下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<恐山>きみがのこしたそのことば

●昔々ある所に
 幸野愛理という革醒者がいた。
 彼女の性格を一言で示すなら『豪快』だろう。名乗りを上げて派手に登場し、弾丸や燃料などすべての財を使って戦い、勝利こそすれど大赤字を出す。
 生きていれば九十を超える老婆として……変わらず銃を手に暴れていただろうと彼女を知る者は口をそろえて言う。
 彼女の革醒者としての仕事は『賊』だ。リベリスタやフィクサード、エリューションやアザーバイド。とにかく神秘の存在に戦いを挑み、そして何かを強奪していく。装備している者や宝物、角やら牙やらとにかく強奪。そんな分かりやすい強盗団だ。多くのものを狩ったが、それでも神秘の外にあるものには手を出さなかったと言われている。
 そんな彼女だが、ある時点からその活動が途絶えていた。一説には誰かに暗殺されたともあるが確たる証拠は無い。
『神秘狩』とよばれた革醒者が消えて数年後、霧崎真人というフィクサードが静かに裏社会に根を下ろす。この二つを結びつける者は誰もいない。半世紀近く、両者の関係は明るみに出ることは無かったのだ。

●現在
 ここはフィクサード組織『恐山』の隠れ蓑である旅行代理店。その社員はすべて恐山の配下である。とはいえ、革醒しているのはわずか四名。その四人が会議室に集まり話をしていた。
 彼らは霧崎真人と呼ばれるフィクサードの部下である。だが上司の行動に不安を抱き、独自に調査を行っていた。
 斬った物を数十秒のみ革醒させる『ナイフ』と、願った相手の魂を吸い込む願望器『W/END』。これらを用いて霧崎が何かをしようとしているのだ。そして『W/END』の元々の持ち主であり、当時病魔に侵されていた霧崎を『W/END』の力で治した人物の情報を得た。
 その名前こそ、幸野愛理。
「つまり、私達の大大大先輩だったわけよ」
「はー、ワイルドな方だったんですね、亜実お姉さま。そういう人は私の好みじゃないのでどうでもいいです」
「お前の趣味こそどうでもいい。で、その幸野が『W/END』で霧崎の病気を治したのはどういう経緯で?」
「気まぐれか、彼女の信念か。『W/END』を持っていたのが幸野なら、その出所を探れば……現役時代の彼女のアジトが探れればいいのですが」
「それはあっさり見つかったわ。隠蔽とかそんなことを考えるタイプじゃないみたい。……ただ少し問題が」
「どうしやした? まさか霧崎が感ずいて、とか?」
「私達の動きは当に察知されてるわ。その上で泳がされてるのよ。
 問題なのはその場所。当時は幸野愛理の所有物件だったんだろうけど、今そこになにがあると思う?」
「「「「………げ」」」
 
●アーク
「イチハチマルマル。ブリーフィングを開始します」
 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながら、これから起こるであろう神秘の説明を始めた。
「革醒者・幸野愛理の遺品を強奪してください」
 強奪。日常において聞きなれない単語を聞いて、リベリスタの顔は怪訝に歪んだ。
「恐山フィクサード、霧島真人がある街にお金を集め、そこに兵を集めています。彼は『W/END』と呼ばれる願望器を用い、何かをするようです」
「何かって……何をするのか分かっていないのか?」
「はい。そもそも『W/END』についてわかっているのは『願望者の魂を代償に願いをかなえるアーティファクト』ということだけです。誰が作ったのかも不明。効果のほどは当の霧崎自身が実証していますが……」
「霧崎に話を聞きに行くわけにもいかない、か」
『W/END』を使って何かをしようとしている霧崎に直接聞いて、素直に教えてくれるはずも無い。となればそれを元々持っていた人間に聞くのが一番だが、
「霧崎の完治を願った幸野愛理はその魂を願望器に囚われています。故に彼女が生前残した記録をたどるしかありません。
 そして彼女の生前の住処はすぐに判明しました。ただいまそこは『裏野部』の事務所になっています」
「はぁ!?」
「元々フィクサードよりの幸野の部下が継いだ場所だったのか、ただの偶然かは分かりません。幸野の記録はそこの倉庫にあるのですが、裏野部のフィクサードは簡単にそれを譲り渡そうとはしません。価値あるものと知れば高値を吹っかけるか、あるいは燃やしてしまうでしょう」
 裏野部。七派フィクサードの中でも悪辣非道で知られる組織。倫理観念は薄く、自らのためには仲間すら売りかねない組織だ。アークとの中は、悪いと言ってもいい。
「事実、同盟関係にある『恐山』のフィクサードが接触し、口論の末に暴力沙汰になったそうです」
「……ああ、その恐山フィクサードが彼らか」
 モニターに写る四人の男女を見て、リベリスタたちは嘆息をつく。彼らは確か霧崎の部下だが、霧崎の動向に不満を持っているとか。敵の認識で問題はないが、交渉ぐらいはできそうだ。
「裏野部は恐山との抗争で殺気だっています。下手をすると『遺品』が燃やされるかもしれません」
「つまり、殺気だっている裏野部がトチ狂う前にどうにか『遺品』を回収しろということか」
「なお数日後に近くのリベリスタ組織を襲撃する予定があったらしく、大量の火器類が用意されています。可能であればそちらも止めてください。」
「……そっちはそっちで重要だよなぁ」
 ため息一つ。
 形はどうあれ、暴走しようとする裏野部を止めることと恐山の策謀の情報を得ることは重要だ。
 屋敷の地図と裏野部の構成のリストを得て、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。

●恐山
「……マズったわねー。連中本気で怒ったわよ。馬鹿を怒らせて得することなんてあまり無いんだから」
「仕方ないですよ。あの人たちズボン脱ぎながら『一晩オレと部下達を満足させることができたら、考えてやってもいいぜ』とかいうんですよ。お姉さまも仕方ないなぁ、って顔して服脱ぎかけたし!」
「今回に関してはお前の暴走が正しい。よくやった」
「いえーい!」
「あえて何も言わないけど、状況は悪化したのは事実ね。計画全てがおじゃんよ」
「……力押しで押し切れない数ではありませんが、どうします?」
「パス。ごり押しすれば『遺品』が燃やされるわ。連中を一箇所に集めてその隙に強奪よ。さくっと奪ってさくっと逃げる。OK?」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年11月07日(木)23:33
 どくどくです。
 タグは恐山ですが、舞台は裏野部の事務所でございます。

◆成功条件
『幸野愛理の遺品』を手に入れる。
 恐山、裏野部フィクサードの生死は成功条件に含みません。

◆敵情報
・裏野部フィクサード
 事務所にいた裏野部フィクサードです。錬度は低め。
 レベル1が30人。レベル10が10人。レベル20が5人。ジョブは皆クリミナルスタア。ジョブや装備などはまちまちです。

・恐山フィクサード
 幸野愛理の『遺品』を狙っています。
 拙作『<恐山>あいするひとをうしなったとき』『<恐山>あなたの欲望(ねがい)はなんですか?』等に登場しています。
『遺品を奪取しようとしている別グループ』という認識で、問題ありません。

『善意の盾』七瀬亜実。
 ビーストハーフ(クモ)×レイザータクト。二十代半ばの女性です。
 DA型支援タイプ。スーツを着たビジネスウーマンです。
「ディフェンサードクトリン」「オフェンサードクトリン」「ブレイクフィアー」「ハイテレパス」等を活性化しています。

『重石』石垣清次郎
 メタルフレーム×クロスイージス。三十後半の男性です。
 ダメージコントロール型。スーツを着た大柄な男です。強面&力仕事担当。
「ファイナルスマッシュ」「無敵要塞」「盾熟練LV3」「鉄心」等を活性化しています。

『鋏でちょん切る』波佐見美也子
 ジーニアス×ソードミラージュ。18歳の女性です。
 前衛特攻タイプ。レズっ子。戦闘になれば鋏型の破界器で男を優先的に狙います。軽業担当。
「瞬撃殺」「トップスピード」「魔眼」「イーグルアイ」等を活性化しています

『紙装甲』神尾団十郎
 フライエンジェ×クリミナルスタア。20後半の男性。
 避け壁タイプ。七瀬をお嬢とよぶ古風な忠義タイプ。暗部担当。
「極道拳」「暴れ大蛇」「物質透過」などを活性化しています。 

◆場所情報
 裏野部事務所。古い家屋を改装し、大所帯で利用しています。監視カメラなどの設備もちらほら。館の四方は壁で囲まれており、入り口以外からの侵入は上手くやらなければ直ぐに露見します。
 便宜上、四区画に分かれています。一区画が五十メートル四方の空間とします。
 また、建物の陰に隠れるなどの影響で『全』攻撃は最大二十人まで。『域』攻撃は十人まで。『複』『範』攻撃は五人までしか巻き込めないものとします。

 ①②
 ③④

① 北側入り口。数名の裏野部フィクサードが見張りをしています。
② 詰所。多くの裏野部フィクサードがたむろしています。武器などもこちらに集められています。
③ 倉庫。『遺品』が納められています。高レベルのフィクサードが武装して待ち受けています。
④ 南側入り口。数名の裏野部フィクサードが見張りをしています。

 戦闘や不用意な侵入を行えば、『警戒度』という数値が上昇し、その区画に裏野部フィクサードが集まります。
 ②の警戒度が一定数に達すると、火器類が配られて裏野部フィクサードの攻撃力(物理&神秘)が増します。(ブレイク不可)
 ③の警戒度が一定数に達すると、『遺品』をもって逃げられます。依頼失敗です。

 恐山フィクサードたちは七瀬&波佐見&石垣と、神尾のチームに分かれています。初期位置は七瀬チームが①の近く。神尾チームが③の近くです。
 どこから侵入しても構いませんが入り口以外から侵入するには、高さ2メートルの壁(+人の目)をどうにかする必要があります。上手いプレイングや非戦スキルの活用により侵入の難易度が減り、『警戒度』の上昇が抑えられます。
 別番号(縦横斜めに移動可能)に移動するには通常移動で30秒(3ターン)必要です。

 変則的攻城戦です。様々な手法が考えられるでしょうし、それにより状況が変化します。そういう意味では高難易度です。
 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ダークナイト
小崎・岬(BNE002119)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
クリミナルスタア
華娑原 甚之助(BNE003734)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
クリミナルスタア
★MVP
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)

●幸野愛理1
 子供を拾った。
 いや何のことと思われるとあれなんだけどね。どうも船に密航してたみたい。あのまま家にいると死んじゃうとか。まー、そういう家に生まれた不幸を呪いなさいな。
 何でもするからと泣き付くんでアジトにつれて帰ることにした。未革醒の子なんでどうしようもないけど、さすがに殺すのは寝覚めが悪い。『神秘狩』は未革醒の存在に手をださないのがモットーだしね。
 とりあえず寝るところがない。さてどうしたものか。

●意図せぬ乱入者
『善意の盾』七瀬亜実は人の善意を利用するフィクサードである。それゆえに人の縁は重要視する。たとえ殺せば気が楽な相手でも、そこに1%でも善意があるなら生かしておく。
 だが、
「あみあみ久しぶり! こんなところでデートなんて色気がないね」
「おう、噂より美人なネーチャンらだ。俺は華娑原甚之助ってんだ、よろしくな」
 不本意に発生した(名目上は)同盟を結んでいる相手との戦闘中に、第三勢力が気軽に話しかけてくれば殺意の一つでも沸こうものである。
 声をかけてきたのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)である。その後ろには『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)が腕を組んでいる。
「あみあみ言うな!」
「アークのリベリスタ! ちょん切っていい?」
「……これはまた豪勢な横槍だな」
 恐山のフィクサードたちは戦闘の手を止めて、にらみ合う。交戦していた裏野部のフィクサードも突然のリベリスタの乱入に戸惑っている。
『あみあみ』と呼ばれて激怒しながら、七瀬は冷静に状況を判断していた。
(アークとの戦いで注意しないといけないのは、個々の能力ではなく『万華鏡』による情報戦と、我の強いフィクサードでは難しい連携能力。数が三人だけとは思えない……おそらくは――)

「よう、裏野部諸君! 襲撃する側が襲撃される気分はどうだ!?」
 先陣を切って南側の入り口を攻めたのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。『砂蛇のナイフ』をちらつかせ、裏野部のフィクサードたちを挑発するように堂々と攻め入る。
「『砂潜りの蛇』を倒したんだってなぁ! だったら俺がお前らを倒してその伝説を塗り替えてやらぁぁ!」
 飛び掛かってくる裏野部のフィクサード。だがそれは漆黒に包まれた豪斧の一閃により吹き飛ばされる。
「ケンカの話の時間だ! コラァー!」
 自分の身長以上の斧を振りながら『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が大声を張り上げる。吹き飛んだフィクサードの悲鳴を聞き、館からフィクサードが迫る気配を感じる。復帰戦にはちょうどいいと斧槍を構えなおす。
「波佐見にアエネーノハちょっちツマンネーケドナ」
 二本のナイフを手に『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が走る。速度においてリュミエールに勝るものはこの場にいない。獣のように低く体を沈め、跳ね上がるナイフの一閃がフィクサードを襲う。
「今回のライブ会場(こや)はここか。むさ苦しい所だな」
 ため息をつきながら『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が白い腕輪をはめる。やってくる裏野部のフィクサードを確認しながら、サングラスの位置を治しブリッジを押す。やってきた客(フィクサード)たちの相手の時間だ。
「そいじゃま、行きますか!」
 拳で手を叩き『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が幻想纏いから紅色の槍を取り出す。それを回転させながらフィクサードで阻まれた道を開いていく。狙うべき物の方に意識だけを向け、フィクサードの注意を引くよう暴れまわる。
「オ、オレ達だけじゃ手に負えねぇ! 館から援軍を呼んで来い!」
「北門にも襲撃があったらしいぞ!」
 蜂の巣をつついたような裏野部フィクサード。だが彼らも戦闘系の革醒者。それぞれの武器を手に、突入してきたリベリスタに向き直る。

「ふむ、すぐには移動しませんか」
『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が倉庫にいるフィクサードを見ながら呟く。壁を透過して侵入したため、裏野部のフィクサードに見つかった様子はない。同じような侵入経路で恐山のフィクサードも侵入しているはずなのだが、その姿は見当たらない。
「ヤツも状況が動くのを待ってるんだろう。今は雌伏のときだ」
 影の中に身を潜めた 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)がロウに語りかける。恐山の目的は倉庫の中の『遺品』だ。迅速に盗み出すなら、見張りと戦闘するリスクは回避したい。
 状況はすぐには動かない。
 しかし目に見えない波紋が少しずつ広がっていた。

●幸野愛理2
 拾ってきた子は、よく働く奴だ。
 最初のころは掃除ぐらいしかできなかったが、教えれば料理もするようになる。小間使いとしてはちょうどいい。
 神秘の部屋には近づけないように言付ける。こいつは未革醒者だ。神秘の類を知らずに生きれば、私みたいな人生は送らないだろう。慎ましく、平凡な、神秘の人間には得がたい人生。いつかこいつをそちら側に帰さないといけない。

●乱闘
 南門での戦いは激化していた。
「さーて、久々の戦だー。派手に行こうぜー」
 その最たるは岬の一撃である。紅玉の瞳を思わせる禍々しい斧。魔神王の激戦で進化した斧は、持ち手の技量も加わって並の戦士以上の破壊を生み出していた。見た目の凶悪さも手伝って、一番目を引いている。
「ちーと待たせたけどまた宜しく頼むぜー、アンタレス!」
 その斧槍の名を呼びながら、岬は漆黒のオーラを纏う。自らの生命力を削り、そのオーラを『アンタレス』に与える。自分よりも重量のある相棒をてこの原理と遠心力を利用して振るう。闇の弾丸が屋敷内のフィクサードに突き刺さり、悲鳴が上がる。
「いい客だ。死にたい奴から来るが良い」
 伊吹が屋敷の中を歩きながら、腕輪を外す。とある戦いで得た腕輪は、伝承の宝貝を模したもの。投げれば敵の頭を穿つその言い伝え。それをなぞるように腕輪はフィクサードの頭蓋にあたり、床に伏す。
「どうした裏野部。まだまだライブは始まったばかりだぞ」
 前に立ち、指で誘うように伊吹はフィクサードたちを挑発する。挑発に乗ったフィクサードたちの破界器を腕輪で受け止め、その足を払う。バランスを崩したところに、目にも留まらぬ速度で伊吹は拳が叩き込む。
「波佐見ジャネーケドお前等逝ッチマッテイインジャネーカナァ」
 リュミエールは銃砲と引き換えに肉体を求めた裏野部のことを思い出しながら、屋敷の畳を蹴る。柱と天井を足場にしながら、縦横無尽に疾駆する。床だけではない三次元の交差戦法。光の如く九尾が舞う。
「サァ久シブリノお披露目ダ」
 ナイフが振るわれるたびに光が舞う。床を、柱を、襖を、天井を。リュミエールが飛び交うたびに光が走り、ナイフはフィクサードを切り刻む。その動きを目で追えるものはいない。
「月並みなセリフだけど……此処を通りたかったら、俺を倒してから行くんだな」
 快が半身をフィクサードに向け、挑発する。敵の注意を引き、かつ味方への損害を最小限に食い止める。激戦の中にあって、戦場を上手くコントロールして被害を押さえていた。そして何より、豪語するだけの実力が快にはあった。
「ここは俺に任せて先に行け! 皆は武器庫を抑えろ!」
 快は裏野部フィクサードの攻撃を捌きながら、仲間達に指示時を出す。飛んでくる銃弾をバリアシステムで弾き、迫る刃を護り刀で受け止める。拮抗は一瞬。力の方向を変えるようにナイフを動かし、攻撃をいなす。
「分かった! ここは任せたぜ!」
 フツは槍を振るい、戦端を開いていく。長柄の得物を振り回し、フィクサードの勢いを削いでいた。無謀にも突っ込んでくる輩の足を払い、体をひねるようにして槍を薙ぐ。横なぎの一閃に腹を裂かれ、膝を突くフィクサード。
「敵の詰所はあっちだ! 武器も破壊して、ここで裏野部の戦力を一気に削ぐぞ! 他には目もくれるな!」
 フツはそのまま先陣を切ってそうこの方に向かう。快を殿にして他のリベリスタたちもそちらに向かって足を向けた。数では劣るがその戦闘力に圧倒される形で、リベリスタたちは南門を突破する。
「馬鹿が! そっちに武器はねえんだよ! 無駄足だぜ!」
 倉庫に向かったリベリスタたちをフィクサードが罵る。その言葉を聴いてリベリスタたちは内心微笑んだ。こちらの狙いにはまだ気づいていないようだ。
「さて、北のほうはどうなってるかな……ム?」
 幻想纏いで北門の様子を確認する。聞こえてきたのは、予想とは異なる報告だった。
『こちら夏栖斗。現在あみあみと交戦中だぜ!』
『だからあみあみ言うな!』

●幸野愛理3
 子供を拾って、生活に変化が生まれた。
 朝は起こされ、酒を呑みすぎると怒られる。
 一緒に食事をしたり、くだらない理由で口げんかしたり。
 風呂上りに裸で歩いてたら、真っ赤になって服を投げてきたりもした。
 ささやかな生活の変化。それがどうしようもなく楽しかった。

●三つ巴
 北門では、
「こちら夏栖斗。現在あみあみと交戦中だぜ!」
「だからあみあみ言うな!」
「ヒャッハー! 恐山と箱舟が争ってる間に攻めるぜー!」
 状況がかなり混乱していた。
 説明のために時間を少しまき戻す。
 戦闘開始時、三つ巴の状態で最初に動いたのは夏栖斗だった。動いたといっても自分の頭を指差しただけだが。
「お姉様、あの男自分の頭指差してどうしたんですか?」
「きっと頭が病気なのよ。可哀相に」
「頭痛持ち、っていいたいのかもしれないけど、酷くないその言い方!」
 波佐見の問いに七瀬が答え、夏栖斗が叫び返す。
 実際のころは夏栖斗は思念で会話したいとジェスチャーを送り、七瀬は波佐見と共に思念会話を裏野部にばれないようにカモフラージュしていた。裏野部の視線から隠れるように七瀬が石垣の後ろに回るという念の入れようである。
『あー、こちら恐山の七瀬。ドーゾー』
『情報、必要でしょ。ここでやりあうなら君達も攻撃範囲に入れるよ』
『脅迫か』
 夏栖斗は笑みを浮かべたまま、思念の会話を続ける。
『うちのチームも動いてるしさ。裏野部に遺品が貴重品ってバレるのもお互いまずい。なら情報共有は約束するからここで一緒に陽動する方がいいっしょ』
『……なるほど、箱舟も『遺品』狙いか。そしてこの班の目的も陽動、と』
『そうそう。僕らも君らがこれ以上消耗させたくないって善意だよ。ぶっちゃけ』
『それなら……こっちの答えはこうね』
 七瀬の思念と同時に石垣が夏栖斗に襲い掛かる。重量のある一撃を、腕を交差させて受け止める夏栖斗。
「交渉決裂、か」
 その様子を見て雷慈慟が口を開く。七瀬の方を睨み、敵対の意思を見せる。仲間への指示を飛ばしながら、持っていた『黒の書』を開く。それに応じるように七瀬が口を開いた。
「そういえば色々邪魔されてきた借りも、ここで返させてもらいましょうか」
 そして現在に至る。
「裏野部殲滅うる! 恐山も来るなら同じだからね!」
 夏栖斗は言葉に神秘の力を乗せて挑発を行う。頭に血の上った裏野部フィクサードと石垣がその言葉に反応するように各々の破界器を向ける。手にした紅のトンファーでその攻撃を受け流し、そして弾き返す。
「……アンブレイカブル、貴様とは闘りあってみたかった」
「戦闘狂か。いいぜ、食らってみろよ!」
 石垣の言葉に夏栖斗が大地を蹴る。トンファーを回転させながら、突撃していく。右上から振り下ろし、返すように横に払う。その回転を殺さぬように回し蹴りを放ち、炎に燃えるトンファーを突き出す。直線状にいた裏野部フィクサードは、それに巻き込まれ打撃を受ける。
「上手く固めたな」
 夏栖斗が挑発して集めた裏野部フィクサードに向かって雷慈慟が間合をつめる。脳内に展開される数々の思考。それを解き放ち、神秘的な衝撃として放つ。突如湧き上がる衝撃に、地面を転がる裏野部フィクサード達。
「……うわー。相変わらず的確な指揮」
「方向性の違いだ。多種多様に動ける貴女と、特化した自分。そこに優劣などない」
 七瀬が箱舟の動きに悩ましげな声を上げ、雷慈慟がそれに答える。七瀬がこまごまとした小技を主とするのに対し、雷慈慟はプロアデプトの技術と指揮能力を磨きぬいている。状況次第だが、攻城戦においては雷慈慟の方に軍配が上がる。
『神秘事件を起こし我々を介入させ、結果として情報を卸す。七瀬御婦人も見事な情報操作だ』
『お褒めに預かり。神の目を出し抜けないのが弱点だけど』
 指揮を執りながら、ハイテレパスによる会話で裏野部に聞こえないように雷慈慟と七瀬の会話が続けられている。
『我々も先手を打ちたい。欠片は集まりつつある。ソロソロか』
『幸野愛理が最後の欠片になるといいけどね』
 箱舟と恐山。妥協しながら、しかしまだ交じり合わない。
「ちーっす。カチコミでーす!」 
 挨拶しながら甚之助が裏野部フィクサードのほうに歩いていく。内容はともあれ挨拶は重要だ。そのまま流れるようにショットガンを取り出すと、やたらめったら撃ち放つ。打ち続けながら、言葉を続けた。
「アークの仕事って、結構ややこしいのが多いんだよな。カタギが妙な形で絡んだりしてさ。
 だから正直ストレス溜まってるし、今日は八つ当たりしに来たんだ」
「なんじゃそりぁ!?」
 八つ当たりされる側はたまったものじゃない。甚之助は言葉通りに裏野部の連中に八つ当たりをするようにドロップキックを放つ。敵陣に深く飛び込み、一掃するように暴れまわる。粗野だが、そこには優雅が存在していた。戦う修羅の機能美なのだろうか。
 夏栖斗&雷慈慟と石垣&七瀬と裏野部フィクサード。
 裏野部フィクサードと甚之助と波佐見。
 混戦はこの二グループに分かれ、戦いの熱は加速していた。

●幸野愛理4
『W/END』……魂をエネルギーにして願いをかなえるアーティファクト。
 願いをかなえた魂はアーティファクトに囚われるという。もっとも私は魂とか輪廻とか信じちゃいない。一説には記憶の伝承とかあるみたいだけど……眉唾だね。
 あいにくとそんなのに頼って叶えたい願いはない。早々に破壊しよう。
 どれだけ複雑怪奇な神秘でも、破壊できないのなら破壊できるようにすればいい。
『人形遣いの心臓(マリオネットハート)』……あのナイフの特性があれば、如何なる存在でも『数十秒後に自己崩壊するエリューション』にすることができる。

●『遺品』強奪戦
「動いた。神尾だ!」
 倉庫近くで隠れていたロウと竜一は、木陰から出てきた恐山のフィクサードが、裏野部フィクサードに襲い掛かったのを確認した。フィンガーバレットを指にはめ、弾丸を乱射してフィクサードを沈めていく。
「今が好機ですね」
 ロウは交戦の隙を縫って倉庫の壁を通り抜けようとする、が。
「おい! あっちにも侵入者がいるぞ! 一緒に潰さないか?」
「なに!?」
 物質透過しようとするロウを指差し、神尾が裏野部フィクサードに交渉を仕掛ける。勿論交戦している相手といきなり和解することはないが、その注意がロウに向いたのは確かだ。
「他人を利用しようとするのは、さすが『善意の盾』の部下だな」
 裏野部フィクサードが行動に移す前に隠れていた竜一が影から現れる。北門からの状況は聞いている。恐山と共闘する理由はない。疾風のように近づいて、一気呵成に刀を振るう。神尾の肩口が血に染まった。
「俺は善意を盾にするようなお前らのやり方が嫌いなのさ。なぜなら、俺は誰かを利用するのは大好きだが、利用されるのは大嫌いだからだ!」
 竜一は二刀を翻し、神尾に向ける。両腕を交差するようにして間合をつめ、コンマ5秒の時間差で二本の刀を振るう。その足を崩し、逃げる先を封じるように大上段から刀を振り下ろす。自らの限界を、さらに超えた極みの一撃。
「さすがに効くね……! そういえば、病院の負け分を返してなかったか」
「返す必要はないぜ。もう一つ負け分をくれてやる」
「おい、俺達を無視するんじゃねぇ!」
 一撃必殺の竜一と、柔能制剛の神尾。その戦いに当てられた裏野部フィクサード。
 ロウはその隙に物質を透過し、倉庫内に入る。戦闘を可能な限り回避し、目的だけを達成する。それが『特殊清掃』の誇り。侵入した倉庫内は多少埃っぽいが案外整理されていた。
 ここからが問題だ。問題の『遺品』とはなんなのか?
「ディスクにテープ、手紙に巻物……。めぼしいものを掻っ攫うにも、量が膨大すぎますね」
 物質を透過して運ぶにしても、よほどの量は持ち運べない。しかし倉庫内を一個一個吟味するには時間が足りない。目星をつけて持ち帰るにしても、その取っ掛かりがなければ目星のつけようがない。
「考えろ……ここが分水嶺だ」
 ロウは幻想纏いの通信をONにして、思考を繰り返す。

●幸野愛理5
『人形遣いの心臓』は非常に成功率の低い革醒誘発アーティファクトだ。そして革醒したものは、数十秒後には自己崩壊する。如何なる存在であっても、これにより革醒したものは崩壊の一途をたどるのだ。それはアーティファクトであっても例外ではない。
 私はこの方法で幾多のアーティファクトを破壊してきた。天性の才能か相性なのか、私は革醒発生率が低いこのアーティファクトの成功率が高かった。『神秘狩』と言われる所以もここにある。この『W/END』も問題なく破壊できるだろう。
 だが、問題があった。百数十の魂を飲み込んだこのアーティファクトの崩壊は、多大なる破壊エネルギーを生む。おそらく街ひとつは巻き込むほどの。
 ……結局、『W/END』は放置されることになる。よく見れば、部屋におけば結構見栄えもする箱じゃないか。うんうん。

●『ゲーム』
 七瀬はアークの介入が皆無と思っていたわけではない。だから徹底した『万華鏡』対策を取っていた。
「作戦終了まで奪還目標はすべて『遺品』と呼ぶこと。裏野部の交渉の時もよ」
『万華鏡』はフォーチュナの能力増幅機であり、予知精度向上のアーティファクトだ。神の目の異名は伊達ではない。だが見るのはあくまで人間なのだ。優秀な暗号解読機ではないし、神秘の関わらない物質なら予知精度も落ちる。
 北門でリベリスタと交戦しながら、まだ情報のアドバンテージが自分達にあることを確信する七瀬。焦るな。神尾が上手くやればこちらが情報を得る。
「南門から入ったこちらの仲間が、件の倉庫にたどり着いたようだ」
「……そうみたいね、神尾からも連絡があったわ」
 雷慈慟が七瀬に語りかける。少し遅れて七瀬もそれを部下の報告で確認する。
 幻想纏いの通信をスピーカーモードにして、雷慈慟が七瀬に聞かせるようにする。
 聞こえてくるのは伊吹の声。

『裏野部が気づかぬ価値ある『ことば』なら日記だろうか』

 七瀬は苦々しげな表情で首を横に振り、両手を挙げる。戦闘意志の放棄だ。
「石垣、波佐見、神尾。撤退するわ!
 アークのリベリスタとやり合うなんて割が悪いわよ!」
 恐山のフィクサード達は七瀬の言葉に逆らうことなく、戦線から離脱する動きをとる。アークのリベリスタは逃げる恐山に興味をなくし、裏野部との交戦を続ける。裏野部もアークの猛攻の前に恐山を追う余裕をなくしていた。
「引き際いいねぇ。美人で賢いってのは、いい女の条件だ」
 甚之助が笑みを浮かべて七瀬の言葉に賞賛を送る。逃げるフィクサードに用はないとばかりに裏野部との戦いに没頭していく。
「これで『三つ巴の末に撤退した』形になったかな」
 夏栖斗は撤退する恐山のフィクサードを見ながら安堵の息を吐く。ハイテレパスで行った念話を思い出す。

『それなら……こっちの答えはこうね。アークを攻撃』
『ええ!? マジで!』
『形式上、個人的な意見はともかく、七派はおてて繋いで仲良しこよしなのよ。この喧嘩がイレギュラーなだけで。リベリスタと共闘とかすると部下も含めた私の立場がヤバイ』
『……なんだかなぁ。そっちはそっちで大変なんだね』
『ついでに言うと貴方達の目的が陽動なら、ココで派手に暴れるのも目的にかなう。戦力温存の名目で手加減して戦うから、小芝居に付き合って頂戴。裏野部と恐山とアークの三つ巴。
 見返りは、そうね……ゲームをしましょう』
『ゲーム?』
『『遺品』を先に手に入れたほうの勝ち。私たちは『遺品』の正確な形を知っている分有利だけど、人数の差があるから同条件と思うわ。どちらかが手に入れるまで、戦い続ける』
『こっちのメリットは?』
『貴方達は『遺品』の形状を三回だけ私に尋ねてもいい。私はそれに正確に答えるわ。
 あてずっぽうで倉庫を探すよりは、いいんじゃない? こっちのメリットは人間関係の維持って所かしら』

 この協定に従い、アークと恐山は加減して戦闘していたのだ。加減といっても実際に殴りあい、そして傷つけあいもしたわけだが。
 そしてアークはそのゲームに勝利した。その報を聞いたロウは、日記のようなものを探し……すぐに『遺品』を見つけ出した。

●幸野愛理6
 あの子が正体不明の病魔に侵される。神秘の物なのか、今の医学ではどうしようもない病気だ。このままでは死を待つしかない。今夜が峠だという。
『W/END』を壊さなくて良かった。本当にそう思う。既に願いはかけてきた。時間が来ればあの子の病気は治って、私の魂は『W/END』に囚われるだろう。
 悔いはない。ただ心残りがあるとすれば、あの子に――
(日記はここ手途切れている。以下、白紙のページが続いている)

●猛攻
 恐山が撤退し、目的の『遺品』を手に入れた。これで目的はほぼ達したといえ――るのだが、
「後は裏野部をぶっ潰すのみだな。ひゃっはー!」
「うむ、救いようのない輩だ。ぶっ潰そう」
 竜一と伊吹が銃弾飛び交う館の中を歩く。竜一の刀が一閃し、伊吹の腕輪が柱を縫うようにとび、フィクサードの頭を穿つ。
「ちょりっす、ご機嫌麗しゅう、裏野部の皆さんの武器管理にまいりました! 危ない武器はないないしちゃおうね!」
「運がなかったねお前達。これだけのメンツを相手することになろうとは。少し同情するよ」
 夏栖斗と快が武器の集まった部屋を襲撃し、そこにいるフィクサード達に襲い掛かる。夏栖斗の炎のトンファーが緋を走らせ、快の加護がリベリスタの力を増す。
「んじゃ、ウム。救世開始といこう」
「委細承知」
 フツと雷慈慟が逃げる裏野部フィクサードを押さえに回る。フツが赤の神獣を招来して炎の翼で敵を焼き、雷慈慟がリベリスタたちの活力を生む。
「腕に自信のあるヤツだけ来い。死にたくなきゃ、壁際で震えてな」
「無双するぜー」
 甚之助と岬が短刀を手に飛び掛ってくるフィクサードのグループに突っ込んでいく。甚之助が暴れる大蛇の如く荒れ狂う弾幕を張れば、岬の『アンタレス』が漆黒の刃で多くの敵を葬る。
「恐山のハサミちゃんも怖いけど惹かれるんですよねえ。ちょっとやり合ってみたい気もしますが」
「波佐見にアエネーノハちょっちツマンネーゼ」
 ロウとリュミエールが他の追随を許さぬ速度で敵を切り刻む。ロウの刀が袈裟懸けに振るわれると同時に、リュミエールが相手の間合の奥にもぐりこみ、ナイフを振るう。
 この館に集まっている裏野部フィクサードの誰もが、個人的な技量ではリベリスタには叶わない。数こそ多いが錬度も低い。慌てて襲撃用に用意していた銃を手にするも、リベリスタの勢いに押される形で、少しずつ数を減じていた。
「くそ! アークが攻めてくるとか予想外だ!」
「大丈夫、裏野部とはシノギも被ってないし、横取りなんて不純なことはしない。俺の純粋な気持ち、受け取ってくれ!」
「裏野部だし悪い奴だしぶっ潰そうぜ! 裏野部だからって理由だけでぶっ潰そうぜ!」
「え! 今日は全員フィクサード殺してもいいのか!」
「私大人数戦ムイテネーンダケドナー」
「情け無用だぜー」
「数はこっちのほうが上なんだ! 地の利を生かして一気に掛かれ!」
「城攻めは内部に入られた時点で、ほぼ勝敗は決まってるんだけどね」
 快の指摘どおり、雌雄は既に決していた。
 武装による攻撃強化を圧倒する戦力で、リベリスタは裏野部たちを駆逐した。

 館から少しはなれたところに、恐山フィクサードたちはいた。撤退し、波佐見の望遠の神秘で館の戦況を見ている。
「お姉様、裏野部全滅です。リベリスタって容赦ないですね」
「色々……ストレスがたまっていたのね」
 額を押さえながら、七瀬はこっそりため息をつく。容赦なさすぎだろ、お前ら。言外にそう語っていた。

●戦いが終わって
 三つ巴の茶番(戦い)から数時間後、恐山フィクサードはアークのリベリスタと邂逅していた。意図せぬ『ゲーム』となったが、リベリスタは情報共有の約束は護るようだ。もっとも『遺品』自体はアークが預かるわけだが。
 内容を確認し、七瀬が『遺品』をアークに返す。受け取った快がビジネス的な笑みを浮かべた。
「またのご利用をお待ちしてるよ、『善意の盾』さん」
「以外ね、『デイアフタートゥモロー』。恐山に利用されたいなんて」
「やり方が気に入らないのは事実だけど、そっちが利用してくれることで防げる悲劇があるなら、俺は体裁に拘らない。利用してくれて構わないぜ、俺はね」
「忠告だけど、その『誰かを救いたい』感情こそ一番利用しやすいのよ……と?」
 七瀬は流れてくるテレパスに足を止める。伊吹からだ。
『余計なお世話かもしれんが、女はもっと自分を大事にすることだ』
 伊吹は七瀬が肉体を条件に情報を引き出そうとしたことを言っているのだ。
『残念ね。私は虜のお姫様役じゃなくて、悪い魔女役なのよ。正義の味方なら、倒しにきなさい』
 七瀬はそうテレパスで返す。そのまま恐山のフィクサードは背を向け――
「ヨー、波佐見。調子ハドウダ?」
「聞いて聞いてー。こないだお姉さまにベッドで優しくしてもらったの。体中熱くなったわ」
 リュミエールと波佐見の話に肩をコケさせる七瀬。
「インフルエンザの看病をへんな風に言うな! 帰るわよ!」
「あーん!」
「しまらねぇなぁ。まぁ、負け犬なんで仕方ねぇか」
「……さらばだ」
 今度こそ、恐山のフィクサードは帰っていった。

●霧崎真人
 その日、一人の病魔に侵された少年が奇跡的な回復を見せ、その保護者が突然死する。
 少年が革醒したのはこのとき。強烈な神秘に触れたためか、ただの偶然か。
 日記を見て真実を知った少年は、己の目的のために暗部に潜る。人を護るリベリスタの道ではなく、我を貫くフィクサードとなった。ただ自分の目的を果たすために、智謀策謀を使ってのし上がる。十分な地位を得て、もはや老年といっても差し支えない彼はその目的を果たすために動き出した。
 少年の名前は、霧崎真人。その目的は――

●恐山
「目的は、『神秘狩』幸野愛理の魂の解放ですね」
 七瀬は自分の上司である霧崎に詰め寄った。
「エリューション化させるナイフを使い、『W/END』を破壊する。それが貴方の目的」
「滑稽な作戦だな。破天荒で、突拍子もない」
「『神秘狩』はそういう人だと聞いています」
 部屋に沈黙が下りる。その沈黙の中、七瀬は交渉の手札を頭の中で組み立てる。相手の作戦の全容を知ったことは、これでようやく視界が開けたというだけでしかない。どこまで真実を知っても、力関係は変わらない。
「恐山は利を求める。そんな個人的な理由で金を動かせるとは思えんな。他の者達に蹴落とされる」
「……つまり、これは他の幹部クラスに利がある話なのですね」
 霧崎の言葉に七瀬があてずっぽうで言葉を返す。あてずっぽうだが、全体が見えた状態の投擲だ。そのまま言葉を重ねた。
「『W/END』の破壊により、強大な破壊エネルギーが生まれる。それを利用して新たなビジネスが恐山に生まれる。そういうことなんですね」
 その言葉に、霧崎は笑みを浮かべる。合格だ、とばかりに。
「街の地下に巨大な空間を作った。『W/END』の破壊はそこで行う。破壊によりその衝撃が地盤を通じて街を襲う。世間的には局地的な大地震と報道されるだろうな。予想されるだけでも、かなりの被害が発生する」
「他の幹部はそれを知っている。
 だから街から事業を一時的に撤退させ、そして崩れた街の復興用資材の購入に入っている」
 災害が起きるとわかっていれば、それを予想したお金儲けは可能だ。自分で火をつけ、仲間が家や食料、医療品などを売り込む。とんだ火事場泥棒だが、それが街規模で行われるとなればその収入は桁違いのものとなる。
 何よりも『事業』を独占できるということが大きい。市場を独占できるということは商売敵もなく、何よりも『商品』の値段設定を都合よく吊り上げることができるのだ。 
「不服そうだな、『善意の盾』。然もありなん、お前の財産は『人の縁』だ。死人がでるこの作戦には賛同できまい。私をかぎまわるより先に、恐山の幹部を探るべきだったな」
「それをすれば、貴方は『恐山の暗部を探るスパイ』の名目で私を潰していたでしょうね」
「さてな? だがお前にも得がないわけではない。私がいなくなれば、幹部の席が一つ空く。そこにお前を推しておいた。異例の大出世だ。
 もちろん、この作戦が上手くいかなければすべてはご破算だ。やってくれるな?」
 問いかけの形式こそ取っているが、実質的には脅迫である。
 これだけの報酬を断れば、霧崎は上司の裏をかぎまわっていたことを追及する。そうなれば、自分だけではなく部下達の命も危うい。今回の件も取りようによっては『リベリスタと通じ、裏野部の集会場を一つ潰した』とも取れる――真実に意味などない。ここは『謀略の恐山』なのだ。
「了解です。最後までお付き合いします」
 引き際を誤った。七瀬は内心臍を噛む。出世することは悪くない。だが、そのために手放すものが多すぎる。『盾』なしで上に昇れば、攻撃を受けて奪われるのは必至だ。
『善意の盾』七瀬亜実の立場でできることは、もうない。だが、
(口惜しいけど、アークのリベリスタが動くことを期待するしかない)
 散々邪魔された連中の顔を思い出しながら、謀略は闇に包まれる。

 その会話からしばらくして、ある街から恐山の息の掛かった組織が撤退する。数名だけが街に残り、残務処理を行っていた。怪訝に思うものはいたが、真相にたどり着けるものは誰もいない。
 その中に霧崎真人と呼ばれる老人がいる。その手には一本のナイフと、小さな箱があった。
 それが神秘によるものだと、誰も気づかない。
 それが街を襲う災害の元となるものだと、誰も気づかない
 それがある男が人生をかけて行おう策略だと、誰も気づかない。

 ――だが『神の目』はそれを見逃さない。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。

どくどく「『遺品』はリベリスタがゲットですね。じゃあ締めに――」
リベリスタ「「裏野部殲滅します!」」
どくどく「(よ、容赦ねぇ……!)」

 そんな感じでした。数の優位性とはなんだったのか。
 ともあれ成功です。フェイトすら削れなかったぜ。
 
 MVPは『遺品』の内容を当てた熾竜様に。
 見事な推理でした。これがなければ逃げる神尾との追撃戦で、もう一騒動あるところでした。

 最終局面が近いです。それまでしばしの休息を。
 それではまた、三高平市で。