●見える罠 電車の基地内に無数の男達が作業に勤しむ。 施設内にいた一般人は縛られ、用具室へ放り込まれていた。 ここにいるのは関係者ではない、フィクサード達だ。 その一人が携帯電話のキーを押す。 「準備完了しました」 報告を受け取った男は、薄暗い部屋の中にいた。 ゆったりとソファーに腰を下ろす男の格好は白いスーツに銀縁眼鏡、表情のすべてこそ見えないが細く怜悧な瞳が特徴的だろう。 「ご苦労、あとは作戦通りに頼む」 快諾の返事が返り、通信は切れる。 これでいい。すべては作戦通りだ。 「さぁ……どうでる? 正義の味方殿」 眼前に置かれた悪意、それに明らかな罠があっても飛び込めるだろうか? 笑う男の瞳は、それでも冷ややかなものだった。 ●全力のフェイク そこは戦場となっていた。 人のいない電車の基地で人外の戦いが繰り広げられる。 「っ!」 物陰から飛び出したフィクサードへ中距離スコープが狙いを定める。 『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)がトリガーを引き絞ったライフルからは神秘の力を纏った弾丸が吐き出され、狂いのない狙いが敵の胸を貫く。 「Tango Down(タンゴ ダウン)」 喜んでもいられない。 直ぐに物陰に飛び込むと、先程まで立っていた場所には弾丸と魔法の嵐が吹きぬける。 『HQよりEE、経過報告を』 『こちらEE、現在HE、BunE共に健在。パンドラは作戦通り、南下ルートへ移動を開始! 5分後にポイントBへ撤退する、置いてけぼりは勘弁願いたい』 AFで通信を取る彼の傍では、仲間のHEとBunEが射撃戦と格闘戦の真っ只中だ。 いくら数ばかりのフィクサードであっても、メインであるリベリスタ達に比べて彼らは弱い。 偵察部隊である為にもそれなりの強さを有したが、本職には適わないといったところか。 「EE、相手の飛び道具が止まった!」 相方、HEの声に小さく頷く。 傍で近寄ってきたフィクサードに不意打ちからの連打をぶちかますBunEへ、口笛を鳴らして合図する。 「HE!」 「任せたまえ!」 フラッシュバン投入、神秘の光を放つそれは敵の目をつぶすには十分だ。 痺れるような刺激に動きが止まったところで、3人は一斉に逃げ出す。 派手な戦いで相手の戦意を煽り、目的のカモフラージュと共に……。 ●全力のチェイス 遡る事数時間前。 「せんきょーよほー、するよ!」 ブリーフィングルームには、何時も通り『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)が満面の笑みで彼らを出迎える。 勿論、兄である紳護も傍に控えていた。 「今日はね、でんしゃを止めないといけないの」 スケッチブックを一同へ公開するノエル。 そこにはありふれた通勤列車の絵が描かれているのと、黒い箱が傍に添えてあるぐらい。 何か違和感があるとすれば、やたらと下手くそな絵で書かれており、クレヨンのタッチならば尚更といったところか。 「このでんしゃがね、線路から外れちゃってたいへんなことになるの。みんなお怪我しちゃうから、絶対止めないとなの!」 だが、幼心を守るが為に掛かった無意識のフィルターは、本当に気づくべきところを彼女に悟らせなかった。 それだけなのか? 視線で問う彼等に紳護が軽く頭を振り、簡単ではないことを示す。 「この列車には魂弾(こんだん)というアーティファクトが隠し乗せられている、これは傍で誰かが死ぬと、その魂を吸い取り、強力な弾丸を生成することが出来る。フィクサードが使う武器にこれを使われでもすれば……大変な事になる」 コンソールを叩き、画面に映し出したのは過去に使われたと思われるデータだ。 拳銃程度の弾丸ですら、対物ライフルをしのぐ破壊力を生み出し、一発で装甲車を再起不能に陥らせる。 人の魂を爆ぜる事で出来る破壊力というのはとんでもないようだ。 しかし難点もある、この弾丸は使えば使うほど弾丸となった者の魂に呪われ、正気を失っていく。 あまりに面倒なデメリットに大それた事をしてまで作る必要があるのか? リベリスタ達の問いに紳護の表情が曇る。 「今回の黒幕は恐山だ。勿論これは彼らの主力に使わせるものではなく実力の低いものに使わせるのだろう。使い捨てになろうとも強ければ採算が合う。そんなところか」 弱者で強者を倒す。 それが人を狂わせる代償だろうとも、彼らの計算からすれば割に合うということか。 リベリスタ達は、冷淡な謀略にぞっとしたものを覚える。 「尚更、こんな非人道的な武器を使わせるわけにはいかない。そこで君達にはこれの回収をお願いする」 そして今度は作戦説明のマップに映像が切り替わる。 「まず俺達が先行して、電車の基地に入る。ここでひと騒ぎ起こして問題の列車をここの8番レールへ誘導させる」 場所がわかるなら発車させる前に探せばいいのではないか? と尤もと思われる意見に紳護の表情が曇る。 「ここには同じ外見をした電車が多数ある、それにこれから俺達が現場に到着しても、急いで探し回って見つかるかどうかだ。ならば発進させてターゲットを絞り込む」 だが、結果として大惨事を引き起こしては意味がない。 そこでと言葉を付け加え、今度は線路のルートを赤いレーザーポインタが指し示す。 「ここの橋から下にやってくる列車に飛び乗ってもらい、中を制圧する。だが電車内は長細く、戦いづらい。しかしそれは敵とて同じだ」 続けてキーを叩き、車両のマークを浮かび上がらせる。 「傍の柵を突き抜けて、車両で横に並ぶ様に突入する。電車に突入した班が正面から、車の班が横から攻撃を仕掛けて十字砲火で素早く倒して欲しい」 うまくいけば相手に身を守る余裕をなくさせ、一方的に攻撃が出来る。 そうすれば電車を素早く制圧、止めることが出来そうだ。 「電車を止めることを一番の優先事項としたいのだが、万が一……電車を止められない場合は、アーティファクト回収後、電車から脱出してくれて構わない」 そうすれば事故だけですむ。 だが、恐山もそれは想定済みだろう。 リベリスタ達がそんな簡単に一般人を切り捨てられるだろうか? 万が一失敗すれば、戦力を減らされ、相手に切り札を渡してしまう。 見過ごせば新たな被害を生む、アークに科せられたのは分の悪い掛けだ。 重苦しい雰囲気が立ち込める中、ノエルがこてんと首をかしげてリベリスタ達を見渡す。 「でも、でんしゃを止めちゃえば大丈夫でしょ? お兄ちゃん」 それはそうだが。 紳護はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。 「気を引き締めてくれるのはいい事だが、心配しすぎるのも良くない。君達なら大丈夫だ、成功を祈る」 「うんっ、みんななら大丈夫だよ、がんばってなの!」 彼に続いて満面の笑みでノエルが激励する。 程よい緊張と、程よい自信、両方を二人から与えられたリベリスタ達は行動を開始した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月23日(土)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●違和感 決行時刻。 既に規定速度を超えきった列車が、唸りを上げて走り抜ける。 「フィクサードは全部潰しちゃうゾ☆」 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が可愛らしく言ってはいるが、内容は容赦ない。 彼女からすればフィクサードは完全なる敵であろう。 自分の身を商品にしてきた輩だ、言葉通り全てを駆逐せねば気がすまないのも納得が行く。 「んじゃ気張っていこうぜロアンさん」 「あぁ、ゴミ処理の時間だね」 『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)と『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)が拳を軽く突合せる。 徐々に迫る走行音を耳にすれば、橋からリベリスタ達が飛び降りた。 既に車体をしっかりと視認するのが難しいぐらいの速度だが、常人を超えた彼等からすれば大したことは無い。 綺麗に着地すると、早速『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が鋭い眼光を車体へ向けた。 全てを見通す瞳が車体のフレームやケーブル、駆動部分すらも見通してアーティファクトを捜し求める。 「あれか」 先頭車両、そこに何か異物があるのが見える。 そしてこの先にある車両に敵がいるのも確認できた。 『アーティファクトは先頭車両、わたし達が着地した車両の直ぐ前に敵がいる』 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)と『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)のAFから涼子の通信が流れる。 「――じゃあ、SWのドライバーさん、よろしくー♪」 挨拶の後、ユウはルーフから身を乗り出し、屋根の上で銃を安定させ、狙撃準備に入った。 「オレは空を飛んだりは出来ないからな、アンタだけが頼りだ。頼むぞ相棒」 クリスからも期待の声がかかり、ドライバーのおっさんは上機嫌である。 「いやぁ、こんな良い女達に期待されちゃぁ応えないワケにはいかねなぁっ!」 (「……今、本当の事をいうのはやめておくか」) 助手席で二丁拳銃を構えるクリスが、元男であったことに気づく様子も無い。 若干にやけたままの表情を浮かべながらフェイスを突破し、派手にホイールを鳴り響かせながら電車と併走する。 この人員配置はスカイウォーカーのメンバー内、一番のスケベ男の実力を最大限に発揮させていた。 リベリスタを感知したフィクサード達は直ちに陣形を整える。 前衛3人と指揮官のPMCが元いた車両の先頭側で待ち構え、後衛を担当する2人が次の車両へと移っていく。 「いくぞオラァッ!」 敵を見つけ、魅零と同じく憎悪を爆発させるものがいた。 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)、彼もフィクサードに運命を弄ばれた被害者である。 フィクサードを捉えた瞬間、憤怒と憎悪が沸き立ち、手甲から翼の様な噴出光を描きながら、壁を蹴り、天井を跳ね、縦横無尽に飛び回りながら接近していく。 狙うは指揮官である傭兵フィクサード、斜めから抉り込む様なフックを放つカルラだが敵も手ごわい。 一歩下がりながら拳を回避すると、追撃を許さんと体当たりで押しやろうとする。 カルラも直ぐに反応すれば、バックステップで一気に下がった。 「ご機嫌如何かな? ゴミクズある所に箱舟あり、ってね」 吸い付く様に壁を走り、指揮官を狙ってロアンが追撃を放つ。 しかし別のフィクサードが間に割り入り、それを阻む。 ロアンの放つ鋼糸は鮮血の傷跡で死の刻印を描き、ダメージを叩き込むが狙った場所から外れてしまっている。 (「浅かったかな」) 思った通りらしく、フィクサードもダメージにたじろぐ様子は無い。 「隙ありですね」 車から狙いを定めるユウからはフィクサード達が丸見えだ。 電車という戦場の中で、横から打たれる心配が無いと考えていたのか、こちらを警戒する様子は無い。 遠慮なくとトリガーを引き絞り、火炎の弾丸が一斉発射されていく。 銃声に気づいた時には遅い、待ち構える6体のフィクサード全員へ火炎弾が吸い込まれ、至るところから炎が上がる。 「ここは棺。お前ら、電車諸共って分かってて居るのか?」 涼子の千里眼で位置こそ把握していたが、杏樹が狙うには情報が足りなかった。 しかし痛みと熱で身じろぎ、体から上がる火は良い目印だ。 魔銃を構え、連続でトリガーを引けば同じく火炎弾が飛翔する。 横から撃たれ、今度は正面から迫る弾丸にフィクサードが持っていた筈のアドバンテージは失われていく。 だが、彼女の目にはPMCの兵士がにやりと笑っていた。 (「今がチャンス!」) 大きなダメージの連続で前衛が緩んだ一瞬を見計らって、魅零が鉄扇を手に走る。 中央に位置する司令塔へ到達させん為に存在した壁三人は、彼女を捕まえようと手を伸ばすが無駄な足掻きだ。 突破と同時に攻撃も狙うも、既に待ち構えていた司令塔は薙ぎ払う扇を銃のストックで受け流し、この奇襲をしのぐ。 「雇われた先が悪かったなぁ? ま、さくっと潰されてくれや」 続けて隆明も妖狢を抜き射撃と共に前進するも、ダメージに繋がらない。 (「なかなか狙いづらいな」) 相対速度を合わせ、なるべく的が動かないようにドライバーも努力しているが、それでも砂利道や線路の凹凸がサスペンションを揺らし、照準をぶれさせてしまう。 どうにか射撃を放ち、直撃。次は当てられるかと、不安が過ぎる。 (「思った通りには行かないか」) その頃、涼子は電車の上を移動しようと試みていた。 回りこんで背後を取ればクロスファイアに重ねて挟み撃ち、3方からの攻撃で一気に倒せる。 しかし、敵も対応が早く、後衛がメンテナンス用の天板を開き、車内のパイプを足場に安定させると涼子に向けて射撃を開始したのだ。 数は1体、だが無理に突っ切ろうとして被弾すれば落下しかねない。 この膠着戦が敵の狙いとは知る事も無く、リベリスタは罠の淵まで歩み寄っていた。 ●目的と手段と誤算 戦闘の合間に響く甲高い音、その発信源は敵陣の後衛からだ。 何事かと車側の二人が後衛の様子を見やると、予想外の事態が発生しようとしていた。 『まずいぞ、連結部分を攻撃してる!』 リベリスタ側の作戦はとても堅実で安定したものといえよう。 制圧しながらの探索、敵と目標を同時に相手取る。 状況を完全に把握しながら戦えるそれは、まさに理想だろう。 だが、相手はそれに寄り添う必要は無い。 ここでリベリスタを今いる車両に押さえ込んで連結器を破壊し、突き放せば、止められるのは車にいる二人だけだろう。 車両に残されたフィクサードもある程度減速した時点で逃げればいいだけだ、追跡されることは無い。 何せリベリスタにはアーティファクト回収と人命を守る事を主とする、フィクサードを倒すのはその過程における手段なのだから。 腹いせに殺されるかもしれないが、それは逃げ切れない者の責任とでも言いくるめられているのだろう。 『まだ壊れてませんけど、あと数発当たったら壊れそうですね』 ユウの視野に飛び込む、不利という名の絶望。 猶予は無い、今はとにかく行動あるのみ。 「鉄砲玉だと思っちゃいたが……そうきやがったかっ!」 ならばとカルラが傍にあったドアを叩き壊す。 強引に引っぺがされた鉄の扉を前に構えると、全力疾走で前へ飛び出したのだ。 飛んでくる刃を、弾丸を避けることは出来ない。 けたたましい鉄をたたく音、徐々に突破力を失う急ごしらえの盾が崩壊し、自身の体力もそぎ落とされてしまう。 だが、同時に魅零の傍までたどり着くことが出来た。 「うるぉらぁぁぁぁっ!」 「このぉっ!」 前衛を無視して突っ込もうとする隆明とロアン。 フィクサードも通せんぼの様に、体を張ってのブロックに入る。 焦りか、それともこの状況を見越した指揮官の指揮能力の所為か堅牢な防御に攻撃を与えてしまい、ダメージが通らない。 『いかにも恐山らしい計算ずく、って感じですね。あーやだやだ』 ユウはもう一度火炎弾を放ち、ダメージを重ねていく。 ダメージのペースとしては寧ろいいぐらいだろう。 それでも倒れない、特に連結部分に再び攻撃を加えようとしているフィクサードが耐え凌ぐ姿は、彼女にプレッシャーを与える。 (「魂弾を作らせるわけにはいかないっ」) 杏樹も窓の隙間を縫う様にして、後衛のフィクサードに弾丸を撃ち込み、前方で壁となっているフィクサードも巻き込んでいく。 炎が体を焼き、蓄積するダメージも大きいが……倒すのには時間が掛かる。 時間は過ぎるばかり。 ●それでも彼らは (「降りて援護すべきか、だがそれだと後衛が」) 電車の上で涼子も立ち往生している。 戦力に加われば、連結部分を壊すのに取り掛かる人員を一人増やしてしまう。 飛んでくる弾丸を電車の上で伏せて被弾せぬ様にしつつ、今は機会をうかがうしかなかった。 再び連結器に攻撃をぶち込まれ、車両がぐらつく。 これ以上の攻撃が入ればどうなることか。 (「そんなには待てない」) 攻撃の合間、再装填が行われる一瞬をついて涼子が勝負に出る。 頭上を走る電線にぶつからぬ様に身を低くしながら走れば、銃口を挙げられるよりも早くスライディングに近い蹴りが放たれた。 車内へ蹴り落とされ、更にクッションにされ、涼子の侵入を許してしまう。 「お返しだ」 八岐大蛇、真っ黒なオーラが蛇頭の如くうねり、それに手足の動きを絡ませる流れるような殴打。 後衛の二人は成すすべなく巻き込まれ、体力と共に身の自由までも奪われてしまう。 黒いオーラが立ち上る様は、リベリスタ達の反撃の狼煙といったところか。 形勢逆転の流れに乗り、総員の攻撃に鋭さが戻る。 「残念だったなっ!」 カルラの音速の拳が唸りを上げ、顎を穿つ。 脳を震わされた傭兵の体は痺れ、破壊力が意識を朦朧とさせていく。 続けて魅零が攻撃を重ねる。 呪いをたっぷりと込めた双鉄扇の交差、窓へ追いやり叩き込めば、その波動で窓ガラスが散っていく。 「長く時間はかけられないからね」 げしっと蹴り飛ばし、身動きを封じられた傭兵は絶叫と共に高速の世界から追い出されていく。 司令塔を失って浮き足だつフィクサード達に気づき、ロアンと隆明、そして杏樹は攻撃をストップ。 3人は一気に走りぬけ、先の車両へと逃げ込んでいく。 「っ!」 何故突破したか、それに冷静に気づくときには遅い。 「きっちり当てさせてもらう」 攻撃の手を止め、集中力を研ぎ澄ましたクリスの二丁拳銃が吼える。 弾丸は引き寄せられる様に連結部分を打ち抜き、フィクサードだけを残して切り離されていく。 残っていた後衛は何とも悪そうな笑みを浮かべたロアンと隆明に蹴り落とされ、すぐさま退散。 あまりじっくり行き過ぎると、同じ目にあう可能性もある。 一行は警戒しつつも急ぎ足で、前へと進むが先頭車両まで敵は無い。 『分かっているな、ここで抑えなかったら失敗だ! 衝突させられるまで時間を稼ぐぞ!』 研ぎ澄まされた杏樹の聴力が、フィクサードの声を拾う。 おそらく司令塔の傭兵、そして直ぐ傍には再び扉を盾に突撃準備をするカルラ。 「お前ら分かっているのか? お前らは弾丸にさせられる為に乗せられていることをな」 杏樹の言葉がフィクサード達の心を揺さぶり、フィクサード達の決意を揺るがす。 「貴方達の上司は冷酷至極のようだね。あのアーティファクトの弾丸は人の命、私達がここで無駄に戦い合ったら、貴方達もそのただの弾丸になる」 魅零も言葉が更に不安を煽り立て、フィクサード達の視線が傭兵へと向けられる。 作戦の最悪の結果としては聞かされていた内容故に、傭兵は反論する言葉が直ぐに浮かばず、フィクサード達は疑心暗鬼だ。 「ううん隠さず言えば……貴方達はそのために此処に乗せられている。そんな軽く命を見てるなら殺してあげるよ! そうじゃないなら停戦しなさい、逃げるなら見逃すわ 、今すぐ決めろ!」 「聞く耳を持つな! 可能性としては考えられるが、それではデメリットのほうが多いだろう! 落ち着け!」 傭兵の反論が停戦を許さない。 それが答えならば、他のフィクサード達の答えが出るのを待つ必要は無い。 今度はこちらの番と、突入が始まった。 杏樹の魔銃が閉ざされた扉を打ち抜き、安定力を失わせる。 突入前の揺さぶりが、反応をコンマ数秒遅らせた。 扉をぶち破り、鉄板を押し飛ばしながら突入するカルラの体当たりで、陣形が少し下がる。 続けてロアンと隆明が突入、左右に展開しつつよろめくフィクサードをガシッと掴んだ。 「殺すと不味いってのは面倒だな、っつー事で」 「君達限定の地獄行き乗り換え、ご案内するよ」 窓ガラスごとぶち抜く、全身全霊の正拳付きが右のフィクサードを外へ叩き落し。 オーラの糸で絡め取られた左のフィクサードは、そのまま背負い投げの要領でガラスの向こうへと放り出された。 「はっはぁ! さよならだぜ!!」 拳に感じた直撃の感触に、隆明は少し上機嫌に転がるフィクサードを見送る。 残った前衛一人も反撃の隙も与えられず、魅零に詰め寄られていた。 「さぁ、どうする?」 数の力は既にマイナス、フィクサード達に逆転の答えはない。 ●計略は最後まで 残ったフィクサード達は決死の反撃に出たものの、クロスファイアの攻撃と実力の差にじりじりと押しやられ、全員窓の外から蹴りだし完了。 丁寧に溶接されていたドアを攻撃で強引にぶち破ると、運転席の直ぐ傍に魂弾は置かれていた。 「回収どころか、この場で破壊したい類だな」 念の為、箱の中を確かめる杏樹。 弾は一発も無い、ふざけた兵器の被害者は今のところいないようだ。 「まったくだ、フィクサードはいつも、くだらないアーティファクトを使いたがる……」 涼子も機嫌悪そうにつぶやく。 何の因果関係か、この戦いにはフィクサードに何かしらの敵意を抱いたものが多く参加している。 こうした人員の感情も戦況の突破力に影響したのだろう。 「さて、電車を止めるとしようか」 そして操作系を見やる杏樹。 だが、その光景は美しい整いの顔を一気にゆがませた。 「ブレーキが壊されている……」 電車を止めさせるような保険なんて、下っ端に持たせる気は無かったようだ。 アクセルも動かせないように破壊されており、フルスロットルのまま電車は走り続ける。 『パンタグラフをぶっ壊してくれ! 電気がこなけりゃ動力は無くなる!』 カルラがいうパンダグラフとは電車の上についている集電装置だ。 ひし形のフレームで出来たこれが破壊されれば、電車は電気を受け取れなくなる。 『了解です』 『分かった』 車で待機していたガンナー二人が同時に射撃を開始。 ライフル弾と拳銃弾の嵐が吹き荒び、金属のフレームは一気にひしゃげて破壊されていく。 『減速はしてますね……でも』 電車の速度はゆっくりと減速している、電車を外から見れるユウには激突回避には間に合わないのが分かってしまう。 『少し、試してみるか。相棒、車を電車に寄せてくれ! むこうに飛び移る!』 任せろと4WDが電車へ接近していく。 ユウの飛行能力でお手伝いしてもらいつつ乗り移れば、運転席へ急いだ。 (「運転席が破壊されていても電子的に全て切れていなければ……」) 瞳を閉ざし、操作パネルに手をかざす。インターフェースが使えないなら介さなければ良い。 クリスの電子操作能力が電車の制御系につながり、脳内に広がる電子マップの中からブレーキの項目を見つけだす。 (「これか!」) 起動させ、ブレーキが車輪を押さえ込む。 耳障りな高音の悲鳴が鳴り響き、火花が飛び散る。 減速すること数分間、彼らが胸を撫で下ろしたのは勝利を収めた停車車両の中でのことであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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