●空(カラ)の軍神 -NS- 今年で26になる女は、かつて『親衛隊』という組織に所属していた。 独逸の旧軍であった祖父の名誉を取り戻すという大義を胸に、新たなる戦火を求めて渡った日本ではあったが、その後大きく敗北を喫したのであった。 「ガンプケ……」 女は、副官だった男の名を呟く。呟いて、ソファに沈み込んだ姿勢から起き上がる。 たちまち、イラつきが最高潮に達し、壁にグラスを叩きつける。転がった酒瓶に脚を取られて転倒する。 「クソッ! クソッ! アークめ。露助め! 卑怯者の子め!」 女は、これまで一種の"規範"に従い続けた人生といえた。 自分はアーリア人である。 アーリア人は優良種である。 故に自分は優れた民族であり。選ばれた者であり。優れている。 祖父は、紛うことなき祖国の英雄である。 英雄達を悪と断じて、記憶から消し去ろうとする真の悪が大勢いる。 悪は倒さねばならない。 悪は倒さねばならない。 悪は倒さねばならない。 正しき者の頭上に栄光は輝くのだから。 ……ならば何故負けたのか。 かの戦いで、幼少期から片時も離れず、規範を示してきた副官は戦死した。 他の親衛隊の面々の様にノーフェイスに成る事にも踏み切れず、女は親身に従ってくれる従者を伴い、逃げるように日本を離れたのである。 怒りの矛先は、日本のリベリスタ組織にも向けられたが、自責の念が多くを占めていた。 尤も、もしも規範となる人物が生存していて、道を示してくれたならば、何の迷いもなくノーフェイスへと踏み切っていたのだが。 「少尉。飲み過ぎです」 従者――猟銃を携えた射手がドアの無い部屋の向こうから言う。 「済まない。水を、ください」 ひんやりとした隙間風が頬を擦っていく。女が落ち延びた先は、祖国の小さな村であった。 縁もゆかりもない女を、村人は受け入れて寝床を用意してくれたのであったが、そこからは何をする訳でもない。ただ輝かしい栄光と燃えるような大義から叩き落とされて、無気力に生きているだけと言えた。 「確か食料が足りなかったか。隣の家から……馬鈴薯を分けて貰わねば、ですか」 女の名を、リップイェーガーという。 ●楽な依頼 -Deutschland- 「『バチカン』からの要請による『親衛隊』残党の排除です。独逸に行って頂きます」 拘束服姿で左右にアークの職員を伴った朱鷺子・コールドマン(nBNE000275)が、緩急の乏しい声で言った。 『親衛隊』とは、ほんの数ヶ月前にアークが交戦したフィクサード組織である。 独逸旧軍の残党を中心としており、その首領は世界最強のフィクサード組織、バロックナイツの一柱としても数えられていた。無論――今は居ない。 「倫敦でキマイラと戦うよりかは、楽な依頼です。元バロックナイツ配下組織の所属なので油断はできませんが、殺して証拠になるものを持って行けば良い訳です。日本らしく首印などが良いでしょうか」 冬至が近い時分。アークのブリーフィングルームでは空調をやや高めに設定する時期であるから、頗る快適ではある。一方、朱鷺子の抑制のない口調は淡々としていて、かく冷ややかである。 事件性は? という質問が出る。 「何もありません」 朱鷺子は短く言い切った次に、言葉を続けた。 「現地のフォーチュナ曰く。敵は日々の糧を得る為に生きているようなものらしいです。もちろん討伐に行けば抵抗もされるでしょう。人数差に即逃亡に走られる事も有り得る話です。しかし、他の海外派兵に比べ、敵の状態が状態です。万華鏡の予知が無い事による不確定要素(イレギュラー)の危険は低いと推測されます。粛々と排除して来てください」 世界は鈎十字に寛容しない。 そういう話であると、朱鷺子は付け加える。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月18日(月)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鍵十字狩り -Winter Strase- 寒い。 頭上で煮え切らない雲がもたれ掛かり、今にも崩れそうな景色が広がっている。 呼吸の度にしっとりとした寒さが鼻腔の奥へと抜けていく。寒さの中には雪の匂いが感じられる。今宵、この村は、雪が降るだろうか。 寒村へと下ったリベリスタ達は、道をゆく。 隣家との隔たりは大きく開いており、一般人の目に触れる機会は少ないものと考えられた。道の両端に草木が、寒空の下でも辛うじて緑色をしている。春になれば若草色に満ちて長閑にもなろうが、今はとかく寒々しく見られる。 五人がざりざりと道をゆく。 「空っぽの軍神様に、果たして本当に中身は無かったのか」 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)は、道行きに誰宛ともなく、ふと呟いた。 変異した手を幻視で隠し、顎に手を当て、考えていた事は今回の討伐目標についてであった。 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、タバコに火をつけて返事をする。 「さしずめ、糸の切れた凧――っておじさんは考えているな」 「……かもしれねぇな」 烏がフッと紫煙を空に吐き出す。 「だが、行き着く先がどのような結末を描くものやらだ」 左足と右足が前後する度に、目的の家が視界に近づいていく。 如何するか。何を言うかは決している。 「敷かれたレールの上しか歩む事を許されなかった者の末路、ね」 二人のやりとりに、やや間を置いてから『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が加える。 最早、レールは途絶えた。 この一点に関しては僅かながらには共感できる部分も存在した。ただし、自分は先に進む事を選んだ。 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)も、かつて、先に進む事を選んだ。 「私は、元少尉と従者に親衛隊の看板を下ろさせ、自らに選択させたいのです」 そして今がある。今へと至る道のりで、何度泣いたかは覚えていない。 やがて家屋の前へと至る。 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、目標が潜伏している家を見上げる。 「何処に消えたかと思っていましたが……こんな所に落ち延びていましたか」 所々が崩れた家の裏には、青々とした森が見える。森を背景に見据える家は、何とも侘びしく年季が感じられた。組み合わさった石が風化しかけた色合いを見せている。 ここで丁度、アクセス・ファンタズムより『こっちは準備完了』と入電が入る。 ユーディスも『こちらも完了』と返信をする。 裏の森側では、この家を包囲をする形で三名が配置についている。正面からの五名は入電を合図に、敷地内へ足を踏み入れた。 家屋の裏。三人ほどの影が森に下る。 『D-ブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)は、たった今、電文を送信したアクセス・ファンタズムから、次に得物を取り出した。 「少しイライラする」 茂みから顔を出して、見据えた先の家。此度の討伐対象に関しての所感である。 親衛隊の活動は、先ずアークを擦り減らす目的で幾人もリベリスタを狩る所から始まっていた。ならばこの敵。この敵は中途半端な意思で、真剣に生きていた人を狩ったという事になる。 「けじめは必要だよ。説得の先の答えが何だろうと」 かく、ぶっ倒すという胸裏である。一種、悔しさに近い。こんなやつに殺された人こそが無念の極みといえるのだから。 「先任者を殺った手前、最後まで面倒見てやらないとね」 『黒き風車』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が比翼子に並んで、得物の黒き剣を担ぐ。家を見据える。 真の亡霊というべき者は倒した。この先には死にぞこない達がいるばかりである。 剣を見る。かつての持ち主達から『強いなら闘う』と即答された様な心持ちを覚える次第であった。 「『こちらも完了』だって。じゃー作戦開始だー」 『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が、ハルバードを担ぐ。 岬の胸の片隅に、どうにもこの敵は良くわからないという想いがある。 規範というものは己の内にあるもの。自身、信仰に近いものがあった。 程なくして――黒い鎖の奔流が、家屋より天へと飛び出して、次に銃声が響き渡る。 ●悪酔 -Lip Jaeger- 正面からの五人は、そのまま家屋へと入る。 廊下などなく、入ってすぐの部屋にはソファと簡素なテーブルが備えられ、テーブルの上には、半分ほど飲みかけの酒のグラス。年季が入った木の床には酒瓶が転がっている。 氷璃が超直観で、奥の部屋を観察する。 従者二人は猟銃を携え、猟銃で仕留めたと思われる鳥を捌いている。冬支度と見られる。 小烏は家の入り口で立ち止まり、強結界を用いて、一般人が入ってくる事を極力に阻止せんと動く。 奥の部屋から、赤い口紅の女が籠を持ってやってくる。 女と視線を交わす。 「……アーク」 途端に、女は携えていた籠を落とした。 ふらふらと倒れそうになるも、部屋と部屋の敷居を掴みバランスをとる。うな垂れる様に背中を丸める。 「露助に。卑怯者の子までいるのか、ハハッ」 長い金髪を垂らした姿勢の次。顔を起こして半目で言う。 「あー……、酔い過ぎて夢でも見てんのか私は。アーク、私を狩りに来たか? ん? わざわざ、ご苦労な事、ですね」 相当飲んだのか、呂律は狂っている。 「ヴァチカンからの命によるものだ。投降を勧めるぞ。リップイェーガー」 最初に、ベルカが切り出した。 正面班は、包み隠さず目的を告げるという事で意思統一をしている。 「ヴァ、チカン? いつか来ると思って、いましたが。驚く程、早いのです、ね」 リップイェーガーは、半目のまま途絶え途絶えと応答する。 続き、睨むような目で言う。 「投降? ふざけるなよ。ヴァチカンが、どういう、組織か、私が知らないとでも思っているのですか」 女は、応答した即座に、黒い魔曲を掌に練り上げる。 「待ちなさい」 間髪入れずに氷璃がひらりと制止する。 「確かに私達はヴァチカンの要請でこの地を訪れているけれど、過去の憎悪の為に崩界要因でもない貴女達を討つ気はないわ」 「言ってる、意味がわかりません。投降して死ね、という、のですか?」 「それも違うわね。時間稼ぎと思われるのも心外だから言うけれど、この家は既に包囲しているわ。耳を貸したらどうかしら」 猟銃を持った二人が異変を聞きつけたか、向こう側の部屋からやってくる。 「少尉!」 「逃げ、なさい。ヴァチカンがアークを寄越した」 従者二人に視線をむける事なく言う。たちまち黒い鎖が放たれる。 狭い屋内に黒い鎖の奔流が壁を突き抜けて、全員を飲み込む。リップイェーガーの逃げろに対して、しかし従者は発砲する。 弾丸はユーディスが咄嗟。盾を振って弾き、外の対応を行っていた小烏が、空いた穴から参戦する。 「やれ、問答無用かい」 小烏は黒き奔流で開いた穴を塞ぐように立ち、破邪の光を掌から放つ。 「チッ、ブレイクイービル……。私の魔法が」 舌を打ち、転身せんと後ずさるリップイェーガーの目を小烏は真っ直ぐ見る。 「お前の爺様、素晴らしい人だったんだってな」 狼狽の色を浮かべた視線が途端に憎々しげな色に変わる。 「殉じる事も、出来なかった私を、嘲笑った上で狩る心算ですか?」 小烏は首を横に振る。 「一番嫌だったのは何だ。なぜ親衛隊に入ろうと思った。何度も叫んでいた祖父の名誉。このまま死ねば死人に口なし、永劫貶められたままだ」 「面白い事を言いますね。見逃してくれる、とで、も、言うのか。嫌だった事? そんなもの数えれば切りがない」 四重苦から立ち直ったベルカが、膝立ちの姿勢から直立し、淡々と言う。 「貴様は言ったな、ぬくぬく過ごしてきた私が何を言うのかと。亡霊の闘争を強いられた貴様に比べれば確かにそうだろう」 だが! と、途端に声質を激昂させて続ける。 「そんな貴様は親衛隊に殉じなかった。軍神マルスが笑わせる! 未練か躊躇か知らないが、即決出来ない程に迷っているのだろうが!」 「副官を。私の忠実な副官を。お祖父様の生き証人を奪った上に。私を愚弄しに来たのですか、露助ッ!」 即座。否! と一喝するように否定する。 「私と、我らと共に来い。ガンプケの妄執に引っ張られて、ついに自ら歩く道も知らず死ぬ気か!? 悪酔いが過ぎるぞ!」 女は目を見開く。 「何を、言っているのか、理解できかねます。わけが分かりません」 左右でガチャと音がなる。 「少尉。戯言です」 従者は次弾を装填して狙っている。 ユーディスは一呼吸つき、大きく前に出る。 「以前、卑怯者の子だの何だのと呼んでくださいましたね。覚えています」 「……貴女に。そう言った私、がこの、ザマです。さぞ愉快でしょう」 自らを嘲る行為は、逃げの他には何もない。そう考えて、ユーディスは続ける。 「私の祖父も、旧軍に於いて敗戦まで国の為に戦ったそうです。他者を只管に見下し愚弄するだけの貴女の振る舞い……貴女は彼ら『英雄達』の誇りを、名誉を護れているのですか?」 返事は無言である。ひたすら憎々しげな目で睨むのみである。 「――いいえ、護れていない。むしろ貴女が踏み躙っているとさえ言える。貴女の祖父はどの様な方でしたか」 返す言葉が無いといった風情か。無言の返答の僅かな空白が流れる。 「ま、今のリップイェーガー君相手では戦う気は無い」 烏は、先の呪縛で床に落ちてしまったタバコをつぶし、回収し、新しいタバコに火をつける。 「これからはその道を自分で定め歩かなきゃならない。そして、その道は自分だけではなく慕い共に来た2名の従者に示してやる立場になったわけだ」 向こう側の部屋でドカンと音が鳴る。壁が突き破られる。 突き破られた穴から、比翼子、フランシスカ、岬の三人が突入して、リップイェーガー達の退路を大きく塞ぐ。 「んで、ベルカと烏が言った通りだけど、きみはどーする事にしたんだい?」 足に得物を携え、比翼子がぴらぴらと問う。 「劣等がどうとかわざとらしい言葉も聞き飽きたぜ……そんなに『本物の親衛隊』をやりたかったの?」 「私は……」 退路は塞いだ。 返事を聞く間も無く戦っても良い状況ではあったが、情けが存在した。 リップイェーガーは前後を見る。 「……ブレイクイービルに……これは逃げる事は難しい、ですね」 岬がハルバードを回転させ、次に床に石突きを立てる。 「規範ーピンとこない。むしろ規範は己のうちのモノだろー」 「規範は、己のうちのもの、ですか」 岬は一見して、このリップイェーガーという女には、矜持が篭っていないと感じた。 「そうだー。これがボクの価値だー。ボクはこれに生き、これで死ぬー。狂人の発想だ、独り善がりの無駄だ。そう言われようと関係ねー」 かく、この女は決断する事もおそらく困難というべきか。曖昧だと思われた。 フランシスカがその大剣に、闇を携えて奥からゆるゆると歩いてくる。 「お久し振りね! てっきりどこぞで野垂れ死んだとおもったのにさ」 「貴女は……ガンプケを殺した!」 フランシスカがまくし立てるように遮る。 「前に会った時に言ってたよね? 『少佐の大義のために生きる』って。それが何? 他の親衛隊の奴等はノーフェイスになってまで最後まで戦い通した。にも関わらずあんたはそれも出来ずに逃げて、こんなところで無為に過ごして。あんたの覚悟ってその程度だったの?」 多くの言葉に次ぐ説得は重ねられる。 「所詮他人の敷いたレールの上しか走れない列車ね。他人に道を示してもらってばかりでなく、ちったぁ自分の意思で、想いで、自分の足で自分の人生歩いてみたら?」 図星か。怒りか。 肩を震わせた所で、氷璃が重ねる。 「『親衛隊』の肩書きを下して彼等と新たな人生を歩む気はない?」 小烏が重ねる。 「己の意志で選べ。誇りと共に果てるか、誇りを守り生きるか」 烏が重ねる。 「リップイェーガー君、これからどうしたいのだと。敗残兵として処理されるか、親衛隊の生き残りとして全力を尽くすのか。それともか」 ユーディスが重ねる。 「彼らの名誉を護らんとして傷つけ続けている貴女の不明を情けなく思うだけです。貴女のルーツの名誉は、貴女にしか護れないというのに」 少尉、と左右の従者がどうするかを解しかねた束の間の空白の後。 「……投降し、た所で。ヴァチカンはわた、しの生を許さない。任、務を放棄するつもりです? 私一人の為に、世、界最凶のリベリスタ組織を」 証拠を持っていく事。 概ねの腹案としては軍刀、徽章、周辺のものを持って行き、それ以上の言及が無い様に期待する。 大組織が、木端フィクサード一人に果たしてそこまでするかというものである。 唯一、小烏を除き。 「そ、んな、甘い所だ、と思っているん、です?」 リップイェーガーは、シラフに戻った様に、瞳孔が縮む。 「まあ、ご安心ください。結論はコレにしました」 たちまちリップイェーガーの手に魔力が迸る。 ●楽な依頼 -The Easy- 二つの魔方陣が左右の従者の足元に生じて、尋常ではない強化が施される。 従者が放つ弾丸が、ユーディスの盾を貫く。ユーディス自身の肩口を貫く。 「これが答えですか? 明確な意思の上での」 「誇りと共に果てるか、誇りを守り生きるか――なら前者を選びます」 ユーディスはスっと平静を取り戻した声で返事をする。 「分かりました」 弾丸が飛び交う中を小烏は巧みに回避して、星を占う。 「何故、そういう結論に至ったのか。何度も叫んでいた祖父の名誉。死ねば死人に口なし、永劫貶められたままだ。訂正と返上を為せるのは祖父を知る孫娘だけだろう」 先ほどの悪酔いの様な目ではない。 「劣等と肩を並べる位なら、死んだほうがマシという理由ではいけませんか?」 「本心かい?」 小烏。星占いは、左の従者の付与を砕く。 ベルカは神秘の閃光弾でもって、リップイェーガーおよび左右の従者の目を焼く。 「神秘が振るう大理不尽の前には、優良も劣等も無いと知れ! 露助もアーリアも、所詮は後付の差別趣味に過ぎん」 ベルカはかつての自身とリップイェーガーに大いに共感を覚えていた。 最悪たる災害、ナイトメアダウンで死に行く町の中。生きろと言ってくれた姉達がいたから、今の自分がある。 「だが! だからこそ、私は貴様を同志と呼びたいのだ! リップイェーガー!」 何度、泣いたかはわからない。 「私は御免ですよ。露助と肩を並べるなんて!」 「まだ迷っているんだろう! 減らず口を! 聞き飽きたわ!」 ベルカの凍てつく視線が、守りを一気に剥ぎ取る。 氷璃が黒き魔曲を詠唱する。 「この世界は善悪を明確に分けてくれる程親切ではないわ。何が正しくて何が過ちなのかさえ。自暴自棄? 進む事を諦めた?」 氷璃の高速の詠唱。返す刀の黒き奔流が、リップイェーガー達を焼く。 呪縛に連なる四重苦のその返し。 「もう一度聞くわ。『親衛隊』の肩書きを下して彼等と新たな人生を歩む気はない?」 「これに生き、これで死ぬ。いい言葉で、すね」 ハルバードを携えた岬が、その巨大な斧槍を改めて担ぐ。担いで飛び出す。 「パクられたー。いくぞー、アンタレス! ボクが、ボク達がハルバードマスターだ!」 斧槍の平で、右の従者を平たく叩けば、従者の一人は一瞬で壁を突き破って向こう側へと行く。血迷っているのやもしれない、と一応の加減はつけておく。 比翼子がいよいよ得物を強く足で握る。 「これに生き、これで死ぬ? 肩を震わせて言う台詞じゃないね。選んだ今になって後悔している?」 比翼子が飛びかかり、混乱を齎す程の速さでリップイェーガーを切り刻む。 「なら敵だ。親衛隊を貫くのなら」 フランシスカが常闇を解放する。 「それが選んだ道なんだってなら!」 一人は凶兆を受けて片ひざをつく。しかし、猟銃を杖に立ち上がる。 ユーディスは槍を構えた。 「……ある意味で近い立場としては、目を覚ましてほしいと思いますが」 横なぎの槍柄で、リップイェーガーの腹部を大きく強打する。そのままうつ伏せに倒れ、次に芋虫の様に上体を起こす。 「ぐっ、死ぬ、のは怖いに決まってるだろ」 血反吐をごぼごぼと吐きながら言う。 「選択に、悔んでない訳がないだろう。お前等の提案通り、ヴァチカンを誤魔化せる、期待が囁いてこない訳がないだろうが!」 「別に遅くはないんだがな」 烏が放る神秘の閃光弾が、リップイェーガーの目を重ねて焼いた。 「貫くと、決したと、言ってるだろうが!」 黒い魔力とルーンシールドがそれぞれ練り上げられる。 比翼子が小烏への射線を遮る様に立つ。 放たれた奔流は、たちまちに体力を大きく攫っていく。 いよいよ家屋が倒壊せんばかりに天井からボロボロと崩れだす。 「すまねぇな」 「問題なし」 比翼子に庇われた小烏が同様に破邪の光を右手に。星占いを左手に練り上げる。 「親衛隊から逃げたってのに今になって貫きたいものは――親衛隊なのか?」 返事はない。下唇を噛み耐える様な風体である。 小烏の破邪の光を放つ。 「本当に決めたのなら、な」 次に光は星占いへと変じてシールドを砕く。砕いた途端。 リップイェーガーはあっけなく崩れ落ちた。 息は――絶えている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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