● ソーホーの街に突如、突風が吹き荒れる。 暴風は無慈悲に建物を呑み込み、無遠慮に噛み砕いていく。今まで休日を楽しんでいた人々は、パニックを起こして逃げ惑うだけだ。 ソーホーはかつて、倫敦の一大歓楽街として知られていた場所である。もっとも、それは昔の話。今では一大ファッション街へと姿を変えて、人々の憩いの場所となっていた。 それが今では見る影もない。 全て突然の突風がなぎ倒していってしまった。 そして、逃げまどう人々や破壊された建物を眺めて、風の中心でフランクリンは高らかに、満足げに笑った。貧困の内に育った彼にとって、幸せそうな人間は何よりも気に入らない存在だ。逆にそれが苦しむ姿は何よりの娯楽である。 「無様だなぁ、滑稽だなぁ。前々からこの街にはこんなものは似合わねぇと思っていたんだ。××野郎はてめぇでてめぇのケツに粗末なナニでも突っ込んでいやがれ」 これもあの”お方”からもらった力のお陰だ。毛むくじゃらのこの姿も、いっそ誇らしいというもの。 聞くに堪えない罵詈雑言と共に怪物が大仰な身振りをすると、再び暴風が吹き荒れるのだった。 ● すっかり秋めいた風の流れるようになった10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。今回は倫敦のリベリスタ組織『スコットランド・ヤード』からの依頼だ。もっとも、俺達には無関係、って言いづらい内容なんだけどな」 最近、アークは海外へリベリスタを派兵し、傭兵業務を請け負っている。今回もその一環、ということだ。 守生が端末を操作すると姿を見せたのは海外の伝承にある鬼のような顔をした毛むくじゃらの怪人。ノーフェイスだろうか? だが、それとは違う何かを感じさせた。 「こいつがターゲットのエリューション……キマイラだ」 キマイラ、その名を知る者は少なくなかった。 日本主流七派の1つ、探究の『六道』派が作り上げた人造エリューション。複数のエリューションの特性を持ち合わせる危険な相手だ。キマイラという存在を作り上げた六道紫杏はイギリスに逃げたと聞いていたが……。 「このキマイラ、識別名『ブギーマン』が倫敦の一角で暴れる予知が『ヤード』によってなされたらしい。そこで、うちに救援要請が来たわけだな」 現場には『ヤード』のリベリスタも向かう予定ではあるが、如何せん手が足りないということだ。それに、キマイラが相手と言うことであれば、アーク程経験がある組織は地球上に存在しない。もっとも、相手は以前のキマイラよりも改良されているようだ。 厄介な相手ではある。しかし、キマイラは自然発生しない存在だ。後ろに何者かの……あの”男”の存在があるのは疑いようも無い。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年がいつものように送り出しの言葉を言おうとした時、1人のリベリスタが素直な疑問を口にした。考えてみると『万華鏡』の効果が無効な海外で、彼が説明を行う必然性は無い。 「一応、俺だって事前に集められる情報を集めているんだ。それでも情報は不完全だけどな。予想外のことが起きるかも知れないから気を付けてくれよ?」 そう言って改めて、守生はリベリスタ達に送り出しの声をかけた。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月09日(土)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 突如として倫敦の一角、ソーホーを強風が吹き抜ける。 それは姿を持たない怪物がもたらしたもの。恐怖をもたらすために怪物がばら撒いた悪意の塊だ。 余人ならば恐怖の余り逃げ出すような状況で、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は恐れる事無く、片の眼で敵の姿を見据えていた。 『何者だ、てめぇら! 邪魔するってんならまとめて吹っ飛ばすぞ!』 「戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫……参る」 何やらキマイラが叫んでいるが、耳には入らない。入れない。 既にやるべきことは――この街を傷付けようとする奴を止めるということは決まっている。たとえ、ここが何処だろうと、やるべきことは1つ。 そして、舞姫は黒曜石の如き鋭い輝きを放つ小脇差を手に、その身を風へと変じた。 ● 「颯爽登場、終君英国上陸☆ 観光したいし、超頑張って英国の平和を護るぞー☆」 夜になって一層のにぎやかさを見せるソーホーの街中で、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)はいつものように明るい表情をして闊歩していた。平和な世界に価値を見出す彼にとって、この街の喧騒は決して不快なものではない。むしろ、好ましいものですらある。だからこそ、護る価値があるのである。 そんなことを思いながら、横で豪奢なブランド物のドレスに身を包んだ舞姫に目をやる。 2人は囮になる役割も兼ねて、カップルの振りをして歩いている訳だが……。 「きゃー、ここが倫敦なのですね。本格的に世界がわたしを呼んでいるわ!」 舞姫は街並みを写真に収めることに余念が無い。エスコートする終の立場も無い。 (舞りゅん、黙ってれば美少女なのにね……残念) 終はこっそり溜息をついた。 おそらくその姿は一昔前のソーホーならふさわしかったのだろう。 しかし、今の平和な繁華街となったこの街には、『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)の姿はあまりに似つかわしくなかった。E能力によってメタルフレームの特質を隠している。加えて黒スーツに身を包んで高級感を演出している訳だが、滲み出る狂暴性――ぶっちゃけて言うなら、チンピラ臭――は抜け切らない。 さらに、 「やっぱ、いつものカッコじゃねェと落ちつかねェな」 と、普段から愛用している赤マフラーを付け直してしまったのだから、どうしようもない。 手分けして周囲の見回りをしていた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、戻ってきて早々見かけた仲間の姿に苦笑を浮かべた。 「これで『ヤード』から候補に挙げられた地点は一通り回ったことになりますね。タイミングを掴めないのが辛い所です」 『ヤード』とて『倫敦の蜘蛛の巣』を相手取って戦ってきた組織だ。地の利を持たぬアークを支援する準備を怠ってはいなかった。さすがに事件のタイミングまで分からないのは痛い所であるが、こればかりは足で補うしかない。実際、『キマイラ』という霧の街に紛れ込んだ異物は、『ヤード』の網をかいくぐって動いているのだから。 「私達が撒いた種は自らで摘み取る。道理ですね」 だからこそ、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の決意は固い。 もしあの時、三ツ池公園や研究所の戦いで、自分達で紫杏を討伐できていたらこの事態を防ぐことは出来たのだ。 人によってはそこまで責を感じる必要は無いと言うだろう。 また、悪いのはフィクサードだと言う者もいるだろうし、それも間違ってはいない。 しかし、ミリィはこうした時に責任を感じてしまう少女なのだ。 「!?」 と、その時だった。 ミリィは強い衝動を検知した。強烈な怒りと憎悪の念。街中にあるようなそれとは違う。 もっと熱く、そしてゆっくりと蠢くような何かだ。 察知したミリィが仲間達に視線を向けると、彼らもすぐさま反応した。それが敵であるかは分からないが、とにかく動かなければ話にならない。 そして、ミリィは素早く他の仲間達に連絡を飛ばす。さらに、AF内に収納したアルパカを出そうとした所で、アラストールに止められた。 「それは……止めておきましょう」 『気に入らねぇ、気に入らねぇ、このクソアマ!』 毛むくじゃらの怪物は怯える裕福そうな姿の女性ににじり寄る。最初に怪物を発見したのは彼女だった。そして、彼女が余計な大声を上げたせいで、周囲の連中には逃げられてしまった。せっかくの派手な登場が台無しだ。 『てめぇの上品な面、ズタズタにしてやらねぇと気がすまねぇ』 怪物は鋭い鉤爪のついた手を振り上げる。 その時だった。 「滑稽だな、馬鹿のように乱恥気騒ぎ。烏賊臭い主張を振り撒いて、ウィットか足りないな?」 手にモバイルPCを持つコート姿の少女が姿を現わす。どこにでもいるような、普通の少女。 怪物は彼女の口から出た聞いたことの無い言葉に、言いようも無い侮蔑の匂いを感じ取った。怒りのままに今まで狙っていた女性を無視し、少女との距離を詰めると鉤爪を振り下ろした。 しかし、鉤爪は虚しく空を切るのに終わった。その場に残ったのは脱ぎ捨てられたコートのみ。 そして、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は自らの翼を露わにした。 「しかし、材料のわりには性能だけはいいな。生ゴミが産廃程度に強化されて」 「お前さんが来たのなら、もう引き付ける必要はなさそうだな」 さらに、今まで襲われていた女性の姿が『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)の姿に変わって行く。それを見て、相手が何者かは分からないまでも、怪物――キマイラはさらなる気配が近づいてきたこともあり、自分が完全に嵌められていたことに気が付いた。 「て、てめぇら……!」 「ロンドンでキマイラ退治か。人々を守るのは何処であろうと変わりは無い」 まずやって来たのは日本人の青年だ。これと言って目立つ特徴は無い。だが、一見クールに見える外見に似合わない、燃えるような双眸にキマイラは言い知れぬ嫌悪感を抱いた。間違いなく、相容れる存在ではない。 「Let's morphing!」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は手に持っていた携帯端末型のAFを軽く空中に放り投げると、やや芝居がかった仕草でキャッチし、戦いの始まりを告げた。 ● そして、場面は冒頭へと戻る。 こうして『ヤード』の要請によって倫敦を訪れたリベリスタ達とキマイラの戦端が開かれたのである。 国内でキマイラを相手にするのとは若干状況が違う。『万華鏡』による情報収集が不可能であったために、リベリスタ達は多少の苦労を強いられることになった。 しかし、その突破口を開いたのはユーヌだった。 現地の監視カメラを掌握し、より効率的な監視を行い、キマイラはその罠にかかったのである。 『待ってましたァ! そろそろ探すのに飽きてきたトコだ。ブギーマン、遊ぼうぜッ!』 竜巻が駆け抜けた中で、コヨーテは楽しげな声を上げる。 エリューション兵器の暗躍も、霧の都で蠢く陰謀も、彼にとっては関係無い。生粋のバトルマニアにとっては、目の前に敵がいるというそれだけで十分なのだ。 『うるせぇ! スカした服着やがって!』 怒りの声を上げながらキマイラが合図をすると、密かに連れていたコウモリのそれを思わせる翼を持った獣達が姿を現わす。しかし、キマイラがそれらに合図を送るよりも速く、突如としてキマイラの胸板が切り裂かれる。 「貧乏人の僻みは醜いよ☆」 幻影の刃を操る道化師、終。 彼の見せるショーはまだ終わらない。キマイラが痛苦の声を上げるよりもわずかに速く、月を背に宙に舞うと目にも止まらぬスピードで双刃を煌めかせる。 するとどうだろう、周囲に霧が立ち込めてキマイラ達を包んでいく。 倫敦の天気は変わりやすいと言うが、それとは違う。終の刃が生み出した、氷刃の霧だ。瞬く間にキマイラ達は氷の中に閉じ込められていく。 範囲の外に免れたものが脱出を図り、先ほど主の機嫌を損ねた者を狙う。しかし、あえなく蹴りをもらい、迎撃されてしまった。 「すまんな、その行動は間違いだ」 不思議なことはそこから起きた。 オーウェンの蹴りを受けたキマイラは、狂ったように主に襲い掛かったのだ。 いや、これは不思議なことでもなんでもない。「Dr.Tricks」は戦闘論理を識り、全てを欺き、全てを操る。そんな彼にしてみれば、この程度のことは児戯に等しい。 そして、オーウェン(トリックスター)が隙を生み出したのなら、戦いを終わらせるのは疾風(ヒーロー)の仕事だ。 「街の人々をやらせはしないぞ!」 力強い宣言と共に疾風の速度は上がって行く。 そして、速度の上昇に合わせて、より一層力強く腕から伸びる刃で敵を切り裂いていく。 技術の粋を凝らして作られた装備と、鍛え抜かれた力と技。それらが合わさった時、勝ち得るものなどいはしないのだ。 戦いはこうして続き、着実にキマイラ達は数を減らして行った。 当初は回復能力を持つ者がおらず、負傷者が予想された戦場だった。しかし、リベリスタ達は巧みに相手の動きを封じ、自分達の被害を減らして行ったのだ。 なるほど、アークの過去の交戦経験と照らし合わせて、キマイラ達が強化されていたのは間違い無かった。しかし、それはリベリスタ達も同様。 「私達の名に敗北は、無い」 去年のクリスマスから、大きな戦いを経てきた。 さらなる力を求めて、深化の階梯に足を踏み入れた。 「貴方の想いはどうあれ、街に被害を出す訳にはいきません」 理想というのはこの上なく甘い毒。気付けばそれは少女の心身を蝕み、抜けることすら出来なくなっていた。それでも、ミリィは諦めない。 「直ぐにでも終わらせていただきます。さぁ、戦場を奏でましょう」 ミリィは真っ直ぐな意志を光に変えて、戦場を焼き尽くす。その中でキマイラはその醜い姿を晒して、怒りの咆哮を上げた。 『このションベン臭い小娘がぁぁぁ!』 「聞くに耐えないな、能無しが。改造で軽い脳ミソ取り上げられたか? いや、無いものを取れはしないか。代わりに空気を充填し見事なエアヘッドか」 ユーヌの呪いがキマイラの動きを阻害する。 本来、キマイラに与えられた識別名は「ブギーマン」。元となったEエレメントの力を利用して、呪いをばら撒く存在となるはずだった。彼が起こす竜巻も、その呪いの現れの1つである。 だがしかし、それはより深く呪いというものを理解したユーヌに止められてしまった。 そう、ただの「普通の少女」に過ぎない、ユーヌ1人に。 『お前さんのような貧乏人の足掻きほど楽しい物は無い』 そんなキマイラを嘲笑うオーウェン。目的はこのキマイラの撃破なのだ。逃げられては叶わない。そして、教授の言葉の網は確実に屈辱の表情を浮かべるキマイラを捕えていた。 そこへファイティングポーズを取ったコヨーテが挑発気味に声を掛ける。 『おいおい、大体さぁこんな平和なトコで暴れて楽しいかよォ?』 『黙れ、機械野郎! 俺はなぁ、幸せそうな奴らが大嫌いなんだよ! それを無茶苦茶にするから倒しいんじゃネェか!』 「要するにアレですか」 そこへようやく得心が行った、という口調でアラストールが口を挟む。 「××野郎とかナニとかよくわかりませんが、自分が気に食わないからで他人に危害を加えるのは如何なものかと思っていたのですが……ようやく分かりました」 生真面目な口調で淡々と語るアラストール。 言葉は伝わらずとも、それがキマイラの神経を一層逆撫でする。 「あなたはつまり、欲しい物が手に入らないからと泣いて喚いて当り散らす子供、ということですね」 『ヘッ、力無ェヤツ痛めつけるなんてヌルい力の使い方するよか、全力で抵抗してくる相手と命賭けあって戦う方が絶対ェ楽しいだろッ! オレが教えてやんよ、一緒に楽しもうぜッ!』 ある意味で空気を読まない2人の言葉に、キマイラは怒りの力で己に掛けられた束縛を解こうとする。 しかし、その時コヨーテの両手を覆う鉄甲に火が灯る。彼の身体が「負けねェ」ための武器と化した証左だ。 アラストールの剣もまた、神気を帯びる。人々の祈りの声が、悪を討てと叫んでいるのが聞えた。 「歪んだ妄執のために、誰かを傷つけることなど絶対に赦さない!」 舞姫が真っ直ぐな怒りと共に鞘に納めた刀を振り抜く。しかし、振り抜いた所で刃は止まらない。 足を切り、腕を断ち、相手に止めを刺すまで刃は敵に食らいつく。 そこへリベリスタ達の集中攻撃が襲い掛かる。 そして、舞姫が刃を再び納めた時、その背中でキマイラは爆発四散するのであった。 ● 戦闘の終了後、合流した『ヤード』の非戦闘員が事態の収拾に当たった。 もっとも、精々がリベリスタ達による「偽の騒動」を収集する程度のものだ。元々起きようとしていた被害の規模とは比べ物にならない程度のものだ。 「ふーん、なるほどなるほど☆」 『ヤード』から話を聞いていた終は、簡単にメモを取ると調査員に手をひらひら振って別れを告げた。 結局、『ヤード』も提示している以上の情報を掴めていないとのことだった。現状、彼らの動きは後手後手に回っている。あえて言うなら、ユーヌが利用した監視カメラに、タイミングよくこの場を去ろうとする不審な人影が見られた程度か。 だが、終は凹まない。 どうせ物事はなるようにしかならないのだ。 「それじゃ、倫敦観光はっじまっるよー☆」 せっかく来る前にこの街のことを調査したのだ。時間もあることだし、観光を楽しむとしよう。 ポジティブな所は終の美点だ。 まずはエスコートのなんたるかを学ぶところから始めるとしよう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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