● 「御機嫌よう、素敵なドレスだわ。ベリー。貴女も素敵よブルー」 くすくすと笑う声は何時か、『二人』の少女が聞いたものだった。 それは何時かの想い出――今でもドレスは褒めて貰えるかしら? 血を思わせる赤いドレスに、それに相対するブルーベリーを絞った様な青いドレス。 どちらも華美な『ドレス』を纏っている様に見える二体の『キマイラ』は唇から「ひひひ」と気色の悪い声を漏らし続けて居た。 彼女等はドレスを着ているのではない。人間に近い体躯を包む赤は紛れもなく彼女の皮膚だ。 人間の皮を赤く染め繋ぎ合せたドレスの鮮やかさは遠目から見れば美しいドレスにしか見えない。 無論、蒼いドレスだって人間の欠陥と言うもの全てで編み込んだ美しい物だった。 口をパクパクとした二体のキマイラの顔は美しい英国の少女のものだった。 眼を伏せる二体が「ひひひ」ともう一度笑い声を漏らせば、ハーリンゲイを凶行に陥れる為にひたひたとゆっくりとその足を進め出した。 ● 日本、アークのブリーフィングルームで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は航空券を机の上に置いて「お願いしても良いかしら」と首を傾げる。 「こちら、イギリス。その首都の倫敦。スクエア・マイルの北方、ハーリンゲイ・ロンドン特別区にあるアレクサンドラ・パレス近くに『キマイラ』が観測されたわ」 さらさらと告げる世恋は『スコットランド・ヤード』からの依頼です、とリベリスタを見回す。 「キマイラは他のエリューションタイプではないの。人に在らず、アザーバイドにあらず。だからこそ『エリューション・キマイラ』、とでも呼びましょう。その出現があったの。 他のエリューションの出現も有り得る倫敦地区で、突如出没するキマイラに『スコットランド・ヤード』の手も足りない。だからこそ私達への要請が来た訳です」 此方の方が『キマイラに対しては闘い慣れてる』と世恋は頷いて見せる。 キマイラ技術と言うのは元は日本フィクサード七派に所属した『六道紫杏』のものだ。それが国外に流出したのは元はと言えば『こちらの撒いた種』。此処で手を貸さないと言うのも何とも可笑しな話になるだろう。 「日本で観測されたものから更に『改良』されたものであるらしいの。 ああ、因みに、『倫敦の蜘蛛の巣』という組織の関与については表向き否定されてる模様よ。事実確認はしなくとも分かるでしょうけれども……」 こほん、とわざとらしい咳払いを挟み、それでと世恋は視線を送る。 「国外である以上万華鏡は使えないの。ごめんなさいね、月鍵は今回、『ヤード』から貰った情報を資料にまとめる位しか役に立ってないわね。 んん、そんな月鍵から、一つ……不測の事態が起きる可能性は十分に有り得るの。気を付けてね? 現在はアレクサンドラ・パルス近くで暴れ回ってる事が分かっているわ。市中に出せば、キマイラが一般人へと手出しする可能性が、十分にありえる」 誰かが傷つくのは見過ごせない。それがリベリスタでしょう、と世恋はリベリスタらへとそっと航空券を手渡した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月16日(土)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夕刻の倫敦は肌寒い。イベントホールとして使われる宮殿風の建物に背を向けて紫髪の美少女――『那由他・エカテリーナ』こと『残念な』山田・珍粘(BNE002078)の外見は常と何処か違う様にも見える。 茫、とした色を宿す瞳に浮かんだ熱はこれから相手にするエリューション――人に非ず、アザーバイドでもなく、どのエリューションタイプに属するかも判別し難い存在――キマイラの外観を想像し恍惚の息を吐き出した。 「キマイラでも可愛い少女なんでしょう? 大丈夫、そういう子も大好物なんです」 綺麗にばらして美味しく頂く。那由他の言葉に孕む狂気に小さく笑んだイリア・ハイウインド(BNE004653)は銀の猫尻尾と猫耳を幻視で隠し、緊張した様に胸を張る。 「日本以外でも任務を行う機会ができたのは最近のことらしいですね。今までのアークの功績等々から、世界から任務の要請が来るようになった」 前線で戦う『仲間達』の誇り高い成果に胸を張ってイリアは緊張した様に頷いた。 日本でアークのリベリスタとして活動するのには比較的慣れ始めたばかりだ。慣れた土地では無く、海を渡った遙か遠方――イギリスの倫敦にいるのだ。 「日本とやる事はあまり変わらないですけれどね」 街へとゆっくり歩いていく『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の言葉は、彼女当人にその気がなくともイリアにとっては励ましになっただろう。育ちの良さか、ある程度の英会話は嗜んでいると言う彩花は自身の会社に社員として出入りして居る『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)を連れたって市中をゆっくりと歩いていた。 「イギリスですか……茶器を買って帰りたいところですねえ」 「ショッピングは後ほど。さて、行きましょうか」 彩花と慧架の軽やかな声を聞きながら、人気の薄い街の中を歩く那由他の視線が茫、と空を見つめていた。 路地裏は、何時だって冷ややかである筈だ。しかし、日の射さないここ妙な生温ささえ感じる。 携えた幻想纏いの蝶々がひらり、と舞い先行する中、かすかな音でも拾えるようにと集中しながら『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)は歩いている。彼女の耳が拾う音は沢山のものが混ざっている。市中の生活音や人々の喋り声。路地の中でも聞こえる其れに若干の煩わしさを感じながら、珠緒が視線を送れば、結界を張り巡らせ『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は周辺の警戒を随時行っていた。 「誘拐は防がないとな……何処に居るのか……」 握りしめたアークフォン3Rから聞こえる仲間達の声に耳を傾けながら、情報を共有する疾風の言葉を聞きながら、持ち前の勘の鋭さで路地の中を歩んでいく『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)の表情は何処か暗く、気落ちしたものに思える。 キマイラであれど『可愛らしい少女』だと微笑む那由他とは対象的に焔は「趣味の悪い」と毒吐いた。 人を繋ぎ合せたドレスを身に纏ったキマイラ。皮膚や血管を元に編み合わせ、繋ぎ合せたドレスを着ているノーフェイスが如し少女。その皮膚が誰のものであれど、焔にとっては『気色の悪い存在』に他ならないのだろう。 「流石は忌々しい落とし子、とでも言ったところかしら? ……倫敦の蜘蛛の巣の闇に身を潜めた六道紫杏が創造した禁忌の存在。同じ事を倫敦で繰り返すの?」 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の言葉は自身が、昨年末に三ツ池公園でキマイラ達と戦った経験からくる言葉なのだろう。 六道のフィクサードであった『六道紫杏』が創造したキマイラは日本でも幾度も応戦する事になった相手だ。『彼女』が倫敦の蜘蛛の元へと逃げ込んだその事案から発生したのが今回の海外遠征なのだ。彼女の慕う『教授』に何かしらの思惑があるのか、それとも無いのかと糾華は黙し考えながら歩いている時、珠緒がそっと顔を上げた。 「倫敦来るんやったら、仕事やなしに来たかったなぁ。無事終わったら、皆で観光しよか?」 こっち、と手招く珠緒の目は決意に満ち溢れている。聞こえる音の音階は分かる。それが『何』の音かの詳細まで判別できなくても大体が想像つけば十分だ。 長い腕の擦れる場所、生物的なものや、烏や鼠などの小動物が全くと言っていいほどに居ない空間がある。恐怖を感じて動物が逃げた可能性。それを珠緒は考えて居たのだろう。小さく笑い「ジャストやな」と囁く声に頷いた疾風が手にした幻想纏いを通し、イリアへと連絡を入れれば、あちら側からも小さな了承が飛んできた。 ● ずるずると引き摺る音はその体躯にしては長い腕であるからだろう。地面を引き摺らねば歩く事も叶わぬキマイラ二体は互いに幾許かの距離を開けてのんびりと歩いている。 皮膚や血管で覆われた襞はぺたりと粘着質な音をさせて居る。周辺地図を頭の中に込んでいた珠緒は走り、その音の場所への近道を直ぐに指し示す。 赤い少女は皮膚を血に染めた何とも気色の悪いものを、青い少女は血管を結い合わせお世辞にも美しいとは言い難いものをまるで『ドレス』のように身に纏っている。 彼女より先に前線へと飛び込んだのはチャイナ服を纏った焔だ。一瞬足を止め、姿勢を低くして顔を出す。自身の首辺りの位置辺りに飛んだ衝撃波に焔は唇を歪めて、前線へと飛び込んだ。 「貴女達がキマイラ? 残念だけれど、今の貴女達の纏うドレスは素敵なんて云えないわ。 今此処で、私が燃やし尽くしてあげる――!」 地面を蹴り、焔を纏った拳を振り翳す。その拳が真っ正面からベリードレスと名付けられた皮膚を繋ぎ合せたドレスを模した様相の少女を殴りつければ、周囲に存在するヒューマンダイヤが焔に意識を向けた様に集いだす。 「騒ぎが大きくなる前に片づける。行くぞ、キマイラ! 変身ッ!」 手にしていたアークフォン3R。変身ポーズを決め、正義のヒーローへと『変身』した疾風は焔に近付くヒューマンダイヤの前へと滑りこんだ。気を制御しながら肉体を硬質化させる疾風の周囲へと近寄らんとするブルードレス。 ちらりと視線を送り糾華が彼岸ノ妖翅を手に運命のルーレットを展開させながら銀の髪を靡かせる。二つに分けた班の編成上、キマイラからの序盤の攻撃はかなりのものだろう。 前線に布陣する焔、糾華、疾風の三人の背後から回復と支援を行えるようにと珠緒は魔楽器を握りしめる。三人の背中を見守りつつ、彼女の耳が捉えたのは仲間達が現場へ急行して居る音だった。 「防げるもんなら、誰も巻き込まんのが一番や。……ほら、がんばろか?」 にぃ、と唇を歪める珠緒の言葉に頷いて、焔の拳を振り翳す焔へとヒューマンダイヤが襲い掛かる。硬化した彼等の攻撃を避ける様に身体を捻り、焔が攻撃を受け流せば、背後で見て居るだけだったブルードレスが氷の雨を降らし出す。 頬に掠めたそれに、溢れた血を拭いながら『彼女』の姿を見詰めていた糾華は目を細め憂いを吐き出した。 「前のは化け物染みてたのに、随分と人に似せてきたわね…。人から遠かった故の化け物が人に近いが故のバケモノに転じたのね」 蝶々を飛び回らせて、ダイヤ達を傷つける糾華の瞳は笑ってはいない。その表情を感じとりながら疾風が踏み込み雷撃を纏った武技を繰り出していく。 攻撃を続ける三人に補佐に回る珠緒。最初に攻撃を一番に喰らい続けることとなったのはベリードレスの抑え役として立ち回っている焔だった。 彼女を補佐する様に周辺に飛び交う気色の悪い『顔』へと糾華と疾風は攻撃を加えていく。人間の顔の中に埋め込まれたダイヤモンド。ギラギラと輝くソレが、気色悪いほどに路地裏で輝きを示して居た。 狭い路地裏で必死に周囲の音を集めながらギターを掻きならす珠緒が気色の悪い少女達に視線を向けた時、黒き瘴気が前線へと飛び込んだ。 それが増援である事に気づき、糾華がゆっくりと唇を歪めた。視界に入る紫はブリーフィングでも見慣れたものだ。 「――ふふ、ご機嫌よう。素敵なドレスのお嬢さん。一つ私と踊ってくれませんか?」 ふわり、と飛び込んだのはドレス姿の那由他だ。長い髪を靡かせて、唇に湛えた笑みは成程、逢瀬を楽しみにしていたとでも言った風である。 「お待たせしました。さて、逃がさない様に行いましょうか」 路地側、逃げ出す事が出来ぬ様にと立ち回る彩花が纏った鎧。英霊たちの魂が最高の加護となり、幻想の闘衣として彩花を包み込んでいる。 彩花と共に動く慧架は足に木を集中させ、地面を縮める様に真っ直ぐに歩み出す。倫敦の地図を手にしていた慧架の指示により早めの到着を行う事が出来たであろう市中班の到着に胸を撫で下ろしたのは珠緒だった。 旗印の槍を握りしめていたイリアは細い旗の様にも思える布を巻き付けた槍を翳し懸命に声を張る。指揮を行う立場のイリアの頭の上で猫の耳がぴこりと動いた。 色違いの両目が捉えた気味の悪い生物は、彼女にとっても初めてみるに値する生物であったのだろうか――もし、生涯で見た事があったとしても記憶を喪っている彼女の『今現在』の記憶の中には存在して居ないのだが。 「これが……『キマイラ』ですか。フィクションでは合成獣、と称されるそうですが……」 まさしく、という言葉は飲み込んだ。何とも気持ちの悪いキマイラの姿に怖気尽きそうになる心を確りと鼓舞し、イリアは護りの力を仲間達へと与えていく。 支援形態として珠緒とイリア、彩花が存在し、前線での応戦には疾風、焔と慧架、そして全体的に攻撃を行う事の出来る糾華と那由他と完成されていた。 狭い路地の中、懸命な応援を行うイリアの声を聞きながら、楽器を掻き鳴らす珠緒は安心した様に仲間達へと回復を送り、戦線を補佐していく。 「わたしの精一杯で、頑張ります! ……怖くなんて、ないですから」 決して折れまいと前を向く意思を以って。アークに訪れて戦闘の中で恐怖を覚えたとしても――見た事のない化け物と戦う事を強要されたとしても。決して折れないと言う意思は何よりも強かったのだろう。 氷の雨を降らせるブルードレスへと視線を送り、こてんと首を傾げ笑って見せた。 「血と暗黒と呪いの飛び交う戦場で、踊りましょうよ。きっと、楽しいですよ……?」 ● 鮮やかな赤色とは言い難い。べっとりと付着したかのような血色を纏ったベリードレスの相手を受け負ったのは初回の時点で動いた焔だった。周囲に纏わりつく敵を炎で薙ぎ払い、その他を蹴散らせんと攻撃を続ける疾風は近くで見つめたベリードレスの衣服に目を細めて息を吐き出した。 「遠目には『ドレス』に見えるが近くで見ると悪趣味の極みだな……」 ヒトの皮膚の表面は赤く染まっている。べろりと剥がされたものを血で染めたのだろう。何とも生々しく悍ましいキマイラは「うう」と疾風の言葉に応える様に咽喉から息を吐き出した。 言葉を発する能力はあまり備わってないのだろうか。咽喉から漏れだす音は掠れて聞こえて居る。 「存外、『本場』のエリューションというモノも変わらないものですね」 囁きと共に仲間達へと支援の力を回した彩花が視線を送れば、前線で焔を狙う様に布陣するヒューマンダイヤを吹き飛ばす慧架の目に光りが灯る。何時に増してもやる気をみなぎらせる慧架にとってイギリスは思い入れがある場所なのだろう。 「紅茶の国での悪事は私が許しません!」 彼女の攻撃でその顔面が抉れ、吹き飛ばされるヒューマンダイヤ。すかさず、周囲を舞った蝶々が残るキマイラを狙い、真っ直ぐにその体を貫いていく。 「果てはフランケンシュタインの怪物かしら? 可愛い姿もその有り様じゃあ価値も何も存在しないわね」 嫌悪感を真っ直ぐに示す糾華の表情は普段の柔らかな美少女という形相からはかけ離れている。『人に近しい存在』は何処にだって存在する。エリューションでも、アザーバイドでも、革醒因子を取り入れた者たちは何れもそうだ。だが、それが『良い印象』を与えるとは限らない。 「お嫌いですか? 私は可愛いお嬢さんなら好きですけれど」 柔らかく唇をゆがめる那由他にとって少女は『食べてしまいたい』と思える。そのかんばせは少女の可愛らしさを浮かべ、綻べば可愛らしい笑顔を見せてくれるものだろうと思える。しかし、那由他は攻撃の手を緩めやしない。自身の体力を削りながらも繰り出される黒き瘴気はノーマークになっていたブルードレスの身体を包み込む。 鼓舞し続けるイリアが与えた二種の『応援』が仲間達の戦闘をより効率的にしている中で、害あるモノを打ち払う様に槍を振り翳す。ブレイクフィアーを使用するイリアの色違いの瞳がじぃ、とキマイラを見詰めていた。 「……わたし、がんばります!」 「そう、その意気や! 歌のちからでできること、少しはあると信じて、な?」 珠緒の橙の髪が揺れ、奏でられる音は仲間達の回復を行っていく。運命を支払って経っている焔へと送られる癒し。 倒れたヒューマンダイヤを乗り越えて、ブルードレスへと標的を変えた疾風が真っ直ぐに『彼女』を殴りつければ、後衛で思う存分、楽しげに立ち回っていたブルードレスの脆い身体が軋む。 「どんなに綺麗に取り繕っても、犠牲の上に飾り立てた衣装なんて醜いだけでしょうに」 そのドレス、『誰』が材料なの、と問いかける焔の腕が真っ直ぐに振るわれる。 『犠牲』があった上に成り立ったそのドレスは疾風にとっての最悪である『誘拐』された者たちの血肉から出来て居るのか。 ぎ、と睨みつける焔の元へと滑り込み大業物を握りしめた那由他はこの世全ての呪いを帯び褪せて十重の苦痛を刻みこむようにその太刀を振るい上げる。 「踊ってるあなたも素敵ですよ? 綺麗にばらして美味しく頂きたい……さあ、此方を向いてください」 太刀が切り刻み長い少女の腕が落ちていく。叫び声とも取れぬ唇音を耳にしながら那由他が唇を小さく歪めて見せる。 「珍……」 「那由他・エカテリーナです」 「那由他さん、そちらは任せていいかしら?」 とん、と地面を踏みしめて、一瞬で生み出した五重の残像。繰り出される残像の質量は真っ直ぐにブルードレス目掛けて一撃を加えていく。 憂いを乗せた瞳が「忌み子、ね」と小さく囁きを漏らせば、ブルードレスは自身の纏うドレス――血管を結い合わせた何とも不格好なものを持ちあげてぐるぐると咽喉を鳴らして見せた。 「彩花ちゃん、これが終わったら買い物に行きませんか? 紅茶と茶器を見に行きましょう。 せっかくの紅茶の国(イギリス)なんですから、ショッピングも良いでしょう?」 地面を蹴り、身体を捻り上げ、羅刹の如き闘気を纏い強引に間合いを詰めていく。慧架の意思は強く、仲間達の何れもが倒れる事を許さないとその意志を持っている。分断された班は現状はキマイラ二体を挟撃した状況になる。 一生懸命に応援し続けるイリアが大胆に弱点を突く戦闘の展開を行っていく。彼女の目が捉えたブルードレスはリベリスタ達の布陣で言う所の後衛に当たるからであろうか。攻撃を避ける事も出来ず、ただ、傷を増やしていくばかりだ。 未だに抵抗を続けるベリードレスは焔に傷を付け、その身体で懸命な攻撃を続けている。圧倒的な威力を孕んだ攻撃をぶつければ、受け止めた焔が一歩下がり、入れ替わる様に那由他が笑みを浮かべて太刀を振り翳していった。 後方に下がった慧架へと支援を行いながら彩花はバリアンコートを靡かせ、前線での応戦へと参加する。雷牙を嵌めた手に力を込めて、悪と魔術を逃さぬ神気を帯びた攻撃をブルードレスへと放った。 ブルードレスの腕が彩花を掴まんとするの慧架は止め、其の侭に身体を投げ込んだ。咄嗟の行動に反応が追いつかぬブルードレスへと糾華が刻みこんだ攻撃でブルードレスの身体がびくりと動く。 「これで、終わりにしてやる!」 地面を踏みしめて飛び込む様に疾風が刻みこんだ零式羅刹。羅刹が如き勢いで、間合いを詰め、連続武闘で叩きのめした身体は軋み、動かなくなっていく。 少女の体を乗り越えて、攻撃をベリードレスへ移す一同へと珠緒は仲間達を鼓舞する様に癒し続ける。 彼女の奏でる音楽は均衡のとれた美しさを保っている。指先を魔楽器に滑らせて、掻きならし続ける音に傷つく焔が力を込めて拳を振るい込む。 炎に巻かれ、身体を一歩引き下がらせるベリードレスは片腕を喪い満身創痍といった様子だ。 これ以上に無いと言ったチャンスに踏み込んだのは彼女と共にダンスを続けて居た那由他だった。 「可愛いですよ、とっても素敵」 くすくすと笑い声をあげながら那由他の手にした大振りの太刀はベリードレスと識別されるキマイラの胸元に突き刺され、絶命させる。 だらん、と垂れた片腕は地面に摺られ赤く皮膚を剥がしている。引き抜いた太刀についた赤色はやはり、人間のそれと同じであった。 「この子達を飾り立てた『連中』に早く会いたいものだわ――ええ、本当に」 焔の瞳に宿された炎を感じとり、珠緒が顔を上げ、明後日を見上げる。発達した聴覚が何かを聞いた気がして、瞬きを繰り返した。 倒れた異形の種を見詰めていたイリアは自身の経験に刻む様に、彼女等を見詰めた後、足を止めず前を向く為にゆっくりと顔を上げた。 「この事件もどこかで見てるのかしら……蜘蛛も、紫杏も……」 囁かれる糾華の声に、何処かで誰かの笑い声が響いた気がした―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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