下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<黄泉ヶ辻>きっと明日は明るい筈で

●リ=ク=るーと
 何でも無い日おめでとう。
 逸脱記念日おめでとう。
 と、あれから何度祝った事だろう。もう『黄泉ヶ辻糾未』と呼べるモノなんて居ないのにね。食われて崩れて後はもう、火を点けてしばらくたった線香花火みたいに、ボトッと地面に落ちるだけ。
 メラメラ燃える煙草を咥えている。廃墟の遊園地の、かつてはヒーローショーか何かをやってたんだろうステージの真中に腰かけて。
「おぉ~い阿国ちゃ~ん」
 そんな男を呼んだのはボロボロのウサギの着ぐるみ――おそらくこの遊園地のマスコットだったんだろう――を着た男一人。誰もいない客席に立って、楽しそう~に手を振りやって来る。
「よ~ぶんひっつぁん、なにそれうさちゃん?」
「うんうさちゃん。拾った系。中身湿っててカビだらけで超臭いわ」
「でもあったかそうだなー毛皮。いいねいいね~ちょっとこっち来てよ」
「いいよ~来たよ~」
「もっと近く」
「行くよ~来るよ~」
「はいそこ。そこにいて。ね、そこにいて後ろ向いて」
「向いたぞ~」
「うんありがと」

 ばーんばーんばーんばーんばーん。

 それは一瞬。ウサぐるみの後頭部が後ろから零距離でブチ抜かれる。弾丸。拳銃。悲鳴も無く倒れたウサギと、弾倉が空になった銃をぽいっと捨てる男と。
「あのねぇ。俺ねぇ。もう普通の人間になろうと思う。飽きちゃった。もう飽きちゃった。普通に普通な感じで生きたいもんね。平凡でさぁ……何気ない日常にこそ幸せはあるんですよ的な? 結局はそういうオチじゃん? でしょ? だから俺は普通の人になるの。ありがとう。今までありがとう。楽しかったよ。凄く楽しかった」
 ふーーーーーー。溜息。顔を上げた。客席。人影。笑う。炎の子分を造りながら。
「そう。だからさぁ。普通の人になりたい訳じゃん? 普通の人は殺人なんかしない訳じゃん。見られたらヤバイ訳じゃん。だから証拠隠滅しないとね? 大丈夫――死ぬ一歩手前まで火で焼いたら、首を絞めて殺してあげるよ。一人一人丁寧に」
 そういえばここってばヒーローショーとかやってたんだろうね。
 丁度いいね。
 俺ヒーロー役な。お前等悪役! 
「俺の安寧の為に死ね! うけけけけ~」
 めらめらめらめら。


 それは日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の閉鎖主義集団。主義も思想も謎、それ故に気味が悪い『気狂い集団』で名を馳せている異色であるが故に何処からも腫れ物扱いされている組織である。
 黄泉ヶ辻に関する事件だと、ブリーフィングルームにて『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は伝えた。
「黄泉ヶ辻糾未――かの黄泉ヶ辻の首領、黄泉ヶ辻京介の妹さんですな。彼女は誰よりも狂った兄を慕い、誰よりも狂おうとして、数々の凄惨な事件を引き起こし……その果てに、かのバロックナイツであるウィルモフ・ペリーシュのアーティファクト『憧憬瑕疵』にまで手を出してしまいまして」
 それは正に、災厄を具現化したような危険なモノ。悪意しかない恐怖の産物。それに手を付けた糾未は、アシュレイ曰く「そう長くはもたない」そうだ。
 そんな彼女が引き起こした、数多の事件。
 それに携わっていたフィクサードと、それが殺したフィクサードが死体となって蘇ったEアンデッドの存在を、予見したのだとメルクリィは言う。
「皆々様に課せられたオーダーはフィクサードの撃破及びEアンデッドの討伐。……御油断なく。何をするから分からないからこそ、彼等は『黄泉ヶ辻』と呼ばれているのですから」
 どうか、御武運を。そして終止符を。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月11日(月)22:22
●目標
 フィクサードの撃破(生死捕縛問わず)
 Eアンデッドフェーズ2『ブンヒツ』の討伐

●登場
『パイロさん』阿国シュタール(あぐに・-)
 火を見ているととても心安らぐ。燃えるモノを見る事が大好きな痩身の男。武器は大振りなソードブレイカー
 火炎無効を活性化
・アーティファクト『プロメテウスの不腐骨』
 腐る事の無い脂身に巻かれた骨のアーティファクト。シュタールの体内にある。
 炎を操る能力を持ち、100%以上ヒットでランダムで火炎、業炎、獄炎状態になる。
 この炎は不殺である。この炎によって引き起こされた火炎系BSでHPが0になっても死亡しない。
 1T溜める事でEエレメントフェーズ1『メラメラ』を3体作り出す事が出来る
・Exカグツチフリーズ:火炎、呪縛
・Exホムラグヒ:アーティファクト由来。火炎系BS状態の対象のみに有効。火炎系BSを解除する代わりにHPを大きく吸収する。

Eエレメントフェーズ1『メラメラ』
 小さな人型の炎。火炎系BS無効、直接触れる(近接攻撃の100%以上ヒット)と火炎BS状態になる。
 開始時の個体数は3。
・弾ける炎:遠範、火炎
・火を吹く:近単、業炎

Eアンデッドフェーズ2『書字中毒』ブンヒツ
 ビーストハーフ×クリミナルスタアだった男。ウサギのきぐるみを着ている。理性はない。頭部が無いから。
 アーティファクト『ペンは剣よりも強し』(防御に優れたボールペン)を所持。
 怒り、混乱、魅了無効。拘束系BSによる行動不能制限は受けないが、速度と回避とDAが落ちる。

アザーバイド『禍ツ妃』
 戦場を無数に飛び交う漆黒の蝶。全て合わせて1体。アーティファクト『憧憬瑕疵<こえなしローレライ>』そのもの。
 これは『喰らう者』であり、結界、強結界、及び陣地作成の様な構築タイプのスキルは全て喰われてしまう。
 一定範囲で予知に対するジャミング能力を持つようだが、現在その力は弱体化している様だ。

●場所
 廃墟の遊園地、ヒーローショーやらをやっていたのであろうステージ。
 開戦時、敵は舞台に、PCは客席にいる。
 時間帯は日中。空が真っ白い曇り。

●STより
 こんにちはガンマです。
 じょぶちぇん。
 宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ダークナイト
逢坂 黄泉路(BNE003449)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
デュランダル
ルー・ガルー(BNE003931)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
覇界闘士
片霧 焔(BNE004174)

●ヒーローショーってこの歳で見ると小恥ずかしいけどワクワクするね
 前略。「俺の安寧の為に死ね! うけけけけ~」めらめらめらめら。
「貴方がヒーロー?」
 真っ白い空の下。灰色の廃墟の中。凛然とした赤は『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)。笑わせないで欲しいものね。柳眉を寄せる。方舟と黄泉ヶ辻が向かい合うそこは朽ちた舞台。ヒーローショーの面影は無い。
「って言うか歴代戦隊ヒーローとかに謝りなさい。ダークヒーローにも失礼よ――コホン。
 ……逆に告げるわ。私達の安寧の為にココで燃え尽きなさい、阿国!」
 咳払いを挟んだものの堂々と言い切り、乙女の拳に灯すは炎。チビッコ達の歓声で賑わったのだろう客席を蹴り、凸凹のそれに脚を取られる事なく勢い良く飛び出した。燃え尽きるのも悪くないかもと阿国は馬鹿笑いしていた。
「普通の人間に戻るだと? 飽きちゃったから?」
 それを見、『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)はニコヤカな糸目に露骨なまでの嫌悪を表す。
 舐めるなよ神秘風情が。
「呼吸するだけで日常を侵犯する分際が、何を抜かすのか。世界が恩寵を与えているとしても、僕は許しません」
 抜き放つ日本刀、大般若。身体のギアを引き上げて、神魔遍く掃うべし。
 異形と、異形の様な人間と。まだ生きて居たんだな、と闇の武具を展開する『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)が呟く。尤も、ブンヒツは阿国に殺されたが。
「最後に顔を合わせたのは一年近く前か……まだ技を理解しきっていない。その技、失われる前にもう一度拝ませてもらおう」
 話の通じない相手。「何と、言いますか」。複雑な表情を、水無瀬・佳恋(BNE003740)は浮かべている。あのフィクサード達と刃を交えたのは半年ほど前か。あの時は楽団の騒動が終わり、親衛隊の魔の手が伸びる前。
「以前戦ってから、随分と時が経ったように思えます」
 感傷、と呼ぶには少し違う。ただ少し、今までの戦いの軌跡が脳を過ぎっただけ。それをもう少し探ってみるべきかもしれないが、何はともあれ。
「この戦いを終わらせてから、ですね」
 初手。闘気を纏う佳恋の一方、『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)は水を被る。火災対策、無いよりマシだ。冷える。冷ややかな、眼差し。
「馬鹿じゃないの? ……ああ、知ってた」
 普通になる為、人を殺す。そんな人間が幸せになれるとでも?させるものか。
「何気ない日常に幸せがある。それは道理だな。だが普通の人間として日常に身を置いたとしても、いずれは飽きて捨てるのだろう?」
 平和の価値も命の貴さも解らぬものを野放しにできるものか。赦すものか。させるものか。傷だらけの武装手甲を構え、飛び出したのは『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)だった。
「ここで駆逐してくれる!」
 声を張り上げる。その一手先では焔がすでに攻撃態勢に入っていた。寄って来るメラメラに焔は拳を振り上げる。回復手段が無い以上、時間がかかれば苦戦は明確。ならば――
「最初から全力で行くべきよね?」
 振り抜いた。業と燃える赤い炎が迸る。炎の人型を大きな炎で飲み込んで、赤い赤い赤い。
 赤。焔は焔でも『優希』という名の焔が、火の粉の間隙よりメラメラの間合いに踏み込んだ。燃え滾る意思の力を内に燈し。優希の拳を飾る迦具土神にバチリバチリと稲妻が宿り、白銀のそれが燦然と煌いた。理不尽なる悪意は撃ち砕くのみ――この、拳を以て。
「その身に刻めッ!」
 稲光と共に展開するは圧倒の武舞。拳撃、蹴撃、荒々しくも無駄の無い流麗な攻勢。叩きのめされるメラメラが火の粉になって消え果てる。
「残念、追加だぴょーん」
 メラメラ。けらけら。阿国が指差せば3体の火人が再度現れる。その後方から、ユラリ。潰れ顔面の血だらけで、ボールペンを握り締めた不気味なウサギ。中の人はブンヒツ。故人。死体。Eアンデッド。BSSの様なものと思われる文字射撃がリベリスタへと襲い掛かる。
「っ!」
 それはブンヒツへの間合いを詰めていた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)とルー・ガルー(BNE003931)の身体を打ち抜き、白い空の下に赤い色を咲き誇らせる。本来は革醒者の技をEアンデッドという異形のスペックで行う技。脳を焼く痛み。けれど二人の足は止まらず、死体ウサギの間合いに踏み込んだフツが緋色の長槍を振り上げた。
「破ァッ!」
 一閃、魔槍深緋。突き飛ばす冷たい衝撃がブンヒツを下がらせ、凍て付かせる。そこに素早く、白狼の毛皮を靡かせて零距離に接敵したルーが牙を剥いた。
「オマエ、サクセン、ジャマ、アッチイク!」
 破界器化した氷の武装爪、アイスネイルに力を込めて。キラリと輝く冷たい光。振り抜いた。ウサギを切り裂く。が、向こうの力は自分達と同じ人のそれではない。易々と直撃してはくれないか。
「ウー。カチコチ、ヒェヒェ、カサネル」
 重ねる集中。兎角、己はこれの足止めを。
「キョウ、オマエ、タオレルヒ。カリ、サイゴ、ダイジ。タタカイモイッショ」
 臆す事無く、踏み込んだ。

 零下とは対照的に、灼熱。
 阿国が撒き散らす炎がまるで絨毯の様に周囲に広がり、リベリスタ達の肌を肉を容赦なく焼いてゆく。削られながら、リベリスタは阿国とブンヒツの間に立って二人の分断をする事に成功していた。
「お久し振り。君とは何度もやり合ったね。火の用心にきたよ」
「じゃァ一生懸命燃やさないと」
 ロアンの視線のすぐ先にフィクサード。会うのは初めてではない。燃やしていこうか。回復などさせるものかとロアンが繰出す刻死の一撃、それを阿国がソードブレイカーで受け止める。拮抗。不敵な笑み。
「今までさんざ馬鹿にしてくれて有難う」
「どう致しまして的な?」
「今回で終幕だ、絶対に逃がさない。喰らい付いてでもね」
「ワガママなやつだなー俺は普通になりたいだけなのに」
 イマイチ噛み合わぬ会話。尤も、端から『論理的』など求めちゃいない。
「どうしても飽きちゃったと言うのなら、いっそ全てをおやめなさい。喜んでお手伝いしますから。ねえ」
 さあ、はやくはやく♪ニッコリ皮肉、ロウは速度を刃にメラメラを切り裂いた。片付け清掃お任せあれ。邪魔なものはちちんぷいぷい即処分。分別もきちんと。塵も残さず。いろはにほへと。
「散れ」
 ロウが攻撃したメラメラへは、黄泉路が斬射刃弓「輪廻」に暗黒の矢を複数番えて撃ち放つ。突き立てて、霧散させる。
 最中にも、思い見るは阿国の挙動。火への愛情、とあれは言っていた。火以外のもので再現できないだろうかと考察した。だがそれは、言うなれば牛肉を使って魚料理を作るようなもの。本物とは違う。本物にはなれない。決定的に違う。届かない。
「燃えろ燃えろ~!」
 カグツチフリーズ。
阿国の周囲の者が、呪縛の炎に
焼き縛られる。
「う、っく……!」
 じゅぅぅぅぅ。自分の肉が焼ける音など、出来れば聞きたくないものだ。佳恋は顔を顰め、けれど纏わり付く炎を白剣の一閃で振り払うと機械の脚に力を込めて凛然と立ち塞がる。眼前。紺の髪を靡かせて。振り上げるのは白鳥の羽を思わせる刃。込める力は、一切を砕く破壊のエナジー。永久炉が廻る力に燃え上がる。熱を帯びる。
「私は戦う、この世界のために……」
 そう生まれついたのであれば、それに従うのみ。振り抜いた一撃。かっ飛ばされた阿国が客席にもんどりうって叩きつけられる。
「ほげぇ痛ぇアイテテテ」
 どろっと血を流しながら、されど火炎。そして火炎。
 正義と悪の血潮に塗れた『ヒーローショー』は、未だ終わりそうも無い。

●正義は勝つ。ハッピーエンドと人は言う。
「ルー、タタカウ、タノシイ。ルー、オマエ、ナグル」
 阿国が手当たり次第に撒き散らす炎の津波と、ブンヒツの射撃と拳と。ルーの白い身体は血だらけで真っ赤で、既に運命も弾けていて。それでも戦いは楽しかった。勘任せの力任せ、一秒でも戦いを。
 ブンヒツも無傷ではない。死血色のきぐるみ。そのファンシーな拳が、フツの横っ面に突き刺さる。シャッフル視界。呻き声。ゴキンと嫌な音。歯の折れる感触と、口の中に広がる血の味。地面に倒れ、フツは咳き込む。裂けた唇。フェイトが無ければ頸の骨が折れていた。
「やるな」
 魔槍深緋を地面に突き、立ち上がる。ルーの爪に切り裂かれながらも、無言のまま立ちはだかり朧に戦い続けるきぐるみのバケモノ。人だったそれ。死人に口無し。語る事無し。ブンヒツが阿国の事を恨んでいるかはもう誰にも分からない。ブンヒツも阿国もリベリスタ達が分断している。共闘も殺し合う事も無い。
 何であれ、勝負だ。極めて優しいフツはけれど、極めて容赦が無い男。敵ならば、必要ならば、どんな事情があろうが――得物を構え、鬨声を張り上げ、法衣を翻し機械僧は戦い続ける。この身に――は、衆生の、――。

 リベリスタ達に回復の手段は無い。焼けて、どんどん、削られて。呼吸をすると、咽の奥。肺の中。熱い。痛い。ロウは咳き込む。二酸化炭素。高温の周囲に浮かぶ汗。頭がボーっとする。あぁ、全く、大変だ。尤も幼児の様に駄々をこねようが自己満足にすらならないけれど。マゾでもなけりゃこんなんやってられません。
「さっさと倒れてくれると有難いんですけどね!」
 火に埋まる地面を蹴り、その元凶へ繰出すは多角的強襲。値六百貫の人斬り包丁、要するに地味な日本刀、大般若が血に染まる。
 佳恋も遮二無二抗い、刃を振るう。灼熱。倒れてしまうその前に。一撃でも、一撃でも多く。
 何であろうが、この拳の邪魔をするのであれば打ち倒す。優希は徹底的に拳を前へと突き立てる。下がる事は、敵にみっともなく背を見せる事は、誰よりも自分自身が赦さなかった。
「その炎の力、そしてアーティファクトの威力も大したものだ。だが――」
 内に宿す炎の意思では負けはしない。一歩も引いてなるものか。拳を堅く、どこまでも堅く握り締める。どれほど炎で焼かれようと、その焼け付く痛みを何倍にも増幅させて。
「この拳で――貴様を撃ち貫いてくれる!」
 繰出す拳は、焔が叩きこむ拳と重なった。魔氷拳と業炎撃、冷たい一撃と熱い一撃。氷と炎。阿国が勢いに後退する。
「――これが好きなんでしょう? 安心しなさい。貴方が倒れるまで何発だって叩き込んであげるから」
 だから逃げないでよね?ニッと笑う、炎髪少女。応える様にフィクサードが舌を出す。血に塗れながら。
「あついしょうぶはいいものだ」
「そうね。それにしても流石炎大好き馬鹿ね。燃やし尽くすのにも一苦労しそうだわ」
 交差する熱は何処までも熱い。赤い。負けるものか。恋する乙女は無限大。鍛え抜かれた乙女の拳には無限の可能性が宿っているのだ。
「手向けの焔よ」
 渦巻く炎すら貫く炎を、拳に込めて。踏み込み、視線はすぐそこに。囁いた。ねぇ、燃えたでしょ?

 轟々。
 業々。

 燃えてゆく。
「馬鹿は死ななきゃ治らない、ってね。『普通』になれる手伝いをしようか」
 炎の中で赤々と、されど冷たく、ロアンと共に躍る鋼糸クレッセントが煌いた。嘯く言葉に阿国は応える。「嘘吐きは泥棒の始まりなんだってさ」と。だから神父は一笑して、一蹴した。
「懺悔する事は? お祈りでもしてみる? ……赦さないけどね!」
 無慈悲な一撃が宙を舞う。殺す事に研ぎ澄まされた一撃。致命的一撃。クズは即刻死ね。その心情を表す様に。刻み付けた。回復手段を奪い取る。頬に散る返り血と、鼓膜をくすぐる敵の悲鳴。
「地獄にはゲヘナの火が燃えてるから、結構お気に召すかもね」
「嫌だー俺はこの世界で普通に生きてたいんだーーー」
 むきーと歯列を剥く阿国。へ、
「普通の生活の中に幸せがあるという、その考え自体は間違いでは無いだろう」
 そんな言葉を紡いだのは黄泉路。なんでもない様ななんでもない日でも、思い返せば幸せだったと思える事は事実で。
「だが……あんた、本当に普通の人になれると思ってるのか? あぁいや、思ってんだろうな、あんたは」
「思わないなら思えないでしょうが。俺はこれから普通~に平和~に生きていくのよ。だからそれを邪魔する君達はぶっ殺すよ!」
 ふざけているのに平然と、阿国は周囲に火を撒き散らしながら言う。火炎の奔流が黄泉路の肌をジュウと焼いた。痛み。咽の奥で呻きながら、「普通じゃない」と黄泉路は思う。『殺人現場を見られたから、それじゃ普通になれないから殺しましょう』なんて、そもそもその発想自体が普通じゃない。水が油になれないように、異常が普通になれるものか。
「普通の人の安寧の為、あんたを此処で黄泉路に送ってやるよ」
 火炎の中。引き絞る弓。火の中で顔を顰めているのは酷い酷い火傷の所為。散らした運命で焼死を拒絶。番えた矢の名は『痛み』。鏃に込められた黒い呪詛。
 その首を置いて逝け。撃ち放った。一直線。炎を、紅蓮を切り裂いて。
 ぐさり。胸の真ん中。吸い込まれる様に。
「あれ? いてっ」
 血を吹いた。倒れた。最後の癖に、呆気なく。人なんて結局、そんなもの。

 ――さぁ次だ。

 リベリスタの視線は、ゆらり舞台に一人立つ、血だらけのウサギのきぐるみ。ブンヒツだった死体。頭が無いから喋らない。その傍には、阿国の火やブンヒツの凶撃に遂に力尽きてしまったフツとルーが横たわっていた。
 が、ブンヒツ自体も相当消耗している。焔は優希にアイコンタクトを送った。
「合わせて往くわよ、優希!」
「あぁ。一気呵成に打ち貫く!」
 タイミングを合わせ、一気に踏み込む二人の焔。繰出す掌打に、土をも砕く気を込めて。迫る――憐れなものだと、刹那に優希は思った。フィクサードの仲間意識等この程度か。
 では、死者に真の眠りを。
 終焉に、本当の終わりを。
 どん。
 衝撃音。何度でも。静かになるのに、30秒もかからなかった。

●おしまい。
 お姫様の所に行った妹は、大丈夫かな。ロアンの脳裏に浮かぶ顔。視線の先には血達磨で倒れたまま立ち上がる気配の無いフィクサード。阿国シュタール。普通を望んだ異常。その主人、黄泉ヶ辻糾未。異常を望んだ普通。
(僕も結構大概だけど、)
 普通って何だろう。そう思う時はある。ロアンは見ていた。投稿すれば命は助けるとリベリスタの言葉に、顔を動かしたフィクサード。
「ごめんなさい。もうしません。……とか言って、リベリスタになったフリして、君達の目の前で人を殺しても、君は赦してくれるのかい? 赦してくれるといいねーっ! アヒャ! ぼくちんが可愛いロリ少女なら問答無用で赦してくれた? それとも」
 阿国にそれ以上の言葉は紡がせなかった。殺すつもりの者は振り上げた武器を一斉に阿国の身体へ突き立てた。「ぎゃっ」「痛い」「いたいいたいいたい」。殺すつもりの無い者は悲鳴と呼吸が消えるまで武器を突き立てられ続けるフィクサードから目を逸らした。阿国の最期の言葉は「このひとごろしー」だった。笑いながら。嗚呼。理解する、理解させる、なんて、最初から無理な話だったのだ。それが出来るのであれば、そもそもこんな事にはなっていなかったのだから。とどのつまり、相容れぬ、『異常』。だった。もう過去のお話。

 見下ろしていた蝶がひとひらひとひら、何処かへ姿を消してゆく。
 後はもう、なんにも聞こえない。喝采も拍手も。血色の舞台、無言の客席。


『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「皆々様、お疲れ様ですぞ! 今は一先ず、ゆっくり休んでくださいな」

 だそうです。お疲れ様でした。
 これにて『彼等』のお話はお終い。
 ご参加ありがとうございました。