線だったが、その軌道から灰色はわずかにずれ、少々強化されたプラスティックの表面に少しだけヒビが入った。 「アアアッ!」 未だかつて受けたことのない痛み。痛覚を持ちえてしまった彼には、耐え難いものがあるのだろうか。烏は狙いが逸れたことに、少々苦々しい顔をする。 烏同様、リベリスタ数人の狙いは電話線へと集まっている。灰色の機体がダイヤルすることで発生する攻撃。今度は再び天気予報だ。予報は、雨。酸性雨がリベリスタ達の周囲にのみ降り注ぎ、その体を弱体化させていく。灰色の電話が行うこの神秘攻撃を止めるべく、一行は電話線へと集中させていたのだ。 全身から閃光を放つ俊介が灰色の機体へと呼びかける。 「言葉が通じるか知らんが落ち着け電話!! おまえは電話であって人のために働くものであって、けして傷つけるものでは無いだろ!」 その呼びかけが、彼を一層困惑させた。物言わぬはずの電話機へ、なぜこの人間達は話しかけているのかと。それは電話機にとって理解の範疇にはないことなのだ。 電話線を狙う三郎太。已む無く機体へと攻撃を仕掛ける仲間のいる中、彼はなんとか電話線を切ろうと試みる。 「集中……集中するんだっ……。電話線だけを狙い打つ……ボクならできるっ!!」 極限まで集中力を高めた三郎太は、全身から伸びる気糸で電話線の最も弱い部分を気糸で狙い撃とうとする。しかしながら、気糸は表面を傷つけるも、貫通はかなわない。彼はならばと、再び攻撃を試みていった。 青は飛んできた緑色の電話を巻き込みながら、ステップを踏みつつ電話達を次々に切り裂く。緑色の機体のプラスティックが壊れて穴が開き、中の基盤が見えてしまっていた。 受話器や機体に穴を開けようとも、緑色の電話の突撃や打撃は止まらず、前衛の疾風や青は、それらの受け続けている。俊介が彼らの傷を癒すべく、聖神の息吹で回復を試みていた。 灰色の機体も、一行からの攻撃を受けてボロボロと崩れ出していた。時折ダイヤルすることで現れる白い車が振りまくことでその傷が塞がるも、一行の攻撃は再度同じ場所に違う形の傷をつける。 「ねえ、壊れちゃったら、もうお話出来なくなるよ?」 とらは灰色の機体へと呼びかける。続く攻撃に、エリューションの力で強化された自身の機体も所々に穴が開いていた。灰色の機体はさらに困惑し、自身に取り付けられた緊急ボタンを押す。すると、どこからともなく新たなる緑色の機体が姿を現した。新手にも、とらは構うことなく、灰色の機体へと気糸を飛ばして絡めとろうとする。 烏、疾風は電話線を狙い、攻撃を繰り出し続けていた。気づけば、硬い電話線も、かなり痛んでいる。これなら……。 「本体にできる限り損傷を与え無ければきっと、何かしら役目を与える事も可能なはずと信じていますっ」 三郎太が気糸を放出する。気糸の1本がついに電話線を貫通する! ……だが、それまでだった。電話線の切断には至らない。電話機は困惑しながらも、ダイヤルをする。今度は晴れの天気予報だ。頭上から発せられる強烈な光がリベリスタ達を焼き、体力を削いでいく。 どうしたらいいのか分からないと浮遊する電話機の動きは落ち着きがない。まるで、親の手から離れたことに気づいた子供のようだ。 とらがその隙に、気糸でその体を再度絡め取る。必死にその糸から逃れようともがき始める。烏の飛ばす銃弾、そして、青の飛ばす黒いオーラが電話機の機体を壊さんと包み込む。 「使われないのも寂しいのもきっとどうにかするから、まだ君は必要とされているんだ本当だよ」 続く俊介の言葉に電話機の動きが止まり、地面へ落下していく。 「ヒツヨ、ウ……」 言葉をなくして、ゴトリと音を立てて地面へと落ちた電話機。外装のプラスティックがやや壊れ、ごろりと地面に転がる。 「さて、後は……」 疾風が振り向く先には、緑色の電話機が3体。その動きを止めるべく、彼は雷撃を伴う演舞を叩き込んでいく。リベリスタ達も、エリューションを止めるべくその機体へと攻撃を叩き込んでいった。 ●電話機の行く末 リベリスタ達は多少の怪我を追いながらも、全てのE・ゴーレムの殲滅に成功した。 川沿いの道へと転がる4体の公衆電話。緑色の機体ははほとんどが原型を留めていない状況だったが、灰色の機体は、電話線を狙っていたメンバーがいたこともあり、所々に穴は開いていたものの、基盤はほぼ無事なようだった。 武器をアクセス・ファンタズムへと戻したリベリスタ達は、そんな電話をしばらく眺めていた。 「この電話、どうしようっか」 とらは壊れた電話機を見て、仲間達へと呼びかける。もう、この機体が声を発することはない。平らな場所には立つこともできないほど外装に穴が開き、受話器も基盤が剥き出しになっている。このままでは使うことが難しい状態だ。 「修理を依頼しよう、直りさえすれば、駅とかでも今でも使う人はいるだろう」 俊介はそんな提案を皆へと持ちかける。残った電話ボックスも回収し、もっと人の多い街へと運ぼうと言い出していた。疾風は異論はないと頷く。 烏はその電話ボックスを眺める。ふと、夏場の暑い時期に電話ボックスで電話し、蒸し風呂のような暑さだったことを思い出す。 (あれはヘタしたら死ぬな、うん) 彼はそんな昔の思い出に浸りつつ、タバコをふかす。 さて、壊れた電話機へ、今度は青が呼びかける。 「直ったら、三高平に来ない?」 このまま廃棄されるくらいなら。もちろん電話機からは返事はないが、皆、それに同意していたようだ。 「大丈夫です、きっとあるはずです。キミを必要とする場所は」 自身の存在意義。模索し、使われたい、道具としての使命を全うしたいと思われる電話機の意志を尊重したいと三郎太は考えていたのだ。 新たなる地で使われる電話機。そこで再び活躍できるならば、彼も本望だろう。リベリスタ達はそう考えるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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