●ロウブック-CCC 私は神の声を聞いた。今より代弁者となり、ここに伝える。 我々人類はなぜ生まれ、なぜ死にゆくのか。そしてなぜ生きたがるのか。 それは我々が神の家畜であるからに他ならない。 我々が『悪しき者』である限り、彼らは死した我々の精神を美味しく食することができる。 まかり間違って清き者になどなろうものなら魂を再び現世に放り込み、悪しき精神に塗り変わるまで転生させ続けるつもりなのだ。 我々は家畜である。 美味しく食べられるか、食べられるまでぐるぐると泳がされるか、その二択しか無い。 時折魂が別の場所へ混ざり、神々の住まいへたどり着いてしまうことがあり、情をもった神々は我々をペットとして飼ってくれることもある。しかしいつしか殺され、現世に戻されるであろう。 この世界に争いが無くならないのはなぜか? この世界に貧困が絶えぬのはなぜか? それは人間へ強制的に植え付けられた生存本能によるものである。 これは、より大多数の悪人を製造するための飼育法であり、いわばより美味な豚を育成するための牧場にすぎない。 考えても見よ。この世界は悪人が蔓延り、悪人が大多数を占める。 善き者を減らし、悪を増やす仕組みが根幹にあるではないか。 神々は我々をより美味しくしようとしているのだ。 絶望するか? それとも希望を見いだしたか? どちらも意味は同じだ。 おまえが美味になるか、また泳がされるか、どちらかの違いに他ならぬ。 何を言おうと、豚の鳴き声と同じだ。 神々は何も動きはしない。 ●人類高次研究所にて 独房のごとき部屋の中で、子供が熱心にノートへむかっていた。 女性とも男性ともつかぬ中性的な顔立ちで、身なりは小綺麗だ。受け答えもはっきりとしていて、初めて見る人間はこれを真人間だととるだろう。 しかし彼は真人間では無い。 まして、人間では無いととることすらできるだろう。 「おい、『男女』がまた聖書を書いてるぜ」 見張り係の男がニヤニヤしながら言った。 ドアの前に椅子を置き、缶ビールをあおりながら。 廊下を挟んで向かい側にも同じように椅子が置かれ、やはり同じように男が座っている。 彼はよれた煙草をくわえて、同じようにニヤニヤと笑った。 「あの野郎、ゴミばっか増やしやがって。そのくせノートに書くところが無くなれば金切り声で発狂しやがる。鉛筆は足りてんのかい」 「もうすぐ切れるな。買い置きもねえ……クソッ、面倒くさい仕事受けちまったぜ。おい男女! 書くのをやめろ!」 男は鉄格子のはまった扉を叩いて、中の子供に呼びかけた。 しかし子供は呼びかけを無視してノートに鉛筆を走らせ続けている。カリカリというせわしない音だけが帰ってきた。 男は舌打ちをして、扉の鍵をあけた。 中へ入ると、子供から強引にノートを取り上げた。 その途端、子供は猿のような金切り声を上げた。鉛筆を握りしめ、男に突き立てようとする。 男へその手首を掴み上げると、器用にねじり上げてやった。 悲鳴と呻きの混ざった声をあげ、壁に顔を押しつけられる子供。 「言うことを聞かないガキには、犬猫みたいな躾が必要だよな」 男はニヤニヤと笑い、子供の服を引き下ろした。 壁に顔を押しつけたままうめき声をあげる子供。 子供に名前は無い。 しかしこう呼ばれている。 アーティファクト『ロウブック-CCC』 ●アーティファクト救出作戦 「救出してほしいアーティファクトがあるの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそのように語った。 文脈がおかしい。まるで人間に対して使う言葉では無いか。リベリスタたちはそう思ったが、内容を聞いて考えをあらためた。 アーティファクト『ロウブック-CCC』。 『とても精巧に』作られた蝋人形が革醒し、自律した人格を保有したものだという。 こうしたアーティファクトには前例があり、救出したリベリスタの強い要望によって『保護』されている。当然人間の常識で動いていないうえ、他者に悪影響を及ぼすため隔離状態ではあるが、最大限の保護ではあるだろう。 今回救出という言葉を使ったのも、そうした理由からだ。 「『ロウブック-CCC』は意味不明な内容を記述し続けるというだけのアーティファクトなの。まあ、そう聞いたら価値を感じないんだけど、どうやら価値があると思ってる連中がいるみたい。『人類高次研究所』と名乗っているフィクサード集団よ。いまいち身分や目的のハッキリしない連中なんだけど、何らかの悪用を考えているのは事実だし……言ってはなんだけど、『ロウブック-CCC』自体が迫害に近い扱いを受けてるから、放っておくわけにもいかない」 イヴが提示した資料によれば、地上一階地下二階建ての構造になっており、内部にはフィクサードが15人ほど常駐。その殆どがハッキリとした戦闘員で、外部からの攻撃を意識している構成になっているらしい。 「細かい作戦については任せるわ。『ロウブック-CCC』を救出すること。これが任務。いい?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月27日(水)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●11235812213455891442333776109871597258441816765109461771128657... ノートを鉛筆が滑る音と、ジッポライターの蓋を開閉する音。 どこか定期的に鳴るそれらが、騒々しいサイレンによってかき消された。 「お仕事らしいぜ」 「どうせここまで来る奴ぁいねえだろ」 廊下の両側で椅子に腰掛けていた男たちが立ち上がった。 鉄格子のはまった扉を覗き込む。 奥では子供がノートに鉛筆を走らせている。 サイレンなど遠い世界の音であるかのようにだ。 『建物に高速で接近する車両あり。リベリスタとみられる。数8。危険度A』 無線機から通信が入る。 カチン、とジッポライターの蓋が閉じた。 「こりゃあ、俺らの出番かもな」 場所は変わり、野外。 建設事務所に偽装した建物の周りを、作業服を着たフィクサードが気だるそうにうろうろとしていた。見るからに仕事をサボっている若者といった様子だが、鳴り響いたブザーにびくりと背筋を伸ばした。目つきも見こなしもまるで違う。訓練された兵士のそれである。 男は懐から拳銃を取り出して無線機を耳に当てる。 「敵襲か。方向は」 どちらだ、と聞こうとしてやめた。 建物から9字方向。オフロード改造されたトラックが猛スピードで突っ込んできたからだ。 「くそ、見張りの仕事を奪いやがって。階下の兵士を呼び出せ! 今すぐにだ! コーヒーを飲み始めた奴がいたらぶん殴れ! 悠長にしてる暇は――」 と、彼のすぐ眼前に棒状の物体が現われたことに気づいた。 車のほうから飛んできたもので。 回転しながら目の前まで迫り。 破裂し、激しい音と光を放った。 思わずひっくりかえった男の上を、オフロードトラックが通過した。 そのまま外壁に激突。監視塔にいた男が衝撃で落ちてくる。 そして、トラックの運転席では……。 「おい、生きてるか」 「リベリスタっていいね、事故っても痛いで済むし。オレ明日から当たり屋になる」 「馬鹿言ってないで下りろ」 『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)がトラックの助手席ドアを内側から蹴り破った。 同じく運転席からすとんと下りてくる『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)。 拳銃を向け『動くな』と言ってきた男がいたが、後ろから『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)に殴られて気絶した。 「ここは任せます。外の見張りを」 「任せろ」 福松は扉の鍵をドアノブごと銃で破壊すると、無理矢理扉を引っこ抜いて開けた。 中には作業服のフィクサードが約五名。建設所作業員のフリを完全にやめている。 このツタだらけの偽建設事務所は千里眼で透視できたので、これは把握済みだ。しかし地下から先がよく見えない。アークにもある対革醒者加工というやつか。 真っ先に突入した『魔術師』風見 七花(BNE003013)が、狙いもつけずに銃を乱射する。 「悪いですが相手をしてる時間はありません」 トリガープルと同時に、まるでアーク溶接機でもぶっ壊したかのような激しいスパークが室内を埋めた。 思わず顔を庇う兵士たちに対し、脇目も振らずに階下へと飛び降りる。当然はしごなど無視しての飛び降りだ。 すとんと着地する『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)。 下りた先は長い廊下の端になっており、ヘルメットをして自動小銃を構えたフィクサードがずらりと廊下に並んでいた。遮蔽物なし。逃げ場なし。 「影人を残して置いて正解だったわ」 床に置いたキーボードを非人間的な指さばきで打鍵。すると空中に無数の熱源と氷がデジタライズされ、一瞬にして小規模な氷雨を巻き起こした。 しかし彼らも馬鹿ではない。即座に銃撃をしかける。 大量の氷塊と鉛玉が交差するなか、まるで何事も無いかのように『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が下りてきた。 「ショボイ。袋小路で蜂の巣にしたいならガトリングでも置いておけってんですよ」 ミニガンを更に小さくしたような重火器を構え、トリガーを引く。バックパック式給弾装置からけたたましいエンジン音が鳴り響く。 次に起きたことといえば、空中で大量の鉛玉が衝突してピンバッチ状に潰れ、兵士の何人かがよろめいたことくらいだ。 その隙をかいくぐるように『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が突撃。 自らをミサイルのように細くして、通路をまっすぐに飛行していく。 その先はT字路だ。両側から兵士が銃撃をかけてくる。ユウは勘でカーブしつつ、空中ブレーキ。あまったエネルギーが真空の刃になって目の前の男を切り裂いた。 どうやらT字の先がそのまま階段になっていたらしく、ユウは男の身体をボード代わりにして滑り落ちていった。 その間に壁にオレンジの蛍光塗料を塗りたくる。ペイントボールの小さく平べったくしたようなアイテムで、いわゆるマーキング専用のアイテムである。棒状のストッカーからバネ仕掛けで飛ぶ。 それを壁沿いにベタベタ塗りつけながら更に飛行。 進路上の敵を小銃で流し打ちして進路の妨害を防いだ。 「部屋はこの奥です。あとはよろしく」 「了解しました。では――」 通路の途中で急速にターンするユウ。その左右を駆け抜ける夏栖斗と麗香。 二人はほぼ同時に扉を蹴破り、そして。 「ほいごくろーさん」 ドアの裏に潜んでいた男がグルカナイフを突きつけてきた。刃が夏栖斗の首にぴったりと吸い付く。 「汚いとこだが、ゆっくりしてけ」 直後、天井に張り付いていた男が麗香の背後に着地。彼女の首にワイヤーをかけ、強く引いた。 ●258441816765109461771128657463687502512139319641831781151422983204013462692178309... 数秒の出来事である。 麗香は刀を逆手で抜き、最短の距離で背後の男へ突きだす。 夏栖斗は後方に向けて派手に転倒しつつ、相手のナイフを上方向に叩く。 それを瞬時に予期した二人の男はそれぞれ後方にジャンプ。 麗香は夏栖斗の真上を飛び越え、逆手持ちのままナイフの男へ刀を繰り出す。 夏栖斗は横向きに転がり、這うような動きで素早く部屋の奥へと駆けた。 「ハリス!」 「みなまで言うな」 グリーンの服を着たワイヤーの男。ハリス。彼は外の壁に両足をつけると、カタパルト発射されたかのような速度で飛んだ。 一方で赤い服を着たナイフの男は、腰から特殊警棒を抜いて麗香の刀を受け止めた。胸のバッヂには『ジョズ』と書いてあった。 麗香の横を抜けて飛ぶハリス。夏栖斗の先まで回り込むと、両足と片手をついてブレーキ、そして反転。 いつのまにか口にくわえていたコンバットナイフを手に取る。途端横並びに幻影分身。すべての幻影が夏栖斗の身体を狙ってナイフを突き出してくる。 地面を殴って跳躍。空中で身体をひねってハリスのひとつをトンファーで殴りつける。手応え無しで通過。幻影だ。 本体はどこだと視界を巡らせる。 鉄格子のはまった扉が開いている。 その向こうで、机に座ってノートにむかっているロウブック-CCCを発見。 彼の首にワイヤーをかけたハリスも発見。 まずい。直感に従って斬風脚を繰り出す。ハリスの身体がかすみのようにかき消える。 やられた。これも幻影か。ドアの裏から飛び出したハリスがロウブック-CCCの頭を掴み上げ、ナイフを押し当てる。 ごり、という音。夏栖斗が奥歯を噛む。 すぐ脇を駆け抜ける麗香。 鋭く突き出された刀がハリスの肘を貫通。ナイフがぎりぎりの所でとまる。 そのままハリスもろとも押し倒す。 「夏栖斗君、彼を!」 最低限の呼びかけにこたえ、夏栖斗はロウブック-CCCを引っ張り起こした。 ノートが手元から離れたからか、申のような金切り声をあげる。 「大丈夫、今度はいじめられたりしないところへ行こう!」 安定感など気にしている暇は無い。ロウブック-CCCを担ぎ上げ、部屋を出ようと走る。 出入り口で警棒とグルカナイフを構えて立つジョズ。 手のふさがった状態でこれを相手にするのはキツすぎる。 麗香も今ハリスともみあっている。 どうする、命を無駄にするか? ジョズがそう言ったように見えた。夏栖斗は不敵に笑い、まっすぐに突撃。 馬鹿め。そう呟いたジョズを、後ろから誰かが羽交い締めにした。 長い髪をした影人である。 「ナイス、キサラ!」 ジョズを蹴りつけて無理矢理通過。別の影人が夏栖斗と入れ違いに部屋へ駆け込み、ジョズに襲いかかった。 「っと、言い忘れてた」 夏栖斗は振り向き、にやりと笑った。 「ごきげん麗しゅう。いい大人が子供いじめだなんて格好悪いね。人格があれば、人と変わらないのに」 「同感だぜ。そのダッチワイフが『いや』だの『やめて』だの言えばもっと楽しかったろうにな!」 「……っ」 舌打ちする夏栖斗。 その時、彼の腕を銃弾が貫通した。思わずのけぞる。 担いでいたロウブック-CCCが宙に浮く。 そして――。 時間をやや遡る。 地下二階通路上で、ユウとあばたは背中合わせになっていた。 「車の中ではまあ、空気読んで黙ってましたけど」 あばたが敵の集団に向けて銃を連射。 ライオットシールドを構えた敵が銃弾の中を突き進んでくる。 「ヒト型のターゲットは苦手なんですよね。仲間が同情したがるから」 「犬やネコでも相手が『こう』なら、仕方ないんじゃないですか?」 ユウがぴょんと飛び上がり、小銃を乱射しながら回転。炎の弾が大量にばらまかれる。 「こういう人たちって、すぐに叩いたり突っ込んだりしますから。かわいそーですねー」 「いっそこっちも犬やネコなら良かったのに。この際ゴキブリでもいいですよ。突っ込まれずに済む」 ユウの肩と胸、ついでに右目へ敵の銃弾がめりこむ。フェイトを削って強制修復。 『リロード!』と叫んだユウに反応してあばたはロングバレルの銃を背後に向けて乱射。突撃してきた敵が額に弾をくらってひっくりかえった。 「どうせわたしらだって、非人間の化物未満のくせに。人格だの意識だのと……」 「きっとパパとママの愛情が足らなかったんですねー」 すぐそばまで迫ってきた敵を、足で突っぱねるユウ。相手の胸に銃を押しつけ、インドラの矢をぶっ放した。 焦げたホルモン焼きの臭いと共に部屋中にちらばる炎の矢。 あばたは片手で銃のリロードをはかると、ちらりとユウの横顔を見た。 「それ、わたしのことです? それとも奴ら? もしかして自分のことです?」 「どうでしょ? 人類皆兄弟っていいますし」 「早くもこの話題は終了ですね」 頭の中をライフル弾が通過したのを確認してからフェイトを消費。こんこんと自分の頭蓋骨をノックするあばた。 そして、かねてより目視で確認してたロウブック-CCC隔離部屋に銃を向けた。 「丁度『バトン』も来ましたし」 「はいはい」 ユウは天井部分まであえて飛び上がると、敵の真上を飛行して通過した。 部屋から飛び出してくる夏栖斗を確認。 敵の銃撃が浴びせられる。 夏栖斗の手から離れたロウブック-CCCを、ユウは空中でキャッチした。 部屋から、影人を蹴散らしたジョズが飛び出し、夏栖斗の肩にナイフを叩き込むのが見えた。だが無視だ。かまっている暇は無い。 空中でクイックターン。廊下端の壁を蹴って今度は上階への階段めがけて飛行した。 敵が飛びかかってくる。が、ユウに触れる寸前で頭蓋骨が破裂した。こちらに銃を向け、顎で『早く行け』と示すあばた。 ユウはその上を高速で通過し、上への階段を全段飛ばしで飛び抜けた。 その様子を背に、敵へ銃を向けるあばた。 「あなた方の制圧は依頼内容に含まれていません。なので撤退したいのですが……どうです、火事場に油をまきますか?」 「うるさい、死――!」 ナイフで斬りかかってきた敵の頭が破裂。あばたは半眼で息を吐いた。 「はいはい、それじゃあきっちり殺しましょうね」 階段を上がればそこは嵐だった。 氷雪が吹きすさび、雷鳴が響き渡る。 しかしそこは空の下でなく、野外ですらなく、地下一階の通路上であった。 「遅いわよ、はやくそれをこっちに」 くいくいと手招きをする綺沙羅だが、身体は血だらけで服はぼろきれ同然になり、正直生きているのが不思議な様相を呈していた。 だがもっとひどいのは七花である。 肌の色が確認できないほどに血まみれで、顔や身体は刀傷だらけになっていた。小動物を野鳥の群れについばませ続けたらこうなるだろうかという、見るも無惨な有様である。 それでもはやりリベリスタ。七花は血しかないつばを吐き捨てると、手元の本を乱雑な仕草で開いた。 大天使の吐息を発動。全身の傷を無理矢理修復。血まみれなのはそのままだが、構わず七花は走った。 なんのために? ユウと綺沙羅へ集中するであろう攻撃を一手に庇うためだ。 階下から抜け出してきた敵がユウの足を掴む。更に銃弾が何発かユウを貫通。 地面に墜落し、派手に床をスライドする。 しかしロウブック-CCCは自らの身体でかばったようで無傷だった。血液で汚れているが、それもユウのものだ。 「はやく!」 ユウの腕の中で力なくあばれるロウブック-CCCを、綺沙羅は引っ張り上げた。 肩に担いで階段を上る。隙だらけだ。 銃撃が大量に浴びせられるが、両腕を広げた七花がそれを全て引き受けた。 文字通りの蜂の巣になり、砂人形のように崩れ落ちる七花。 「たすかったわ、ありがと」 綺沙羅は自分にできる最大限の感謝を述べて、はしごを登り切った。 はしごをのぼって最初に見たのは。 寝そべってチョコバーを頬張る翔護だった。 いや、これではあまりに正確性を欠く。 正しくは、敵に押し倒されて口に拳銃を突っ込まれた翔護である。 「はーほーほ! へんひ!?」 『やあどうも、元気?』とでも言いたかったのか。彼はふがふがいってウィンクをした。 そして破裂音。敵が銃の引き金を引いたのだ。 翔護は一度びくんとけいれんして、思わず白目を剥いたが、瞬き一つで目の輝きを取り戻した。 ばきん、と拳銃の先を噛み砕く。 「ケチだなあここの人は。決めぜりふくらい言わせてよ。はいキャッシュからの――」 翔護の顔面が殴られた。 綺沙羅はそんな彼を無視して横を通過。それを止めようとした敵がいたが、翔護がその足首をひっつかんで転倒させる。 綺沙羅はスチールデスクの上に飛び乗ると、建物の入り口付近で敵ともみあっていた福松めがけてロウブック-CCCを思い切り放り投げてやった。 「パスよ。タッチダウンよろしく」 「大暴れする時間は終わりか。翔護、お前は?」 「いいのいいの。お姫様をエスコートするときはみんな王子様さ。それじゃ急ぎ――痛い痛い顔はやめて!」 ストールを鞭のように叩き付けて敵をなぎ倒すと、福松はロウブック-CCCをキャッチ。全速力で建物の外へ走った。 「待て! その足で逃げられると――」 「どの足だって?」 福松はアクセスファンタズムから大型トラックを取り出した。目を丸くした敵を尻目に、ロウブック-CCCを後部エリアへ放り込む。 背後からくる銃撃から走って逃げつつ、運転席に飛び込み、素早くギアチェンジ。木箱をくくりつけたアクセルを思い切り踏み込む。 そしてトラックは、激しいエンジン音をあげ、大量の粉塵を巻き上げつつ走り出した。 「いいねフッ君、やってくれると思ってたよ」 ●0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000..... 地下二階最奥の部屋から、満身創痍の夏栖斗が足を引きずって現われた。 全身傷だらけの麗香に肩を借りてである。 その様子を、誰のものか分からない血肉でまみれたあばたが横目で出迎えた。 「ごくろうさまです。お掃除終わりましたよ」 見ると、階段に腰掛けたユウがぱたぱたと手を振っている。休んでいる……のではない。足がおかしな方向に曲がっていた。 彼女たちをつれて地下一階へ上がってみれば。ぐったりと気を失った七花と、彼女を膝枕した綺沙羅がいた。 周りには、言葉ではとてもではないが形容しきれない人間の死体が転がっている。 「任務成功。帰るから、彼女運ぶの手伝って」 苦労してはしごを登ると、翔護がスプリングのイカれたパソコンチェアに腰掛けていた。 室内には死体がいくつか転がり、それを眺めるような姿勢だ。 翔護は銃をデスクに放り出してあり、彼は満足げに目を閉じていた。 「……あ、死んでないよ?」 「知ってる」 目を開けた翔護に、綺沙羅は冷たく言い捨てた。 同時刻。 海岸にとまったトラックの中。 ロウブック-CCCが与えられたノートと鉛筆に夢中になっている。 その向かいで、福松は顔を覆ってため息をついた。 「早く来て運転かわってくれ。俺、未成年なんだよ……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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