● 水泡が視界に入る。 手を伸ばしても届かない感覚に、開いたままの指先が宙を掻いた。 沈んでいければいいのに―― この海は想い出がたくさん詰まって居て、ここが居場所なんだと思えた。 息をして、恋をして、続いていく命が羨ましかった。 背に生えた物が幸福の象徴だったらよかったのに。 人の幸せというのは如何してだろう、何時だって掴めそうなのに掴めない。 「――すきでした」 囁く言葉が寒空の波に飲まれて行く。 好きでした、多分、もう傍にいれないね。すきでした、すきでした。 「……ごめんなさい」 息をして、恋をして、人ってどうして生きてるのかしら。 ● 「人は生きる為に息をする。息って言葉は『自ら』と『心』と書くし、生命のしるしとして尤もな言葉なのじゃないかしら」 首を傾げて、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は何時も通りに笑んで見せる。 「御機嫌よう、お願いしたい事があるの。 簡単な話よ? 皆にお願いしたいのはエリューションの討伐なの」 簡単でしょう、と一言で纏める世恋の表情は何処か暗い。 モニターに写された画像にリベリスタが首を傾げれば世恋は小さく頷いた。 「海です」 「海?」 「こんな季節にあれだけど、海でお仕事して頂きたいの。海水の温度は冷たいし、そろそろ入りたくなくなる頃だけど、この海を目の前に存在するエリューションの討伐が今回の『お願い事』なの」 簡単でしょう、と再度繰り返す世恋にリベリスタは首を傾げる。 夢見がちな事を言ったにしてはどうも『中身』がない様に感じたからだ。 「……此処に居るのはノーフェイスの女の子。今回の討伐対象なの。 彼女、海が好きでね、海を見に来たそうだわ。家出少女なの。ご家族には『行方不明』で済ませられるんだけども、こういう家出ってのは色々あってね、どうしても粗がるのよね」 家出を完璧に行える人間は少ないのかもしれない、と世恋は言う。 痕跡があれば、そこを辿りだす人間はいる。その『足跡』を辿ったのはもう一人の登場人物だ。 「家出少女を追い掛けてきたのは、一人の少年。 此処でロマンチックな事を云いましょう。さて、相手は何でしょう?」 「恋人?」 「――未満、かしらね」 そう言うのって結構あるわよね、と初恋もまだな癖に告げる世恋にリベリスタは一つ苦笑い。 片想い同士。実るかもしれなかった恋を邪魔したのは少女の体に異変が現れたからだったそうだ。 「ノーフェイスになった少女の身体には少しだけ『普通』と違う物があったわ。 ……私の背中ご覧ください。翼があるでしょ? こんな感じなの」 『普通の人間』は翼が生えてこない。その常識の元、少女は家出を踏みきった。 けれど、最後に海を見たかったそうだ。 片想いの彼とみた、蒼い海を――今も変わりなく澄み切ったその色を。 「彼女が持った増殖性革醒化現象。それによって周囲にエリューションが生み出される。 『増殖性革醒化現象』っていう時間の都合もあるけれど、彼が彼女に出会う前に……どうか――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月12日(火)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 波の音を聞きながら、砂浜を目指して歩く『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)は周辺に強結界を展開し、念のためだと目を伏せる。 彼が望んだのはとある少年がこの場所に介入しない事だろう。合わせるように結界を広めた『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は持ち前のバランス感覚を駆使して砂浜の上を歩いていく。 ――息をして、恋をして、人ってどうして生きてるのかしら。 「儘ならんもんだ……」 少女の問いに、義衛郎は優しい言葉を示してはあげれない。お互い思い合っているのを知らず、知ったところで運命の寵愛は得られず命を断たれて行く。 その命を断つことになる自分の指先を見詰め、三徳を握りしめる指先に力が籠る。 乙女の拳に込められた力は恋に恋するお年頃である『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)が浮かべた悲しみであったのかもしれない。 少女である焔が望むハッピーエンドは何処だろう。幸福の筋書き(ストーリー)だけならできているのにそれがどうにも見つけられない。 「少女は少年の想いが紡いだ奇跡によって、フェイトを得る事が出来ました……だったら、どれだけ良かったでしょうね」 夢見るように紡ぐ言葉に『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は茫と何処かを見詰めている。 ただ、虚空を見詰める瞳は、自分が何であるか。存在理由も存在意義も何もかもを見出せない青が少女の気持ちを実感する事も共感する事も出来ない事を顕している様であった。 「それじゃ、お願いね?」 人型に拵えた紙を手に『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)は小さく微笑んだ。 小さなソレは足止めとして有効であるかは分からない。シンシアの指示である『足止め』を遂行するには少々心もとないように思えた。 それでも、『神秘』という不可思議な現象を目にした『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は自分がリベリスタであり、自分が『エリューション』である事を実感したことだろう。 初の戦闘に緊張した様に指先に力が込められる。魔力銃を握りしめる手は何処か震えていた。 「――寒っ!?」 ……此方の震えはどうやら外気から来るようだが。 戦闘前の緊張は何処へやら。流石は大企業に仕える『メイド』だろうか。神秘掃除が大得意の『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は常の通りのメイド服のスカートを指で引っ張り晒される足を隠して見せる。 「ちょっと勘弁して下さいよ……ガチで寒いんですが!」 11月の海は寒い。それは『入りたくなる頃』と称したフォーチュナに苦言を申し立てたいレベルだ。入りたくない所ではなく、海に来たくないレベルの寒さがそこにはあったのだろう。 モニカの言葉を聞いて八重歯を見せて笑った『野良リスタ』シャルン・S・ホルスト(BNE004798)はヘビースピアを握りしめやる気を出す様に小さく頷いて見せる。二つに縛った金髪が海風に揺れている。 砂浜を歩いていく青が砂浜に座りこむ少女の所へとゆっくりと近寄っていく。気配を感じられない青ではない、同じ様に近寄った――海風にストレスと苛立ちを感じているモニカが殲滅式自動砲を担ぎ上げ、真顔でその砲口を向けていた。 「制限時間は……ああ、いえ、寒すぎますからね。さっさと帰りたいですし、30秒で」 ● 三徳の切っ先は曇らない。それは義衛郎が為すべきを為すが為の物なのだろう。 (オレのフェイトを分けてあげられたら良いんだがね……) 切っ先を向けたまま、彼が真っ直ぐに踏み込んだのは但野みなとという高校一年生の少女の前だった。 一見、普通に見える少女の背には翼が存在し、エリューションだと言う事が一目見て、分かる。座りこんでいたせいで、スカートに付いた砂を払い、突然現れた青年に驚いた様に丸い瞳を向けて居た。 「こんにちは、但野みなとさん。此方の都合で、貴女を排除させて貰います」 「――え?」 一歩、後ずさる。 前へ進む事が出来ないみなとの足が波に少しばかり巻き込まれる。咄嗟に少女の頭に浮かんだのは『自分はバケモノ』だということだったのだろう。 漂う海魂はみなとの意思に関係なくふわふわと漂っている。驚愕と、戸惑いを隠せない少女をスルーして、リベリスタ達へ襲いかからんとするそれを焔の拳が薙ぎ払う。チャイナ服を身に纏った少女の拳は鮮烈な赤色を――みなとの大好きな澄んだ青と対象的な色を浮かび上がらせる。 「初めまして、但野みなと……だったわよね? 私達は貴女を止めに来たの。 排除、つまりは『ソウイウコト』よ? それは、きっと貴女にとって受け入れられない事よね」 誰かを殺すという局面に至っても戦い慣れてきた焔に浮かんだのは笑みだった。 16歳という年齢で戦いに身を投じる焔、同い年のみなとを見て、浮かぶ笑みは苦笑に近い。 (――何て、残酷) 恋に恋する焔と、恋する少女。恋する想いが運命を変えてくれるならば、どれ程幸福なのだろうか。 少女を視界に含めながら、ルシュディーは味方へと十字の加護を与えて溜め息をつく。目的は定まっている。目的は鶴田俊也という――みなとに恋をし、そしてみなとが恋をした――少年が訪れる前にエリューションを討伐することだ。 「他人の色恋沙汰に口出す様なロマンチストな趣味は私にはありませんけれど」 砲口を真っ直ぐ向けてモニカが吐き出すため息は寒さからだろうか、何処か固く聞こえる。 少女の抵抗は『神秘退治』という理不尽な行いに対するものだ。リベリスタを世界の必要悪の狩人と例えた時、人殺しは大義名分の下に認められているものになる。 モニカにとって、その『必要悪』を滅する事は任務に他ならない。その中で彼女が一つ、考えるのは抵抗なき相手を殺すのはどうにも戸惑いを覚える。ただの『虐殺』であれば気分も良くないのだ。 「抵抗があるのは面倒ですが、悪くない」 気分良く仕事を行うというのも労働環境には大事なことだ。 弾丸をばら撒きながらモニカが砂を蹴り上げる、狙いを定めた弾丸に海魂がその腹に風穴を開ければ、続きざまにシンシアがエクスィス・ガーンデーヴァの弓を引いた。 遠距離から攻撃を行えるシンシアの弓が弾きだしたのは援護射撃に他ならない。モニカのハニーコムガトリングを文字通り『援護』するように矢が海魂を貫いた。 「バケモノかあ」 「……!」 ぴくり、とみなとの肩が揺れる。自分の事を指されたのかと緊張を浮かべてシンシアの瞳を覗きこめば色違いの瞳は困った様に笑っていた。 「それを言っちゃったら私達もそうなんだけどね」 長い耳が揺れる。みなとが目にした事のない長耳。垂れさがったうさぎの耳を揺らしたクリスがコマ送りの視界でシューターとしての集中力を極めながら、不運(ハードラック)の煙を燻らせる。 耳に視線を送り、怯えた様に氷の雨を降らせるみなとへ視線を送り、クリスは後衛位置で銃口を向けた。 「元は普通の女子高生か……運が悪かったな、心底、同情するよ」 「同情するし、分かってるけど、やりきれないな……」 ぽつりと呟き、前進した焔や義衛郎の姿を眺めながらシャルンは背の翼を揺らす。 浮かび上がった彼はみなとより幼い。『バケモノ』である少年は黒き瘴気を生み出して、周辺を巻き込んだ。 「俺の妹もさ、俺やお前と同じ羽根が生えてんの。これ、見えるだろ?」 「あなたも、『バケモノ』なの?」 海魂の攻撃を避けながらシャルンがみなとへと視線を向ければ、シャルンは羽根を揺らして「どうだろ」と笑った。 「バケモノ……ボクらには『答え』を渡せない。君の知りたい答えをボクは持たないんだ」 影に潜む様に。気配を消していた青はただ、茫とした瞳でみなとを見詰めていた。 居場所がなくても、好きな人がいなくても、心臓が動いているから自分は生きている。それは当然の事実だった。 それでも、そこに意味があるか聞かれたら青は分からない。あるかもしれないし、ないかもしれない。 「ボクには分からないよ」 ――今から『ボク』がするのはただの人殺しだ。 切り裂く様に腕を振るう青はその感覚に慣れないと首を振る。 突如現れた彼に慢心状態であったみなとが驚き後ずさる。肩が、義衛郎にぶつかり、逃げ道がないのだと港は漸くそれで気付いたのだろう。 「あ、あなたもバケモノなら、なんで私が――!」 「俺とねーちゃんにはさ、違いがあるんだ」 じっと見つめる青の視線に、戸惑うみなとへと告げられたのはシャルンの勧告だ。 運命の寵愛がない――? 神秘を知らぬ少女には分からない事だ。 だからこそ、シャルンはその言葉を選んだのだろう。 「抗体を持ってるかどうかってこと。病気でいえば、物理的に消せないんだ。 それしか方法がない上に、その『治らない病気』はねーちゃんから感染してくんだよ」 ● モニカは寒さに身体を震わせている。戦闘を続ける中で、増える海魂は彼女の敵では無かったのだろう。 圧倒的火力。避ける事が叶わなかった海魂を蹴散らせながら、海風を厭う様に眉間に皺を寄せている。 「冷え性持ちなのに……ああ、もうっ」 ばら撒かれる弾丸がみなとに傷を負わせれば不安を浮かべた彼女が弾きだす氷が襲い来る。避ける義衛郎が幻惑の武技から幻影を生み出し、翻弄する様にみなとへと三徳を叩きつければ、少女は涙を浮かべて首を振った。 義衛郎は只管に声を掛け続ける。少女の疑問を引き出す様に。 氷を弾く様に一直線に、地面を蹴り、その蹴撃をみなとへと届かせる焔は何処か必死の形相にも思える。 「気に入らない運命なら全力で抗ってみなさいよ! 貴女にはその権利があるのよ?」 ――私に『魅』せて。恋する想いが運命だって、塗り替えてしまうことを。 運命が誰かと交錯した時に、奇跡が起きれば良いのに、と焔が唇を噛む。 引き金を引く事に躊躇しないクリスであっても、神秘事件は初めてだ。何処まで戦えるかという不安を払拭する様に心強い仲間達に勇気づけられる気がする。 「但野さん、君の悪夢は、ここで終わらせるよ」 強い意志を持ったシンシアの矢が海魂を貫くと同時、彼女の腹を貫いたモノがある。痛みに目を細め、眩む視界でドラマを支配しようとその足に力を入れるが叶わない。 ルシュディーは悔しげに視線を送り、仲間達を勇気づける様に『歌』を与え続けた。 「貴女は、ただ、運が悪かった。……なんと惨い事でしょうね。 好きな人がいるのでしょう。報われない思いでも、逢いたいと思える人がいるのでしょう」 たどたどしく、ルシュディーの紡ぐ言葉に、丸い瞳を向け、翼を揺らしたみなとが小さく頷いた。 きっとこの人達には何でもお見通しなんだ、だって、バケモノだもの。 そう思う事が出来たのか、今から殺される事を知っているからか、みなとはルシュディーを見詰めたままぽつぽつと語り出す。 「好きな人が、いたの。バケモノって人を好きになっちゃ駄目かな……? 幼馴染みでね、大切だよって言ってくれるの。大切な人がバケモノになったら、やっぱり」 嫌だよね、と囁く声にルシュディーは唇を噛み締める。きっと誰も救われないから出逢う事は叶わない。 彼の癒しを受けながら、遠距離攻撃を受けながし、自身に傷を負っても攻撃する手を休めないシャルンは『好きな人』の事を思って瞳を伏せた。 「もうすぐ、ここにねーちゃんを追ってくる奴が来る。きっと、ここを見たらねーちゃんを庇うと思う」 「俊也君に、怪我させたりしないで!」 「だから、それまでに俺はねーちゃんを殺すよ。生きたいって思ってくれよ、想いだって繋がるかもしれないから」 きっと、と懇願する様にシャルンは告げる。もしかしたら、彼女を生かす道が何処かに在るかもしれない。 焔の云った通り『抗えば』何とかなるかもしれない。奇跡に縋るのは何時だってしてきた事だった。 「あ、」 ぴくり、と焔が動き咄嗟に振り替える。その意味をクリスは分かった気がして小さく肩を竦めた。 少年はきっと来る。ルシュディーの言う通り、『確かな目的』を元に、この場所に。 「ロマンチックな話だよ、まったく」 意地の悪い運命は『伝染病』――増殖性革醒化現象を持った少女を少年と合わせる事を認めない。 弾丸が海魂を打ち消して、みなとに向けたクリスの視線は何処か、曇っていた様にも思えた。 「……俊也君が、くるの?」 その言葉にその場から背を向けた青が走り出す。放った式神は『紙』だった。人を止めるには十分な代物では無い。彼の掌でスタンガンが電流を走らせている。 全力で背を向ける青へと向けられた視線を逸らす様に義衛郎は一気に剣を叩きつける。 「もし、大切な人が見境なく暴れる様なバケモノになったとして、オレなら自分で手を下す」 「ど、して……?」 好きな人なのに、殺せるの、と少女が驚愕を顔いっぱいに浮かべて居る。 彼女の言葉に焔はみなとの瞳を覗きこんで、瞬いた。 「さて、ね?」 どうして、なんて聞かれたって焔には大切な人はまだ居なかった。いつか、誰か好きな人が出来るかもしれない。 その時になれば、きっとわかるかもしれない。それでも、焔は緩く笑った。 「私ね、きっと恋を諦めないわ。だって、本当に好きな人ならどんな姿になったとしても、私なら諦められないもの」 例えどんな人だって、愛せる筈だった。それが本当に『好きな人』だから。 二人の答えにみなとが戸惑った様に腕を振るう。氷を受けて、一歩引いた焔の居た場所へとクリスの弾丸が繰り出されみなとの腕を抉る。 ――あなたは大切な人がバケモノになったらどうする? ――バケモノに好かれるっていやかな? そう聞かれたって、クリスにはまだ分からない。応えられない。いつか、自分がそう悩む日が来るかもしれない。 攻撃により負担が大きかったクリスが膝をつく。シャルンはフェイトを消費してでも理不尽な運命に立ち向かうのだと自分を激励する様にヘビースピアを強く握りしめた。 「ねーちゃん、俺を恨んでいいよ。俺を呪っても良いよ。だから、自分をバケモノなんて言うな」 泣きたくなるだろ、と囁かれた言葉にみなとの頬に涙が落ちる。 だって、もう――逢えないから。 ● 離れた場所で、青は紙キレを茫と見下ろしてスタンガンを押し当てた。 少年の身体が倒れていくのを見詰めて小さな溜め息をつく。 運命があるかないか。神秘がどうか。そんな物、青はまだ分からなかった。 普通に息をして、恋をして、笑っている『普通』の女の子がいた。そう言う風にしか見えなかった。 「おやすみ」 君の思い人は今から、死ぬんだ。 『ボク』には分からないけど――この世界は彼女を殺して護られるんだ。 気付けば海魂はその数を失くしてしまっている。モニカが全力で貫けば少女の体力も少なくなってきたのだろう。 溢れるのは人間と同じ赤色の血で、痛みだって同じだ。 「さっさと、終わらせますよ」 寒いからと付けくわえた理由に頷いて、黒き瘴気で包み込むシャルンがみなとが「化け物」と言うたびに否定する。 彼の瞳に浮かんだ涙は幼い少年ならではのものであろうか。 分かっているからこそ、その手は止めない。やりきれない。護らなきゃいけないものは間違えない。 (俺の手は、本当にちっぽけだ――) ぐ、とヘビースピアを握りしめ、目を伏せて居たシャルンにみなとは視線を向けて、小さく笑った。 「ねえ、有難う。バケモノじゃないって、言ってくれてるんでしょ?」 私の為に、泣いてくれるのね、と囁かれる言葉に俯いた少年の攻撃は止まない。 攻撃の手を休めないままだった義衛郎がその翼を見詰めて小さく笑う。 「背中に翼がある相手に好意を寄せられてどう思うかは人それぞれ。自分が惚れた相手ならそれでも構わない」 「バケモノってなに? それって重要じゃないでしょ? 貴女の好きな人は、その程度で貴女を嫌いになるの?」 倒す事しか出来なくて、悔しさを浮かべた焔を見詰めたみなとの目は最初と比べ澄んでいる。 心残りが減ればいいと、偽善だと言いながらも懸命に聞きだし、答えを与え続けた義衛郎を見詰め、倒れたクリスやシンシアを見据えた後、みなとは意を決した様に小さく口にした。 「もし、彼に会う機会があれば言って下さい。――好き、でした」 狩りをする手は、止まらない。モニカが加えた一撃はみなとの身体を弾き飛ばす。 彼女はその瞬間に小さく笑っていた。自分がバケモノじゃないという安堵と、想いを伝えられると言う幸福を湛えて。 冷たい海水に晒される様に少女の身体は、大好きだった青色に倒れていく。 きっと、好きになったのは間違いじゃなくて。家出少女がそのまま何処かに行ったのだと彼も思う事だろう。 「時間があれば、きっと、前を向ける……彼にはまだ未来がありますから」 ルシュディーの言葉は、確かなものだろう。時がきっと彼を救ってくれる筈なのだから。 「想い出は風に乗って消えるのも風情というも……寒っ! ああ、もうっ! だから寒いんですってば。さっさと帰って足を温めましょう」 ふる、と震えてみなとへと少し視線を送ったモニカは寒中の海を眺めて息を吐く。 少女の『翼』が誰にも見られない様に、義衛郎が死体の処理に関しての連絡をしている中、彼女を見下ろして、焔はぽつり、と呟いた。 私ね、貴女の翼、嫌いじゃないわよ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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