● 「あ、どうもどうも、いやあ、最近寒くなってきましたね。おかげで毛皮も着込まなくちゃならなくってねぇ、どうしようもないんですよね」 ハンカチ片手に喋りかけてくるサラリーマン……ではなくパンダ。 体長は悠に2mを越えて居るのだが、何故か友好的である。どうしたものであろうか。 「ああ、そういえば聞いて下さいよ。隣のケージの山田さんが……え? 山田って誰かって? やだなぁ、山田さんですよ。そうそう、山田さんがね、毎日やってられないって言ってましてねぇ」 どうしてか日常的な事をしゃべるパンダは檻の外にどっしりと座っている。 その隣にはやたらでかく大きな瞳をしているアイアイとやたら図太い神経をしてそうなカバがいた。 「アイアイイイイイッ」 「カバッ」 ――鳴き声が、おかしかった。 彼等は普通の動物ではない。エリューションだ。しかも超テンションであるのだから、何とも言えない。 ぼんやりと見つめている一般客に被害が出る前にアークに何とかして欲しいというのが今回のオーダーなのだろう。 もふもふした腕をまっすぐにのばしてくるパンダの隣でどすどすと鈍い音を響かせるカバが声をあげている。 「ええっと……」 「ああ、どうも。いえいえ、何、ちょっと広い世界を見たくなった訳ですよ……」 もふ、とその腕が伸ばされるのだが隣のアイアイはギョロっとした瞳で『テメェ、何見てんだよ』といった顔をしている。 三人……いや、三匹共に違った反応をする動物達はもふもふツルツルしながら襲い掛かってきた――! ● 「うん、敵は……喋るパンダとカバッて鋭く鳴くカバとやたら目つきの鋭いアイアイよ」 真顔だった。 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の不思議な言葉に一同茫然と首を傾げている。 動物園や水族館が大好きな月鍵女史はそっと資料を捲くり柔らかく微笑んだ。 「場所は動物園。今日ば閉園して貰ってるんだけど、そこに2m級の大型パンダが現れたわ! ちなみにカバとアイアイもでかくて威圧感はあるわ! ……エリューションです。倒してきてほしいのです」 如何ですか、と告げる世恋。突然のテンション落下に付いていけないリベリスタが「はぁ」と声を漏らした。 「それで、そのエリューションを倒しちゃえばいいと」 「はい、その通りです! もふってツルツル撫でながら倒せばいいの」 「はあ……」 「撫でてあげると何故か戦闘力の低下があるようだわ。なので、存分に相手して欲しいの!」 喋るパンダだしね、とはしゃぐ世恋に一同困惑を隠せない。 勿論、エリューションである以上倒さなくてはならない。 それは分かるが彼等は何故か喋って立ってそして歩きまわっているそうだ。正直、戸惑う。 「あ、ああ、一応お願いしたいのは彼等を倒して欲しいのと市街地に出さないで欲しい。この二点よ。 戦闘場所として適してるのは大きい広場かしらね。売店とかが何時もはある所。 ……あーとは、気を付けて欲しいのは他の檻とかに傷つけないこと! 普通の動物が逃げ出しちゃ、ちょーっとマズい事態になるから……虎とか、怖いじゃない?」 そうでしょう、と微笑んだ世恋は頑張ってねと激励を送りリベリスタへと手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月17日(日)23:14 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 動物園は静かだった。それは勿論だろう、人っ子一人居ない空間と言うのはなんとも珍しい。 係員に話しを通し、餌を分けて貰う事に成功して居た『薄明』東雲 未明(BNE000340)と動物園の檻を眺めながら溜め息をついた『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)の二人は、よく見るアークのリベリスタとでも言った感じであろうか。 「動物園の動物がエリューションに……ね。確かに常に見世物にされたりしたら嫌気がさすのかもしれないけど」 焔の視線の先には丸い瞳を向けて居る猿がいる。同じ霊長類であってもこの差があるのかとでも告げる様に猿は焔を見詰めている。 「黙って貴方達を外の世界に出す訳にはいかないの。御免なさいね」 きぃ……。サルの鳴き声を聞き、未明が身体を揺らす。早くパンダをもふもふと触り続けたい欲求があるのだろう。分けて貰った餌を握る手は我慢だと言い聞かせる様にきつく握りしめられていた。 「パンダとアイアイ? カバは……正直どうでもいいかな」 モフモフしたいんだと瞳を輝かせる『appendix』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は可愛らしい少女の様なかんばせに『もふもふ』の魅力を全力で表して居た。メイが女性であるか男性であるかをさて置いて、この可愛らしい雰囲気は明らかに『少女』である。 メイ(少女であるかそうであるかはよく分からない)と少女5人と馬の布陣でパンダの元へ向かうリベリスタ達。 ――馬……? 「はい。馬なのです。名前ははいぱー馬です号なのです」 『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)の跨った愛馬は小さく鳴き声を上げている。馬の鳴き声が何だか『うまー』に聞こえた気がするのはイーリス時空か何かであろうか。 「馬……。ハッ……! ねーさま……ぱんだです……大きいです……!」 はいぱー馬です号の特殊な存在に目を向けて居た『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がそっと前を向き――その時彼女に衝撃が走る。 目の前に居たのは何だかとても巨大で二足歩行をしているパンダだ。 しかも何処かくたびれた感じがするのは何とも『動物園の愛らしい人気者』の様には思えない。 何処からどう見ても仕事帰りのサラリーマンの様にも見えるパンダでもその毛並みはもふもふ。そして、リンシードが連れて居た『ぱんだ人形』と同じ色味をしている。 「この人形と……同じ色してます……!」 「ええ、そうね。パンダ、お揃いね」 デジタルカメラを構えたままの『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は目の前で――多分糾華にしか分からない程の変化しかない――笑顔のハイテンション・リンシードを見詰めて頷いている。 呼ばれたパンダさんは「はい、お揃いですねえ」と和やかな雰囲気で告げて居るのだが……。 「ところで、パンダさん。移動しないかしら? 広場の方が色々都合がいいんだけど」 「だそうですけれど、どうしますか? アイアイさん。カバさん」 「カバッ」 「アイアイイイイイイイ」 ――話しが通じてるのか分からない。 見守る未明がふりふりと餌の入った袋を振っている。アイアイは雑食だ。食べ物が入ってるとギョロリとした瞳で未明の握りしめる袋を眺めていた。 ● 笹やバナナ、草をもっているリンシードが「こっちまで……」とちょいちょいと手招きしている。 のしのしと重そうな体を揺らして懸命に近寄ってくるカバの姿を見つめながら焔は「お腹空いてるのかしら」とか見つめている。 「あ、ああ、パンダさん、御免なさいね、こっちに来てもらえるかしら」 ついでに、ともふもふと触りながら労わる様な焔にいやいやと笑うパンダさん。不本意ながらといった様子のアイアイはぐりんとした瞳でメイを見詰めている。 「……目、目ッ!」 大きな目がチャームポイントなのかもしれないアイアイだが、正直あんなにも開かれていると恐怖の対象でしかない。 即刻退場して欲しい気持ちを抑えながら手招くメイの後ろで、未明が餌を持ったままパンダに足並み揃えてくれるかしらと語りかけてパンダに「はいはい、いいですよ。いやあ、移動するに無言というのはあれですから」等と訳のわからない人生(人生なのだろうか)相談を受けて居た。 「あ、この果物いるかしら? ほら、コッチよ」 よたよたと歩くカバに話しかけながら竹と果物を持った糾華もカバにあわせてよたよたと歩いている。 カバは身体が重いことがあってずっしりずっしりと歩くしかないのだろう。なんとも間抜けな光景だ。 「それにしたって……パンダ、カバ、アイアイ……動物園の人気者揃い踏みといったところかしら?」 「アイアイィィィ!」 「アイアイはちょっと異色かしらねぇ」 「アイアイイイイイイイイ」 ――アイアイはちょっと拗ねた! その時、アイアイは糾華の首から掛けられているデジカメで自分を映して貰って人気者アピールをすると決めたのだった。 糾華のデジカメはあの子――リンシードのベストショットを納める事なのだから、アイアイが人気かどうかは関係ないのだが。 「あ、パンダさん、ここでいいわ。有難う」 「いえいえ、礼には及びませんよ。ところで此処まで呼び出してなんですかな。折角の山田さんの愚痴も聞いている途中だったんですが」 饒舌なパンダににっこりと笑った焔が乙女の拳を固め餌を地面に置く。ちょっとお腹を空かせたカバが物欲しそうにカバカバ言っているのをスルーして未明は鶏鳴を構えた。 「中々ない機会だもの……多少の負傷には目を瞑るわ。こういう時の為の運命の恩寵よ」 フェイト復活なんてなんのそのだというようにモフる用意を整える未明へと標的を定めたアイアイ。ふわ、と飛んでくるアイアイの前へと滑りこんだリンシードはPrism Misdirectionを握りしめて及び腰になった! 「ひっ……怖いっ……この子、すごく目が怖いです、お姉様……!」 「アイアイイイッ!」 ――確かに怖かった。 恐ろしい顔をしたアイアイをがしりと掴んでもふり始めるリンシード。アイアイのおててがリンシードをべしりと叩くが何だかその力も弱く……。 「ヤンキーさんも泣いて逃げ出しそうな眼力です……モ、モフれるんですかね……」 「アイッアイイイイイ」 「……ひゃっ……な、鳴き声も、怖いです……よぉし、落ち着いて、どうどう……どうどうどう……」 なでなでもふもふ。怯えたように告げるリンシードに続いてアイアイの滑り込んだ焔がアイアイをなでなでモフモフしながら燃える拳でアイアイへと攻撃を加えていく。 撫で撫で燃え燃えとはよく言ったものだ。その攻撃でアイアイは物理的に燃えていた。 もう毛もチリチリになって死買うのではないかと不安になる位のアイアイの燃えっぷりである。 「いやいや、アイアイさんは人気ですね。ここでパンダの私にも構って下さる方がいればいいんですけれど。そちらのお嬢さんのお名前は?」 「え? ああ、東雲未明よ」 どうもどうもと頭を下げるパンダに未明も少し頭を下げる。そんなパンダをもふもふしているのはメイだ。 足元でちょこんと小さな身体をすり寄せてメイがパンダを撫でて居るなか、パンダがいやあ、と頭を掻いてると見せ掛けてメイをぺちんと叩いた。 「痛っ……!」 「おやおや、手が当たってしまいましたか因みにこれは社会ではよく見られる現象でしてね、これを山田さんも苦病んでいましたよ」 「そ、そっか……でも凄い。パンダって普通ガラス越しでしか見れないし、近くで見るのも難しいもんね。ましてや、モフったりとか絶対に無理だし……堪能、させて貰うね」 もふもふとパンダをなで続ける傍らで、糾華はカメラを構えてアイアイを捕まえてもふもふと身体を触っている。巨大化したアイアイではあるが少女三人からの連続もふりに「アイアイイイイイアイイイイ」と奇妙な叫び声をあげている様だ。 「アイアイ、貴方はちょっと異色ね。故郷でも悪魔と虐げられ、新天地でも怖いと言われ続け、荒れる気持ちはわかるわ。 荒れても評価は悪くなる一方で……ジレンマよねぇ」 「アイアイイッ」 アイアイについて分かるわと頷いている糾華。故郷では悪魔と言われたアイアイは出逢ったら殺さなければならないそうで現在その数は減少しているらしい。 「アイアイ! おまえ、顔が怖いのです! パンダ! もふりたいのです! ですが……カバッ! おまえの相手は! 私なのです! いくですよ、はいぱー馬です号!」 ――イーリス、彼女だけは異色であった。 ● 「いやいや、聞いて下さいよ。所でお名前は何とおっしゃるんですかね?」 「メイだよー」 「ああ、メイさん。あのですね、最近凄く辛くてですねえ」 なんとも饒舌なパンダに「そーなんだ」「大変だねー」「最近はねー」等と適当に返して居るメイはモフモフを続けている。 メイの元へを滑り込んだ未明が全力でパンダを殴りつける。もふもふしている未明に繰り出されるパンダの腕。 殴られた瞬間に感じる痛みとは別に何かの至福が未明には感じられた。 「ヤバッ、そのもふっとした腕ならあたってもいいかもって」 ――思っちゃう。 パンダの腕に殴られてもふもふされ続ける中、一気に攻められる目の怖いアイアイが「あいあいいいい」と叫んでいる。微妙に与えられる回復はカバがイーリスにしか相手にして貰えないからか、その存在誇示の為に行っている様にも思われる。 「カバ! 聞くのです! お前はカバ王を知ってるですか。かつてサバンナで王の中の王と呼ばれたのです」 「カバッ」 ……なんであろうか、言葉が分からない。 だが、イーリスはヒンメルン・ラージェを握りしめたままカバへ向けて大きく声を発した。 「寡黙なカバ王は背中で語るのです。でも権力はカバを腐食させます! いつしか酒は飲む、トムソンガゼルの尻を触る、草は一人占め……キャバ王と呼ばれる様になったのです!」 「カバッカバッ!」 鋭く鳴くカバ。その声を聞きながらパンダが涙ながらに「そう言う事もあるんですね」とリンシードに語りかけている。 ――アイアイはぴくぴくと身体を揺らして居たがもはや相手にされていなかった。 「哀しいのです。……カバ? お前分かってるですか? カバには難しい話しでしたか」 「カバッ……」 「パンダ! お前にはわかりますか! 私、いつかカバ王を倒すのです!」 イーリスの宣言を受けてパンダさんが頷いた。何であろうか、この空間は。リンシードがもふもふとカバを触っている中で、糾華が幸せそうにうふふと微笑みを浮かべて居るではないか。 「……何かしら、この空間」 「分かんないけど、そろそろパンダさんもカバさんも倒しちゃわないとね……!」 やる気を出すぞと言う様にメイが告げる中、パンダをもふもふしているリンシードはパンダの背中にダイブする。 カシャッ! 糾華のデジカメのボタンが押される。何度も何度もリンシードの可愛い姿を逃さないとでも言う様に押され続けるボタンに何処かくたびれた雰囲気のあるパンダさんは「おやおや」と糾華を微笑ましそうに笑っている。 「ところでパンダ、聞いてくださいよ。むしろ聞け」 「あ、はい」 「最近嫁が可愛すぎるんですよ。嫁が。あ、嫁と言った所で結婚はしてないわ。誰って水色した可愛い女の子よ。ふふ自慢なの」 語り続ける糾華の雰囲気が何処か違う。普段の糾華を「斬風糾華さん」と呼ぶなら今は「きりかじぇあじゃかさん」ではなかろうか。 「そう、同性よ。悪い?」 「いいえいいえ、そういうのもあるとおもいますよ。ねえ、メイさん。未明さん」 「え? あ、ああ、そうね」 突然振られた言葉に瞬く未明。突然のパンダの言葉に幸せそうにもふっていた未明はとっさに顔を上げた。 (あああ……もふもふ、埋まる。もふに埋まる。しあわせ……) 未明の心象風景は白いもふもふに全力で埋まっているのかもしれなかった。とてつもなく幸せそうな未明の後ろで回復を行うメイが広げたジャッジメントレイ。 いたいいたいとパンダさんが笑っている。早めに退場してくれたアイアイに胸を撫で下ろすメイの隣、地面を蹴った焔が丸い瞳でパンダを見詰め笑っていた。 「カバさんは特別らしいのよ。残念よね。後で撫でても良いと思う?」 「ああ、存分に。彼実は寂しがり屋なんですよ。所でお名前は何ておっしゃるので? ああ、さっき誰かが名前を呼んでいた気がするんですが。きっと焔さんですかな」 「――え?」 呼ばれたっけと首を傾げる焔。それはさて置いて、パンダさんの毛をちりちりにしながら焔がパンダを殴りつけている。 写真を撮りながらも攻撃の手を弱めない糾華にリンシード。可愛らしい『バ』カップルを見詰めるカバがイーリス(と馬)にしか構って貰えない寂しさからか回復する手を強めていく。 「ッ、カバ……逆さにすればバカ!」 「カバッ!」 怒った。途轍もなく怒っているカバが足をだんだんとさせながら掛けていくその背中をイーリスは追い掛けている。 (……倒すしかないのです。カバ王を勝手に信じた私とお前たちは、少し似てるですか……) ――そもそもカバ王って今何処に居るんですかね! ● カバに対しては何も言う事はないと糾華はカバの相手を全面的にイーリスに一任していた。 何と言うか、きっと糾華もカバ王の話しを知っているのだろう。そして、イーリスに任せることにしたのだろう。 ここで未明が気になったのはカバの事では無く、パンダの良く口にする『山田さん』のことだった。 「あ、山田さんって人生(サイ生)に疲れてたっぽい? 南の島に行きたいとか呟いてた?」 「山田さんは最近サラリーマン生活に飽きてきたみたいなんですよ。いやいや、何と言いますか、住み込みの仕事っていうのも飽き飽きでしてね。まあ、動物園ってそういうもんなんですけども」 「ええと……休暇が欲しいのかしら?」 なんとも世知辛い世の中を語ってくるパンダである。困った様に笑う未明が攻撃を続ける中、カバが少し寂しげな顔をしている。 焔によって毛がちりちりにされて行くパンダをリンシードは可愛いとモフモフして居る所にカバのダイレクトアタックが飛んでくる。 「ひゃんっ!?」 「カバッ!」 そんなにも『バカ』と呼ばれた事が気にくわなかったのでしょうか、と囁くリンシード。そんな彼女の写真をとって糾華は満足そうに笑っているではないか。 カバを追いかけ回すイーリスのハイパー馬です号が『うまー!』と鳴く様に蹄を鳴らして居る。 「大丈夫、山田さんについては動物園に伝えてっ……うわ、馬がきた!」 「はいはい、有難うございます。いやいや、そうなると私も大人しくしておけば未明さんみたいな人に巡り合えたのかもしれませんね」 やけに饒舌なパンダさんにどうかしらと囁いて、一気に力を込めた剣はもふもふの腹を引き裂いていく。 「すみません、ぱんださん……私は、お姉様とこの世界が大事なので……倒させて貰います……! 山田さんの事は、心配しないでください……なんとか飼育員さんに掛けあって見せます……っ」 「幸せになって下さいね。なんともいえませんが山田さんがそこまで皆さんの心を掴んでたのだと思うと何だか私もそう言った日本人によくある苗字を貰いたい位ですよ。いやいや、幸せなカップルの幸せに肖れて嬉しい限りです」 「そう、ですか……。来世では、幸せなもふもふに、生まれて下さい……」 光りの飛沫をあげて切り裂いたパンダさん。その巨体が倒れる前にそっと避けたリンシードにパンダさんは何処か笑っていた。 感動できるのか、出来ないのかとても不思議な状況に糾華はパンダさんと囁いて、カメラを握りしめたままカシャリ、とシャッターを切った。 「寂しかったのなら少しなら撫でてあげるわね。よしよし」 問答無用にカバを殴りつける焔の姿を見ながら、よしよしとリベリスタ達が撫でてやればカバが少し早くなる。 メイが「カバって感触悪そうだよね」と囁けばそんな事無いと言う様に巨体を揺らして居る。 どしんどしんと足音を鳴らし飛び込んできたカバの身体を受け止めた焔がその体を投げ捨てれば、糾華がカバを切り刻んだ。 流れる様な攻撃に今まで放置されていて寂しそうだったカバが両足を蠢かして居る。 「寂しかったわね。よしよし……」 なでなでとカバの鼻先を撫でる未明にカバが「カバッカバッ」と両足を揺らしながら応えて居る。 だが、其の侭、繰り出す120%。正に容赦なしと行った様子に虚しく「カバァァァ」と声を上げたカバ。 「……やはり、お前たちは、少し似てるです……」 どさりと倒れていくカバを見詰めながらイーリスは鳴き声を上げて蹄で執拗に地面を蹴り続けるはいぱー馬です号の頭を撫でる。 それでも執拗に蹄で地面を蹴り続けるはいぱー馬です号の自己アピールはさて置いて。 馬からゆっくりと降りたイーリスは倒れたパンダを見詰めて、切なげに眉を顰めて「パンダ……」と囁いた。 「お前は話しが分かる奴なのです……お前とは大人になってから小汚い居酒屋でいい酒が飲みたかったのです……」 囁かれた声に返る声はない。返るとしても山田さんと名付けられたサイが足踏みをしているだけだろう。 静まり返った動物園でふ、と思い付いた様にリンシードは顔を上げ糾華に――きっとこれも糾華しか気付かない様な微量の変化なのだろうが――笑った。 「ねーさま、ぱんだパジャマ来ませんか」 「え?」 動物の鳴き声だけが其処に残った―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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