● 目を醒ました時に、視界は暗闇に包まれていた。 何処からか轟々と音が響く。 聞いたことがある様な音だ、遠く響くのは電車の音だろうか……。 暗闇に包まれた場所は今は忘れ去られた『the Tube』――地下鉄の一部であろうか。 過去に閉鎖された路線には人の気配はない。 だが、地下トンネルを響き渡るのは何かの蠢く音と、叫び声だ。 ぐちゃぐちゃと気色の悪い音を響かせるのは何であろうか。 何も存在しない空間に――いや、辛うじて鼠や鼬と言った生物ならこの場所に紛れこんでいるだろうか――響き渡るにしては余りに可笑しい声がする。 動物の咀嚼音、骨の砕ける音、呻き声が響き渡る。 恐怖心が膨張し、緊張に身体が硬くなる。震える足で出口を探る様に這い蹲って居る時、指先に、カツンと小石がぶつかり―― ● 「こんにちは、ご機嫌いかが? 唐突なんだけど、お願いしたい事があるの」 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)がモニターに映し出したのはイギリス、その首都の倫敦のビック・ベンだ。世界各国のリベリスタ組織の要請を受け、世界中を飛び回り任務をこなすリベリスタからすれば『次はイギリスでエリューション退治?』と言った雰囲気であるのだが―― 「倫敦のリベリスタ組織『スコットランド・ヤード』からの緊急要請よ。 倫敦市中にて『キマイラ』の凶行が発生した模様よ」 『キマイラ』と言えば、アザーバイドでは無く、かといってノーフェイスとは言い難し、他のエリューション・タイプのどれにも当てはまらぬ人の手を加えられた異形の種だ。 彼等『キマイラ』は『六道の兇姫』と呼ばれたフィクサード、六道紫杏の最高傑作である。 しかしながら、その作成者『六道紫杏』は現在日本に存在して居ない。 昨年、観測されたその異形の生物は『三ッ池公園』を襲撃し大多数を消耗、その後、アークによる追撃に寄りその姿を暫く消した。その実情は彼女は自身の師である『プロフェッサー』に助けられ、アークの追撃から逃れ英国へと逃亡した――という事が伝えられている。 「日本で観測された『キマイラ』の改良種が倫敦市中に蠢いているそうだわ。 ああ、因みに、表向きには『倫敦の蜘蛛の巣』は関与を否定しているそうよ。事実関係は……、まあ、ね? ここから本題よ。最近、人攫いが続発していると言う噂なのだけど……霧にでも隠されたみたいね? その人攫いが起こったのは『キマイラ』が観測されたのと同時期なの」 関連性がないとは言い切れないと世恋は言う。 その関連性を見極める為に『万華鏡』を使いたいところなのだが、日本国外である以上『万華鏡』が使えない。世恋には『視』えないと言う事だろう。 勿論、世恋の御願い事である任務にも『万華鏡』使えないと言う事から何らかの『不測の事態』が起こり得る可能性もある。 「危険な任務になると思うけれど、一応仕入れた情報は資料にまとめて置いたわ。 まあ、『スコットランド・ヤード』だけでは手に負えないから、アークへ救援が来た訳で、此方も『NO』とも言えないわ。私達の撒いた種と言ってしまっても良い位だから……」 日本のフィクサードの技術であるのだから日本国内で済む話しであった筈なのだが、そうとも言えなくなったのは、その技術が『持ちだされた』からである。だからこそ自分たちの撒いた種と表現したのであろう。 「『スコットランド・ヤード』よりも私達の方がキマイラに対しては戦い慣れているし、紫杏さんの技術――日本の技術である以上、その後始末はやはり此方が行うべきでしょう?」 だからこそ、お願いしたいの、と世恋は力一杯リベリスタへと伝えてくる。 「霧に隠された人々を取り戻して、キマイラの凶行を一つ、止めてきてくださいな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月31日(木)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 轟々と音が響き渡っている―― 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の鼓膜を叩く轟々とした音は地下鉄の音か、それとも近くの下水道を流れる水音であろうか。 地図をなぞる指先は不安を表しているようだ。キマイラという存在と闘い続けると言うのはぞっとする。その姿が怪物の様な見た目をしているのだから、恐怖を隠さずには居られないのだろう。 「怖い……だが、一般人の方が、もっと怖い思いをしているのだ……」 震える指先で『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が手にした『地図』は倫敦現地のリベリスタ組織『スコットランド・ヤード』から拝借したものだ。 広い道に感じる不安は誰しも同じなのだろうか。だが、その中でも『薄明』東雲 未明(BNE000340)だけは不安よりも好奇の想いが勝っているように思えた。鮮やかな紫色の瞳を細め、未明は鶏鳴を手に暗闇を見通しながら、異国の地の土を踏む。 「万華鏡に頼り切りな日本の現状、あまり好きじゃないの。だから、この遠征は、良い機会」 「けれど何があるかは分からないわ。一連の事件の裏で『蜘蛛』が糸を引いている事は明白だけれどもね」 日の射しこまぬ地下でも何時も通りに日傘を開いている『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)はノクトビジョン越しに地下鉄線路を謎っている。 『蜘蛛』――倫敦に存在する組織の事はリベリスタ達も良く知っていた。『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が『六道のワガママ姫』と称する女の技術がこうして霧の街を跋扈している。それはこの『姫』が動きだしたのではないかと彼は推理したのだろう。詰まる所、彼女のバックアップに『蜘蛛』が存在して居るのは情報を推測するに正しい。 「……キマイラな。いずれ闘う事になるだろうとは思っていたが、そう遠くもなかったか」 発する声は響き反響する。『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が白銀の篭手に包まれた拳に力を込める。 何時か、猛が拳を交えた事がある存在は、日本を離れ、遠い異国の地『倫敦』に存在していたと言う。 未明の云う様に万華鏡に頼る事が出来ないこの場所で信用できるのは自分だけか。過去、フィクサードの手で売買された経験のある『骸』黄桜 魅零(BNE003845)にとって、フィクサードが誰かの未来を途絶えさせる事は納得できなかった。持ち前のバランス感覚を発揮し、線路の上を器用に歩いていく魅零の背後を歩きながら、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)はアルパカを駆っている。 「あちらに、少し反応がありますね」 感情を探索するミリィの声に頷いた雷音が進む道を『地図』に書き示していく。進むリベリスタ達の緊張を感じとりながらミリィは溜め息を混じらせながら救わねばと逸る気持ちを抑えて居た。 誰よりも、一般人の救出に意識を向けて居た旭の耳がキャッチするのは誰かの呼吸音だろうか。ヒュウ、と咽喉から抜ける様な音を聞き彼女が長く続くトンネル内へと視線を向けて、一歩踏み出した。 首にベルトライトを付けた大型犬へと視線を向けた氷璃が誘う様に前方を指差す。ゆっくりと進む氷璃が浮き上がって見る視線の中で、感情を探る雷音が「うむ」と小さく頷いた。 「ミリィの言う通り、あっちなのだ。いこう」 先行する仲間達の中で息を潜めながら暗闇を見通す猛の耳がキャッチした何ものかの『声』。悍ましさをも感じさせる何かが猛の背筋に走らせる悪寒に少年は唇をにぃ、と歪めていく。 彼等が探す『人』と『モノ』は奥に居るのだろうか。入口付近、次第に聞こえ出す音に旭や猛が視線を交わらせ頷きあう。 「――!」 ――声が、一つ聞こえた。 ● ハッと顔を上げたのは雷音だ。彼女の耳は『たくさん』の音を拾う訳でもなく、聞きわける訳でもない。ただ、沢山の言葉を知識として彼女は知っていた。 「……どこ? どこだ?」 恐る恐る掛けられる声に彼女が探して居た対象が暗闇から顔を出す。照らしだした氷璃の式が小さく尻尾を振っている。 纏ったマイナスイオンは安心させる為のものだ。そっと膝をついて頬に触れた雷音が安堵とも取れる溜め息を吐き、ハッと顔を上げる。『羽音』を聞き取ったのだろうか、地面を蹴り飛び上がった猛の手が掴んだのは人間の頭部だ。 抉り取られた眼窩から伸びる腕を掴み、一気に投げ飛ばせば、雷音の傍で一般人が震えあがる。 地図に記された脇道――この奥は行き止まりか。警戒しながら、一般人を避難させ、周囲を見渡して居る。 「ほかの人は何処に居るかわかるかい?」 手にした陽ノ色。虚ろに光るそれに照らされる少女のかんばせに何やら英語で捲し立てる一般人男性。頷いて、近場に潜む一般人達を回収しに走る雷音の胸が小さく高鳴っていた。 「先、抜けるわ――邪魔、しないでくれるかしら?」 鶏鳴を振るい一気に壁へとキマイラを吹き飛ばす未明の元へと寄り集まるフェアリーヘッド。妖精と言う名を冠するには余りにグロテスクな存在に旭が肩を竦めて、声を発した。 「ねえ、キマイラさん? 餌はこっちだよ?」 手招く様に旭が呼べば、場に存在した2体のフェアリーヘッドが彼女へと集まり出した。その横をすり抜ける氷璃の隣をライトを咥えた式が走り抜けた。 探索中に紫の文様を体に浮かび上がらせた魅零は猛にひらひらと手を振った。キマイラの姿を目にしたのか叫び声を上げる一般人達は様々な所に存在している。 彼等の隣をすり抜け、情報にあったコピーキャットと『???』の討伐を目指すランディがグレイヴディガー・ドライを抱えたまま真っ直ぐに走り抜ける。緊張感は常に抱いているものだった。それはその筈だろう。 ランディにとって、この『倫敦』は他人のホームグラウンドに過ぎない。地の利がない以上、何かがあっても対処に遅れる可能性は否めないからだ。 走り抜ける、ミリィがはっと顔を上げた所に存在したのは今にもキマイラの餌食になりそうな一般人だ。一気に足に力を込め、声を張り上げるミリィが指揮棒を握りしめれば、顔を上げたのはフェアリーヘッドではない。ライオンの身体に二つの頭部を持った異形の姿。 「うっ……触手……つい最近、嫌な想い出が……ッ!」 気持ち悪い、と叫ぶように声を漏らす魅零が『気色悪い』物を見せつけられたと唇を尖らせ、大業物を握りしめる。 触手生物には骨も肉も存在して居ない。その原理は蚯蚓と同じであろうか。引き千切っても増えていく。魅零にとってはその生物は畏怖の存在だ。身体を震わせながら、痛みを内包した箱の中に巨体を閉じ込めた。 「あなた、骨も内臓もあるんでしょ? 殺せない筈がない。ねえ、最後の晩餐中に失礼だけど、これ以上太らせる訳にはいかないの」 抑える様に魅零が囁けば、ソレに反応したのはキマイラ達が現れる。フェアリーヘッドが飛び交う中、未明は真っ直ぐに剣を振り下ろし、その頭を吹き飛ばす。 気色の悪い音が響き、思わず目を伏せるミリィの前をすり抜けた黒き鎖は普段通り、落ちつき払った顔で周辺を観察する氷璃のものだろう。 (この状況はまるで狡猾に張り巡らせた蜘蛛の巣ね。 糸に引っ掛かれば無残な事になる――私達(アーク)が動く事は考慮済み……) 考え込むように氷璃が目を伏せれば、道端で震える一般人を発見したとミリィから声が上がる。作戦を張り巡らせたリベリスタ達は、氷璃の言う『蜘蛛の巣』の糸を引き千切らんとしている。 相手が改良種たる『キマイラ』――その存在はノーフェイスでなく、アザーバイドでも無い。異種とも言えるエリューション――であれど、リベリスタ達はそのキマイラへの対処を幾度か行い続けて居た。 「まだ『???』(かいりょうしゅ)は居ないようですね。引き続き探索を――」 「おい、どうやら奴さん勝手に出てきてくれやがった。招かれざる客ってのはこういうのを言うんだな」 ミリィの声を遮る様に発されたのはランディの言葉ではなく、彼の振るった斧が線路を叩く音だろうか。暗闇を見通す彼の瞳にハッキリと映って居たのは身体の至る所からチューブを繋がれ、無数の眼を持った異形の存在だった。 ● ランディが相手にする『???』の正式名称はリベリスタ達には分からない。 その音を聞き取りながら懸命に一般人を宥める雷音へと幻想纏いを通じて合流要請が流れ込む。 回復手である雷音を伴って、来た道に敵が潜んでいない事を確認しながら避難誘導を行っている旭が頷き、『あっち』と指差しを行う。片言の英語に、手を引く等のジェスチャー。纏うマイナスイオンは一般人を本気で助けたいと言う意思の表れであろうか。 Thanks.と軽く掛けられる声は動揺を表して居たのであろうか。倫敦市内のその地下。『the Underground』の一部分である事を地図で確認し、避難経路として来た道を進んでいく。 「今、何人、救えた?」 「さっき居たのは四人だ。途中で二人の死体があった。行くぜ!」 真っ直ぐに倒すためにと走る猛の瞳はキマイラを倒す事を目標と置く様に敵意に濡れて居た。 先を走る雷音の後を追いかけながら一般人に『逃げて』と声をかける旭が最後尾を行く。途中の様子を幻想纏いを通じて伝える猛の元へと「キマイラ全部発見です!」と司令官たるミリィの厳しい声が掛けられる。 前線では傷を負いながらもフェアリーヘッドを殴り付ける未明が頬の血を拭っていた。反動は彼女を野体力を削っていく。勿論、力強く前線で戦い続ける未明の傷も多いのだろう。 「多少無理してでも、勝たなくっちゃ……!」 無理してでも討伐したい。それは彼女が『キマイラ』という存在に感じる不安感故だろう。 日本の技術たるキマイラは未明も目にした事がある存在だ。自分達が撒いた種。不信感を抱くヤードのリベリスタも居れば、苦戦を強いられている状況にアークへの対応を求めるリベリスタも居る。 その強さが『何者かが裏に居る』事を示唆する様ではあるが――技術を発展させるにはドラマが其処にはある筈だ。 「……逃げてください!」 感情を探索して居たミリィが発見した一般人。半数の存在を発見した今、逃げようとする彼等を支援する様に立ち回るミリィは支援を行いながら、バベルを使用し声をかける氷璃と共に一般人を背後へと走らせる。 擦れ違う様に顔を出す雷音が仲間達へと与える回復は、祈る様なものだ。 周辺の一般人を癒し、潤ませる瞳には『救う』ことへの貪欲さが見え隠れして居た。 「護らない訳にはいかないでしょう? こちらです、早く――!」 叫ぶ様に声を張り、キマイラの動きを止める様に広める神秘の閃光。走る一般人の背を狙う『???』を受け止めてランディが唇を歪めた。 巨体を軋ませ、全力で放ちだすエネルギー弾。受け止めた瞬間に動きを変えた『???』は目をぱちぱちとさせ信号を送る様にコピーキャットを見詰め出す。 「何時までもこんな暗い所に居たら気が滅入っちまうぜ! さっさと、死んじまいな!」 氷をを纏った拳が真っ直ぐに叩きつけられる。顔面をへこませるフェアリーヘッドを避け、背中で一般人を護る猛の頬を掠める触手。 手を伸ばすコピーキャットがランディの思惑通り『???』の受けた技を猿真似をする様にランディが使用した攻撃を周囲のリベリスタに放ち始めた。だが、一つ使えば一つ忘れるのか同じ技しか使えないのか、その技しか使用しないコピーキャットの攻撃は使用者であるランディはハッキリと気付いている。 「どうやら『目』とチューブでコピーキャットに同期してる様だな。脳味噌カチ割ってやろうぜ……!」 勿論だと言う様に小さく笑みを浮かべる魅零の肌は傷だらけだ。 「生きてて意味のない生物の癖に……! 混ぜられて可哀想だなんて思わない。フィクサードの玩具……存在は決して許さないんだから!」 叫ぶ魅零が声を荒げれば、ランディの相手を一人でして居たキマイラが叫び声を上げ始める。 ランディの斧がチューブを弾き飛ばす。『???』のチューブが千切れた事により『猿真似』精度の落ちたコピーキャットを縛り付けた氷璃が溜め息を混じらせ、観察し続ける。 一般人の死体を照らさぬ様にと気遣うリベリスタの最後列、旭が誘う様に指示を行い、キマイラから一般人を庇う様に身体を滑り込ませていく。 数を減らすキマイラの中でも、一対一で相手する事は中々に厳しいのか、回復手である雷音が懸命に祈る様に両手を組み合わせた。 (全員、助けたいんだ……一人でも、少しでも、多く――!) 思いは強く、旭は自身を犠牲にしてでも闘うと決めて居た。攻撃を行う前衛陣の中、未明が一般人に近づこうとするキマイラを弾き飛ばせど、はっと目を逸らした隙にすり抜ける存在が其処にはあった。 驚きに眉を顰め、ミリィが咄嗟に放つ神秘の閃光。キマイラが狙ったのは前線で座りこんでいた英国男だ。嫌、とミリィの漏らす声、男が目を見開き、旭が「危ない――!」と声を上げるが―― ● 「あら……?」 氷璃の観察眼に止まったのは、そのキマイラの存在だった。英国人の前でピタリと動きを止め、標的を変えるフェアリーヘッド。 その動きは氷璃が目で追ううちにも何度かあったのだろう。推理する様に瞳が揺れ動き、小さく唇が歪んでいく。 彼女の笑みは何らかに気付いたからか。同じ様にその『異常』に気付いた魅零が身体を反転させるが、生命力を発揮するコピーキャットがその手を伸ばし、食らい付かんと魅零へと襲いかかる。 「っとに、ウザったいわね……触手!」 ぎっ、と睨みつける魅零を癒す雷音がハイ・グリモアールを手にフェアリーヘッドの腕を啄ばんでいく。 二体のキマイラの異常な性能は『改良種』が故であろうか。勿論、傷を負い始めたキマイラとて消耗が激しい。きびきびと動き回っていたコピーキャットの動きが落ち始め、その攻撃の精度も落ちていく。 「もうすぐね。……本当に良い経験をさせてくれる」 傷だらけ、ふらつく足で一気に剣を振るった未明の瞳は爛、と光る色を湛えている。 「カレイド・システムね。それがない程度では負けてはらんないのよ!」 一気に力を込めた未明の剣。彼女の肉体が湯気を上げ、限界を越えた様に膨張する。一気に攻め立てる様に破壊力を伴って未明が振るった剣は羽音を鳴らすフェアリーヘッドの頭をカチ割った。 数体存在するフェアリーヘッド達に余力はない。リベリスタ達が一気に攻める中、一般人の数を数えて居た旭が救えなかった死体を見詰め、唇を噛みながら、その掌に炎を纏わせて一気に殴り込む。 肉の焦げる臭いに仰け反った『???』は五感も発達して居たのだろうか。耐久力も高く、避ける事を得意としているキマイラではあるがその攻撃力はあまりに誉められたものではない。ランディが攻撃を避け与えることで、改良種の体からは肉片が飛び散り、チューブが弾きだされる。 「もう少し、もう少しですから……!」 立てずに怯える一般人を背に隠しながらミリィは懸命に励まし続ける。言葉が通じなくても思いは通じる筈だと、彼女は考えて居た。 それは前線で戦う未明も同じだろう。掌の温かさが安心感を与えると、そう信じているからだ。 氷璃の式が周囲を照らし、目を細める氷璃は何かを考え込むように『蜘蛛の巣』が張り巡らされた霧の都で闘い続ける。 前線に飛び出す猛は一般人を庇う様にその身体を滑り込ませて拳を振るい続ける。蒼い髪が散り、頬から流れる赤は彼の『蒼』と相対する色だ。 「ッ痛ェな……俺達は端っから闘い続ける、そして勝つしかねぇんだよ!」 真っ直ぐに、力を込めて殴り付けた拳。雷撃を纏った武技を繰り出した猛によりフェアリーヘッドの腕が拉げ、頭が壁へとぶつけられる。 勢いよく周囲に飛び散る脳髄を避け、氷璃が纏わりつかせる黒き鎖。薄らと『氷』を思わせる瞳を細めて、唇を吊り上げたまま、「ねえ、あなた」と静かに囁く声。 キマイラが、被害者の一人の男だけを避けて行動して居たのだ。一般人を目にすれば殺戮の限りと尽くして居たキマイラ達。 かの兇姫が己の研究員達に与えたキマイラ抑制技術のあるアーティファクト『テレジアの子供達』を所持していなければ、そんな偶然は何度もある筈がない。 氷璃は元から予測して居た。キマイラには研究員が存在し、常に操っていたのだと。ならば、この場所――感情探査、集音装置等と言った工夫を凝らした『蜘蛛の糸』が張り巡らされた地下鉄構内――にその存在が『無い』わけがない。 「愚問だとは思うけれど、キマイラを操っているのは貴方かしら……?」 氷璃の声にぴくり、と反応した魅零が一気に地面を蹴る。彼女の言葉に、咄嗟に反応した一般人に扮して居た英国男が脇道に入り込む、その背中を追う様に彼女もまた道の中へと走り込んだ。 「こい! 被検体copy-type!」 ランディの目の前に存在していた『???』が背を向ければ、放たれたエネルギー弾は小さな身体を抉り、半身を爛れさせる。不利を悟って逃げる様に無くキマイラの姿はまさしく人間の幼子だ。奇妙な姿にミリィの瞳が歪んでいく。 『惨い』実験と育成的な方法を確認しない研究者が居るものか。キマイラを制御する英国男の顔には魅零も氷璃も見覚えはない。 「出て来い! 逃げるなっ! こんな惨いっ……!!」 走る魅零の足が、止まる。血が足りて居ないのだと気付く。膝をついた魅零を嗤う様に男は懸命に走りさる。 薄れる意識の中、聞こえたのは遠く、轟々と響く地下鉄の音だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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