●天気予報の風景 「大型で強い勢力を保った台風は北北西に針路を取り、このまま進みますと関東へと上陸する恐れがあります」 「台風の接近に伴い、風や雨が強くなる可能性がありますので、河川や海岸等の~」 注意、警戒等が呼び掛けられ、テレビを見ながら家族や友人たちが、それらについて話し合う。 たくさんの場所で繰り広げられる、日常とは少し違う……けれど『日常』から逸脱しない風景。 多くの者は、気付かない。 その嵐が、常識とは掛け離れた異世界の存在によって造られたものである事に。 ●その名は『ストームブリンガー』 「アザーバイド・ストームブリンガー。それがこの台風を造り出した存在の呼称となります」 スクリーンに表示された画像に視線を向けながら、マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明した。 下半身が竜巻のような空気の渦となっている巨人は、透明がかっていながらも硬質な……どこか彫像……石像か何かのような雰囲気を漂わせている。 大きさや質感だけでなく、外見そのものも異質だった。 「……これ、八面六臂というのでしょうか……8の顔を持ち、6本の腕を持っているみたいです」 8つの面はそれぞれ北から北北西までの八方を見渡し、六本の腕は天を支えでもするかのように周囲へと掲げるように伸ばされている。 もっとも、その腕のうちの三本ほどは肘の辺までしか存在していない。 「幸いアザーバイドは、まだ完全にこの世界に具現化しておらず、力の一部は使いこなせないようです……それでも、並のアザーバイドやエリューションとは比べ物にならない力を持ってはいますが」 そして、その周囲にはE・エレメントたちが飛び回っている。 「このまま行けばストームブリンガーによって維持された台風は関東、東北を縦断します……」 アザーバイドそのものが攻撃を行う訳では無いが、勢力の衰えない台風が列島を縦断すれば大きな被害が出る事になるだろう。 それだけは、何としても阻止しなければならない。 「アザーバイドは台風の中心付近にいるようです。普通ですと周囲の天候で接近は困難ですが……」 付近に上陸するのであれば……俗に台風の目と言われる中央付近に入れれば、天候は一時的に回復する。 「それを利用して接近し、このアザーバイドを撃破して欲しいんです」 そう言って集まったリベリスタたちを見回すと、マルガレーテはそれぞれの作戦について説明し始めた。 手段としては台風の中心部が近付き風や雨が弱まったところで上昇を開始、そのまま上空にいるアザーバイドへと接近し、撃破・撃退するという流れになる。 飛行系の能力が不足する場合、翼の加護を使用可能なアークのリベリスタが同行するようだ。 「接近する途中にも風のE・エレメントが存在していますが、全てを撃破するのは不可能に近いですので突破を優先して下さい」 そのまま上昇し続ければ空の一角、台風の中心部に位置するアザーバイドを、遠目からでも確認できるのだそうだ。 そうなれば、後はアザーバイドたちと戦うのみである。 「ストームブリンガーの周囲には8体の風のE・エレメントが存在しています」 途中で遭遇するE・エレメントたちと基本は同じで、動きは機敏であるものの耐久力や防御力は高くないようだ。 攻撃は風の刃で攻撃する近距離単体攻撃のみ。ただし、自身の素早さを攻撃力に加える力を持っている。 一方でアザーバイドの方は、完全に出現している三本の腕を用いて攻撃を行ってくる。 三本の腕はそれぞれ1つずつ、異なる力を持っているようだ。 「アザーバイドは攻撃する際、次に使う腕を手元に引き寄せるような動きをします」 それを利用すれば、敵の攻撃に対する対処も行い易くなるかもしれない。 1つの腕は周囲の風を変化させることで敵の動きを鈍らせ、逆に味方の動きを機敏にする効果を持っている。 ただし、ストームブリンガー自身には効果を発揮しないようだ。 2本目の腕は強力な雷を生み出し敵を打ち据える。 範囲は決して広くはないが威力は高く、加えて攻撃や回避を行い難くする効果を持つ。 そして3本目の腕は強烈な風で一帯を薙ぎ払い、ダメージを与え吹き飛ばす効果を持つらしい。 それ以外にも、腕を振るって物理神秘系の通常攻撃も行なってくる。 「戦うための能力も、全体的に高いようです」 攻撃を防ぐ能力はそれほど高くないようだが、耐久力の方はその大きさに相応しいものを持っている。 また、ほとんどの異常を無効化する絶対者に似た力を所持しているようだ。 強力で危険な相手である事は間違いない。 「ですがこのアザーバイドを倒す事ができれば……台風は急速に勢力を弱め、数時間ほどで低気圧へと変わります」 雨風が無くなるという訳では無いが、被害は台風と比べるまでも無い。 「宜しくお願いします……どうか、御無事で」 フォーチュナの言葉に頷くと、リベリスタ達はすぐに出発の準備に取り掛かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月22日(金)00:09 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●リベリスタ達 「こんどは、竜じゃなくて巨人だったのね」 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は以前の戦いの事を思い出しながら、誰に言うでもなく呟いた。 E・エレメントたちが多数発生する事件。 かつて炎のE・エレメント達の出現事件が発生した後、竜のような姿をしたアザーバイドが出現した事があったのだ。 今回は炎竜ではなく、嵐の巨人。 「まあ、なんだろうがやるしかない」 自分に言い聞かせでもするかのように涼子は続けた。 べつに悪意はなくても、ただの風と雨が…… 「そこらのフィクサードよりもよっぽどひとを殺す」 世界は残酷というべきか、それとも公平という事なのか…… 「傍迷惑な……まったく来るなら時期を選べばいいものを」 いつもと変わらぬ調子で『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が口にする。 「雨乞い只中なら熱烈歓迎だが、今は唯、邪魔なだけだ」 望む時には在らず、望まぬ時に現れる、もたらされる。 人の自由にはならない存在。 昔の人々はそういったものに、人智を超越した何かを感じていたのだろう。 それは少なくとも間違いでは無かった……という事なのだろうか? かつてこの世界には、こういった存在が幾度も現れたのだろうか? 「去年の暮れも上空のアザーバイドを討ちにいったわ」 見えない何かを見るように、想いを馳せるように呟いてから。 「もう1年経ったのね」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)はそう言葉を続け、そこで気持ちを切り替えた。 今は、為すべき事がある。 準備は既に済ませてあるのだ。 アークが設立されて以来、幾人ものリベリスタたちが飛行する存在との戦いを経験している。 「空中戦にも大分慣れては来ましたな」 そう口にする『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)も経験者の一人だった。 「落ちたら大変になると分かってはいても、心躍るものです」 もちろん、油断する気は欠片も無い。 「さて、仕事は真面目に行きませんとな」 私情というか気持ちはそのままに、任務には全力を尽くす。 「完成したばかりの我が家を吹き飛ばされてたまるか」 そんな事を口にする『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)の瞳にも、揺らぐものはひとつとして無かった。 もっともそれは、これから戦う相手がそれだけ力を持っているという事でもある。 アザーバイド『ストームブリンガー』 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は同じ何かを心に抱きながら、其名を呟いた。 (此処なるそれは異界の巨人ですが、高次元の存在は姿形等あって無きが如し) 「重々気をつけましょう」 アラストールが警戒の言葉を紡げば、天乃は何かを滲ませながら期待していると口にする。 (腕が、半分ほどしか動いてない、のが残念だけど、ね) 「それはまたの機会、として……楽しませてもらおう」 空気を張り詰めさせながらも同時に別の何かを漂わせた天乃の姿を見ながら……アラストールは視界の隅に捉えた人物を見て、一気に気持ちを緩ませた。 (そういえば……結城殿が贈って来たしまぱんはどうすれば良いのだろうか) 「……ふむ、依頼中に考える事ではないですな」 (後で考えよう、そうしよう) 青年の姿を視界から追い出しながら、アラストールは浮かんだ思考も一緒に頭の隅へと追いやっていく。 ちなみに、敢えて穿かない主義の天乃も……今回は、はいていた。 (上、を見上げられると、大惨事、だから…) 修行の一環として敢えて穿かない事で動きに制限をかけており、はく時は本気という彼女にとって、今回の敵は……本気になるべき相手なのか? それとも唯、惨事を避けるためだけなのか? それは勿論、本人にしか分からない。 どうであれ、この場に集まったリベリスタ達全員が、其々本気である事は間違いない事実と言えた。 ●天を目指して 空を往く為の、翼。 「皆様に、風の加護を」 『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は皆へと翼の加護を施した。 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)はそれを確認しながら、空中で意思疎通を円滑に行うためにとアクセスファンタズムの回線が開かれている事を確認する。 他のリベリスタたちもアクセスファンタズムの通信機能をオンにし、連絡や通話がいざという時に即座に行える態勢を整えた。 声を掛け合えれば問題ないが、上空ではどうなるか分からない。 風などで声が届かない場合を考えての対応である。 こうして事前の準備は整った。 (竜は天を駆けるもの!) 「三次元的な空間戦闘ぐらいこなしてみせるさ!」 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は与えられた翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。 10人のリベリスタたちは一時的に穏やかになった空へと飛び立ち、上空のアザーバイド・ストームブリンガーの許へと上昇を開始した。 未明はアクセスファンタズムも使いながら、同時に直接声を掛け合って届き具合なども確認しつつ翼を羽ばたかせる。 いざという時に仲間を守れるようにと、彼女は集団の外縁へと自分の位置を取った。 鷲祐は彼女とペアを組むようにして、周囲を警戒しながら自身の感覚を研ぎ澄ます。 天乃も索敵の為に五感の全てを強化し、視覚や聴覚だけでなく嗅覚や触覚も総動員して周囲の状態を確認していた。 姿勢制御の為にハイバランサーを用いて即座に行動に移れるような体勢で、彼女は仲間たちと共に天を目指す。 視覚のみを強化したユーヌは進行方向をイーグルアイで見通し、風のE・エレメントの様子を探ってゆく。 エリューションたちの姿を確認すると、彼女は竜一やフツ、皆と頷き合った。 可能な限り急ぐため、E・エレメント達は出来るだけ振り切り交戦を避けるというのが今回のリベリスタたちの方針である。 「会場到着前に疲れるのも何ですしなー」 仮面の奥の瞳をエレメントたちに向けながら、九十九は変わらぬ態度で口にした。 「ここはこっそり、急いで向かいましょうか」 そんな呟きに同意しつつ、涼子は皆の位置を確認する。 全員が一丸となれるように、とにかく分散しないように。 竜一もなるべく皆から離れないように意識しつつ、それに拘って進路を阻まれないようにとも自分に言い聞かせた。 とにかく密集している処を避けようと、ユーヌはエレメントたちの動きを観察する。 竜一も飛行しながら、進路を阻まれないルートを探すべく状況を窺い続けた。 早め早めに迂回ルートを確認するように心掛ければ、急角度で曲がったりしないで済む可能性が高い。 そう考えたフツも、出来るだけエレメントを振り切ろうとエリューションたちの動きを観察する。 皆の動きに合わせるように天乃は位置を変化させ、ユーヌは動きが遅れそうな者に手を貸した。 アークエンジェである彼女は、元々他の者たちと比べ優れた飛行能力を有している。 それを利用して、ユーヌは遅れる者がないように、チームの移動速度が落ちないようにと補助をしながら……普段は隠している美しい翼を羽ばたかせた。 ●風の路を往く 「そっちにいくぞ、注意してくれ」 接近してきたエレメントの動きを見ながら鷲祐が警戒の声を発する。 ユーヌは進路へと割り込むように移動してきたE・エレメント達に向けて、神秘の力で創り出した閃光弾を投擲した。 エリューションたちが衝撃で動きを止めている間に、一行はその場を翔け抜け、更に上昇する。 複数に取り囲まれそうになった場合はファウナが多数の火炎弾を炸裂させ、風精たちを吹き飛ばす事で道を切り開いた。 相手の数が少なければ、竜一と未明が武器にエネルギーを収束させ吹き飛ばす。 倒す事よりも退かす事、自分たちが進むことを優先して。 リベリスタたちはひたすら上空のアザーバイドを目指した。 (自分達だけで、良かった) 幾人かは飛行しながら、そんな事を考えた。 風のE・エレメントたちは個々の能力は低いが数は多い。 とはいえ低いと言えるのは、皆の実力あっての事だ。 もし未熟な者がいれば、回復などもこの行程で必要となっていたかもしれない。 そんな事を考えつつ、アラストールも近寄ってくる風精たちの動きを見据え、突破路や迂回路について思いを巡らせた。 九十九も皆と共にファウナから翼の加護を再度施されながら、敵の分布を把握しようと集音装置によって自身の聴覚を強化する。 包囲されるような事になれば消耗を厭わず銃撃を行うつもりだったが、幸いというべきか…… そういった事態はまだ起こってはいない。 音で把握した敵の動きを仲間たちに伝え、集めた情報を基に進路を考察する。 その間にも接近してきた風精の1体を、フツが魔槍深緋を振るって吹き飛ばした。 彼もまた、どうしても進めない場合は強力な符術の使用も考えていたが、今のところ戦いによる消耗は殆どなかった。 視覚や聴覚、他の感覚を強化し、できるだけ事前に迂回路を探す。あるいは突破の容易そうな手薄な場所を探すという作戦が上手く機能しているからこそと言えるだろう。 もっとも、最後まで何があるか分からない以上、油断は禁物である。 最短ルートの突破に必要となれば、自分の全力で以て道を切り開く。 そんな決意を胸に鷲祐は自身の感覚を研ぎ澄まし、いつでも力を揮える態勢を保っていた。 やがて上空に、一行の求める存在の姿が表れる。 最初に確認したのはユーヌと天乃だが、すぐに他の者たちもその姿を肉眼で捉えることができた。 どこか無機質な……巨像のような上半身と、それを支える巨大な竜巻。 そこから生み出されたと思われる風が、リベリスタたちの頬を撫でる。 近付ければそれは、さらに強力になっていくだろう。 何もかもを薙ぎ払い、打ちのめすほどに。 (その姿、どの様な世界の存在なのか……) 仲間たちに再度翼の加護を施しながら……ファウナはそんな疑問を刹那抱き、打ち消した。 今考えたところで意味は無いのだ。 (何故にこの世界に現れたのかは解りませんが) 「風の在り様を乱す者、捨て置く事はできません」 まっすぐに嵐を見つめた彼女の唇から、静かな言葉が誓のように紡がれる。 「台風一過だ。過ぎるも消えるも変わりない」 感情を篭めぬいつもと変わらぬ調子で、ユーヌは嵐を眺めながら呟いた。 「さっさと退場してもらうか」 ●遭遇、そして対峙へ 一行が接近するほどに風は強さを増してゆく。 その中を……嵐の根源に、自身に向かって進んでくる姿に気付いたのか。 アザーバイド『ストームブリンガー』は、天を支えるように伸ばしていた腕のひとつを手元へと引き寄せた。 リベリスタたちも翼をはためかせ距離を詰めながら、戦闘態勢を整える。 雷光を纏った鷲祐が更に動きを加速させ、涼子は己に課した自負とルールによって世界法則を捻じ曲げた。 「来たれ我が根源の形」 英霊の魂へと呼びかけたアラストールは、その加護を闘衣へと変質させ身に纏う。 竜一は自らの闘気を破壊の戦気へと変化させ、九十九は月を抱く女神の加護を己の武器へと宿らせた。 前衛たちはそのままアザーバイドへと接近しながら、それぞれ2人1組のチームとなって半円状に展開してゆく。 未明と組んだ鷲祐は互いに庇い合えるように距離を保ち、天乃とアラストールは他の2組と6m以上の距離を開けるようにと注意しながら位置を取った。 竜一とコンビとなった涼子は、互いの距離を確認しつつ後衛のファウナの位置にも注意する。 九十九は前衛ではあるものの、敵を囲むように位置する前衛たちの後方に位置を取った。 ファウナから離れすぎないように、但し範囲攻撃対策として味方から6m以上は離れるようにと注意する。 立ち位置としては、中衛とでも言うべきだろうか? 飛行できることを考え立体的な位置取りを行っているので、端的な表現は難しいかも知れない。 ユーヌも高低を考え、範囲攻撃を避けるように間隔を開けて後衛に位置を取った。 フツも半円状にアザーバイドと対峙する前衛たちの後方、半円の外側に、後衛として位置を取る。 ファウナも同じように半円の後方に後衛として、アザーバイドから20m程度の距離を取るようにして位置に付いた。 アザーバイドの周囲を舞っていた風のE・エレメントたちが、一行に反応するように動き始める。 嵐を生み出す存在。そして、嵐を打ち砕こうとする存在。 人の手の届かぬ上空で、嵐の領域で。 嵐の行く末を決める戦いは、こうして幕を開けた。 ●嵐との戦い 気を抜けば吹き飛ばされかねない強い風の吹く中で、誰より何より先に動いたのは鷲祐だった。 (腕を落とせば被害も抑えられる。賭けるか!) 風よりも早く、文字通り雷光の如き速度で。 猛禽の名を冠した獣は巨人の腕を狙う位置を取るべく、風を切って空を翔ける。 その彼に向かって、そして自分と対峙するリベリスタたちに向かって。 ストームブリンガーは引き寄せた腕に纏っていた嵐を解放した。 物質化したかのような強烈な風が一行に襲いかかり、固体で殴りつけられたような衝撃がリベリスタたちを打ち据える。 それを無理に堪えようとせず吹き飛ばされながらハイバランサーで姿勢を制御すると、ユーヌはE・エレメントたちの動きを探りながら神秘の閃光弾を投擲した。 涼子も攻撃を開始する。 まず1本、強力な風を起こす颶風の腕は特定できた。 これからはその攻撃が来るときは、竜一と交代で庇い合うようにすることでダメージを軽減する。 アザーバイドの腕を手元に引き寄せる動作に注意しながら、涼子は先程の攻撃を行った、颶風の腕を狙って素早く銃撃を繰り出した。 「さあ、踊って……くれる?」 天乃が流れるような動きで手を差し伸べるのと同時に、周囲に現れた気の糸が瞬時に巨人を締め上げる。 付近にいるE・エレメントも巻き込めると判断したフツは、符術によって擬似的に四神の朱雀を創り出した。 生み出された激しい炎が戦場一帯を包み込み、嵐を、風を、焼き払う。 ファウナも再び炸裂する火炎弾の雨を降らす事で、ストームブリンガー諸共E・エレメント達を薙ぎ払った。 回復が薄い以上、臨むのは短期決戦である。 反動を厭わず、肉体に限界を超えた力を発揮させた竜一が、渾身を超えた一撃をストームブリンガーへと叩き込む。 天乃と組んだアラストールは、周囲のE・エレメントたちの動きを妨害するように動きながら、巨人の腕の動きにも気を配った。 九十九はアザーバイドを中心に神秘の力を篭めた銃撃で一帯を薙ぎ払い、巨人と風精たちを攻撃してゆく。 「大きくて怖い顔して強いとか、まぁ分かりやすい奴ね」 小さく呟きながらアザーバイドへと距離を詰めた未明は、限界を超えた力を身に宿すと、振りかぶった鶏鳴を嵐の巨人へと叩き付けた。 ●風と嵐の化身 身体に風を感じながら、ユーヌはイーグルアイで周囲を観察した。 今のところは周辺で発生するE・エレメントたちの姿は無い。 離れた所に出現している個体もあるが、到着にはもう少し時間が掛かるだろう。 差し当たっての問題は、最初からこの場にいたエレメントたちだけだ。 「さて遊ぼうか?」 主に前衛たちに向かっている風精たちを効果範囲内に収めるように移動すると、ユーヌはエリューションたちを挑発するように力を向けた。 数体がまるで引き寄せられでもするかのように、彼女に向かって動き始める。 そのE・エレメントたちを巻き込むようにして、フツ、九十九、ファウナらが全力で攻撃を仕掛ける。 一方でストームブリンガーは、引き寄せていた別の腕を天へと掲げた。 一帯を撫でるように強力な風が吹き荒れ、その場にいる者たち全てを包み込む。 風はエレメントたちの動きを速め、リベリスタたちの動きを鈍らせようとした。 だが、鷲祐は自身を包み込もうとする風を抗する力で弾き、涼子、竜一、アラストールらもそれぞれの力で風の持つ力を消失させる。 吹き荒れる風に動きを鈍らされながらも、未明は果敢に面接着を使用してストームブリンガーの胴体へと着地した。 相手が動くことに加え水平という訳でもないので地上のようにはいかないが、少なくとも現状では……支えの無い状態で飛行するよりは、安定するような感じがする。 幾分かマシ、という程度かも知れないが、その僅かな差が勝敗を分ける事もあるのだ。 鷲祐も巨人の身体を足場代わりにするように移動し、狙いを定めると無数の残像を生み出す光速の斬撃をアザーバイドの腕のひとつを狙って繰り出した。 接近してきたE・エレメントたちをオロチの如き凶暴さで攻撃していた涼子は、風精たちがユーヌのよって引き付けられたのを確認すると、中折れ式の単発銃でアザーバイド単体への攻撃を再開する。 コンビを組む竜一はひたすらアザーバイドへの攻撃を続けていた。 限界を超えた力に肉体が傷付くことを厭わず、青年はひたすら宝刀露草を振るって嵐の巨人に斬撃を浴びせ続ける。 彼も面接着の能力を利用して、巨人の身を足場の一部として活用していた。 狙うのは鷲祐、涼子らと同じく巨人の腕のひとつである。 強烈な風で一帯を薙ぎ払う、颶風の腕。 ただ、狙う事は難しくなかったが……傷付いてはいるものの、動きの鈍る様子は無かった。 あまり拘り過ぎないように。 そう心に留めながら、竜一は巨人の動きに注意し、状況を確認するように涼子と声を掛け合う。 E・エレメントの動きに気を配っていたアラストールも、風精たちがユーヌに誘導された後はアザーバイドに専念する形になっていた。 ファウナの回復の射程から離れないように注意しつつ、巨人の動きに気を配る。 雷ならば一度に狙われないように間隔を開け、風ならば天乃が攻撃に専念できるようにとその身を庇う。 そして強力な雷によって動きを鈍らされた者がいれば、浄化の光で痺れを解く。 もちろん機会とあれば攻撃も狙う。 対して天乃はアラストールの援護もあって、唯、ストームブリンガーを狙って自身の全力を注ぎ込んでいた。 僅かな動作や腕の角度、風の音と肌で感じる風の流れ、空気の匂い、強化した五感を総動員して相手の動きを読み、それに自分の動きを重ね合わせる。 無数の気の糸をアザーバイドに絡みつかせ、オーラの爆弾を炸裂させる。 そして強烈な風に対しては状態を確認し、アラストールと庇い合う。 横合いからの不意打ちなどにも警戒していたものの、E・エレメントたちの多くはユーヌの側に引き付けられているようだった。 風精たちはユーヌに誘導されたところをフツ、ファウナ、九十九らの広範囲攻撃によってダメージを受け、その数を減らしていく。 だが、アザーバイド・ストームブリンガーは、リベリスタ達の攻撃を受けつつも健在だった。 ●世界の加護を受けて リベリスタたちの攻撃によって、戦場にいたE・エレメントたちの殆んどが倒され、アザーバイドも傷付いていた。 腕を破壊する事はできていないが、ストームブリンガーにかなりのダメージを与えた事は間違いない。 だが、アザーバイドは攻撃の手を緩める様子は無い。 戦いが続く中……ストームブリンガーから繰り出される攻撃は、強烈な風と直接的な物理攻撃が多くなり始めていた。 もちろん雷による範囲攻撃も行なわれはするものの、その回数は颶風と比べれば少なかった。 纏わりつくように接近する前衛たちを振り払う事を嵐の巨人は重視している。 少なくともリベリスタたちの目にはそう映ったのである。 時に庇い合い、時に分散することでダメージを減らし攻撃に耐えながら、涼子は傷んだ……それでも決して壊れる事のない、自分の武器を揮って攻撃し続ける。 限界は近づいていたが、それでも動くには十分だ。 限界を超えた力の反動で傷付いた竜一も、構わず攻撃を行い続けていた。 どちらにも余裕がない場合は率先して涼子を庇おうとも考えていた竜一ではあるが、自分の感情よりも優先すべきものがある事は知っている。 それが任務ではなく、涼子の意思であるということが如何にも彼らしいと言えるだろうか。 とにかく庇い合おうとして攻撃を逸すことのないように。 それに注意して声を掛け合いながら、竜一は自分の力を攻撃へと注ぎ込む。 「……動くな」 気の糸によって締め上げられたストームブリンガーの腕へと距離を詰めると、天乃は注ぎ込んだオーラを爆弾へと変質させた。 彼女に続くように接近したアラストールも、神気を帯びた祈りの剣を振りかぶる。 「我が剣は千の雷に通ず」 「……爆ぜろ」 アラストールの斬撃と同時に天乃の生み出した爆弾が炸裂したことで、ストームブリンガーの腕には大きな傷が穿たれた。 それでも、嵐の巨人は怯む様子を見せない。 ユーヌが呪いによって生み出された不幸の影を向け、フツも千兇の符によって創り出した無数の凶鳥でアザーバイドを取り囲ませた。 九十九は針孔を通すような精密射撃で、アザーバイドを狙撃する。 別のE・エレメントたちが到着する前にと、3人はストームブリンガーへと攻撃を集中させた。 一方でファウナは皆の戦闘継続時間の延長を図るべく、仲間たちへの癒しに専念する。 絶対に切らす訳にはいかない翼の加護は、余裕を持って既に重ね掛けを終えていた。 癒しの力を帯びたフィアキィたちが傷付いた者たちの周囲を舞い、その傷を癒し、消耗した力を回復させてゆく。 いざという時はファウナを庇う事も考えていた鷲祐は、少なくとも現状は問題ないと判断し、アザーバイドの撃破に総力を傾けた。 「ふっ、奴の嫁を傷物には出来んのでな」 運命の加護で凌がねばならない程の重い傷を負いながらも表情を崩さず未明を庇い、絞り出した最後の力を速さに、斬撃を振るう腕へと注ぎ込む。 未明も運命を手繰り寄せる事で身体に力を篭め、文字通り限界を超えた力で己の武器を振るい続けた。 攻撃を続けながらも腕の動きには注意し、雷が生み出されれば間隔を開け、風が生み出されれば再び庇えるように距離を詰める。 ファウナの癒しを受けても皆の傷は蓄積していったが、その速度は僅かではあるものの減じられていた。 何より大きかったのは、癒しと共にもたらされる消耗の回復である。 特に、強力なスキルを多用する事となった鷲祐とフツの攻撃力を維持するという点で彼女の癒しの効果は大きかった。 もちろん他の者たちへの効果も充分だったといえる。 もっとも……当然ではあるが、それでも皆の消耗は大きかった。 だが、その甲斐あってアザーバイドへのダメージも蓄積しつつある。 幾人かが纏う攻撃の一部を反射する力も、僅かではあっても確実に蓄積を増加させているのだ。 どちらも……限界には近づいているのである。 戦いは決着の時を迎えようとしていた。 ●流れの辿り着く……処 「ふわりふわふわ漂って、吹けば飛びそうだな?」 接近してきたE・エレメントたちを誘導しながら、ユーヌは挑発するように声をかけた。 傷付いた身体をフェイトで動かし、苦痛など感じぬようにいつもと変わらぬ調子で……少女はエリューションたちを引き付けるべく力を発動させる。 E・エレメントたちの殆んどが撃破され、アザーバイドの攻撃も前衛たちに向かう事が多かった事もあって……ファウナも酷い傷を負ってはいたものの運命の加護を得て、何とか持ち堪え癒しによって仲間たちを支え続けていた。 その癒しが無ければ、既に幾人かは戦線を離脱していた事だろう。 少なくとも確実に半数は、力を消耗し切り本来の実力を発揮できなくなっていた事だろう。 回復を受けてさえフツは力の多くを使い切り、既に接近戦へと移行していた。 九十九もファウナからの癒しとフェイトによって振り絞った僅かな力を用いて、ユーヌの誘導したE・エレメントへと銃撃戦を展開する。 回復が追い付かない事に悔しさを募らせながらも、ファウナは皆を癒すべく力をフィアキィたちへと注ぎ仲間たちの許へと向かわせ続けた。 「さすが……こうでなくちゃ、楽しくない、ね」 運命の加護で攻撃を凌いだ天乃は、造り上げた気の糸の結界でストームブリンガーを締め上げる。 それでも動きを留めぬ嵐の巨人から彼女を守るように、アラストールは位置を取った。 同じく運命の加護で限界を超えた身体を動かす竜一が、振り絞った力で更に身体を傷付けながら崩壊の斬撃を叩き込む。 まるで本当に像か何かのようにその身をひび割れさせながら、嵐の巨人は風を一帯へと巻き起こし続けた。 (風を巻き起こす存在。それはごく単純な本能なのかもしれない) 「だが、在るべきでないところにあれば、抗われるは必然」 (俺達が「人のうち」で平等でないように――) 鷲祐は、唯、己の速度のみに合わせて研ぎ澄ました刃を手に……再び空を、翔けた。 (だからこそ、在るべき場所へ帰れ) 「――お前の存在は、至極迷惑だッ!!」 文字通り雷光の如き閃きを残し、一刃がアザーバイドの傍らを翔け抜ける。 それを耐えたストームブリンガーが、引き寄せていた天雷の腕へと力を篭めた。 落雷のような音を響かせながら光を纏う、その腕に……涼子が突撃する。 直接さわる事で攻撃を引き付けられないか? できるなら、味方へのダメージを減らせるかもしれない。 そう考えていた彼女の動きには、逡巡は欠片も存在しなかった。 修練を積んだリベリスタ数人を打ちのめす力が、彼女のみに炸裂する。 それを根性で、運命の加護でかろうじて凌いで…… 「異界の空は楽しんだか? 風に溶け消えるまでサービスだ」 そこへユーヌが畳み掛けた。 アザーバイドの身は傷付きはしても、不浄の力を受け付けない。 だが、力は効果を発揮しないだけで失われる訳では無いのだ。 「縮切れ果てろ」 さようなら。 彼女の施した不運だけではなく、フツの与えた朱雀の炎が、天乃の呪縛が、存在すれど打ち消されていた力が、ユーヌの施す呪殺に共鳴し、嵐の巨人を傷付ける。 天乃の炸裂させたオーラの爆弾が、巨人の身に更に無数の亀裂を走らせた。 力を使い切ったフツが再び突撃し、その緋色の長槍をアザーバイドへと突き立てる。 幾度目になるだろうか? 限界を超え悲鳴を上げる肉体に力を篭め、竜一が必殺の一撃を叩き込んだ。 「いくら八面六臂だろうが所詮は一人! 一人で出来ることなんて限られてるんだよ!」 出来ない事を、する気はない。 だからこそ……出来る事は、絶対にやり遂げてみせる。 そんな想いを胸に、青年は握力の弱まりそうな腕に力を篭める。 ク破邪の神気を宿した祈りの剣を手に、アラストールが再び嵐の巨人へと向け踏み込んだ。 「台風を生み出すその力、まさに自然の驚異そのものですな」 九十九は変わらぬ調子で銃を構え、その狙いをアザーバイドへと向ける。 (出来れば、相手にしたくはないですが) 「まあ、そうもいかないんですよなー。ここで潰えて頂きます」 言葉と同時に放たれた無数の銃弾が、敵を薙ぎ払う鋼の嵐を一帯に巻き起こす。 「台風の季節ももう終わり、冬将軍にでも交代して頂戴」 ヴァンパイアとしての力か、ファウナの癒しか、それとも運命の加護によって振り絞ったものか…… 残されていた力を全身に巡らし、鶏鳴へと注ぎ込み。 アザーバイドへと取り付いた未明は、両手で握り締めたその一刀を振りかぶった。 「我が物顔で居座られちゃ困るのよ、いい加減消えて頂戴」 振り下ろされた刃が巨人の身体を砕きながらめり込み、そこから亀裂が拡がりはじめる。 どこか朧気だったアザーバイドの体がさらに色を薄くし、揺らぎ始めた。 巨人を足場にしていた者たちは、足元の何かが氷から水に変わっていくような感覚を味わいながら、宙へと放り出される。 羽ばたき姿勢を安定させたリベリスタたちが見たのは、空へと開いた穴へと溶けるようにして吸い込まれていく巨人の姿だった。 ディメンションホールに警戒する竜一や未明の心配をよそに、空の穴は巨人を吸い込むと急激に縮み、色を薄めながら……消滅する。 気が付けばリベリスタたちに向かってきていた風のE・エレメントたちも消滅していた。 先程まで嵐が舞っていた空は、今は穏やかで……遠くから風の音が響いてくるのみである。 周囲を取り巻いている黒雲もアザーバイドが退去した事で纏まる力を失い拡散し、やがては消えていく事だろう。 この世界の存在では無い嵐は……去った。 その事を確認したリベリスタ達は帰路に就く。 自分達が守り抜いた地上へと。 日常、という名の世界へと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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