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刻骨


 墓標に刻んだ言葉があった。
 異国の地の言葉だったろうか。
 さようならとも言えず、どうしようもない感情を刻みこんだのだった。
「――君は、」
 どこに行くのだろうねと告げた時に言葉は続かなかった。
 死するならば闘いの中が良いと告げた友の言葉は未だに己の中に残っている。
 相棒と『死するなら共に』と決めて居た。
 幸い、二人とも愛しい相手を見つけて居なかったものだから、寂しい奴等だなとふざけ合ったものだ。
「先に逝くだなんて思って無かったよ。フィリス。可愛い彼女を作るんじゃなかったのかい?」
 ――冗談を言ったって帰ってこないんじゃ意味がない。
「俺さ、もっと君と戦ってたかったんだ。ああ、そうだ、これ、供え物。
 ンないいもんじゃないんだけどさ……お前、花とか好きだったろ?」
 戯れごとの様に相棒へと渡したソレが不幸の始まりか。
 青年は気付かない。感傷に浸る様に眼を伏せて、それじゃ、と背を向けた時、彼の足を掴んだのは亡き相棒の腕だった。


「死と隣り合わせとはよく言う物だけど、気が付いたら手を離してしまう時が何時か来るのかしら」
 ポエムを口にしながら『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は資料を捲くる。
 お願いしたい事があるの、と何時も通りに告げるその瞳は何処か憂いを孕んでいた。
「リベリスタの笠戸優弥さんがね、彼は最近相棒を喪ったわ。
 相棒の名前はフィリス・リスターレ。任務上の不注意ってやつかしら、それで――」
 蛇足ね、と唇をきゅっと引き結んだ世恋がモニターに写しだしたのは石で出来た花飾りだ。
 英国風の墓地内にある墓石に飾られたソレは明らかに供え物でしかないのだが。
「こちら、アーティファクト『命珠』。効力はエリューションを呼び出し、続けるという簡単なものね。
 ……で、これを笠戸さんは知らずにフィリスさんの眠る墓に供えてしまった。ここからが私のお願いしたい事よ? フィリスさんがエリューション化してしまった。ソレに加え周囲の木々等にもその現象は広まっている模様なの」
「つまりはエリューションを撃破してこい、と?」
「ええ、そして元凶であるアーティファクトを確保してくれればそれでいいわ。
 笠戸さんが現場で一応は応戦。苦戦中よ。……相手は相棒だから傷つけたくないというのもあるでしょうけれど、時間が経てば彼だって――」
 笠戸が現場に居るが、彼一人で戦闘できるとは限らない。相棒を喪った任務で重傷を負ったと言う笠戸一人では余りに酷過ぎるのだろう。
「アーティファクト『命珠』を回収し、エリューションの撃破をお願いしたいわ。
 ……笠戸さんも共に戦いたいと言うでしょうけど、倒す相手は亡き相棒なのだから、その手も鈍るでしょうね」
 けれどエリューションは世界の害悪。倒さねばならないのだから。
 刻みこんだ想いは骨の髄まで沁みていく。彼を大切だと、相棒だと感じた青年の答えは何であろうか。

 ――殺さないでくれ。

 ――君が、生きていれば、いいのに。

「さあ、悪い夢なら醒まして頂戴? 夢は、見続けたいものなのかしら……?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月23日(土)23:08
こんにちは、椿です。

●成功条件
 アーティファクト『命珠』の回収または破壊
 リベリスタ『笠戸優弥』の生死は此処に含みません。

●場所情報
 郊外に存在する外人墓地。通路はせまく、墓地が障害物になります。
 周囲には木々が存在し、点在する墓石にはどれも花々が添えてあるようです。
 時刻は昼間。ソレは驚くほどに晴れ渡り、青々としています。

●アーティファクト『命珠』
 フィリス・リスターレの墓に供えられた石の花飾り。増殖性革醒化現象と同等の現象を催すアーティファクトとされている。
 大きさは手のひらサイズであり、墓石付近に花と共に飾られています。

●エリューション・アンデッド『フィリス・リスターレ』
 元リベリスタ。任務で命を落とし埋葬されていましたがアーティファクトの効果でエリューション化しました。
 自我は無く、周辺に存在する対象を攻撃します。
 生前のスキルであるプロアデプト系の攻撃を使用。生前は笠戸優弥の相棒であり心優しい青年だったそうです。

●エリューション×6
 フェーズ1。木々や花等が変化したものです。其々の攻撃は多岐にわたります。
 また、『命珠』が存在する20m内に2体以上存在した場合、周囲に同様のエリューションが生み出され数を増やしていきます。

●リベリスタ『笠戸優弥』
 重傷中のリベリスタ。ジーニアス×ナイトクリーク。現在は戦闘能力が大幅にダウンしているようです。
 フィリスの元相棒であり、アークに所属しているリベリスタですが、アーティファクトであることを知らずに『命珠』を供えました。自分の相棒が変わり果てた姿で襲い掛かってくる事を苦に思っているようです。
 戦闘が長引くと死亡する可能性があります。アークのリベリスタの文言次第では共闘を望むでしょう。

どうぞ、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
レイザータクト
月姫・彩香(BNE003815)
プロアデプト
一条 佐里(BNE004113)
ナイトクリーク
折片 蒔朗(BNE004200)
スターサジタリー
片科・狭霧(BNE004646)
ナイトクリーク
常盤・青(BNE004763)
ナイトクリーク
大神 がぶり(BNE004825)
ソードミラージュ
フィティ・フローリー(BNE004826)


 ふわりと浮き上がり、俯瞰姿勢から周囲を見下ろした折片 蒔朗(BNE004200)の目は何処か優しい。
 和やかな雰囲気を持った彼は唇から小さく、ごめんなさいという言葉を漏らした。

「アークの歴史ってやつですけど、聞けば昔、死人の集団と戦った時があるとか。
 その時も『こんな感じ』だったんでごぜーますかねぇ?」
 外人墓地の真ん中で首を傾げた『□肉□食』大神 がぶり(BNE004825)の両手にはナイフとフォークが握られている。結いあげた黒髪が何とも愛らしさを強調する少女ではあるが、食い意地十分と言った様に食器を手に舌を出した。
 彼女が『こんな感じ』と称したのはこの外国人墓地で死者から眠りから目覚めるという光景があったからだ。
「墓前に供えた物がアーティファクト……ねぇ」
 腕を組み、何処か茫と前を見詰めた『空虚な器』片科・狭霧(BNE004646)の赤い唇が釣り上がる。ルージュの塗られた唇が紡いだ言葉にハッとした様に顔を上げたのは、墓前に座り込んでいた笠戸優弥という青年だった。
「アーティファクト……?」
「ああ。あれはアーティファクト『命珠』。此方の狙いは破壊、もしくは回収だ」
 メイスを手に、侠気の鋼でフィリス・リスターレの気糸を受け止めた『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は後方にしゃがみこんだ笠戸へと声をかける。青年の丸い瞳が信じられないと言った様子で義弘の背中を見詰めていた。
 信頼する仲間だった男が蘇る。目の前で死んだ『相棒』がこうして『生き返った』事は笠戸にとっては幸運であったのか不運であったのか。甲乙付け難い事態ではあるのだが、『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)の気持ちは最初から固まっていたという風である。
「大丈夫ですか? 私があなたを護りますから。殺させません、絶対に」
 フィリスさんはそんな方では無かったのでしょうと告げる佐里の左手には閃赤敷設刻印がしっかりと握りしめられている。彼女達前線で戦う仲間を支援する様に『クール&マイペース』月姫・彩香(BNE003815)が広めた護りの効率動作を受け、存在感が希薄であった『ロストワン』常盤・青(BNE004763)はゆっくりと足を踏み出した。
「邪魔だよ、そこ」
 伸び上がる草の蔓を受け止めてランスで千切り、茫とした黒い瞳で前を見据えた青は地面を踏みしめる。たん、と地面を蹴りあげ、安定した足取りで周囲を巻き込む彼に続き、多角的な攻撃を繰り出したフィティ・フローリー(BNE004826)は結い上げたポニーテールを揺らし、唇をにぃと釣り上げた。
「悪夢っていうのは、それを見ることで本当に辛いことへの耐性を付けたり、心をすっきりさせる効果があるらしいね」
 これは何て悪夢なんだ、とでも言いたげな笠戸へと投げかけられたフィティの言葉はどっこまでも真摯なものだ。自身の意思を確立させ、ボトム・チャンネルに踏み入れたばかりのフュリエの言葉は何処までも自由に、確りとした足取りで笠戸の心へと踏み込んでいく。
「私は運命の巡り合わせ、なんてあまり信じていないけど、今まさに起きている事は君にとって、心を強く持ったり、気持ちの整理を付ける為のきっかけなんじゃないかな――?」


 死体が動きだす、という光景にがぶりはあまり馴染みはない。そもそも神秘界隈に来て経験の乏しい彼女にとっては『死体』の相手をするというのも重労働だ。
 結い上げたポニーテールを揺らし、エプロンドレスの裾を撒きあげながら供え物を回収するがぶり。アーティファクトの効果範囲に届かない様に、と彼女は一生懸命に足を進めた。
(これらも誰かの贈り物。どうせ覚醒したら壊さねばならないのですから多少の武令は赦してほしいのでごぜーますね)
 何処か不思議な喋り口調で謝罪を述べるがぶりを狙わんとする草木を断ちきって、浮き上がった蒔朗は優しく笑っている。エリューションへと刻みこんだ死の刻印。墓標に横たえられた花を太刀で斬るという行為は蒔朗には気が退けたのか、柔らかな黒い瞳には影が差す。
「お供え物を壊してしまうのは気が引けますけど……彼らもリベリスタ、ですよね」
 謝罪を告げながら周囲の花々の対応を行う蒔朗に続き、青が踏み込んで、花々を散らしていく。
 エリューション・アンデッドと化した元リベリスタを受け止めた義弘の瞳はやりきれなさが込められている。神々の意思を鎧に変えて纏い、フィリスの身体を押しこんだ事により墓石が崩れ、彼の体がめり込んだ。
 起きあがり、進まんとするフィリスを抑えつける傍ら、笠戸の前に立った佐里が飛び交う攻撃から彼を護る様に尽力する。傷を負った青年よりも幾分か年下の佐里は眼鏡の奥で攻撃を受け止めて唇を噛み締める。
 フィリスは元がプロアデプトであった事もあり、行く手を阻まれた状況であれど、攻撃を周囲に撒き散らす事に長けて居たのだろう。
「笠戸さん、人は心の底から苦しい事や、辛い事を、そう簡単には受け止められません。
 だから、言葉を投げかけるんです。まずは張り詰めたあなたの心を少しずつ解す様に――そして、答えを出して欲しいんです」
「答え……?」
 高校生程度にしか見えない外見の、少女の優しげな声音に笠戸は混乱の色を滲ませながら佐里へと声をかける。彼への攻撃を受けとめる佐里以外にも前線で、攻撃での被害を被ったフィティが魔力槍を軸に飛びあがり、其の侭攻撃を振り翳す。
「私は――個人的な願望だけどね――笠戸さんには生き残って欲しいさ。
 笠戸さん、君が生きたい、苦境を乗り越えたいと思って生き残るべきだ。それは人の意思に左右される問題じゃない」
 フィティの言葉は何処までも真っ直ぐな芯を持っていた。彼女の言葉を聞きながら、供え物の回収を行うがぶりが花を抱え一度戦線から離脱する。誰かの想いが込められた代物であるのだから、それを壊すなんてナンセンスな行いをがぶりは是とはしない。
 長い髪を揺らしながら、笠戸と擦れ違いざまにがぶりの大きな桃色の瞳はすぅ、と細められた。
「良かれ悪かれは置いといても、これはお墓参りで、自分のミスで起こしてしまった相方さえ他人に片づけて貰わなきゃ解決できない姿をお見せになるので?」
「なッ――」
「武器を握り直して、友人に示してあげなさいな」
 さらりと告げるがぶりはさも食べ物にしか興味がなさそうと言った風に表情を歪め「あの草は美味しそうでごぜーますね」と告げている。
「ボク達が戦うのは依頼だからという事もあるけど、ボク達の意思です。
 笠戸さんも自分の意思でどうするか決められる筈です。けど、ここには一人だけ自分の意思とは関係なく戦いを強いられている人が居ます」
 喋る事はあまり得意ではないと言ったふうに口を噤んでいた青が淡々と、茫とした瞳でフィリスを見詰めながら告げる。
 花々が舞い上がり、青の学生服を傷つける。背後から顔を出した狭霧はショートボウを手に、命珠を狙っていた。
「そうねぇ……元相棒さん、ってどんな人だったのかしら? 相棒って呼べるってことは相当信を置いていたのね?」
 バチあたりね、と囁きながら、墓石を足場に狭霧の矢が狙ったのはアーティファクトの破壊だ。長い髪を揺らす彼女の背を見詰めながら小さく頷いた笠戸はゆっくりと足に力を入れていく。
「バカな奴で、一生懸命でそれで――」
「月並みなことばだけれど、彼は貴方が生きて居てくれてよかったと思ってるんじゃないかしら? 貴方が『彼が生きて居れば良いのに』と思うのと同じように、ね?」


 前線での戦いを得意とする笠戸が立ちあがった事で、佐里は彼の意思を問う様にじ、と見つめている。
 フィリスの気糸をその刃で食い止めて、身体を張って攻撃を受け流す彼女の長い髪が揺れるごく。
「笠戸さんは戦うことに踏み切れない位、本当は戦いたくない相手だとフィリスさんを思っているのでしょう?」
「それは、勿論……」
「それなら、フィリスさんだって笠戸さんと戦いたくないって、そう思っているはずでしょう?」
 一番近くで、笠戸を護りながら戦う佐里の言葉は何処までも真摯だ。周辺のエリューションを受け止める佐里の頬に傷が付き、長い髪がはらりと舞った。
「……戦って欲しい訳じゃない。戦うかどうかを、自分でちゃんと選んでもらいたいんです……!
 私達は、あなたの心を汲みます。辛いなら、苦しいなら、私達がフィリスさんを倒しましょう。
 それでも、戦う事を決めたのならば、私達はそれをサポートしましょう。尽力します――!」
 援護する様に弾丸が舞っている。探究する様に目を細めた彩香の視線には好奇が込められていた。
 彼女にとって人とは『いずれ死ぬ』ものだ。遅くは寿命、早くは事故で、人々はそうして亡くなっていってしまうのだろう。生きるものは何れ死ぬ。それが通常のルーティーン。生きて居る者だからこそ、それにしか出来ない事をするべきなのだと彩香は知っていた。
「君。いつか自分が死んだ時に冥土に持っていく土産話は多い方が楽しいだろう?
 君。生きられる可能性があるうちは、その努力をした方がいい。勿体ないからね」
 あくまで研究者であるかのように。少女にしては細く、しっかりとした体躯をした彩香の言葉に笠戸は少女の『性質』を見た気がして息を吐く。
 好奇心の強い彩香が『世界の真実』として捉えた生命のルーティーン。佐里の言った選択の意味を含め、狭霧の言う亡き相棒(フィリス)の想いを汲み取る様にゆっくりと立ち上がる。
「無理に割り切れ、とは言わない。……辛いのは分かるつもりだ。いいのか?」
「ああ……有難う。フィリスは、俺達で」
 倒そうじゃないかと義弘の背中へと声をかける。負った傷からか十分な実力を出せない笠戸を支援する様にフィティと佐里は動き回った。
 義弘の光るメイスがフィリスを傷つける。仲間達へと齎される災いを打ち払えば、彩香と狭霧は両者そろって命珠と名前の付けられたアーティファクトを撃ち抜いた。
「弔いを送りましょう――?」
 死者をじっくりと見つめていた深い海の底を思わせる瞳が細められる。オートマチックを握りしめる彩香の掌に力が込められた
『弔い』は生きて居る者の為のものだ。
 それは笠戸という男が相棒のフィリスへの感情を整理するための行いである事を顕して居る。一連の好意をする事で感情を整理する事が出来るのだと知っていた。
 この墓地と言うフィールドは彩香にとっては 「人が明日を生きる為」の場所だ。置いていかれた側――たまたまでも生き残った自分が何よりも大切だと思うこの場を荒らす事は忍びない。
「私は、リスクを考えれば、アーティファクトを壊す事を厭わない」
「ええ、私もよ。ねえ、笠戸さん。私達が殺すのはあなたの相棒じゃない。お分かり?」
 紡ぐ言葉を聞きながら、蒔朗は宙を舞う。彼の隣に顔を出した笠戸が狭霧の整ったかんばせをじぃ、と見つめていた。
「戦う……んですね、共闘を願います。ご自身が齎した結果は、ご自身で片を付けたいと思われるかもしれません。
 まして、大切な相棒さんです。だから手を出されたくないかもしれません……でも、お手伝いさせて下さい!」
 真っ直ぐに、前線で攻撃を続けて居た蒔朗が言葉を投げかける。手を出されたくないかもしれない。大切な相棒を倒すなら自分の手でと思うかもしれない。
 ぐ、と蒔朗が握りしめた大振りの太刀がエリューションを薙ぎ倒す。前線で戦うフィリスを受け止めた義弘が身体を反転させれば、支援として彩香の弾丸が周囲に降り注いだ。
「フィリスさんは優しい人だと聞きました。相棒さんを殺してしまう事なんて望まないです。
 対して今の貴方は、未熟なおれから見ても本調子ではありません……けど、相棒さんの手を汚して死ぬ事を望む様な方ではないでしょう? ですから――お願いします」
「君……それじゃあ、手伝ってくれるか?」
 小さく頷いた蒔朗が翼を広げて身体を反転させる。周囲を切り刻む青のステップに合わせて『食べ残し』を処理する様にがぶりが縛り付けていく。『草刈り』――討伐を主体に置いたがぶりの隣で幻を生み出し、攻撃を繰り出したフィティが肩を竦めて小さく笑う。
「やれやれ、私は他人の面倒見るのは嫌いじゃないが。優しくはないからね」
「ボクだって腹が減っては戦ができねーだけでごぜーますから」
 両者笑い合って、戦線を押し上げる。佐里が笠戸への攻撃を全て肩代わりし、狭霧が周囲へとばら撒く流星がエリューションを蹴散らせば、残るはフィリスの屍骸のみだ。
「私が代ろうか。攻撃なら君の方が得意だろう?」
「いいえ、大丈夫です。有難う……さあ、行きますよ?」
 フィティの言葉に佐里は頷いて攻撃を受け続ける。フィティは佐里へ視線を送り、唇をきゅっと引き結んだ。
 手助けもするし、彼が望むなら護りもする。ただ、背中を押したり、望まないところまで協力するつもりはない。それを口に出しても仕方ない。余り多くは語らずに戦い続ける。恩着せがましい事がしたい訳ではないのだから。
「……やれやれ」
 壊れた命珠を乗り越えて、周辺の確認を怠らぬ彩香と青の視線が交わった。
 静けさを取り戻しつつある墓地で「あ、あ」と唸る様に声を上げるエリューション・アンデッドに蒔朗が目を細める。
 髪を靡かせた佐里が頷けば、背後から狭霧の矢が真っ直ぐにフィリスの腕へと突き刺さる。
 土色の肌につく痛ましい傷に目をそむける笠戸を勇気づける様に狭霧は肩を竦めた。
「ねえ、相棒を殺すのではなく、相棒の気持ちを殺すのではなく、抜けがらを殺すのよ」
 へどが出るほどの善意の溢れた言葉。何となしに吐き出したそれに狭霧が深いため息を付く。
 死んだら残された者は想い出を抱えて生きるしかない。それはもはや生きているとは言えない状況であるけれど、「……でも」と吐き出す息と共に感情を飲み込んだ。
 刹那主義で利己主義者。所詮、何時かは消えるものであるのだから、好きに生きて好きに死ねばいい。
 単調で飽き飽きな日々を変えた『出来ごと』が何処までも辛い『空虚』なものだとしても。
「運命の悪戯とは言うけど、これは少し悪質だね。……ボク達は無意味な戦いから彼を開放します」
 生きて居る間に十分に戦った。これ以上は無いと青が囁く言葉に笠戸は自前の武器を握りしめて一歩踏み出した。
 嫌になるほどの晴天が広がっている。鮮やかな青色は戦意も悪意も、全てを消し去ってしまいそうなほどに見事な色をしていた。
 笠戸が不吉を占うカードを投げ入れる。それに合わせて真っ直ぐに義弘はメイスを振り下ろす。
 満身創痍と言った屍骸の動きを感じとり、これ以上はないと告げる様に振り下ろされたソレが真っ直ぐに屍骸の胸へと突き刺さる。
「――再び眠れ、フィリス・リスターレ! 友の祈りと共に、安らかにな!」


 壊れたアーティファクトは何処から手に入れたのは分からない。
 がぶりら女性の目線から見ても可愛らしい造形をしている供え物は中央で割れた物の、神秘的効力を持たない只の飾り物になっている。
「……これ、壊れてない部分を集めて供えるのはどうですか。花をあしらった墓ってのもなかなかいい物に思いましてよ」
「もう効力もないみたいだし、いいと思うよ」
 転がった『命珠』はただの花飾りだ。何の神秘的な影響を持たないソレは可愛らしい花である以外は何の変化もみられない。
 それじゃ、とアーティファクトの効果外へと退避して居た花を並べるがぶりが嬉しそうに笑みを浮かべる。手伝うフィティに続き、背後で座り込んだ笠戸の元に足を向けて佐里は緩く笑って見せた。
「フィリスさんは、ありがとうって、言ってくれるでしょうか……ううん、誰だってそう言ってくれるはずです」
「本当に……?」
「大切に思って、思われていた間柄なら――相棒なら、なおさら。
 フィリスさん、私達はあなたの大切な相棒を護りましたよ? そして、あなたの心も守れたって……そう、思って良いでしょうか」
 相棒を自らの手で死に追いやることを防いだこと。何よりも、自らの意思以外で起こされた身体を再び眠りにつかせた事。きっとそれは護れたと言うのだろうと佐里は目を伏せる。
「二人は、心のずっと奥で繋がっている。こういうのを、絆って言うんでしょうかね。羨ましいな……」
「俺は、君の強さが、羨ましいよ」
 苦笑交じり、笠戸が吐き出した言葉に目を丸くした佐里が小さく笑う。佐里達が用意して居た花は命珠の代わりに墓前へと並べられる。そっと墓前に供えた花は何という言葉の意味があっただろうか。
「実際に顔を合わせた事はないが、アークのリベリスタという仲間だし、な」
 安らかに眠れと声をかける義弘の後ろ、応急的な修繕を行おうと彩香は立ち上がり蒔朗と共にてきぱきと掃除を行っている。
「……荒らされ散ってしまってはここを訪れる人にはショックだろう」
「そうですね。あ、笠戸さん……手を合わせてもいいですかね?」
 出来れば、弔いたいと囁く蒔朗に頷いて、笠戸は目を伏せる。
 救ってくれた君達にはフィリスも感謝して居るよと囁く言葉に佐里が小さく笑みを浮かべて頷いた。
 無理に動いた結果、傷も痛むだろうと改めて治療を受けましょうと進める青が何気なく空を見詰める。
 茫とした瞳が嫌になる位に晴れ渡った空を見上げて溜め息を吐き出した。

 ――あの空の向こうに、お父さんとお母さんも居るのかな。天国でまで、喧嘩しないでね?

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 刻骨、中国語か何処かの言葉でしたでしょうか。
 骨の髄までといった言葉であるのが印象的なのでした。
 笠戸への配慮有難うございます。とても優しい言葉ばかりでした。

 ご参加有難うございました。
 また別のお話しでお会いできます事をお祈りして。