● 部屋の隅、少女がガタガタ震えていた。 暗くて、寒くて、静寂に支配されていて。息を殺しながら、口元を両手で隠して。必死に気配を失くしては、逃げていた。 数日過ごして、理解した。 此の世界には一定のルールがある。 まず一つ目に、誰一人として味方がいない。 まだ出会っていないのかもしれないし、若しかしたら味方という存在に気づかなかったのかもしれない。 が、もう期待はしない事にした。だって、いるとすれば全てが他人で、敵で、鬼で、悪魔だ。どうせ、『次の24時間』には自分の事なんて忘れているのだから。 二つ目に、此の世界に終わりが無い。 死ねないという事だ。死んだとしても、午前零時を迎えると共に全ての命が元通りになる。傷も癒える。つまりリセットされるのだ。 どんな犯罪を犯した所で、全てが完全犯罪になるし、罪にもならない。捕まえる警察もいないし、咎める奴もいない。けれど痛いのは何回やったって嫌嫌。 もしかしたら、私では終わらせられないのかもしれないが。 三つ目に、此処は地獄という事だ。 ギシ、ギシ、遠くから聞こえる足音に全身がびくりと揺れた。 口元を抑えて息を殺していても、激しくなる動悸に鼻息がどんどん荒くなっていく。気付けば瞳から涙が溢れていた、身体がガタガタ震えていた。 廻るドアノブ、開いていく扉に、一筋の光が差し込んだ。 其の、扉と扉の間から男の顔が覗いた。ニタァと笑った目が、気持ち悪くて気持ち悪くて。 少女が窓から飛び降りようと、其の身をベランダに投げ出した所で複数の腕が少女を掴んだ。引きずられ、引きずられ、家の中に戻されれば、ピシャリと扉は閉まる。 刹那、硝子扉に血が飛び散った。 どうせ其の血も、次の24時間には私の身体の中に戻っているんでしょう? ● 「ゲーム。好き?」 『規格外』架枢 深鴇が集まったリベリスタにそんな事を聞いた。 深鴇の横にあるテーブルには、一台のゲーム機とソフトが置いてある。ソフトのパッケージは真っ白であり、『小さな世界』とだけ書かれている。 「制作者フィクサードの此のゲーム。 内容は、かなり自業自得な儀式失敗により呪い(笑)が蔓延した世界にて、終わらない殺人の夜をどう切り抜けるかアイテムやその他諸々色々使って生き残るゲーム。 敵は隣の家のおじさんとかが、突如白目になって斧振り回して来たり。突如豹変したお兄ちゃんに首に肉ごと抉られるキスマーク着けられたり。そんな感じ。分りにくい? 普通の人もいるいる。でもみーんな、弱いよ。君達に比べたらね? 訳ありでアークが回収したんだけどねー? 詰まる所、此れ自体がアーティファクトという事。 それもかなり重度の隠蔽魔術やら呪いやらそんな感じのめんどくさいものが集まった、厄介な類の」 見てて。 そう一言置いた刹那。深鴇はゲーム機に向かって魔力の矢を放った。 だが矢はゲーム機目前で、弾かれた様に逸れては、リベリスタの方向へと飛び、被弾しかけたリベリスタが寸前で避けて壁に当たって消滅。 「ごめんごめん。百聞は一見に如かずって言葉があるよね。 強固な防御壁があるみたい。外部から壊せないんだから、内部からイカせちゃうしかないって思ったワケ。僕、頭良くない? でも僕はいくら世界中の人が死ねば良いのにと願った身分でも、現時点で破壊専門の能力を残念ながら持っていない。 だもんで皆に頼みたいんだ」 簡単な事。 此のゲームの中に入って、全部壊して来て欲しいという事。 「とんでもだけど、入れるんだ此のゲーム。 コントローラーを手にして、スイッチいれれば精神だけ移動。 だからやると身体は突然死!! ……したかのように見えて、仮死状態みたいなものに成るワケなんだけど。 可哀想にね? 一般人なら、それを知らないならヤっちゃうよね? ましてや店頭で、試作品として置かれていたら、サ! まー、持ち主兼制作者だったフィクサードは、もう此の世にはいないんだけどね? だから此れはぶっちゃけると、其のフィクサードの討伐依頼のオマケ的な要素なワケ」 深鴇の何時もの無駄に回りくどいお喋りだが、疑問は一つ。 「もしかしたら、既にゲームの中に囚われている人でも居るの?」 「ビンゴビンゴ、そういう事! 顔面の偏差値が高くて、でも一般的より少し体力が無い何処の話にも居そうで希少価値な文系眼鏡少女が、終わらない殺人の夜を泣きながら過ごしているよ。 其の子はね、運悪くこのゲームをやっちゃったのはそうなんだけど。 突然意識を飛ばして、倒れた身体の打ち所が非常に残念無念!! ――悪かったんだ。 はっきり言おう、その子には戻れる身体が無い。だって僕が彼女の死体を埋めたから間違い無い。 結局さァ、ゲームが壊れれば君達は解放されても、其の子だけは戻る場所が無い。 魂があるのかだって? そんな事、僕には解らないから聞かないで! 酷い事に此方の世界の子だから、此のゲームで死ぬような事があっても死ねないみたい。 でも、少女の精神が崩壊するまで少女が永遠を繰り返すのは、……僕は見ていられないからね。 終わらせてあげようよ? 君達は『此の世界』のリベリスタだ。此のゲームが崩壊を招く事もあるかもしれない。それは困るよね。 だから、『彼方の世界』の破壊者になるんだ。 行き成り魔法みたいな力ぶん回してくる異端者(リベリスタ)が発生して、理不尽に殺される世界側は、そりゃあ君達を悪とするだろう。 でも大丈夫、大丈夫。 彼方には頼れる友達も愛する人も大好きな家族もいないんだから、壊せるよね? さァ、頑張って来てね。救世主諸君! 僕はポップコーン食べてコーラでも飲みながら、彼方の世界の不幸を楽しんでいるよ。たまに回復飛ばすね」 「……あ」 まだ何かある様だ。 「もし、もしね? 無いと思うけど、もしね。 本気で撤退しないと駄目な時はいってね。リセットボタンぽちってしてあげる。 僕、ずっとゲーム画面見てるからさ。なんか合図出してね。 例えば合言葉とか、何人か動けなくなったらとかさ! まー無いと思うけどね。 ハハハ、面白いなぁ。 君達が仮死状態の身体にナイフを滑らせたら君達の帰る場所が無くなる訳だよね。 アハハ、ハッ、ごめんなさいやらないから武器仕舞って、死なせないように僕、頑張るから仕舞って!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月15日(木)22:17 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● ―――→New Game. 難易度設定―――→Hard. 参加人数――――→7. Are You Lady? 六人の意識はゲームの世界の中で、息をふき返した様に目覚めた。 頭上にあるのは真ん丸の月で、まるでバロックナイトを思わせるかのように、赤く、燦然と君臨していた。 空でさえ、気持ちばかりに赤く見える。 『ヴァジュランダ』ユーン・ティトル(BNE004965)は後頭部を擦りながら起き上った。周囲を確認すれば、仲間がいない。一人だ。 それはそれとし、そういえば此処に来る手前によくないものを見た。 「おい、架枢だったか? 何、難易度を勝手にハードにしてんだ。イージーでいいだろう、イージーで」 ユーン的には聞こえないだろうと思って独り言であったのだが、何故かAFが機動していた。不思議と。 『違うよ!? 勝手にそうなっちゃったんだよ!? でもその方が面白い!!』 「貴様が楽しいかは別の話だろう」 だが気楽に話もしていられない様だ。前方より、日本刀を持った中年の男が涎を垂らしながら、瞳にユーンを捕えた。 声にもならない声を上げながら、走ってくる――つまり、感染者。 「捕らわれた少女も哀れだが、こいつらも中々哀れだな」 其の少女の対応は仲間に頼んだ。逃げでは無く、其の方が良い結果を残せそうな気がして。 ユーンは迎え撃つ。二刀の槍を己が腕の様に変幻自在に動かし、感染者を吹き飛ばすより先に槍が感染者の命を貫いた。 飛び交った血さえ槍で吹き飛ばし、其の侭走り跳躍する。数十メートル飛び上がったユーンの身体、そして、手始めとして寺を上から下に叩き崩し、寺から木屑に返す作業を開始した。 何も無い空間に、手の平を置いた『純潔<バンクロール』鼎 ヒロム(BNE004824)。刹那、電子の妖精を発動させれば、淡く光るキーボードがヒロムを囲う様にして出現した。 「どーせやるならばんばん上げちゃおーバンバン☆」 流れるように、それこそピアノの旋律でも奏でるように。彼の指は忙しく動けば0と1の世界に改ざんを施していく。 ワンパンチでビルが崩れるように。でこぴんで道路が破壊できるように。彼によるチート補正の力は限界を超えた。 他より少しだけ大きいボタンを、フィニッシュだと押す。そうすればヒロムの周囲からそれらは消えた。 「さ、どんなもんかね」 自分が施した改ざんとやらは。 恐らく仲間が何かをしたのであろう。遠くの方で、ビルが潰れていくのをヒロムは眺めて満足気に頷いた。 だが背に感じたのは普通より違った『殺意』。それに振り向いてみれば、揃いも揃って武器を持った感染者で。 「人って刃物を持つと強くなったって錯覚するよなあ。それが錯覚である事を判らせてやるよ」 ヒロムは手を伸ばし、かかって来いと手を招いた。 片腕を振り払ってビルを殴っただけで崩れたのだが。 瓦礫と轟音の中、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は視線に気づいて振り向いた。 夜中とは言え、此の都会だ。勿論人口は多いし、感染者に襲われないように集団行動している一般人も多い。 其の、彼等が恐怖に脅えた目線で涼子を見ていたのだ。まるで、時が止まったように静かな其の場所。 崩れたビル、只ならぬ雰囲気の女。一般人もやっと思考が追いついて来たか、一人が叫び声をあげた刹那、全員が全員同じように声をあげて逃げ出したのだ。 「あれも、やらないといけないんだな」 化け物であると認識されたが涼子の心は落ち着いていた。元々覚悟してきたからこそでもあるのだろうが、彼女の心の強さが動じないようにしていたのかもしれない。 天使か悪魔か、歪んだ武器を涼子は構えた。何も、躊躇いも無く引き金を引く。 轟音と一緒に赤い花が咲いていくのを視線を逸らさずに見ていられたのは、叫び声を無いものとして聞き流していられたのは、殺せたのは、きっと――己がひどい奴なだけだと、引き金を引く回数だけ自覚しながら。 崩れたビルの反対側では『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が居た。 背から聞こえる銃声に振り向けば、煙や瓦礫の奥で仲間の背中が一瞬だけ見えた。感染者では無い事だけに何処か安堵した悠里であったが、刹那、誰かが彼の足を掴んだ。 「たす……け」 小さな手、子供が一人。崩れた瓦礫の下から悠里を見上げて、震えきった手を伸ばしていた。 「あ……、ああ……えっと」 何時もなら直ぐにでも手を伸ばし、瓦礫を退けて抱えて一緒に安全な場所まで逃げた事だろう。 だがしかし、今は此の世界の破壊者である。伸ばされた手を握り返す事は出来ても、其処から助けたとしても、殺さなくてはいけない。 そして世界は優しくない。悠里と少年を飲み込むようにして其処が影った。少年は叫び、悠里が見上げれば新たな瓦礫が落下してきていて、此の侭であれば二者とも圧死の予感。 攻撃して瓦礫を壊す事もできたのだが、悠里の足は自然と後退し、一歩……二歩、三歩四歩五歩と下がった所で体を半回転させ、少年に背を向け、一目散に走った。 背で聞こえた『待って』の二文字の中にチラつく嘆き、恨み、悲しみ、叫びを受け止めながら、悠里は心の中で何回も謝罪を繰り返しながら、起こるはずがない奇跡を願った。 声にならぬ声をあげて迫って来た男。だが次の瞬間には頭と胴体と足に三分割されて地面を彩るオブジェとなった。 三徳極皇帝騎――半端な長さの太刀の刃に、赤い液体がぽたりと垂れる。 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、仲間たちとは一寸離れた場所からスタートしていた。 其処で感染者の群に襲われた訳だが、今は死体の山の上に立つたった一人の生存者である。 太刀を空中で振り切って、刃を曇らせていた血を振り払って鞘へと戻す。足下の、まだ温かい塊を跨いで移動し、時折蹴飛ばしながら溜息を吐いた。 これで、囚われのお姫様を救出しに来たと思うのは滑稽な様な、何か間違っている気もするのだが。 「……まあ、頑張るよ」 誰に言う訳でも無く、義衛郎は呟いた。 感染者が持っていたジッポを拾い、火を点け、死体の群にそれを投げ込んだ。数時間後には山を焼く火種になってくれれば良いと。 「深鴇。……君は相変わらず一言多くて損をしていないか」 『僕は生まれてずっと、不幸体質なだけだよ』 「呼びよせているという点では間違っていないね」 『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は高速道路を辿っていた。逸れた仲間を探しているものあったが、目的の少女を探す旅。 懐かしい友の声が響くアクセスファンタズムは心地好かったのだが、悲鳴が聞こえたと思えばすぐさま其方の方へと走る。 少し先だが、恐らく感染者の群が一般人を襲っている様だ。遥紀の全身が鳥肌立った、生きたまま食われている人を見て、遥紀が黙っているはずも無かった。翼を広げ、地面を蹴る。 『人助けは話と違うんじゃあないかな』 「深鴇はちょっと黙ってて!」 『どうしよっかなー! 今の遥紀くん怖くて僕、イイナァって思っちゃったから黙ってるね』 20mの範囲に飛び込んだ遥紀は翼をはためかし羽を以ってして感染者を貫いた。恐らく、助けられた一般人は誰しもがこう思っただろう。 ――天使だと。 電子の世界だとしても、本来ならか弱き存在は護られるべきだと思った。考え方としては、リベリスタとしては正解かもしれない。 されど。 『ヤりますか? ヤりませんか?』 「禍根は全て刈り取るさ」 遥紀は目を瞑った。背の柔らかいそれを動かす度に悲鳴と鈍い音が増した。後々、其処一帯は全て赤い水溜まりに成った事に、深鴇は舌なめずりして悦んでいた。 ● 浪子の周囲は元々異常だが、今日は特に異常だ。 まるで動ける範囲を狭められていくかの様にして、周囲の建築物が潰れていく。轟音、叫び声、慣れっこだが初めての現象に心が脅える。 屈強な男に組み敷かれて、諦めた目線で男が持つ包丁を見つめていた浪子だが、刹那、銃声が一つ響いた。 脳に穴の空いた男の身体が力無く浪子に覆い被さり、小さく悲鳴を上げた彼女が次に見たのは涼子であった。 「……見つけた」 其の四文字はアクセスファンタズムを駆け抜ける。 涼子の目線から見れば、浪子が只管「あ」と「やだ」を繰り返し発して脅えていた。男の死体を掴んで投げた涼子が、「大丈夫だ」と手を伸ばしてみたのだが、横に顔を振った浪子は距離を取った。 そうか、浪子から見れば涼子も感染者に見えるのだ。 何から説明すれば良いか、そう涼子が考える前に第二の感染者が浪子を狙っていたのだが、其の感染者の刃を受け流し、ワンパンチで脳髄をぶちまけさせたのは悠里であった。 力の加減が解らず、言う事を聞かない拳に不機嫌を覚えながらであったが、悠里は浪子に手を伸ばす。 「助けに、来たんだ」 絞り出した様に出た声に少しの嘘を混ぜて。だが、伸ばした手は血で汚れきっていた。 脅えきった浪子は、涼子と悠里から逃げるようにして其の場から走って曲がり角を曲がる。リベリスタが助けに来た時にはもう、浪子が繰り返した誰も『信じられない時間』が長すぎたのだ。 角を曲がれば、今度はヒロムが居た。 彼の掌の上で淡く光る月を美しいと思えたが、されど其の光は目の前で一般人ごと感染者を焼き尽くす。 「あわわ、顔にこんな傷があるけど決してヤクザとかじゃないから。君を傷付けたりしないからっ」 気付いたヒロムが浪子に駆け寄ろうとした所で、浪子は再び逃げようと半回転する。其処で既に悠里と涼子が追いつき、丁度、浪子はリベリスタに挟まれた状態と成った。 「や、こっち来ないで……今日は、今日は世界がおかしいの」 「そう、壊しに来たんだ。君が……元に居た世界から」 尻もちついた浪子に再び悠里が手を伸ばした。 「この世界が壊れれば全てが終わるんだ。……そう、全てが」 ヒロムも彼女に現状を説明する為に言葉を紡ぐ。涼子も同じだ、話をするのは苦手だがなんとかして信用を得ようと考えた。 刹那、盛大なブレーキ音。何かから逃げていたのか、一般人が乗ったトラックが横転しながらビルに突っ込んだ。 爆発音と、爆風が其の場の空気を押し退けた。煙の中から、一人の影が歩いてくる。浪子は涼子にしがみつき、悠里とヒロムは構えたのだが。 「……なんだ、貴様等か。救出対象には会いたく無かったのだがな」 会って、話をして、情でも移ったら生かしたくなるから――。 火の点いていない煙草を噛みしめたユーンが、槍を振りかぶった。 「おい止めろ! 何を!!」 「何をって、何だ?」 浪子の前にヒロムが壁に成る形で立ったのだが、投擲された槍はヒロムのすぐ隣を高速で駆け抜けていく。 ユーンから見て目の前、浪子たちから見えて背後。不特定多数の感染者が蠢いていた、其の一人の喉を槍が貫き倒れる。 「忘れるな。此の世界はエリューションだ、壊されると思ったら対抗してくるのが常だ」 瓦礫は増え、見えている限りで残っているビル群も少なくなってきた。 それに沿う様にして世界を覆う空が剥がれて0と1の文字が露出している。時折地面も剥がれて、データが無いのか真っ黒な空白が露出する。 いよいよこの世界の終わりが見えて来た。 感染者と思わしき敵の凶暴さはどんどん増していく。 「流石、東京? 夜なのに人が多いですね」 何処かから奪ってきたのか、義衛郎がトラックで人ゴミに突っ込んだ。鈍い音と骨でも軋む音を暫く堪能した後、トラックを見捨てて鞘から太刀を抜く。其のトラックは建築物にぶつかり役目を終え、炎上したが。 信号機の上を足場とした義衛郎が浪子たちを見つけた。 彼等の場所に行くには敵群を如何にかしなければいけないのだが、義衛郎は考える暇も無く群の中に身を投じ。 「氷つけ」 其の、一帯を氷像で飾り付けた。 仲間の存在を確認しながら、腰に腕を回している浪子の頭を撫でてみた涼子。 如何やら浪子こそ馬鹿では無いらしい。此の状況、何が味方で何が敵かの判別くらいは可能だろう。 「嫌、もう、嫌、こんな世界」 だが、此処を出たら。そんな事言える事も無く、涼子は言う。 「ただ、生きている間は目を開けて、音を聞いて、思いを表していくことだ」 例え、糞みたいな世界でも。 涼子の放つ弾丸で捉えきれなかった感染者が、浪子目掛けて飛び込んで来たが悠里がそれを受け止め投げ返した。だが数は一では無く、結果、彼の体に四方八方から来た刃が無数個刺さってしまう結果を残し。 現実世界の身体がびくんと跳ね上がり、連動したように吐血をし。 「あーらら?」 深鴇が聖神を呼び出す仕草に入った。 包丁を抜いた刹那、傷口が逆再生したように治っていく。 背で泣いている少女を庇い続け、崩壊していく世界を見つめて。時間が重なる度に悠里の心が重く、ストレスから吐き気が止まらない。 彼女を助ける為に傷つけない為に行動しているのに、壊せば壊す程彼女の死が近いのだ。 それなのに、「ありがとう」なんて言われてしまえば返す言葉も無く。爪が食い込んだ拳を握って、悠里は八つ当たり気味に目の前の感染者を吹き飛ばした。 一番大きな騒ぎに遥紀が到着した。 見れば、ヒロムが背を突かれて動けない状態に。すぐさま回復を行おうとしたのだが、深鴇が代わりを担うと連絡が来た為に選んだのは破壊。 矢のように飛ぶ翼が、感染者の肉体を蜂の巣へと変えていく。 「おーサンキューサンキュー」 「うん、もうひと頑張りって所だね」 背中合わせにヒロムと遥紀が位置着いた。遥紀の目線にか弱い少女が映り、察した。 「あれが?」 「うん、そうそう」 そう、アイコンタクトで話をひとつ。 「ふざけたゲームだよな、あんな少女一人閉じ込めて」 だから壊すのだとヒロムは月を生み出した、此処で彼の広範囲に及ぶ攻撃はとても重宝だ。 「そうだね……」 月が蹴散らし、感染者が消える。其の地面でさえ抉れて、黒い地盤が露出したかと思えば崩壊していく世界。 空にヒビが入り、月が落ち、遥か彼方に見える地平線が塵と成り消え始めていく。 其の中、遥紀は言った。小さい声で。 「たった小さな綻びでも、全部縫い止めておきたいんだ」 遥紀曰く、子が一緒に戦いたいと遥紀に言ったらしい。だが、戦地の辛さを知っている上でそんな事させる訳にもいかなくて。 だからその前に全部止めるのだ。 これは、未来。それとも、夢か現実か。 止まれの標識の上に着地したユーンが、二本の槍を構えた。 「終焉だな、まさに終焉だ。天井とキスしてみるか?」 「それは良い考えですね」 跳躍したユーンと義衛郎が狙ったのは、感染者の群のすぐ隣にそびえ立つビルであった。 力任せに、ユーンはビルを貫き。義衛郎は計算してビルを切り捨てた。バランスを崩した其れが真っ二つに割れ、足場を失ったビル上部が鉄槌が如く落ちていく。 「うそおお!!?」 即座に悠里が浪子と涼子を抱えて走り、 「派手だなぁ」 遥紀がヒロムを掴んで上へと飛んだ。足下では硝子や破片が、砕け舞いながら感染者を押しつぶしていく。 「こんなものか」 「鼎さんが居て良かったですね」 着地したユーンと義衛郎。其の隣で悠里が、浪子を抱えながら息荒く倒れていた。全力移動とは20mらしいけれど、上からビル降って来たら20m? 関係無いぜ。 遥紀とヒロムも仲間のもとに着地し、全員がやっと揃ったという所だろう。周囲を見れば、所々静電気のような電撃が起き、空は完全に無くなり、世界が端っこから崩れて行っている。 「これで、終わりって所かな」 ヒロムが遠い目線で言った。不思議と、呼応したように全員の身体が足下から消えていく。 「これで、戻れる?」 浪子が、リベリスタ達に問うた。 だが、誰一人すぐに言葉を紡ぐ事はしなかった、できなかった。 時間はかかったが、全員の腰あたりが完全に消えている状態であったが、悠里が言った――全ての真実を。 「黙っててごめん……僕には君を助ける事が出来なかった」 「え……」 「申し訳ない、もう少し早く君の事を見つけていれば、或いは間に合ってたのかも知れない……ほんとに申し訳ない」 同じようにヒロムは浪子に頭を下げ、そしてまた沈黙が起きた。 悲劇は一番最後にやってきた。一番救いたい存在が、救えないという事実。だが、浪子は首を横に振った。 「これで、やっと……、もう、恐い想い、しなくて、良いんだね?」 これが、彼女の最期の言葉。 リベリスタ達が想い描きたい未来は、叶わない。けれど、彼女の願いはひとつ叶ったという事。 「おっかえり!」 現実に戻れば、聖神と共に深鴇が迎えてくれた。笑顔であったのだが、何処か遠慮しているような引き攣り気味な表情で。 ● 墓の手前に花束を置いた。遥紀と深鴇が綺麗な青空の下で。 「十字の下に棺桶ラッピングされた死体を埋め込むより、日本人らしく火葬して、可愛い壷に詰めて納めてあげたよ」 「楽しそうに語るね。深鴇にしては最善を尽くしたんだね」 「そういう事!」 風に煽られ菊の花びらが宙に舞う。白と黒の羽が青空に吸い込まれて消えた。 ふと、遥紀の目線の先。墓の後ろで何時かゲームで消えた少女が笑っていたように見えた。しかしまばたきすれば其処に誰もいない。 「……あ。深鴇は霊とか信じる?」 「うーん、居たら面白いなあとは思っているかな」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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