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妖刀『界悪』、抜刀大活劇!

●綾樫案山子の十本刀
 古い山小屋である。
 囲炉裏の上に鉄の薬缶を吊るして、山伏のような格好をした老人は言った。
「後ろの掛け軸が見えますかな。わしはもう目が見えなくなって久しいが、まだ文字はあるはず」
 言葉に誘われ、身の丈八尺ほどの大男は掛け軸を見やった。
 『悪、界、斬、泰、難、廃、慢、厄、乱、歪』の十文字が並んでいたが、そのうち斬と界の文字が半分ほどにかすれて消えかかっていた。
 それを述べると、老人は意図のように細くしていた目をわずかに開いた。
「おお……それは斬界の封印が解かれた証ですじゃ。世界の壁を斬る刀――妖刀『斬界』。お心当たりが、おありでしょうや」
 いかにもと頷き、男は両膝に拳を置く。
 老人は煙草を手に取りふかしはじめる。
「異界の刀鍛冶、アヤカシカカシの打った刀ですじゃ。数にして十本。いずれも世界を壊さんとする力を持っておりました。鞘師も細工師も染屋も紐結いも、みな刀を世に出すべきでは無いとした。それでも生まれた刀を放ってはおけぬと、それぞれの技でもって封印を施したのですじゃ。わしがその染屋にあたります。封が解かれればわかるようにと、力持つ染料を掛け軸に同調させておるのです」
 なるほどと頷く男に、老人はとっくりと語りかける。
「そんなわしだからこそ分かることがある。封印を解いたのは……あんたですな?」
「……」
「噂に聞けば、神主をしていた紐結いは死んだという。あんたが奪い、彼を斬った。そうですな?」
「いかにも。申し開きはござらん」
 膝に手をついていた男は、そう言って頭を下げた。
「すべて拙者の我儘ゆえ。そのうえ刀はよそへ奪われ、満身創痍で逃げ延びた次第でござる」
「名を聞いてもよろしいか。あんたと、その『よそ』という」
「わけもないことでござる」
 男は顔をあげて言った。
「拙者は等々力雲厳。奪った者らの名は、『アーク』」
「ふむ。大きな組織ですじゃ。災いの種とならねばよいが……さて」
 老人はすっくと立ち上がり、手元の刀を納刀したまま持ち上げた。
「ここへ来た狙いがこれでハッキリした。この妖刀『界悪』を奪いに来た。そうですな?」
「いかにも。だが先に知っておきたい。如何なる刀でござろうか」
「界繋に悪が蔓延る刀。抜く者全てを悪人――悪の執行人とする刀ですじゃ。無論世に放つわけにはまいりませぬ。わしは染屋にしてリベリスタ。参りますぞ!」
 突如五色の染め布が現われ、雲厳の手足に巻き付いた。
 布を引いて自由を奪おうやというその時、彼はうなりと共に立ち上がった。
 布は無残に引き裂かれる。目をいっそう見開く老人。
 雲厳は手のひらから十字の光を放ちつつ、老人の腹に突きを繰り出した。
 崩れ落ちた彼をそのままに、雲厳は刀を手に取った。
「すまぬ。これも拙者の我儘ゆえ……妖刀『界悪』、頂戴いたす」

●妖刀『界悪』
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明はこのようなものだった。
 ある事件によってアークとぶつかったフィクサード等々力雲厳は、失敗を羞じ自らの所属していた組織を抜け、独自に鍛錬を重ねていた。
 その中で綾樫案山子の十本刀なるアーティファクトの情報を掴み、刀の蒐集へと乗り出したのだという。
 今回手に入れた刀は妖刀『界悪』。抜いた者を強制的に悪人に変えるアーティファクトである。革醒者にもある程度の影響があるとされ、雲厳が使用すれば当然ながらよくないことが起こるだろうとわかる。
「今すぐ山小屋におもむき、雲厳から刀を奪取して下さい。よろしくお願いします」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月26日(火)23:01
 八重紅友禅でございます。
 このシナリオは過去のリプレイ『<剣林>妖刀『斬界』、抜刀大活劇!』に少なからず関係しております。尚、読まなくても任務遂行に支障は出ません。
 一応先にお断わりしておきますが、刀の蒐集は雲厳の独断であり、達磨さんと今回の件は全くの無関係です。

●成功条件
 妖刀『界悪』の奪取。
 雲厳の生死含め他全て不問。

●等々力雲厳
 フィクサードの覇界闘士です。
 前回から厳しい鍛錬を重ね、上級スキルを獲得。地力としても高い耐久力と回避能力をもっています。
 これに加え絶対者とBS回復スキルを保有。基本的に隙の無いスペックです。

 今のところ抜いてはいませんが、妖刀『界悪』も所有。
 普通にやばいアーティファクトですが、武器としての戦闘力もかなり高いアイテムなのでガチで使うと攻守ともにかなり強くなります。

 一応雲厳に加えて6人ほどフィクサードがくっついてきますが、彼らは割と弱めです。修行中にくっついてきた舎弟的存在のようです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
アウトサイドソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
ハイジーニアスクリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ジーニアス覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)
ソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)

●『黒入道』等々力雲厳
 移動車の中で、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)は膝を抱えていた。シートの上で小さくなるような格好である。
「こんな時代に刀狩りかー。なんに使うんだろ」
「さあな。時代錯誤も甚だしいが……」
 銃に弾込めを行なう『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。
 横目で、ぼーっと虚空を眺める『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)を見やった。
「いや、身近にいたな」
「等々力雲厳、カ……ヒザシブリダナ」
 リュミエールは少しばかり前の戦いを思い出していた。
 あの場で死んで居たはずの人間だ。そうならず、今こうして生きているのは。
「…………」
 腕組みをして、じっと目を閉じている『ベビーマム』ミリー・ゴールド(BNE003737)。彼女の影響によるところが大きい。
「この中であの場にいたのは、そこの二人だけか」
 リュミエールとミリーを交互に見ていう『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)。
「等々力というのはどういう……」
「強い奴だ」
 風斗の言葉を遮るように、『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が口を開いた。
 肩に立てかけるように刀を抱いた、二十代半ばの女性である。
 あの場にいたもう一人の人物。それが蜂須賀冴である。正確には、冴の記憶と言うべきだが。
 刀の柄を強く握り、流れ込んでくる記憶を噛みしめる。
 絶対無敵の一刀両断が、なんと素手で止められたあの一瞬をだ。
 朔は語尾を強めてもう一度言った。
「強い奴、だ」
 二人座れるほどの広い助手席に、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)と『魔術師』風見 七花(BNE003013)が身体を小さくして収まっている。
 手には今回の資料が握られていた。
「私には、彼が刀を求める理由がわかりません。刀剣のコレクターには見えませんし……」
「わからないことは、わからないことです。アヤカシ十本刀が鍛えられた理由すら定かではないのですから。しかし封じられた理由はよく分かります。私たちが、封じ手に変わって動くべきでしょう」
 資料には、妖刀『界悪』のイラストが描かれている。
 それを中指で撫でた。
「道具は、使われるが宿命なれど」

●人はみな水槽で生きている
 紫色の鮮やかな鞘である。
 それを、大きな手が掴み上げた。
 見上げるほどの巨躯。しかし巨大に似合わぬ澄んだ空気を纏う、まるで大樹のごとき男であった。
「すまぬ。これも拙者の我儘ゆえ……妖刀『界悪』、頂戴いたす」
 かくして彼が柄に手をかけ――ようとしたところで、舎弟たちの声が響いてきた。
「兄貴、誰か来ます! 兄貴!」
「……」
 刀を納めたままの状態で持ち、小屋を出た。
 外では、敵襲を警戒してか雲厳の舎弟を名乗る六人ほどの若者がたむろしていた。
 彼らの一人が、こちらへ近づいてくる敵の気配を察知したのだという。
 誰かはわからぬ。
 目的も知らぬ。
 しかし雲厳には分かっていた。
 理由は無い。
 おおよその距離をあけて車が止まり、中から数人の男女が下りてくる。
 その顔ぶれを見て、雲厳は深く頷いた。
「やはり、来たか」
「マア、ナ」
 地に立ち、リュミエールはナイフを抜いた。
 ずらりと並んだリベリスタたちを前に、雲厳の舎弟たちは緊張した面持ちで武器を構えた。棍棒や刀、槍などだ。
 手の中でナイフをもてあそぶリュミエール。
「今回のソレはイラネエ。自分のスタンス変える気、ネエシ。人様ヲ弄クルトイウノモ気ニイラネエ」
「……」
「渡す気もネエシ、抜カセル気モネエ」
 合図になるようなものは、何も無かった。
 強いて言うならば空気がほんのわずかに動いたその瞬間に、リュミエールは地を蹴っていた。
 バク転の要領で後方へ飛ぶと、停めてある車体へ横向きに着地。身体をバネのように縮めると、バネのようにまっすぐ自分を射出したのだ。
 咄嗟にトンファーを交差させた男がそれを受け止め、衝突音を合図に風斗と壱也が駆けだした。
「ただの刀コレクターにしてはお金かかるでしょ。それに強奪はよろしくないよね。回収させてもらうよ!」
 壱也はぴょんと飛び上がり、風斗の肩を台にして更にジャンプ。空中で剣を自分ごと大回転させ、豪快に敵へつっこんだ。
 大地がめくれ上がり、方々へ砕け散る。
 相手は防御を試みたが、耐えきれず思い切り体勢を崩された。そこへ思い切り剣を叩き込む風斗。
「大人しくしろ。暴れないなら、命までは取らん!」
 横スイングで繰り出された剣は肉体を斬るには至らなかった。だがしかし相手を野球ボールのように吹き飛ばすには充分だったようだ。しゃくり上げるような声と共に男は飛び、雲厳の真横を通って小屋の壁へと激突した。
 そうしてできた穴をすり抜けて走るアラストール。
「貴殿の望みは存じませんが――」
 長い髪で尾を引きながら、全力で剣を叩き込んだ。
 本来なら、避けるべきところである。
 もしくは手に持った刀を抜いて受け止めるべきだ。
 そうでなくてもせめて、鞘を打ち当てて防ぐべきだろう。
 しかし雲厳は、突きだした手のひらをもって、アラストールの剣を受け止めていた。しかも、まるで鋼鉄を打ったようにびしりと剣が止まるのだ。
 全力の攻撃を、ものともしていない?
 眉間に皺を寄せるアラストール。
「世界を壊す妖刀ならば捨て置けません」
「……」
「貴殿の望みは世界への挑戦ですか?」
「……」
「いずれにせよ剣で語るが武人か」
 いざ、と述べてアラストールは剣を構え直した。
 激しく武器がぶつかり合うなか、敵の殲滅も味方の保護も後回しに、まず小屋へと駆け込んだ人間が居た。
 風見七花である。
「大丈夫ですか!」
 仰向けに倒れた染屋にかけより、口元に手を当てる。
「……」
 状況に納得すると、七花はすっくと立ち上がり、腰から銃を引き抜いた。
 天に向けてトリガーを引き、魔術を発動。雷鳴と共に、激しいスパークが辺り一面を覆った。

「お前らに構ってる暇は無い。まとめて撃たせてもらうぜ!」
 敵の群れめがけて銃を連射する福松。
 しかし相手もそこそこ考えているようで、こちらに向けて逆扇状になるように分散していた。
 一人ずつ確実に潰そうとするならそのうちどこかへ集まらねばならず、射撃で一網打尽にしようとすれば味方に当たるのでよそへ撃たねばならない。
 こちらを倒すことよりも、少しでも長い時間粘ることに重きを置いた布陣である。地味に守りの硬い連中だ。福松は小さく舌打ちした。
「もたもたしてらんないわ! 相手が彼なら、こっちも余裕無いのよ!」
 ミリーが敵のひとりを蹴り倒し、流れるような回転動作で別の敵に掌底を叩き込んだ。
 起き上がりざまに振り込まれた刀を大きく飛んで避ける。
「福松、いま!」
「――!」
 その微妙な隙を狙って、福松はそれぞれの男へ正確に鉛玉を叩き込んだ。
 温泉街の射的ゲームのごとく、ばたんと倒れる男たち。
「そこそこの練度か……」
 その横では、朔が敵の剣を鞘で受け止めていた。
 柄を握り、物理的におかしい速度で抜刀。相手の剣を鞘で受けたまま、派手に一回転して敵の胴を切りつけてやった。
「『閃刃斬魔』蜂須賀朔、推して参る」

●藁束に、死して意味が生まれるのだ。
 雲厳の力量は高い。しかし舎弟たちまでそうとはいかぬ。
「水槽カ。ソレナラ、私はトックニ外にイル」
 たとえばリュミエールひとり補足するのに恐ろしく手間を喰い、まるで天狗か何かを相手にするかのような有様であった。
 槍で突けばその上を綱渡りし、棒で殴れば落ちる枯れ葉のようにひらりと身をかわすのだ。
 雲厳に似て防御や回避はうまいが、相手を倒す能力に乏しい彼らのこと。
 ちくちくと削られ、弱ったそばから風斗の剣で峰打ちをくらっていた。
「う、ぐぅ……」
 呻いてよろめく男を、別の男が支えた。
「立て兄弟! ここで屈しては――」
「っしゃ、二人目もーらい!」
 大上段から飛び込むような斬撃を繰り出してくる壱也。
 が、剣が相手を叩ききることはなかった。
 どころか振り下ろされることもない。
 空中へと飛び出してきた雲厳によって首根っこを掴まれ、明後日の方向に投げ飛ばされたのだ。
「わっひゃ!?」
 遠い車のボンネットを跳ねて転がり落ちる壱也。
 風斗は慌てて振り向き、雲厳の抑え役をしていたアラストールと目が合った。
 失策したわけではないと、小さく首を振るアラストール。
 次に雲厳の身体を見て、左腕が肘から無くなっていることにも気づいた。
 つまり?
 雲厳はアラストールに左腕を切られるかわりに、舎弟を庇いに走ったといことになる。
「お前は」
「兄貴、なんで!」
 風斗を遮って叫ぶ舎弟の男。
 雲厳は口にくわえた妖刀を手に持ち替えると、腹の底に響くような声で言った。
「退け」
「でも――」
「退け。ここで死に、何が成る」
「……!」
 舎弟の男は唇を強く噛むと、その場から散り散りになって逃げ始めた。峰打ちで気を失った者は仲間に担がれてだ。
「おい、こいつは……」
 まさか雑魚連中がボスを置いて逃げ出すとは思わず、福松は敵の背中に銃を向けたまま目配せをした。首を振ってNOを示す風斗。
 同じく銃を向けていた七花も判断に迷ったようで、朔の顔をちらりと見た。
 視線を向けられた朔はといえば、逃げる動物に興味はないとばかりに雲厳にだけ殺気を突きつけていた。
 雲厳は妖刀『界悪』を……まだ抜いていない。
「抜かないのか?」
「……」
「私は強いものが好きだ。君は自分が嫌いか? 何かを成して死なねば認められぬほどに」
「……」
 雲厳の手は今、刀の柄を握っている。
 そのうえで、鞘に結わえた紐部分を歯に咥えた。
「待て、抜くな!」
 手元を狙って銃撃を加える福松。
 対して雲厳は刀を抜き放ち、飛んできた銃弾を真っ二つに切り裂いた。
「くそっ……!」
 こうなっては致し方なし。福松は手にストールを巻き付け、雲厳めがけて飛びかかった。
 雲厳は鞘を吐き捨て、振り上げた足でもって福松の腹を蹴りつける。
 歯を食いしばりつつも、しっかりと相手の足を掴む福松。
 そして突っ張った足の上に、ミリーが両腕を広げてすとんと飛び乗った。
「自分が自分でなくなるような刀を、使おうっての!?」
 炎を纏ったムーンサルトキックを繰り出す。顔面に食らった雲厳はたたらを踏み、対するミリーは一回転して着地した。
「また、達磨ってやつのために?」
「……」
「まったく、ワガママの多い年ごとなのね!」
 大きく踏み込んで正拳突き。
 それをバックステップでかわす雲厳。
 ミリーの頭上すれすれを宙返りで飛び越え、間合いを零まで詰めるリュミエール。
 鋭く繰り出されたナイフを、雲厳は刀でもって弾き上げた。
 一瞬だけ刃に遮られる視界。
 後に一瞬だけ交わる視線。
「お前は、コノ世界ニ何を感ジタンダ。何ヲ、ホウリナゲヨウトシテル」
「……」
 雲厳の肘が突き込まれ、リュミエールがはじき飛ばされた。
 そうして開いた空間を更に埋めるかのように、アラストールが突撃した。
「我が剣、千の雷に通ず――!」
 突撃。それもパワーを全て乗せた突きである。対して雲厳は刀の柄頭を叩き付けて軌道をそらし、紙一重で交わしてみせる。
 だがその時には既に、背後に回り込んだ壱也が大きな剣を横スイングで叩き込んでいた。
 腕を失った左側へだ。
 反応が遅れたか、脇腹にざっくりと剣がめり込む。
 本来なら真っ二つにしていてもおかしくない斬撃が、身体にめり込んだだけというのは驚きだ。だが、もう後はあるまい。
 高くジャンプした七花が雲厳の直上へと至り、立て続けに魔法を連射した。
「魔曲・四重奏!」
 よけるすべはない。
 雲厳は刀を素早く振り回し、魔法を何発か破壊。しかし最後の一発が彼の右目に直撃した。
 チャンスだ。
 風斗は走った。
「お前もそうだろうが、オレは口べただ。だから、オレが勝ったら事情を聞かせろ。つまり、力尽くで聞く!」
 風斗の剣が繰り出される。
 妖刀とぶつかり合い、激しい音を響かせた。
 力尽くで風斗を押しのける。
 だが攻撃は終わらない。
 この時を、この瞬間を狙ったかのように、一本の刀が差し込まれた。
 雲厳に群がる仲間たちの隙間を縫うように、繊細に差し込まれた刀は、雲厳の心臓部分をぴったりと刺し貫いた。
 誰の刀だ?
 いや、この中でこんな武器を使うのは一人しか居ない。
「蜂須賀……」
 風斗の呟きを、朔は無視した。
 ごぼごぼと、雲厳の口から血が漏れ出す。
「これが、望みか?」
 刀を引き抜き、朔は数歩下がった。
 同じく、剣を構えたまま数歩下がる壱也たち。
「……」
 雲厳はきゅっと唇を結び、目を閉じた。
 とどめには至っていない。そう思った矢先、雲厳は自らの首に、自らの刀を押し当てた。
「おい! おまえ何をやって……!」
 ぶしゅん、と果実の皮を切ったような音がした。
 口を開ける。
 血と泡の混じったものがはき出された。
 空気と濁音が混じった声で、彼は言った。
「アヤカシ十本刀。人を斬ることで、封を解く、そして、すべてが解かれた、とき……」
 刀が手から、首から離れ、音を立てて落ちた。
「水槽が、割れ……」
 そして等々力雲厳は、立ったまま死んだ。

●綾樫案山子の十本刀
 今回の事件の中心人物であった等々力雲厳が死んだことで、ことは収束した。
 その場に残った風斗たちは、とりあえずの弔いをしたのちに染屋の小屋を訪れていた。
「その人は?」
 アラストールに問いかけられ、七花は頷いて言った。
「命に別状はありません。というより……そうですね、気絶していただけのようです」
「でしょうね」
 あぐらをかいて腕を組み、ミリーは最初から分かっていたかのように呟いた。
「染屋さんを倒したとき、十字の光を出していたもの。当てはまりそうな技はいくつかあるけど、それってたぶんジャスティスキャノンでしょ?」
「…………」
 風斗は無言で自分の剣を見た。
 雲厳が手心を?
 そんな考えを察したのか、リュミエールがわざと声を大きくして言った。
「アノ妖刀、人斬っテ封印解クンダロ」
「今は生かしておいて後で斬るってこと? ひっどーい!」
 未だに気を失ったままの染屋に近づき、額に濡れたタオルを乗せてやる壱也。
「じゃあ、助かってよかったね。真っ先に確保してなかったら、情報源として連れてかれちゃったかもしれないもんね」
「そうですね。いい判断でした」
 こっくりと頷く七花。
 そこへ、刀を持った福松がやってきた。
 当然鞘に収めた状態である。ついでにその辺のワイヤーをぐるぐるに巻き付けてすぐに抜けないようにしてあった。
「ふう……直接触らずに納めるのは苦労したぜ。そっちのじいさんは? 生きてるのか」
 それならいいと言ってどっかり座る。座って、床に敷かれた掛け軸に気がついた。
「こいつのほうはどうだ」
「『界』の字が完全に消えちゃってる。でも『悪』の字がそのままなの。これって、半分くらい消えるんじゃなかったの?」
「どれ、見せてみろ」
 朔は掛け軸を自分の方へ引くと、至近距離で文字をじっと観察した。
 そして。
「違うな」
 と、呟いた。
「上から違う染料が塗られている。色が同じだから分かりづらいが、ほのかにシンナーの香りがする。刀の染料にこれはまずあり得ない」
「そうなのか? 刀一つ作るのは大変だろうし、たまにそういうミスもありえるかもしれないぞ」
 正確性を求めるつもりで突っかかってみる風斗。
 しかし朔は、それを鼻で笑った。
「こいつは染屋だぞ。そもそも刀は刀匠研師白銀師鞘師染師柄巻師塗師、ものによって金工師や細工師、蒔絵師が加わる。それぞれがプロフェッショナルだ。一本作るのに最低十人がかりだぞ。大仕事となればミスはまずありえない」
 あまりに真剣な顔で言われたので風斗は思わず面食らった。
「詳しいんだな……」
「当然、商売道具だ。今回はその『十人』という数が合致する。残りの刀の位置も、染屋から知れるだろう」
「フウン……」
 リュミエールはほおづえをついて目を細めた。その中に、望む刀はあるだろうかと。
 外では、落ちた枯れ葉が風に遊ばれていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
妖刀『界悪』、回収完了。