●そろそろおこたが欲しい時期 「隊長、戦線は崩壊寸前……いや、既に崩壊しています。撤退すべきでは」 「分かっている。だがここを動くわけにはいかん」 「しかし……」 「黙れ! 我々のうしろには一般人がいるのだと思え。今の我々と同じめにあえばどうなるか……お前にも想像がつくだろう!」 「くっ……」 若い兵士は顔を伏せた。 「もはや我々はエリューションに呑まれつつあります。既に術中にかかり、抜け出そうという気持ちすらわかない……そんな絶望的な状況なのです」 「分かっている。分かっているが……!」 隊長は苦しげに呻くと、手元のミカンをゆっくりと剥き始めた。 彼にきゅうすでお茶をいれてやる隊員。 「分かっていても出られないんだなあ」 「今日は冷えますからなあ」 二人はそう呟くと、こたつ布団にもぞもぞと両手を入れた。 そう、これこそが恐ろしきエリューションの技! 『エリューション・こたつ』の魔力なのである! ●いっそ一年中出しとけばいいのでは? 「……ほあー」 アイワ ナビ子(nBNE000228)がこたつから顔だけ出していた。 目を細くしてほんわか微笑む以外とくにしていることはない。 「……はーあ」 そのナビ子が説明するにゃ、Eコタツという恐ろしきエリューションゴーレムが住宅街の空き地に出現したらしい。 空き地のど真ん中に十人くらいは余裕で入れそうなこたつがどんと出現している有様である。 もし入ってしまおうものならこたつの魔力にやられ、もういっそここで暮らしてもいいんじゃねえのと思えてきてしまうのだ! このままでは学校に行かない子供や会社に行かない社会人だらけになってしまう! そうなるまえに、やつを倒してくれ! 「……んふー」 頼んだぞ、リベリスタたちよ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月11日(水)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●外国人がビビる日本三大家具のひとつそれがKOTATU! うららかな昼。 お日様の光とはうらはらに、冷たい空気が頬をさす。 どてら着込んだ『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)は、ほはあと白い息をのぼらせた。 「おこた、あったかいのです……」 膝はしっかりこたつ布団の内側に入っていて、ついでに両手もインしていた。 暫くごそごそとやってから、剥いたミカンを取り出してみる。 こたつ内に残る臭気はミカンの皮で軽減できるという言い伝えがあって、そこに由来している……わけではない。こたつの外に手を出すと寒いからだ。 「みかんおいしいのです……」 一個分のミカンをまるっと口に頬張り、もーぐもーぐするイーリス。 ごっくんして至福の顔を晒していた……が、そこではたと目をかっぴらいた。 「忘れていたのです! こたつたおすのです! わたし! おこです!」 なんとーとか言いながらこたつをひっくり返し、イーリストマホッーゥクとかいいながら本体をバラバラにし、世界中のみんなかわたしに元気をわけるのですと言って両手を掲げ、巨大なイーリス玉を掲げて宇宙へ飛び立ち、貴様が隠れ続けるならこの惑星ごと破壊するまでだとか言って地球を木っ端みじんに破壊したあとご覧なさいミーカンさんオモモチさん綺麗な花火ですよと言っ――た、ころで目が覚めた。 「はっ、夢だったのです!」 「あ、いいよまだ寝てて」 イーリスが顔を上げると、『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)がしゃがみ姿勢のまま振り返った。 手を振りながら言う。 「俺似たような経験山ほどあるから知ってるんだ。みんなコタツにはいってのんびりするプレ書いてるんだろ」 「な、なのです」 「みなまでいうな。俺、終わるまで画面端で溜めてるから」 郷はそう言い切ると、再びための姿勢に戻ったのだった。 寝ぼけたイーリスがツイッターに『!!』とか『なんと!』とか打ち込んでいるその間、『くまびすはさぽけいっ!!』テテロ ミミルノ(BNE003881)と『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)は向かい合った状態で鍋を挟んでいた。 「おこたで食べるみかんっておいしいよね」 「うんうん、カレーは最高だよね」 「あとおもちもいい」 「うんうんカレー食べてごろごろしたーい」 ひとっつも会話が噛み合っていないが、テンションだけは全力で噛み合っていた。 鍋のなかでお玉を回す小梢。 「もちろんね、カレーは煮込んでから一晩寝かせてあるんだよー。具材もよく煮込んだし、タマネギなんてとろっとろ。肉はあえてのポーク。そこへ加えるまさかの鶏唐揚げ。この時点でもう最強なんだけど、ここにほうれん草とソーセージ。お好みでチーズも加えちゃうよー。うおーぱねえぜ。とんでもないバケモノを生み出してしまったぜ。しめしめ……っと、あ、ご飯の量このくらいでいいですか?」 「わーっ、ありがとお! おもち入れていい?」 「しゃぶしゃぶ用のスライスもちが偶然ここに」 「やったー!」 ほかほかのカレーライス。を前にスプーンを掲げ、スタンドにスマホを立てる。 アンテナの入りが悪いのかワンセグはうまくうつらない。仕方ないからと小梢がスマホを操作して動画サイトにアクセスしてくれた。 「なんか面白い動画ないかなーっと……んー……ん?」 目を細める小梢。 ……その一方、というか対角線上。 『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)と『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が微妙な緊張感をもって向かい合っていた。 と言ってもキンバレイはノートパソコン開いてこたつに突っ伏しているだけで、手は依然としてこたつの中にインされていた。その様子をシィンが険しい表情で観察し続けるという状態である。 小声というかほぼ脳内ボイスで呟くシィン。 「キンバレイさんは自分(シィン)の社会的フェイトを削ると言っていましたが、そうはさせません。妙な動きをしたら全力で阻止するんですから」 台に両肘を突き、上半身を突き出すように身構える。 「きっと怪盗スキルを使って自分(シィン)に変身して、服を脱ぎ出したりするに違いないです。もしそうなったら角度が見づらいとかフィクション性を重視したいとか理由をつけて髪や肌の色を変えさせてやります。その調子でどんどん別人みたいにすればきっと安泰です。ふふふ……」 これは勝ったな、という顔でニヤリと笑うシィン。 その対角線上。 小梢のスマホにはM字開脚したシィンの写真が動画表示されていた。変な合成音声で喋り始める。口に小分けされたゴム的な何かをパッケージングされた状態で咥えていたから差し込み音声だと思われる。 『しぃちゃんはぁ、みせたがりの淫乱ピンクなのです。下のURLをクリックしてくれたらもっと沢山見せちゃいます!』 シィン・エル・バーストブレイク炸裂。 「ていやー!」 「うわああああああああ!」 砕け散るスマホ。燃え尽きるハードケース。飛び散るカレー。 絶叫する小梢をよそに、シィンは頭を抱えてこたつから立ち上がった。 「なんで! いつのまにこんなものを……っは、これは!」 即座にエネミースキャン発動。キンバレイの非戦スキルがESPと電子の妖精であることが発覚。……電子の妖精であることが発覚! 「手を触れずにこんな動画を作成していたんですか!? そんな! コードなんてどこにもつながってないのに……!」 にたぁっと笑うキンバレイ。 「最近はどこの家庭にも無線LANがあって便利ですよね。総当たりかければ多少のパスワードくらいはくぐれますし?」 回り込んで画面を覗く。すると右下に『応仁のLAN』がオンライン表示になっていた。 ごくりと息を呑むシィン。 「と、投稿したんですか……?」 「いいえ。これは副産物です。実際はこの画像を添付したメールをアトランダムに五万通ほどばらまいたんです。『今すぐお会いしてくれるなら4538万お支払いします』と書いて」 「悪質すぎるう!」 「大丈夫ですよ、目には黒い線をいれました」 「細っ! そしてズレてますよ! コラ画像? コラ画像ですよねこれうわあ継ぎ目が全然わからない!」 「なお五種類ほど存在する模様」 「全身図と同じ数! 気づきたくなかったです!」 いやああああああああとヘッドバンキングするシィン。 ネット上にばらまかれた画像というものは光の速さで保存され、アトランダムに誰かの手によって貼り付けられる。プールにこぼしたコーヒーのごとく、もはや取り返しは付かぬ。 シィンには絶望しかなかった。もはやキンバレイを締め上げ、元画像と制作機材を破壊するしか打つ手は無い。 シィン起死回生の戦いが今始まろうとしてた。 仲間たちが色々関係ないところで騒いでいるなか、『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)はひとり平和に携帯ゲームをぽちぽちしていた。 ピンクのヒョウ柄はんてんを羽織り、お腹にハート型のクッションを抱えてである。 「本当に恐ろしい敵だ。これからの季節はますます勝ち目がなくなっちゃう。こたつめっ……絶対に倒して……やる……」 徐々にずりずりと身体を沈め、最終的にはこたつのなかにすっぽりと収まった。 「でも、こんな強敵にも撤去せざるをえない事態があるって、まこ聞いたことある。なんでもこたつに侵入したものを容赦なく攻撃する宇宙最強生物がいるって。まこがいま、その生物になれば……!」 こたつの中でごろんと横向きになり、身体を小さく丸めた。 「解決!」 「まこにゃああああああああああああうああああああ!」 そこへ頭から突っ込んでくる『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)。 「大丈夫なのまこにゃんまこにゃんにそんな危険なことをさせるなんてああそんなことを考えている間にまこにゃんがこたつの中にはいっているじゃないの大丈夫かしら一人でくつろいでいないかしらと居ても立ってもいられないのよ大丈夫アタシにもしものことがあったらアタシごとやりなさいって外でタメてる運送屋に言ってきたからそうよ大丈夫引っかかれたとしてもこの傷は絆だからもう一度言うわねこの傷は絆だからああああああああああ!」 丸くなった真独楽に文字通り絡みつくと、杏はウオーとウヒョーの中間くらいの奇声をあげた。 にっこり笑う真独楽。 「あっ、杏来てくれたんだ。トモダチ、大親友だもんね! えへへ、こたつ気持ちいいねえ」 「はあまこにゃん可愛い可愛い可愛いあーもーぎゅってして髪の毛に顔を埋めてモフモフくんかくんかしちゃうすーはーすーはーいいにおいお日様のいいにおいキュンキュンキュイもうなでなでしちゃうんだから頭から顎から背中からおなかから全部なでなでしちゃうんだからそれに今日はもう一歩進んでしっぼしっぼしっぼまで撫でちゃうわもちろん付け根まで撫でてネコが喜ぶ場所で検索した時のたまらニャイポイントを重点的になで回すのよそしていよいよお待ちかねのディープゾーンターイムいえええええええい大丈夫よ引っかかれても気にしないこの傷は絆だからこの傷は絆だからああああああああ!」 「にゃふ、そんなに撫でられるとキモチよくて……はう、だめぇ、まけちゃうよぉ……」 絡み合う手。 絡み合う足。 絡み合う視線。 絡み合う吐息。 目をとろんとさせた真独楽は服の胸元につたう汗を追うようにして指を ――この先を読むには『クリスマスプレゼントはLPがイイナ!』と呟いてください。 ●こたつというと正座して入るパターンを想像しがちだがチェアーとセットになったダイニングヒーターというスーパーアイテムもあったりする。でも最強は掘りごたつという事実。 「きちゃだめです! ここにはなんにもないのです!」 両手を広げ、イーリスは叫んだ。 こっちへおいで、いい子だから。郷はそう言って手招きをする。 「エリューションなんていないのです! ここには……あっ!」 イーリスの股の間からよじよじと出てくる小さいこたつ。 「出てきちゃだめなのです!」 慌てて覆い被さるがもう遅い。 こたつは郷につまみ上げられてしまった。 「やめるのです! ころさないでほしいのです!」 泣きながら追いかけるイーリス。 ……というところで。 「夢だったのです」 目をさますとイーリスはこたつの群れに囲まれていた。 暖かい毛布に招かれ、暖かい光に包まれる。 「そうだったのですか。あなたはあの時の……」 呟きは聞こえただろうか。 こたつたちはイーリスに怪我が無いことを知ると、ゆっくりと下がっていった。 「まるのです! もう戦わなくていいのです! わたしたちはもう……!」 両手を伸ばす。赤く光っていたこたつの光は徐々に変色し、青く変わった。 広がるこたつ布団の中を歩くイーリス。 目をかっぴらいた郷が『そのもの青き鎧を纏いてこたつの野におりたつべし』とか言いだし――とか言い出したところで本当に目が覚めた。 「はっ、夢だったのです!?」 「長い夢だったなあ……」 郷は未だに下タメした体勢のまま振り返った。 「そろそろ倒したいところなんだけど、どうなの?」 「んー、この動画おわってからー」 未だにこたつにしがみついて離れないテテロと小梢。 砕け散ったスマホにかわり新たなスマホをスタンドに設置して、鍋の底に残った微量なカレーを慎ましやかに食べていた。 「……何見てるんだ?」 「グレ動画」 「オーエンMADじゃん。なにこの謎技術」 「よくわかんないけどすごいうごくのー」 タメ姿勢のまま動画視聴に加わる郷。 その横では、シィンがキンバレイのPCを逆向きにへし折っていた。 キンバレイは悲鳴をあげたが、まあハードディスクが無事なら取り返せますしーと頭の中で微笑んでいた。 「他に画像はないですか!? あと口にくわえさせてるこれはなんですか!?」 「『私は子作りを目的としない快楽だけを求めた行為を希望しています』のサインだっておとーさん言ってました。袋は開けたことないです」 「そういうことを聞いてるんじゃありません!」 「あとナビ子×ベニーの画像を作ってばらまこうとしたら回線開いた二秒後にパソコンが焼き付き起こして爆発しました。なんなんでしょうねあれ。逆ハック?」 「しりません! とにかくこんなものは……こうしてやるんですから!」 ていやーと言ってカレー鍋にパソコンの残骸を投入するシィン。小梢絶叫再び。 そうこうしていると、こたつの下から杏と真独楽が顔を出した。 ちょうどお布団から頭だけ出してるような状態である。 真独楽のほうは完全に眠りこけており、口から涎なぞ垂らしている始末である。 「あー、こっちはもういいわよ。充分堪能したから」 「あ、じゃあアルシャンするね。どいててもらっていい?」 はいはいと言って真独楽を抱えて離脱する杏。 テテロたちも、真っ白に燃え尽きた小梢を抱えて離脱していった。 帽子の位置を直し、キリッと目を光らせる郷。 「行くぞ、前の依頼では出せなかった新たなソミラキック技――アルシャンキイイイイイイッックッ!」 郷は、アル・シャンパーニュ・キックをくりだした! Eこたつをやっつけた(テレッテー)! 「……おつかれ郷」 「待って! ちょっとまって!」 「いまのことば」 「プレイバッ! ――じゃなくて、いやじゃなくてじゃなくて! おかしいだろ!? 俺のプレイング七割以上アルシャンについて書かれてるんだぞ? これじゃあ俺、ずっと下タメしてた人になるだろ!」 「えーでも」 「でもじゃありません! ほら、仕切り直しだ仕切り直し!」 郷は再び下タメ姿勢に入ると、これでもかと集中をためまくった。 そして天高くジャンプ。 前方に高速回転したあと、両腕を開いて空中で体勢を固定。 「アルッ!」 両腕を広げ、両足を軽く揃える姿勢である。 「シャンッ!」 そこからジェット噴射でもしたかのように敵へ突撃。 ミサイルのごとき彼の蹴りがEコタツへ直撃した。 「パァァァアアアアアニュッ!」 『ぐああああああああああ!』 今まで一言たりとも発しなかったこたつが急に断末魔の声をあげ、なぞの爆発を起こした。 爆発のなか、片膝立ちでフィニッシュポーズをきめる郷。 「……決まった」 郷はやり遂げた顔をして、遠い空を見つめたのだった。 ――かくして(テンプレワード)! 恐ろしき冬の恐怖エリューション・こたつは退治された! しかし忘れてはならない。 人々の心が安らぎを求める限り。 地球に寒さがある限り。 奴は再び現われるやもしれないということを。 その日がくるまで。 今は安らかに休め。リベリスタたちよ! そしてありがとう、リベリスタたちよ! ――完! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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