●蘇る海賊旗 海底――。 熱帯の海の底深くを行くのは、魚ばかりではなかった。 日の光も届かぬこの場所を訪れる物好きな物たちがいるのだ。 ダイバースーツを身につけた者たちが、近づいて行くのは、沈没した船の残骸であった。 長きにわたり水中に没していた船体は腐り、ボロボロになっている。 奇妙なことに、腐ったマストは海流に揺らされることもなく、しっかりと立って海上を指していた。 流れる水にひるがえるのは、ジョリーロジャーの旗。 遥か……そう、おそらくは3、4世紀も昔、この船は海原を駆け、闘争の日々を送っていたのだろう。 いかにしてこの船が沈んだのかは、侵入者たちにとってなんら興味のないことだった。 水をかきわけて沈没船に入り込む。 探索を始めてしばし、彼らは目当てのものを見つけだしていた。 2人がかりでないと持ち上がらない、重たい木箱。 ゴーグルの下で、彼らは目配せをしあう。 ――突然、肩を叩かれた。 振り向いたダイバーの目に映ったのは、船長の帽子をかぶった骸骨であった。 声にならない悲鳴が、水底に響いた。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームにリベリスタたちが集まっていた。 「今回は海外旅行じゃ」 シャーク・韮崎(nBNE000015)は皆を見回してそう言った。 「カリブの海で海賊退治……とは言っても、現役の海賊ではないがのう」 カリブ海周辺国を含む中米のリベリスタが集まった小組織から依頼があったとシャークは語った。 バロックナイツとの対決などを経てアークの名は世界のリベリスタやフィクサード組織の知るところとなっている。 昨今、様々な国から力を借りたいという要請が来ているが、今回の依頼もその一環らしい。 「目標は幽霊船一隻。もちろん、中身つきじゃ」 数百年に渡って海の底に眠っていた船が、エリューション・ゴーストと化した。 いや、船はゴーレムというべきか。 「まあ、分類はどうあれ、船も乗組員もエリューションだというのが現地のフォーチュナの見解じゃ」 今回は舞台が海外であるため万華鏡の効果は発揮されない。現地の組織とフォーチュナが集めた情報からの予測で行動するしかない。 活動範囲が海の上なので、船さえ壊せば乗組員は海の藻屑になるだけだ。 ただし、乗り手を倒せばそれだけ船との戦いが有利になる。 敵の船に乗り込んで蹴散らす者などもいたほうがいいかもしれない。 「こちらも船で戦いをしかけることになるが、そこは向こうの組織が人員を含めて用意してくれる」 二十人ほど乗れる程度の小型の船だが、装甲などはちゃんとしているとのことだ。 ただ、彼らに操船しつつ戦闘できるほど実力はない。身を守る程度のことはできるので特別気にかける必要はないが、戦力としては当てにならない。 「まあ実力があるなら、そもそも向こうの組織だけでどうにかしておるだろうしのう」 敵船のタイプは大型のガレー船だ。主な武装は大砲と衝角。 他に、水を操る能力があるらしい。万華鏡の効果も及ばない場所のこと、はっきりどのように操ってくるかはわからないが……。 アンデッドの船員たちはカトラスもしくはマスケットで武装している。 通常の船員たちの他、船長がいるらしい。船員を減らせば船の戦力も下がるが、特に船長を倒すのが有効だろうというのが現地フォーチュナからの情報だ。 「油断できる相手ではないが……まあ、せっかくの機会じゃ。カリブ海の観光がてら、ひと働きしてくるのも悪くはあるまい」 負けることなど考えていない様子で、シャークはニヤリと笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月19日(火)22:51 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●霧の中から現れるもの 今のところ、カリブ海の波は穏やかだった。 アークのリベリスタたちを乗せた船は水面を蹴立てて進む。 「19歳でもスクール水着!」 熱帯の海へと高らかに叫んだのは『健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)だった。 もとより11歳らしからぬ豊満なスタイルを持つ少女であるが、今回はさらに、世話になっている会社の若き社長と同じスタイルと声をリベリスタの力で再現している。 当人が見たらいかに思うかはわからない。 彼女と同じ会社の関係者であるもう1人の少女……に見えるメイドは、いつも通りの無表情で彼女をしばしながめていた。 毒舌メイドと評判の『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)がなんと思ったのか。 ともあれ、言葉にはすることなくモニカは傍らに立つ老人を見上げた。 「シャーク様はどうもお久しぶりです。韮崎どころか今回えらい遠くまで来てしまいましたね」 「ふむ……儂としては韮崎さえ平和ならそれでいいのだがのう。まあ、いつまでも日本に引きこもっているわけにもいかんということか」 シャーク・韮崎(nBNE000015)は海の彼方を見すえてあごひげを撫でつける。 「この時期の日本の海風は冷え症の私にはかなり堪えますが。カリブ海はこの時期でも暖かいので助かります」 「太平洋を越えて来ておるのだ。多少は楽しませてもらわねばなあ」 操船は現地のリベリスタ組織が行うため、道中アークのリベリスタたちが行うことは特にない。 禍々しいハルバードを担いだ『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)も、今のところはまだ気を抜いている。 「11月でもこっちは暖かいんだねー。実は初海外ー飛行機も初めてだったよー。アンデッドも海賊も戦ったことあるけどねー」 「アンデッドは日本にもいくらでも出てくるからのう」 「海賊は多少レアかもしれませんが、なにが出てきても神秘の一言ですまされれば文句も言えませんからね」 移動中まで気を張り続けていては疲れきってしまう。長旅の最中ともなればなおさらだ。 だが、穏やかだった波も、やがては荒れ始める。 空が曇り始め、周囲には微かに霧が漂う。 まさかそれがエリューションの力であるということもなかろうが、幽霊船が現れるにふさわしい空気をリベリスタたちは感じる。 「さて、初の実戦が海外遠征とはなかなかいいですわね。それが海賊とはなかなか浪漫がありますわ、箔をつけるにはもってこいでしょう」 ゴシックロリータに身を包んだ七海 紫月(BNE004712)が霧の先へと不敵な表情を向ける。 船に乗るのは始めてであったが、心配していた船酔いはせずにすんだ。 傷つきながら戦うのは格好いいが、船酔いに苦しみながら戦うのは、たぶん、あんまり格好いいようには思えない。 黒瞳が見すえる先に巨大な影が見えたのは程なくのことだった。 ぼろぼろの船体に、なぜかひるがえる旗だけは綺麗なまま。 「カリブの海に幽霊船、おまけに骸骨旗。完全にバッカニアだね」 四条・理央(BNE000319)は影人を作る作業の手を止めて呟く。 理央は到着するまでの時間を使って影人を作っていた。 今回のように移動を他人任せにできる場合でなければできない手段だ。 ……もっとも、幽霊船にたどり着くまで影人たちが生き延びていれば、という話にはなるのだが。 「油断できない相手であることは確かだが、負けるとも思えねぇなぁ? 我らがヒーロー、シャーク・韮崎も付いてることだしよ!」 『乳狩童子』藤倉 隆明(BNE003933)が、調子を確かめるように両の拳を軽く握ったり開いたりする。 「いや、今はもうお主らのほうが強かろう。若いものの成長についていくには少し厳しい歳だからのう。……まあ、エリューションにはまだまだ負けるつもりはないが」 シャークが隆明の言葉に応じた。 「敵は海賊。サイエンスでフィクションとはいきませんが、間違いなく処断して御覧に入れる」 子供と見間違えそうな背の低い女性、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が言った。 もっとも、リベリスタは背丈で実力は計れない。 子供のように見えたり、実際に子供であっても歴戦の実力者はアークに多く存在する。あばたもその1人だ。 それは筋肉質なその体つきからも見て取れる。 「さっさと終らせてカリブ海の観光を楽しもうぜ。んじゃ、いっちょ海賊退治としゃれ込もうじゃねぇか!」 船は一路、幽霊船を目指す。 ボロボロの船の船尾側に回り込むように、リベリスタたちの船が加速した。 ●幽霊船に乗り込め! あばたの狙撃が開戦の合図となった。 他の仲間たちが敵を射程内に収めた頃、敵も動き出している。 大砲による攻撃を試みようとしているのか、舷側をリベリスタたちの船に向けようとしている。 万一のことを考えて、まず紫月が仲間たちに小さな翼を付与する。 「ほほ、堕天使の翼ですわよ」 人形のような服装の少女は優雅に笑って見せる。 これで、仮に船から落ちても問題ない。 接近しながらリベリスタたちは武器を船へと向ける。 モニカは船縁から巨大な火器の先端を突き出した。 「ガレー船といえば古来の海を席巻した軍艦ですね。当時は圧倒的な戦力だったようですが今は時代が違う事を教えて差し上げます」 小さな体とはあまりに不釣り合いな重火器をモニカは船に向ける。 「今じゃただの美少女が腰に艦の模型提げるだけで海戦出来る時代ですからね」 もしいるとすればそれもエリューションやアザーバイドの類ではなかろうか。 もとより穴だらけの船に、モニカの火器がさらなる弾痕を刻む。 リベリスタたちが乗る船の先端から漆黒の空間が広がる。 「船自体を沈めるのが目的ってのは初めてかー。問題ねーバラバラに引き裂いてやろうぜー、アンタレス!」 舳先に立った岬が暗黒の気を放ったのだ。 マスケット銃で反撃するつもりなのだろう、幽霊船の船べりからアンデッドの船員たちが顔を見せた。 いや、そればかりではない。 不自然な高波がリベリスタたちの乗る船を揺らし、激しく叩きつけられた海水が彼らを打つ。 「波を起こしてきましたか。予想の範疇です」 あばたが呟く。 揺れる船の上でモニカは平然と立っていた。 「わざわざ的になりに来てくれて、助かります」 モニカの自動砲が再び火を噴いた。 怪物的な進化を遂げた砲口から吐き出される弾丸が、容赦なくアンデッドたちを薙ぎ払っていった。 波に翻弄されながらも進む船の行く手で、幽霊船も回頭を追えた。 向けられた側面から、錆の浮いた砲門がいくつも姿を見せる。 轟音を上げ放たれた鉄の玉が、『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)のスタイルのいい体を吹き飛ばす。 「シャークさん、船の人たちを守ってやってー。帰る船残ってないと観光も楽しめないよー」 「ああ、任せておけ!」 岬に応えて、シャークの作り出した影人が負傷した現地のリベリスタをかばう。 砲撃で傷ついたアークのリベリスタたちはキンバレイが癒した。 隆明は握った拳を幽霊船に向けて構えた。 「こっちに腹を見せてくれるってんなら、逆にありがたいぜ!」 向けているのはただの拳ではない。 持ち主にしか見えない妖かしの銃が彼の袖口には仕込まれているのだ。 「近づくまでに壊しておきたいね、全部」 古びた盾で砲弾を易々と防ぎ、理央が逆に魔力で砲撃する。 大砲と交互に繰り出される激しい津波は大きく船を揺らしているが、船からリベリスタたちを振り落とそうとするのは幾人かが予想している。 マストに捕まり、あばたがチェーンガンで錆びた大砲を凹ませていく。 「こんだけデカけりゃ外す心配もねぇ、穴あきチーズにしてやんぜ!」 倒れないように船板を踏みしめて、隆明の袖口から放たれた連射が頑丈そうな大砲を2つ、ひしゃげさせていた。 ●死者を蹴散らせ 並走しながらリベリスタたちの船は幽霊船との距離を詰めていく。 紫月は距離が近づいても海面への注意を怠らなかった。 「意外と見るべき場所が多いですわね。ですが、この私の目を逃れることなどけして許しはしないのですわ……、さあ、来ましたわよ!」 水の壁が狭い隙間から立ち上がる。 身構えたリベリスタたちは大きなダメージこそ受けないが、衝撃に押し流されることまでは避けえない。 「ゴーストシップですか……好きなお馬さんなんですよね。ステ仔で2歳時から皐月に出れる賞金確保してる馬って少ないんですよね……他にはドリジャぐらい? 共同通信杯から皐月賞なんてローテで勝っちゃうのが凄いですよね。もっともあれはジョッキーの好騎乗という感じで普通の馬場だったら無理だったと思いますが。ダービーはあの位置からじゃ届かないとして、菊花賞は圧巻でしたねーシービーしちゃったって感じで、超ロングスパートで坂上って下ってそこから突き放すんだから相手が楽になってたとはいえ凄いですよー! その後有馬・宝塚とグランプリ連覇も凄いですよねー! ステ仔3頭目ですが……大体ステ仔グランプリに強いですからね……ここ10回で7回ステ仔勝ってますし……今年も有力馬出ますし有馬もJCも楽しみですー! JCはどかんとゴーストシップの馬券買っちゃいたいですねー小学生だから買えないとか禁句ですよ? ゴーストシップもそうだけどステ仔の走るのは目がイっちゃってますよね正に狂気の血統……気性難で知られたサンデーサイレンス産駒の光景にふさわしい目をしてますよ!」 なにか別のゴーストシップについてテンション高く語りながら戦っていたキンバレイの、今は19歳相当であるみずみずしい肉体が水にのまれた。 彼女だけではない。モニカや岬の体も船から消える。 だが、慌てる必要はなかった。彼女たちには翼があるのだ。 「天駆ける力を得た私たちを海に落とすことなどできるはずもありませんわ!」 いかな荒波に打たれようと、紫月はくじけはしない。 むしろ打たれるのは望むところだ。 自分にも付与していた小さな翼を羽ばたかせると、水滴が周囲に舞った。 破壊した大砲が突き出ていた窓に、操船するリベリスタの鈎つきのロープを引っかけて、板を渡す。 「はっはぁ! 骸骨退治の時間だオラァ!!」 板を蹴って飛び込んだ隆明が、入口周りにいた船員たちを薙ぎ倒した。 「思い切り地面に踏み込んで撃つタイプなせいか、宙に浮かんで撃つ感覚がどうも未だに違和感あるんですよね。……水上でも大して変わらなさそうですが」 モニカが落ちたことなど気にも留めない様子で、水面を踏みしめて砲火を放つ。 船に戻ってきたキンバレイを癒しながら、紫月は仲間たちが突入していくのを見守った。 「やっぱ数だけは多いねー。押し潰されないようにしないとなー」 ひるむ様子もなく、小さな翼を動かして飛んだ岬が漆黒のオーラをまとう。 だが、心根がいかにすわっていようと、腐った壁を切り裂いて飛び出す刃や、誤射を恐れず放たれる弾丸が防げるわけではない。 一撃一撃は、歴戦のリベリスタたちにとって気にやむ威力ではないが、十を超す回数ともなれば侮れない。 理央は前衛の仲間たちに続いて、影人たちを船に踏み込ませる。 「敵が数で来るなら、こっちも少し水増しさせてもらわないとね」 5体の影人たちがアンデッドの船員たちへと切り込む。 「よい考えじゃな。この程度のザコの相手なら、影人にも十分つとまろう」 「そう素直に誉められると、少し恥ずかしいね。でも、ありがとう」 船員たちをかばわせた分目減りしていたが、シャークが作った影人も加わった。一丸となって数に対抗するリベリスタたちの塊をさらに広げる。 一手で状況を決するような能力は理央にはない。 だが、守りに長けた理央と同じ能力を持つ影人たちは、戦線を支える程度の力はある。 リベリスタたちにとっては、それで十分だった。 あばたは二丁拳銃で確実にアンデッドたちの頭や心臓を撃ち抜いていた。 「すげー狙い撃ち。ゾンビもののガンシューみたいだねー」 暗黒の気を放ちながら、岬がそんな感想を述べる。 「動きが鈍いから、いい的です」 答えながら、あばたは周囲を見回していた。敵の中にいるはずの、特別な1体を探していたのだ。 もとよりボロボロだった船は、戦闘の影響でさらに穴や隙間が増えている。 千里を見通すその瞳が捕らえたのは、甲板に開いた穴から飛来した1体の敵。 大仰な帽子を被ったアンデッドは、今やボロきれでしかないがかつては上等な品だったことをうかがわせる服をまとっていた。 落下の加速度を載せたカトラスが切り裂いたのは隆明の首だった。 渾身の力をこめた首斬の一撃も、運命を味方につけたリベリスタを倒すには至らない。 「いました! 藤倉様のところに船長!」 声を聞いた仲間たちが船長のアンデッドに矛先を向ける。 「やってくれやがったなオラァ!」 振り向いた隆明がまっすぐな一撃で骸骨を殴り飛ばした。 紫月が堕天使のごとく翼を広げて闇を放った。 理央の魔力が船員たちを貫いて戦場を切り開き、モニカの火力が正面から骸骨を穿つ。 「これで終わりです」 あばたはロングバレルの先端を獲物の頭に向けた。 放った銃弾は、骸骨を粉砕し、豪華な帽子を海へと吹き飛ばした。 ●再び沈み行く船 乗組員を失った船の動きはだんだんと鈍っていった。 岬は禍々しい一つ目を持ったハルバードを高々と掲げた。 「さーて、後は一気にぶっ壊してやろうぜー、アンタレス!」 振り下ろした刃の衝撃で床板が大きくへこんだかと思うと、次の瞬間船の床に大きな穴を開いた。 なりふり構っていられなくなったか、波が船に開いた穴からリベリスタたちを襲った。 残っていた傷だらけの船員たちをなぎ倒し、理央やシャークの影人を吹き飛ばす。 キンバレイが大砲の残骸に叩きつけられてそのまま倒れた。 彼女だけでなく、岬や隆明、あばたもだ。 紫月とあばたが波が襲ってきたのと反対側にある砲門から海へ投げ出されていく。 だが……その勢いに、乗り込む前にリベリスタたちを襲ったときほどの威力はない。 「生暖かい息かもしれませんけれど我慢してくださいまし」 投げ出されたあばたと紫月が起こした風が癒す。 内部では理央が福音を呼んで仲間たちをまとめて治療する。 船底にいた漕ぎ手たちまでもが戦いに駆り出されるが、モニカの自動砲と袖口から放たれる隆明の銃撃が容赦なく撃破していく。 残った敵を薙ぎ倒しながら、岬は船内を走っていった。 幽霊船を動かす妄執の核となるなにかがあることを予想したのだ。 船底のほうから銃を連射する音が聞こえてくる。あばたの銃だ。おそらくは隆明も手伝っている……いや、暴れまわっているというべきか。 仮に核が見つからなくとも、竜骨を砕けば沈むよりない。 「……ん」 少女が足を止めたのは、船長室の前だった。 一面に張られた海賊旗が鈍い輝きを放っている――。 「怪しいねー。とりあえず引き裂いてみっかー」 漆黒をまとって振り下ろしたハルバードが旗を引き裂くと、なにかが壊れるような音が船内に響く。 あばたが撃ち抜いていた竜骨が真っ二つに折れたのは、それからわずかな時間しかたたないうちだった。 ●空は再び晴れ渡る リベリスタたちは帰りの船の上でゆったりと過ごしていた。 幽霊船がいた海域から引き返すと、霧も雲も嘘のように晴れ渡った。 「海の近くですから、食事は楽しみですわね。海の幸は好きですわ。美味しい料理に舌鼓を打ち、勝利の美酒に酔うといたしましょう。お酒は未成年だから飲めませんけれども」 静まった海を眺めて紫月が言った。 「お宝でもないかと思ったけど、誰かが持ち出した後だったみたいだよー。残念ー」 脱出前に船をあさった岬は、大きな箱が安置されていた痕跡だけが見つかったと仲間たちに語った。 「海賊の宝なんぞ手に入れてもろくなことにならんのがお約束じゃからな。触らぬ神になんとやらだ。それより、カリブの船旅を楽しむとしよう」 シャークが言った。 「ああ、無事に片付いたことだし、土産話を仕入れてかねえとな」 隆明が海風を大きく吸い込む。以前は常につけていたガスマスクは、最近はもうつけていない。 「そうですね。現地の皆さんもご無事でしたから、快く案内してくれることでしょう」 淡々と言ったメイドに、舵を取る男が親指を立てて笑顔を見せた。 青く澄んだ海をながめて、アークのリベリスタたちはカリブの風景に思いをはせた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|