●理由知らずの 深夜の工場の一室で、その戦いは繰り広げられていた。 最初に言い出したのが誰か、否、そもそも言葉を交わせるのかどうかも分からない。 だが既に戦いは始まっていて、無益な負傷者は出るばかりだ。 灼熱のトンネルの中で、或いはその外側で、戦士達は戦い続ける。 ある者は無残に引き裂かれ、叩き割られ。 ある者は灼熱に身を晒し過ぎ、重く深い火傷を負って。 それでも尚、競い続ける。戦い続ける。 人知れぬその場所で、戦いは終わる当てもないままに続く。 芋と栗だった。 ――こんがりと香ばしい香りを放つ、秋の味覚だった。 ●初めましての 「やあやあ諸君、初めまして。堅苦しい挨拶は抜きにして、早速だが予知いくぞー」 ブリーフィングルームに入ってくるなり、『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)の開口一番がそれだった。 抱えていた資料を半ば押し付けるように、集うリベリスタ達に配っていく。 「全員回ったかい? それじゃ資料かくにーん」 印字の並ぶ紙片を頭上に持ち上げて、 「はい、今回の敵は芋と栗です」 実にシンプルに、シンプル過ぎるほどにばっさりとした説明だった。 妙な沈黙の漂ったブリーフィングルームを見回して、ちょっぴり焦ったように女が資料を抱き寄せる。 「た、ただの芋と栗だと思ったら大間違いだからな? 焼き芋と焼き栗だからな!?」 何処がどう違うのか。 主に関係のないところで力説した五月女が、コホン、と小さく咳払いをして口調を落ち着かせる。 「まずは資料にある通り、今回のエリューションは焼き芋と焼き栗です。自分から食料に名乗りを上げてくれた、大変結構な奴らです」 完全な独断でもってエリューションを評価しながら、五月女が手にした資料を捲る。 「何か近くに妙な破界器があって、その影響を受けて覚醒したようなんだが、どうも芋組と栗組に分かれてやり合ってるみたいなんだよね。で、互いに機械の中に突っ込んで、どーいうつもりか我慢大会をやってるっぽい訳だ。あ、焼き芋作る機械って知ってるかい? うん、まさにアレ、でっかいオーブンの中なんだが」 ちなみに周囲では焼けた芋と栗がドンパチやってます。 資料に目を通しながらざっくばらんに説明して、白衣姿のフォーチュナはリベリスタ達に視線を向ける。 「これだけの話だとなんのことやらとも思うだろうが、厄介なのはこいつらがオーブンの中で我慢比べをやってるってことだ」 つまり、と一拍置いた五月女が資料を丸め、それでもってぽんぽんと自分の肩を叩いた。 「このまま放っておくとこんがりを通り越して焦げ焦げになっちまう。折角の芋と栗がこれじゃ台無しだろう!?」 とても、とても気合いの籠った一声だった。 丸めた資料をぎゅっと握り締め、若干冷めた様子のリベリスタ達の態度に気付かず力説する。 「だから私は! 断固として食い物の大切さを訴え! この無駄になりかけている食糧共を止めたいと思う!」 勿論胃袋に収容という方法で。 「つー訳で諸君、この馬鹿ちん共の喧嘩を止めてから、さっくり頂いちゃってくれ。あ、乙女達はくれぐれも臭いに気を付けるよーに。半分は芋だから」 言うだけ言った五月女が、資料を握り締めた手をすちゃっと持ち上げると、「じゃ」と言い残してリベリスタ達に背を向けた。 「ん――おっと、自己紹介がまだだったかな」 が、ルームを出る寸前で足を止めて振り返ると、丸めたままの資料を軽く振って笑う。 「伊柄木・リオ・五月女。エリューション研究を中心にやってたんだが、まぁ色々とあってフォーチュナも兼任することになった。これからどーぞヨロシク」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月06日(水)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 深夜の工場。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が業務を終了した建物の電気を灯せば、その光景はすぐに目の前に現れた。 「な……なんという物騒なのに食欲を刺激される我慢比べなんだ……」 ぶつかり合い競い合う、紫色と焦げ茶色。 ほくほくと焼けたものやら皮の弾けたものやら、冷めたものやら焼け過ぎたものやら。 甘く香ばしい香りで満たされた部屋に、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が目を輝かせる。 「素敵な香り! お腹空いてきちゃった」 「うむ、甘い香りなのだ」 「あ、みんなも同じ? やっぱり腹、減るよなぁ……」 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)と雷音の言葉を受けて、木蓮が目の前の光景と漂う香ばしい香りに唾を飲んだ。 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)もまた、食欲を刺激される匂いに少しばかり目を細める。 「本当に、日本と言う国は平和だな。……勿論、神秘界隈を除けば、の話だが」 季節の味覚という、当たり前ながらも平穏な日常にすっかりと慣れてしまったと呟く。 「ともあれ、芋も栗も良いものだ。折角であるから、堪能するとしよう」 一方で、眼前の状況をそのように受け入れる者もいれば。 「飛び交いぶつかりあう芋と栗……シュールな光景だ」 視界をこれでもかと飛び交う野菜と木の実という組み合わせに、クリス・キャンベル(BNE004747)は呆れたように溜息を吐いた。 「これも神秘ってやつか、もうワケが分からないな……」 ぶつかり合いに負けた栗が足元に飛んできて、反射的に避けながら目をやったクリスが自分に言い聞かせるように眉を寄せる。 「とりあえず、まぁフォーチュナが食糧扱いしてるんだから食べることに問題はない、か」 「わしは芋も栗も大好物じゃ!」 戸惑うクリストは対照的に目を輝かせているのが苑山・應志(BNE004767)だ。 「無駄になっては勿体ないからのう。久々に食べまくるぞ!」 「……喉に詰まらせないでくれよ」 「任されよ、緑茶は持って来たのじゃ!」 忠告を向けたクリスに対して、應志が持参した容器を差し出すように見せて笑った。 そんな会話の一方で、 「お婆ちゃんが言っていた。男がやってはならない事が2つある。女を泣かせる事と食べ物を粗末にする事だってな」 栗の集中攻撃を受けた芋が半分に折れて、断面からほっこりした湯気を立てる様を拾い上げながら『足らずの』晦 烏(BNE002858)が紡ぐ。 「天の道を行き、総てを司る男が言っていたが良い言葉だよな、うん。ま、エリューションにも当て嵌まるだろ、芋と栗だし」 「黒焦げになっちゃったり、ボロボロになって食べられなくなるって勿体ないよね」 気絶しているのか、床に散らばる栗を拾い上げながら『チャージ』篠塚 華乃(BNE004643)が同意を返した。 「僕も食べ物は粗末にしちゃいけません! っていつも言われてるし、そうなる前に食べちゃおう」 足元を飛び跳ね横切っていく芋を見ながら、改めて大きく頷く。 「食べ物は大地の贈り物だ。大切に食べないとばちがあたるのだ」 「まるで昔話にでも出て来そうな光景だがな」 雷音の言葉に心持ち頷くようしながら、龍治が奇妙な光景に感想を漏らした。 その間に、熱かったりすると思うので火傷などせぬように、と烏が軍手を仲間達へと配っていく。 それぞれに網や武器といった捕獲用の道具を用意しながら、実にちっぽけな戦争への参戦準備が終わったのは間もなくのことだった。 ● 機材や壁、床を避けるように炎を纏う矢が降り注ぎ、ハニーコムガトリングが追撃するように際どくも炎を掻い潜ったエリューションを的確に射抜いていく。 「炭にならねば良いが……」 インドラの矢を放った龍治が古いデザインの火縄銃を担いだ腕を下ろし、少し懸念するように呟いた。 共に攻撃を選んだ木蓮もまた、愛用の自動小銃の照準を外して周囲を一瞥する。 そんな二人をどう見たのか、二重の攻撃で襲いかかってきた芋や栗の大半が一気に戦線離脱なり、他の攻撃的だったエリューション達が顔、らしき部分を見合わせると一斉に倒れ伏した。戦意を喪失したのか、どうやらただの芋や栗の振りをしているつもりらしい。 「ふふ、良い感じに香ばしくなったじゃん!」 こんがりと良い色になった襲撃者達の焼き色を確認して、木蓮が笑う一方で。 「相手が食べ物であれ、技量はオレなんかとは比べ物にならないな……」 二人の銃撃に感心した口振りで呟くのは、同じ類の得物を扱うクリスだ。 銃を扱うものとして今後の参考にさせてもらおう、と独りごちながら、向かってくる芋へと1$シュートを放つ。 「あんまり撃ちたくはないな。オレは鉛玉入りの食べ物は食べたくないぞ」 文句のように言い掛けながら、それでも銃撃の音は的確にエリューション達を捉えていく。 「お前ら美味しく喰われる為に産まれたんだから自分を粗末にしやがるな。おじさんはおこです」 同じ頃スキルを介さないまま、烏が此方は端から襲いかかる意思はないのか、並ぶ芋や栗を前に叱責していた。 並んでいるのは川の破けたものや折れたもの――所謂戦線離脱をしたエリューションが中心だ。 言葉は通じなかったにせよ、気迫で通じるものがあると信じている所為か、はたまた本当に通じているものがあるのかどうか。 綺麗に並んだまま動かないエリューション達に大人しく食されろと説教をしている。 「いけいけ栗組、やれやれ芋組!」 そんな烏のすぐ近くでは、粗方の攻撃的な芋や栗を排除して、今度は戦線離脱した芋や栗を拾い集めながら、木蓮が跳ね回りぶつかり合う紫色や茶色に発破をかけていた。 「全力出し切れー!! でもトンネルは壊すなよ!」 熱を放つオーブンを振り返りながら声をかける。 そんな中の様子を窺うように真咲が蓋を開けると、 「その勝負、そこまでだよ!」 オーブンの中の芋と栗達にビシッと指を突き付けた。 「君達は我慢強さを比べあってるけど。いちばん大事なのは、そんな事じゃない!」 芝居がかって声を張り上げた真咲が、不意に目を輝かせる。 「ふふふ、君達もわかってるんでしょ? 食材としての勝敗を決めるのは、食べた時の美味しさ!」 力説する真咲を見上げたエリューション達が、互いに挑み合う訳でもなく、さりとて急な闖入者に攻撃してくる訳でもなく網の上にのそりと起き上がる。 「ボク達が、どっちが美味しいか判定してあげる」 だから、ほら、美味しく食べられてくれないかな? 無邪気に、にこやかに首を傾げた真咲の言葉に、芋と栗が顔を見合わせた。――どこが顔かはさておいて。 そんな説得の間にも網は動き進んで、芋や栗達はオーブンの中を流されていく。 「おっと、焦げてしまう前に救出じゃ」 オーブンに籠り過ぎて若干黒ずみ始めた芋と栗とを、應志がトングを伸ばした。 「君達、喧嘩と我慢大会よりも、美味しいタイミングで食べられる方が嬉しいんじゃないかな? ほらこげてしまいそうだぞ」 雷音もまたバベルを介して話し掛けながら、持参したミトンで良く焼けたものを選び取る。 「若いもんは沢山食べるとよい。さ、さ、温かい芋と栗は待ってくれぬぞ」 放っておけば冷めていくばかりの芋や栗を勧めながら、應志が当のエリューションにも声をかけた。 「我慢大会は終わりじゃ。どっちもよう健闘したのう」 声をかけながら皮の向けた栗を見付けると、ひょいと摘んで口の中に放り込む。 「はふはふ、むぐむぐ……うんまい」 「お塩使う?」 「調味料はいらんのじゃ。わしはそのままで食べるのが好きじゃからの」 華乃の言葉に笑顔のままで首を横に振って、良く焼けた栗を飲み込んだ。 エリューションごとに考えが違うのか、慌てたように逃げ出そうとする芋や栗を虫取り網で捕まえながら、自分から寄ってくる栗や芋をちょいちょい摘んでいく。 「それじゃあ私も、お芋から食べよっかな!」 華乃が軍手を嵌めながら、周囲の芋や栗に視線を向ける。 「芋栗戦争をしてるとこ悪いけど」 一言言葉を添えて、特に深いダメージを負っている芋を一つ選んで掴み取った。 「お芋なら栗みたいに皮をむかなくても、そのまま食べられるもんね。……それにしても、思ったより動くなぁ」 手の中でわたわたと身悶える様子に少し躊躇ったものの、まずは腹ごなし、と皮に付いた汚れを落とすようにぱっぱと表面を払う。 「それ以上無理したら、折角のホクホク中身が駄目になっちゃうよ」 バベルを介さない言葉を理解したのかどうか、心なしか大人しくなった芋に笑い掛けて、おもむろに一口齧る。 「あふ、あふーい! でも、ほいひー!!」 ほっこりと焼き上がった芋を頬張りながら、華乃が声を弾ませた。 一つ目は何も付けずに素材そのものの甘味を味わってから、次の芋に手を伸ばす横で、真咲も軍手を嵌めた手で熱々の芋を掴み上げる。 「さあ、ボク達が両方まとめて食べつくしてあげるね! いただきます!」 元気良く声を上げて、芋に息を吹きかけて冷ましながら口に寄せる。 「はふっ、おいひいっ、れもあふい……っ!」 「火傷しないようにな」 ほくほくと湯気の立つ実を頬張ったものの、火傷しそうな温度に咄嗟に伸ばした手へと、烏が冷茶を入れた紙カップを手渡した。 冷たい茶で口の中を漱ぎ、人心地ついて小さく息を吐く。 「流し込むのはちょっともったいなかったなぁ。次はもっと慎重に、ちゃんと冷ましてから味わって食べなきゃ」 反省したように言いながら今度は栗へと手を伸ばす真咲とは裏腹に、木蓮が興味を示したのは烏の持ち物だ。 「おっちゃん、何持って来たんだ?」 「麦茶だ。やはり数が多いと喉をつまらせるものな」 「わーい、食も進むってもんだぜ!」 紙コップに注がれる麦茶に、特にそれを好む木蓮が飛び跳ねて喜ぶ。 「美味しいものを食べると別嬪さんはより別嬪さんになるので、遠慮無く食べなさい食べなさい」 「……焦って食わぬ様にな」 烏に勧められるまま嬉々として芋や木の実に手を伸ばす恋人へとそっと忠告しながら、龍治も敗者と化して転がる芋を拾い上げた。 「……芋があるなら、バターは欲しいところだがな」 「任せろ、ちゃんと持って来たぞ!」 ぼそっと呟かれた言葉を聞き取った木蓮が、荷物の中からいそいそと、バターと手拭き用の使い捨てお絞りを取り出して龍治に手渡す。 「僕も紅茶を用意して来たのだ」 良かったら、と仲間達に勧めながら、雷音が持参した紅茶をカップに注ぐ。 ダージリンベースに少しフルーツの香りのハーブを混ぜた、オリジナルのブレンドティだ。 いただきます、と手を合わせた雷音が紅茶を一口啜ってから湯気の立つ芋を取り上げて口に運び。 「うん、甘くて優しい大地の味だ」 ほっこりと焼き上がった芋を一口咀嚼して、表情を綻ばせた雷音が周囲に寄ってきて様子を覗う芋や栗に笑い掛ける。 「君達はケンカなんかする必要なんてないほどに、比べれないほどに美味しいのだ」 仲間が食われている状況だというのに、どうやら何の疑問も感じていないらしい。それどころか若干嬉しげに周りを飛び跳ね始めたものまでいる。 「うん、ほくほくで美味しい」 持ち込んだコーヒーで芋を喉に流し込みながら、クリスもそっと息を吐いた。 「こんな仕事ばかりならこれからのリベリスタ家業も楽なんだが……」 食べ終わったと見るや膝に飛び乗ってきた芋を手に、塩を振りながらクリスが零す。 「喉につまったらわしは命取りじゃからのう」 好物の緑茶で喉に流し込みながら、應志がほっこりとした態度で芋や栗を口へと運ぶ。 「あっついのも冷ましながら食べると季節を感じていいのー」 「でも、不思議だよねー。お塩ってしょっぱいのに、どうしてお芋とかにかけると甘さが際立つのかな?」 こちらは持ち寄った塩を芋に振りながら、華乃が首を傾げる。 「いくつかタッパに詰めて持ち帰ろう、ここじゃ出来ない料理もあるしさ!」 木蓮が龍治から受け取った気を失ったものやら、自分から潜り込んでくる芋や栗を持参したタッパーに詰め込んでいた。 「とても美味しかったお芋と栗だ。研究の疲れにもよいだろう」 喜んでくれるといいな、と言いながら雷音もまた、持ち帰れそうな芋や栗を見繕う。 「なんなら、これを材料にスイーツをつくるのもいいかもしれないな。楽しみになってきたぞ」 「へへー、俺様もスイートポテトとかマロンパイとか作ったら五月女にもお裾分けしに行くぜ。美味さは共有しないとな!」 タッパーを片付けながら、木蓮が龍治へと振り返る。 「あっ、龍治は何作ってほしい? やっぱりつまみになりそうなもの?」 「何を作るかは、任せる。……何だろうと美味いだろうからな」 表情を和らげるように告げた龍治が、ふと視線を巡らせた。 「それよりも……奴らをどうするかだな」 「ん? うわっ、並んでる!」 龍治の視線の先を追い掛けた木蓮が、周囲に綺麗に整列する芋や栗の実に思わず声を上げた。 仲間達が食われている光景をどう思っているのか、どうやら襲撃してくる意思のないらしいエリューション達が、心なしかわくわくしたように身体を揺らしている。 その中から栗を摘み上げて皮を剥きながら、龍治は静かに口端を持ち上げた。 「……木蓮が何を作るのか、楽しみにしておく」 芋や栗の皮が山積みになり、跳ね回るエリューション達がすっかり食い尽くされた頃。 「どっちもとっても美味しかった。この勝負は引き分けだね」 満足するだけ食べ切った真咲が、口元を綻ばせて大きく息を吐き出した。 「んむんむ、満腹満腹」 同じように満足げに應志が頷く。 「それじゃ、最後はこれだね」 すっかり食べ尽くされた芋や栗の残骸を見回した華乃が、元気良く手を合わせる。 「ごちそーさまでした!」 香ばしい香りの漂う工場の中に、唱和の声が幾つも重なったのだった。 ● 御馳走様、とそれぞれに手を合わせて暫し後。 「まったく君という破界器は人騒がせなのだ」 サイレントメモリで見付けだした破界器をしっかりと回収しながら、雷音が苦笑して網の縁を撫でる。 「そう言えば、何で喧嘩してたんだろうな?」 食べ終わった芋や栗の皮をビニール袋に纏めながら、烏が被り物の下で首を傾げた。 「たしかに何で喧嘩してたんだろ。……どっちも美味かったし、味についてなら優劣なんてなかったのになぁ」 皆で掃除や片付けをしながら、木蓮もまた首を捻る。 揃って疑問を抱きながらも、答える者は既に美味しく頂かれた後なのだ。 「真実は既に腹の中だが」 やがて零された淡々とした烏の言葉が、今宵の勝負の決着となるらしかった。 ● テーブルの上に山積みになった戦利品を前に。 資料を捲りながら、五月女が焼き芋を咀嚼する。 「いやー、平和的解決に至って何より何より」 部屋中に焼き芋と焼き栗、及び焼き菓子の香ばしい香りをふんだんに撒き散らしながら、上機嫌に今度はスイートポテトを口の中に放り込んだ。 「んふふ、こういう仕事ばかりなら、エリューションとやらも捨てたものじゃないんだけどね」 もっと美味しい仕事は見付からないものかな、と。 文字通りの味覚への欲求で完全に私欲に走った呟きを零しながら、新米フォーチュナは更に菓子へと手を伸ばしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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