● 食欲の秋。 実りの秋とも呼ばれ、様々な食材が食卓に並ぶ季節である。 そんな秋の昼下がり、『風に乗って』ゼフィ・ティエラス (nBNE000260)はアーク本部のラウンジでどら焼きを口に運んでいた。「食欲の秋」という言葉を知ってか知らずか、幸せそうに食べている。 彼女がボトムに降り立って、初めて口にした食べ物がこれだった。 基本的に草食で、口にする甘いものも果物ばかりだった。そこで味わった異文化交流の衝撃は鮮烈なものだ。 和菓子の味わいも優しいものであり、素朴な味を好む彼女の舌に合うものだったというのもあろう。 柔らかな生地を食べて行くと、餡子の甘味が現れる。その甘さは生地が柔らかく中和してくれるのだ。 しかも、一緒に出てきたお茶の適度な苦みも、甘さを引き立ててくれる。 異文化を知るのにあたって、まずは食からというのは、やはり基本なのかも知れない。 「お、美味そうなもの食べているな」 「モリゾーさん、こんにちは」 ラウンジにやって来たのは『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)だった。最近は大きな事件も減り、彼の負担も減っている。学生とフォーチュナ業を両立させなくてはいけない身分としては、ようやく息がつけるといった所か。 コーヒーを片手にどら焼きを食べるゼフィと同じテーブルに座る守生。 なんとなしに、普段の食事についての話が始まった。 「ま、そうだな。俺の場合、店屋物に頼ることは多いな。自炊の方が良いって言うのも分かるけど、中々そうもいかねぇ」 「そうですね。三高平には美味しいお店が多いですから」 「一因かも知れねぇな。お陰で助かっているのもあるが」 「でも、わたしはそういうお店探すの苦手なんですよね……」 しょんぼりするゼフィ。正しくは情報を手に入れるのが苦手なのだろう。内気なタイプで情報には疎い。加えて、情報機器も苦手なためにネットから仕入れるのも困難、ということだ。 話をしながら顎に手を置いていた守生は、そこでふと考えを口にしてみた。 「だったら、俺がちょっと聞いてみるか? 詳しい奴は結構いるだろうし」 「え? 本当ですか? ありがとうございます!」 思いもかけないゼフィの反応にびっくりする守生。言われてみれば好奇心の強い娘であり、三高平で食べられる料理には少なからず興味があったのだろう。 守生は守生であけすけな感謝を受けるのは苦手にしているし。 「あ、あぁ、任せておけ」 そこまで言って守生は、とりあえずリベリスタ達に相談してみようと思った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月01日(金)23:32 |
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■メイン参加者 19人■ | |||||
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● 悩めるフュリエがフォーチュナに相談している時だった。 そこに1人の色黒の少年が、教科書を携えてやって来た。御厨夏栖斗、普段は戦いの中にある彼も、日常においては1人の学生なのである。 「やっほ! 学生兼リベリスタはつらいとこだね」 「ちょうど良かった。ちょっと相談したいことがあってな」 夏栖斗も交えて話の輪は広がる。 「食の話題? ゼフィは和菓子が好きなのか。なんか意外だね。和菓子じゃないけどさ、暇な時あったら、うちの『陰ト陽』にたべにおいでよ。三高平でも一、二を争う名店だと思っているよ」 「はい、分かりました。ありがとうございます」 家族の関わることだけに饒舌になる夏栖斗。もちろん、裏付けもあるからこそ言えるのだろう そして、これがコーポ巡りの始まりになるのだった。 「よくぞ呼んでくれたモリゾー! 三高平の事とあらばこの……M! G! K! に、お任せあれーッ!」 アーク本部ロビーで、大きく手を掲げてポーズを決めるのはミタカダイラ・ガード・ナイツことMGKのツァインだ。よくよく見ると目元がちょっぴり濡れている。三高平に慣れない人々の支援を行っているだけに、久々にそれを行えるのが嬉しいのだろう。守生は気付かない振りをすることにした。 「本当はアプリとかナビがあるんだけど……はいよコレ、名物三高平MAP!」 「はい、助かります」 機械に弱いゼフィ向けに作った手製のマップだ。元々、ラ・ル・カーナに碌な測量技術が無かったことも鑑みれば、この辺が妥当であろう。 「取りあえず手始めに和菓子屋行こうか! どら焼きにも色んなのがあるんだぜー?」 ツァインは2人を連れて元気よく踏み出した。 ● 「おー、ここが九曜さんのお奨めのお店なんですねっ」 「そうッス。老舗の洋食屋さんで、しみじみ美味しいッスよ」 落ち着いた雰囲気の洋食屋の看板を三郎太は見上げる。 今日は三郎太のアパート入居記念の食事会。オムライスが食べたいという希望を受けて、計都は行きつけにしている洋食屋「たいめい亭」に連れて来たのだ。彼女も本音を言えば手料理でお祝いしてあげたい所であるが、不格好な出来になってしまうのを悩んでしまう、微妙な乙女心だ。 中に入ると2人はそれぞれジュースとビールを手に乾杯する。 そして、待つことしばし。やって来たのは黄金の輝きを放つオムレツを乗っけた、名物の「たんぽぽオムライス」だ。チキンライスも負けまいとコントラストを為している。オムライスが魅せる予想以上の景色に、三郎太も思わず目を輝かせる。 「こ、これがたんぽぽオムライス……っ!!」 そして、震える手で三郎太がオムライスに手を付けようとするのを見て、悪戯心を起こした計都がスプーンを取る。 「はい、三郎太くん、あーん♪」 「え、えぇぇっ?! 恥ずかしいですよっ」 口を大きく開けるように促され、赤面する三郎太。しかし、そんなものは計都にとってアクセルを踏まれたのと大差は無い。そしていよいよ、勢いに負けて恥ずかしながらも三郎太は口を開けてしまう。 照れやら恥ずかしさやらがごっちゃになってしまったが、三郎太には計都が心の底から祝ってくれていることが伝わった。 のんびりしているように見えて、神谷小夜の一日は結構忙しい。リベリスタとして活動するのみならず、神社の巫女としての仕事を持っている。さらには、何やら様々な副業にも手を出しているのだ。これが忙しくないはずも無い。 「今日はちょっと外で食べましょうか」 普段は弁当を利用することが多いが、今日はお茶漬けにすることにした。どんな季節でも食べられるし、サクッと食べられるのが魅力だ。 普段は浅漬けののったものや鶏茶漬けだが、今日は懐に余裕もある。 小夜は鯛の刺身がのったものとマグロのたたきがのったもの、どちらにするかを真剣に物色するのだった。 「注文ー。赤丸ロースつけ麺特盛りなー」 ガラッと扉を開けると、岬は明るい声で注文を告げる。店には何度も来ているだけあって手慣れたものだ。店の中はやや手狭であるが、これも慣れてしまえばどうということは無い。 ここで扱うのはタンメンとつけ麺。先にもちもちした食感の太麺が作られ、それが合う料理を模索した結果、この組み合わせに落ち着いたらしい。 そして、待つことしばし。 岬の前にどんぶりが置かれる。 いや、まずはどんぶりの中にある肉に目を惹かれずにはいられない。 タレに付けたロース肉に衣を付けて油で揚げたものがのっているわけだが、えらい存在感だ。 「来たかー。じゃあいただきまーす」 ● 計都達から話を聞いた後に、ゼフィは寿々貴の店、「Aus der neuen Welt」の前に来ていた。いわゆるコスプレ喫茶の前だ。そう言えば来る途中で出会ったそあらも、「さおりんとおでいとするにもよさそうなのです」と別の喫茶店に入っていた。三高平にはこういう店が、結構多いのかも知れない。 そんなことをゼフィが考えていると、入り口の扉がスッと開き、メイド服姿の寿々貴が姿を現わした。 「いらっしゃいませ!」 一方その頃、守生はコヨーテと一緒に屋台のラーメン屋の前に来ていた。 いや、店をラーメン屋と認識できる者はそう多くあるまい。なによりもまず、そこから発せられる闘気に命の危険を感じずにはいられないからだ。しかし、そんな危険地帯へコヨーテは喜色満面の笑みを浮かべて入って行った。 「というわけでジャーン! ココがオレの行きつけのラーメン屋さんッ。おやッさんッ、地獄(ヘル)ラーメン2丁な!」 「本当に大丈夫なんだろうな、ここ……」 剣呑な名前のラーメンを注文するコヨーテ。守生も結構な数の「怪物」を見てきたつもりではあるが、腰が引ける。出てきたのはフォーチュナの予知を裏切らず、ブ厚いチャーシューとノリの乗った真っ赤なスープのラーメンだった。評するのなら、 赤 黒 肉 だ。 「な、な?見た目もかっけェだろッ! おやッさんッ、オレトッピングでブラックペッパーなッ」 「まだ辛くするのかよ!?」 落ち着いたアンティーク調の店の中で、ゼフィは出されたどら焼きとお茶を食べていた。 「でも、良いんですか、すずきさん? メニューに無いのに……」 「経営的に多少無茶はあるけど気にしない。なんせこの店の名は『新世界より』だからね」 アンニュイな表情に自信の笑みを浮かべる寿々貴。彼女に言わせると、ここはお客様と一緒に楽しんで、繋がった新たな世界に触れてもらうための場なのだ。9割は冗談で言っているが、1割は本気である。 「どうかな? 願わくばキミにも、新しい世界が見えますように」 「はい、少し見えた気がします」 ゼフィは寿々貴に笑顔で応えた。 リベリスタ達の情報収集力は半端無い。それが歴戦のリベリスタ、結城竜一ともなれば高い行動力も相俟って、対応に乗り出すに至るのだ。 「なるほど、モリゾー! 話は聞かせてもらった! ゼフィたんに食道楽を教え込めばいいんだな! 任せておけ、ついてこい二人とも!」 「どこから聞きつけたんだ?」 守生のツッコミもなんのその。竜一が案内した先にあるのは、彼が食事(注.ぼっち飯)のためにしばしば利用する和食の店だ。なるほど、創作料理と紹介された通り、小鉢のバリエーションは豊かなものだ。 さらには焼き秋刀魚やご飯ものとして出てくるのは栗ごはんも出てくる。 「これが『秋の味覚』なんですね」 並ぶ日本ならではの料理に、ゼフィも満足した様子だった。 ● 「あんたは……宇治金時? それって氷じゃねえの?」 「なぁに。このマイルドな苦味と金時の絶妙なハーモニーが、ね。フェザーさんの白玉餡蜜も美味しそうですね、そして食べている姿もカワイイ……」 「やめろよ。ほら、こんなんまるまる一つ食ったら、身体冷えるだろ。あたしのお茶もやるよ」 お茶を差し出すプレインフェザーの内心が言葉と真逆なのは、すっと赤みが差した顔を見れば明らかだろう。 その日、喜平はプレインフェザーを連れて、行きつけの甘味処に来ていた。それなりの年であるはずの顔には、珍しく子供のような表情が浮かんでいる。 デートの時間はのんびりと流れて行く。 楽しい時間は食べ物を美味しくする何よりの調味料。そして、相手が恋人であるというのなら文字通りの甘いひと時だ。 「ま、もっと寒くなったら、そういうの気軽に食えなくなるし。今のうちに味わっとくか。ほら、一番美味しいトコ、あたしにくれよ?」 少女は年上の恋人に向かって大きく口を開ける。 喜平はふっと笑うと何も躊躇わず、宇治金時を一掬い。彼女の口元へとスプーンを持って行った。 「ほら、口を開けろい」 プレインフェザーの口の中に冷たく上品な甘さが広がって行く。 だけど、寒くは無い。 彼と一緒にいるだけで十分暖かいのだから。 美味しい店を見つけるのは難しい。 だが、ひょんな偶然からあっさりと自分の好みに近い「お気に入りの店」というものは見つかる。桐がその店を見つけたのもそんな偶然からだった。 「これは面白いですね」 桐の目の前に並ぶのはとろろそば、ざるそば、茶そば。三色蕎麦と言う訳だ。それぞれにのど越しの違いを味わうことが出来る。他にも魅力的なメニューは並んでいたが、これはこれで正解だろう。つゆはやや薄めだが、風味を感じるなら十分だ。 そして、食べ終わって一段落した所で、デザートがあることに気が付く。善哉や抹茶アイス等和風のものが揃っている。 「これは……アリですね」 桐の声はわずかにはずんでいた。 ● 慣れない牛丼屋の空気の中でゼフィは目を丸くしていた。こちらに来てから慣れはしたものの、元が草食の彼女にとって、肉がメインの店というのは基本異郷なのである。一方の守生は慣れているのか余裕はある。愛用のタブレット型コンピュータで、今まで集めた話を纏めている。 「これは……ある意味で凄いな……」 唸る守生が見ているのはマリルが作ったマリルシュラン。苺の在る無しで全ての格付けが為されているのだ。価値観が明快、とも言えようか。 そして、ゼフィが所在無さげにユウに目を向けると、自信満々に大きな胸を叩いてみせる。 「私が一緒だから大丈夫です。安心して下さい!」 と、そこへ牛丼が差し出された。 「牛丼特盛り、つゆ多め温玉に豚汁です!! これ! 最強!」 この上ない自信に満ちた宣言にゼフィは気圧されてしまう。さらに、ユウは楽しげに牛丼の食べ方口臭を始めた。 「最初にお肉と一緒に少しずつご飯を食べます。ここで全部食べちゃわないで、最後に残ったご飯に温玉を乗っけてかき混ぜる! おつゆとたまごのハーモニーが大絶賛ですよー」 言われて試してみるゼフィ。すっかり熱心な生徒になっていた。 「紹介する程のお店か分かりませんが……」 謙遜気味にジークリンデが紹介してくれたのは、何処にでもあるようなカレー屋だった。料理好きなのでそれなりに自分でも作るが、スパイスの調合を個人でやるのは難しい。ましてや、彼女は日本に来て間も無い。 「ティエラスさんもいかがですか? 色々食べて回っているようですし、ご飯少なめぐらいが丁度いいかもしれませんね」 「お気遣い、ありがとうございます」 礼を述べると出てきたカレーに手を付けようとするゼフィ。 その様子を見ながら、守生は何か違和感を感じていた。 先ほど、ジークリンデは「無難に10辛程度を食べている」と言っていた。 何かがおかしい。 しかも、ご飯の量が少ないということは……。 「おい、ちょっと待……」 守生は急いで止めようとする。しかし、それはわずかに遅かった。 そして、カレー屋に悲鳴が響き渡った。 ● 三高平市内のバーガー屋で、ミミルノはここぞとばかりにハンバーガーを食べていた。 「はんばっがー! きょうはミミルノ、はんばっがーをたべてたべてたべまくるデイなのだっ!」 言葉に偽りは無く、漫画のように積まれていたハンバーガーをぱくぱくと平らげている。その様子を楽しげにカルラは眺めている。気持ち良い食いっぷりとはまさにこのことだ。 「ミミルノはてりやきけいっ! たりやきけいのはんばっがーからこーりゃくするよっ! ほらほらっ! カルラもたべるのっ」 「いや、俺はそんなに食べられないぞ」 カルラの食べている量は決して少なくない。むしろ、アメリカンサイズのハンバーガーを扱っていることを考えれば、十分以上に食べていると言えるだろう。前にこの店にいた時にはバイト側だったので、碌に食べることは出来なかった。その分を取り返していると言っても良い。 そして、ミミルノが食べる様子を見ているだけで、元は取れたとも言える。 しかし、気になるのは、 「しっかし、よく食うわーどこに入るんだかなー」 何処に入っているのか。ミミルノの小柄な体に、あれ程のハンバーガーが入ってしまったとはにわかには信じられない。気付けば、ハンバーガーの代わりに包み紙の山が出来ていた。 「ふぅ~たくさんたべてミミルノまんぞくっ! ごちそうさまっ!」 今日は良い休日だ。 辺りを片しながら、カルラは心の底からそう思った。 「はは、色々と大変だったんだな」 話を聞いて快は大笑いする。リンク・チャンネルとの交流もそう一筋縄では行かないということだ。守生も苦笑するしかない。 「それじゃあ、締めにってことで。改めて、新田酒店へようこそ、モリゾー、ゼフィさん」 三高平では毎度おなじみ、「新田酒店」。ここにはバーもあり、簡単な食事を楽しむことが出来る。 今回は簡単な賄い料理の紹介だ。 「今日配達に行ったお寿司屋さんから、刺身の切り落としを貰ってさ」 手際よく準備していく快。 最初は適当な量の醤油、ごま油と、生卵。最後は味醂と味噌を少々混ぜて漬け汁を作る。 「あ、ひょっとして?」 「モリゾーはピンと来た? そう、ユッケの作り方に近いんだ」 後は漬け汁にさっと刺身をくぐらせて、ご飯に乗っければ出来上がりである。残った刺身はもうちょっと漬け込み、お湯をかければ漬け茶漬け丼に早変わりだ。 「お粗末様」 「すごいです!」 快が軽く一礼して見せると、見事な早変わりに目をキラキラさせるゼフィ。 そして、冷めないうちにと促され、また素直にゼフィは称賛する。守生も口数少なく食べている辺り、気に入ったようだ。 「そっちの飲み物は何でしょうか?」 「これは俺の店で扱っている酒だよ。ゼフィにはまだ早いから、数年後にな」 「はい、楽しみにしています!」 ゼフィはたしかに、自分の世界が広がって行くのを感じていた。故郷にいた頃には、まず得られなかった経験だ。 こうして、世界と世界は繋がって行くものなのかも知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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