● 「ケーキが食べ放題なんです!!!」 風も爽やかな秋晴れの日。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、こぶしをぐっと握り締めて語る。 「ざっくり説明しますと……アークが何度か関与して、迷惑行為を防いだり、人命を守ったりしたカフェがあったんですが。色々あってその事実を知った覚醒者の店長さんから、アークのリベリスタに何かお礼をしたいということで、ご招待を受けまして」 店を一日アークの貸し切りにして、美味しいと評判のケーキや紅茶を振る舞ってくれるのだという。 店は庭に面したテラス席を持つ、隠れ家的なカフェ。 秋薔薇が咲き乱れる庭のガーデンパラソルの下、優雅にアフターヌーンティーを嗜むのはどうだろうか。ポットからは温かな紅茶の湯気が上がり、3段のティースタンドにはサンドイッチやクロテッドクリームを添えたスコーン、色とりどりの宝石のようなケーキ。特別なひとときに、親しい人との会話もきっと弾むはず。 大きな硝子窓から柔らかな陽差しの射し込む店内で、庭を眺めながらケーキバイキングを満喫するのもいいかもしれない。つややかな栗やイチジクがびっしり並べられたタルトたち、まるごとかぼちゃをくりぬいて作られたプリンに、黄金色のスイートポテト。お気に入りの茶葉で淹れた紅茶にミルクをたっぷり注ぐか、それともフレッシュジュースにしようか? 飲み物を選ぶのも楽しみのひとつだ。 「“ティースタンド”や“ケーキバイキング”って、言葉を聞いただけでも果てしなくテンションが上がりませんか? というわけで、ね、皆さんで行きましょう!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月29日(火)23:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 18人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●紅茶色の午後 「きょうのひのために、きのーからごはんをぬいてきたのっ」 きゅるるるる。 天高くキツネのおなかも鳴る、秋の昼下がり。ミーノはリュミエールを半ば引き摺るように、カフェの扉をくぐった。 「ケーキたべほうだい!!! そんなゆめのよーなじかんが、いまっ!」 並ぶたくさんのケーキに瞳を輝かせるミーノを、全く世話が焼ける、とリュミエールは席へ促す。 「木蓮ちゃん、わりとこういうスイーツは試してると思ってたのだけど、そうでもないのね」 「自分で体験するのは初めてなんだよな~。へへー、色んな味を楽しもう!」 女子二人、仲良く連れ立って現れたのは海依音と木蓮。モル屋の店長でもある木蓮は、出迎えた八二と名刺交換をして挨拶を交わす。 「親族の更正頑張ってな、落ち着いたら何かコラボ商品でもしようぜ!」 「ワインであればソムリエに頼むように、紅茶のことは紅茶マニアに、ってね。期待してるよ、蜂夜クン」 精悍な体を細身のスーツで包みビシっと決めた竜一の言葉に、八二も笑みを返した。 「期待に添えるように頑張ります。今日は皆さん、ゆっくりしていってくださいね」 「いらっしゃいませー!」 「い、いらっしゃいませっ!」 カフェを訪れたアークの面々を迎えるのは、店の手伝いに回ったフツとあひるだ。揃いの制服は、腕まくりした白シャツと黒いパンツ、膝下丈のギャルソンエプロン。フツは即座に順応し手慣れた様子で、あひるは恥ずかしそうにしながらも一生懸命、接客にあたる。 水を入れたピッチャーとグラスをぐらぐら運びながら、自分に時折向けられる恋人の目線を感じて、あひるは思わず頬を染めた。 「(慌てず、ゆっくり……フツすごく見てるし、気になるし……! 失敗だけはしな)……くわーっ!?」 よろめいたあひるのフォローにすかさず入りつつ、フツは側に居た快に無言の熱視線を送る。 「(働くあひるの写真を撮っといてくれ! そしてオレにくれ! おねがいします!!!)」 「(わ、わかった……)」 その快はといえば、今回の主な目的は読書の秋を満喫すること。風も心地良いテラス席に着くと、まとまった時間が出来たら読もうと考えていた、卒論で使う経済学の専門書を広げる。 読書のお供はほうれん草のキッシュに茸をふんだんに使った秋鮭のキッシュ、そしてスコッチウイスキーを思わせるスモーキーな芳香の、ラプサンスーチョンのストレート。 「軽食を楽しみ、紅茶を楽しみ、読書を楽しみ……専門書だから、楽しいって訳にはいかないかな」 分厚い本の上に、木漏れ日が踊る。穏やかな眠気に包まれるのを感じながら、快はページを繰った。 「緑茶と烏龍茶と紅茶は同じ木の葉っぱで、加工法が違うだけってマジー? ちょっとせつめーしてくんねー? 店員さんー」 岬の問いかけに喜々として説明を始める八二の話を、ボトムの植物に関心のあるシンシアも興味深げに聴く。 「私も色々教えてほしいな、お茶を淹れる際のコツとか、茶葉の選び方とか」 「大切なのは、汲みたての水を沸騰してすぐに使うことかな。日本の水の硬度は、紅茶の味と香りを引き出すのにとても適しているんですよ」 良い茶葉を選ぶには、可能ならば試飲して、商品の回転が早い店から新鮮なうちに飲み切れる量を買うことだという。そんな話をしながらシンシアのカップに注がれたのは、蘭花の芳香と糖蜜のような甘さをもつ、キームンの上級品。 選んだぶどうのショートケーキの、生クリームたっぷりの甘い誘惑を前に、“太りそう”の恐怖の4文字が脳裏をよぎったが……リベリスタであればカロリー消費の機会はいくらでもある筈だ。 「ふーん、そーなのかー。じゃあこのモンブランとミルフィーユにはさー、どんな紅茶が合うのー?」 「そうだなあ……」 ならばお勧めのものを幾つか飲み比べてみるのも楽しいよと、岬のテーブルに、八二はポットを二つ用意した。一つは香りも優雅なキームンベースにウバのブレンド、もう一つは適度な渋みが心地よいディンブラ。 「最初に食べれる分を算出しといて、メインで楽しむのはそれ以外が通の道ーって馬鹿兄ィが言ってたー。なのでメインは紅茶なのだー」 メニューにずらりと並ぶ、多種多様な紅茶たち。この中から自分の好みにぴったりのものを探すのも、面白いかもしれない。 ●薔薇の下で 咲き誇る秋薔薇を臨むテラス席。モニカは慣れた手つきで、紅茶店の店長をしている慧架のカップに温かな紅茶を注いだ。 「まあ味は店長のほうが上だと思いますが、たまには他の味も悪くないですよね。今回は折角ですし、この店の紅茶を楽しむことにします」 カップに湛えられる、赤みを帯びた薔薇色の紅茶。ロージーオータムナルと呼ばれる由縁の鮮やかな水色に、他の時期の茶葉に比べて甘い香りがふわりと立ちのぼる。 「メイドが席に着いてお茶会というのは本来あまりよろしくないんですが……」 特別な相手との特別な時間。今日はきっと、特例も許されるだろう。 同じテラス席の一角で、アフターヌーンティーを堪能するのは竜一。 「英国における茶道みたいなものらしいな。俺は茶の湯は自由闊達であるべきだと考えているが……たまにはその格式を尊重し楽しむのもいいかもしれないね」 まずは“紅茶のシャンパン”と名高いダージリンのセカンドフラッシュをストレートで。それからマナーに則り、キュウリや卵とクレスのサンドイッチ、温かなスコーン、ケーキの順に口へと運ぶ。 「(実際どうなのかなんて知らないけどね! でも時には気取って見せるのも楽しいよね!)」 例え心の声がこう(↑)だったとしても、黙っていれば本場の英国紳士にも引けを取らない端正な所作に彩られ、優雅なひとときは過ぎていく。 「これはチーズカスタードがベースですね」 凛子は真っ赤な苺が並ぶタルトを半分にして、リルに取り分けた。 「こっちは栗を使ってるみたいッスね。秋の甘さッス」 どうぞッスよ、とフォークに乗せて差し出されるのは、蜂蜜入りのふんわり生地でマロンクリームを包んだロールケーキ。甘い一口に、こういうのんびりとしたデートもいいものだと、凛子の頬も綻ぶ。 「メイドさんがいるカフェだと『お帰りなさいご主人様』というのでしたっけ」 紅茶は濃厚なアッサムのミルクティー。カップを手に小首を傾げる凛子が思い浮かべるのは、リルにはまだ内緒にしている、ハロウィンの仮装のこと。メイド服は飽きるほど着ているリルは、見る視点が違うようで、メイドカフェには興味がないようだったけれど。 「私がリルさんに言うなら『お帰りなさいませ、旦那様』となるでしょうか」 凛子がくすくすと悪戯っぽく投げかけた言葉に、 「――……そういうのは、まだまだ遠い話ッスよ」 リルはどうにも落ち着かない様子でぷいっと横を向くと、ケーキに集中するのだった。 「八二さん、ほんとに辞めちゃうの?」 終の問いに、八二は黙って首肯した。並んで降りる木の階段に、柔らかな光が零れる。 「店にも皆にも償いきれないくらい迷惑を掛けたし……また同じように周りを巻き込む事態は、絶対に避けたいんだ」 「そっか……。――八二さんさ、お家が落ち着いたらアークへ来ない? アークは慢性的にフォーチュナさん不足だしさ。考えておいて☆」 「……本当にありがとう、終くん」 階段の先、従業員休憩室の扉を開けると、終を懐かしい声が出迎えた。 「終さん、お久しぶりです……!」 「待ってたんだぜ~、こっちこっち!」 従業員お勧めのケーキを一葉が机に並べ、リクトは店のオリジナルブレンドをカップに注ぐ。 「う~~やっぱりゆかりさんのケーキ、激うま……。紅茶も美味しくて幸せ……」 「これはね、私たちの命の恩人に、感謝の気持ちよ」 植物を象った菓子を得意とするパティシエが終に差し出したのは、ダークとホワイト、2種のチョコレートと赤カシスの実で作った柊のケーキ。おそらく、以前終が名乗った偽名にちなんだのだろう。 「……これだけで頑張った甲斐があったな。4人が揃っているこの場所で、お茶したかったから」 彼と仲間たちが守った笑顔に囲まれて、お茶会は続く。 ●れっつケーキタイム! 「じゃーん! チーズケーキ5種類セット!」 レア・スフレ・ベイクド・ニューヨーク・シフォンのチーズケーキを皿に並べ頬張る木蓮に、 「あなたチーズケーキ好きすぎでしょ!」 すかさず海依音のツッコミが入る。 「カロリーはおいしいものね。あ、木蓮ちゃんほっぺのお肉が店に入る前より増えてるわよ。あ……わきのお肉が危険区域」 こんなちょっとした意地悪もいつものこと。痛いところを突かれてぎくぎくっと顔を強張らせた木蓮は、フォークでケーキを半分にしていく。 「……か、海依音ちゃん、わけっこしよう!」 「あ、このチーズシフォン美味しい」 「む、そっちのも美味い」 海依音が選んだ苺のショートケーキにフランボワーズムース、焼きたてのスコーンもシェアをして。結局食べているのはご愛敬。 硝子製のティーポットからは矢車菊とマロウフラワーの花弁を加えたブレンドティーが華やかに香り立ち、仲良し同士の会話も弾む。 「女の子同士でこうやってスイーツ食べるのも楽しいわね」 「んむ、スッゲ楽しいな♪ また一緒に来ようぜ、海依音ちゃん!」 「まぐろの解体ショーやってー♪」 元気よく声を上げたのはユウ。 「……まぐ、ろ」 「いやーちょっと言ってみたかったんです。てへ。では気を取り直して……ケーキの解体ショーやってー♪」 折角だから、でっかーいケーキをいかに綺麗にカットするか業前を見せて欲しいというユウのリクエストに、八二もほっとしたように頷いた。 「そういうことでしたら、喜んで」 綺麗なカットの秘訣は、ナイフを湯で温めること。刃渡りの長いナイフを使い、一刀ごとに水気やクリームを拭っていく様は、まさに解体。熟れた柿をスライスし花弁のように敷きつめたタルトが、たちまち切り分けられていく。ティーカップに注がれたのは、花の香りを湛えるヌワラエリヤだ。 「わお! それじゃあさっそく、がっつり食べますよ! ホールじゃないのも食べます! チョコからクリームからタルトから、何でも来ーい♪」 食いしん坊の本領を発揮したのはミーノも同じ。リュミエールがその食べっぷりを見つめる中、苺タルト、まるごとかぼちゃプリン、蜂蜜と栗のロールケーキ、ぶどうのショートケーキ、半熟チーズスフレ……目標としていた5つを平らげた。 ちょっとぬるめのロイヤルミルクティーでほっと一息、ミーノは幸せいっぱいの表情を浮かべる。 「はふ~~~おいしかったの~だいまんぞく♪」 仕事を終えたフツとあひるも、お茶の時間。 「フツだけのウェイトレスさんだから、サービスだよっ」 制服姿のあひるが、生クリームを添えたガトーショコラとアールグレイをテーブルに運ぶ。オレンジとレモンの果皮を加えた茶葉の爽やかな香りが、程よく疲れた体に優しい。 「お疲れさま、とびきり美味しいケーキです! はい、あーんして?」 並んで腰掛け、ケーキをフォークに載せて差し出せば、甘いひとときのはじまり。 「ウム! 働いた後の食事はウマイ! あひるがあーんしてくれるから更にウマイ!」 シュスタイナと壱和の二人も、仲良くケーキバイキングを堪能中だ。 「チョコ系は外せないし、タルトも美味しそうだし……悩むわ」 目移りするほどたくさんのケーキが並ぶカフェの一角は、さながら宝石箱のよう。迷いながら選ぶのもまた楽しく、それぞれ違う種類を皿に取って席に着く。 どれから食べようか考えていたシュスタイナの前に、すっと差し出される一口大のモンブラン。フォークを持つ壱和がにっこりほほ笑む。 「これ美味しかったです。よかったら交換しませんか?」 「(えっ、と……食べていいってことよね? これ……)」 戸惑いながらもぱくっと一口。目があえば、ね? と笑みを返され、じゃあ私も、と一口お返し。 「美味しいっ」 今度はシュスタイナのイチジクタルトを壱和がぱくっと食べて。食べた後になって、なんだかお互い、ちょっと照れてしまう。 「(するのもされるのも恥ずかしかった……けど。壱和さんだから、いいかな)」 ティーポットの紅茶は、壱和が選んだ秋摘みのダージリン。胸をほんわりとさせてくれる、温かな飲み物の美味しい季節がやってきている。 「そろそろ秋物の服もほしいですね」 「秋物のお洋服かぁ……。これ食べ終わったら、ちょっとお店回りしてみる? まだ時間ありそうだしね」 「行きましょうっ。楽しみでわくわくします」 短い秋を、めいっぱい楽しもう。 リベリスタたちの談笑の声と、紅茶の香気に包まれて――お茶会はもう少し、続きそうだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|