●集団武装遠足! -invitation Card- ザリッ。 ザリッ。 秋の空の下。 黒い一団が列を成して、秋の神奈川の街をゆく。 一様に、時代錯誤の長ラン――裾が踝ほどまであるオーバーコートの様な黒装束を纏い、尋常ではない集団である。 髭のボウボウと生やした者はスポーツバッグから、金棒のトゲの様なものを生やしている。 丸坊主の者は、クマさんリュックからノズルを伸ばし、ノズルが接続された火炎放射器を携えている。 列の先頭には、四名が神輿のように担ぐ台。台の上に割烹着姿の老婆が一人鎮座する。いやさ、老婆というには些か大きすぎる巨体であった。 老婆は老眼鏡を外し、今まで眺めていた書類を懐に入れる。鷲鼻をポリポリ掻き、立膝をついて巨体をノソリと起こした。 「さあ、直進じゃ! 前進! 真っ向から! 曲がることは許さぬぞ!」 老婆が女性かどうかも疑わしき野太い声を発すると、列から一人の男が走り出て、老婆の台に並んだ。 「筆頭教官殿。民家です」 「見りゃ分かるわい! フェルディナント! されど直進じゃ! ま~~っすぐ行かんかい!」 フェルディナントと呼ばれた長ラン長髪の男は、押忍と老婆に頭を下げる。下げて、列に先じて民家へと走れば、民家の入り口で柴犬が吠えて威嚇する。 「コォォォォ!」 フェルディナントは柴犬の威嚇を意に介さず、口から白い息を大きく吐き出し、右肘を引く。引いて右拳を握り固める。 「ぬぅん!」 固めた拳が前に出される。拳が民家の扉に真っ直ぐと突き刺さる。 何やら映像に『裏外式・修羅魔氷閃』と文字が浮かび、デデン! と音が鳴る。 「我が修羅道は、天へと続く道。うぬ等が弱者には決して阻めぬ――破ッッ!」 たちまち民家に大きな亀裂が生じた。 ピシリピシリとヒビ割れて、ヒビ割れた所から氷が槍襖の様に吹き出していく。 フェルディナントが踵を返すと、飛び出した氷が収束するように消え、民家は自重か自壊か。ガラガラと倒壊した。 「きゃあああ――」 何の音かと家屋から跳び出したらしき、近所の一般人が悲鳴を上げる。 フェルディナントの視線が一般人へと向いた途端、悲鳴はブツリと途絶える。 「もっとテキパキ殺らんかい! ボケ!」 台の上から跳躍した老婆が、一瞬で一般人の頭部を毟り取った。生首その場に捨てる。捨てて踏みつけて砕く。 「キキキ! さあ遠足再開じゃ! 浦安まで直進じゃ! 可愛らしいマスコット達が貴様らを待っておるぞ!」 押忍の大合唱が響く。 大合唱の中を、老婆は台へ跳躍して戻る。フェルディナントが再び列に加わる。列は瓦礫を踏みしめて真っ直ぐ行く。 列集団が通った後には、家屋に潰されて息絶えた柴犬と、首なしの死体が、木枯しの下に遺るばかりである。 「俺、あひるの奴と遊びたぁい」 「俺はあっちだな! あひょ! っていう奴がスゲー好きなんだぜぇ~アヒョ!」 ●おやつは300円まで -Banana- 「裏野部派フィクサード、笠原訓練所の遠足を撃破する」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、端末を操作して映像を止めた後に席を立った。 裏野部は、日本のフィクサード組織である主流七派の一柱であり、無秩序な暴力を振るう武闘派集団とされている。 「訓練所? 遠足?」 「ああ、裏野部の訓練施設の連中だ。一昔前に柿崎訓練所というものがあったらしいが、その類が事件を起こす」 聞くに、裏野部の訓練所というものは、他者の痛みに共感するといった情や情け等のタガを外す事を目的にしているという。 生来に無秩序な暴力を行使する者には一向に必要が無く、新人の半端者等が行き、"外す"訓練を受けるのだと考えれる。 「ま、ご覧の有様だ。奴等は真っ直ぐに民家や一般人を砕きながら遠足――直進している」 映像に、老婆と長髪の男の顔が二つ並ぶ。有力者の二名である。 「先ず、この集団を監督をしているババアだ。『筆頭教導官』笠原・アンブレート・留子という。デュランダルを生業としており、初級の技が中心だが、その練度が非常に高い」 巨躯の老婆である。映像の身のこなしなどから、只者ではないと思わせる。 「次に『武装生徒会長』フェルディナント・アイス。訓練生達の代表だ。魔氷拳を得手とする。仁義や人情を重んじる剣林派に居てもおかしくはないが、雑魚には死。敗北者には死が当然という思考を持っている程度には裏野部をしているな」 裏野部はあくまで裏野部という事である。もし逃せば、その拳は今後、無秩序に振るわれると怪しまれる。 「この遠足は、千葉県の某大型テーマパークに向かっているらしいが、この一団を許せば、進路上は壊滅するだろう」 言葉を切ってデス子は言う。 「最速で現場に到着すれば、最初の民家が粉砕される前に絡める。アンブレートかフェルディナントの何方かを撃破すれば、おそらく瓦解するだろう。まあ両方ボコるのが確実だ。何としても止めるぞ」 デス子は集まったリベリスタ達の肩を軽く叩き、次にオートマチックのスライドを引いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月20日(水)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●うら☆のべ 番外 笠原訓練所の巻 -COMIC- 「――と、こんな感じで、つまりコレはあれよね?」 『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が何か言う。 「劇画風作画回だと思えばいいのよね。普段はゆるいギャグアニメならその回だけ無駄にアクションしたり」 4コマ漫画「そらせん」なるコミックを出す。出して懐に仕舞う。 とりあえず傍迷惑な遠足である。ならば全力で直進行軍してくるなら全力で迎え撃つのみである。 かく、暦の上では、立冬という。 この時分より、水分が失われた空っ風が、関東には吹く。 寒空の下の住宅街。アークのリベリスタ一同は、住宅を背にして正面の黒い行列を見据えていた。 空っ風は、何故か荒野の風となっている。幻視を用いたかのように、場一帯が微妙な空気に包まれている。 例えるならば、二人称に"うぬ"とか使いそうな勢いなのであった。 「顔が"別人じゃねぇか"なんて問題じゃないのよ! ノリが大事なの!」 かくして劇画調になったこれは、接触が近いという事に他ならない。 事前に道路工事のチラシを配り、被害を抑える努力は完成している。 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は濃い顔で耽るように言った。 「千葉県の某所に向かってる……可愛らしいマスコットが待っている、日本で最も有名なテーマパーク……」 ぴこーん。 「ド イ ツ 村 ですね!? 大変、絶対に止めなくちゃ!」 80年代よろしく、その場でずっこける芸を見せたデス子であったが、まあいいや。 「なんじゃいお前等は!」 直進する行列から先行して出てきた二人の長ランが因縁をつけて来た。 一人はかれこれ30年以上続いているとあるアニメの、有名主婦が如き特徴ある髪型をしている。もう一方はメガネで秀才気取りだが、きっと弱いに違いない。 「遊びに行きたいのは分かるけどあんまりだよ!」 五十川 夜桜(BNE004729)は、この訓練生二人に「メッ」する。 『チャージ』篠塚 華乃(BNE004643)も重ねるようにメッする。 「人に迷惑がかかるようなことはしちゃだめだよね」 いい年した大人が、小さい子に叱られている図の完成である。 需要がありそうなジャンルと考えられるが、網掛けが容赦無い。 あと夜桜は、最初から赤いとんがりおじさんがすごくきになっている。 そうだ。忘れずに。 「強!」 右手を掲げてひゃっほーする。 「結!」 次に左手を掲げる。 「界!」 両手でいえーい。 赤いとんがりおじさんこと、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、悠々と歌をうたう。 汚れちまっただの。なんぼのもんじゃだの。 「晦。メッだ」 「うん、おじさんが悪かった」 デス子が忙しい。 『ロストワン』常盤・青(BNE004763)はシンプルに呟いた。 「豪快な遠足だね。フィクサードさんってみんなこんな感じなのかな」 青は周囲を見る。なんか、皆の顔が漫画の様で網掛けが容赦無い。自分もこんな風に見えてるのかな。と考えるも、大正解である。 「テーマパークで遊ぶのを楽しみにしているなら普通に行けばいいのに」 正論である。 「はわわわ! こ、こいつら、アークだぜ」 三下がやはり三下っぽい反応を見せる。 「あ、あのアークだってか!?」と特徴的髪型が応答して、踵を返して群れへ舞い戻る。 巨体な老婆へと耳打ちする図が見られる。次に老婆はこちらへと人差し指を向ける。 途端、訓練生達が一斉に得物を取り出して、彼等特有の首をカクカクさせた動きで威嚇しながら早足で向かってくる。 道の左右。塀の向こうから様子を伺っていた『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は、雑踏の群れの中で雰囲気の違う男を捉える。 「裏野部らしい連中だね。遠足に行くだけなら兎も角、こんな事を見逃せる訳がない」 悠里は、血は何色かといわんばかりの顔をして、塀を乗り越える。 「アークの覇界闘士の力、見せてあげよう! ――薙ぎ払う!」 両の腕に電気の様に火花が跳ねる。 「……って言うか、何よこれ。劇画空間!?」 『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は、悠里とは対面の塀で潜伏をしている。挟撃も兼ねた形である。 一変した空間に狼狽する。戦っている間は良いが、後で大変そうだと感じる。乙女である。 悠里が塀を乗り越えて飛び出す場面が見える。合わせて焔も跳びだした。 ここに迎撃戦が開始される。 ●第一局面! -Fire after Blizzard- 普通に行けばいいのに。 ――――『ロストワン』常盤・青 正論である。 迫る訓練生をもどかしとばかりに吹き払うは、ユウのインドラファイアーである。 「ヒャッハー! フィクサードは消毒だ~! 土下座しろ~☆」 かつて、通行人をゴォォォと問答無用でを燃やした偉人に習い、濃い顔で濃く放つ火矢は、道ごと炎上させた。 リロード。 薬莢の排出。薬莢が排出されて、地面にりんと音を鳴らすまでの僅かな時間を、炎を切って走り抜けるはソラである。 スピードを表現する効果線を存分に纏う。 「折角だからこの状態を活かしてスタイリッシュにいきましょう」 捲る魔術教本。教本が斬り刻むは時である。炎の中を場違いの如く、訓練生達へ氷の刃が五月雨の如く降り注ぐ。 「ビゃあああ! あっちー! さっみぃイイイ!!!」 あちこちから悲鳴が上がる。 まだまだ、と次を捲った途端に、影が――身長を覆うような巨大な影が、頭の上。自身の影を飲み込んだ。 「ケェーーーーーーッッッ!!!」 怪鳥めいた声で飛来した巨体の一撃を咄嗟に本を盾に防ぐも体ごと弾き飛ばされる。 「筆頭教導官!」 笠原・アンブレート・留子であった。 得物は何と、今まで自らが座っていた台である。 「貴女のようなお婆ちゃんが居るかー!! 居ちゃった!!」 ユウがびびる。 「アークは粒ぞろいだ。訓練生どもでは手には負えないからねぇ」 老婆は、自ら赴いてやったとばかりに台を構えてキキキキと笑う。 筆頭教導官のこれを筆頭に、訓練生達が雪崩れ込む様に戦線を上げる。 「待って、待って! 此処から先は通行禁止!」 華乃が身体を張ってとおせんぼする。 「びゃあ! しゃらくせぇヤーーー!」 見上げる眼前のスキンヘッドの火炎放射器野郎が、甲高い声で言う。 「だめー! ならこっちも直進! 前進! 真っ向勝負ー!!」 戦気を爆砕させて、まず眼前の火炎放射器野郎に叩きこむは筆頭教官と同様のメガクラッシュ。火炎放射器野郎を弾いて押し返す。 「よし! いけるいける!」 華乃が考えるに、本当に厄介で実力差があるのは、おそらく二名だけなのだと実感する。 夜桜も、眼前に生じたヒゲのトゲ金棒野郎をデュランダルの一刀でもって下す。 「いけるいける! 遊びに行くなら節度をもちなさーい!」 ただ、なにしろ数が多い。 一体一体と戦うスタイルの二人には相性が悪いのであったが、ここに適材適所という言葉がある。 「この方が非現実じみて戦いやすいのかもしれない」 青は、華乃と夜桜が下した訓練生二人を巻き込みながら、大槍で右から左へなぎ払う。 「びゃああああ! しぬううう!」 噴水の様に血を撒き散らし訓練生がばたばたと倒れる。大槍でダンシングリッパーであるから。 「相手は悪い人達だけど、これから始まるのは虐殺だから」 大勢の中を、スっと気配を消し、次の標的へ視線の動かす。 「散開せい、愚か者ども!!」 筆頭教官の野太い声が上がる。 おまえの様なおばあちゃんがいるか! とやはりユウが反芻した所で、訓練生達のど真ん中へ神秘の閃光弾が投じられる。 「ま、そうは問屋がおろさない、ってな」 爆裂する神秘の光が訓練生達の目を焼き、場に釘付けにする。 「こっちは良いがあっちはどうやらか」 烏が新しいタバコに火を着けて見据える先。 突如、訓練生達が左右に割れる。氷が地面を滑走する様に走ってくる。凍結が駆け抜けて来る。 「むぅぅ、あの技は」 急激に網掛けが濃くなった烏であるが、覆面をいつも被っているのであんまり変わらない。 「し、知っているのか、晦!?」 デス子が応答しながら、翼の加護を全員に施す。 駆け抜けた冷気を真っ向から受け止めたのは、側面から身を投じた悠里だった。 行列の半ば、敵陣のど真ん中である。 「アークの覇界闘士、設楽悠里だ」 眼前の男――フェルディナント・アイスはたった今、冷気を放った掌を引く。 劇画空間のせいか。フェルディナントは一回り大きく見える。 「成る程。うぬか。うぬの名は風の便りに聞いている」 重々しく口を開いた男は、裏野部にしては珍しく、切磋してきたものと怪しまれる程に気魄を携えていた。 「びゃあ! しねぇ~!」 モヒカンが横槍を入れんと、悠里へ金棒を振り上げた。たちまちそのモヒカンの左頬を炎の右拳が殴りぬける。 「譲ったんだから、そう簡単に負けるんじゃないわよ?」 焔である。 右から左へ殴り抜けた右拳を、次は左から右へ振り抜く。振りぬいた軌道を炎がなぞり、薙ぐように広がった炎でもって周囲の訓練生を斃す。 「さて? これだけ多いと殴り甲斐もあるってモノね」 悠里と背中合わせの形となる。 「私達の力、魅せて、魅せましょう? ――燃やし尽くしてあげるわっ!」 ああ、と応じる悠里は拳をフェルディナントに突き出した。 「一騎打ちをしたい。止まってもらうよ」 「面白い。止めてみせい」 11月の空っ風を、もどかしとばかりに吹き払う冷気と熱気。氷と炎が柱のごとく立つのは、数秒先である。 ●第二局面! -BBA- 戦況は瞬く間にリベリスタに傾いた。 ソラのチェインライトニング、烏のハニーコムガトリング、ユウのインドラザヒャッハー。 訓練生は弱い。この火力を凌ぎ切る一番の助けは運のみといった有様である。 仮に凌いだとしても、青が刈り取る。打ち漏らし対応に専念していた夜桜が刈り取るのである。 「あと4発」 ユウは飛行して、インドラザヒャッハーを盛大に降らす。 残弾が心もとなくなってきた頃合であったが、全体攻撃で排除すべき訓練生達は多くが倒れている。 群れが薄くなり、悠里と焔までの道筋がつく。順調かに見えた迎撃班側であったが。 「ケェーーーーーーーーーーー!!!」 、怪鳥めいた老婆の声で焦燥が生まれる。 魔法使いのババアか何かか、老婆は跳躍から自在に飛行をする。ジャガーノートの気魄で、急降下の如く台を振り下ろす。 地面に突き刺さるも、突き刺さったまま移動してくる程にパワフルだ。路面が砕けまくっている。 飛来した老婆の台を、青は槍柄でもって防ぐ。 「……っ」 防ぐも、途端に浮遊感を覚える。グッと一気に胸まで押し込まれる。身体が中空に持っていかれる。――青の体を伴った台は、そのまま荒々しく華乃へと、そしてソラへとたたき付けられた。 「きゃあ!」 華乃は直撃。アンブレートの戦鬼烈風陣により、華乃は足元から蟻が這って来る様な痺れを覚える。 「強い、ね」 青は直撃を防いだのにも、肺から込み上げてくる液体が何とも鉄くさい。 「きっと今、顔に青い縦線が入って、ゼエゼエって書き文字があるに違いない」 引っ掛けた程度で済んだソラも、しかし体力も防御も高い方ではない。何発も受けたら危機である。 練達したデュランダルというものは、とかく恐ろしい。 掠った、と思った頃にはもう遅い。変態じみた火力が真髄である。 アンブレートは言う。 「ふう、しかし全く、訓練生の雑魚どもは使えないねえ」 これまでの攻撃は大体周囲で伸びていた訓練生達を巻き込んでいる。 「さっさとこいつらを殺して加勢しようかねえ」 ここで、癒しの光が二連続で降り注ぐ。 二枚重ねたソラの天使の歌。青と華乃が活力を取り戻す。 「なんだいお前は。ソードミラージュなのかホーリーメイガスなのか、わけがわからない奴だねえ」 「人を見かけやジョブで判断しないほうがいいわよ」 ソラはえっへんと薄い胸を張る。教師属性としてこのババアに後れをとる訳にはいかないのだ。 「回復手は真っ先に殺すに限るかねえ!」 老婆の視線がソラへと向かった所を見て、夜桜がオーラを纏った剣で老婆の背へ切りかかる。 「硬! おやつになにたべたらそうなるの!?」 自身のまんじゅう感とは酷く隔たりがある。 ふと赤とんがりおじさんに熱烈な視線を向ける。 「事情があっておじさん動けないんだ」 無論、後方に飛ばされた者や、戦闘不能者が出れば即座にかけつける心算である。 青も同様に手番を集中に注ぎ込む。 敵は手ごわい。確実に当てるのが、勝利に繋がると割り切る。 迎撃側は、あとはほぼアンブレートのみという戦況である。 アークのエースクラスの中でも、特に火力に注ぎ込んだ者に相当する馬鹿力。特殊な得物の"台"が相乗し、すこぶる難敵であった。 向こう側で氷点下の嵐が吹き荒れる。否、氷点下の気魄である。 「ぬぅん!」「ハッ!」 魔氷の拳と魔氷の拳が何往復目か。 悠里は、つい先日に殺人拳と戦った。アレに目が慣れたか。アレがおかしかったのか。 悠里の拳が、フェルディナントの胸に届く一方で、飛来した拳を避ける。対面の男は膝をつく。 「我に膝をつかせるとは……!」 「本気で来てよ」 胸からピキピキと凍結していくフェルディナントであったが。 「うぬは我が資格が十二分にあろう」 コォォォ! ぬぅん! という裂帛の気合と共に立ち上がる。上半身が膨張する。上着が爆ぜる。氷がはじけ飛ぶ。 「我が、修羅魔氷閃! 今一度垣間見せよう!」 ゆらゆらと手を泳がせ、奥義の姿勢をとる。 「僕には信念がある。この拳に宿った魂は砕かせない!」 両者の網掛けは一層に濃い。 「びゃあ、あったけぇ~――あびゃ?」 焔が、振り下ろし正拳で訓練生を更に下す。 「――ようやく、あっちね」 焔は、背後の悠里を見る。一騎打ちは最終局面と怪しまれた。 「譲ったんだから、そう簡単に負けるんじゃないわよ?」 「そのつもりだよ」 悠里からの返事を受けて、焔はアンブレートを見据え――そして駆け出した。 冷気が、悠里の全身を走り抜けていった。ぬぅんと解き放たれるは凍てつく奔流。 冷たいを通り越して、痛い。というのが率直な感想だった。 ●最終局面! -Final Round- 氣とは人間の肉体のもつ生体エネルギーのことを言う。 戦い抜いた修羅を極めし者のみが収める事が可能な技だという。 民明書房刊「氣の科学」より ――――『足らずの』晦 烏 華乃が、肘を引いた。 携えた槍も大きく引いて、斜に構える。麻痺は消えた。あとは前のめりに行くだけ。 「実力差だとかなんだとかどーでもいいの」 僕にはこれしかできないと胸の内で反芻し――吶喊する。 咄嗟にアンブレートは台を担ぐ様に盾にする。盾に矛が突き刺さる。一寸止まったに見えたが。 「ぶち抜けじゃない! ぶち抜く!!」 デッドオアアライブの一撃が、宣言どおりに台を貫く。貫いてアンブレートの肩甲骨付近に深く突き刺さる。 「グっ! 小癪だね! イライラする!」 槍が突き刺さったままであるのに、華乃をぶんぶんと振り落とそうとする。何のモンスターなのか。 「イライラする? ボクはそれでも構わないよ」 青が集中を重ねたブラックジャックで老婆の後頭部を静かに叩いた。 とたんに魔法使いのババアは白目を剥いてぐらりと体勢を崩すも。 「ケェーーーーーーーッ!!!」 ソラが両耳を押さえ、器用にチェインライトニングを放つ。 「なんてうるさい」 ギャグ漫画よろしく、骨が見える。ついに見れた、とちょっとうれしい。 老婆、白目を剥きながら雄叫びを上げ続ける。何のモンスターなのか。 ここで焔が参上する。 「少しは落ち着きって言葉を覚えたらどうかしら」 顎を掠める精密な右直突きが、老婆の意識を決定的に浚う。 老婆が倒れ伏さんとした所で、夜桜が老婆の脇腹に剣を突き立てる。ブチっと漫画の様に老婆の頭の血管が切れる。 「ケェーーーーーーーッ!!!」 いよいよ獣じみた雄叫びを繰り返し、手当たり次第に塀を、道路を、がっつんがっつん破壊する。まだ生きているのか。 「きゃー! 赤とんがりおじさんー!」 「ずどん」 赤いとんがりおじさんこと烏である。 事情により動けなかったのは、この為である。 溜めに溜めた弾丸は真っ直ぐに老婆のこめかみへと突き刺さる。 「丁度、七発でしたね」 ユウが最後のリロードをする。 「しかし、これが最後の訓練生とは思えない」 顔を濃くし過ぎて、プロフェッショナルっぽい顔になりながら、アーリースナイプを撃つ。 烏が穿った場所を通過する。 「……裏野部がある限り、きっと第二・第三の武装遠足が行われるのでしょう」 老婆はずどんと巨体を倒した。 劇画空間が解除され、同時に向こう側から冷気が膨大に走り抜けてきた。 冷気はたちまち雲散して。氷点下から空っ風が戻ってくる。 「うぬの勝ちだ」 悠里は、魔氷閃の中を遡るって魔氷拳で打ち抜いた。 決着である。 フェルディナントは、手刀で自らの胸中央を貫かんとするも。悠里が手首を掴む。 「僕の目指しているのは殺人拳じゃないからね」 「酔狂な奴よ」 何か掴めそうな感覚覚え、掌を開き、次に握る。 「うん、前にも言われてる」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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