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血死のファンレター

●妬み嫉み
 芸能界。それは華やかな世界である。
 自らの才覚を頼りにメディアを通して名声を得、それを仕事とする世界。
 それ故にその深遠に妬み嫉みは付きまとう。

「マネージャーさん、これは?」
「ファンレターだ。ファンの貴重なご意見ってやつさ。目を通しておけよ」
 とある芸能プロダクション。その事務所において、とある少女が手紙の山を前にある男性と会話をしている。
 少女はアイドルであり、男性はそのマネージャー。ファンからの手紙を纏め、目を通させるために渡されたのだ。
 名声を得るということはファンが増えるということ。そして熱心なファンは手紙という形で接触を求める場合もある。
 それは敬愛する対象に思いを伝えたいという一つの形だ。
「ふーん。わかりましたー」
 部屋を出て行くマネージャーに気のない返事を返す少女。
 そして少女は手紙を手に取り、次々とファンレターへと目を通して行った。
「……あら?」
 やがてある一通の手紙を手にしたとき、首をひねる。
 その手紙には差出人が書いていなかった。誰だろう、と思いつつ封を切りひっくり返す。

 ぽとり。

「え……」
 中から転がり出たのは、1枚の剃刀の刃だった。
 カミソリレター。封筒へと剃刀の刃を入れて送り、手を突っ込んだ人が怪我をするようにした古式ゆかしい嫌がらせだ。
 近年そういったお約束のような嫌がらせをする人は減ったものだが。
「やだなあ……誰の仕業だろう……」
 表情を曇らせる少女。有名税のようなものとはいえ、やはりいい気分がしないものだ。
 だが、異変は終わってはいなかった。
 ぽとり、ぽとり。
 次から次へと封筒から零れ落ちる剃刀。一枚が二枚、二枚が四枚。やがてざらざらと溢れた剃刀はざああっと大量の刃の滝となる。
「な、何これ!? 嫌ぁ……っ!」
 滝となった剃刀は洪水となり、床へと流れ埋め尽くし。大量の剃刀が部屋に満ちた時。
 ――ふわり、と舞い上がり、部屋へと刃の嵐が吹き荒れた。

 血風と鉄の嵐、そして断末魔が部屋へと広がった。

●ブリーフィング
「ファンの言葉ってのはありがたいものさ。良し悪しはあるけどね」
アークのブリーフィングルーム。『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はそう切り出した。
「さて、今回の任務はそういったファンからのお手紙、ファンレターってやつだ。
 あるアイドルの元に届いた一通のファンレター。それをなんとかして欲しい。
 最もターゲットは本当のファンじゃない、嫌がらせからの一通のお手紙さ」
 伸暁が言うにはそれはファンからではない、ライバルのアイドルが彼女にプレッシャーを掛けるために送った嫌がらせの手紙だという。
 何故そのような手紙をリベリスタがなんとかしないといけないのか。その疑問はすぐに解ける。
「ただの嫌がらせなら芸の肥やしに有名税、子猫ちゃんには我慢して貰うしかないけどさ。
 困ったことにその手紙、磁界器(アーティファクト)なのさ。
 それもただの磁界器じゃない、とびっきりの悪意に満ちた迷惑なシロモノだ」
 そういうと伸暁はポケットに捻じ込まれていた資料をリベリスタ達に放った。
 その資料には磁界器の特性が記述されている。
 送り手の悪意を受けて確実に相手を殺す、血塗れのカミソリレターだ。
「送り手もそこまで凶悪なモノだとは思ってないだろうね。
 せいぜい噂に聞いたおまじないグッズぐらいだったろうさ。
 だが実際はこの通り、呪われ血塗れ、カース&ブラッド。エッジの効きすぎたソリッドなレターだ」
 その手紙が何故か一通の悪意を持った人物に渡り、半信半疑で使われた。だが、それが事実だった場合、冗談では済まない。
「この狂いまくったカミソリレター、ちょっと行って破壊してきてくれよ。
 差出人なんかどうでもいいし、この際関係ないからさ、問題は危険な磁界器だ。
 俺達リベリスタの仕事ってのはアイドルのケアじゃないからさ」
 冷たいようだがそれは事実である。危険な神秘に対処はしても、それ以上は仕事の範疇ではない。
 アーティファクトを破壊する、それが任務の全てだった。
「というわけでひとつよろしく頼むぜ?
 切れ味溢れるレターをお前達のキレキレのアクションで叩き潰してくれ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月03日(水)23:18
●将門ファイル
■フィールド:アイドルプロダクション、会議室

■環境
 あるビルの中にあるアイドルプロダクションの一室です。
 それなりの広さがあり、立ち回りには困らないでしょう。
 また、開封した直後になりますのでアイドルが一名、その場に存在します。

■勝利条件
 呪われたカミソリレターの撃破

■エネミーデータ
・呪われたカミソリレター(アーティファクト)
 ・自律はしていますが意思を持たないアーティファクトです。
 ・あくまで送り手の意志に従っただけの物ですので精神系は無効です。
 ・封筒の中より剃刀の刃を無限に生成し、それを操り行動を行います。パターンは下記
  ・剃刀を飛ばし単体を攻撃(流血あり)
  ・剃刀の嵐を起こし部屋内の全体を攻撃(出血あり)
  ・剃刀を集め、封筒自身を守る
 ・すでに与えられた目的(アイドルの抹殺)を行うまで決して止まりません。
 ・アイドル抹殺を優先しますが、邪魔をするなら邪魔者への攻撃も行います

■備考
 アイドルの生存は勝利目的に入っておりません。
 及び、差出人についても考慮は一切必要はありません。
 また、神秘の秘匿は必要ですが、状況が状況ですので当事者は気にしなくてもいいです。


●マスターコメント
 古式ゆかしいカミソリレター。都です。
 いまどきあるのですかね、このような嫌がらせ。
 というわけで鉄臭いシナリオ、公開です。
 いいですよね、血生臭いアイテム。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ホーリーメイガス
アゼル ランカード(BNE001806)
デュランダル
イーリス・イシュター(BNE002051)
ナイトクリーク
鬼哭・真心(BNE002696)

●凶刃舞う
 少女はアイドルだった。
 毎日のようにテレビメディアに出演し、知名度を稼ぎ、笑顔を振りまく。
 人々にささやかな娯楽と平安を授ける、偶像たる仕事。
 別にその仕事に極端に高いプライドを持っているわけではないが、少女は自分の仕事が好きだった。
 自分が評価されることも、ファンから応援されるのも彼女の自尊心を満たし、より成功しようという意欲を生み出すからだ。
 当然ファンからのメッセージを送られることもある。決して少なくはない、その程度に彼女は知名度を持っていた。
 だが、その日に届いたものは少し様子がおかしかった。
「手紙?」
 会議室に手紙が置いてあると言われ、取りにきた少女。
 ファンレター。それ自体は酷く珍しいものではない。
 だがメールが主流になる近今、やはり封筒で送られてくる手紙というものは若干の物珍しさを感じさせた。
 封を切り、中の手紙を取り出そうと手を入れる。その手に何か、硬質のものが触れた。
「……?」
 そっとつまみ、取り出す。
 ――それは、一枚の剃刀だった。
「……ひっ!?」
 思わず少女は手紙と入っていた剃刀をテーブル上へと放り投げた。
 彼女だって知っている。嫌がらせに剃刀の入った手紙を送る。使い古されすぎて最早やる者もいない、風化した噂話。
 まさかそのようなものが、自分に対して来るなんて。
 動悸が乱れる。落ち着こう、大丈夫。ちょっと嫌がらせがきただけ。こんなこと、メールではたまにあること。
 ちゃりん。
「え……?」
 封筒からもぞりと這い出し、硬質の音を立てるものがあった。
 それは剃刀の刃。新たな刃が封筒より現れ、転がっている。
 ――いや、一枚ではない。二枚、三枚。次から次へと封筒より剃刀が溢れ出し、ちゃりちゃりとした音はざりざりとなり、やがてじゃらじゃらと。
 数を増し続ける刃は一塊の凶器となり、宙へ舞う。生き物のようにうねりを上げる鉄の波はそのまま少女を飲み込もうと襲い掛かった。
「嫌ぁぁぁ!」

 ――絶叫。
 血風吹き荒れ、無残な少女の身体が転がる、ことはなく。
「大丈夫ですか? 間に合ってよかった」
 剃刀から身を挺して守る一人の人影。刃に刻まれ血に塗れた背を省みず、少女を気遣うその男。
『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)。彼の信念に迷いはなく、自らの傷よりも少女の安全を守る。その思いに偽りはなかった。
「大丈夫、もう怖くないよ。すぐ助けてあげるから」
 共に部屋へと突入していた『雪風と共に翔る花』ルア・ホワイト(BNE00137)が突然のことに放心する少女を助け起こす。
「安全な場所へ彼女を!」
「ナイチ君、お願い!」
「任されたよ。さあこの部屋から出てね。この場所は危ないから」
 疾風とルアが名を呼んだ青年、『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)がアイドルの少女を支え、部屋の外へと連れ出そうとする。
 だが、それを呪いの手紙は許しはしない。目標である少女を始末するため、剃刀達が集まり再び波となって少女を追撃する。
 だが、その刃を彼の正義は逃しはしない。
「犠牲は決して増やしはしない。……変身ッ!」
 疾風が特撮ヒーローの如き構えを取ると、その身に武装が纏われる。手に生まれた一対の戦槌が剃刀を叩き散らし、少しでも少女へと辿り着かぬように荒れ狂う。
「痛ぅっ……!」
 ルアはその速さを生かし、少女へと辿り着こうとする剃刀を身を盾にして庇い、手にしたナイフで叩き落す。
 二人はひたすら少女を守る為に身を捨てる。だが剃刀は無尽蔵に増えていき、その全ては止まらない。
 やがて一部の剃刀が少女へ辿りつこうとする。が、それもまた弾かれ、狂刃は少女を傷つけること叶わない。
「困ったものですわね。じゃらりじゃらりと数ばかり。鬱陶しいことこの上ないですわ」
 その身に纏うはゴシックロリータ、戦う少女の戦闘服。『鬼泣かせ』鬼哭・真心(BNE002696)は有象無象を通しはしない。手にした鎌が一閃される度、質量に劣る剃刀は吹き散らされ弾かれる。
「誠心誠意、真心込めて。命無き刃も泣かせて終わらせてみせましょう」
「古式ゆかしいカミソリレター。けれどもそれが誰かを傷つけたい思いならば、破壊するまでだ」
 無傷たるは身を張り庇う者達だけの栄光ではない。『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。彼女の張る守りの結界があればこそ、多少の無理も利いているのだ。
 室内から室外まで、ほんの僅かに過ぎない距離。だがその距離は放心したアイドルの少女にとっては進むのも困難、高い障害であった。
 だが彼ら、リベリスタ達の献身的な防御により、少女は無事にたどり着いた。傷ひとつ負うことなく、だ。
「皆さんお疲れ様です。もうひと頑張りですよー」
 扉の側に待機していた、アゼル ランカード(BNE001806)が癒しの旋律を紡ぐ。
 アイドルの少女を庇い、血に塗れ傷に塗れたリベリスタ達の傷が見る間に塞がり、血色を取り戻していく。
「さあ、お帰りはこちらです」
 扉を開け退室を促す仮面の人物、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)の奇妙な姿に一瞬少女はびくりと足を止めるが、智夫が促し外へと送る。
「あ、あの……あなた達は……?」
「うーん、呪いの御祓い屋、かな? しばらくはそこでおとなしくしててね」
 飄々とした態度で智夫がアイドルに声をかけ、部屋へと戻る。即座に九十九が扉を閉め、部屋は密閉されることとなる。
「やれやれ、せっかくアイドルと直に会えたのに世知辛いですな」
 九十九が肩を竦め、冗談じみた言葉を口にした。
 剃刀の刃は目標の少女を見失い、しばしあたりを探すように飛び回る。やがて目標を扉の外に失ったことを認識したのか、リベリスタ達を障害と認識したのか。動きを変え、室内に広く散り始めた。
 だが、護るべき者を逃がせばもはやリベリスタ達に遠慮はいらない。全力を持って対象を叩き潰すだけだ。
 少女の逃げた、閉ざされた扉の前。一人の少女が仁王立ちをし、もはや先へはいかせぬとばかりに気勢を吐いた。
「アイドルをまっさつするまで止まらない? たとえそうでも! とめてみせるのです!」
『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)。彼女に流れる闘争の血と英雄の心が告げていた。この手紙を許してはならないと。それは勇者の道ではない、と。
 手にした斧槍を突きつけ、イーリスは宣言する。戦いは始まりだと。
「めんようなやからは、粉砕なのです!」
 そしてお前は終わりだ、と。

●鮮血舞う
「大丈夫か? 無理はなさらぬよう」
「まだまだ相手は元気みたいですね、治療はまかせるですよー」
 雷音の放った札が舞い、アゼルの治癒の風が傷を撫で、仲間の傷を塞いでいく。
 アイドルの少女を部屋の外へ逃がした。そこまでは順調だった。
 だが、目標を妨害者へと定めたカミソリレターは一筋縄ではいかないモノだった。
「ええい、邪魔なのですっ!」
 イーリスが焦れ、叫ぶ。
 彼女の苛立ちも仕方ないことだろう。剃刀は無尽蔵に増えていく。切れ味もバカにはならず、リベリスタ達は縦横無尽に襲い掛かる刃に浅く深く、傷を生み出されていく。
 どれほど吹き散らしても増え続ける剃刀。どこから生まれてくるのか、蛇口の壊れた水道のようにざぁぁ、と溢れ続ける剃刀は新たな編隊を組み、リベリスタ達を削り取ろうとする。
「カミソリだけを叩いても埒があかない。封筒をなんとかしないと」
 疾風が剃刀を受け散らしながら言う。彼の言うとおり、この現象の本体はアーティファクトである封筒だ。それを破壊しない限り、この現象はどこまでも続くだろう。そしてリベリスタ達の命と肉を削り取っていくのだ。延々と無機質に。
 だが、リベリスタ達は攻めあぐねていた。想像以上に分厚い剃刀の層。殺傷力に失血。じりじりと削り取られていくリソース。そして守りに徹した時の剃刀の硬さだ。
 一枚一枚は薄く、脆い剃刀。だが大量の剃刀がまとまれば、それは鉄塊。かなりの衝撃に耐え、斬撃は封筒へと辿り付かない。
「想像以上に厚い護り。なんとかしないとですわね」
 真心がぼそり、と呟きつつ鎌を振るう。手を止めることは出来ない。こちらの手を止めても相手は決して止まることはないからだ。手を止めないことが相手を止めることに繋がっているのだ。
 だが、剃刀達に意志があるのか、それともアルゴリズムがごときパターンが存在しているのか。波として纏まり動いていた剃刀達が、ぞわり、と震えるかのように蠢き、密度を散らす。
「おや、これは……」
「これは……皆、来る。気をつけて!」
 九十九が怪訝そうな声音で呟き、雷音が危険を察し叫んだ。
 一瞬の直感か、それとも今まで戦ってきた経験か。リベリスタ達が身構えた時……

 ――剃刀達が弾けるように、室内に満ちた。

 鉄が、刃が、室内を蹂躙する。
 有象無象、生物無機物区別なく、刻み、刺し、削り取る。
 鉄の臭いとほのかな錆の臭い、そして咽返るような血の臭いが室内を包んだ。
 刃の嵐が終わり、剃刀達が再び一纏まりになった時。室内の状況は凄惨たるものだった。
 壁が抉られ、大量の切傷が刻まれている。
 机が、机だったはずの板材となっている。
 そして人間だったモノが全身から血を流し、辛うじて膝を屈しない存在となっていた。
「すぐ、塞ぐから――」
 痛みに耐えつつ智夫が生み出した光がリベリスタ達を包む。その光は身体に刻まれた傷より流れる血を止め、彼らの衰弱を止める。
「……凌いだか」
「誰も欠けてないならなんとかなる、かな」
 雷音が、アゼルが、息も絶え絶えながらも、即座に癒しの力を行使し傷を塞いでいく。
「だったら! こっちのターンなのです!」
 これ以上相手に自由にさせはしない。イーリスが鎧に包まれたその身に持つ全身のバネを使い、飛ぶ。その身には今、アゼルによって施された飛行の力がある。まさに弾丸の如き突撃。
 狙うは一つ、封筒本体。
 だが、剃刀は大技を繰り出したからといって力尽きたわけではない。近づく外敵から本体を守る、その行動に淀みはない。
 イーリスを狙った剃刀の波。だがその波は受け止められ、砕かれる。
「ならば血路はわたくしが開きましょう」
 大鎌一閃。真心自身の身をも痛めつけるその一撃は、相手にとってはそれ以上の暴威を振り撒く。甲高い金属音を立て、波が砕け散った。
「私達は、絶対に負けない!」
 強い言葉は暗示となって自らの力を搾り出す。ルアの短剣が複数条となり襲い掛かる剃刀を同時に受け止め、弾いた。
 常人を遥かに越えた身のこなしのみが可能とする、一撃にして多撃の技。例え多数の相手であろうとも、それは問題なく処理出来る。
 砕け散る銀の破片の中を貫き駆けるイーリスは、封筒へと迫る。そこに立ち塞がるは、鉄の壁。剃刀全てを纏めた防壁。
 ――その防壁が、轟音と共に弾け飛んだ。
「ふむ、多数にはやはりこれですのう。適材適所ですな」
 九十九の手にしたショットガンより硝煙が上がっている。広範囲へと撒き散らされる散弾。それは多数を鎮圧するのに向いてはいる。だが、その撒き散らされる鉛玉を正確に多数、しかも剃刀のような小さい物へと当てるのは、尋常ではない。
 射撃に特化された技量を持つ身だからこそ出来る、神業であった。
 壁が散れば進路はクリア。あとは無防備な紙封筒が、そこにはあるだけ。
「いくですよ、天獅子(ヒンメルン・レーヴェ)ッ!」
 手にした斧槍、幾多の戦場を共に歩んだ相棒の名を叫ぶイーリス。気合と、手に込められた膂力に応えるように空気が震える。ばちりと刃に紫電が映る。
「くらうですっ! いーりすらっしゅっ!!」
 振り下ろされる一撃に一切の躊躇いなし。守る壁なき封筒にそれは避けることかなわず。雷光放つその一撃は、悪意に満ちた一通の封筒を捉え、瞬間にて破片へと変えた。
「嫌がらせをするぐらいなら……自分を磨いたほうが有益なんですけどね」
 すかさず疾風の炎に包まれた戦槌が振るわれる。手紙の破片が炎に包まれ、一片も残さず燃え尽きた。
 同時に、剃刀達も風化し、塵となって空気へと溶ける。
 悪意を越えて殺意を生み出す一通の手紙。配達先は、無の領域。

●微風舞う
 室内より響く、凄まじい争いの音が止まった。
 おとなしくしていろ、といわれたアイドルの少女は扉の外で座り込んでいた。
 状況が尋常ではないのはわかっていたのだ。だが、彼女は動くことは出来なかった。
 放心状態ではなくなったものの、腰が抜けておりどうすることも出来なかったのだ。
 だが、誰かを呼ぶ気にもならず、そのまま争いの音に怯えつつここにいた。
 その、争いが終わった。
 がちゃり、と扉が開く。びくり、となる少女の目に映ったのは彼女を室外へと連れ出しおとなしくしているように言った、一団だった。
「終わりましたわね」
 真心が大きく伸びをして体を解す。
 彼らは誰一人として満足な状態の者はいない。傷は深く、出血も酷い。着ていた服もずたずたで、激戦のほどが知れた。
 だが、全員揃っている。八人全員、誰一人欠けることなく戻ってきたのだ。
 そのような彼らの姿に少女は安堵した。それと同時に、疑問が脳裏をかすめる。
 一体これは、なんだったのかと。
「あの……」
 声をあげようとする少女に対し、九十九がバツが悪そうに言葉を吐く。
「ドッキリ大成功……というわけにはいきませんかのう」
 さすがにそれはない。誰ともなしにツッコミが入る。
 唖然する少女にアゼルがずい、と顔を近づける。そして少女に言い含めるように言った。
「今日のこれは、あなたを狙った嫌がらせ。それが不幸な事故で大事になってしまっただけ。……もう二度とありません、だから。秘密ですよー?」
 指を顔の前に立て、「しーっ」というジェスチャー。思わずこくんと頷く少女に対し、ちょっと恥ずかしそうにアゼルは「なーんて、ね」と呟いた。ちょっとした照れ隠しのように。
「さあみなのしゅー、さっさとずらかるのですっ!」
 イーリスが声を張り上げる。それに思わず釣られるように、リベリスタ達は我先にと駆け出して行った。きょとんとしたままの少女を残して。

 ――帰路。
 これはあくまで蛇足な余談。ささやかな後日談。
 アイドルの少女を守った一人、朱鷺島・雷音が養父に送った一通の手紙。
 それは悪意に触れた少女の思い。そして心に刻んだささやかな誓い。
『お手紙は、大切な思いをつたえる、素敵な手段であると思います。それが攻撃に使われるのはなんとも悲しいことです。ボクはそんな使い方はしたくはありません。
 お仕事は終わりました。今から帰ります』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 大変お待たせしました。リプレイ、お送りします。
 今回は成功条件にアイドルの保護は入っていませんでした。
 ですが、皆さんは彼女を守りたいと思いそのために尽力して下さいました。
 それは恐らく『正義の味方としてのリベリスタ』として大事なことなのでしょう。
 そのような思いを尊重するように描写出来ていたならば、そう読み取っていただけたら。

 手紙の攻略に関しては、突破に関してもう少し具体案があれば楽は出来たかもしれません。
 ですが、問題も御座いません。勝てば官軍です。

 それでは今回はこれにて。またいずれ。