●孤島。嵐の洋館で。 沖に出て暫く。孤島の洋館で、嵐の夜に。 出来過ぎた舞台設定。嵐、とはいえ船が出せないほどではない。それでもその洋館には、5人の男女が取り残されていた。生存者は5人、ということである。 彼らは大学のサークル、OB、OG仲間である。ミステリーに傾倒する彼らがこの洋館で開いたのは、ちょっとした推理イベントであった。 「その筈が、どうしてこうなっちまったかなぁ」 髪を金色に染めた青年が、煙草を燻らせそう呟く。(堂島)という名の彼の表情には疲労の色が濃く浮かんでいる。 「そんなの私が聞きたいわ」 ショートカットの女性(金森)が、椅子に腰かけたまま溜め息を零した。彼女の隣では、長い髪の女性(恋塚)が両手で顔を覆って泣いている。 悲壮感漂う3人を、困ったように見つめる中年男性が1人。この企画を仕切っていたOB(谷口)である。 「困ったな。どういうわけか建物から出られないし、三角のやつも部屋に籠って出てこないし……。俺、三角に声かけてくるよ」 そう言って谷口は部屋を出ていった。後に残された3人は無言。 今この場に居ない三角を含めて5人。それが現在この洋館にいる生存者である。 皆があえてみないようにしていた、玄関方向。そこには遺体が1つ、横たえられていた。 見えない壁のようなものがあって、洋館の外には出られない。玄関の遺体は他殺体だ。首や胸を刺され、その命に終止符を打たれている。 生存者5名。この中に、彼を殺した者がいる。 その事実が、5人の心を曇らせている。 更に1人。姿を消したまま戻ってこない(奏)というOGも居る。生きているのか、どこかですでに死んでいるのか、それとも彼女が殺人鬼なのか……。 これは孤島で起きた殺人事件。 この事件が神秘絡みだと知っている者は、居ない。 ●ノーフェイス(姿なき殺人鬼) 「趣味で開いた企画の最中に、メンバーの1人がノーフェイスと化した。だけど、誰がノーフェイスと化したのかは不明。行動を起こすまでは悟られない、そういう能力みたいね」 仮に(殺人鬼)と呼ぶことにするけど、と前置きし『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言葉を続ける。 「ノーフェイス(殺人鬼)の能力で、参加者達はこの洋館から外に出る事はできない。それは私達も同様。入る事は出来ても、殺人鬼をどうにかするか、死体になるかしないと洋館からは出られない」 或いは、ノーフェイスの意思で追い出されるか。 この洋館は、正しく閉鎖された空間と化している、ということだ。 「生き残っているメンバー達は、皆疑心暗鬼となっている。堂島、金森、恋塚、谷口、三角。生存しているのはこの5人。それから奏という行方不明の女性。恐らく6人の中に(殺人鬼)は混ざっている筈」 殺人鬼の能力は、自分の認識をずらす、というものだ。 殺人鬼だということも、ノーフェイスだということも、彼自信が行動を起こすまでは誰にも分からない。 リベリスタの能力を持ってしても、彼の擬態を見破ることは難しいはずだ。 「殺人鬼の攻撃方法は、こちらの隙を突いて、急所を刺し貫く、というもの」 十分に警戒が必要となるだろう。 また、洋館内にいる生存者の保護も必要となる。 「あら……。そうこうしている間に、皆、好き勝手に移動を開始したみたい」 殺人鬼と同じ部屋には居たくない、という心理だろうか。 生き残っていたメンバー達は、3階建ての洋館内に散らばっていった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月22日(金)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●閉ざされた洋館 雨が降る。地面を削る土砂降りだ。孤島に建つその洋館は、稲光に照らされ不気味なシルエットを浮かびあがらせる。洋館周辺の空気は、ピリピリと張り詰めていた。一定以上に近づくと、身体全体を薄い膜で覆われたような感覚に襲われる。 洋館に張られた結界だ。入った者を、外に逃がさないようにするキリングフィールドを形成する結界。呼吸する度、濃厚な血の臭いが肺を満たす。 「クローズドサークルですか……。神秘関連でさえなければ楽しませて貰えそうだったんですがね」 眼鏡の位置を直しながら『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は言う。洋館のドアを数回ノックし、重厚な扉をそっと押し開けた。 こうして彼らは、殺人事件の現場へ足を踏み入れたのだ。 ●殺人現場 扉を潜ると、濃い血の臭いが鼻を突く。玄関前には、毛布を被せられた人の遺体が転がっている。僅かに滲んだ血の痕が、黒く変色している。 「犯人はこの中にいる。そう、犯人は…………貴方だ!」 誰も居ない虚空に指を突きつけ『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)はそう宣言した。ミステリの名ゼリフではあるものの、聊か使用のタイミングが早い。 「オレは残念ながら名探偵には向いてないみたいだから、耳と鼻を生かして、警察犬の役でもやろうか?」 小首を傾げ『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は笑って見せた。それから、空気を大きく吸い込んでわざとらしく悲鳴を上げる。 目の前に死体が転がっているのなら、至極当然のリアクションだろう。もっとも、彼らリベリスタにとっては見慣れたものであるだろうが。 暫くして廊下の奥の部屋から、髪を金色に染めた若い男が顔を出す。 「あ? …………あんたらは、えと……どうやって入って来たの?」 ドア開かないでしょ? なんて言って、金髪の男(堂島)は首を傾げた。 「私達も誰が犯人かわからない状況では怖いし、詳しいお話をお聞かせ願えませんか?」 そう問いかけるのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)だ。アラストールと共に、堂島の護衛につく手はずになっている。元来おしゃべりな気質なのか、それとも仲間が死んだという極限状況を誤魔化すためか、堂島はペラペラと事件の概要を語ってくれた。 「孤島の洋館での連続殺人事件、ね。ここでミステリーなら探偵が出てきて、推理で華麗に解決って所なんだろうが」 そんな優秀な頭脳はない、と『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は言ってのける。 堂島の話は、こうだった。 今朝方、(坂田)の遺体を発見したのは(恋塚)だったという。彼女の悲鳴に叩き起こされ(堂島)(谷口)(金森)(三角)は自室から降りてきた。早朝の散歩に出かけようとして、恋塚は坂田の遺体を発見したのだ。 その時、(奏)は現場に来ていないという。朝からずっと奏は行方不明のままだ。 外に出ようとしてもドアは開かず、窓を割ろうとしたが割れず、携帯や無線は繋がらなかった。それ故に三角はノイローゼ気味になり自室へ籠ってしまったらしい。 そこから先は、メンバーのリーダー的役割だった谷口が場を仕切っているそうだ。 「もっとも、谷口さんも三角さんを呼びに行って、戻ってこないけどな」 かれこれ小一時間ほどになるだろうか。その間に、恋塚と金森も何処かへ行ってしまった。なにしろ誰が殺人鬼なのか判然としないのだから、誰も信用できない。 「俺は奏が犯人だと思ってるよ。坂田さんを殺して、逃げたんだ、あいつ」 そう呟いて堂島の目は、何処となく寂しげだった。 「物語の中だけで済むのならただの娯楽だがね。現実で起これば娯楽ではすまん」 牙緑を伴い『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は廊下を進む。谷口を探しているのだ。血の臭いが廊下に漂っている。 「血の匂いやなにか証拠が残ってないか調べたけど、駄目だったな」 鼻をひくつかせながら、牙緑はそう言った。 「本格ミステリーの世界にようこそ! 名探偵とは……存在であり、意思です! 殺人鬼が支配する空間を撃破してきましょう!」 そう宣言するのは『うっちゃり系の女』柳生・麗香(BNE004588)だ。一緒に行動する『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は小さく溜め息を零す。 「ターゲットは洋館に潜む殺人鬼、か。まさか自分達がこんな体験をするなんて思いもしなかっただろうな」 兎の耳を幻視で隠し、クリスはやれやれと頭を掻いた。金森と恋塚は女性だ。女性の護衛は、女性が務める方が警戒されずに済むだろう。 クリスは元々男性だが、今は女性である。その事実が、クリスにとっては悩みの種。 こんな形で役に立つとは、なんとも複雑な気分である。浮かない顔をしているクリスを見て、麗香は苦笑いを零すのだった。 金森と恋塚が何処に居るのかわからない。殺人鬼の存在に恐れ、2人はどこかに姿を隠しているのかもしれない。自分の隣に居るのが、その殺人鬼である可能性にも思い至らないのか、それともそれほどまでに信用しているのか。 どちらにせよ、まずは発見しないことには話しにならない。 現在の所、堂島以外のメンバーは、姿を現していないのだから。 3階へ上がって来た麗香とクリス。2階の捜索を仲間に任せ、姿を見せない金森と恋塚を探して此処までやって来たのだった。 廊下の先で影が動く。真っ先に反応したのは、集音装置を持ったクリスだった。 「2人いる!」 クリスの声に反応し、人影がこちらを振り返った。女性が2人。金森と恋塚だろう。怯えきった、疲労感に満ちた顔をしている。 「だ、誰!?」 「……」 引きつった声を上げたのが金森。その背に隠れたのが恋塚だろう。麗香とクリスとは初対面。疑心暗鬼をこじらせた今の状態では、赤の他人の接近など恐怖以外の何物でもないのだろう。 2人は、あっという間に踵を返し廊下を走って逃げていく。 「あ、待て! 話しくらい聞いてくれ!」 「怯えてるだけじゃ殺人鬼のエサになるだけですよ!」 クリスの声も、麗香の声も、怯えた2人には届かない。その背を追って、クリスと麗香は駆け出した。 所変わって、1階食堂。落ち着かない様子の堂島を宥め席に座らせ、アラストールとキリエは事情を聞きだす。 「皆さん、何処か変わった様子などありませんでしたか? 原因に心当たりなどは?」 対面に座り、対話を試みる。初対面の相手に対し、どこまで語って良いものか、と戸惑っているみたいだが、しかし堂島も冷静ではないのだろう。なにより、殺人現場に1人で孤立している現状が、酷く落ち着かないのだ。 「でも、だめだ。俺には何の心当たりもない。なんでこんなことになっちまったんだよ」 頭を抱えて蹲る。細かく肩を震わせ、泣いているようだ。そんな堂島の肩に、キリエがポンと手を置いた。 「何もしてないとかえって落ち着かないでしょう?」 顔をあげた堂島の眼前に、食材の入ったビニール袋を突き出した。 ポカン、と口を開ける堂島。そんな彼に、アラストールとキリエは優しく笑みを返す。 その直後だ。 2階から、ドシンという重たい音が聞こえてきたのは。 「皆玄関まで来ないんだもんなぁ」 不満気な表情を浮かべ、エルヴィンが唸る。玄関まで出てきたメンバー達を、魔眼で魅了し犯人を炙りだす。そういう作戦だったのだが、しかし結局玄関まで来たのは堂島だけだったのだ。 エルヴィンとイスカリオテが2階の端、三角の部屋の前に辿り着いたのとほぼ同時。隣の部屋から牙緑とシビリズが顔を出す。2人の担当は谷口だ。 「見当たらねぇ」 牙緑が唸るようにそう言った。三角の気配は部屋の中に存在している。ならばどうして、谷口がいないのか。近くの部屋を確認したが見当たらなかった。 「まずは、三角から声をかけてみるか」 谷口の捜索を一旦保留し、三角の部屋をノックする。 だが、返事はない。警戒されているのだろう。三角からは、一切のリアクションは返ってこない。それならば、とイスカリオテが手を上げる。 指先から伸びた気糸が、三角の部屋の鍵穴へと突きささる。パキン、と何かが砕ける音。三角の部屋のドアが開く。 ギギ、と鈍い音。「ひっ!?」と、引きつった悲鳴が聞こえた。ベッドの上で蹲る女性、三角である。ガタガタと震えていた。顔面は蒼白。瞳孔を全開に開き、正気を失いかけている。 「大丈夫でしたか、助けに来ました!」 慌てて駆け寄るイスカリオテ。三角の肩を抱き寄せ、揺する。細切れに、意味を成さない言葉を吐きだす三角。恐怖で意識が遠のきかけているようだ。 「魔眼で落ち着かせるか……」 恐怖を煽らないように、エルヴィンはゆっくりと室内へ足を踏み入れた。これ以上警戒させても仕方ないので、シビリズと牙緑は廊下で待機だ。 エルヴィンは瞳に力を集中させた。魔眼の用意を整え、そっとベッドの前に膝を突く。震える三角の顔を覗きこんだその時、異変が起きた。 す、っと廊下に影が差す。顔を上げた牙緑の視界に、真黒い影が映り込んだ。目が真っ赤に光っているのが分かる。明らかに人外のその形相。片手で壁に張り付き、もう片方の手では誰か人間をぶら下げている。 首の骨が折れているのか、ダランと首が伸びきっている。見開かれた眼。口の端から舌と血が溢れている。雨で長い髪が顔に張り付いているのが分かる。 恐らく、彼女が行方不明だった奏だろう。 「……お前、谷口か」 シビリズが呟く。黒い人影は、にやりと笑う。人影の周囲に包丁が浮かぶ。2本、3本と包丁が増える。人影の視線のその先には、扉が開いた三角の部屋がある。 「くっ!?」 シビリズが跳んだ。瞬間、包丁が動き出す。大きく腕を開き全身で包丁を受ける。飛び散る鮮血。窓ガラスが砕け散る。吹きこんだ雨水に全身が濡れる。しかしシビリズは笑って見せた。 「あぁ滾るなぁ。殺人鬼であろうとなんであろうと闘争であるのならば!」 肩で息をし、床に膝を突く。荒い呼吸。ドサリ、と目の前に奏の遺体が転がった。 「何で仲間を殺そうとしてるのか知らないが、オレたちに見つかったからには作戦失敗だよ」 人影が廊下に飛び込むと同時。大剣を振りあげた牙緑が、人影に切り掛かる。包丁と剣が衝突し、火花を散らした。 膠着は一瞬。打ち負けたのは人影だった。廊下を吹き飛ばされ、壁に激突。轟音が屋敷を揺らした。 踵を返す殺人鬼。殺意に取り憑かれた、谷口のなれの果て。 自身が異常だと気付かれないようにする能力。脱出不能の結界を作る能力を所持している。 『ちっ……。劇的な殺人シーンを演出しようとしたのに』 なんて悪態を吐きながら谷口は駆ける。いつの間に入り込んだのか、数名の見知らぬ男達に邪魔をされ、三角を殺害し損ねた。 初手を防がれた谷口は、ターゲットを変更。堂島、金森、恋塚の誰かにターゲットを変更することに。牙緑とイスカリオテが追ってくるのが気配で分かる。 上に上がるか下に降りるか、迷ったのは一瞬。谷口の目の前に、上階から降りてきた金森と恋塚が現れた。殺意に囚われた彼は、にやりと笑って、包丁を振りあげた。 「え!? ぁ……」 事態が飲み込めないのだろう。金森が戸惑いの声を上げた。暗闇に閃く刃の一閃。 「疑心暗鬼で別れてたら各個撃破されます! 私たちとペア組むよっ」 それを受け止めたのは麗香だった。金森と恋塚の2人を庇うようにクリスが移動。2人の手をとって階段を上がる。 「さっさと避難だ。動けないようなら抱えてでも退避するからな」 襲い来る包丁を銃で弾きながら、クリスは後退。麗香は素早い動きで谷口に切り掛かる。ちっ、と舌打ちを零し谷口は1階へ飛び降りた。それを追って、麗香、イスカリオテ、牙緑も1階へ。 「はぁ……。煙草、吸っても?」 座りこんだまま呆然としている金森と恋塚の隣に腰を降ろし、クリスはそう問いかけた。 「ミステリー好きも程ほどに、ってな」 魔眼を使って、エルヴィンは三角に暗示をかける。錯乱状態だった三角を眠らせ、今度はシビリズの傷の手当てに移った。淡い燐光が舞い踊り、傷を癒す。 「犯人は分かった。後は物理的に解決と行こうじゃないか」 奏の遺体に毛布をかけながら、シビリズは言う。 犯人は谷口。犠牲者は2人。2人が殺された理由は分からないが、どうやら恨み辛みによる犯行ではないらしい。 心の奥底に眠っていた狂気が、E化したことで解放されたのだろう。 そう考えると、気分が重くなる。 エルヴィンとシビリズは、なんとも言えない微妙な表情で視線を交わすのだった。 ●狂気に憑かれて ミステリ小説の登場人物に憧れていた。絶海の孤島で起こる連続殺人事件。自分が探偵の柄ではないことくらい理解している。それならば、事件に巻き込まれる役割でも構わない。そう想い、今回のイベントを企画した。 絶海の孤島。嵐で外界と遮断された。憧れた状況。しかし事件は起こらない。 それなば、自分が殺人鬼を演じれば良い。それも、狂気に憑かれた連続殺人鬼だ。生存者は0。なぜならこの島に探偵はいない。 探偵が止めなければ、被害は増えるだけである。 ところがどうだ。邪魔が入った。坂田を殺し、部屋に監禁していた奏を殺し、今度は三角を殺そうとした所で、奇妙な連中が割り込んできたのだ。 『事件を止めるのは探偵の役割だろうがよぉぉぉ!! 探偵じゃねぇのに、邪魔するんじゃねぇぇえ!』 怒号と共に、無数の包丁が放たれる。階段を飛び降りてきた麗香、牙緑、イスカリオテを刃が襲う。剣で、気糸で包丁を受け流す3人。やはり、そう簡単には倒せない。 構わない。目的は足止めだ。事実、3人の動きは階段の半ばで停止。飛び交う包丁を叩き落すので精一杯らしい。 「なんの音だよ!?」 声が響く。 堂島の声だ。それを聞いて、谷口は笑う。犠牲者が、哀れな犠牲者が自らやって来た。握りしめた包丁。刃は血で濡れている。 何でもないような顔をして、谷口は堂島へ駆け寄った。 『堂島君! 無事だったか。何処の誰かは知らないが、妙な連中が暴れ出したんだ!』 殺人包丁を背に隠し、何食わぬ顔で堂島との距離を詰める。「谷口さん!」と、堂島が叫び駆けてきた。あと数歩。手を伸ばせば、その胸に刃を突き立てることのできる距離。 素早く、一瞬の隙をついて包丁を突き出す。ずぶり、と刃が肉に刺さる感覚。何度味わっても慣れない。それでいて、癖になりそうだ。 だが……。 『なん……だと!?』 「詳しいお話をお聞かせ願いたいですね……」 ゴボリ、と血を吐きキリエが呻く。谷口の包丁は、キリエの腹に突き刺さっていた。目の前で起きた出来事が理解できないのか、堂島は「ぇ?」と情けない声を漏らすのみ。 「つまり、彼が犯人だったというわけです」 剣を一閃。アラストールはそう告げる。重く鋭い斬撃が、谷口の肩から胴にかけてを切り裂いた。飛び散る鮮血。床を濡らす。 アラストールの手元にはAFが握られている。仲間の誰かから、AFを通じて谷口が犯人だと教えられたのだ。だからこそ、堂島を庇い、谷口を切り裂くことに成功した。 『探偵じゃなくても、事件は止められるらしいな……。あぁ、力技は好みじゃないのに』 そう呟いて、谷口は静かに目を閉じた。 殺人衝動に憑かれた狂気の男。その最後である。 こうして、ノーフェイス(殺人鬼)はその生涯を終えたのだった。 死体が2つ。生存者は4人。そして、行方不明のOBが1人。 彼の行方は、誰も知らない。嵐の中外に出て、帰ってこなかった。エルヴィンの魔眼によってそのように記憶は書きかえられた。 2人分の死体については、谷口の犯行と判断されるだろう。 朝焼けの中、リベリスタ達は孤島を後にする。 趣味に興じた狂気の宴。惨劇の孤島を遠目に見ながら、彼らはアークへと帰還する……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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