●さかさまになった鬼子母神 「フィクサードを、倒して」 白の少女、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げた。 「目標の名前は渡部・望。リベリスタだった。少し前に、強力なアーティファクトに魅入られて、死んだ息子の幻に囚われたの。アーティファクトはアークの仲間が破壊してくれたけど、『息子』を奪われた彼女は理性を手放した」 髪を後ろで一つに纏めた女性の姿が、モニターに映し出される。 まだ健常であった時の写真なのか、少しの笑みさえ浮かべたそれにはなんの異常も見受けられない。 が、それが切り替わる。 画面の中の彼女は、イヴが視たものと同じ姿になった。 無表情であるのに、どこか鬼気迫るそれ。 「破壊自体に問題があった訳じゃないの。件のアーティファクトは『所有者』を『再生した過去』に依存させ、生気を糧とし力を蓄える特性があった。簡単に言えば呪いのアイテム。仮に破壊しなかったとしたら、彼女は衰弱死していたと思う。その上、リベリスタの力を吸いアーティファクトが力を付け、余計な騒ぎを引き起こす危険性があった」 だから破壊はそもそもアークの方針であった、と加えてから、イヴは少しだけ眉を寄せる。 「彼女はその際の襲撃がアークによるものだとは知らない。でも、『息子』を奪ったのは過去の自分と同じ様な活動をしている者――つまり、リベリスタだと判断した。リベリスタを誘き寄せるのに良い手段を、彼女は知っている」 何故なら、彼女もリベリスタであったから。 過去に自分が『リベリスタ』として止めてきた事象を、起こせば良いのだ。 無辜の人々を害し殺し異能の力で騒ぎを起こし、世界の崩壊を早めれば良いのだ。 小さな溜息。 「……想定外だったのは、深かった彼女の孤独。そして、そこに魅了の力を持って入り込んだアーティファクトの影響の多大さ。依存対象の喪失に、弱った彼女の精神は耐えられなかった」 ほんの少しであれば、支えともなりえたはずの追憶。 しかし、心の隙間をこじ開けて入り込んできた『日常』は、アーティファクトの効果と相俟って甘く甘く彼女を蝕み、思考さえも溶かし蕩けさせた。 彼女の無意識は『息子』は『フィクサード』ではなく、『リベリスタ』に狙われる存在だったのだと気付いているのに、それを思考する為の余裕がもう、ない。 何故、失ったはずの『息子』が再び己と共にいたのか。 何故、世界を守る『リベリスタ』が、己の『息子』を殺したのか。 エリューションによって殺された息子。革醒した自分。戦う日々。甦った『いつも』の生活。かけがえのない時間。失った者、失った物。憎む対象。狂った時系列。 本当の息子を失い世界を守る事を決めた彼女は、幻の『息子』を失い世界の敵となった。 「今度の日曜、近くの小学校が主催で、フリーマーケットが開かれるの。体育館。彼女はそこに現れる。無差別に殺戮を繰り返す。教師も生徒も母も子供も関係なく」 命の軽重に対する認識の差はあれど、世界の為に必要以上の犠牲を好まないのはリベリスタの思考。 世界を捨てた彼女に、もはやその枷は存在しない。 「本来ならばなんらかの理由をつけて開催を中止したい所だけれど、単に取り止めてしまえば彼女は別の機会を狙うだけ。狙いは派手に殺してリベリスタの注意を惹く事だから。人の少ない場所に、彼女は来ない。――だからもし、次回を万華鏡で捉え損なったら酷い事になる。だから、確実なこの機会に」 無数に殺戮を繰り返せば、いつかは行動パターンを読んだリベリスタがやってくる。 その中に、『仇』がいればいい。 そうでなければもっともっと殺せばいい。 死ぬならば死ね。 肥大した憎悪は、リベリスタだけではなく生きる人間全てに向かい始めている。 「彼女が現れるのは午後一時頃。現れ次第、体育館内の一般人は避難させて。避難誘導に向かわない人が、彼女の注意をどうにか引いてくれれば被害は極力抑えられるはず。……何をしでかすか分からないから、あまりにも煽り過ぎるのは勧めないけど」 アーティファクトにより引きずり出された、奥底に押し込めていた孤独。 それによって導き出された世界への憎悪。 彼女が以前、何の為に戦っていたのかは分からない。 自分のような者を再び出さない為であったのか、息子を殺した異能への復讐であったのか。 それはもう、彼女自身からも忘れられてしまった。 「……自分が大切にしていたもの。誰かが大切にしているもの。守っていたもの。守りたかったもの。愛も絆も憎悪も恨みも、全てが混ざった彼女に、マトモな説得は一切通じない。彼女の理論は既に支離滅裂。それでも、戦闘時における冷静な判断力は残っている。厄介」 イヴは目を伏せる。 「彼女は元からずっと、憎かったのかも知れない。大切な者を奪った世界と運命が」 モニターの中で、イヴの視た女性は無表情で教師の首を掻き切り、頭を蹴り飛ばし、子を抱き逃げようとする母親を炭と変えている。 行動自体に無駄はないのに、目はどこも捉えていないように見えた。 小さな口の動きが、彼女が唱え続ける言葉を表す。 呪文のように、幾度も幾度も繰り返される。 ――なんで私の子供は死んだのに、お前らは生きてるの。 わたしのこどもをかえしてよ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月31日(日)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●潜入、下準備 ――渡部・望。三十四歳。七年前にエリューションの襲撃により一人息子であった五歳の『雄太』が死亡。リベリスタの尽力により彼女自身は救助される。直後に革醒し、自らを救ったリベリスタの組織に加入。夫も生存していたが、一般人であった為に別れ一人暮らしをしていた。六月某日、アーティファクト『エンドレスリピート』に魅入られていた所を『アーク』に補足される。所有者にも世界にも危険性があると判断されたアーティファクトはリベリスタによって破壊されたものの、深くのめり込み依存していた望自身は精神のバランスを崩し失踪。以後消息不明。 アークによる調査書の内容を思い返し、『福音の銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は小さく溜息を吐く。シスター服を纏った彼女は、近くの教会から来た有志のボランティアという事で自作の腕章を付け会場に紛れ込んでいた。 親子で作ったと言うクッキーなどを眺めながら、彼女の精神は周囲へとくまなく巡らされている。多くはイベントにはしゃぐ喜びであり、今の所は負に属する強い感情の接近は感じられない。 杏樹と付かず離れずの位置を保ち、『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)も警戒を怠らなかった。子を失った悲しみは理解できなくもないが、同じ思いを他人に与えて良い理屈にはならない。見回した体育館の中。平和な親子、教師。誰一人とて死なせない。 その思いは少し離れた場所で待つ『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)とて同じ。辛い事を味わったという事は、言い訳にも免罪符にも成り得ないのだから。 杏樹と国子が通過したステージ近くの壁際には、二人の少年少女が立っていた。 「ふ、う、と、くーん。はい、これ」 「うん?」 『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の声に顔を上げた『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)の掌に落とされたのは、一つの指輪。挙げて見せた嵐子の左手薬指にも同じものが光っている。『恋人らしさ』を演出するちょっとした小道具として準備していたらしい。 「なるほど、すまないな望月」 「やだな風斗くん、嵐子だよ」 「あ、ああ、すまない、嵐子」 思わず素で答えてしまった風斗に、嵐子が指を立てれば少しばかり目を泳がせながら改めて名前を呼び直す。周囲からは充分に初々しいカップルとして映った事であろう。 『恋人ごっこ』は順調だ。ああ、実に順調だ。何も問題はない。 常の通りの無表情でやり取りを眺めていた『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)はくるり背を向け、手作りのダンボール看板を持って二人とは反対側へ歩き出した。 そんなうさぎと目すら合わさず、『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)がすれ違う。 杏樹と同じくあちらこちらと眺めてはいるが、特に彼女の興味を引くものはない。 「っと」 一瞬注意を余所にやった隙に、机の下を抜けてきた少年がぶつかってきた。 あ、と口を開く少年をじっと見詰め、こじりは口を開く。 「貴方、お母さんは好き?」 「え」 怒られると思った瞬間に放たれた質問に、少年はもごもごと言葉を濁らせた。笑みを浮かべるわけでもなく向けら続ける視線と沈黙に、少年の表情が歪む。無言のプレッシャーを破ったのは、当の母親。ぶつかった事を詫びる母親にこじりも簡単に返し、再びあてなく体育館を歩き出した。 息子への愛。それを失った事による寂しさ。それは、誰か他の人では支える事ができなかったものなのか。憂い顔をなるべく隠しながらも、『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)が眉尻を下げる。文が傍を通りがかった時には、既にうさぎの手品ショーの周辺には人垣ができていた。 「さて、前の人は後ろの人にも見えるようにちょっとしゃがんで下さいね」 懐中電灯で描いた光の軌跡に合わせて描かれていく絵。正真正銘、タネも仕掛けもない神秘。だが、神秘に触れていない人々にとっては『神秘』を模した『手品』にしか映らない。 「変わった出し物をやってるんだね」 何気ない調子で声を掛けるのは『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)だ。少し見てきたけど面白かったよ、ちょっと覗いてきたらどう、等の言葉を投げ、『手品』に気付いていなかった人々の興味をそちらに向けた。 食い付きが悪ければ、色の付いた硝子の奥、黒い瞳で見詰めながらこう紡ぐ。 ――面白いよ、行こう。 ただの言葉でしかないはずのその台詞は、彼の視線と絡み密やかな『命令』と化し更に人垣を増やしていった。 杏樹がゆっくりと体育館を二週程した頃に、『それ』は現れた。 怖気立つ様な混濁。恨みに憎しみ、狂乱する悲哀。それが異様なまでに整った凪である矛盾。 『来ました』 取り急ぎうさぎに仕草で伝達し、他の仲間にも方角を伝える。 普段児童が使うのであろう、学校の渡り廊下に繋がる屋外への出入り口。杏樹が感じるどす黒い感情は、そこに最も近い。 これはリベリスタにとって好都合であった。最も大きい正面の出入り口を避難に使える上に、その正面玄関から最も遠くに位置する扉であったからだ。 うまく風斗と嵐子の方を向いてくれれば、あるのはステージのみ。一段高いその場所にも人はいるが、それでもバスケやバレーのコートの上にビニールシートや机を置いている人々よりは格段に少ない。 合わされる視線、小さな声で囁かれる退路の確認、大物を描くと正面玄関付近へ人々を誘導するうさぎ。 ゆらゆらと揺れる感情は、既に人の形としてそのまま視認が可能な所まで近付いていた。 ●接触、炎上 子供の学校のイベントを見に来た母親。 それ以外の何者にも見えない、誰にも見咎められない姿で渡部・望は体育館へと足を踏み入れた。 見咎められるとしたら、室内靴や裸足ではなく土足で上がった事程度であろうか。 感情が抜け落ちた表情でゆっくり、望が視線を体育館内に向ける、その瞬間に――。 「お前は!」 「あの時の!」 傍で上がった声に、望の動きが止まった。 振り返る仕草が、滑らかな人形の様であった。 一月半程前に風斗に見せた揺らぎは、もうその目にはない。揺らぐものさえない虚ろ。それに思う所はあれど、今は出せない。嵐子とて行った事に間違いはないと信じてはいるが、そのトリガーを引いた事実と後始末はつけねばならないと感じている。 「ああ……。あなたたち、」 だからこそ、望の唇から漏れた声に、恋人同士であった二人が『リベリスタ』の目へと変わる。一部が事実で一部は嘘。だが、望は気付いた風もない。 彼女にとって大切なのは――憎き仇と『偶然』出会えたという事実なのだから。 無表情であった望の顔に、笑みが刷かれる。 「死ね」 挨拶も前振りも躊躇もなく望は手を横に振るい、二人を中心に凄まじい炎を吹き上げた。 思わず目を細めた風斗であったが、熱気に肌を炙られた感触以外に痛みはこない。 彼を庇う様に、小柄な嵐子が立っていた。 「大丈夫、風斗くん!?」 「嵐子! 下がれ、お前は傷付けさせはしない!」 巻き付く炎を千切り気遣う嵐子を自身の背後に押しやり、風斗は望を睨みつける。 そんな二人を、望はどう思ったのか。 かわいそうに。ころしてやる。 薄い笑みを刻んでは戻る唇から放たれた言葉からは、それすらも、分からない。 轟音と驚愕の悲鳴の間隙に響いたミカサの手拍子に気付いたのは、果たして何人いたか。 「火事です! 皆さん落ち着いて避難して下さい!」 「――押さない駆けない喋らない! みんな、避難訓練を思い出せ!」 手でメガホンを作った杏樹が声を張り上げ、知らずに仕込まれた催眠により年配の教師が子供らの背を押して行く。 「一番大きい入り口に行ってねー!」 「はいはい、急いで急いで」 うろたえて違う出口に走りそうになる人々の近くを、国子が走りながら誘導する。うさぎが行列を流す警備員の如く、手品に集まっていた人々を横の入り口から外へと送り出す。 その間も、望の攻撃の手は休まらない。 「無辜の人々に害をなすのは、見逃す訳には行きません」 極普通の青年として紛れ込んでいた『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が割り込むように二人の『恋人』の傍に現れた。刃を振る青年の動きは、酷く早い。 「そうだな、邪魔させて貰うぜ」 同じく只管時機を窺っていたラキ・レヴィナス(BNE000216)がそこに並ぶ。ステージ上の一般人は大体が降りているが、まだ全部いなくなった訳ではない。ステージよりも望が入って来た扉に近い場所へと一旦身を落ち着けた。 向いた視線は一瞬。 望の目は、二人にしか注がれていない。 逃す訳にはいかない、殺さねばならない『仇』はその二人なのだから、他にかかずらっている余裕はない。 ところで、幾ら手段を綿密に整え、迅速に行動したとして、相手が人間である以上は何らかのイレギュラーは常に発生する。その対象が子供であれば尚更に。 足止め役として望と相対していたこじりが次の攻撃に備えた瞬間、緞帳の影から飛び出してきたものがあった。残る一般人は望の背後に位置している上、避難の為に動いているのもあり、広範囲を荒れ狂う雷撃が来てもよっぽど運が悪くなければ当たらないだろう。 だが、この子供は望からも確認できる位置に飛び出てきてしまった。 ステージ横で遊んででもいたのだろうか。避難の声に今まで気付かなかったのか。面倒臭い子供だ。 思いながらもこじりの足は止まらない、滑り込む様にして小さな姿へと伸びた雷の手を己の体で防ぐ。 「お、おねえちゃん……」 「……あら」 雷撃に耐え、肩越しに視線だけ投げたこじりの目に入ったのは、先程ぶつかった少年だ。 ――これも運命(フェイト)の導きってやつかしら? 戯れとばかりに愚にも付かぬ事を思いながら、こじりは前に向き直る。 「け、が、」 「平気よ。それより、そこにいると邪魔」 蹴り出す様にしてこじりが押し出した少年を捕らえたのは、残る人々を運んでいた国子の腕。 「はいはい、お姉ちゃんと一緒に外に行こうね!」 望に何らかの刺激を与える事を危惧したのか、お母さんが探してたよ、と囁く声を聞いたのは恐らく最も近くのこじりだけ。自慢の脚力を生かし、国子は望の注意が己と少年に向く前に床を蹴った。 ●声。声。 避難誘導に奔走したリベリスタが、全員戦場へ舞い戻るまでに要したのは一分弱。 前に立つものが囮となった二人を時折庇い、また攻撃を惹き付けるべく立っているとは言え、カルナの止む事がない歌声は、肌を撫ぜる柔らかな風は、風斗と嵐子が立ち続ける大きな原動力となっていた。 幾度目かの攻撃で与えた傷を癒されているのに気付いた望が、蝿を見るようなうっとおしい目付きをカルナに向けるが、彼女の攻撃範囲から微妙に離れた少女に攻撃は飛んでこない。炎が焼き、大鎌が刃を振るうのは二人とその周辺だけだ。 刃を重ねてしばし、『二人を殺すには周囲も邪魔だ』と認識した望が目を細める。 「皆、構えて」 流れる気を感じ取り、杏樹が注意を促した。一定以上の力を有した術師が操る強力な魔曲。 幾つかの案件で報告されているそれを警戒し、皆が己の身を守った直後――戦闘の間に流れ出ていた望の血液が無数の鎖となり、リベリスタを飲み込まんばかりの波と化す。 鎖に身を擦られ、素早いそれに肌を裂かれ、流れ込む毒素に幾人かが身を苛まれる。 「邪魔しないで。死ぬの。死ね。みんな死ね。殺してやる」 「……身内を奪った世界を憎悪するか」 鎖に武器を絡め取られた『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が、口を開いた。俺と同じだな、と呟かれた言葉に望の瞳が向く。 「――だが、俺はリベリスタだ。世界の敵へと堕ちる気はない」 「そう」 赤い髪を指先で撫でて、望は微笑んだ。 「でもね、世界はあなたがどちらに立とうが奪うだけよ?」 優希の頬を両手で挟み、慈母の如く優しく、優しく。 「……あなたが、あなたの愛した人のために戦うように、わたしは、わたしの愛する世界の為に戦う!」 「ああ。じゃあ死ね」 文が黒いオーラを放ちながら精一杯張り上げた声。血を撒き散らしながらも簡潔に返された言葉。敵意しか含まないそれにも、普段臆病な少女は怯まない。 何故なら、彼女はここで止めねばならないからだ。小さな体一杯に詰め込んだ使命感と、一杯一杯の勇気。母の愛が、多くは見返りを求めない。文が言う愛も、恐らく似たようなものなのだろう。 優希に一瞬だけ焦点を合わせた望の瞳は、またふらり宙を彷徨いだした。 当初こそ防戦気味であったリベリスタだが、避難に専念していたものが戦線へと入り、攻勢へと転じればそれも変わる。 「お母さんがお参りに来るのを待ってるだろうに、いつまで雄太君を一人にしておくの?」 「ひとり。一人。そうね。誰が一人にしたの? 誰? 殺してやる。お前らがいるから、お前らが生きているから」 嵐子の前に立ち塞がった国子が、望を見つめて告げる。雄太、と動いた唇は、しかしリベリスタへの憎悪しか吐き出さない。 「ええ。憎めばよい。不公平だと。ですが失う苦しみを知る貴女なら、奪う者に対する抵抗がどれだけ強いかも分かるでしょう?」 「奪ったのはお前ら。だから死ね。殺してやる」 自身へも痛みを返す爆弾にも無表情なうさぎに返るは、やはり無表情。差異と言えば、うさぎは瞳の奥に様々な感情を浮かべるのに対し、望の瞳は虚ろだという事。 重ねられる言葉に返るのは、ただただ敵意と憎悪と殺意。 「……倒すしかありませんね」 溜息と共に孝平が吐き出す。青年の刃が腕を裂いた。 ラキが鋭い攻撃を繰り出しながら叫ぶ。 「そんなに息子が愛しいならば、お前が逢いに逝きやがれ!」 途端。 「――あ」 望が立ち止まった。呆けた様な表情で、少しの間。 完全に無防備になった望に、杏樹の放った弾丸が抉りこまれる。望が膝をつく。 ほんの僅かな沈黙の後、漏れ出したのは笑い声。 「ああ。そうか。そうね、そうね、雄太。雄太、ごめんね、ごめんね」 両腕で膨れ上がる炎。 轟音。 何度目かの炎が焼いたのは、リベリスタではなく望自身。 炎の舌に全身を舐められながら、尚も笑っている。 炎が治まった後、攻撃を受け続け傷だらけの風斗が、ゆっくり近付く。彼女によって為された殺人に、自分自身はカウントされるのか否か。傍らに膝をついた少年に向け、焼けた腕がゆるりと動いた。目を見開いた風斗の耳に届いたのは、微かな声。 ――ごめんなさいね。 その謝罪はリベリスタに対してだったのか、それとも幻覚の息子に対してだったのか。 問うにも既に彼女から生命の火が消え去っているのは明らかであった。 カルナの指先が、祈りの印を組む。 「狂ってしまった愛情への、最期の救いと成り得たでしょうか」 「……せめて、安らかに」 目を閉じた文の声が重なる。 乗せる者のいない救急車の音が、近付いてきた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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