●意識反映体少女『レイニーフォトン』について 観測者によって姿を変える少女の話を聞いただろうか。 私が集めた話のなかではこうだ。 ある雨の日、傘をさして歩いていた老人がふと見れば、シャッターの下がった店の軒先に少女が一人立っている。その日は特に思うことも無く通り過ぎるが、また別の日に同じ場所で同じ少女を見かける。 そんなことが何度か続いたうち、いつも雨が降る日に限って彼女がそこにいることに気づく。そう気づいた時から、彼女は自分をじっと見つめるようになる。 不思議に思って話しかけるが、何も応えずにこちらを見ている。 しかしそこから事態が一変するのだ。 家に帰ると、ドアの前に例の少女が立っているのだ。 後をつけられた様子はない。当然話しかけても応えは無い。 気味悪く想いながらも彼女を残して家に入る。そして老人は悲鳴をあげるのだ。 なぜなら、玄関からさきのリビングに例の少女が立っているでは無いか。 ドアを通ってはいない。今自分が立っているのだ。 それから老人は、行く先々でその少女を見かけるようになり、少しずつ意識を病んでいく。 とうとう耐えきれなくなった老人は、両目を焼きごてで潰してしまったというのだ。 このような話が、他にも十数件確認された。全く関わりの無い、住む地方も違う人々がだ。円卓記者団のネットワークで調べてみれば、それは日本に限らず、スペインや中国、ロシアなどでも報告が寄せられていたことがわかった。 それらはすべて、『雨の日に現われ、接触を持った途端取り憑かれるもの』という共通点をもっていた。同時に、行く先々で立っているという行動を覗いては何もしてこないという共通点もだ。 我々はこれを、光子(フォトン)が観測者の意識に対応して姿を変えるという仮説からとって『レイニーフォトン』と名付けた。 そして報告のあった場所を次々とまわるうち。 私もまた観測することが出来た。 嗚呼、我が知的好奇心が恨めしい。 私はその少女に話しかけてしまったのだ。 そうだ。 今も少女は目の前に居る。 キーボードをうつ私の向かいに立ち、じっと私をみつめている。 瞬きもせず、よくみれば呼吸さえしていない。 だが私はもう一つ重大なことに気がついた。 いや、些細なことかもしれない。 世界には何の影響も無いことだ。 だが私には。 そうだ。 遠い過去。 私が忘れた少女の姿を、彼女はしていたのだ。 気づいたときから、私は過去を意識し続けている。 遠い昔。いつものことと忘れ去った、我が幻影が、私を見ているのだ。 嗚呼。 耐えられるはずがない。 このデータを聞いている誰か。 どうかこのことを知らしめてくれ。 恐ろしい。 恐ろしい病なのだ。 彼女の名は『レイニーフォトン』。 思い出の権化である。 私にはもう。 今も。 未来も。 光も。 見えない。 ●あなたはむかし、なにをした? 黒くてまがまがしい服を着た、まるで魔女のようなフォーチュナがいた。 彼女は古めかしくも巨大な本を開き、物語のように語り始める。 「あるところにアザーバイドが現われました。それはこの世界には似つかわしくない、姿をもたないアザーバイドでした。目に見えないほど小さいわけでも、透明な色をしているわけでもない。本当に姿形のない、粒子すら存在しない意識だけの存在でした。彼らは帰るすべを、門をうしないこの世界に取り残されたのです。唯一生き残すべは――」 何も書かれていないページを指でなぞり、彼女は言った。 「ひとの思い出にすまうこと」 レイニーフォトンを観測してください。 あなたの思い出を認識してください。 あなたの思い出にふれ。 そして。 殺してください。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月19日(火)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いつか降った雨のように その女は真っ黒な傘を差していた。 垣間見える口元には、うっすらと笑みが浮かんでいる。 肌に触れる滴が体温ごと自分を奪っていくようで、少年は少しだけ身震いをした。 「あの日、確かにボクはそこにいた」 女はこちらを向いたまま、最初のまま、何も言ってはくれなかった。 傘で隠れた顔半分が、どうにも彼には思い出せない。 彼はさしたままのビニール傘を、もう一度強く握った。 手が冷たい。 肌に触れる滴が、熱ごと自分を奪っていくようで。 「思い出があるんだ」 青は足を踏み出して言った。 「ボクが初めて殺したひとのこと」 降る雨の音が、遠く聞こえた。 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『ロストワン』常盤・青(BNE004763)。 女の姿は既に無く、代わりに少女が立っていた。傘も差さず、後ろに手を組んで立っている。 青は水たまりひとつぶんの距離をあけて足をとめた。 「あれから、一週間たったよ。人間は一週間もあれば全部の細胞が入れ替わるって聞いたことがある。でもボクのここにはまだ残ってるんだ。あの時の言葉が、まだのこってる」 指で自分の耳を……もしくは脳を示して言った。 「ボクは世界のためにきみを殺した。命や、恋や、未来をまとめて殺したんだ」 水たまりに彼女の顔が映った。 あなたもバケモノなら、なんで私が。彼女は確かにそう言った。 七回迎えた夜の間、ずっと考えていたことだ。 あの日の、あの場所をシミュレートしながら、なんて言ったらよかったのか。そんな想像をずっと繰り返していた。 「ボクにはまだ、わからないんだ。これからもずっと、分からないと思う」 でもきっと。 ボクが答えなきゃ行けないときが来る。 耳に向けていた指を、彼女に向けた。 遊びで銃を撃つように、人差し指を僅かに上げる。 ただそれだけで、彼女は血を吹いて死んだ。 あの日のように。 いつか降った雨のように。 「さようなら。ボクがボクでなくなるその日まで、きっと覚えてる」 そして全てが、暗幕の内に閉じた。 ●世界に雨が降らぬ日は 古い映画館。 流れるスタッフロールを前に、銀髪の女は席を立った。 これ以上文字の羅列を見ている必要も無い。 出口に向けてきびすをかえし、スクリーンに背を向けたとき。 幕はゆっくりと引き上がり、広い舞台が姿を現わした。 振り返る。 そこは雨の降る墓地だった。 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――ジークリンデ・グートシュタイン(BNE004698)。 舞台の上には黒い服を着た男女が並んでいた。 何人居るだろう。数えるも憚られるほどだ。 女たちは、薄い布のかかった帽子で目元を覆い、しきりに肩をふるわせていた。 降る雨に濡れないようにか、隣の男が彼女の上に傘をさしている。 牧師の男が、大量に並べられた棺桶を前になにごとか唱えていた。 棺桶にすがりついた女が、意味の分からない声でわめいた。 「その箱の中には、誰も居ないわよ」 言いながら、ジークリンデは舞台に上がった。 周りの誰かのように黒い服を着てはいなかった。 強いて言うなら、どこか喪服に似た軍用の詰め襟服を着込んでいた。 振り向いても映画館は無い。 ジークリンデはどこからともなく槍を抜くと、逆さにして女の背へと突き立てた。空っぽの棺桶を貫き、地面に刺さる槍。女は一瞬にして絶命し、周囲は悲鳴に包まれた。 弔いのために撃つはずの銃を片手で構えると、横凪ぐ風のように流し打ちした。 背を向けて逃げまどう男女が血煙と化して転がっていく。 こうなってしまえば屠殺された豚と同じだ。容量ギリギリに詰め込まれたであろう内容物が飛び出し、地面に散らばる。半狂乱になった女が、夫のものと思われる内容物をかき集め、腹に詰め直そうとしていた。 地面から槍を抜き、投げ放つ。ろくなモーションをとっていないにもかかわらず槍は正確に直線を描き、女の頭部を貫通して再び地面へ刺さった。 足を怪我した子供が居た。 踏みつぶした。 松葉杖を落として慌てる老人がいた。 鉛玉を打ち込んだ。 やがて墓地は血と肉と骨とジークリンデだけになった。 顔を上げる。 「――いい気分じゃないわ」 結局誰も、自分を責めはしないのか。 ●君が泣く日に雨が降る 墓地の端。季節に外れた桜が咲いていた。 桜色の目をした女が、花柄のピアスを耳につける。 幹を挟んで反対側。 桜色の目をした女が、花柄のピアスを耳から外した。 片方の女の目が浅い緑色に変わったとき、彼女は言った。 「やっぱり、こうなるよね」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『ココロモトメテ』御経塚 しのぎ(BNE004600)。 ――『毒絶彼女』源兵島 こじり(XXXxxxxxx)。 しのぎは立ち上がり、こじりは座ったままだった。 膝や尻の土をはらって、しのぎは言った。 「ここから前を、知らないんだ。しのぎさんには過去がない」 耳でピアスが揺れた。 「でも『あなた』には未来がないんだよね」 過去のない自分と。 未来のない彼女。 そのつなぎ目がこの桜の木だった。 ただの偶然だったのかも知れない。 それとも必然だったのかもしれない。 「しのぎさんはね、あのあとアークに行ったんだ。自分の何かがわかるかもしれないって……何かが変わるかもしれないって……」 しのぎは幹に手を突いて、ゆっくりと後ろ側へと回った。 こじりは膝を抱え、頭をさげている。 「何も分からなかったし、何も変わらなかった……そんな気がする」 ねえ。 しのぎ(わたし)とこじり(あなた)、どちらが幸せなのかな。 問いかけに答えは無く。 頭をあげたこじりに、顔はなかった。 目を細め、蹴りつける。 顔面が拉げ、木の幹にぶつかって爆ぜた。 首の無い身体を掴み上げ、手を入れて引き裂く。 中身がぼたぼたと地面におちていく。 それだけだ。 「どっちでもいいよね。結局生きてるのは、『わたし』だけなんだから」 ●雨の日の空を君は知らない 桜木のそばを、小さな子供が駆け抜けていった。 はやくはやくとせかされて、別の子供たちがついて行く。 そのなかに彼女はいた。 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『さくらイズム』桜田 京子(BNE003066)。 ――『さくらさくら』 桜田 国子(XXXxxxxxx)。 京子の手を引く、ピンク髪の子供がいた。 「国子、まってよ。転んじゃうじゃん!」 野良猫のようにどこへでも潜り込み、野良猫のようにどこへでも駆けていく。そんな姉だったように思う。 対して京子はと言えば運動音痴で、姉より先を走った記憶は多くない。 とはいえ、すぐに調子に乗りたがる国子とすぐに失敗を忘れる京子のコンビにコンプレックスは無かったのではないか。 その日はたしか、湖の未確認生物だか、宇宙生物だか、都市伝説だか、そんなようなものを探して走り回っていたはずだ。 すごい発見をして騒ぐ姉と、きゃっきゃとはしゃぐ自分。 それが全部父のイタズラだと知ってがっかりする姉と、それでも笑った自分。 ……そんな様子を、15歳になった二人は眺めていた。 湖の畔に腰を下ろして。 「楽しい思い出、沢山あるね」 京子は立ち上がり、国子も立ち上がった。 「歳、同じになっちゃった。なにやってんすかもう」 向き合って、自分の頭に手を乗せる。 身長も、こうして見れば一緒くらいだ。 「この先もきっと、こんな感じっしょ。たぶん」 京子は拳を振り上げて、ニカっと笑った。 「それじゃあまあまあ、そういうことなんで――グッバイ!」 影人とダブった京子の拳が叩き込まれ、国子は湖に転げ落ちた。 ●雨よ降れ、熱を忘れぬうちに。 噴水が高い水柱を上げる頃、青年は廃校舎の前に立っていた。 「ははは、素晴らしい。感謝するぞ……この機会!」 青年は眼鏡を指で押し上げると、蹴破らんばかりの勢いで校舎へと踏みいった。 「かつて殺した我が親友。もう一度――戦って殺す!」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『みんなのカイチョー』四十谷 義光(BNE004449)。 廃校舎の、ある教室。机も既に撤去されたそこに、『 』が立っていた。 扉を開け中へとはいる義光。 「ああ、見える。久しぶりじゃのう『 』!」 『 』に顔はよく見えなかった。そこだけ濃い霧がかかったようにぼやけて、声もなんだかくしゃくしゃとしていてよくわからない。 けれどそれで充分だった。 義光は両手の拳を脇の位置に構え、全身に気を漲らせた。 「あの時は、ワシが不甲斐ないばかりに長く苦しませたな。だがもう、あの頃のワシはいない。今のすべてをもって――!」 『 』が地面を蹴り、義光へと飛びかかった。それだけで床タイルが踏み砕かれ、大気がうめく。 しかし義満は彼の拳を自らの額で受け止めた。 びしり、と背後の黒板に亀裂が走った。 ポケットから取り出したものか。小さなナイフが義満めがけて繰り出される。 胸がばっさりと切り裂かれ、深い傷が交差した。 びしびびしりと教室に亀裂が入り、まるで羽化する前の卵のようだった。 「長い間忘れていた。『 』の顔が思い出せなかった。どんな顔で死んだのか、何を思って死んだのか、ワシはずっと……」 目を瞑る。 胸の傷が銀色に輝いた。 教室を亀裂が教室全体を覆う。 腕を引き、足を引き、踵をつよく地に着けて、義満は目を開いた。 「思い出したかった!」 彼の拳が繰り出され、『 』へと叩き込まれる。 教室の亀裂が吹き飛び、全てが吹き飛び、粉々に散った。 「なるほど」 目を細めて笑う。 「あんた、そんな顔してたのか」 ●雨が降った日の数を、誰も覚えていない。 舞い散る瓦礫の粉がぱらぱらと空を舞っていた。 その時頭の上に置かれた手は、とても大きなものだった。 皺の深い、ごつごつした手だ。 ずっとずっと昔から、その手は大きなものだった。 少女は顔を上げ、何かを言った。 どこへ行くのかと言ったのだと思う。 「静岡が大変でな。手伝ってくる」 少女は頷いて。 「……行ってらっしゃい。おじいちゃん」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)。 ――『十二代目紅椿』■■ ■■(XXXxxxxxx)。 背を向ける老人の背に、椿はなにを言おうか考えた。 待ってと言うべきか。 それともなにか、別の言葉をかけるべきか。 さんざん迷って『あの』だか『ねえ』だか、よくわからない声を出した。 振り向いた老人は、強く眉間に皺を寄せていた。 悲しみの顔や、苦しみの顔や、笑顔や、怒りや、様々な表情がないまぜになっては消えていく。 喜怒哀楽のどれとも表現できぬ、それは不思議な顔だった。 老人は最後になにか言おうとして、開きかけた口を閉じ、再び椿に背を向けた。 そして少女椿は――。 いや、23歳。依代椿は、銃の安全装置を外した。 その音を聞き。 長い経験がそうさせたのか。それとも椿の中にある『紅椿』がそうさせたのか。 老人は人を殺す顔で振り向いた。 額に銃口が向いている。 ぴったりと狙いを会わせたまま、椿は歯でグローブの裾を引いた。 「おじいちゃん……うちな、言うことあんねん」 老人の目は、孫に向けるそれではなかった。 しかし敵に向けるものでも、はたまた味方に向けるものでもない。 強いて言うならそれは。 「うち、組継いだよ」 己に向ける、目であった。 「紅椿組、十三代目紅椿、依代椿。真っ赤に染まった椿の如く、自分の命運摘み落したる」 引き金がひかれ、撃鉄が下りた。 乾いた破裂音と共に、目の前で老人が崩れ落ちる。 「往生、せえや」 ●どこかにやまない雨が降る。 銃声が響く雨の中。 黒いジャケットを着た男が横たわっていた。 雨に濡れた野良犬のように、ぼさぼさ頭の子供がすがりついてわめいている。 手を握り、彼は言った。 「死なないで。みんな来るから、がんばれよ! 『 』!」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)。 必死に呼びかけるコヨーテ少年。その後ろに、コヨーテは立っていた。 「なァ、オレよ。そりゃ違うだろ」 少年のわきにかがみ込み、頭を掴んでやる。 「オレが今しなきゃいけねえのはな、『 』を殺すことだ。見ろよほら、苦しそうじゃねェか」 でもと少年が言った気がしてコヨーテは歯を見せて笑った。 「そいつたぶん、今から命乞いするぜ。母ちゃんに会いたいって泣きべそかくんだ。そんな『 』、見てェか?」 少年が首を振る。 「なら分かるよな。場所は教えてやる。やり方は……知ってるな?」 少年は頷いて、『 』の首に巻いていたスカーフを外した。 縄のように硬く捻ってくびにくくるようにまき直す。 コヨーテはギザギザの歯で笑った。 「よく知ってるじゃねェか。そいつが教えたやり方だっけか? 忘れちまったなァ、それも」 何も言わず、まるで気を失うように息絶える『 』。 「オーケーオーケー。それでいい。死ぬより、負けるほうがカッコ悪ィもんな。『 』が自分で言ってたこった」 ゴーグルに指をあて、目の辺りまで引き下げる。 少年は振り返った。 笑顔で振り返った。 「よくやったな。お前ェは……」 握った拳に炎を宿し、コヨーテは少年をたったの一撃でミンチのなりぞこないに変えた。 「オレは、強くなれるよ」 雨が降り、コヨーテの頬をぬらした。 ●雨の色はいつもおなじ。 降り注ぐ雨の中、赤い着物の女が立っていた。 向かいには青い着物の女がひとり。 二人は同時に目を瞑り、同時に目を開いた。 青い目の女は笑い。 赤い目の女は笑わなかった。 「ほんとうに、この目で見ることができるなんてね――絢堂霧香」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――さあ思い出を殺し、今と未来へ進むのだ。 ――衣通姫・霧音(BNE004298)。 ――絢堂・霧香(XXXxxxxxx)。 「聞いてもいい? なぜ私だったの?」 にこにこと笑うばかりの霧香に、霧音は短くため息をついた。 「そうだったわね。応えないんじゃ、独り言になっちゃうわ」 降る雨の音が、とても鮮明に聞こえた。 霧香は腰にさした刀を鞘ごと抜くと、くるりと反転させた。 柄側を霧音に向けて突き出す。 柄を握ると、霧音の脳裏に様々なものが走った。 勇ましい戦いの記録。激しい愛の記録。悲しい別れの記録。 噛みしめるように瞑目する。 「殺すための私とは、まるで違う記憶だった。まぶしくて、うらやましかったわ」 かちり、と鞘から刀を数センチほど抜いた。 刃に映る沢山の顔。 愛しい顔。憎い顔。暖かな顔。何十人もの顔が映っては消えた。 「私はあなたになりたかった。あなたのまねをすれば、同じようになれると思ったの。でも皮肉なものね。あろうことか敵に言われたのよ、これが他人の借り物だって」 ゆっくりと刀を引き抜く。 鞘をすべる刃の音が、心地よく響いた。 「でも今はわかるの。あなたがなぜ、『あしてまで』守ろうとしたのか……」 刀を抜き放ち、花のように裾をひろげ、霧音はくるりと回った。 雨の降る景色が、霧香が、全てがばっさりと斜めに切断されていく。 「これが最後の――私のための、ひとごろし」 ぱちん、と鞘に刀を収める。 鞘は自分の手元にあった。 目を閉じ。 青と赤の目を開ける。 「さようなら、私の思い出」 ――かの名はレイニーフォトン。 ――観測者によって姿を変え、今なき思い出を掘り起こすもの。 ――思い出を殺し、今と未来へ進んだ彼らにはもう、必要ない。 ――いつか降った雨のように。 商店街の一角に、黒い傘をさした女がいた。 バスが前を通り過ぎ。 気づいたときには消えていた。 いまはなき、過去の幻影。 レイニーフォトン。 |
■シナリオ結果■ | |||
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