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カーブの魔物

●魔のカーブ
 市街を離れ、奥まった山並みの中にそこはある。
「へへ、ビビって逃げちまったかと思ったぜ」
「ざっけんな。ぶっちぎってやっから覚悟しろよな」
 紅に染まる木の葉達が、夜だというのにその色を鮮やかに映している。
 数多の二輪達から発せられる光が、そうしているのだ。
「コースはここから麓の県道との合流点までだ。いいな?」
「おう」
 ガラの悪い集団の中にあってひと際目立つ二人の男。跨る機械は激しい異音を鳴らしていた。
「レディ……!」
 離れた場所で、同じ様な二輪車の座席の上に足をついた別の男が、言葉と共に手を振り上げた。
 数秒の沈黙。
「ゴッ!」
 発奮する声が、ソレの始まりを告げた。
 爆音を供にして、男達の乗ったバイクが走り出す。
 ここは彼ら現代のならず者達にとっての遊び場の一つ、愛すべきスリルと情熱の供給口。
 警察もまず現れないここは、彼らにとっての聖域。
 彼らは無思慮に、無鉄砲に、今この瞬間を楽しんでいた。

 勝負は中盤に入り、競争する二人を追う者達が興奮のボルテージを上げながら声を掛け合っていた。
「今日新記録出るんじゃね? めっちゃ早いべ」
「マジ二人ともパネェって。腹決めて来ただけあるわ」
「そろそろあそこじゃね? あれ、曲がり切れっかね」
「あ、確かに。……っべーわ」
 声の雰囲気が変わる。彼らの懸念事、このコースに棲む魔物について。
「今月入ってからもう何度か事故ってんだろ? まじやべぇよな」
「あの速度で事故ったら最悪死ぬんじゃ……」
「ひゅうっ、パネェわ!」
 興奮状態が、心に訴える危険信号を塗り潰す。彼らの中に、このレースの危険を注意する者はいない。
 競争する二人がそこへと差しかかる。
(踏み込まねぇと、あいつに勝てねぇ!)
(ブレーキったら、あいつに負ける!)
 互いに引くに引けない心のままで、互いにここが勝負所だと心に決めて。
 外野が語っていた場所、魔のカーブへ。

(このまま行けば勝てる!) 
 どちらかがそう思ったその時に、それは起こった。
 それは、後に現場を見た者達からすればただの操作ミスによる事故だと思われるだろう。
 だが、当人達はそれを否定する。
 彼らは見たのだ。
 魔のカーブに浮かぶ、恐ろしき物体を。そこから自らに向かって伸びる、無数の手を。
 それらに絡め取られ、体勢を崩され、彼らは転倒したのだ。
 しかし、それを彼らは誰にも伝える事は出来ない。
 何故ならば。
 彼らの心と魂は、彼らを見下ろす魔物へと取り込まれてしまうのだから。

●pull a cork out of a swamp "Sad"
「珍走団に、ダサイ族。今は色々な呼ばれ方をしていますが、要は暴走族ですね」
 フォーチュナ、天原和泉はそんな事を言いながら、集まったリベリスタ達に今回の件に必要な資料を配っていった。
 資料には『発生したエリューション・フォースについて』と銘打ってあり、どうやらそれの被害に遭うのが、彼ら暴走族のようだ。
「自らの暴走行為の結果事故を起こし、痛い目を見るという事であれば、……まぁ、自業自得という物ですが。今回は、そうではありません」
 彼らが近い将来巻き込まれる事故には、エリューションの存在が関わっているのだ。
「対象はある山道の一角、地元の人々が魔のカーブと呼び畏れている場所に溜まった思念の集合体です。フェーズの進行度は2、戦士級であると思われます」
 そこで事故に遭った死んだ人々の想念が、革醒を経てエリューションとなったのだと言う。
 望まぬ出来事によって命を落とした者達の無念や、事故に対する怒り、後悔等が凝り固まり、醜悪な怪物を生み出してしまったのだ。
「浮遊する球状の肉塊から数多の人の手が伸びた姿をしており、通り掛かった人間をその手で絡め取り、命を奪う。透明化できるらしく、一般人はその瞬間までそれを目に留める事が出来ません。そして――」
 その瞬間を見てしまった者は、もはや手遅れ。命を奪われ、その怪異の一部とされてしまう。
 潜伏し、自らの力を着実にため込もうとする典型的なエリューションだと言えた。
「場所が場所だけに、対象は既にかなりの力を溜め込んでいる物と思われます。倒すのは骨が折れるかもしれません」
 ですが、と。彼女は続けた。
「人々に仇なす存在を、私達『アーク』は見逃しません。リベリスタの皆さん、どうかその力を貸して下さい」
 眼鏡の奥の真っ直ぐな瞳で、和泉がリベリスタ達を見つめる。
 人々の負の感情が生んだ吹き溜まりのようなこの怪異を、今この時に何とか出来るのは、アークのリベリスタを措いて他には居ないのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みちびきいなり  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月01日(金)23:35
だいぶ間が開いてしまいました。お久しぶりです。
初めましての方は初めまして、みちびきいなりと申します。
今回の相手は人の念が生んだ怪物です。あとヤンキーです。

●任務達成条件
・エリューションフォースの撃破

●戦場
山道の一角、魔のカーブと呼ばれる一部の周辺です。
道は舗装されており、ほぼ二車線程度の道幅もあります。
時刻は夜ですが、度重なる事故により電灯が設置されており、明りが存在します。

●敵について
フェーズ2、戦士級。浮遊する肉塊型のエリューションフォース。仮称『魂塊』
無念や後悔、怒りの念などで凝り固まった存在で、体から生える無数の手で新たな仲間という名の犠牲者を作り出そうとしています。
以下はその攻撃手段です。

・伸びる手
A:攻:神遠単・大量の手が伸び、対象に襲い掛かります。神秘大ダメージ。[呪縛]
・絡む手
A:攻:神遠複付・手が伸び、対象を絡め取ります。[ダメージ0][呪縛]
・すり潰す
A:攻:物近範・巨躯を用いて周辺の者を押し潰し、溢れ出る瘴気が攻撃を受けた者を侵す。物理中ダメージ。[ブレイク][猛毒]
・肥大した想念
P:強:自 様々な想いが絡み合い反応し合い、形作っています。
 HP+300 速度-40 追:[飛行][麻痺無効][呪い無効]

●一般人
 この山道を夜間に利用する一般人はいませんが、その原因を作っている不良集団が依頼の晩にも居ます。
 不良集団はOPと同じく肝っ玉比べと称して危険行為に及ぼうとしています。
 彼らを寄りつかせない為の対策が必要です。

様々な理由で彼らの想いはそこに溜まってしまったのでしょうが、
形を得、害悪となった今、それを留めておくのは危険です。
余計な邪魔が入らない様にしつつ、しっかりとその想念を解放してあげて下さい。
如何にして勝つか。リベリスタの皆様、どうかよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ダークナイト
小崎・岬(BNE002119)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
レイザータクト
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
覇界闘士
片霧 焔(BNE004174)
マグメイガス
蔵守 さざみ(BNE004240)

●ヤンキーゴーホーム
 その日の晩の入り、彼らはいつもの様に山中のパーキングに屯していた。
 互いに憎きライバルである相手を打ち負かす為、度胸試しをする為に。
 周辺にはそれぞれの仲間達がいる。口々に囃し立て、激励し、熱を上げていく。
 このボルテージが最高潮になった時、戦いが始まるのだ。
 と、彼らの元に三台のバイクが麓の方、今日のコースの方からやけに慌てた様子でやってくる。
 ここからコースの下見に向かっていた連中だ。
「おい、どうし……」
「やべぇ! 下にサツがいるぞ!」
 その言葉で、集まった不良達に大きな動揺が走った。
「何だって!?」
「あいつら抜き打ちで検閲してやがったんだ! 魔のカーブ辺りで、何か嫌な予感がすると思ったらこうだぜ!」
「パトの他に輸送用のバンまで用意してやがってよ! ありゃ間違いなく俺ら向けの一斉検挙だ!!」
 口々に必死で訴えるのは危険信号。
 中にはそれがどうしたと構える者も居たが、その殆どは逃げ腰及び腰となっていた。
 筋金入りの不良といっても、元より警察を避けてこんな山奥で暴走行為を働いていた者達である。
 何よりも恐れ、避けたいと思っている物の接近に、彼らの燃える様な心は急速に冷やされていった。
「ちっ、今日は日が悪いな」
「……みてぇだな。しゃーねぇ。勝負は預けるぞ!」
 今日競い合うはずだった男達のその言葉で、不良達の行動方針が決まった。
「ずらかれー!」
「捕まって堪るかよ!」
「バーカバーカ!」
 悪態をつきながら、不良達は山向こうへと逃げていく。
 そんな中、余談ではあるが並走するある一群ではこんな会話があったとか。
「けど」
「あん?」
「通行止めしてた婦警さん……可愛かったなぁ」
「………」

●カーブの魔物
「思ったより上手くいきましたね」
 去っていくバイクを遠目に確かめて、婦警姿の『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は満足気に息を吐いた。
「婦警、バン、パトカー(の幻影)。ここまでやれば物の信憑性は充分だわ」
 イスタルテの言葉に続いて語る蔵守 さざみ(BNE004240)は、周辺に僅かな変化も見逃すまいと視線を交わしている。
「弱り目に結界が効けば、こうなるのも自明の理だろう」
 尻尾がゆれる。『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)はそう言って、少し離れた場所で集中する仲間の一人へと目を向けた。
「んー……ん、よし」
 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は、自らの展開した陣地が確かに機能したのを認める。
「捉えたよ」
 そう言い頷く寿々貴から、五月は視線を移す。
 身構える『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の眼前。漆黒の闇を開放し纏う『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)と、二丁の拳銃を抜き深い集中状態となった『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が後衛への射線を塞いだその先。
 いつの間に現れていたのだろう。
 おぞましく、醜悪な塊が浮かんでいる。
 人の負の念が凝り固まって覚醒した、エリューション・フォース。それは『魂塊』と名付けられていた。
「―――――……!」
 ぐじゅぐじゅと変化する体表から、数多の青白い手が伸びている。
 様々な想いの果て、この地で命を落とした人々の想念が形作っているそれは、ただ仲間を増やそうとするのみ。
 身に起きた不幸を他者へと与え、同化し力にせんとする悪意の手だ。
「スピードの出し過ぎで勝手に事故る連中なら自業自得。馬鹿は死ななきゃ直らない……よく言ったものだわ」
 でもね、と。語る焔の言葉が続く。
「“それ”が私達の領分だって言うなら、見過ごせない」
 彼女の赤い瞳が揺らめいた。
 眼前のモノは、世の理を大きく逸脱した存在。摂理を破ったモノの蛮行を彼女は、リベリスタは見逃さない。
「それでは、さくっとコロがしてしまいましょうか」
「後ろしか見えねぇ腐った残留物はさっさと仏っちめるとすっかー」
 中距離に陣取ったあばたと岬が動き出す。
「アンタレス!」
 岬が叫び、振り抜いたハルバード――アンタレスの動きを合図に、瘴気の闇が舞い踊る。
 魂塊の巨体が動き、戦いが始まった。

●不運と踊れ
 放たれた瘴気の闇が避けようとする魂塊を捉えた。
「―――」
 口のない魂塊は、その苦しみを手を伸ばし暴れさせる事で表現する。瘴気に中てられた部位が壊死し、溶け落ちた。
「そこ!」
 突き上げ、相手の体表を跳躍と共に放った焔の炎熱の拳が抉った。
 ブロックに入った焔とアラストールは、二人以上でならば敵の動きを抑えられるだろうという結論を得ていた。
 しかし、相手は飛行している。早急な対抗策が求められた。
 焼き焦がされ、瘴気に冒された魂塊の体は、すぐさま新たな肉の壁をそこに作り出し、元と同じ姿に戻る。
 即座にあばたから正確無比の弾丸が撃ち込まれるが、それも同じく塊の中へと消えていった。
 見た目に傷を負った様に見えないのは、その巨躯と合わせてどれ程のプレッシャーをリベリスタ達に与えているだろうか。
「…!? ―――!!」
 魂塊が身震いと共に全身から無数の手を生み出し、伸ばし、中衛までをも巻き込んでその動きを阻害する。
「くっ」
「こ……んのっ!」
 本体から伸びる手が、あばたと焔を捉えた。二人の体は這い回り締め付ける無数の手に束縛されてしまう。
 抗い難い呪縛の源は、彼らの呪怨の念に他ならない。
「理由はどうあれ、事故を起こしたのは自分自身でしょうに」
 その脇を、低い姿勢でするりとさざみが駆け抜けていった。
「その怒りは自分自身に向けなさい。はっきり言って、見苦しい上に鬱陶しいわ」
 肉薄し、魂塊を捉えた時。彼女は大きく開いた手の平を力強く握り込んだ。瞬間、彼女の拳に四色の光彩が這う。
 四色を纏い蒼く輝く手甲を、さざみはそのまま魂塊へと打ち込んだ。
「――――!?」
 飲み込みきれなかった閃光が魂塊の背面から弾け、噴き出す。衝撃を知らせる砲音が響いた。
 即座に形は取り戻すが、確実にダメージの蓄積を知らせたその動きは、リベリスタ達の中に勝機がある事を確信させるのに十分だった。
 不意に、彼らの体を浮遊感が襲う。
 イスタルテの翼の加護が、彼らへと発動したのだ。
 それに続く寿々貴の支援が、彼らの戦闘力を底上げしていく。
「ローテーション、出来るか?」
「了解!」
 低空飛行で前衛傍へと接近した五月と、仲間のブレイクフィアーで一足先に呪縛を振り解いていた焔が頷き、入れ替わる。
 眼前に、蠢く塊を彼女は見た。
「君……一人じゃないか、君達か。初めまして、メイだ」
 聞こえているかも分からないが、彼女は紫色の刀身を振り上げたまま、語りかける。
「君達が欲しくて堪らない命をこうして戦いに投げ出す愚か者の言葉だが、どうか聞いてはくれないか」
 伝えるのは、その刃で。それが答えで、彼女の意志だ。
 誰かを守る為に振るわれた殲滅の闘気が、刃と共に魂塊を真正直に寸断した。
「――――――――ッッッ!!」
 吐き出されるままに生えてくる大量の手が、苦しみもがく様に蠢いている。
 無造作に伸びる無数の手が、避ける暇も与えずに五月を捉えその小さな体を締め上げた。
 直後、その場で魂塊の体が膨張する。
「――!!」
 捕まっていた五月を、入れ替わり際の焔を、さざみを、アラストールをその巨体が呑み込んだ。
 そのまま巨体はコンクリートの上へと身を落とし、衝撃と共に四人を押し潰す。
 体表から、毒々しい色の霧が吹き出した。
 一撃の巻き込まれた彼女達の叫びすら隠して、しばらくの後それは体を再び浮上させる。
 攻撃を受けた面々はよろめきながらも立ち上がったが、そのダメージは表情に色濃く浮かんでいた。

●深淵ニ在ル物
 それから幾度目かの攻防をこなしても、戦いの決着は未だ付いていなかった。
 リベリスタ達は焔達により伝えられたブロックの人数を守り、ローテーションを組んで前線を維持する作戦を採っていた。
 中衛に立つ者が後衛への射線を封じる事で、動きを阻害するべく絡む手の攻撃からイスタルテと寿々貴を守っている。
 最も、例え守りを抜かれても、麻痺や呪縛を跳ね除ける力を持ったイスタルテには通じない。
 そして彼女達が健在ならば、広域に渡る支援と回復が前衛と中衛を癒し補助する形となる。
 相手取る魂塊も異常なまでの耐久力を発揮しており、戦いはジリジリとした持久戦の様を呈していた。
「……ふむ」
「?」
 戦いの最中に呟きを聞いたイスタルテは、並び立つ寿々貴が深く遠い目をしている事に気が付いた。
 その目は視界の先に戦う仲間達の姿と特に敵である魂塊を捉えて、しかしもっと違う場所を見ている様な気配だ。
「すずきさん?」
 自己紹介に聞いていた呼び名で彼女を呼ぶ。するとその虚空の瞳が、ふいとイスタルテの方を向いた。
 ゆっくりと、彼女の瞳に光が戻る。
「ん? ああ。うん。大丈夫。ちょっと、色々、覗いてたんだ」
 ややカタコトめいた言葉遣いが少しだけ不安だったが、すぐに仲間の支援に戻った寿々貴を見て、イスタルテもまた戦場へと意識を戻した。
 呪縛を受けた仲間達に癒しの加護を送りながら、寿々貴は僅かに瞳を細めていた。
(支離滅裂。そういう言葉が似合うのかな? けど、そのもっと奥、そこに共通する物があった)
 眼前に生み出された神秘、その深淵を覗いた彼女が理解した物。
 それは多くの無軌道な感情の流れと、全ての根底に存在した、深い恐怖と、深い悲しみだった。
(恨みつらみは結局の所、表立って形になったってだけで、その本当の所はやっぱり……)
 それを理解してしまえば、その姿の本当の意味も理解できた。
「手を伸ばすのは、誰かの足を引っ張る為なんかじゃなくて……ただ、助かりたいだけなんだね」
 小さく呟いて、寿々貴は本を持たない方の手を持ち上げる。
 そして、
「皆、相手の弱点。分かったよ」

        ※        ※        ※

 彼女がもたらした情報、それは。
「攻撃した直後の手を狙うの?」
 中衛で前衛のサポートを続けていた岬が、きょとんとした顔でそう言った。
「ふむ……なるほど」
 傍で同じく話を聞いていたさざみが、今まさに行われた焔と魂塊の攻防を観察し、得心を得る。
「どうやら間違いない様ね。攻撃直後の手は隙だらけで、簡単に対処する事が出来そうよ」
「けどそれってダメージはいくのかな?」
「あれは手も含めて全部が塊なんだよ。だから、攻撃はどこに仕掛けても同じ。なら、壊し易い場所を狙うのが」
「定石、と」
 寿々貴の言葉を拾ったあばたが、その精密な射撃を指示通りの場所へと届ける。
 弾丸の当たった手はあっさりと弾け飛び、その周囲の手が痛みを示す様に蠢いたのを彼女は確認した。
「了解、やってみるよー」
 確証を得て、岬達もそれに倣い戦術を変更する。
 元より敵の行動を鋭く観察していたさざみと、対応するべく動いていた岬にとってそれは容易な事であった。
 そこからの戦いは、大きくリベリスタ達優勢へと動き始めた。
「―翔けよ、烈火ッ!」
 宙に舞う焔の武闘が夜景を赤く染め上げる。奔る武技の紅蓮が魂塊を圧倒した。
「止まれないのなら、止めてあげる。私の炎で全部燃やし尽くしてあげるッ!」
 その一撃で大きく仰け反った魂塊を、追う様に切り結んだ五月の斬撃が再び切り裂く。そして返す刀で、幾らかの伸びた手を切り捨てた。
 この敵は何を思っているのだろうか。仲間の一人は何かを察した様だが、自分には推し量る事しか出来ない。
(だがもしも、それが辛く悲しい想いなら……)
 彼女の刃は、その苦しみから護る為に、解放する為にも振るわれるのだ。
 続くアラストールの攻撃が魂塊を捉えた頃には、敵の弾けんばかりだった巨躯が二回りほど小さくなっていた。
 結合も弱まっているのか、結び目が解けるかの様に所々にほつれも見えた。
 あと一息。リベリスタ達の瞳に再び強く闘志が浮かぶ。
「アンタレス!」
 岬の声に従い、中空に多数の瘴気の暗黒が生み出される。
 さあ、と彼女が言った。
「物理的な成仏の時間だ! コラァー!!」
 振り下ろされた禍々しき相棒に押し出される様に、彼女の生命を吸った数多の黒が魂塊を穿つ。
 ほつれに沿って染み込む様に潜り込んだ暗黒が、魂塊のほつれを更に広げた。
「とーおりゃんせ、とおりゃんせ」
 不意に聞こえるわらべうた。それと同時にほつれを繋ぐ最後の糸の様な物が、通り過ぎる弾丸に破られた。
「天神様の細道も今日で終わりだ」
 弾丸の主、あばたの言葉を最後に。魂塊は己を維持する力を失って解けていった。

●鎮魂
 戦いが終わった戦場は、今はもうただの山道である。
 街灯に、事故多発を注意する看板が僅かに照らされていた。
「……ん」
 リベリスタ達は銘々に飛行を解除しながら、静かな自然音の中へと降り立つ。
 不良達は、今日はもう帰ったらしい。再びやって来るような気配はない。
 ふと、視線を向けた先に、薄汚れ、壊れた献花台と、枯れて久しい花だった物が映った。
 すぐ傍のコンクリートには、道を誤った者達の跡が生々しく残っている。
「ここがレース会場になり続けるなら、そう遠くない内にまた出てくるかもね」
 タイヤの跡を見下ろしながらさざみが呟く。その表情は陰がかかり窺えない。
「しかしなんだ、複数回事故が起こってるのに役場は何もせんのかね」
 寿々貴の不満は、戦いを終えて更に深くなっている様だった。
 見下ろす街灯が答えだとしても、それで納得など到底出来そうもない。
「エリューションの事件はこれで終わっても、人が起こす事故はまた違う問題なんですよね」
 不良達が去っていった方角を見ながら、イスタルテの懸念が口から零れた。
 人の起こす事故も、エリューションの起こす事件も、どちらも人の命が脅かされる。
 しかし彼ら『アーク』が取り扱うのは専ら後者の方である。
 怪異は、絶った。
 彼らの仕事は、それ以上を求めるものではない。
 だが、
(彼らの心を、そのままにはして置きたくないんだよね。やっぱり)
 寿々貴の様な思いを抱いた者が、この場には複数居る。
 ならば後日にでも手を打つのは個人の自由だろう。
 何故なら彼らも、人なのだから。

 ――その後、魔のカーブはその悪名を高める事は無くなったという。
 新しく作られた献花台には、その日も花が添えられていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
無事依頼達成です。

不良グループ対策はこれでもかという位に仕掛けられ、回復役の後衛を守りつつ前中衛のローテーションと戦術面でも効果的な作戦を実行しておられました。文句なしの成功と言えるでしょう。

強いて言えば「交霊術」等があれば、すずきさんの望みは叶えやすかったかもしれないです。

悼む気持ちを持ったプレイングを複数頂きましたので、締めはああなりました。
彼らの魂も、浮かばれる事だと思います。

楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
また機会ございましたらよろしくお願いします。