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誰そ彼、苔生しの石段

●石段昇れば
「待って! もうっ」
「春奈! はやくはやく!」
 苔の生した石階段を、三人の少女が駆け上がる。
 黒いポニーテールを揺らす快活な少女が、一番下の石段を踏む少女を急かす。
「カリンちゃん、急ぎ過ぎだよー」
「マイと春奈がゆっくりしすぎなの!」
 間髪いれずの言葉に、のんびりとした声の主は肩を竦める。
 急かされる少女――春奈は石壁に手をつきながらなんとかついて来ていた。
 石の積まれた壁も階段と同じく苔生している。

 陽は傾き、空は鮮やかなオレンジと薄い青紫のグラデーションに染まっていた。
 山の細木の隙間から夕陽は射しこんで眩しく、昼間の太陽が残した熱にじわりと汗ばむ。
 きゃあきゃあとはしゃぎながら、少女達は石段の先にある幽霊の出ると聞いた、学校跡地を目指す。
 ちょっとした冒険心、それだけだった。

「……ねぇ、変じゃない?」
「え?」
「……かなりこの石段、長いよね」
 ぐるぐると螺旋状に同じ場所を回っているような、目が回るような不快感。
 いつまでも落ちない太陽――経過しない時間。
 ゆっくりとカリンが足を止め、マイが首に下げた防犯ブザーを握る。
 休み休み必死でついて来ていた春奈は、気付いていなかったようで目を瞬かせた。
 そんな三人の内で一番幼い少女に、ほんのわずかに不安が和らいだ。
 先頭を歩いていたカリンが心細さに一段、沈まない太陽に背を向けて引き返す。
「迷った? でも」
 一本道だよね? その言葉は音に成らず、空気を震わせなかった。
 代わりに風を切るような鋭い何かの音が微かに聞えた。

 それは突然のこと。
 カリンの頭が飛んだ。
 二人の少女が目を見開いて、呼吸を忘れる。
 一寸、遅れて赤い飛沫が散り、うっすらと紅潮していた少女の頬は別格の紅に彩られた。
 緑の苔に覆われた階(きざはし)も、蔦の絡まった細木もべったりと濡れる。
 身体だった物が傾き、夕陽色の何か飛ぶ刃によって千切られる。

 がくん。
 膝が崩れた。
 足は苔で落ち葉で、滑る。
 一段下に尻もちをつく。湿り気を帯びてべったりとした、苔の感触が気持ち悪い。
「……カリ、ン?」
 茶色の土ごと苔を掴んで、ようやくマイの口から掠れた声が零れる。
 呼ばれた少女の声はもはや無い。
 その頭を持つ人形がころころ、ころころと、裂けた口で嗤った。

●首狩りの昔話
「ここには、昔話があったみたい。首を盗られるって……怪談」
 かつて栄えた田舎町。その町の小山にあった、小学校と町を繋ぐ石の階段。
 日中は良くとも陽が落ちれば暗い山道には変わりなく、どうやら少女に乱暴をする輩も出たそうな。
 それに対し、せめて少女だけで帰らないよう、そう講じての怪談だったのかもしれない。
 その地にも近辺にも首狩りのような類の逸話は無かったのだ。
 彼女達も消えかけていた昔話は知らなかったかもしれない。
 もっとも今となっては真相を知る術もなければ、その真相に意味もなかった。
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と昔話を告げて、本題に切り替える。
「見つける……誘き出すのは簡単。石段を登り続けて、引き返せばそれが開戦の合図」
 首を狩られた少女と同じ事を、そう彼女は言う。
「エリューション・ゴーレム、フェイズは2。周りの刃はフェイズ1のエリューション・フォース」
 言い終えたところで軽い音を立てて少女の手がキーを弾く。
 不意にモニター半分に血濡れの人形が拡大される。意識するよりも先に、背筋が泡立った。
 捨てられたのか、忘れられたのか――血に泥に汚れた日本人形。
 首はぐらぐら。顔の一部は欠けて口が裂けて見える物が、E・ゴーレムの正体らしい。
「識別名『首狩り』、こっちは一体だけ。
 次……E・フォース、『狩刃』は刃状で四体。『首狩り』の意思とリンクして動いてるみたい。元々の感情は不明」
「不明?」
「正確には、……混濁とし過ぎていて分からない。絶対に良い感情では、ないけどね」
 リベリスタからの当然の問いに、ついと少女はオッドアイを逸らす。口にし難いと言うように。
 それ以上を口にせず、イヴが再びキーを叩く。
「戦場は、『首狩り』が創り出した現在の石段の模倣空間。
 だから討伐の順番には注意した方が良いと思う。模倣空間の中なら、『狩刃』に逃げ場はない」
 逆に模倣空間が失われれば、『首狩り』の支配下から抜ければ『狩刃』は無秩序な斬り裂き魔となるのだろう。
「『狩刀』の戦闘能力はシンプルに、素早い斬撃に特化してるタイプ。
 ……『首狩り』はちょっとした自己再生と呪縛系が厄介だと思う。
 それと、ノックバックに近い攻撃方法もあるから、階段から落ちないでね」
 転がり落ちたらまた登る必要性を指摘して、資料のページ数が告げられた。
 リベリスタ達が真剣に目を通す傍らのモニターで、一人の少女の顔写真がピックアップされる。

「それと、あの子達の中の一人、春奈――西木春奈(さいき・はるな)とは連絡がつく。
 必要があれば……彼女の出来る範囲でなら、協力してくれると思うよ」
 以前、それもつい最近、リベリスタに助けられた子だという。
「あとは、お願い」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:彦葉 庵  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月05日(金)22:03
 彦葉です。怪談系を目指したのですが……普通の戦闘な気がします。
 以前お世話になったNPCが顔を出していますが、お気になさらずにどうぞ。

●任務
 E・ゴーレム『首狩り』及びE・フォース『狩刀』の全討伐

●舞台
 苔生した石段。左手は石造りの壁、右手は細木のまばらに生える斜面です。
 横は成人男性が二人、少し余裕を開けて歩ける程度。足場は非常に悪いです。
 戦闘開始時点では『首狩り』の模倣空間内です。
 模倣空間が解けた場合は現実の下に降りれば町、上に登れば学校跡地の石段となります。

 リベリスタの皆様の到着時刻は、講じる手段によって変動しますが目安を。
 すぐに向かえば、少女達が石段を登る手前。
 購買部以外で何かを購入するなどの事前準備をした場合、カリンが首を駆られる寸前です。

●三人の少女
 カリン:ポニーテールの少女。快活で意地っ張り。『首狩り』最初の被害者。
 マイ:14歳で三人の中で一番年上。おっとりマイペース。
 春奈:一番年下で、『<相模の蝮>速贄カウントダウン』でリベリスタに救出された少女。
    一般人。携帯電話での通話が可能。(タイムロスにはなりません。)
    リベリスタなどの単語は理解していません。

●敵情報
『首狩り』×1、フェイズ2。30cm程の大きさ。
・模倣空間:P/現実の空間を模倣した異空間を形成。
(リベリスタ以外に迷い込む可能性があるのは、少女達のみ)
・可愛いお人形:P/自/HP微回復
・飛行:P/自/飛行ペナルティ無効
・鞠つき遊び:物範/ノックB
・捨てないで?:神遠全/呪縛、不吉
・首を頂戴:遠全/弱点

『狩刀』×4、フェイズ1
・首狩りの宴:物全(発動条件限定)/出血
・浮遊:P/自/飛行ペナルティ無効
(空中に浮遊していますが、近接攻撃は可能です。)

●備考
『首狩り』は少女を優先的に狙うようです。
リベリスタに限り性別年齢を問わず、自分は少女であると宣言した場合、そのように『首狩り』は認知します。

 これより先の運命は皆様の手に。
 どうぞよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
★MVP
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)

●薄明の知らせ
『はい』
「もしもし? こんにちは、……春奈ね?」
 柔らかな髪を風に遊ばせたまま、『薄明』東雲 未明(BNE000340)は西木春奈に語りかける。
 携帯電話から小さな肯定の声が聞こえて、彼女は同行するリベリスタ達に目配せをする。
「あたしは東雲未明。……色黒のお坊さんを覚えてる?」
『あ……』
「あたしは彼の知り合いなの」
 名前を確かめたときよりもずっと早く、どこか高揚した声音で返って来た反応。
 息を呑んだ気配。
 一連の反応に、未明が紫の瞳を細める。以前リベリスタ達に救い出された一件は少女にとって非常に大きいことである……そう容易に判別できた。
「よく聞いて。近くに学校跡があるでしょ? そこに、またそういう人がいるそうなの」
 少女は再び息を呑んだ。かつての悪意への怯えのせいか、ただ言葉がままならぬのか、少女は黙り込む。
 移動中ゆえの、風を切り奔るエンジン音が沈黙に響く。
「以前の事件もあるし、一応連絡しておこうと思って」
『さっき! さっき…肝試しに、行こうって……言ってました』
「お友達と一緒にそこにいた方がいいわ。あたし達で危険が無いか確認するから、ね?」
 動転した少女に、穏やかに言い聞かせる優しい声。
 二、三拍の間を置いて、未明の耳に「はい」と音が届いた。

●階段下の遭遇
 リベリスタ達は小回りのきくスクーターを使い、少女達を危難から救うべく目的地へ急行していた。
 殆どは二人乗りになり、急ぎ飛ばしたために道中、目を付けられもしたが――。
「今日だけ見逃してね、オマワリサン!」
『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)がウインクをサービスして、バイバイと手を振る。
 神秘的な魔眼を伏せ、風を感じる。目的地は近い。

 目的地、苔生しの石段で八人のリベリスタが遭遇したのは、石段を見上げる少女――西木春奈。
 少女はスクーターの音に肩を跳ねさせ、凝視の対象をリベリスタに移し瞬く。
 春奈にとっては初めて見る人ばかり、しかもカリンやマイと同じくらいに見えるお姉さんも多い。
「おやまぁ」
 一人で佇んでいた少女――春奈に向かってはじめに口を開いたのは『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)だった。
「悪い子だねぇ。いけないって言われたんだろ?」
「……ごめんなさい」
 生き残った者特有の鋭さを宿した瀬恋の眼光に身を竦めながら、春奈が素直に頭を下げる。
「春奈」
「未明さんも、ごめんなさい。でも、あの電話から誰も降りてきて、ないです」
 聞いて間もない声に弾かれて少女は未明の姿を初めて見、彼女に向けて懸命に言葉を紡ぐ。
 確かに友人留まるよう言い聞かせた少女の言葉に未明が小さく息を吐く。
 瀬恋がやれやれと肩を竦める。何も知らず陽気に暮らせることの贅沢さを知る彼女は、少女達にその贅沢を一生味わってほしかったのだが――。
「まったく、自分から頭突っ込んじゃ世話ないね」
「……ありがとうございます、春奈さん」
 思案し『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)が柔らかな笑みを浮かべ、少女と目を合わせる。恩人の友人達の役に立とうと、そして自らの友人を守るための少女なりの行動なのだろう。
「日が暮れたら真っ暗になりますし、もう大丈夫ですから」
「そう、早く御帰りなさい。いい?」
 スクーターの鍵を指先でくるりと回し、おろちがぽんと少女の肩を叩く。春奈が彼女を振り向き、石段の脇にスクーターを駐めた面々を見つめる。
『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が灰色の髪を撫でつけ、きちりと帽子をかぶり直しながら歩み寄る。
 識別名『首狩り』のいる、夕陽が射し込む石段を一瞥した『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)に並び、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が続いた。
 少女達を守らねばならない。しかし何故、こんな場所で首狩りは……一人で居るのか。
(――いや、先ずはやめよう。それが、俺の出来ることだ)
 オレンジ色の光が映り込む真っ直ぐな黒い双眸を眇め、拓真が思考を切り替えた。
 苔生すほどの怪談は真実を語らず、ひたすらに静寂を保つ。
「……よし」
 瞬きの間に拓真の視線の先、階段の傍らの電柱前に『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が現れていた。
 天乃の普段を知る人が見ていれば、余り動かない表情がほんの僅かに緩んで見えたかもしれない。
 彼女が白いリボンで結われたツインテールを揺らし、電柱から離れたときには既に静かな表情に戻っていた。
 電柱には、張り紙が残される。学校跡地に不審者出没、夕方以降の出入り自粛の旨が書かれた一枚。予定した看板が、準備と運搬の簡便さから張り紙に変化した次第である。

 八人のリベリスタを前に、春奈は深く頭を下げた。
「お願いします。それと、その……気を付けて、ください」
 行動も気遣いも不要だろうと察しながら、言葉は口をつく。そして、踵を返し少女は田舎道を駆けて行く。
 その姿を認めて六人が階段へ向かう。
 途中振り返った少女の姿に、頬を緩めていた虎鐵が小さく手をあげて応え、見送っていた未明が横目に彼を見る。
 それを何と思ったのか。
「う、浮ついてなどいないでござるよ! 嫁一筋でござる!!」
 びく。
 突然の言葉に少々面食らいながら、未明が曖昧に頷く。
 ついつい癖で、少女を目で追っていただけのこと。彼に浮気ではないのでござる。

●苔生しの怪談
 八人が揃い、階段を登る。
 踏みしめる階段は苔に覆われたせいでじんわりと柔らかく、石段と思い歩けば奇妙な気持ち悪さを抱く。
 細木の合間から、ちらちらと目に入る夕陽の黄金色がいやに眩しく感じられた。
 どこから『首狩り』の居場所が始まったのか、誰にもわからない。
 しかし数分も歩けば気配は変わり、湿りを帯びた苔や土独特の匂いが濃くなっていた。
「そろそろ良いでござるか」
 先頭を行く虎鐵が前を見たまま後続に声をかける。
 サングラス型の幻想纏いに触れ、大太刀を手に携えれば刀身にオレンジ色の光が反射した。
 それぞれの武器を幻想から現実に導く、振り向かず足を戻さず配置につく。
 虎鐵がさらに三段上ったところで大和の声が響く。彼女の纏っていた柔和な空気は息を潜め、影が顔を出す。
「準備、できました」
 声を合図に静かにギアを上げた虎鐵が一段、二段と下りる。守護の光鎧を纏ったウラジミールが、口を開く。
「任務を開始する」
 ――青い視線の先には、赤い着物の日本人形が、ふわり。

「上にいます!」
「承知!」
 大和の熱感知には熱を発さぬ怪談人形と思念の刃は捕まらない。代わりに、注視していたことにより、西日で出来た影が彼女の目に飛び込んだ。
 彼は振り向き際、垂直に降って来る狩刀を大太刀で弾く。滑り止め代わりの靴に結び付けたロープが石段の苔を抉る。
 そして人形を一喝する気迫を持って宣言する。
「拙者が少女でござる!! 可愛い可愛い少女でござるよ!!」
 幸い一瞬の静寂もなく、二人が地を蹴る。
『少女』の左手脇を天乃が、右手の斜面を拓真が擦り抜け、目指すは敵後方。
 目前の対象に狙いを定めた首狩りは二人に目もくれず、指先のもげた小さな手を翳す。
 狩刀の標的は虎鐵、そして――齢十四の大和。
 宣言をすれば『少女』でなくとも少女と見做されるが、宣言をしなければ少女と見做されないわけではなく――『少女』は狙われる。
「ッ、マイちゃんって子も14歳だったかしらね」
 歯痒げにおろちが緑の瞳で首狩りをねめつける。
 狩刀の行く先を見ればリーディングの手間は省けたが、仕込み杖のみでは届かない位置に漂う首狩り。
 睨んだまま、大和を狙って突き進む狩刀の一本を擦れ違い様に抜き身で撫でつけた。
 疾駆する刃が大和の肌に一筋の傷を付け、地を蹴った未明の剣がそれを追う。
「大和、瀬恋、伏せて」
「おっと!」
 理解よりも先に、声に従って伏せ避ける。
 闘気を纏った彼女の剣が岩壁に狩刀を打ち付け、石の破片を派手に散らした。
 ほぼ同時にウラジミールが大和にオートキュアーを施して傷を癒す。
「三輪嬢、大事無いだろうか」
「はい」
 頷きを返す。標的になったことは予定外ではあるが、影で覆う傷は深くない。
(寂しくなって友達が欲しくなった? いえ……、自分だけが何故という恨み?)
 大和がボロボロの日本人形を見上げる。彼女が操る狩刀の刃物らしからぬ鈍重な痛みは後者に近いものを感じた。
 だが首狩りに繋がる糸は苔生して途切れている。まして、どのような事情があれど外の世界に逃し、日常を謳歌する命を散らせるわけにはいかず。

「ったく、鬱陶しく飛び回るんじゃないよ!」
 未明が刻んだ刀身の傷に咆えた瀬恋の銃弾がめり込み、土苔の匂いを硝煙が打ち消していく。
 大和の手から、切っ先に死のカードを伴ったダガーが離れ、突き立つ。同時に数多の人の怨憎の声を反響させ、一つの狩刀が消える。
「ふん、おぬしの刃はそんなものでござるか?」
 少女宣言によって囮となり、猛攻に手負いになった虎が唸った。
 首を狙って逸らされ、肩口に刺さった狩刀を抜きからりと言ってのける。
 傷口に毒を残されたような熱を感じながら、その痛みを凌駕して大太刀を一閃。
 大和、おろちに続き、ウラジミールによって虎鐵にオートキュアがかけられた。
 ぐらりとよろめいた狩刀をおろちの細刀が砕き、消え様の叫びに眉を寄せ……片耳を手で塞いだ。
「いやね、この恨み辛みの大合唱は煩くって」
 
 虎鐵達と首狩りを挟んだ反対側。
「……動かないで」
「行くぞッ!! 最初から、本気で行く……!」
 天乃の気糸が蜘蛛の網巣の如く、狩刀を絡めとる。そこへ余す力を纏った拓真のメイスが断続的に打ち込まれる。
 ほぼ逃れる術もなく、狩刀は叫びに姿を変え模倣空間に霧散していく。
 残る一枚の思念もおろちの気糸にとらわれ、瀬恋の的を射る射撃と大和のカードを浴びて疲弊。
 重厚なウラジミールの一発の弾丸による鉄槌の審判が、作戦第一段階の終幕を告げた。
 逃走の危険という芽は摘まれ、残るはその花咲く本体。
「おどろおどろしいお人形サン。……ここでサヨナラよ」

 第二段階。
 リベリスタは肝を攻めあぐねていた。
 攻撃射程から離れる首狩りもある種同義だったが、首狩りは自分の世界で飛び回り、標的の隙をひたすらに探っていた。
 じりじりと削り合う状況には時間間隔を喪失させ、冷静な者達にも苛立ちが忍びよる。
「迎えに来たんだ!」
 これ以上の虎鐵、もとい少女への追撃は拙いと拓真が放った言葉に首狩り――少女はぴたりと止まった。
 何も遮られぬ空間で突如硬直した人形があるだけ。どこか薄気味の悪い奇妙な光景だった。
 人形の表情は不変で、仮に首狩りが少女の形のままだったなら……どんな顔をしているのか。
 戦いの前のように過る思考。それでもすべき事を思い起こし、彼は詰った言葉を続ける。
「帰ろう。こんな所にもう居る必要はない!」
「……うん。隙、あり。鬼さん、こちら」
 一陣の風が過ぎ、天乃が土を蹴る。
 バランスを保ち面接着で細木を足場に変え、華奢な身体が跳ねてくるり、宙で回り。
 際どくも鉄壁の衣を翻し、拓真の言霊に縛られたかのような首狩りの脳天に踵が落ちる。
 首狩りは重力に従い墜落。落下の最中、半透明の毬を宙に放った。
 数人が衝撃に身構えた瞬間、無音の爆発を起こしたかの如く、毬は弾ける。
 鈍い音と何かが割れる音が鳴った。
「っぅ……くっ」
「天乃! 無事か!?」
 宙で受けた天乃が一度足場にした細木に身体を打ち付けた。
 多少後退したに留め抑えた拓真が駆け寄る。
 彼の居た斜面の土に対しロープが引掛りとなり、打ち付けはしたものの彼女よりは格段に軽い痛みで済んでいた。
「石段より、平気。……あと、は……きっちり、退治しておかないと、ね」
 咳込みながらも彼女は木に手を付き、残る片手で新たにダガーを手に取る。
 階段に生まれ落ちた、想った少女を襲う怪談の皮肉に終止符を打つために。

「大丈夫ですか?」
「平気?」
「ほいほい、気を付けな」
「ああ、平気さ」
「……坂本嬢、すまない」
「かたじけないでござるよ……」
 前後に別れ受け止める側を定めていた『少女』側は転がり落ちる危険を防いでいた。
 軍靴に加えしっかりと腰を落としたウラジミールが手を添えられただけに対し、運悪くそれなりに少女ともいえる彼女らに受け止められる形になった虎鐵は少々の複雑さに目が泳いだ。
 それから先は、形成が一転した。
 呪詛と不幸を振りまけど、二重に囲われれば首狩りにも防戦の術しかなく。
 再び空を望めど糸が絡まり、大和の術が追い未明の剣が叩き伏せた。
 おろちの剣が揮われ、ウラジミール、瀬恋の銃が撃ち貫き、拓真のメイスは息をつかせない。
「これが、全力全開の攻撃でござるよ!!」
 虎鐵は蓄積した痛みを振り払って雷を纏い、その獰猛さをそのまま力にしてぶつける。
 ――ガシャリ。
 音をたてて首を落とし、人形は事切れた。

 墜ちてより間もなく、首狩りは動きを止めた。
 些かの違和感を覚え得る、首狩りの受容のような容易さは誰も言及せず。
 一度膝を折ったリベリスタも髪をかき上げ、苔と土を払い、肩を借りて順に立ち上がる。
「さーって。お仕事終了、っとね」
 ぐっとと瀬恋が伸びをして空を仰ぐ。薄い青に染まった空にたった一つの白い月が浮かぶ。
 これから身を浸す、リベリスタとしての生活はどうなるものか……彼女の黒髪を風が撫でていく。
 石段の呪縛は解け、月は運命を覆す者達を照らしていた。
「欲張るアンタはひとつもとれずにお終い、だったわね」
 拓真が手にしたばらばらの残骸に背を向け、未明は言葉を零し、ぱちりと携帯電話を開いた。

●後日
「足場が悪いのはきっついでござるな……」
 虎鐵の呟きを聞きながら未明が春奈に一報を伝える傍らで、天乃の手により片付けられた首狩りの残骸はアークに渡る。

 後日、技術部のある研究者によって、残骸は研究資料として再び人形の形を得た。
 それから、アーク本部の一室、ときに一角の階段で。
 誰も飾っていない日本人形を見た――あるいは見られていたという、そんな噂が立つ。
 有志が面白半分に調べてみると、気配を感じるほとんどの者は、黒い髪。
 さらに、例の苔生しの階段にて回収された『首狩り』人形。それがいつの間にか、保管庫から消えているとか……。
 ただしそれも有志の報告であり、「噂に尾ひれを付けて楽しんでいる奴がいるのだろう」とも笑い飛ばせる。

 さあ、次に人形が現れるのは何処でしょうか――?

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
貴方の後ろかもしれません。
STの彦葉です。『誰そ彼、苔生しの石段』へのご参加ありがとうございました!
そして首狩り達の討伐お疲れさまでした。

MVPは此の度もあとお二人ほどと迷いましたが、驚きを下さった彼へ送らせていただきました。
彼の言葉によって、少し変わった形の戦闘になった気がいたします。
どう効果があったのか、そして怪談の云々はご想像にお任せです。

それでは皆様、どうぞ階段(怪談)にはお気を付け下さいませ。失礼いたします。