●美貌の罠 森の奥には妖精が住んでいるから入ってはならぬ。 アイルランドの首都ダブリン郊外のある村の言い伝えである。 アーノルドは峠を越えようとして一人の女性が道に倒れているのに気がついた。 「どうしましたか? お怪我でもありませんか」 ゆっくりと身体を起こしてみると顔立ちの整った美しい女性だった。アーノルドは不意に鼓動が高鳴るのを感じた。 「有り難うございます。ちょうど貧血で倒れてしまって」 女性はリャナンと名乗った。ちょうどこの峠の近くの家に住んでいて、今日は朝早くから街へ買い物に出かけていたという。すっかり夜遅くなってしまって、突然持病の貧血が悪化して倒れたらしい。そこへ偶然にアーノルドが通りかかった。 「もしよかったら家へ寄って行ってください。暖かいスープを用意していますから」 リャナンの優しい言葉にアーノルドは頷きかけた。だが、ふと最近この辺りでよく耳にする噂をアーノルドは思い出した。 最近村の若い青年たちが行方不明になる事件が多発していた。村の人々はそれが妖精の仕業であるに違いないと噂した。 妖精は美しい女性の姿を纏って村の男性に近づく。その美貌で虜にしたあげく家に連れ帰って毒を飲まして昏倒させる。その隙に妖精はその男性の血液を吸って骨抜きにしてしまうという妖精の伝説に関連付けた噂だ。 本当かどうかはアーノルドもわからない。アイルランドには昔からこういった妖精の神話が至る所で言い伝えられてきた。 アーノルドも祖母や母親から子守唄のように子供のころから聞かされていた。だが、現代に妖精が本当にいると信じるにはすでに大人になりすぎていた。 「リャナンさんがよければお呼ばれしてもいいですよ」 アーノルドはリャナンの美貌に引かれてついに肯定の返事をした。まるで森の奥に引き込まれるようにアーノルドは彼女の後ろを付いていく。 そのままアーノルドは森の奥から帰ってくることはついになかった。 ●妖精の国 「欧州の『オルクス・パラスト』からアークに依頼要請が来ているわ」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタに向かって手短に用件を切り出した。 今回の事件の現場はアイルランドの首都ダブリンの郊外だ。妖精の姿をしたアザーバイドが村の青年を騙してD・ホールに連れて行こうとしている。 アイルランドは文字通り妖精の神話で知られる国だ。もちろん、今回の事件に関わっているのは本物の妖精ではなくパラレルワードから来た妖精型アザーバイドである。 伝承の通りその妖精は男性の血液を養分にしているという。これまでに何人もの村の男性がそのアザーバイドに連れ去られていた。 「森の奥にそのアザーバイドの棲家である廃屋がある。そこに拉致されたアーノルドを始めとして5人の一般人が眠らされているわ。このままでは近くのD・ホールに連れ込まれてしまう。その前に貴方たちが行って彼らを救って来て欲しいの」 現場にはデュラハンと呼ばれる首なしの馬に乗った騎士やゴブリンと呼ばれる凶悪なアザーバイドが美貌のリャナン・シーをサポートして立ちはだかってくるという。 ちなみにその廃屋にも人目を欺く幻影やトラップが仕掛けられており、注意して戦う必要があった。それに日本国内をターゲットにしている万華鏡の力は及んでいないため不測の事態が起きる危険性もある。 「妖精の国に行って一刻も早く凶悪なアザーバイド達を倒してきて。くれぐれも大丈夫だとは思うけれど、美貌の彼女達に惑わされることがないよう気を付けて行ってきてね」 蘭子は最後にリベリスタの幸運を祈って笑顔を見せた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月30日(土)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●美貌の妖精の罠 ダブリンの冬は冷たい。北欧の冬が間もなく到来しようとしていた。森には枯れた色鮮やかな落ち葉の絨毯が広がっている。森の妖精が住むと言われる廃屋は煉瓦造りの古い洋館建てだった。白い外壁を無数の蔦が張っている。辺りは静寂に包まれており、中の様子はこの場所からはまだよく分からない。 「妖精の国か。好き好んで行くなら止める道理はないが、浚っていくなら話は別だな。残念だが、お引き取り願おうか? どちらにとって残念かは知らないが」 鋭い眼光を洋館に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が向ける。すぐ裏手には別の世界へ通じるゲートが存在していた。そちらの方にも十分に気を配りながらユーは周辺の様子をまず警戒する。 「妖精型アザーバイドも伝承の妖精同様に人を惑わすようです。この妖精は伝承とは違い音楽や芸術の才能を与えてくれないですが」 同じく慎重に『魔術師』風見 七花(BNE003013)は足を運ぶ。落ち葉を踏みしめながら必要以上に音をたてないように一歩ずつ建物に近づいた。 「人質の皆さんをこれ以上危険には出来ませんっ。出来る限り早く救出を行いたいですっ」 両手の拳を握り締めて離宮院 三郎太(BNE003381)は意気込む。すでに人質はリャナン・シーに血を吸い取られているかもしれなかった。一刻も早く救助しにいかなければと真っ先に現場へと走り寄っていく。 「結局、男は馬鹿で美人に弱いということだ。不審に思っていても付いていってしまうのだからな。オレも気持ちは分かる。ま、オレならそんなホイホイ付いて行きはしないがな」 『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は腰に手を当てて洋館の前に立ちはだかった。美人に騙されるのも悪いが何も罪もない人に危害を加えるのはもっと許せないとクリスはその切れ長の目で睨みつける。 「初の海外遠征はアイルランドか。この手の逸話や伝説が神秘絡みなんて話は良くある話だな。今更驚きも何もありはしない、倒す必要があるから倒す、それだけの話だ。万華鏡という眼があろうと無かろうと仕事は何も変わらない」 冷静に状況を判断しながら『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は言い放つ。海外とはいえやることは国内となんら変わりない。家で首を長くして帰りを待っている人の心配を増やさぬためにも早くケリを着けることを誓う。 「あたしはアイルランドで生まれ育ったわけでもないし、どんな国か詳しく知らないけど、ちょっと懐かしい感じがするのは不思議ね。本物の妖精なら、倒しちゃうのは無粋な気がするけど、アザーバイドなら気にすることないわ」 『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)はまるで懐かしむように言った。父親がアイルランド出身で子供の頃に話を聞いたことがある。もちろん今回が初めての訪問だったが、遊びに来たわけではない。まずはしっかりと任務を果たすことを心に留める。 「おっと郷愁に浸ってる暇じゃなかった、急いで助けにいかねぇと!」 同じく郷愁に浸っていたツァイン・ウォーレス(BNE001520)は気がついたように我に返った。あの十三年前の事件をきっかけに祖国から離れたが、あの頃と全く変わりのない姿に思わず感激してしまっていたのである。 「うんじゃ、行くぜ。皆よろしく頼むな」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が仲間たちに目配せした。頼もしい味方の視線を受けてフツは力強く頷いた。今回立案した作戦を事前に伝えたフツは意気込んでいた。フツの号令ととともにリベリスタたちは作戦を開始する。 ●アイルランドイージスィズ 「いくぞ日野原! イージスの見せ場だぜっ?」 ツァインがわざと大きな音を立てながら洋館の正面へと躍り出た。周辺を警戒していた首なしのデュラハンが馬を駆けてリベリスタの元へ迫ってくる。 頭のない騎士は間近で見ると異様な姿をしていた。頑丈な鎧を纏って手には大きな大剣を掲げている。ツァインは自分よりも大きな騎士を前にしてまずはガードを固めた。祥子も仲間にラグナロクを付与して準備を整える。ツァインに呼ばれて祥子もデュラハンの前に堂々と両手を広げて立ちはだかった。 「あたしたちはそう簡単には倒れないわよ? 夜が明けるまででも相手してあげるわ」 祥子の挑発に乗ってデュラハン達が剣を振りかぶって襲いかかった。祥子とツァインは二人でそれぞれの敵を押さえつけながら一歩たりともそれ以上前に進ませない。 馬を縦横無尽に駆けながらデュラハンも祥子を蹴散らしにかかる。力で押されそうになったが月の盾でしっかりと攻撃を受け止めて跳ね返した。 ツァインと祥子のコンビがデュラハンを食い止めている隙に、他のリベリスタたちは気が付かれないように廃屋の裏側に回りこんでいた。 「中は無数の迷路が構築されているようだ。まだ敵はこちらの動きに気づいていない。先制するのならば今のうちだ」 櫻霞は千里眼を用いて廃屋の中を盗み見た。ゴブリンたちは廃墟の中に無数の幻影を作って外から進入する者たちを警戒している。人質の姿も幻影によって多く作られているためにどれが本物かは外からは判断できない。フツは櫻霞の報告を受けてまずは周囲に強結界を施して万が一の時に備える。続いて空を飛べるユーヌが一人ずつ仲間を担ぎ上げながら廃屋の屋根上へと運んだ。 「あそこに煙突がありますっ! あの下がもしかしたら暖炉かもしれません!」 周辺を探索していた三郎太が突然声をあげて仲間を呼んだ。そこには古びた大きな煙突が屋根の端から伸びていた。すぐにハイバランサーで壁をよじ登ってきた七花がその場所へと真っ先に近づいていく。両手を広げて煙突脇の天井を火炎弾でぶち抜いた。雨あられの火炎に巻かれて天井が吹き飛ぶ。フツが危険がないことを確認して次々にリベリスタたちは廃屋の中に飛び込んだ。 煙が消えて視界が元通りになるとそこには屈強なゴブリンの姿があった。後ろの部屋の奥には縛られて身動きの取れなくなった人質と美貌のリャナン・シーがいる。まるでフュリエのように耳の長い透明な衣装を纏ったアザーバイドだった。 妖艶な笑みを浮かべてゆっくりと顔をこちらに振り返る。魅了されないようにリベリスタは目を合わせないように顔をとっさに背けた。 「どうしてここがすぐに分かった? まあいい。邪魔者はすべて殺してあげるわ」 リャナンはすぐにその場を離れると弓矢を一斉に放ってきた。続いてゴブリン達が一斉にその場から散らばって影から串矢を放ってくる。 容赦の無い敵の先制攻撃に仲間を庇って前線に立ちはだかったフツとユーヌは顔を顰めた。だが、まずユーヌがアッパーを放って幻影と本物を見分ける試みを行った。幻影の方は何も動きがなかったが、本物のゴブリンたちは怒りを露わにして迫ってくる。 「さて遊ぼうか? 悪戯好きの妖精と暢気なダンスを」 ユーヌが不敵に笑ってすぐに一般人の方へ敵の攻撃が行かないように振る舞った。櫻霞も二丁拳銃を突きつけてゴブリンたちに一斉に弾丸をぶっ放す。 「何体居ようが問題ない、諸共ぶち抜くだけのことだ」 桜霞の反撃にゴブリンたちもそれ以上は人質の方へ近づけない。さらにフツが槍を掲げて呪文を唱えた。赤い火の鳥が舞ってゴブリンやリャナン・シーの頭上から襲いかかる。 逃げようとするがゴブリンは烈火に巻き込まれてしまった。その隙にクリスが耳を頼りに部屋の隅に縛られている人質たちの救助へと迅速に向かう。 「今日はオレのラッキー・デイなんだ、上手くやって見せるさ」 クリスが暗がりから人質を発見してその前に立ちはだかった。そうはさせまいとリャナンが激しい弓矢を降らせてくるが必死になってクリスは庇う。銃で応戦しながら味方のさらなる救護を舞って奮闘した。 「ボクは情況に合わせて前後どちらでも対応可能ですっ。皆さんが得意とする間合いで戦ってくださいっ!!」 三郎太は状況を的確に判断するとまずはリャナ・シーに向かってパーフェクト・プランを展開する。リャナンが不意をつかれて交代した隙に今度は奮闘して傷ついた仲間のために絶大な回復の支援を施した。両手を広げて念じるように歯を食いしばる。 「すぐに回復しますっ」 クリスがようやく支援を受けて人質の縄を解くことに成功した。ゴブリンたちも攻撃に加わってくるが流れ弾をユーヌの影人が庇って事なきを得る。三郎太とクリスが動けない人質を背にしてなんとか戦線から後退しつつ安全な場所へと避難させる。 ●台無しの美貌 「私の獲物を横取りする奴は絶対に許さない!」 リャナンは目を真っ赤にして吠えた。金髪の髪を逆撫でて一直線に人質のアーノルドの方へと襲いかかる。桜霞が間に入って間一髪のところで食い止めた。だが、リャナンが鋭牙を立てて櫻霞の首元に噛みついて血を吸ってくる。 桜霞はまともにリャナンの目を見てしまい魅了されてしまった。何とかして離れようと試みるが体がいうことを聞いてくれない。その時、人質たちを避難させた三郎太がリャンナンを狙って伸びる生糸の筋を伸ばして顔面に撃ち放つ。 「不運だな? 美貌が台無しだぞ? いや、マニアックな趣味向けの誘惑か?」 好機とばかりにユーヌがリャナンを呪縛しにかかる。 リャナンは悲鳴を上げた。ようやく開放された桜霞は七花がブレイクフィアーで魅了状態を何とか解除して元に戻らせる。我に返った桜霞はリャナンを睨みつけた。 「このままではタダで済むと思うなよ? エリューション」 狙いを済まして銃を敵の急所めがけて撃った。頭を強烈な一撃が襲ってリャンナンは血を吐きながら地面へと崩れ落ちる。それを見たゴブリン達が一斉に突撃してきた。 七花が電撃を纏った鎖で一同まとめてなぎ払う。ゴブリン達が力を失って崩れ落ちるやいなやフツたちはツァインと祥子を援護しに壁をぶち破って外へと出る。 デュラハンを抑えていたアイランドイージスコンビは互いに見事な連携を見せて必死に攻撃を食い止めていた。一方が危なくなると攻守を交代してダメージをコントロールして持久戦を繰り広げていた。 「まだいけるな日野原っ? スイッチ!」 「ツァインさんこそ大丈夫? あたしならまだやれるわ」 被害を最小限に食い止めていたが膠着状態が続いていた。そこへ敵を倒したフツたちが一斉に戦場へと雪崩れ込んできてようやく二人は笑みを浮かべた。 「ちょいと遅いぜ…危なく倒しちまうところだったろ? ヘヘッ」 ツァインはようやく剣を力強く握り締めて渾身の力で斬りかかった。 「おぅ、デュラハン語るにはちぃと力が足りなかったな! ぶっ散れ紛いモンッ!」 デュラハンの頑丈な鎧を諸共せずに切り裂く。 フツが槍で後ろから突き刺すと敵は地面に伏した。残りのデュラハンも大きく剣を振りかぶって祥子に襲いかかる。 「あんたたちにもイケメンの頭がついてたら、彼女と仲良くなれたかもね」 祥子は不敵に笑って月の盾で攻撃を交わした。そして敵の空いた懐にリーガルブーレドを叩き込む。デュラハンは後ろ向きに地面に倒れて動かなくなった。 ●またいつか来る日まで 七花とクリスがすぐに廃屋の裏側に回った。そこには大きなD・ホールが存在しておりすぐに二人は協力してゲートを破壊した。 「ふむ、これがD・ホールか…奇妙なものだな」 クリスはようやく任務を終えたことにほっと一息ついた。三郎太はすぐに傷ついた人質たちを何とかするためにオルクスパラストに連絡して救急車を呼んだ。幸いにして迅速な措置を取ることができたために全員命に別状がないとの事だった。 救急車で運ばれていくアーノルドたちを見て櫻霞がため息を付く。 「やれやれ、まさか俺が血を吸われるとはな。だがしかし、この首筋の傷はどうにかならないか。このまま家に帰ったら櫻子に何て言われるか……」 桜霞の首筋にはリャナンに吸われた跡が残っていた。見ようによってはキスマークに見えなくもない。さすがにこれを見たらどうなるかは容易に想像がついた。 何とか変えるまでに言い訳を考えておかなければならなかった 「あたし、もうこっちに住んじゃおうかな……」 祥子は一人でダブリンの街を丘の上から眺めていた。想像していたよりもはるかに綺麗な異国の街にすっかり心を奪われていた。 「それじゃ、ひろさんが――可哀想か」 祥子は最愛の人の顔を思い出して苦笑した。あたしがこのままアイルランドに残ってしまえば悲しむ人がいる。それに日本に来た父のこともなんとなくほっておけない。 「か~、リャナンシー見たかったわ~、可愛かったんだろうな~…でも御伽噺だとそこまで悪者って訳じゃないんだけどな、一途というか律儀というか…。まぁチャンネルなんて無限にあるし、色んなのが居るんだろ」 ツァインは祥子とは別の意味で郷愁に浸っていた。もちろん子供の頃にも一度もお目にかかったことはない。だが、もう気にはしていなかった。久しぶりに故郷に帰ってきたのだ。せっかくだし思う存分この機会に楽しみたい。次に来れるのはいつになるかはわからないのだ。だからせめて後悔しないために今だけは―― 「ハーイ、そんじゃダブリン観光ツアー御一行様行きますよー! ガイドはこのツァインめが勤めさせて頂きまーす!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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