● 夜の遊園地。聞くものによってはロマンティックな印象を受けるかも知れないこの言葉も、戦いの夜にあっては単に戦場の名を示す言葉に過ぎない。ましてや、この遊園地は封鎖されて久しい。漂うのは寂寥感だけだ。 この池も元はボートを浮かべて恋人達の逢瀬に用いられるような場所だった。しかし、そこにいるのは黒いフードに身を包んだ異相の男だけだ。 「やれやれ。ここいらも潮時か」 ボートの上でこぼすの男の名は萍水(へいすい)。日本主流七派の1つ、黄泉ヶ辻に属する男だ。ここにいるのは直属の上司ーー黄泉ヶ辻糾未を護衛するため……ということになっている。 彼の周りに立ち並ぶのは、かつてとある儀式のために調整されたノーフェイス。黄泉ヶ辻糾未の用いる人形遊びの道具だ。 これほどの準備を行いながら願いを叶えることが出来なかった主の心中を想像し、萍水は今まで堪えていた笑いを解き放った。 「ふははっ、はははっ、はーっはっは!」 ボイスチェンジャーでも通したかのように、不思議とくぐもった笑い声だ。しかし、男がこの状況を心底楽しんでいるのは間違いない。 萍水には厄介な性癖がある。それは人の苦しむ姿を見るのが何よりも楽しむというものだ。 もがいてもがいて深みにはまっていく者を見ていると心が和む。 人を救おうとした者がそれ故に不幸になる姿は素晴らしい酒の肴だった。 そして、陥れられた者の怨嗟の嘆きは最上の音楽と言えよう。 「ふふふ、ははは……おっと、楽しむのは後でもできるか」 そう言って萍水は黒い翼を広げる。 内心に抱える思いはあれど、今の自分に与えられた役目は防衛だ。それを果たさなくては、出来上がった最上の絶望を楽しむことも出来まい。主の破滅は一向に構わないが、沈む船に乗り続ける趣味も無い。 槍を抜き放ちボートを漕ぎだす。 せっかくの特等席にいるのだ。存分に楽しませてもらおう。 ● すっかり秋めいた風の流れるようになった11月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、『黄泉ヶ辻』のフィクサードの討伐だ」 『黄泉ヶ辻』日本フィクサード主流七派の1つで「閉鎖主義」として知られている。何を目的とし、何のために集う組織なのかを問われて答えられる者はいない。他の組織と交わることも無く、不気味な事件や理解出来ない陰惨な事件に関わっていることだけが知られている。正直言って、可能ならば一生関わりたくない連中だ。 「黄泉ヶ辻首領の妹、黄泉ヶ辻糾未。今回は彼女の一派に属するフィクサードが相手ってことだ。まぁ、結構厄介な状況になっているんだけどな」 黄泉ヶ辻糾未は『黄泉ヶ辻』のフィクサードとしては、真っ当な感性を持つ女性だった。しかし、以上極まりない兄、京介に憧れて様々な事件を起こしてきたのだ。そして、最終的に彼女が行きついたのは悪名高きペリーシュ・シリーズの一つ――『憧憬瑕疵<こえなしローレライ>』。持ち主を破滅に導く禁断のアーティファクトだ。その危険性を危惧したアークの働きによって、彼女はアーティファクトを宿したまま行方をくらますことになったのだが……。 「その糾未が廃遊園地に潜伏していることが分かった。アシュレイによると長くは無いらしいんだがな、彼女が死ぬとアーティファクトが暴走する可能性は高いらしい。つまり、自滅を待っていられる状況じゃないってことだ」 そして、リベリスタ達の出番と言う訳だ。 守生が機器を操作すると、スクリーンに異相の男が表示される。 「あんた達に向かってもらいたいのはコイツの所だ。萍水って名乗るダークナイト。黄泉ヶ辻らしい碌でもない奴だ」 この男は一応、黄泉ヶ辻糾未の護衛としてここにいることになっている。だが、実際の目的は自身の性癖を満たすことと、事件で得られるデータを『黄泉ヶ辻』に持ち帰ることだ。護衛としても最低限の役割は果たすし、何よりも放置するわけには行かない存在である。 もっとも、彼が潜むのは廃遊園地に存在するボートを浮かべる池の上だ。戦いに当たっては若干の工夫を必要とするだろう。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月22日(金)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 君の手に余る玩具は捨ててしまえばいい。 君の目が見たい不幸はここには落ちてない。。 君自身の不幸というのは君は快楽にならない? シャーデンフロイデ。 恥知らずの喜びである事を自覚するのだ。 それは何と愚かだろう。 自分に与えられた翼を利用し、『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)は思うが儘に空を翔ける。神秘の加護が与えた運動能力によって、彼女の身体を捕える大地のくびきから解放されたのだ。 そんな彼女を狙って疾風の刃が、暗黒の瘴気が襲い掛かる。 しかし、そんなもの恐れるまでも無い。正面から叩き潰せばよいだけの話だ。 自分にはそれだけの力がある。 「オレは護る事に貪欲だから、倒れる訳にはいかないのだ」 チリン 何処かで鈴が鳴る。 それが彼女が刃を振るう理由。 もし、黄泉路から迷い出た亡者が、世界を傷付けると言うのなら。 「願わくば君を一閃する」 殲滅の闘気が夜の水面に向かって炸裂した。 ● カッ カッ 薄暗い闇の中、突然強い光が辺り一面を照らし上げる。 『黄泉ヶ辻』のフィクサード達は眩しそうに顔を覆った。 「うわこれ、めっちゃ明るい眩しい」 しかし、それ以上に眩しそうにしているのは、灯りを用意した当の本人――『破邪の魔術師』霧島・俊介(BNE000082)だった。 「アークめ……本気でうちの姫を止める心算のようだな」 「よう、萍水! 投降するなら今の内なんだぜ? まあ、答えは分わかりきってるけど、さ」 互いに落ち着いた所でリベリスタとフィクサード達は睨み合う。 元より正面突破を行わねばならない状況だ。リベリスタ達は予知で相手の存在を看破しているし、フィクサードも感知スキルを以って、場を見張るためにここにいる。故に互いに不意打ちは困難だった。 俊介も可能ならば相手を殺したくは無いと思っているが、それが易々と出来る状況ではない。 ましてや。 「思う存分に苦しめて殺すって感覚は俺様ちゃんにはよくわかんないなあ。黄泉ヶ辻のお姫様も、何をもって普通と定義するのか、狂気と普通の境界ほど曖昧なものはないのにね」 『殺人鬼』熾喜多・葬識(BNE003492)がいる状況では、不要な殺しを止めることが困難極まりないことなど、知れたこと。 もっとも、当の殺人鬼はそんな俊介の心中を知ってか知らずか、楽しげに愛用の凶器を弄っていた。 アークの中でも厄介なことで知られるそんなリベリスタ達を前に、フィクサードはフードの下で冷や汗を流す。しかし、『運命狂』宵咲・氷璃(BNE002401)はそんな怯えの気配を見逃さない。 「人の不幸は蜜の味、ね――。なら、自分の過去でも振り返って笑い転げれば良いわ。玩具にされるその姿はさぞかし滑稽で笑えるのでしょう?」 くすくすと幼女のように無邪気な声で氷璃はフィクサードを嘲笑う。しかし、その表情は艶やかな印象を与える、妖しいものだった。夜の闇に合わない日傘をくるくると回す魔女は、フィクサードの内面などお見通しであるかのようだった。 「必要無いな、今の私は見られる側ではない」 「観客気取りか、思い違いも甚だしいな」 「何!?」 氷璃に対して敵意をむき出しにするフィクサード。しかし、その言葉を『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は切って捨てた。 「取るに足らない端役でも、上がったからには踊りきれ。何、陳腐な結末等知れたもの。気になるならあの世で知人に問い詰めろ」 ユーヌは目の前の敵を単に雑兵と侮らない。 むしろ、相手が雑兵であることにプライドを持たないことこそ、彼女にとっては見下す理由になるのだ。 「まぁ、知人が居るかは知らないが」 その上で落とすのがユーヌのやり口でもある。別に本人にしてみれば意識してやっているものでは無く、思いつくままに浮かんだ言葉を口にしているだけの話だ。しかし、彼女の言葉は常に全てを切り裂く残酷な真実だ。 「……最早、これ以上話しても時間の無駄の様だな」 わずかに肩を震わせながらフィクサードは翼をはためかせると、リベリスタ達に向かって槍を突き付ける。激高した様子を見えないのは最後の意地か。 「そんなこと、最初から分かっていることでしょ? それに、此処であんたを見過ごせばまた何処かで誰かを不幸に陥れようとするのよね、きっと」 『炎髪灼眼』片霧・焔(BNE004174)は強く拳を握り締める。 以前戦った時に、あのフィクサードがどんな下劣な根性の持ち主なのかはよく分かっているつもりだ。そいつが再び野放しになるなど、見過ごせる訳がない。 燃えるような瞳が闇を睨みつける。 「今日、此処で、私達が決着をつけるわよ!」 「ハッハー! ここでどういう結果になろうとお前の趣味の範疇なんだろ? ただし、お前がこの場を生き残れれば、の話だ。逃げられると思ってんのか!」 「そこにいたのか。えぇい、よりにもよって、一番関わりたくない奴と!」 『一人焼肉マスター』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)も負けじと、焔の一歩後ろから叫ぶ。国内の神秘界隈で「黄泉ヶ辻」と関わりたくない革醒者は多いが、「黄泉ヶ辻」から関わりを拒絶される革醒者は彼くらいのものだろう。 「お前のことは逃がさないぜ! アークが誇る神算鬼謀・鬼将軍テテロミーノさんがよぉ!」 「せめて自分の名前を名乗れ!」 「せんとうしき、ますたーふぁいヴはつどうっ! ミーノ、ちょうしきかんモードッ!!」 竜一の言葉に応じるように、『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ・ミーノ(BNE000011)はちょっと決めた雰囲気のポーズを決めてみせる。フィクサードの言葉に応じたのかも知れないが。決めたポーズは彼女自身の幼さも相俟って、夜の遊園地ではしゃいでいる小学生女子そのもの。しかし、その実なんのかんので竜一が評する通り、極めて優秀な支援能力の持ち主でもあるのだ。 その支援能力の全てが「黄泉ヶ辻」のフィクサードを討伐するために向けられる。 「すべてのかんかくをとぎすませてせんとうにのぞむのっ。みんなをパワーアップ!」 ミーノの愛らしい声が戦闘開始の合図になった。 ● 月を背に魔女は黄泉の亡者への葬送曲を紡ぐ。 望みを追い続けて壊れた女への葬送曲。そして、彼女の破滅を望む者達を共に地獄へ送り込むための葬送曲。 「もがいてもがいて深みに嵌っていくのは一体誰の事かしら?」 ノーフェイス共々フィクサード達を鎖で拘束し、氷璃はクスクスと笑う。 敵の狙いなど知れたこと。 純粋な戦力にはやや不足がある分、地の利を以ってアークを制しようとした。しかし、同じ戦術を取るのなら、自分の方が圧倒的に上だ。そして、自分には輝くこの6枚の翼がある。 先手を取られたフィクサードは、生々しい傷跡の残る顔を晒し、憎々しげな視線を氷璃に向けてくる。部下には目つぶしを受けたものもいるが、それに対して気配りを見せる様子は無い。 その顔を見て、俊介は思う。彼は何故あのような目に合わされたのだろうと。「黄泉ヶ辻」の性質を考えると、上位者から面白半分の拷問を受けた可能性などもある。フィクサード社会は必要以上の実力主義なのだ。 元から歪んだ性根の持ち主だったのかも知れない。 或いは、組織の中で染まって行ったのかも知れない。 こと此処に及んでは助ける道理は無い。それでも俊介は言葉を紡ぐ。 「萍水。改心とか、投降とか、する気……ないんだよな?」 「何処にそんな必要がある?」 「なら……!」 俊介の決意と共に全身から激しい光が放たれる。戦場の全てを焼き尽くす裁きの光だ。 光に反応するかのように水面からも、フィクサード達の反撃が飛んでくる。 しかし、それと同時にリベリスタ達も翼の加護を得て、一気に敵への攻撃を加速する。 陽気な殺人鬼は戦場の上で死の舞踏(ダンス・マカブル)を開始した。 「んじゃま、お姫様のゆめ物語の舞台はこのあたりで幕引きだね。特等席でのカーテンコールの邪魔をしよう、逃がしはしない。万華鏡の狗は獰猛だ」 葬識が刃に付いたハンドルをくるくる回すと、漆黒のオーラがノーフェイス達を撃ち抜いていく。 「運命には愛されなかった人形が哀れだね。まるでコッペリアのようだ」 慈しむべき命ではあるが、哀しいかな人形は葬識の飢えを満たしてはくれない。 もっと自分の飢えを満たしてくれそうな相手を見て、そっと舌なめずりをする。 たしかに、当初地の利はフィクサード側にあった。しかし、リベリスタ側は戦場に合わせて的確な準備を行っていた。不安定な足場も彼らにとっては平地と変わらず、水上も翼を持つ者達には普段と何の違いがあろうか。 加えて、大本の操作用アーティファクトが破壊されているためか、ノーフェイスもフィクサードの意のままに動いていない。 状況は確実にリベリスタ達にとって有利に運んでいた。 「喜劇的だな? 自ら溺れる馬鹿らしさ」 乾いた銃声がしたかと思うと、盛大な水飛沫が上がる。 ユーヌはいつものように顔へ表情を浮かべる事無く引き金を引く。手に握られるのは小型護身用拳銃(おもちゃもどき)だ。しかし、彼女の細腕でも耐えられる威力しか持たないはずの弾丸は、不思議なことにノーフェイスの巨体を吹き飛ばしてしまう。 コントロールを失ったノーフェイスにとっては致命的な効果である。 そして、フィクサード達のリーダー、萍水への道が拓けたのを見て、見下すような視線を送った。 「噛み締め楽しめたか? 嘆きの味を」 「死刑宣告のつもりか……」 「まぁ、不満足ならご愁傷様」 歯を食い縛って悔しがるフィクサードのことを意にも介さず、ユーヌは淡々と攻撃を続ける。 「おいデュランダル共、死にたくなければさっさと撤退しろ!! じゃないと葬ちゃんがお前等の命、全部食っちゃうぞ!!」 俊介が勧告するもフィクサード達の態度は変わらない。「黄泉ヶ辻」のフィクサードにはしばしば見られる傾向だ。自分の命よりも、1つでも多くの不幸をばら撒くことを優先させる。 だから、焔は迷う事無く拳に炎を纏わせて、一気に薙ぎ払う。 「御機嫌よう、私の事は覚えていてくれたかしら?」 「あぁ、あの頃はただの小娘と思っていたが。まさか、深化の先にまで至るとはな……」 「今度は一発じゃない。貴方が倒れるまで何度だって拳を叩き込んであげるわ。 さぁ、覚悟はいい?」 炎の心を持つ少女は淀む水底の心を持つ男に拳を振り上げる。 水上に炎が舞い、闇が包み、幻想的な雰囲気を醸し出す。 しかし、それは世界を侵そうとする悪意と世界を守ろうとする意志のせめぎ合いだ。 「君の名は流浪のものという意味もあるのかな。浮き草という意味のある名の君にはとても似合ったフィールドだ。ここでたゆたうのが趣味なら一つ遊んでみようか」 そこへ五月が紫の輝きを放つ刀を手に畳み掛ける。 ノーフェイスを排除したら、リーダーに集中するのみ。彼を倒せば戦場は瓦解するのだ。 「君が他人の不幸を楽しむ事は勝手だが、オレの好みではないんだ。申し訳ないが邪魔させていただこう。誰かが不幸になって喜ばしいほどオレも性格が腐ってないのでな」 「お前も黄泉ヶ辻で過ごせばそうも言っていられなくなるだろうさ」 「さっきも言った通りだ。オレは護る事に貪欲だから」 五月は強烈な踏み込みから刀を一閃させた。その一撃はフィクサードの身を覆っていた闇すら切り裂く。 少女の放つ圧倒的な攻撃力に、フィクサードは恐怖の表情を浮かべた。 「ミーノにもまけられないりゆうはあるよっ!」 フィクサードの言葉を否定するように、ミーノも大きく声を張り上げる。 彼女にとっては目の前のフィクサードが紡ぐ言葉の意味など分かりはしない。それでも、彼の言葉が正しくないことだったら分かるつもりだ。 だけど、彼の言葉を無碍に否定したりもしない。そうしたら、自分も彼と同じ何かになってしまう。彼女はそれを直観的に悟っていた。だから、自分が負けられない理由を言葉にする。 「たとえきずだらけでぼろぼろでもえがおでたちあがる。だってミーノはおうえんするやくめだから。だれよりもげんきにしてないとだめだからっ」 「そういうことだぜ!」 「誰だ!?」 ミーノに気を取られていたフィクサードが後ろを振り向くと、そこには全身から湯気を立てながらしたり顔をした竜一がいた。丁寧に船の脇に隠れて隙を伺っていたのだ。E能力に加えて常人を越えた運動神経を持つ彼ならばこそ可能な技である。 「俺だ!!」 そして、竜一は全力中の全力を以って冴え冴えと輝く宝刀を振り抜いた。 並みの革醒者ならばバラバラになりかねない一撃。しかし、フィクサードはギリギリのところで踏みとどまる。そして、リベリスタ達は彼の手に極小のDホールが開いているのを目にする。死なば諸共、死病を撒き散らすつもりか。 だが、そんな覚悟でリベリスタ達の覚悟を上回ることは出来ない。それは最早常識だ。 「させない! 人の不幸を望む事しか出来ない貴方には!」 「満天の星空より冷たい水底の方がお似合いよ」 「墜ちなさい!」 浮かび上がろうとするフィクサードを焔は引っ掴み、炎を纏った拳でガンガン殴りつける。さらに、氷璃の呼び出した黒鎖が拘束したとあっては、もはや動くこともままならない。 そして、焔の拳がフィクサードの胸板を強かに打ち付ける。 今度こそ、フィクサードは膝を崩し、倒れて行く。 そこへ振り下ろされる、禍々しい鋏。 胴体と切り離されたフィクサードの顔には、既にこの場で最も不幸な男の不幸を楽しむ余裕はなく、死に怯える矮小な男の表情があるのみだった。 ぽちゃん ● 俺、人が死ぬ光景が大嫌いなんだ。 つまり俺の不幸であるんだけど……良かったな、最後に見えるのは俺の不幸だ。 おまえは死ぬことを不幸だと思うのかな。 それなら同時に自分の不幸をも見る事になると思うんだけど。 俊介は悲痛な面持ちでフィクサードの首が落ちて行った川の水面を眺めていた。 誰が勝利者なのか分からない程に、哀しげな表情だ。あのフィクサードにとっても、死は不幸だった。彼の最期にせめてもの救いを与えることは出来たのだろうか? 「こんないい特等席のプラチナチケット、ふいにするなんてもったいないよね。黄泉ヶ辻のお姫様の滑稽で可哀想な演目は楽しめたよ。惜しむらくは主演女優に拍手ができなかったことだけど」 と、そんな俊介の元へ、陽気な雰囲気で葬識がやって来た。とても空気を読んでいるとは思えない振る舞いだ。いや、彼なりに気を使って明るく振る舞っている可能性もある。もっとも、逸脱した感性を持つ彼の慰めは、一般人にとって慰めになるとはお世辞にも言えないわけだが。 生き残ったノーフェイスとフィクサードの討伐は終わった。 あとは城へと向かったリベリスタ達の報告を待つだけだ。 葬識は近くにあった高台から城に向けて目を凝らす。 お姫様のゆめ物語はハッピーエンドで終わったかな? お伽話の最後はハッピーエンドがいいよね♪ 哀しい結末はここにあった。 だったら、最後にはハッピーエンドで終わらせたい。 それがこの殺人鬼が願ってやまない結末だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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