●あるフィクサードの手記 -Final Wepon- 私は六道の研究者である。 十と余年前に、今は三高平と呼ばれている地で妻子が逝ってから、呪詛に指向性を持たせる研究を続けている。 その最大の目的は――ミラーミスを滅ぼす事である。 神秘世界において、感情の昂ぶりや強い意思というものは、時として並々ならぬ力を発揮するものである。大災害を退けた彼等は、果たしてどういう胸裏であったのか。人の精神は実に偉大である。 人間の感情の中で、一際に強いものとして、呪いや妬みというものがある。 著名な歴史的作家が曰くして『嫉妬というものは、自ら孕んで自ら生まれる化け物である』という。呪物が様々な悲劇を齎してきた事は明白である。 取り扱うモノがモノだっただけに、リベリスタを廃業して久しい。 【某月某日】 幸運にも、呪詛に詳しい協力者をとりつけて理論が成果となる。 不運にも、小娘のキマイラが実用段階に入った時期と重なり、資金獲得が困難となる。恐山派フィクサード達を利用して、細々と研究を続ける事となる。 ったく、呪詛と古傷で何時コロっと逝くかわからんのに。 【某月某日】 六道での住み心地が悪くなる。 アークに目をつけられた事もあり、呪詛に詳しい協力者に匿ってもらう。 そこには『W00君』という研究者がおり、大変刺激的であった。 彼が創造したWシリーズも根源は『呪い』である。着眼点が似ているのである。 彼の作品を4人貰い受けるも、どうも私は甘いらしい。 呪いの指向性の技術を応用し、Wシリーズ達の自壊を防ぐ維持装置に時間を使ってしまった。維持装置の完成前にW72、W88は死んでしまったが。 【某月某日】 六道の小娘からの追手を返り討ちにした所、英国紳士君が接触してきた。 小娘を失脚させるというので六道への復帰を交渉して手を貸した。キマイラを造るのは癪に障るが、飲み込むことにする。小娘ざまぁ! しかし、W98がアークを見た途端に勝手に飛び出してしまった。結果は未帰還。自壊から拾った命を粗末にするなんてね。残念だよ。至極。 【某月某日】 英国紳士君が死霊術師のイタ公を勧誘した。 あもーれあもーれと実に煩い。最高傑作が出来そうなのに! 邪魔だ! カスが! カスが! おっかないから言えないけど。 【某月某日】 英国紳士君からの要望に応える形で、英国に研究室を移す事になった。 盗聴などの能力が高い独逸野郎のせいで、データを送るラインを、もう一本作っておきたいらしい。 現段階の集大成を日本に残しておこうと思う。 うなぎのゼリー寄せの不味さは一回位あじわっておきたいもんだよ。 ●手記の持ち主 -Kisaragi Gnome Celloskyy- 「本題は、英国のリベリスタ組織『ヤード』からの要請による『エリューション・キマイラ』の排除です」 朱鷺子・コールドマン(nBNE000275)と名乗る女が、緩急の乏しい言葉で言った。 エリューション・キマイラを知るリベリスタは少なくはない。 日本主流七派の一つ、探究の『六道』派が作り上げた人造エリューションであり、アークのリベリスタ達は、大いに交戦を経験している為である。 「この手記の『持ち主』と『キマイラの作者』が一致するかもしれないという訳ですね。本人と接触したら、材料にどうでしょうね」 手記は朱鷺子が提供したものである。何処から拾ってきたのか。 近状、アークは海外へリベリスタを派兵し、傭兵業務を請け負っている。 万華鏡の力が及ばない彼の地で、少しでも情報があるのは僥倖ではあるが、出処の朱鷺子はといえば、拘束服姿で左右にアークの職員を伴い、まるで監視されている形である。聞けば、元フィクサードであるらしい。 「では、続いてキマイラの情報です。今から飛行機を飛ばして急行の依頼です」 現地『ヤード』のフォーチュナが見極めたE・キマイラの情報が画面に出る。それは日本の妖怪でいう火車といえた。 ミシンのボビンを巨大化させたかのような、人3人分の高さでもって、側面に希臘(ギリシャ)の彫刻の様な顔面がある。 また、車輪と車輪の間には、びっしりと銃口の様なものが生えている。 「これが全方位に火をまき散らしながら街を走り抜けます。迎え撃って下さい。何処かに弱点――"箱"が内蔵されている筈です。それを見つけ、正確に砕く手段があれば、ぐっと楽になる事でしょう」 フォーチュナの真似事か何なのか、しかし"箱"という部位が弱点が事実ならば、積極的に狙って行きたいところではある。 「事実関係の見極めはお任せします。せいぜい健闘を」 職員に連行される形で、退室しようとする朱鷺子に対して、一つ質問が出る。 「手記の持ち主は何者?」 朱鷺子は振り返り、質問の主を凝視する。 「成程」 何が成程なのか。 「『秘密兵器請負人』如月・ノーム・チェロスキー。 妙な兵器ばかり作る老人。といっても本当は50歳前らしいです。本人はあまり強くありませんが、作るものが例えば――」 ●全方位対空火炎放射器フェニックス・パンジャンドラム -Wheel of Fire- 歴史ある町並みの倫敦の夜空を、炎が飛翔する。地を車輪が滑走する。 「AaaaaaaaaOOOOOOOOhhhhhha!!!!」 異形の車輪、その側面にある人面が咆哮を上げて走り去る。 石畳に砕き、火車が"石畳に"轍を作る。 不死鳥の形をした火は、まるで意思を持つかのように、街を炎の色に染め上げてゆく。 参上したスコットランド・ヤードの面々が、家屋の上から飛びかかる。 Highlanderの大剣を最上段に構え、渾身で打ち据えた一撃は恐るべき硬度の車輪にめり込む形で止まる。刺さった大剣ごと一人が車輪に巻き込まれてゆく。 ――また、轍が出来た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月12日(火)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●炎 -Fire after Fire- 天然自然に神秘の夜を演出する魔性の舞台。 テムズ川が流れ、中世期からの城壁が残るイーストエンドは、1888年。かの切り裂きジャックが事件を起こした地であった。 場は白い闇と形容できようか。London Fogは特段と濃い。 朦朧と外灯は明滅し、一同が石畳を走る内に、道が動くのか、夢が動くのかが曖昧になる。 熱気が生じた。 上昇気流。気流が風が霧を吹き飛ばす。 「AaaaaaaaaOOOOOOOOhhhhhha!!!!」 車輪の如くして、左右の巨大な顔。 取り囲む『ヤード』の面々は四人がかりで車輪を止めている。彼らが携えた大剣と車輪の接点より、盛大に火花が散っている。 石畳の先頭をゆく『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の眼前に、たちまち火の鳥が現れた。 「イギリスは私の故郷。素敵な思い出がたくさんあります。姉さんと過ごした、大切な……」 抜刀即座に、火の鳥の嘴部分を得物で受け止めると、火の鳥は自ら刃に引き裂かれたかのように、左右真っ二つになって脇を通りすぎて消える。 「だから、どんなに強い相手だろうと、私は引かないし、負けません! この東雲でイギリスを守るんです!」 キンと納刀、更に道を駆ける。 「危ない!」 セラフィーナの頭上より襲来する火の鳥を『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)が、蹴りつける。軌道を逸らす。火の鳥は石畳に突き刺さり、雲散する。 「詳しくは知らないけど、傍迷惑ってだけは分かったわ」 焔が直観と暗視で場を良く見れば、車輪轢きにされて肉の轍と化した警官が転がっている。 「遅くなって御免なさい。救援に来たわ」 パンジャンドラム。 どこへ飛ぶかも分からないのにも、全方位に火炎を撒き散らすのだから、大いに危険である。これ以上被害は出させないと、焔は意を決して拳を握る。 殉職した『ヤード』の無念を携え、炎を握る。 同様に暗視を用いていた『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が感慨深く敵を見た。 「こりゃまた豪華な名前のパンジャンだな。ファンタジー顔負けの凄い兵器だが――」 AFから薄氷の如き刃の大剣を取り出す。刀身は液体金属で形成する変幻自在である。 「遠慮なくスクラップにさせてもらうぜ!」 続けて、道化のカードを投げる。剣を真っ直ぐに突き伸ばす。刺した先は火の鳥である。 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は、歓喜していた。 「うふふふふふhhh! まさか、日本から遠く離れた異国の地で、先生の足跡に触れることになるとはねぇ」 怪盗たる能力を用いて、梅子に変じている。 なのだわ! と思い出した様に語尾につけ、乗り気である。 「左遷か栄転か。凍イ出君と言い、如月大先生と言い大変そうだわなぁ」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が新しいタバコに火をつける。 「誰のせいかと問われたら、正直すまんかったとしか言えないが、これも仕事だしな」 「左遷? 栄転? なら!」 エーデルワイスも得物のカードを握る。敵はかの老人の発明にしてはこれでもどこか足りない。意味不明な仕様といった狂気が足りない。十字も切って覚悟を完了する。 「今こそアークに拉致る! さぁ派手に激しく蹂躙しましょう!!」 ヤードなんてどうでもいいじゃない。ついでに一緒にクタバレ。囮や贄になってくれると嬉しいな。 そう考えるエーデルワイスの役割は、火の鳥の撃墜である。 「AaaaaaaaaOOOOOOOOhhhhhha!!!!」 ボビンが吼える。 その場でむちゃくちゃにスピンを繰り返す。『ヤード』の面々は耐える一方であった。 「『ヤード』の皆さんとは、下っ端フィクサードだった頃にやり合ったりしてたのかなあ……私」 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、新聞紙に包まれたフィッシュアンドチップスを食べて言った。 「久し振りの里帰りだってのに、来ちゃったかあパンジャンさん。ほんと、凄いお迎えですねえ」 「元は英国で開発されていた兵器が、時を超えてこんな形で母国に仇為すとは皮肉なものでございますね」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が、ユウに意見を重ねる。 イタリア出身のリコルが知る程度には、いやさ日本でも理解できる者が大いに居る様に。実に紳士な兵器なのである。 「アークでございます! 救援に参りました!」 リコルが高らかに言って双鉄扇を広げる。集音装置で周辺を警戒する。一般人の雑踏の方向に集中する。集音装置から得られる情報は多い。 ユウは、ざらざらとチップスの残りを平らげて、銃を構える。 「ま、まあ、今はアークに忠実なただの鉄砲撃ちって事で。あと援護するので堪忍してくださいねえ」 咆哮にかき消されない発砲音は、開戦の狼煙の如く響き渡る。 「まさか元・リベリスタだったとは、ね」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は黒き魔曲を練りながら呟いた。 「最大の目的、ミラーミス打倒も私の目的とほぼ同じ。崩界の脅威を取り除く為にはそうする他ないでしょう?」 ひょっとするならば、真白室長と並んで研究していた"今"があったかもしれない。 しかし運命に抗する者としてifは愚問だと頭を切り替えて。 「とても残念だわ」 黒き魔曲を両手に携え、前に出る。 ●加算型兵器への減算 -Plus Minus- 車輪から、火の鳥が三体生じた。 その火の鳥達の間をセラフィーナが翔ける。 刀身から伝わる手応えは固い。たちまち得物と車輪の接点より巨大な火花が飛び散った。 「……この街、人々をよく知ってるのは貴方達です。一般人の避難をお願いします」 対して現場の中心人物と目される『巡査部長』の名札を持った屈強な男が返す。 「救援は有り難いが……俺は"空白地帯"から来たお前等を信じちゃいない」 「私はイギリス出身です。けれどこの敵、キマイラについては私達のほうが知ってます。抑えは任せてください! 守らせてください、この国を!」 セラフィーナと意見を重ねるように、琥珀が剣を振る。 「ここは任せろ、一般人の避難を頼む!」 琥珀が大剣の腹を車輪にぶつけた途端に、ドンと衝撃が全身を突き抜ける。下へ下へ、車輪は石畳との間に巻き込もう更に回転を強める。轢かんとする。 「手始めに弱めるか。ギャロップ!」 琥珀が放った気糸が、車輪の骨格に絡みつく。回転が大いに減速する。 今まで離れ様にも離れられなかったヤード達が、リベリスタ達と入れ替わる形で後退する。 「よし、側面!」 「了解。デカイ顔とかぶん殴るには丁度良さそうね」 焔は車輪の側面へと動く。引いた肘と引いた拳を真っ直ぐに突き出して巨大な顔面の頬に拳をめり込ませる。ぴしりと亀裂が入り、横からの攻撃に、車輪はぐらりと傾く。 傾いた所で、リコルは鉄扇を振り下ろす。車輪と車輪の間にびっしり生じている火炎放射口を砕く。 車輪は横転した。 「皆様。パンジャンドラムとは別に"何か"が居る様でございます」 「例の科学者?」 焔が返すもリコルは首を横に振る。 「何かを引き摺る音。咀嚼音。嚥下する音。マザーグースを歌い――どこか得体のしれない何かでございます」 このキマイラの相手に加え、更に援軍がありえるとするならば、乱入は至極不味い。 氷璃が後ろから尋ねる。 「どの方向から」 「12時方向。キマイラの向こう側。建造物の屋上。詳しい位置までは」 たちまち氷璃がヤードの一人に向かって翔ける。『巡査部長』の付近で魔曲を詠唱する。 氷璃は、眺めているフィクサードがいるであろうと考えていた。ヤード達に余裕があったならば捜索の提案をしようとも。 「周辺警戒をお願いするわ。まだ何かがいる」 余所者に手を借りる事を良しとしなかったスコットランド人は、しかし返事をする時間すら惜しむかの様に、次々に指示を飛ばす。そこからは速かった。 「問題の箱は、造形からして車輪の中心、側面の顔の内側かしら?」 氷璃の詠唱はただの魔曲に非ず。黒い鎖の奔流を高速詠唱にて放つ。びっしり生える銃口めいた火炎放射口へと突き刺す。 何やら車輪の側面。顔面が口を開く。 咆哮が鳴るかと思えば、口の中から細い手がぬらりと一本生えてきて、よっこらせとばかりに横転した車体を立て直す。 「手!?」 車輪を気糸で絡めとっていた琥珀は驚愕する。 「中に何かいるの?」 焔もやや驚く。 「ただの面白車輪じゃない。ちょっとすごい面白車輪ですねえ」 英国出身者のユウがのんびり言う。 「まさか、殺――」 セラフィーナが呟いた途端。 「AaaaaaaaaOOOOOOOOhhhhhha!!!!」 再び車輪が回転する。 ぶちりぶちりと琥珀の糸を引きちぎる。一寸生じた奇妙な空気を爆散させるかのように、火の鳥が三体飛び出した。 再動。もう三体生じる。 「oh……」 エーデルワイスが梅子の姿で英語を言った。 最初に生じた三体を含めれば"九体"である。一発一発が獄炎相当である。威力もそれなりにあると見られるものが。 ここに、烏は二択を突きつけられた。 「9体か。おじさんがエネミースキャンを使う時間を稼げるかい」 一斉に動き出す前に、叩き落とさねば大きく被害を受けるのは明白。箱の位置も特定せねばならない二択。 「後衛に一歩も通しませんよ」 エーデルワイスは、赤いカードと黒いカードを次々に火の鳥へ打ち込む。 「消し飛びなさいな。矮小な悪意よ」 親指を立てた形の拳を、左から右に切った途端、エーデルワイスの視界の火の鳥達は墜落する。 中空でユウがひらりと烏に言う。 「何とかなるなる。やられる前にやる! 邪魔される前にやる! うろうろ動き回らないで、腰を据えますよ」 言ってからの砲火――文字通り砲から放った火矢で、次々と石畳を穿つが如くばら撒くと、エーデルワイスが墜落させた火の鳥どもは火の中に消えていく。 リロード。ユウは下方へと手を振った。 烏は、エネミースキャンを選ぶ。鬼魅の悪い感じがより色濃い部位を観る。 「箱は中だ。ツァーネ君が叩いた火炎放射口部分の、装甲一枚隔てた向こう側にある」 「わかりました」 セラフィーナは、抉り出す。と意を決して、真っ直ぐに切っ先を突き立てる。左右で回転している車輪の暴れたるを気にかけた時、狙った部位からは外れるも、銃口のいくつかを地面に切り捨てる。 「銃口を叩きながら弱点を目指す、か。丁度いいかもな」 琥珀が、揺らぐ様な動きで左右に残像を生む。繰り出す連撃が銃口めいた火炎放射口などの表面を抉り、装甲板に到達する。 「そういう事なら」 焔が最初に殴った部分は頬。 「これ以上被害を増やさせないように、止めるわ!」 奇しくもリコルが叩いた部分の奥。側面につけたヒビの位置が該当する。このまま砕いてしまえばいい。 再び生じる火の鳥も、重ねて生じる火の鳥も、エーデルワイスやユウ、烏が撃墜する。 前衛に車輪の反撃が蓄積するも、戦闘不能にはまだまだ遠い。前衛が重ねる攻撃は、削るように装甲を剥がしていく。 やがて根こそぎ火炎放射口が削げて、フェニックスが止まった。 「おかしいです」 ここまでは万事順調ではあったが、セラフィーナが言った。 「未だつかっていない攻撃がある」 琥珀も同意する。混乱したら殴ってでも正気に戻ると決していたのにも。未だ火の鳥を出すだけだった。 「面白車輪、まだ何かギミックあるの?」 ユウはやや期待の眼差しで言う。 ここで、焔が放った拳が側面の顔面のヒビ割れた所を砕いた。拳を中へと突入させる。 「燃えなさい!」 拳を握る。炎を中で爆散させる。 弱点と目される箇所への攻撃。今までスピンを繰り返していたキマイラの動きが止まる。 「来るわ。――油断すると落とされるわよ」 後方。氷璃が静かに言った。 言うなりに、キマイラのボビン型の車輪が中央から割れる。割れた中から―― 「人?」 前衛、各々が眼前。 車輪の中央より現れたモノは、球体関節の裸の。マネキンの様な女の人型であった。 ●殺戮球体関節人形 -Chimaira Wepon ver.W- 硝子の目は半開き。 車輪は背中で翼の様にクルクルと回転する。 胸の中央にブリキの箱が浮いている。何発かは装甲を貫通して命中していたらしき痕跡がある。 人形が口を開く。 ――――ッッッッッ!!!!! 場を揺るがす程の金切り声が響き、硝子の目が見開かれる。 車輪が高速で回転する。炎を身に纏う。背で回転する車輪から火柱が上がる。広がった高温は、既に霧を欺いている。 人形が再動する。全方位火炎放射が場を包む。石畳を焦がす火の塊が全員に降り注ぐ。 「力押しに叩き壊すより、仕掛けの妙を削ぎ取る方が……良さそうですね」 「回復手の無いダメージレース。素敵兵器いいですね」 ユウの残弾は数発。エアリアルフェザードに切り換える。 放ったフェザーを人形に突き立てる。毒と冷気を注入する。 氷璃の葬操曲が、炎を薙ぎ払ってが走り抜ける。 「箱よ。兎にも角にも」 唱えた黒い鎖を維持する。維持した鎖で縛り上げる。束縛の成功。 しかし、氷璃は体力の半分を削られていた。一発である。一発で既に肩で息をするまでに。 「英国超兵器は付与型ですか」 エーデルワイスが言う。 「――血と鉄と炎のもとに宴を開きましょう」 本来はこの時の為のB-SSS。 放る無数のカード。寸分違わずに穿った穴へと突き刺さる。穴が拡大する。 「炎には。直ぐに対応をさせて頂きます」 リコルが集音装置で拾った声に、一寸声を詰まらせるも破邪の光で役割を果たす。 何を聞いたのか。されど、今は眼前の敵である。 「英国面の魔改造……如月大先生やはり恐るべしだわな」 烏は訳あって動けない。――誰か他にブレイクできる者は。 人形の車輪が大きく回転する。氷璃の鎖が引きちぎられる。両翼に包み込まれる様にパンジャンドラムと化す。 先程の回転よりも更に凶悪となっている。現物よろしく、デタラメに場を走り抜ける。 「行けます」 セラフィーナがその速度についていく。先手の奪い合いが生じる。 「……この速度」 一寸疾く、セラフィーナの一刀が車輪に刺さる。ブレイクが成立する。 が、車輪は止まらない。再びの付与。続く暴走した車輪がセラフィーナを跳ね上げる。 跳ね上げて琥珀に行く。焔に行く。リコルへと。 「くっ……」 琥珀は得物を盾に"轍"は回避するも、喉の奥から血が湧き出す。 「なんて威力」 焔は乗り上げられる刹那に両腕を交差させるも、一発で体力の殆どを穿たれた。両腕が折れただろうか。 「あと……フェイト込で3回でございます」 リコルの双鉄扇がひしゃげている。 ブレイクが成立していなければ。恐ろしく危機的状況になっていたか。 駆け抜ける車輪の破壊は建造物にまで及ぶ。悲鳴が耳に入る。 「負けられない……」 琥珀が光と共に残像を生む。 「俺の目の前で人が死ぬのは許せねえ。負けられねーんだよ!」 煌きとともに叩きつけるロイヤルストレートフラッシュが、両翼に守られた人形をこじ開ける。 「今度こそ止めるわ」 氷璃の黒き鎖が再び抑えつける。 「やられっぱなしじゃ――虚空」 焔が槍のように吶喊する。腕がダメなら脚がある。場で一回転し、踵から放つ真空の刃。 刃は箱に縦一文字を刻む。 「その中身をブチ撒けろ♪」 中衛から前衛に出たエーデルワイスが、悠然と歩いて無数のカードをばらまいた。 焔が刻んだ縦一文字に一枚。二枚。三枚。四、五、六、七。連撃。八、九、十、十一、十二! 箱がぱきりとあっけない音と共に、真っ二つに割れる。 割れた途端、鬼魅の悪い空気が混ざった様な気がした、が――中身が燃えて気のせいかと怪しまれた。 たちまち炎が雲散する。 満ち満ちていた高温に、冷ややかな倫敦の風が隙間風の様に差し込んだ。 「よし」 烏のタバコの灰はいよいよ長い。 「こっちも良いですよ」 ユウが自身の羽をヒラヒラと散らせる。 散った羽は途中で軌道を変えて、真っ直ぐに人形の額へと突き刺さる。 「『Schach und matt』」 烏が、チェックメイトを意味する弾丸を撃つ。 タバコの灰が落ちて、地面に触れるまでの僅かな間よりも疾く。 ユウが穿った額を寸分違わず、突き抜けた。 : : : 「あとは、例の得体のしれない奴、ね」 焔はぐーぱーを繰り返して拳を確かめる。折れてはないが関節が外れてしまったらしい。 ユウと烏、エーデルワイスは、興味津々にキマイラを漁る。車輪はただのパンジャンとなっていた。 人形も中身はドロドロに溶けた蛋白質のみである。 セラフィーナに大事は無かった。剣もあの車輪に曝されて尚も輝きは失っていない。 「人々を傷つけ、殺した責任。いずれ取って貰いますよ、『秘密兵器請負人』チェロスキー」 納刀して踵を返すと、ここで琥珀が言う。 「あれ、ヤード達は?」 「そうね。巡査部長にお礼を言いたいのだけど」 氷璃も重ねて言う。 リコルは首を横に振った。 ●リコルが拾ったもの -Celloskyy Final Wepon- 「She saw a dead man on the ground♪」 聞こえた声は雑踏の中でも甲高くて明瞭。ボーイソプラノであり、歌をうたう。 「And from his nose unto his chin♪」 ぼり、と固い何かを咀嚼する音の次に、嚥下した音がする。 「The worms crawled out♪ the worms crawled in♪ ――じじい、と、おなじくら、い、まずい」 水分を含んだ何かを啜る音がする。 「……げろ……ーク」 『巡査部長』の声がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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