●悪即斬 「お兄様! 無事だったのね。本当に生きて帰って来れてよかった……」 芽衣香が戻ってきた兄の安倍行哉を見つけるなり走り寄る。二人はすぐに駆けよって抱き合った。お互いの無事を心から喜びあってしばしの想いを馳せる。 行哉はフィクサードの『隠密御庭番衆』に連れられて家を出ていた。これ以上妹や他のリベリスタ仲間に迷惑をかけないためにわざと距離を置くことを決心した。 誰にも頼らない強さを身に付けたかった。リベリスタを止めてもっと強い力を持つ者と行動することでその力を得られると思った苦渋の決断だった。 「お兄様、大変。すぐに怪我の治療を致しませんと――それにお顔がすごく赤く腫れていらっしゃいますわ、私に見せてください」 芽衣香は行哉の頬がものすごく腫れていることに気がついた。急いでハンカチで傷を抑えようとすると行哉がすぐに妹の手を制して言った。 「いいんだ、芽衣香。この傷は治療しなくても。むしろ一生このままでもいい。俺は間違っていたことをこの痛みで気づかされたんだ。もう二度と迷わないために」 行哉は頬を大事にさすりながら答えた。他ならぬ先日の戦いでアークのリベリスタ達に助けて貰って己が間違っていたことを悟った。芽衣香も詳しい事情はよく聞かなかったが、きっと大切な人に説得されて戻ってきたんだろうということくらいはわかった。とりあえず兄の治療をするために一旦他の仲間がいるお寺へ戻ることを提案する。 「芽衣香、すまない。俺は――」 「お兄様はアークに行くつもりなんでしょう?」 行哉は驚いて妹の顔を見た。芽衣香はにこやかな笑顔を作って得意げに答える。 「俺はアークで仕事をすることを決めた。これまで多くの人たちに迷惑をかけてきた。どうしても会ってお礼をしたい人がいる。約束をしたまま守れていないのもある。俺はもう自分で全てを背負うことは止めた。仲間を信じてあの人たちと一緒に戦いたい」 行哉は自分の想いを全て妹にぶつけた。その目はこの間まで誰の為の力と迷っていたフィクサードの行哉ではない。自信と決意に満ちた一人のリベリスタの目だ。 「それじゃ、もうこれでお別れですね。お兄様は早く逝ってください」 芽衣香は懐に隠し持っていた脇差しを行哉のわき腹目がけて思いっきり突き刺した。 一瞬、行哉は何が起きたのか分からなかった。鮮血が辺りに大量に飛び散って頭の中が真っ白になった。芽衣香は不敵な笑みを浮かべて今まで怪盗で変装していた姿を解く。 そこには芽衣香とは似ても似つかない、ダンダラ羽織に誠の文字を染め抜いた『新撰組』の男が立っていた。隠れて見ていた険しい目つきの左利きの大男が本物の芽衣香を伴って陰から出てくる。芽衣香は手足と口を縛られていて身動きが取れなかったが必死に行哉に逃げるように目で促していた。行哉は自分が騙されたことを知って歯を食いしばる。 「安倍行哉、不様だな。どうだ、実の妹に刺されて死んでいく気持ちは?」 「……斉藤一。まだ……生きて、たのか?」 「貴様らとは潜ってきた修羅場の数が違う。あんな見よう見まねの小娘の突き如きではこの俺の刃突は倒せない」 「よくも騙したな。芽衣香を返せ……。俺が、この命に代えてでも……芽衣香だけは」 「今のお前に何が出来る? 返してほしくば奪い返しに来い。もし誰か他の連中が現れたならお前の大事な仲間を悪即斬の元に復讐の天誅をくだしてやる」 ●最後の望み 「祇園の花街にフィクサードの『新撰組』が現れたわ。奴らはリベリスタの安倍芽衣香を拉致して旅亭に潜伏した。すでに地元の京都のリベリスタ達が応援に駆けつけて激しい戦闘を繰り広げている。一刻も早く駆けつけて救援に向かって欲しい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が厳しい口調で資料から顔を上げた。ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に情報を的確に伝えていく。 フィクサード『新撰組』は幕末の志士たちの生まれ変わりを自称している剣士たちだ。京都の覇権を手中にしようと勢力を拡大させている。彼らは自分達に向かう敵をすべて悪即斬の元に切り捨てていた。これまでにアークとも何度か交戦したが、まだ決定的な打撃を彼らに与えるまでには至っていなかった。 今回は地元のリベリスタの安倍芽衣香が『新撰組』によって拉致された。それを助けようと地元のリベリスタ仲間が祇園の旅亭に押し入ったが、逆に返り討ちにされてしまい、彼らの圧倒的な強さにほとんどが玉砕してしまった。 「とくに安倍君は死ぬ覚悟で突入したみたい。彼だけは激しい乱戦の中に巻き込まれてどこにいるのか予測できなかったわ。もしかしたらもう彼は生きていないのかもしれない――彼は突入の前に遺書を書いて送ってきたわ。お世話になったあなたに向けて。一刻も猶予がなかったみたいね。紙には血がべっとりと付いている」 蘭子はそう言って安倍行哉の遺書をリベリスタ達に手渡した。 遺書の中で行哉はもし自分が助けることができなかったら芽衣香をよろしくと短く書かれていた。最後にみんなと一緒に働くことができなくて残念です――とお土産の寺名物の最中が同封されてあった。 「彼は突入の前に最後の望みをかけてアークを頼ってきたのね。彼も本当はアークの到着を待ちたかったんだけど芽衣香ちゃんや仲間を助けるために我先に突入した。とにかく状況は一刻の猶予もないわ。以前よりも狼たちは強力に成長している。現場には舞妓や客たち一般人も大勢いる。気をつけて行ってきて。一人でも多くの命が救えるように」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月16日(土)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●あの日の約束 「こうして実際に相対するのは初めてだな、新撰組局長・近藤勇」 鋭い双剣の切っ先を『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が壬生の大狼に突きつけた。近藤は余裕の笑みで振り返る。まるで長年待っていた宿敵の男がようやく現れたとでも言うように。 近藤は屈強な身体に大きな双剣を纏っていた。ダンダラ模様に染めた誠の文字が屈強な胸筋の前で威圧感を放っている。 「まさかあの弦真の孫と相まみえる時が来るとはな――最後に奴と戦ったのは忘れもしないND時の動乱の京都だったか」 近藤は宿敵だった弦真の面影を拓真の姿に見出していた。あの時代に最強と謳われた誠の双剣が現代に蘇って近藤の前に現れたのである。 「誰も死なせはしない。貴様が剣に掲げる誠、今日この場で見極める」 拓真はこれ以上人々を傷つけると容赦しないと断固とした態度で近藤にガンブレードで迫った。付き人の隊士と近藤を撒きこんで激しい銃弾の雨を降らせる。敵が後退した隙に『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)がすぐに庇いに入って中で奮闘する賀茂璃梨子と真田菊之助達に声を掛けた。 「よく耐えて下さりました……此処からが本番です!」 シエルが両手を翳して回復を施す。璃梨子と菊之助はシエルの力強い言葉に勇気づけられて息を吹き返した。すぐに背中で護っていた一般人を伴って敵のいない道へ離脱しようとする。シエルがその前に立って隊士の攻撃を牽制する。 隊士が刀を振りかぶってきたがシエルは身体を張って食い止めた。縦横無尽に切り裂いてくるがシエルも必死の形相で盾になって防ぐ。 すでに旅亭の中でもリベリスタや一般人が隊士たちに襲われていた。早く突入しなければ彼らの命が危ない。拓真にシエルに『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)を残して救助に向かうリベリスタたちは旅亭へ突入して行く。 「拓真、負けるなよ」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)がすれ違う一瞬に声をかけた。拓真は目で頷いた。悠里も薄く口元を緩ませただけですぐに背を向けた。 頼もしい大きな相棒の背中が旅亭の中に消えて行く。何も言わなくてもお互いの気持ちは分かっていた。あとは任せたぞと心の中でお互いに呟いて。 「土方歳三さんですか。この度は私がお相手させて頂きますね。生憎私は強くありませんが弱くも御座いませんよ」 残った慧架は長い髪を颯爽と揺らして土方の前に立ちはだかる。金剛陣を使用しながら両拳を前に突き出して敵の動きをけん制した。 土方は慧架の姿を見て不敵な笑みを零す。 「君のような美人な女性に手を掛けるのは実に惜しい。だが、我々の敵として立ちはだかるのならば悪即斬の元に誰であろうと斬り捨てる」 土方は無数の不可視の刃をリベリスタ達に放つ。まるで全てを切り裂くかのような激しい攻撃に晒されて慧架達は苦しむ。だが、一般人が避難しきらないうちには絶対に攻撃を通させるつもりはなかった。慧架は土方の一般人への攻撃の射線を塞いで必死に髪を振り乱して食い止めた。 ●回り道 「んじゃま、サーチしよっか」 突入後すぐに『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が千里眼を使って旅亭の中の状況を探る。一刻の猶予もない為に走りながら漆黒を解放する。すぐ隣を一緒に走る『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)も険しい表情を見せていた。 安部くんの家族も目標も未来ももうこれ以上何も絶対に奪わせない―― これまでに壱也は何度も行哉を助けてきた。どんなに困難な状況に陥っても壱也は最初の約束の通りに必ず行哉を救い出してきた。 行哉はついにアークに行くことを決意した。壱也はようやく行哉が決断してくれたことが嬉しかった。安倍くんの夢を応援する。そして、今回も必ず行哉を救って必ず無事に帰ることを胸の内に秘めていた。 葬識はそんな心配そうな壱也の表情と内心を思ってイラついた。誰にこの怒りをぶつけていいのか分からず一層腹が立つ。 「羽柴ちゃん、回り道してもいい?」 敵が多い場所を事前に察知して葬識は索敵手段を持たない壱也を誘導する。葬識の目的は一刻も早く壱也を行哉の元に連れて行くことだった。 「ありがとう! 助けに来てくれたのね」 庭に差し掛かったところで安倍芽衣香がこちらに向かって逃げてきた。後ろから隊士たちが刀を振り上げながら襲い掛かってくる。 芽衣香は真っ直ぐにリベリスタたちに歩み寄ってきた。応援に駆け付けたリベリスタに安堵して頬が緩んでいるように見えた。 「気を付けて!」 『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が味方に向かって叫んだ。エネミースキャンで解析すると紛れもなくレーザータクトのスキルを持っていた。もちろん本物の芽衣香はフォーチュナだ。 「絶対、皆を助けてみせます! そんな姑息な手には騙されません!」 『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)がやってきた芽衣香に扮装した隊士に突然刀を振りかぶった。 斜め上から胸にかけて愛刀の東雲を軽やかに捌いて斬る。巧みな手の動きで刀を扱ってさらに下からも切り返して斬り捨てた。 後ろに本物の芽衣香が隊士3人に囲まれて今にも操が奪われようとしていた。シルフィアが気づいてその方向を指す。 「あっちに本物の芽衣香ちゃんがいるわ!」 シルフィアは手を振りかざして一条に荒れ狂う雷を敵に投げ放つ。巻き込まれた敵が怯んだ隙に悠里が芽衣香の前に割って入った。 「大丈夫、君のお兄さんは壱也ちゃん達が守ってくれるから」 悠里はすぐに芽衣香の縄をほどいた。背中に隠しながら迫ってくる隊士たちの剣を己の拳で食い止める。群がってくる敵を一人で引きつけながらその隙に壱也と葬識たちが脇をすり抜けて次なる場所へと進んで行く。 「かかってこい、偽物の新撰組! 僕が相手になってやる!」 すぐ傍には逃げ遅れた一般人がいた。そちらに隊士たちが気を向けないように自分に敵の意識を集中させる。案の定、ニセモノの呼ばわりされて頭に血が上った隊士たちが刀を振り上げて一斉に斬りかかってきた。 「全員を救う為にここに来たんだ! ボクがここで倒れるわけにはいかない!」 隊士たちはトドメを刺そうと斬りかかる。悠里は咄嗟の動きを見抜いて左手で敵の刀をガードする。ガラ空きになった鳩尾に思いっきり右手の拳を叩きこむ。 身体の重心を乗せた鉄拳に敵は血を吐いた。さらに後ろから隊士が斬りかかってくる。今度は反転するとそのまま身体の回転を利用して脚で刀を蹴りあげた。空いた顔面に向けて思いっきり鉄拳を突き刺す。 電気を纏った拳が刀を砕いた。敵の顔が強張る。その瞬間、悠里の拳が刀を通り越して隊士の脇腹を貫いていた。 「芽衣香ちゃんは危ないから安全なところへ」 「私も連れて行ってください。お兄様が心配なんです!」 敵を殲滅させたが、まだ向こうから一般人たちが庭に雪崩こんできていた。もしかしたら敵が紛れ込んでいるかもしれない。仕方なく悠里は絶対に自分の傍を離れないことを条件にしてまずは目の前の一般人の避難誘導に向かう。 ●俺達の正義の為 廊下を抜けて大客間に入ると2人の敵が暴れていた。一般人をまるで玩ぶかのように刀を振りかざしながら血しぶきの雨を次々に降らせている。無抵抗な人間が新撰組の餌食になって命を落としていた。あまりの惨劇にシルフィアも怒りを込める。 「貴様らは一体何の為に剣を振うんだ?」 「俺達の正義の為――悪即斬だ」 「悪即ち斬る……シンプルだが、その正義そのものが悪だと気付かぬか?」 隊士たちは刀を振りかぶって威嚇する。シルフィアは黒い魔力の大鎌を呼び出して敵に向かって斬りつけた。 自分たちの刀よりもさらに大きな獲物で攻撃されて顔を顰める。立て続けに斬られて一般人を襲うどころではなくなった。 逃げてきた一般人を注意深く観察しながら本物だと悟るとすぐにシルフィアは避難誘導に従事した。自分たちが通ってきた安全な道へと庇いながら導く。 葬識は行く手を阻まれて暗黒で敵を覆い尽くした。壱也が渾身の力で敵を吹き飛ばして自分は先へと進んでいく。 大客間を抜けると下に続く暗い階段が現れた。葬識は無言で壱也に頷いた。 行哉が居る場所はそこしかない。 だが、目の前には一人の青年剣士が姿を露わしていた。 「ここを通させるわけにはいかない」 低い声音で脅しをかけたのは永倉新八だ。 葬識がまず凶悪なハサミを突きつけた。呪いを纏った獲物を振って永倉に斬りかかった。ハサミが永倉の身体を切り刻んで傷を負わせる。その隙に壱也が階段を突破しにかかった。慌てて後ろから永倉が攻撃を繰り出そうとする。 「壱也さん、行哉さんを頼みますね。必ず救ってください!」 セラフィーナが前に躍り出て東雲を突きつけて永倉を足止めした。 「ありがとう、セラフィーナちゃん。安倍くんは必ず連れて帰るから」 壱也はお礼を行って階段の下に消えた。本当は行哉を助けに行きたかった。 セラフィーナにとっても行哉は大切な友達であり仲間だった。 だからこそ今回は壱也を信じて自分の役割を果たす。 「さあ、貴方の相手は私です。まさか、新撰組が1対1の勝負から逃げませんよね?」 永倉は本気の目をしていた。同じフライエンジェのソードミラージュとして負けるわけにはいかない。妖刀の村雨を抜いてセラフィーナに突きつける。 先に動いたのは永倉だった。物質透過でセラフィーナの後ろに先回りする。気がついたセラフィーナは何とか後ろを向いたがわずかに敵の方が早かった。 一瞬のうちに強烈な一撃をセラフィーナが襲った。重くてそして軽やかな斬撃を食らって体中を痛めつけられた。 「どうした? 自慢の愛刀がそれでは泣いてるぞ」 お返しとばかりに永倉が今度はセラフィーナを威嚇する。傷ついたセラフィーナはようやく刀を強く握りしめていた。 「速さだけじゃない、本物のアル・シャンパーニュを魅せてあげます!」 セラフィーナの目は闘志に燃えていた。すぐに永倉も瞬撃殺の構えを見せる。二人は同時に跳躍した。空中で剣撃を交える。激しい撃ち合いが始まった。 見るも鮮やかな空中戦。 飛びかかりながら何度も互いに交錯した。セラフィーナはついに上をとることに成功した。機を見て二人は同時に自身の必殺技を繰り出す。セラフィーナと永倉は互いに東雲と村雨を繰り出した。 光沫が飛び散るような刀の一撃が永倉を先に捉える。華麗な東雲の刺突に貫かれて永倉は力を失ったように階段の下に激突した。 ●誠の隅にも置けない 行哉は地下牢に閉じ込められていた。その前に一人の隊士と斉藤が待っていたかのように厳しい視線で振り返った。壱也は行哉を見つけるなりそのまま斉藤に向かって斬り込んで行った。殺気だった攻撃に斉藤たちは間一髪のところで避けたが、かわりに壱也がその圧倒的な破壊力で地下牢に大きな穴を開けた。 隊士がその隙に壱也に挑みかかって背中から斬る。身体を切り裂かれて苦しい表情を見せたが壱也ももう一度振りかぶって敵を弾き飛ばす。 急いで行哉の元に駆けつけた。 「よく頑張ったね、あとで褒めてあげる。自分を必ず守って。じゃないと他人は守れないよ。妹は仲間が助けに行ってるから安心して」 行哉はすでに大量の出血をしていた。すでに顔色が悪い。言葉を絞り出すように壱也に問いかける。 「私を信じて。絶対に安倍くんの未来も夢も家族も失わせない。安倍くんがアークに来て一緒に戦えるの楽しみにしてるんだから――だから私は必ず助けるの」 「俺も、壱也さんと一緒に……戦いたい。俺は必ず……ごほほほっほ……」 行哉は血を吐いて咽た。壱也はしっかりと行哉を背に庇った。そして戻ってきた斉藤に向かって容赦のない言葉を突きつける。 「誠の隅にも置けない、ふざけた新撰組ごっこは今日で終わり」 「なんだと?」 「あんたがわたしの何を知ってるのよ、馬鹿にしないで」 壱也は斉藤を存分に詰った。ついに斉藤は左手で刀を平突きの構えにした。狙いを澄ましたように鋭い剣先を壱也の方へと突きつける。 刃突を繰り出して壱也はとっさに避けた。辺りが白い煙に包まれて壁が崩れ落ちる。さらに続けて斉藤はその圧倒的な破壊力で次々に壁に穴を開けた。 壱也もその幅広の凶悪な程の破壊力をもつ羽柴ギガントの刃を水平にする。 重心を低くして右手を大きく後ろに引いた。そのまま上体を倒すように羽柴ギガントを斉藤の刀目がけて撃ち放った。 壱也と斉藤が交錯する。激しい刃突の撃ち合いによって辺りが爆風に包まれた。辺りが粉々に吹き飛び壁がついに崩壊する。 あまりの衝撃で二人とも壁に飛ばされて激突した。壱也は壁に激突してなかなか起き上がれない。先に壁の穴から出てきたのは斉藤だった。 「貴様良くも俺の刀を――」 斉藤の刀は根元から折れていた。羽柴ギガントの強烈な一撃に堪え切ることができずに斉藤の刃は欠けてしまった。 「羽柴ちゃん、俺に捕まって!」 葬識がようやく後ろからやってきた客間の敵を蹴散らして壱也の救出に向かう。すでに壁やら天井が崩壊してきていた。このままでは建物の下敷きになる。傷ついた壱也を背負って葬識は階段を一気に駆け上がった。 「安倍くん!!」 斉藤は倒れた行哉を担いでニヤリと笑うと崩れ落ちる建物の陰に消えた。 ●未来を斬り拓く為に 旅亭の表で戦っていた土方は慧架に鬼殺しを発動させた。縦横無尽に当たり構わず斬り裂いてくる。慧架は咄嗟の判断で全力防御の構えを見せた。 あまりの破壊力に吹き飛ばされそうになるが、慧架は堪えてなんとか踏み留まる。お返しに慧架は土方の胸元に飛び込むとそのまま連続で鉄拳を繰り出した。 「私は自分を正義とは言いませんが悪ともいいません。ですが私は貴方たちを正義とは思いません。だから私は私のやり方をやります!」 反撃を食らった土方は血を吐いて後退する。すでに双方とも満身創痍だった。だが、慧架の方はシエルがついて適宜危なくなると回復を貰っていた。 「大なる癒しよ……在れ」 シエルは傷ついた仲間に偉大なる癒しを授ける。 「私の動きも考えも貴方がたの予想通りなのかもしれません……されどいちいち怖気づく位なら癒し手は務まりませぬ」 シエルは微笑を絶やさず最後まで詠唱を止めなかった。土方の刃に襲われても自分がこの戦線を保つ鍵となっている以上、絶対に回復の手を緩めない。 余裕はまだ土方の方があったが回復がないのはそろそろきつくなっていた。このまま長期戦を続けても新撰組の方には何もメリットはない。 「漸く抜いたか、近藤勇」 拓真が双剣で斬りかかったところを近藤が咄嗟に刀で受け止めていた。これには刀を抜いた本人が驚いたように目を瞬かせる。 「俺に刀を抜かせるとは――いいだろう。俺の奥義を見せてやる」 近藤は一度刀を鞘の中に仕舞った。そして腰を落とし前傾姿勢を保って両手を身体の前でクロスさせる抜刀術の構え。 「行くぞ! 双剣式九吠狼翔閃!」 近藤が突進して拓真の急所に九連撃を叩きこんだ。近藤が目にも止まらぬ速さで双剣を撃ち込むと拓真は斬り刻まれて地面に後ろにから突っ込んだ。 拓真は満身創痍で立ち上がる。剣筋は見えていた。だが、あれほどの早さと力強さで剣を捌くには余程の修行の鍛錬があったのだろう。 ひとかどの剣士が己が技を極め、昇華した奥義。 だが、負けられなかった。双剣を扱う者として。 何より我が祖父、弦真の志を継ぐ者として! 「我が双剣に誓った誠は誰にも負けない! 明日を…・・・未来を斬り拓く為に!」 拓真は双剣を懐に刺して抜刀術の構えを見せた。近藤が驚いて戸惑った瞬間、身体で受けて覚えた剣筋の通りに拓真は双剣を抜刀して撃ち放つ。 九つの斬撃が近藤の身体を襲った。その瞬間、近藤は身体を抑えて蹲っていた。 「驚いた……まさか同じ技をこれほどの完成度で瞬く間に撃ち返すとは」 近藤はさすが弦真の息子だと感心せざるをえない。ただ、まだ拓真の双剣の使い方にはムラがあって奥義を取得するまでに至っていなかった。 近藤は先読んで拓真の半数の攻撃を交していた。完全に油断していたとはいえそれがなければ近藤はノックアウトされていてもおかしくなかった。 「どうやら時間切れらしい。今度会う時までに鍛錬と修行を欠かさずにしておくんだな。貴様を殺すにはまだ惜しい。次またその成果を見せて貰おう。万が一見込みがなければ今度は本気で貴様――『誠の双剣』を殺す」 近藤は拓真に言い捨てて撤退した。AF通信で崩壊した建物からすでに生き残っていた隊士たちが脱出したとの情報が入っていた。 中で戦っていたリベリスタも戦いを中断して外へ脱出していた。 拓真達も崩壊する建物の入り口からあふれ出てくる一般人の救助の手伝いに向かった。悠里たちが芽衣香を伴って危機一髪の所で脱出してくる。 「あれ? 安倍の姿が見当たらないようだが?」 拓真はいるはずの行哉の姿が見つからないことに気が付いてまさかと思った。 「行哉さんは、そんな……そんなことって」 セラフィーナが顔を覆ってその場に蹲った。 「斉藤に拉致された。生きているかわかんない」 壱也はそれだけを口にして後はずっと唇を噛んで俯いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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