●お父さん大嫌い 「お父さんなんて大嫌い、もう死んじゃえばいいんだ!!」 「瑠依、お父さんが悪かった。また今度仕事の都合がついたときに」 「いつもいつもまた今度って……いったいいつなの? いつもそう言ってるのに直前になってまた仕事でいけなくなったとかばかりじゃない」 「お父さんも仕事でそれは仕方なかったんだ。わかってくれ」 「もういい。お父さんなんてもう信じない」 「瑠依!」 「追い駆けて来ないで。もう二度と顔なんて見たくない」 吉見瑠依は家を飛び出した。目元には薄らと涙が浮かんでいる。寒い夜の風が身体に染みてきて震えが止まらなくなった。すでに手が冷たくなって真っ赤になっている。 瑠依は父親の靖明と二人暮らしだった。自分が生まれてすぐに母親を亡くし、それからずっと男手ひとつで靖明は瑠依を育ててきた。 靖明はそれまで勤めていた会社をリストラされた。 最近ようやくのことで靖明は仕事を見つけた。だが、今度の仕事はかなりの激務であるらしく休日平日関係なく仕事に靖明は出かけるようになった。 靖明はそれから瑠依の遊びに行く約束をよく破るようになる。瑠依も頭ではわかっているつもりだった。お父さんは仕事で忙しい。自分ももう小さな子供ではない。 だが、靖明は母親の命日に墓参りに行く約束をドタキャンした。これにはさすがの瑠依も怒りを露わにした。母親の命日よりも仕事を優先する父親が許せなくなった瑠依はついに大喧嘩して家を飛び出してしまったのである。 「お譲ちゃん俺と一緒に遊ぼうぜ」 その時だった。夜の廃車場から怪しいトレンチコートを着た男達が現れた。怪しい笑みを浮かべた男たちは瑠依に掴みかかると一斉にその場で組伏せる。 「だれか、おねがい誰か助けて――」 瑠依が叫ぼうとして口を塞がれてしまう。男たちがにやついて次々に瑠依の身体を縄で縛り上げたところで不意に物音がした。 「私は正義の味方だ。その娘を返せ! さもなくばお前らの命はない!」 現れたのはプロレスの仮面を被ったサラリーマンだった。顔を隠してはいるが、そこにいるのは紛れもなく靖明だった。だが瑠依は動転してまだ父親だということに気づかない。 「俺達に喧嘩を売るとは上等だ。お楽しみはあとに取っておこうぜ。まずはこの命知らずからたっぷりと楽しませてもらおうとするか。行くぞ野郎ども!」 男たちは一斉に靖明に殴りかかった。仮面の男は瑠依を助けようと華麗に技を繰り出す。技が決まって男の一人は地に伏した。だが次々に襲いかかる敵に囲まれて次第に正義の仮面はなすすべもなく叩きのめされた。 「もうその人を離してあげて。お願いだから――」 血まみれになって動かなくなる正義の仮面を見て瑠依はその場に泣き崩れた。 ●知られたくない想い 「夜の人気のない廃車場で小学生の女の子がフィクサードの暴漢たちに襲われてる。すでに中に連れ込まれて身動きが取れなくなってるわ。このままだと女の子は男たちに容赦なく襲われてしまう。そうなるまでに何とかして彼女を救って来て」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が焦った口調で事態を告げた。急いでブリーフィングルームに集まったリベリスタに説明を加えて行く。 現場にはすでに一人のリベリスタが到着していた。正義の仮面と名乗った瑠依の実の父親である吉見靖明である。彼は家出をした娘を追い駆けた先で事件に遭遇した。 靖明は慌てて持っていた仮面を被って瑠依を助けようと試みた。だが、まだリベリスタになったばかりの靖明の手に負える相手ではなかった。すぐに打ちのめされてしまって実の娘がいるところで嬲り殺されそうになっている。 靖明はまだ娘の瑠依にリベリスタをやっていることを隠していた。瑠依にそれを言って無理な心配事をかけたくなかったからである。神秘のことに関しては秘匿しておきたいという気持ちもあった。不用意に知ってしまえば厄介事に巻き込まれる危険も生じる。 さらに瑠依は争い事に関わる仕事を憎んでいた。他ならぬ母親が暴漢に襲われて命を失くしていたからである。それも神秘の関わる事件だった。もともと警察官だった母親はいつも危険と隣り合わせであったため仕方のない面もあった。 もちろん、瑠依にはただの暴漢による仕業だと誤魔化してあったが、それ以来瑠依は戦う系の仕事を毛嫌いするようになったのである。 「時間に猶予はないわ。吉見靖明が敵を大勢引きつけているうちに、父親のほうはともかくなんとか瑠依ちゃんを救って来て。無事に救助できることを心から祈ってるわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月27日(日)23:05 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●偽りの仮面に正体を隠して 夜の人気ない廃車場に男たちの不敵な笑みが零れていた。捕まえた一人の少女を羽交い絞めにして誰が最初に玩ぶかで口論している。少女は泣き叫びながら助けを求めるが、その声はむなしく辺りに響き渡るだけだった。 周りにうず高く積まれた廃車が遮って誰も通りから近づくことはできない。すでに陽が暮れてあたりは人気が少なくなってきていた。 リーダーの黒刃影之がようやく自分が最初に瑠依を遊ぶことに決めた。にやついた笑顔で少女の身体を強引に締めつけて蹂躙しようとした時だった。 「大の男が集ってやる事が弱いものいじめか、博物館に目玉で展示して貰ったらどうだ? キング・オブ・クズとしてな!」 廃車場の入り口に立ち塞がった『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が中にいる暴漢達に向かって吠えた。すでにとらは目を吊り上げている。 「父娘は辛い経験を乗り越えて前向きに頑張っていると評価するよ。障害と野暮な邪魔者を排除して問題解決の機会を与えたい」 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は絶対に父親と娘をどちらも助けようと心に決めていた。仲直りさせる機会に暴漢達は邪魔だった。親子の絆を分かつものは誰であっても容赦しない。 「過去の悲しい出来事で戦いに対して否定的な瑠依ちゃん。そしてそれを知っているだけに真実を打ち明けられないお父さん。誰も悪くないのにこれじゃ悲しすぎます。正しい事をする事の『正しさ』を瑠依ちゃんに伝えてあげなければっ」 離宮院 三郎太(BNE003381)は拳を握りしめた。親子のそれぞれの想いを知った三郎太は二人の気持ちを知って歯を食いしばった。 「俺も娘を持つ身の父親だ。いや別に正体は隠していないが……。しかし正義の味方は秘密も浪漫である! だがいけない。負けてはいけない。正義たる者強くあらねば。疾風怒濤フルメタルセイヴァーが今その雄姿を見せようぞ!」 『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)は高らかに宣言する。自分も娘がいるため気持ちはよくわかった。だが、隠すなら仮面だけでなく自分のように全身を覆わなければならないと注文をつけることも忘れない。 「身内を亡くすって、ほんとつれーだろうし俺も嫌な気分になる。クソ野郎どもの好き勝手のはさせねぇ。サクッと助けて、キッチリぶちのめす」 鷲峰 クロト(BNE004319)はきっと鋭い眼光で暴漢達を見つめた。早くしないと父親の方に関しては間がもたない。自分が必ず助けることを決意する。 「12歳の少女に乱暴を働こうとは……この変態! きっちりお灸をすえて二度と変態行為ができないよう叩きのめします」 『うっちゃり系の女』柳生・麗香(BNE004588)は問答無用とばかりに吐いて捨てた。すでに鞘から剣を抜いて暴漢達に突きつけている。 「なんとしても親子ともども助けましょう。それでは覚悟はいいですか?」 『愛しておりました……』犬吠埼 守(BNE003268)は伝えたいことが山ほどあった。だがその前に何としても二人を助けなければならない。 守の合図でリベリスタ達は暴漢達のいる入口正面から真っ向勝負を挑んだ。 ●意地と真っ向勝負 突然現れたリベリスタ達の登場に黒刃たちは手を止めた。羽交い絞めにしていた瑠依から手をどけて険しい視線でとら達を睨みつける。 「違うならコソコソしねーで掛かって来いよ、薄汚ねぇ豚共が!」 とらはさらに大きな声で怒鳴った。黒刃達は薄ら笑いを浮かべてようやく現れたリベリスタ達に向かって口を開ける。 「なんだてめぇら。随分吠えるようだが何さまのつもりだ」 「アークから派遣されて来ました。私達の仕事はゴーレムの処理と子供の救出だけですが、個人的な感情から父親も救いたく思います。命が惜しいなら手出し無用でお願いします」 キリエの言葉に黒刃は余裕の表情で持っていたナイフを舌で舐め上げる。 側にいた楢崎と桜木もこれはおかしいとばかりに盛大に笑った。 「俺達のお楽しみを邪魔するとはこれは高くつくな」 「怖いのか? いいんだぜ? 束になって来ても」 とらが挑発して黒刃が腰を上げた。 すぐに部下を二人呼ぶように応援を呼び付ける。その隙に麗香が剣を大きく振りかぶって桜木に斬り込んだ。 「おどりゃあ~! カチコミじゃ~」 麗香は上から剣を叩き下ろした。桜木も咄嗟にナイフを取り出して麗香の攻撃を正面から受け止めようと試みる。だが、麗香の渾身の剣の威力はナイフでは対処できずに後ろに飛ばされてしまう。 守がアッパーユアハートを敵に向かって放った。怒り付与を食らった敵がすぐにリベリスタ達を抹殺しようと近寄ってくる。楢崎はすぐにハイリーディングでリベリスタ達の作戦と思考を読みとろうとした。だが、どのリベリスタも自分達を真っ直ぐにぶっ飛ばして殺すことしか考えていない。 「馬鹿が、とんだ脳筋共め。いいだろう、そんなに死にたくば殺してやる!」 楢崎は読みとった情報をすぐに他の味方に教えた。リベリスタたちが自分達を本気で殺しに掛ってきたことを知って黒刃も本気を出すことを決意する。 剛毅が漆黒解放後にすぐに闇のオーラを纏った渾身の一撃を楢崎に叩きこむ。 楢崎と黒刃は飛びながら何とか交そうとしたが剛毅の攻撃を完全に避けることができずに身体に受けて表情を曇らせる。それでも捕まえた瑠依を片手に持ちながら盾代わりにしてファントムレイザーを撃ち放ってきた。 巻き込まれた守と麗香が顔を歪める。すぐに後ろに控えていた三郎太が二人の元に行って回復の息吹を施す。 三郎太は一刻もはやく瑠依の父親の元へ辿りつきたかった。だが、目の前には応援に駆けつけてきた敵のデュランダルとレイザータクトが立ち塞がる。 「待っていてください! 絶対に、絶対に助けにいきます!」 三郎太は狙いを澄まして全身から出るオーラーの気糸を繰り出して敵の頭部に目がけて放った。デュランダルが真っ向から対峙して刀を振りかざして突進してくる。一瞬だけはやく三郎太の攻撃が相手に届いて敵は声を荒げた。 さらに続けてクロトがレイザータクトとデュランダルに迫って残像を作りだして同時にまとめて切り裂いた。 敵の包囲網をくぐり抜けてクロトは瑠依を助けるために黒刃を追い駆ける。 ●空回りした気持ちと壊れた歯車 黒刃は瑠依を持ったまま飛翔した。迫るとらに的を絞らせないように細かな動きをして逃げ回る。とらを欺くために超幻影で無数の敵を作りだして混乱させようと試みてきた。その間に遠くへ行くことを狙ったが、とらは離されずにちゃんと黒刃の後を追いかけてくる。すでに超幻影に影がないことを見破っていた。 とらは敵が持っている照明を狙って翼で魔力の渦を放つ。黒刃はそうはさせないと防御するが代わりに身体に攻撃を浴びてしまう。 「援護よろしく!」 とらが言うのと同時にクロトが横から凄まじいスピードで氷結の刃で黒刃の身体を切り刻んだ。挟み撃ちにされた黒刃逃げることができずにその場に釘づけになってしまう。その隙にクロトが体当たりを噛まして黒刃から瑠依を切りはなすことに成功した。だが、すぐに楢崎が回復に向かおうとする。 守はそうはさせまいと再びアッパーを使って敵を引きつけた。怒った楢崎が守たちの方に向かってジャッジメントレイを放ってくる。 不意にまばゆい攻撃の光が守や剛毅たちが居る場所で大爆発を催した。そこにいた桜木もその攻撃に巻き込まれる。 辺りに漏れ出たガソリンに火がついて敵味方もろとも巻き込んだ。桜木は重傷を負ったが他ならぬリベリスタ側も甚大な被害が出る。 桜木は何とか強靭な体力で持ちこたえていた。そこに再びキリエが全身から放たれる気糸を敵の頭部目がけて撃ち放つ。 「容赦は絶対にしませんよ。全員必ず仕留めます」 キリエの覚悟を知って桜木も本気で立ち向かおうとするが、執拗な攻撃を身体に浴び続けてさすがの強靭な体力が消耗されて行った。 「瑠依ちゃん、今助ける」 黒刃や桜木が苦しんでいる隙にとらが瑠依の元へ駆けよってついに人質を確保することに成功した。 「お姉ちゃん、ありがとう。でも奥にまだ正義の仮面が――」 「大丈夫。すぐに味方が助けに行ってくれるから」 瑠依が確保されたのを見てとったクロトと麗香がすぐに父親の靖明を救助するために奥の敷地の方へと急いで進撃して行く。 楢崎が二人の後を追いかけようとしたが、守が後ろから強烈な連続射撃をぶっ放してそれ以上楢崎やデュランダル達を援護に向かわせない。 「絶対に正義の仮面の元には行かせない!」 守は手が痺れるほど集中して攻撃を緩めずに続けた。あまりに激しい攻撃に方向転換した楢崎はまたジャッジメントレイを放とうとする。 剛毅が再び同じ手には食らわないと前に突っ込んで行く。 (突っ込む! 助ける! そしてぶっ飛ばす! 以上だ! 俺が正義だ! 正義の前にひれ伏すがいい!) 心の中で必死に唱えながら楢崎に赤く染まった剣を突き刺した。腹にめり込んだ剣先から大量の血が溢れ出て楢崎は崩れ落ちる。 クロトは後ろから追いかけてくる者がいないことを確かめてさらに加速した。ちょうど目の前には大きなE・ゴーレムの廃車の壁がある。クロトは飛行してその立ち塞がる壁を難なく乗り越えることに成功した。 目の前には数名の部下たちに囲まれている正義の仮面がいる。クロトは一気に剣を大きく振りかぶって敵の中に斬り込もうとした。 スターサジタリーが早く気づいてハニーコムガトリングの嵐を降らせる。クロトはなかなか弾幕の嵐に近づくことができない。 そこへ壁に突撃を食らわして割り込んできた麗香が助けに入った。すぐに父親を相手にしている覇界闘士の元へ行って刀を斬りつける。 「死ぬまでやるか、逃げ去るか選びなさい!」 得物を振り回しながら周りにいる敵を威嚇して強気に言い放った。 「馬鹿か、逃げるのはお前らの方だぜ」 斬りつけられてなおも余裕の覇界闘士はにやついた。その時、背後から迫ってきたE・ゴーレムの廃車たちが猛スピードで麗香とクロトを跳ねた。 やり過ごしてきたはずのゴーレムたちはまだほとんど無傷な状態だった。次々に襲ってくる廃車たちの群れに麗香もクロトも防戦一方となる。 「大丈夫ですか! しっかりしてください」 追いついてきた三郎太が回復を施そうとするが、自分の方に向かって今度は大型バイクが猛スピード迫ってきた。何とかタイヤを狙って止めにかかるが、勢いのついたバイクは急には止まらずに三郎太を吹き飛ばしてしまう。 「すれ違ったままで終わりなんて悲しすぎるっ……」 三郎太は顔面から血を流しながらも気力で立った。ここで自分が倒れてしまえば父親の靖明に回復をほどこせなくなってしまう。自分も望まぬ形でかつて家族と離別していた。三郎太にとってこの親子はとても他人事には思えない。 だが、部下たちとE・ゴーレムに挟まれた三郎太たちは防戦一方に攻め込まれてしまった。他の味方は幹部の相手と瑠依を守るために向こうにいるため応援にはやって来れない。 「前ばかり見ていて足元は疎かになっていたようだな。灯台元暗しってやつか」 スターサジタリーは不敵に笑う。父親を助けることばかりに気をやっていたせいで肝心のE・ゴーレムのことまで気が回っていなかった。 さらに敵は周りの障害物を有効活用しながら奇襲をしかけてくる。どこからおそってくるかわからない敵の攻撃にリベリスタ達は振りまわされた。 クロトは舌打ちをした。このままでは靖明を助けるどころではない。不意にトラックが目の前に現れてクロトを引き殺そうとした。 何とか麗香がタイヤ目がけて刀を叩きつけるが、傾いたトラックが横転しそうになってクロトの方へ倒れてくる。 「危ない!」 その時正義の仮面がクロトを庇って代わりにトラックの下敷きになった。クロトがなんとか手を伸ばしたがむなしく靖明はすり抜けて行った。 靖明の身体を粉々に引き裂く音がした。クロトは茫然として立ち竦んだ。すぐにスターサジタリー達がハニーコムガトリングをぶっ放してくる。 麗香は迫るゴーレムたちから超直観で敵の攻撃を予測しながら三郎太を守るようにして後退した。勢いに乗って迫ってくる敵にこれ以上は戦えないと一旦仲間がいるところまで下がる。 「瑠依ちゃんだけは絶対に渡しません!!」 キリエは追ってくる部下達を狙って足止めした。これ以上幹部達の元へ敵が増えないように効果的に障害物や壁を利用して隠れながら防戦する。 「おい、これ以上やるとさすがにもたねえぞ」 桜木は叫んだ。自分達も障害物を利用しながら効果的に千里眼をも駆使してとらの確保した瑠依を狙おうとしたがなかなかそこまで行かない。 とらは絶対にこの子だけは死守するという気迫を見せていた。対して守もとらをかばってそれ以上黒刃たちの侵攻を妨げている。 「仕方ねえ、この次会った時はぜってぇおめえを叩きのめしてやる」 黒刃は嘲笑した。E・ゴーレムのバイクにまたがると黒刃は不敵な笑みを浮かべて暴走して立ち去った。そうはさせまいと剛毅と守が追いかけようとするが、部下たちの弾幕にそれ以上近づくことはできない。 深追いすればせっかく助けた瑠依をも危険に晒す危険性があった。リベリスタたちはついにフィクサードと痛みわけをした。立ち去って行く黒刃たちにそれ以上追いかけることはせずにただじっと何かに堪えるように見送った。 ●世界で一番素敵なヒーロー 「よく頑張ったね。偉いね」 キリエは助け出した瑠依の頭を撫でていた。幸いに瑠依は軽傷を負っていただけで命に別条はなかった。今の今まで黒刃たちに怖い思いをさせられたからだろうか。キリエへの胸に顔をうずめてしばらくじっとしていた。 ようやく落ち着きを取り戻して瑠依はとらに向かって言う。 「ありがとう、おねえちゃんのお陰で助かったよ。これでやっと家に帰れる。お父さんが待ってると思うから」 瑠依は笑顔で言った。とらは楽しそうに笑う瑠依に厳しい視線を向ける。 「どうしたのお姉ちゃん? なんかつらいことでもあったの?」 「君はパパに謝んなきゃいけない事が、あるんじゃないかな」 とらの真剣な言葉に瑠依は押し黙って俯く。守も瑠依に手をかけてどうしてもそれ以上は言わないとらの代わりに覚悟を決めて口を開く。 「お父さんはこういう風に人を助ける仕事をしていたんです」 守は全てを瑠依に言い聞かせた。リベリスタとして精一杯努力して多くの罪なき人々を救っていた。そして正義の仮面として瑠依を助けに来たことも含めて。 「確かに戦いを伴う荒っぽい仕事かもしれないけれど、これはお父さんにしか出来ない仕事だったんですよ。命日の件も、どこかで誰かを助けていたから。そう、丁度今の貴女の様な人をね。それなら、お母さんも許してくれるのではないでしょうか。そんなお父さんだからこそ、です……」 守はこれ以上言葉にならなかった。他ならぬ守も父を亡くしていた。その父と同じ道を辿ってきたからこそ子の気持ちがわかる。聞いていた瑠依はすでにもうリベリスタの前から姿を消していた。どこに行ったのかはもう言うまでもない。 沈鬱な表情で麗香が後から追いかけて行った。 「お父さん……ごめんなさい。死んじゃえなんていわなければよかった」 変わり果てた靖明の亡骸に瑠依は突っ伏した。その背中を優しく麗香はいつまでもさすってあげていた。もうすこし周りに気をつけていれば父親も助かったかもしれない。誰もが気持ちばかりが先行して肝心な足元まで見れていなかった。 空回りした歯車はもう二度と元には戻らない。 「お父さんは瑠依ちゃんを悲しませる為に戦ってたわけじゃない。瑠依ちゃんが安心して過ごせる世界にしたいから。瑠依ちゃんがいつも笑っていられる世界にしたいからだから戦っていた」 「――ほんとにそうだったかな?」 「ええ、そしてそれはきっとお母さんも同じ気持ちだったんだと、お父さんは紛れも無くヒーローだったんです」 三郎太はまるで自分に言い聞かせるように瑠依に話した。 瑠依はようやく縋りついていた父親から立ち上がった。まだ目元は大きく腫れあがっていた。それでも瑠依は自分の胸に手を当てて自信を持って呟いた。 私のお父さんは世界で一番素敵なヒーローだ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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