● とっくの昔に枯れ果てたシロツメグサの冠に、萎れた薔薇の色を盗んだ様に鮮やかな色をした深紅のドレス。カーテンの間から差し込む光りがぼんやりと玉座を照らして居る様だった。 「美しいよ」 賞賛の声は何処からともなく。 ついで響く拍手は喝采か。たった一人の従者たる青年が空の玉座を見詰めて告げたのだ。 彼にとって、この玉座に坐るのは美しい少女でなければいけなかった。 艶やかな黒髪に、形の良い引き結ばれた唇。大きな瞳に薔薇色の頬を持った美しい少女。 「……美しいよ」 身体は深紅のドレスに隠されて、座っていなければならなかった。 早十年、その外見を変えぬ青年は未だに理想の少女を探し続けている。 ああでもない、こうでもないとぶつぶつと唱えながら『組み立てた』少女の完成系は段々と風化していく。 ああでもない、こうでもない。 ――次は鮮やかな大きな赤い瞳を貰い受けよう。 ――いや、大空を見据える様な青い瞳でも良い。 この空の玉座に坐るべき少女を組みたてよう。そして、彼女と永遠に一緒に過ごすのだ。 二人だけの王国を作り上げて、閉じ込めてしまえばいい! ● 「……気色悪いわね」 開口一番、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が告げた言葉にリベリスタは頷いた。 「お願いしたいのは食中り――『黄泉ヶ辻』のフィクサードでロリコンな男への対処よ。 彼は愛しい少女を、理想の少女を組みたてて作り上げようとしている。 長い黒髪だとか、美しい赤い瞳……いや、蒼い瞳でもいいのかしら……兎も角、そんなふうに『理想』を込めて少女のパースを切り取ってはアーティファクトの効果を使って繋ぎ合せていっているの」 気持ち悪いともう一度。腕、足、首、顔、瞳、胸、腹、腰、尻、全てのパーツが別人の物なのだ。自身の最良の少女を作る為に罪なき少女を攫っては繋ぎとめ、組み合わせていくのがこのフィクサードの『やり方』なのであろう。 「アーティファクト『接節功罪』は接着剤の役割を果たして居るわ。 彼は理想の少女を幾人も作り上げ、用意したドレスを着せ、玉座に座らせては楽しんでいる。けれど理想の少女は出来上がらない。何度も何度も創っては坐らせ、そして捨てるの」 あれでもないこれでもないと繰り返して繰り返し。それでも出来上がらない『少女』に青年フィクサードは苦心しながら何度も作り上げるのだろう。 理想の人形はできない。時の止まった青年は『朽ちる』少女を見詰めては嘆くだけなのだろう。 それでも『少女』を作り上げたいと青年は罪なき少女を組み合わせ『理想』を求めている。 「何とも言えない行いだけれど、これ以上の被害を出させる訳にはいかないわ。 捕えられた少女5人の救出とアーティファクトの破壊をお願いしてもよろしいかしら」 リベリスタを見回して、世恋は浅い息を吐く。 青年が存在する古城は瓦礫だらけのワンフロア。彼と彼に付き従うフィクサード達が存在する場所には少女5人が囚われられたままだと言う。 救える命なのだから――と告げて世恋は「よろしくね」と小さく微笑んで見せた。 「一応、情報だけれどもフィクサード『ホワイトリリー』が求めている少女は彼が昔愛した少女。その面影が掻き消える前にその少女を作り上げたいのだと言うわ。 でも、思うの。果たしてそんな物で、満たされるのかしらね……?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月30日(水)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 朝露に濡れた草木。冷たくなりつつある空気に体を震わせた『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)はDoloresを手に、色鮮やかな紺の瞳を細めて溜め息をついた。 流れる金糸が如き髪に、幼い少女と見紛うかんばせは寒さに強張るだけではない。同じく体を震わせた『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の方が或る意味で『素直』であったのかもしれない。 好意をストレートに顕す事の出来ないシュスタイナではあるが、辛辣なその性質はよりストレートに顕す事が出来る。エレオノーラの瞳色を反映させたような紺の髪が朝冷えの風に揺らされた。 「……気持ち悪い」 毒吐いた言葉はこの場のリベリスタに共通する思いであろうか。薄い茶色のサングラスを掛けて居た『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)のブラウンの瞳に宿される敵意はその『気持ち悪さ』を反映したものであろうか。 握りこまれる拳には憎悪が込められていた。体中を切り刻まれる感覚も、自分の知らぬ場所で好き勝手に弄ばれるそのシチュエーションも、カルラ・シュトロゼックという青年は実感した事があったのだろう。そこから吹き零れた憎しみは今から救出する彼女達には見せる事が出来ないものだ。 「どうして」 ――どうしてこんなこと。 理想は理想のままで。辿り付けない事なんて分かっている筈なのに。『ロンサムブラッド』アリシア・ガーランド(BNE000595)は晴天を思わせる大きな瞳を潤ませてナイフを握りしめて、ゆっくりと進んでいく。安全靴が踏みしめた土の柔らかさも気持ち悪い物であるかのように思えた。 持ち前のバランス感覚を生かしながら歩く『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が簡易護符手袋に包まれた掌に力を込める。柔らかな空気を纏う彼女は明らかな敵意を剥き出しにしたカルラや嫌悪を向けるシュスタイナと比べれば落ち着いていたのだろう。 「ブレイン・イン・ラヴァーでも使える様になって、脳内でしてればいいのにね」 「尤もな解決方法だわ。悪趣味にも程があるものね」 手にした魔術教本。スクール水着の上に『教師』を纏った『箱舟まぐみら水着部隊!』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)はロリータ・コンプレックスの範囲にも当てはまる幼いかんばせを歪ませる。 ソラが幾ら幼くともその内面は教師のものだ。犠牲者として連なる少女の中にはソラの教え子位の年齢も居るのだろう。教科書の表紙に皺が寄る。苛立ちがじわじわと沸き上がり、大きな紫に敵意が籠りだす。 「私達が出来る事は何かしら」 既に犠牲となった少女を助ける事はできない。何もしてあげられない。 お祈りを捧げる『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の手が震えた。胸のロザリオを握りしめる指先に力が込められる。己は神の武器だった。そうではない一般人達は『玩具』でないことを人の心を学んできたリリにはとても受け入れられない現実だった。 様々な思惑が交錯し合う中でも、曖昧な感情を胸に柔らかな笑みを浮かべたルクレツィア・クリベリ(BNE004744)は嫌悪感を顕す訳でもなく、夢を見る様に嗤っている。 「バラ色のドレスにシロツメグサの花冠をかぶった小さな女王様が従僕の青年を連れて古城を冒険する……。 青年は可愛い小さな女王様との物語に夢を見る。美しいバラ色のドレスの小さな女王様は嗤うのね。 ――ああ、そんな物語だったら素敵ね」 今は、その欠片を見る事もなく。物語が崩れる様に瓦礫に塗れた古城がそこには存在していた。 ● 中央の玉座に座っていたのは薔薇いろのドレスを着た骸骨だった。頭には萎れたシロツメグサの冠を被り、ぼんやりとフロア内を見詰めている。 生前の様子など感じさせない窪んだ眼窩はその中に何色の瞳があったのすら分からない。過ぎ去った歳月は長すぎて、ホワイトリリーにも分からないものになったのではなかろうか。 魔術教本を手に、地面を蹴って体を滑り込ませたソラに咄嗟に反応したフィクサードの前で彼女は白衣をはためかせて緩く笑う。結いあげた紫の髪。瞳の鮮やかさ。伸び切らぬ手足は『幼いさ』の象徴の様である。 「こんにちは、変態さん達。貴方達の奇行を止めに来たわ」 緩く微笑んだソラが天から降らす雷に玉座の近くで縛り付けられていた一般人の少女が悲鳴を上げる。緩く浮かびあがり、地面を蹴ったエレオノーラがバランス感覚を生かす様に体を反転させる。Haze Rosaliaの刃先が緩く煌めき、黒とも白とも言えぬ色を浮かべ出す。 「御機嫌よう。ホワイトリリー? 素敵なのは名前だけね、虫唾が走るわ」 「君は――『お嬢さん』? それとも『紛い物』かい?」 神秘界隈には様々な人間が存在している。青年となってからその成長を止めたホワイトリリー。幼き姿を取ることとなったエレオノーラ。問いに応えないままにエレオノーラは笑みを浮かべ、ホワイトリリーの往く手を阻んだ。 リベリスタ陣営の強みは速さだろうか。先手を取れる彼等の内で、ウルトラウィングを装着したカルラがサングラス越しにフィクサードを睨みつける。敵意を剥き出しにするカルラが真っ直ぐに飛び込んだ。 少女の近くに存在するフィクサード。剣を手にした彼をカルラは『近接火力前衛』と考えて居た。――例えるならそう。カルラと同じ型だ。尤も、速度を武器にしたカルラとはバランスは少々違うのであろうが。 「――」 言葉は発さない。表情を悟られても、声を聞かせても少女に不安を与えると、カルラは知っていた。 彼とは正反対に『少女』であるシュスタイナは自然体のままだ。緩く浮き上がった彼女がワンドを手に周辺に展開する魔法陣。魔力を供給する手を休めずに、指先は苛立ちを顕す様に震えていた。 「気持ち悪いわ。何が理想の少女よ。吐き気がする。……さっさと消えてくれない?」 「君、彼女はとても良い。特にあの手首を頂きたい物だね。……それに、君も素敵だよ」 褒めなくて結構と蔑む様な視線を向けたエレオノーラの瞳は男の求めるパーツの一部であろうか。文字通り『うっとり』とする男の隙をつき、白妖を振るい出して吐き出す気糸。瑞樹の長い黒髪がフィクサードの切っ先を受けてはらりと散る。 「お人形遊びが好きなんだよね? 女の子たちと遊ぶのが好きなのは結構だけど、そっちにかまけてていいの?」 瑞樹の言う『お人形遊び』。少女達のパーツが転がる空間でルージュを塗った唇を歪めたルクレツィアは魔女の繊手に包まれた指先でゆっくりと宙を撫でる。空気を触り、唇に笑みを湛えた。 「貴方には物語があったのかしら? それって、素敵ね? ……けれど、駄目。彼女たちの一部分だけを愛そうなんて不実だわ。わたくし、全てを愛してこそだと思いますの」 囁く言葉に顔を上げたホワイトリリーと瞳が克ち合った。敵意をむき出しにするリベリスタ達の中で誰よりも優しげに――何処か『異端』の空気を纏い、誰よりも夢を見る乙女が如き雰囲気の――ルクレツィアは微笑んで見せた。 周囲の魔法陣すらも赤く。革醒前の自身の髪色を顕す銀の魔法陣を両手に抱いたシュスタイナとは対象的な程に赤い魔法陣の真ん中で、女が微笑めば、フィクサードは真っ直ぐ彼女へ向けて走り出す。 「ごきげんよう?」 踊りましょうと伸ばした指先にフィクサードが小さく笑みを浮かべるが――その背後、走るアリシアが存在していた。 少女のパーツはどれも用済みになった玩具の様に転がっていた。蹴り飛ばされる腕がアリシアの元へ転がった。帽子で顔を隠し、『女性らしさ』を感じさせぬ様な服装をした少年の様な『少女』は涙を浮かべて玉座の元へと走っていく。 ごめんなさい、と囁いて、人の『パーツ』を飛び越えて、涙を浮かべるアリシアはナイフを体の影に隠して少女の元を目指して居た。 「……あいつッ!」 「――どちらを見てらっしゃるのでしょうか?」 待ちわびたとでも言う様にリリが「十戒」と 「Dies irae」を構えて全方位に撒き散らす誘導魔弾。一つも逃さぬと言う様に作り上げた弾幕世界の中、何処か未完成の『女らしさ』を湛えたかんばせを歪めたシスターは常の通りに吐き出す言葉に敵意を含んで囁いた。 「――さあ、『お祈り』を始めましょう。私は『神の魔弾』。 神が与えし異端の教えをこの胸に。信仰こそが我が全て。……神の教えに背く者はこの手が撃ち砕きましょう」 ● 二種類の雷光が降り注ぐ中、エレオノーラは『消』える。その姿を錯乱し、もう一度切りかかりながら、『彼女』の背中で揺れた羽根にホワイトリリーがくつくつと笑いだす。 美しいあの羽根を『彼女』に生やせばどれ程美しいだろうか。愛しいあの子。薔薇色のドレスをきた玉座の主。ホワイトリリーの往く手を遮りながら『少女の美貌』を歪めて、ロリータ・コンプレックスの男の視線を引き続ける。 「君、名前は? その羽根をもがしてはくれないか」 「本当に文字通り『人形の様な』……ね。あたしを勝手な理想の為に使わないでくれないかしら? 勿論、彼女達だってそうよ。貴方の勝手な理想のための道具じゃない。返してもらうわ」 許せないと歪める表情だって蠱惑的なものだ。背後から血の鎖を伸ばし続けるシュスタイナの狙いは拘束系のバッドステータスを所有するフィクサードだけでは無い、周辺の巻き込めるもの全てを絡め取る。彼女を狙う様に伸ばされる手を断ち切ったのは注意を向けて居たリリだった。 地面を蹴り、広がるスカートを気にすることなく、銃口を向ける。体を反転させ、狙いを定めるリリが纏う月の女神の加護が彼女の攻撃をより強固にしていく。 「私はリリ・シュヴァイヤー。神罰の執行者です」 名乗りあげるのは、自分の立場を確立させる為であろうか。リリという存在が確固たる自分を見出すことでフィクサード達とハッキリとした敵対を行っている。年若く見えるリリの体のパーツは『お人形遊び』にも役立てるのであろうか。 彼女を気糸で巻き込まんとするその手を断ち切る様にカルラが勢いを込めて殴り付ける。彼の手は止まらない。一手、また一手と振るわれる拳にフィクサードが後退すれば、そこに飛び込む瑞樹の気糸。 「だから、言ったでしょ? 私達を放っておいて平気?」 にぃ、と唇を歪めた瑞樹には普段の優しさと言う物があまり感じられない。動きを阻害する仲間達のお陰で難なく辿りつく事が出来たアリシアはしゃがみこみ少女達のロープを手にしたナイフで切った。 「あ、あの、ぼくも……怖いんです。だけど、きっと助けるから、待ってて下さい……!」 「あ、あなた、たち……」 誰、とロープを切られた少女が、背後に存在する彼女より若い少女を庇いながらアリシアを見詰めている。突然行われた不思議な戦闘は『ホワイトリリーの凶行』と対して変わりないのだろう。 神秘に造詣の深いリベリスタ達で有れば、難なくそれが『正義(リベリスタ)』と『悪(フィクサード)』と分類されるのであろうが、一般人の少女達にはそれも難しい。アリシアの懸命な訴えは少女の不信感を取り除くのに役立ったのだろう。 「ぼ、ぼくたちが……助けます……!」 広がる雷光の中、カルラが殴り付け、瑞樹が絡め取ることで、動きを阻害したフィクサードをリリの弾丸が撃ち抜いた。シュスタイナの鎖が絡め取れば、ルクレツィアの雷が上空から降り注ぐ。 「邪魔するな――!」 「……喋るなよ、クセェぜ」 吐き捨てる様に言うカルラにとって『性根の腐ったフィクサード』と言う物は腐臭を撒き散らす汚物でしかなかった。澱み無く振るわれる拳は何度も何度も叩きつけられる。 前のめりな姿勢のカルラを癒す二つの手を受けながら、カルラは真っ直ぐにその拳をフィクサードの腹に叩きこんだ。 「テメェらが刻んだ子供達の痛み、1%でも多く味わって、死ね」 フィクサード達の数が減る中で、ソラの回復がカルラに齎されれば続けざまにシュスタイナが毒吐きながら『天使』の癒しを与えている。 「……天使ねぇ、天知ってガラじゃないわよね、ほんと」 頭の中に浮かんだ『あの馬鹿』の事が頭の中にぐるぐると浮かんでいる。黄泉ヶ辻のフィクサードがシュスタイナへ向けて放つ弾丸が彼女の頬を掠めるが、少女は不敵な笑みを浮かべて、緩やかに浮かび上がった。 「ねえ、私に倒されること……有り難く思いなさい?」 「貴方方の『愛』と言う物は度し難い。理解に及ばぬものばかりです。特定の年齢、パーツへの執着。 多大な犠牲の上に築く『愛』という紛い物――身を以って否定します」 シュスタイナの手首から溢れる血がフィクサードへと纏わりつけば、リリは両手の『狭義』から淡く光る蒼き軌跡を撃ちだした。 「神罰を持って、貴方を否定致しましょう――!」 制圧せよ、圧倒せよ。この身は神の魔弾――裁きと祈りの聖域にて! ソラが「度し難いわ」と笑って撃ちだす雷光と合わさり、輝きが増していく。カルラの拳を受けて倒れたフィクサードを確認し、ドレスの裾を持ち上げてルクレツィアは一般人の元へと走った。 魔術的な瞳を使う事はルクレツィアには出来た。彼女の魔的な光りを放つ瞳が一般人を操る事は出来たのだろう。容易い事であれど、怯えきった二人にその眸を彼女は遣わなかった。 「怖かったわね。もう、大丈夫よ」 手袋をはずした指先はほっそりとしている。先程まで闘い続けた女のものには思えない。 しゃがみこんで、合わさった視線。魔術的な気配を孕まない赤い瞳はゆっくりと細められていく。 「……怖かったでしょう……?」 ぎゅ、と胸に抱きしめて、あやす様なルクレツィアの背後、踏み出すフィクサードを殴り付けたカルラの元へと飛び交う魔術。 体を滑らせて瑞樹が気糸で絡め取れば少女は小さな掌で白妖を握りしめ、力強く言った。 「もう、大丈夫だよ。私達は敵じゃないの。貴女達の悪夢を終わらせに来たの。 怖かったら、目を閉じてて? 大丈夫。貴女達は、必ず護るから……!」 瑞樹の言葉を受けて、後衛位置から移動したソラが少女の頭を撫でる。幼く見える彼女の腕の中で少女が怯えた様にそっと掌を背中へと回した。 「大丈夫、私達が護るから。私達を信じて、ね?」 身近な少女を必ず守るとソラは決めて居た。指一本すら触れさせない。 それはアリシアも同じだったのだろう。ゆっくりと後退し、瑞樹が一般人を安全圏へと誘導しようとする手をフィクサードが止めに走る。 受け止めたカルラが殴りつければ、後衛に下がりつつあるホワイトリリーに視線を送ってエレオノーラは玉座へと視線を送る。傷ついたアーティファクトの存在に気付きながら、唇を歪めた、少女偏愛の男に虫唾が走ると言う様にエレオノーラは「悪いロリコンは殺すわ」と囁いた。 「君、素敵な手をしているね。……名前を聞いておこうか?」 「理想を語ろうとも、手の内でしか『予定調和の域』を出ない、無意味なお人形遊びをする貴方に、名乗る名前なんてないわ」 エレオノーラが一手下がればリリが銃口を向けたまま睨みつけて居る。走りださんとするカルラを正面から喰いとめるフィクサードにカルラは極力抑えて居た声で「邪魔だ」と囁いた。 「誰もが、何もが誰かの代わりにはなれません。代わりを作ったとして『その方』ではなく、愛したとして『その方』を愛する事に、ならないのではないでしょうか……?」 「それでも、誰かを欲するとしたら?」 「『その方』が貴方を好きだとしたら……贋物を見ている貴方を見たら、哀しいのではないでしょうか」 愛する人を求める気持ちはリリにだって分かっていた。リリには理解できない『感情』が其処にはあるのではないか。答えを求める様に銃口は揺れ動く。 動きを阻害する様にホワイトリリーを狙うリリを見守りながら、両手をくみあわせ、少女達を護る様に動き続けるアリシアが涙を浮かべて、震える声を発した。 「もう誰一人傷つけないで……お願いです! こんな事やめて! 諦めて、退いて下さい!」 アリシアの声に男は笑う。自身の傷を考慮し、退くと言う意思を顕したのだろうか。腕を下げ、視線を送れば、カルラの相手をし続けているフィクサードが一手下がる。 「もうしないと、それだけでも誓ってくれれば……!」 「可愛い『お嬢さん』。人はそんなに簡単ではないのだよ」 ゆっくりと後ろに歩いていくホワイトリリーの動きを見詰めながら、攻撃準備を整えて居たシュスタイナが腕を下げる。五人の少女達の元へと走り寄ったエレオノーラはゆっくりとその緊張を解く様に背中を撫でた。 「大丈夫だよ、少し、目を閉じててくれるかな?」 骸骨の頭を壊す瑞樹の手。ぱきん、と音を立てて壊れたホワイトリリーの『愛しの人』。 埋め込まれた『接節功罪』が破壊されることにより、接着剤の役割であったものを喪った人形の様な少女の体がバラけていく。 「……ごめんなさい」 壊れていく『人形』――元は人だったものを見詰めながら呟くエレオノーラは少女達の頭を撫でて微笑んだ。 「ここで起きた事は秘密ね、忘れましょう?」 「今日起こった事は悪い夢、お家に帰ったらぐっすり寝て、全部忘れちゃいなさい」 震える少女の体を抱きしめたソラは優しく背を撫でて、溜め息をついた。ルクレツィアは目を閉じ手緩やかに笑う。 「可哀想なだけのお人形は貴方の愛の寄る辺にはならないわ――愛はそんなものには宿らないの」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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