● とぷん。とぷん。 円柱のケースの中、青色の液体の中に詰まっていたものは此の世界のものでは無い。青い鱗のある肌に、腕や脚にはヒレが着いていたり、水かきがついていたり、されど全体的見た目は曲線の美麗な美少女。 「ウンディーネの幼体だ。捕まえるの苦労したんだぜ? 満たされた薬で眠っているからよ、扱いには注意しろ。何に使うか知らねぇがよ、愛玩用でも、食用でも、肉布団にでも好きにしてくれや。で、金は用意して来ただろうなァ?」 黒服の男は夜には場違いであるサングラスをくいっと上へ上げ、取引相手を見つめ――――――た? 「ハーイ! ワタシ、サーカスの一員ネ! サーカスだって解らせる為に、ナニかヤって欲しいデース?! ハイッ、鳩くらいしか出せまセーーーーーンネ!! 趣味は特にありまセーーンが、特技は可愛いカッコいい男の子をペロペロする事デースネ!!」 沈黙がしばらく。 黒服の男は最先端を感じるスマートフォンを取り出しては、その画面の上で指が滑る滑る。直後、耳にスマートフォンを当てては、その先に居た取引先の人物へクレーム!クレーム!!クレーム!!!の嵐。 「なんだあのバニーガールのボインちゃんは!! クリム、おい、クリム!!」 『因幡白兎(いなば・はくと)ちゃんです』 「なんだその馬鹿げた名前は!! 偽名だろ!? 偽名って言ってくれよ!!」 『うるさいですよ、知りませんよ、本人に聞けばいいじゃないですか。愉快の度が過ぎているムードメーカーちゃんです、お気に召しませんか? 俺、やらかしましたかね? てへぺろ☆ 彼女の事教えてあげますよ、特技は可愛かったりかっこいい男の子をペ―――』 「―――知っとるわ!!」 『因みに俺も舐められた事あります。これってアレですかね、俺もかっこいいっていう事ですかね? 逆に? 逆に俺は可愛い系とか? うわー俺ってやっぱりモテモ―――』 ブツッ 黒服の男は通話を途中で切っては、そのままスマートフォンを地面へと投げたのであった。 「オーウ! あんまり激おこぷんぷん丸してハ、ストレス溜まっちゃうデース! 溜まったものは出さないと身体に毒デース!」 「誰のせいで溜まっているか!! そんな事より、取引だ……」 「ハイ? なんでしたっけそれ。あっ、はいはい、忘れていましたデース!」 「忘れてンじゃねぇ!!」 ● 「皆さん依頼をよろしくお願いします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう切り出した。今回はフィクサード組織が取引しているものを奪取してきて欲しいというもの。 「取引しているものは、アザーバイドなんです。識別名は『ウンディーネ』。神話とかにあるソレとはまた違ったものなので、其処ら辺はお気になさらず。彼女は円柱型の大きな透明なケースに入れられて眠っております。大きなものなので、持ち運びは不便でしょうし……取扱いには注意してくださいね」 捕えられた全身の肌が青い少女は、水を司る世界のアザーバイド。此の世界に落ちて来た所で捕獲されたのだろう、今は囚われの身。 「彼女の能力によって作り出す水は、非常に清められた水です。簡単に言えば人間の身体にとってとても良いものですね。 三尋木には、クリム・メイディルというペテン師が率いる『サーカス』というものがあるのです。其れはまあ、表立ってはそんなに出ていないのですが、団員一人一人が芸を持ち、団長にコキ使われる一派です。 清められた水に、クリムの一派、その団員であるフィクサードが動いているので……予想すれば三尋木首領にアザーバイドを献上するのだと思います。 そして。取引相手は小規模なフィクサード組織。実力的には、皆さんより劣っていると思われますが油断なさらぬよう」 三尋木側は三人。その中の因幡白兎と呼ばれた、バニーガール姿というふざけた容姿の女がサーカスだ。 「場所はとある工場です。夜中なので人気等は気にしなくてもいいですが、障害物が多いので注意してください。それでは、よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月01日(金)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●本日は厄日 時間は食い込んで。此処から始まる、ねじ曲がる運命。 「ハイ? なんでしたっけそれ。あっ、はいはい、忘れていましたデース!」 「忘れてンじゃねぇ!!」 怒鳴った、これまでに無いほど声を震わせた。男はふう、と息を吐いた瞬間だった。男の後方の出入口から勢いよく月光が漏れたかと思えば。 「ちーっす! お取引の最中失礼しまーす! アークだよ。おっぱいバニーちゃんがいると聞いて!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が自慢の脚で扉を蹴り飛ばして、ついでにその吹き飛んだ扉が男の背中に直撃して男は倒れた。一人二人と敵を見回していく。 「あれ? 敵の数少なくない? 杏理ちゃんの予知が間違うはずないし」 「ああ、うん。君のトンファーキックの犠牲になったんじゃないかな」 顎に手を当て悩んだ夏栖斗に四条・理央(BNE000319)は冷静にその場の状況を分析したのであった。 「くそがああああああ!! これ返す死ねええ!!」 刹那、扉の下敷きになっていた男が起き上り、その扉を正面入口から入ってきたリベリスタ達へと投げ返した。されど、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は低空飛行で己に神秘を纏わせつつ、半身になってその扉を見送ったのである。轟音が響けば、扉が落ちた事を知らせる合図か。 「乱暴ですね……悪事もそこまでです、フィクサード!」 雄々しく吼えたアークエンジェル。されど因幡・白兎は首を横に振って、片腕を高く上にあげた。 「ハーイ! リベリスタの皆サーン!! 私達別に怪しい事してまッセーン!!」 「やってる事筒抜けだからね?」 白兎はそう言うものの、理央は顔を横に振って否定した。むしろその苦しすぎる嘘に顔を縦に振るとでも思ったのか。 「ヘイ! 解り合えないのは残念デース!!」 やれやれと顔を振った白兎。しかしセラフィーナは言葉を続けた。戦わないのなら、血を流さないのなら、もしかしたらそれが一番なのだろうか。 「ウンディーネを置いて、撤退してくれるのであれば平和的解決ができますが?」 「それでもできまッセーン!」 そう、上手くはいかないのは分かっていた事。 「ふふ、敵とはいえサーカスの皆様は魅力的な方が多いで―――」 「シーッ、こっちに人が居るのバレちゃうの!」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)に『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は小さなお手手で彼の口を塞いだ。裏の居るリベリスタは隠密なのだ、表に居る五人の囮の役を無駄にしないためにもバレる訳にはいかない。 話は変わり、亘の眼見える白兎のボディは音で表せばボンッキュッボン。思わず亘の鼻の下が伸びてしまいそうな衝動に駆られているとき、『山紫水明』絢藤 紫仙(BNE004738)のAFを握る手が強まっていく。 アザーバイドは玩具では無いのだ。しっかりと感情を持ち、意志を持った存在だ。其れをまるで物の様に扱う三尋木達が許せるはずもなく。合図は、今か、今かと心が焦る紫仙。 「アークイケメンズ参上! 俺達と遊ぼうぜ! 早速だけど、であああ!!」 再び表側のリベリスタ。 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)は侵入と同時に仲間の横を駆け抜けては敵の中心付近から光を爆発させた。その光は、敵の視界を奪い取り、脳さえ侵食して行動を鈍らせるのだ。 「うっし、やったか!?」 「それはフラグ建築デース!!」 「いいッ!!? なんでぇ!!?」 確かに琥珀の精密な攻撃は呪いを与えるには十分過ぎる。しかし、盾を用意していたこの白兎は札を投げて光の余韻を引き裂くのだ。 「ヘイカモーン、ザッブザブーッ!」 投げられた札は氷柱の雨を召喚する――彼女の視界内に居たリベリスタが被害を被ったものの、セラフィーナはその雨をすれすれで避けながら突き進む。されど進行を妨害してきたのはクロスイージスで、「邪魔です!」と言ってやり過ごそうとしても腕を掴まれ進めない。 ならばとセラフィーナは半身になって、刃を抜いた。その抜刀した勢いのまま、飛沫を散らしてクロスイージスを突き刺すのであった。返り血が、セラフィーナの頬を染めん。 「こんなもの? 全然痛くないんだけど。僕の妹の方が良い雨降らすよ?」 強靭な肉体で雨を振り払った夏栖斗が、言葉を武器に咆哮した。 「ヘイカモーン、なんちゃって? 僕を倒せると思ってんの、小規模組織の末端共!!」 「こ、の……糞餓鬼があああああああああ!!!」 敵デュランダルの攻撃が夏栖斗へ向かう―――しかし、バキィと大きな音がしたかと思えばグーパンで殴られたデュランダルが来た道に戻されていた、というか吹っ飛んでいた。 「あれッ? もう暴れていいんだよなッ!?」 「オッケーだっぜ!」 「任せろッ!」 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)は吼えた。我慢してきたんだから、今こそ大暴れしても良いのだと。枷の外れた獣はどれだけ怖いか知ってるか。 「もっと興奮するコトしねェ? コレだよッ!」 コヨーテの取ったポーズはファイティングポーズ。今まさに、走り出した彼は一直線に獲物へと向かうのだ。 彼のその道を侵さないように理央は計算する。貫通を打つにあたって、一番効率の良いのは何処かと。見つけたルートはダークナイトとホーリーメイガスの点と線。 「明らかに、狙ってくださいってボクに言ってるようなもんだよね」 理央は放つ、光の、そして魔力の込めたその一撃を。 ●本日は行き時 アッパーにフラッシュバンが重なって、表側に集中された人の群。庇いの居らずの敵ホーリーメイガスが倒されるのは思った以上に早く。ただ、障害物も多いためか、密集地帯になっているのは計算か誤算か。 「此処まで人口密度が来いと前衛も後衛も関係無くなっちゃうね」 理央はそう言いながらも仲間に与える、呪いを解く光―――今まさに、氷と呪縛の浸食に苛まれたリベリスタ達を理央は救うのであった。 その一連の流れでのお蔭でか、中央にぽつりと残されたのはウンディーネの入っている筒だ。 「つまり今が行き時なの」 ルーメリアがその場でぴょんぴょん跳ねながら、入口を指差した。AFから零れた少年の声。 「合図は来たね、それじゃあ心して行こうか」 「はい。僕がお二人をきちんとエスコートしますね」 紫仙と亘はお互いを見て、一度だけ同じタイミングで頷いた。 ―――ゆっくり開けるのは、気付かれないために。気配遮断でもあればもっと良かっただろうか。飛んでる身体に念を込めて、1m1m集中して進んだ。 辿り着いた円柱の前。そんな裏側からのリベリスタ達を見つめ、されど見ていては不審に思われるだろうと目を背けた理央であった。 その頃。 「可愛い男の子は好きデース!! 三尋木においでおいでデース!!」 「それはできないけど、それはできないけど!!」 白兎の呪印封縛(物理)に捕まっていた琥珀。 封縛の札ごと両手を掴まれている琥珀に逃げ道は無かった。しかしだ、此処で嫌がって突き飛ばせば裏で行われている仲間の存在がバレてしまうかもしれない。このままイチャイチャされていた方が視界的にはいいのだろうか、と考えていた所で。 思考の濁流が押し返す、フィクサード。プロアデプトの前方に居たリベリスタが吹き飛んだものの、入れ替わりで入ってきたコヨーテは拳を振り上げ焔の従うままにそれを打ち払った。 「ヘッ! もう終わりかよッ!」 「邪魔デース!」 白兎の呪印の札がコヨーテを抑えた。札の中で、吼え、暴れるコヨーテだ。それのせいか、札にヒビが入るのはすぐで。 「馬鹿力にも程がありマース! 強くてかわいい男は好きデスネ! ぺろぺろしておきたいデース!」 「ああああああああ!!」 そして破り、コヨーテは早くも札を気合いで千切れさせて呪縛を解く。 「折角会えたンだ。楽しい夜にしようぜ、バニーちゃんよォ!」 狩猟者に睨まれた白兎は一瞬ビクりと身体を震わせた。その感覚が嫌いじゃないか、笑った白兎はコヨーテにもっともっととせがむのだ。 「あっ、そんな仕事増やさないでよね!」 暴れる前衛にそう言いながらも理央は回復の光を放つ――理央ほど手数が多いリベリスタも珍しいか。 「ちきしょう、あのウンディーネはいいから金だけでも運びだ……しぃ……?」 刹那の轟音。 もちろんだが、硝子が割れればそれなりの音は出る。それはリベリスタ達もよく解っていたから仕方ない。 フィクサードの一人がふと、ウンディーネの方を見た。 目が合った。 いやいや見つかってない大丈夫だなんてルーメリアが幻想を思い浮かべたのだが。 「「「あ?」」」 何人かが同じ言葉を出した所で。 「おい伏兵が居たぞ三尋木ィーーーーーーーーーーーッ!!!」 「逃げるのーーーーーーーっ!!」 叫んだルーメリア。 硝子が弾け、薬品が亘と紫仙、ルーメリアを濡らし。倒れかけたウンディーネの身体を亘が受け止め、抱き寄せた。 衝撃にパチリと目を覚ましたウンディーネ。見開いた目は亘の焦った顔を映していた、刹那、微動だにしなかったウンディーネだったが、亘の胸を両手で押し「嫌々」と泣きながら首を振って拒絶する。 『助けに来たの! 言葉、通じてるよね?』 『嫌ーーーーーーーーーーーッ!! イヤぁ!! 離して!! 還して!!』 『とりあえず落ち着いてなのー!?』 ウンディーネの手首を掴み、腰を支える亘だが大粒の涙を流されて否定してくる姿を見るのは胸が苦しいか。けれど今はルーメリアの説得だけが頼りだ。 「悪いけど一人そっち行ったよ!!」 理央の声―――紫仙が振り返った。 「返せ!!」 「ッ!!」 三尋木のダークナイトが飛び込んで来た。狙いはウンディーネの奪取だと目に見えていた。 振りかぶられた力はおそらくペインキラーだろう。それなりにダメージを与えられているダークナイトの其れは、本来以上の力が籠った一撃を放ってくる。 しかし紫仙も負ける訳にはいかない。背には護るべきものがある。煙管と番傘の柄で剣を受け止め―――しかし剣の力に押し負けてか、刃は肩に食い込んでいく。 「こんなくだらない取引は私達が潰す」 吐いた一言に力を添え、煙管と柄で押し返して跳ね返す刃。紫仙はそのまま押し返したダークナイトの頭を掴み、地面へと勢いよく叩き落したのであった。 すぐに起き上ったダークナイトは再び進軍せんとす。それを紫仙は抑え、後ろを見た。 「早く!!」 「―――そうしたい、所なんですが……っ」 亘は苦い顔をしたままだ。掴んだ腕を離してしまえは、何処に行くか解らない。フリーになっているもう一方の腕は亘の頬を平手打ちした。 その行き場を失った腕を、ルーメリアは捕まえた。紫仙へと、ええい見つかっているのなら力のひとつでも使ってしまえと、ルーメリアは癒しを乞うて、祈りを捧ぐ。 そのままウンディーネの手をぎゅっと握って、彼女の耳にも届くような大きな声でルーメリアは言う。 『このままだと貴女、あの悪い人達に玩具にされた挙句、食べられちゃうかもなの!! お願い、貴女を護らせて! 助ける理由は……お友達になりたい、じゃあダメかな……?』 きょとんとした、ウンディーネ。蒼い彼女の瞳がルーメリアを捉えて離さない。ここぞと亘も、翻訳してもらいつつ言葉をかけた。 『貴方の居た場所は水を司る世界と聞きました。だから貴方にとって……自分の中に流れる水は汚らわしいかも知れません』 亘は掴んだ腕の力を緩めた。きっともう、逃げたり抵抗しないと信じて。 『でも、これはこの世界で生きてる証です。だから誓います。この血を尽くし貴方を守り、元の世界までエスコートすると』 『ぇ、えっと……は、はい……?』 キューン。 「きゅーん?」 ルーメリアは顔を傾げた。 恋に落ちる音がした? ● しかし問題はまだ残っている。 紫仙のブロックは確かに効いていたのだが、遠距離攻撃もできる敵だ。常闇が空を駆け、行かせまいと身体をはった紫仙だが、頬を掠った闇がそのまま後方のルーメリアとウンディーネを背に隠した亘に当たった。 その頃、ブロックの人数がぴったりになっていた表のリベリスタ。紫仙の腕に巻き付く絶対零度――打ち込む拳を頬に受けたが敵だが行動不能ならず。おまけに飛んできたパーフェクトプランが紫仙を侵食した。 突き進むダークナイト。 「皆、お願い……お願いっ」 祈り手で歌うのは、仲間への癒しを送るため。迫るダークナイトのスケフィントンの箱が見えた。咄嗟に出た、言葉。 「お願い―――助けてなの!!」 「助けて、ねぇ……」 「もちろんですよ」 「仲間じゃねーか!! 任せろ!!」 その言葉に反応した―――夏栖斗、セラフィーナ、琥珀。 仕方ないなぁと頭の中で思いながら、表側のリベリスタ達へ理央は癒しを与える。それで全ての傷を塞ぐことはできなかったものの、されど表のリベリスタ達を支えていた主軸であった事には変わりない。 「サンキュー、……ってそれ以上進むんじゃねえ!!」 理央から痛みを決して貰った琥珀は礼を言いつつ、仲間に当てないように調整し光を放った。足止めを食らうダークナイトが歯を鳴らして琥珀を睨んできたが、華麗に無視。 「残念デース! 持ってかれるなら殺してしまった方がイイでショーか?」 「煩いのは嫌いなんだ。その口を閉じろ」 紫仙はそう、反吐を吐く。その怒りに気づいてか、白兎の口はほんの少しだけ止まった。同時に紫仙の拳は止まっているダークナイトの胴へと向かう。精一杯の力を込め、そして穿つのは再びの彼の身体。 「これ以上は進ませない」 力強く籠ったその意志の通り、紫仙の拳はその胴を貫いたのであった。 白兎が動いた。視界を裏口へ向け、式神でも放つというのか。札を持つ腕に夏栖斗とセラフィーナは吼える。 「させるかっての!!」 「させませんよ!!」 起きた爆発は思考の濁流。フィクサードのそれに押し返されて吹き飛ばされ、地面の砂塵が舞う。セラフィーナは負けじと押し返された身体を前に向き直して地面を蹴った。 札を投げかけている白兎の前方へと跳躍して位置を取ったセラフィーナ。ふと彼女の眼に入ったのは豊満な胸であり、一瞬だけ負けた気分になったものの――『こっち』では負ける気はせず。 「やらせません。ウンディーネは私達が守ります!」 大振りの刀を振り回した細い腕。光の飛沫が舞い――白兎でさえ魅了してしまうのは簡単な事であった。 降りしきった白兎の雨はフィクサードを襲っていた。其れに対して愚痴を吐きながらウンディーネへと向かう、デュランダルの男。しかし彼の腕を掴んだのは、夏栖斗であった。 「どこいくの?」 「るせぇ!!」 横から夏栖斗の顔面へと向かってきた刃を素手で抑え、 「行かせないよ」 抑えてないフリーの腕がデュランダルの顎を粉砕し、三回転した彼の身体は地面に沈んだ。 もっと暴れたい、暴れたりない。今こそ飢餓のコヨーテは滾る戦意に身を任せて敵を穿つ。目の前の進行を阻むクロスイージスは彼の餌であっただろう。 「逃げンなよォ。まだ地獄は一丁目だぜッ!」 「ひ!?」 機会に染まった白い歯を見せ、ギラリと光ったのはクロスイージスの最期に見た光景か。大振りで振りかぶったその腕――されどブロックをとコヨーテの前に居たクロスイージスは逃げる事は許されない。 「歯ァ、食いしばれよッ!!」 脚をしかりと地面に着け、腰から身体を半回転させて放つコヨーテの一撃は―――防御を貫通した。獲物の身体を大きく回転させつつ骨の軋む音を奏で、そして地へと伏せる威力を持っていた。 琥珀が親指を立て、サムズアップした所で亘とルーメリアも同じく親指を立てた。亘に抱えられ、ルーメリアが付き添い、顔の赤いウンディーネは裏口より外へと、自由へと。 ●来日は厄日 「―――で、どうする? ウンディーネは此方が確保しましたので、意味も無い戦闘だけど」 理央は佇んだ白兎へと問う。其処は三尋木らしく。 「オーウ、残念デース」 ぴくりと、動こうとした白兎の腕を琥珀は掴んだ。その握った腕がぎりぎりと強まっていく。 「因みに、式神で追おうとしても無駄だぞ」 「ンー、バレていましたカ。では、此処は大人しく引きますデース!! 楽しかったデース!!」 「楽しかったんかい」 琥珀が頭を抑え、はぁと溜息をついたが一つ頼まれごとをしてくれないかと付け加えた。 「クリムんとこの朱里ちゃんにヨロシクなー」 「なかなか怖いコト言いますネー」 なんだ戦闘終わりかと、まだ物足りなさそうに頭を掻いたコヨーテ。しかし彼とて引き際の空気はよく解っているのだ。 どきん、どきん。高鳴る鼓動、けれど世界の違いから好きという感情は隠されていく。地面に咲いていた草を抜いては投げ抜いては投げるウンディーネ。それにぎょっとしたのは亘とルーメリアであった。 「うわあああウンディーネさんご乱心ですかー!?」 『どうしたの!?』 『な、なんでもないよ!!?』 真っ赤な顔を真っ青な手で隠したウンディーネの少女は、しばらーくアークで預かる形となった。 『願わば。箱舟の未来に幸あらん事を―――』 一方。クリムの考えをひとつひとつ丁寧に壊しているルーメリアは、夜空を見上げて思う。次に会う時は怒られるだろうか―――いや、それでもリベリスタである事を忘れてはいけない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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