●スコットランド・ヤード 炎はまるで生きているかのようにあたりを蹂躙し、無慈悲に建物を破壊する。体力の低いものから床に倒れ、動けなくなれば容赦なく命を奪っていく。 「警部! 水が足りません!」 「第六班以外の手の空いている者は救助に回れ! 消火よりも一般人の保護を第一目標にしろ!」 そんな火事の中、一組の革醒者組織が声を張り上げていた。リベリスタ組織『スコットランド・ヤード』のチームである。彼らは『警部』と呼ばれる男を中心に組織的に火災の中で人命救助にいそしんでいた。 「警部! 飛行系神秘の使用許可を!」 「一般人誘導のときのみ使用可だ! ただし記憶操作班との連絡を密に取れ!」 「やはりアークを待つべきだったのでは? 人手が圧倒的に足りません!」 「馬鹿もん! 悠長に援軍を待ってれば死人はもっと増えておったわ! それに俺は日本人が嫌いなんだよ。次女が日本人の男と結婚して英国を出て行ってからな!」 ほぼ八つ当たりのセリフと共に『警部』はパイルバンカーを構える。大きな音と共に打ち出された杭が、施錠されたアパートメントの扉を破壊する。中には煙にまかれて動けなくなっている人たちがいた。付き添っていた『警部』の部下達はその無事を確認すると、肩に抱えて安全な場所に移動する。一息ついたところに新たな通信が入ってきた。 「警部! ビル内部でにアンノウン・エリューションと接触! 戦況は非常に不利です! 応援を求む!」 「分かった、すぐ行く!」 そして『警部』が向かった先には既に事切れた部下と五体のエリューション。その姿は異様としか表現できなかった。例えるなら全身が炎に包まれ頭と腹部に顔がある猿、といったところだろうか。もっとも普通の猿は尾が蛇のようにはなっていないが。 「……くっ! 件の複合エリューションの類か……!」 最近、新たなタイプのエリューションが最近ロンドンを荒らしているという。今までとは違う存在に、戦力的にも情報戦的にも遅れを撮っているのは事実だ。 その奇妙なフォルム。見る人が見れば、こう称したであろう。 キマイラ、と。 ●ロンドン 「日本で観測されたキマイラの改良種が倫敦で動きはじめた」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と説明を開始する。 「キマイラを作っていた六道紫杏がバロックナイツのジェームズ・モリアーティの元に着き、モリアーティの助言の元にキマイラを改良した。日本で戦ったキマイラよりも強い個体が確認されている」 通信機から聞こえるイヴの言葉を聞きながら、リベリスタは歩を進める。ここは霧の都ロンドン。現地のリベリスタ『スコットランド・ヤード』の協力で人払いは既に済んである。目の前には炎上するアパートメント。その中にキマイラがいるという。 「キマイラの数は五体。 『万華鏡』の範囲外のためキマイラの個体情報はこちらでは予知できなかった。『スコットランド・ヤード』のフォーチュナの情報のみになる」 『スコットランド・ヤード』の予知情報が幻想纏いに転送される。色々不明瞭だが、それでもないよりはましか。 「最優先目的は『キマイラ』の打破。彼らはこの火災を生み出している。早急な対処が必要」 キマイラ。この単語を知るリベリスタは少なくない。かつて日本で跋扈したエリューション研究。それにより生み出された兵器。それが外国の地で生まれ変わり暴れているのだ。 因縁深きという意味もあるが、単純に神秘による犯罪が行われている。これを討つのはアークのリベリスタとしての使命だ。 「なお中に『スコットランド・ヤード』のリベリスタが一人、そして逃げ遅れた親子がいる。可能ならそちらの対処もお願い」 イヴからの通信を聞きながら、リベリスタは今だ燃え盛るアパートメントに足を踏み入れた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月15日(金)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 燃え上がる炎が熱風を生み、焦げた匂いが不快感を生む。そんなアパートメントの中をリベリスタは駆け上がっていた。 「警部がキマイラに取り囲まれてるわ。前に三体、背後に二体。母子は警部の足元」 『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が瞳に魔力を篭めて、アパートメントの中を見渡す。逃亡防止を兼ねての包囲網。少し厄介ね、とシュスタイナは眉をひそめた。 「やることは変わらないわ。皆を救う。その手間が少し増えただけ」 ガスマスクをつけて煙から肺を守りながら『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)がシュスタイナの報告に答える。アークの目的は『キマイラ打破』であり、そこで戦うリベリスタと巻き込まれた母子の命は含まれない。それでも氷璃は救うと言う。 「ああ、絶対に助け出す。キマイラに食わせてやる義理はないぜ」 古参のリベリスタから受け継いだ古ぼけた盾の具合を確認しながら『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が目的を再認識する。『生かしたがり』のエルヴィンにとって、まだ生きている命を放置する選択肢はない。 「まだ助けられるなら、放って置く手はないよね」 エルヴィンの意見に同意するように『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が首肯する。キマイラと交戦した記憶はないが、瑞樹の中にある『別の記憶』がその所業を覚えている。命を命と思わぬ六道紫杏の所業。その犠牲になどさせやしない。 「アークです! 助太刀に来ました」 キラッ、とポーズをつけて『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が五階にたどり着く。見た目と言動こそ軽いが、心中は助けられなかった命への悔いが占めていた。ヤードのリベリスタに黙祷を捧げ、ナイフを構える。 「アークじゃと!? 女子供は奥に引っ込んでおれ!」 終の言葉に反応するダニエル。アークのリベリスタが驚いたことは、その日本語が流暢だったことだ。言語の壁を考えていた彼らはその事実に面食らう。だがすぐに平静を取り戻し、それぞれの位置に展開する。 「お姉ちゃんは子供じゃないのよ、アーチボルトちゃん」 青色のフィアキィを呼び出しながら『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)がダニエルの言葉に応えた。言葉こそ厳しいが、こちらを心配しての発言なのは分かる。小さく笑みを浮かべて銀色のポニーテールを揺らし、ルナは魔力をこみ上げる。 「国や組織は違えどリベリスタの志は同じだ」 白の腕輪をはめながら『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)がキマイラとそこで交戦するダニエルを見る。政治的な思惑こそあろうが、神秘の事件から一般人を護ろうとする姿勢は同じ。分かり合えぬことなどあろうものか。 「排除のお手伝いも、吝かではないのです……おじいさん、無茶してるみたいですしね……」 透き通るような西洋剣を手に『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が呟く。着ているゴシック服が熱風にあおられてふわりと揺れる。その瞳は人形のように虚ろだが、その中には確かな戦意と強い決意が秘められていた。 突然の援軍に、キマイラたちは一糸乱れぬ動きでリベリスタに構えなおす。こちらを敵と認識したようだ。 炎が巻き上がる。轟音が戦場にいる者の耳朶を叩く。 その音を合図に、革醒者たちは床を蹴った。 ● 「倫敦を舞台にヤードと蜘蛛の巣の戦い! ここでオレ達がホームズにならなくて誰がなる!」 最初に動いたのは終だ、真っ直ぐにキマイラに向かって進み、ナイフを振るう。右足で踏み込むと同時に右手のナイフが。そのまま左手のナイフを跳ね上げるように振るう。ナイフを纏う冷気が、キマイラを氷に包む。 「あと少しなのに……!」 終は倒れている母子に視線を向ける。可能なら一気に助けに行きたかったのだが、キマイラに体が邪魔をしてそちらまで手が届かない。ダニエルに声をかけて連携すれば何とかなりそうだが、母子が生きていると判断されればキマイラはそちらを攻撃しかねないのだ。 「……仕方ありません……私が気を引きます……」 リンシードは透明な剣を掲げ、その切っ先をキマイラたちに向ける。キマイラの眼前を掠めるような剣技で相手の怒りを誘い、矛先を自分に向けるように挑発する。全てとは言わないが、その行動は功を為した。刺すような殺気がリンシードを貫く。 「大丈夫、です……今のうちに、早く」 炎熱を持った爪が振るわれ、炎の舌がリンシードを襲う。リンシードの瞳がその全てを捉え、そして動く。迫るかぎ爪を剣で払い、吹き荒れる熱波を半身ずらして避ける。圧倒的な速度と、冷静な判断力。避け切れなかった炎が、わずかに肌を焼いた。 「たった一人で応援に向かうだなんて無謀な人ね。よそ者に頼らない姿勢には好感が持てるけれど」 氷璃がダニエルに言葉をかけながら、呪文を詠唱する。呪文の短縮、魔法陣によるブースト、それらを生み出し操る氷璃自身の魔法技術。それらが並の魔術師にはできない詠唱速度を生み出し、そして呪文を完成させる。黒の魔力がキマイラを襲う。 (……スコットランド・ヤードの部下にも母子にも、不自然なところは見られない……となるとおそらくは) 戦いながら氷璃はフィクサードの気配を探っていた。日本におけるキマイラ戦でも、リベリスタの戦いを観察するフィクサードの存在は確認できた。現場にいるなら部下に偽装しているのかと思ったが、違うようだ。となればおそらくビルの外からか。 「アークだ、助太刀させてもらうぜ」 終とリンシードがキマイラを押さえている隙間をぬって、エルヴィンがダニエルの元にたどり着く。盾を構えてキマイラの攻撃に備えながら、回復の息吹を放つ。ダニエルとリベリスタの傷の痛みが引いていく。 「回復手は後ろに下がっとれ! 前におったら狙われるぞ!」 「生憎と頑丈にできてるんでね。心配無用だ!」 エルヴィンは意識だけで母子の存在を確認する。視線で母子の生死を気づかれてはいけない。おそらくダニエルもそれを知って孤軍奮闘していたのだろう。どこにでも頑固親父はいるものだな、と思いながらエルヴィンは息を整えた。確かにここは最前線。集中砲火は免れない。 「邪魔だな。悪いがどいてもらおう」 伊吹は城の腕輪を外し、投擲する。あまりにも自然で、かつ素早い動作。放たれた腕輪はキマイラの頭を穿ち、そして伊吹の元に戻る。流れるような動作で伊吹はさらに腕輪を放つ。キマイラはその衝撃に耐え切れず、後ろに吹き飛ばされた。 「そなたがここの指揮官であろう。倒れられては困るのだ」 「余計なお世話だ、若いの。この程度の相手に引けは取らん!」 伊吹はダニエルに退くように伝え、それを断るダニエル。無意味なように見えて、この会話に意味はある。キマイラを吹き飛ばし道を作った理由を、キマイラに悟らせないようにするためだ。 即ち『母子を救うために吹き飛ばした』と思わせない為に。 誰に? キマイラの後ろにいる人間に。 「お姉ちゃんも道を作るよ! ディアナ! セレネ!」 ルナは二体のフィアキィを展開させながら、魔力を寝る。ディアナとセレネ。ボトムチャンネルのそれとは違う魔術が形を成す。圧縮された炎が解き放たれる。キマイラの炎すら凌駕する爆風は、ルナの意志をくむように味方を避けて荒れ狂う。 「今がチャンスよ! 遅れたぶんを取り戻しましょう!」 『魔力増幅杖 No.57』を振るい、ルナが叫ぶ。ここからが反撃とばかりに皆に活を入れると同時に、全員の怪我の具合と戦況を確認した。最後列から仲間を癒し、時にキマイラにダメージを与える。それがお姉ちゃんの役割だ。 「負けてられないわね」 ルナの魔力に対抗するようにシュスタイナが黒翼を広げる。自分の周りに魔力を展開させ、魔法陣を敷く。魔力の精度を研ぎ澄まし、矢のように放つ為の土台。燃え盛る炎にも負けぬほどの熱量が、陣の中で渦巻く。 「私に倒されること……ありがたく思いなさい?」 言葉と共にシュスタイナの魔力が研ぎ澄まされる。例えるならそれは黒の槍。敵を討ち滅ぼす魔力の矢。シュスタイナの意志が向くと同時に魔力は放たれ、矢は細かく砕けて黒の弾丸となり、キマイラに突き刺さる。 「一気に攻めるわ」 手袋をはめ、ハンドガンを手に瑞樹がキマイラの眼前に立つ。キマイラの足止めをしながら、ハンドガンの銃口をキマイラに向けた。とっさに反応して体を動かすキマイラ。その動きに合わせるように銃口はゆらりと動く。 「たくさん口があっても、使えないなら幾つでも同じってね」 瑞樹の銃口を払いのけようと爪を振るうキマイラ。その一撃を護符を内部に含めた手袋で受け止め、銃口を突きつける。呪術を篭めた弾丸はキマイラを吹き飛ばし、低温でその動きを封じる。 ここに至ってキマイラは気づく。リベリスタがダメージ重視ではなく、キマイラを吹き飛ばすことを主眼としていることに。 終が母子に迫り、力を振り絞って何とか後衛に運ぶ。シュスタイナと氷璃は近くの窓から母子を抱えて飛び出し、階下のスコットランド・ヤードの元に送り届けた。神秘に翻弄された命を救ったリベリスタたちは、一息つく。 だがキマイラは今だ健在で、一時的だが二人が欠けた状態だ。 命を二つ救うために発生した不利な状況。炎は今だ燃えあがる。 ● 「任せたわ」 氷璃とシュスタイナが母子をスコットランド・ヤードに渡し、戦場に戻ろうとしたときに異変に気づく。二体のキマイラが窓から顔を覗かせたのだ。 飛行速度に優れる氷璃はすぐに戦場に戻れたが、シュスタイナはキマイラが窓から顔を覗かせたとき、まだ飛んでいる最中だ。放たれる炎が空中で回避行動の取れないシュスタイナを襲う。 「まずい……!」 体力的にも劣るシュスタイナは、叩きつけられる炎に意識を失う。運命を燃やして意識を取り戻し、ふらふらになりながら戦場に戻ってきた。 「大丈夫? お姉ちゃんが癒すから」 「何とか……戦況は?」 ルナからの回復を受けながら、シュスタイナが問いかける。一般人を地上に降ろして戻ってくるまで数十秒。大きく戦局が変わるものではない。が、 「面倒な連携を取ってくるぜ」 エルヴィンが光を放ちながら口を開く。光は前で戦う終とリンシードの炎と麻痺毒を払いのけるもの。尻尾の毒と口から放たれる炎が、じわじわと前衛の足を止めていた。 「厄介ね。傷ついたら前衛後衛をスイッチする。集中砲火をさせてくれないわ」 瑞樹がキマイラの動きに臍を噛む。不吉の月を生み出しキマイラ全てに不運を告げる。広範囲の攻撃は自然と命中精度が落ちる。だがそれをもってなお命中させるのは龍(オロチ)に深化した故か。 キマイラは流動的に動いていた。前衛の三体が炎と麻痺毒を与えながらじわじわと前衛を苦しめ、傷の具合によっては後衛に離脱。後衛は炎を吸い込み大きな攻撃を仕掛けようとするものと、安全圏から炎を吐いて後衛を苦しめる物に分かれていた。 奇しくもそれは、二人×四列のリベリスタの布陣に似ている。狭い廊下の中、最大限に人数を配置しながら相手を後ろに通さない。傷ついたものが後ろに下がり、ダメージの浅いものと交代する。 「アーチボルトちゃんも癒すわよっ!」 「『天使』って名前嫌いなのよね」 ルナとシュスタイナが癒しに回る。ラ・ル・カーナの癒しの術とボトムチャンネルの癒しの術。ルナの癒しが自然の風なら、シュスタイナの癒しは優しき歌。シュスタイナ自体は名前を嫌うが、そこに含まれる仲間への思いはルナと変わらずその名に恥じぬ行為。 「まるで訓練された革醒者のようね。ようね、は不要かしら」 氷璃はキマイラの極大攻撃を警戒して防御の構えを取る。攻撃の手数がその分減るが、生き残るには賢明な判断だ。事、氷璃の体力は高くない。判断を間違えれば力尽き、攻撃そのものが潰えてしまう。 そして空気を吸い込んでいたキマイラが激しく咆哮を上げた。それに共鳴するように炎が勢いを増し、生き物のように荒れ狂う。炎嵐の中、リベリスタは必死に意識を保とうと気力を振り絞る。 そして最前線で矢面に立っていた終とリンシードは今までうけた傷も含めて、まともに受ければ立ってられないだろう。だが、 「悪いな坊主、俺は日本人が嫌いなんだよ。お前まで庇う余裕はねぇ」 「……ダニエル、さん……!」 リンシードを庇ったダニエルが、彼女の分まで大火を受けて崩れ落ちる。 「おおおお、おっさん無理すんな!」 運命を燃やして耐えた終が、慌ててダニエルの体を抱えて後ろに下がる。戦って勝つことよりも、誰もが死なないこと。終は死を渇望しながら、それゆえか生命を重要視する。 終とダニエル。空いた二人の隙間を埋めるように瑞樹とエルヴィンが前衛に入ってきた。 「ありがとう警部さん」 一つ礼をいって瑞樹は素早くしゃがみこみキマイラの足を払う。足を刈られたキマイラがバランスを崩し、そこに瑞樹は気の糸を絡めて、その動きを封じた。 「国は違えどもリベリスタってか」 キマイラの吐く炎も尻尾の毒も、エルヴィンの盾には通じない。それは誰かを護りたいという強い意志と、努力の結果。炎と麻痺毒で足止めをするキマイラの戦略が、この瞬間瓦解する。 「なるほど。腹部の口は酸素取り込み口か」 伊吹がキマイラの口を狙い、破界器を投擲する。煙により狙いにくい状況だが、それ以上の集中力で狙い、その口を穿つ。明らかに火力を減じたキマイラは、恨めしそうに咆哮を上げた。 一進一退の攻防。しかし流れは、次第にリベリスタ側に傾いていく。 複数をいっせいに攻撃できる後方射撃。前衛の氷による行動阻害や光の武技が生む幻惑による同士討ち。様々な不調に加え、不吉の月による全体の呪縛攻撃。酸素取り込み口を封じる精密射撃。 高い攻撃力とそれに伴う炎で対抗するキマイラだが、リベリスタを支える回復層が攻めきるには至らない。そして回復手段の欠落ゆえ、じわりじわりとキマイラは追い込まれていた。一体が倒れれば、あとはつられるように次々と数を減じていく。 「行きなさい、リンシード」 「はい、氷璃お姉様……これで、決めます」 氷璃の声に促されるように、リンシードが黒のドレスを翻して駆ける。刀身に光を纏わせ、ただ一直線にリンシードは床を蹴る。とん、と跳躍し体ごと回転するように『Prism Misdirection』を振るった。 一閃。あまりの速さに、キマイラが認識できたのはただそれだけ。 大上段から振り下ろされた剣に体を裂かれ、最後のキマイラが力尽きた。 ● 「警部の部下さんも家族の所へ帰してあげなきゃ」 という終の言葉に促されて、リベリスタたちはスコットランド・ヤードの遺体を抱えてアパートメントから脱出する。キマイラがいなくなったことにより炎は治まりつつあり、もうしばらくすれば鎮火するだろう。 「……お疲れさん」 エルヴィンはダニエルに握手を求める。ダニエルも大怪我を負っているのだが、それを感じさせないほど強くエルヴィンの手を握った。 「たいした実力だった。おかげで助かったぞ」 日本人とそこの組織が嫌いでも、助けてもらった礼は返す。個人的意見で礼節を忘れるような人間ではなかった。 「貴方の行動、尊敬するわ」 「協力ありがとうございます」 シュスタイナと瑞樹が頭を下げて礼をする。自分のできることを精一杯する勇敢な人。それに敬意を表しての礼だ。 「いや、おぬし等の行動こそ尊敬されることだ。あの状況下で一般人を救おうなどとはな」 アークの機転と作戦がなければ、母子は炎の中力尽きていただろう。下手をすれば自分の命が危うい状況での作戦。実力だけではなく、その精神まで鍛えられているということか。ダニエルはアークの傭兵達をそう判断した。 「日本も悪くないですよ……次女さんと会ったらどうです?」 「そうよ。日本にきたらお姉ちゃんが案内してあげるから」 「いや! アイツのほうから頭を下げて来るまでは日本には行かん! 絶対にな!」 リンシードとルナがダニエルに日本渡航を勧めるが、頑なにそれを拒むダニエル。これに関しては誰が言っても同じだった。 (父親とは寂しいものよな) 伊吹はそんなダニエルを見て静かに思った。娘を持つ父親として、共感できるところもある。伊吹の娘は反抗期だが、いずれ嫁いでいくのだ。ならば喧嘩のできる今のうちが幸せなのだろうか。そんなことを思う。 (娘夫婦を本当に憎く思っているのなら、娘が嫁いだ国の言葉を喋れるまで学ぼうとは思わないでしょうね) 氷璃は誰にも気づかれないように、こっそりとため息をついた。 ダニエルが流暢に日本語で会話できる理由は、まぁそういうことなのだろう。男とはかくも面倒なものか。 日本に帰り、事件に関わったリベリスタは『スコットランド・ヤード』から一つの連絡を受ける。 リベリスタが助けた母子が意識を回復したのだ。救出が早かったこともあり、後遺症などは見られないと言う。 さすがに神秘関連の記憶は消すことになるが、今後の生活に影響はないようだ。住む所が燃えた為、しばらくは夫の実家で過ごすつもりだとか。 箱舟が救った二つの命。それは今日も生き続ける―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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