●翼に夢を 遠く、風切り音が聞こえる。 それは大気全てを敵として鉄塊を大空へ、亜音速で羽ばたかせる為のジェットエンジンが奏でる悲鳴のようなそれである。 それを見上げる獣は、嘗て『それ』に住処を追い立てられた個体だ。都市計画という詭弁にワリを食うのは、市民でも無ければ貧民でもない。 人間ではないものばかりが犠牲になる。だが、獣には知性もあった。それがどれほど高みを翔ぶかという事実を知っても居た。 ……果たして。それほどまでに知恵ある獣と言うのは自然発生し得るものなのか。 世界の律に許された獣は、翼の存在を夢見たが故に、翼の異常に気付いたのか。 『――鉄の塊が、落ちる』 人ならざる声が響いたのとほぼ時を同じくして、獣はそれを確かに見ていた。 鉄の翼を突き破る、翼ある異形の姿を。 ●心に光を 騒然とした森のなか、炎が木々を舐め、墜落した航空機内の熱量を高めていく。 エンジントラブル、次いで主翼の損壊にも関わらず『殊の外綺麗に』墜落したそれの内部には、未だ生存者が少なからず存在していた。 だが、それもすぐに過去形になることを乗客は理解している。目の前で虐殺を始めた存在を前に、パニックに陥って逃げ出すことの愚かしさを知っている。 有り体な表現をすれば鳥獣のたぐい。翼竜を彷彿とさせる翼膜と鉤爪、それの根本にある胴部は通路を狭しと張り出す筋骨隆々のオスのものだ。 下半身は蛇の尾であり、口は狼。不出来過ぎるキマイラもあったものである。 掴み上げられた幼児が叫び声を上げる間も与えられず、その怪物の顎に咀嚼される、刹那。 獣の乱杭歯は、突然の闖入者に残らずへし折られた。 「ルルル……」 『お前は、変なものだ。変なものは、此処にいては駄目だ』 少年のシャツの首元を噛んで怪物から引き剥がしたのは、これもまた怪物と呼ぶべきだったろうか。 黒の毛皮に銀の差し色を加えた、おおよそ異質な色合いを持った四足歩行の熊。それが、人語を介している。 二体の獣がもつれるように窓へと身を叩きつけ、数度の交錯を交わすまでに。 生きていた乗客と乗員は、軽く十人ほど命を落とした。 ●獣に心を 「……結果的に怪獣大戦争じゃねえか、なんてはた迷惑な」 「ですが、この結果、二体が外に放り出され、数十秒の猶予が生まれます。救いがなければ運命は変わりませんが、こちらの介入で芽を出すこともあるでしょう」 合成獣じみた側をズームアップし、画面に固定してから『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は資料を開いた。 「こちらが便宜名『百種獣』。E・ビーストのようですが、複数の獣の特徴を持ち、それぞれの特色を強く戦闘に反映できます」 「いや、凄いなこれ。六道あたりが絡んでないの? マジで?」 「キマイラ計画は過去の話ですし。自然発生的に生まれても、エリューションなら仕様がありません」 「ふうん……で、この熊? 喋ってるよね? てか、なんで戦ってんの」 「アザーバイドです。フェイトを獲得した個体で、こちらの言語も自然に覚えたみたいですね。一応、空港整備計画で住処を追いやられたといっても、まあ言語覚えるくらいですから人間が好きなのでしょう。航空機も。それを操る人間が特に。だから、助けたいと本能で思った……ロマンチックじゃないでしょうか?」 「お前のその顔でロマンチックとかやめろよ。鳥肌立ったわ」 「……こほん。ま、この状況下で求められるのは延焼阻止と救助です。当然、エリューションを倒しつつね」 「アザーバイドは、どうする」 「アザーバイドの生死は不問ですよ。フェイトを得てるので殺す必要はありません。 それに状況が状況です。はっきりしてるのは彼単体ではエリューションを倒す事も要救助者を救う事も出来ない。僕達の目的は『要救助者を救い』『エリューションを撃破』すること。 簡単にいってしまえばアザーバイドである彼は僕達の友軍です。僕達は僕達の目的のために彼を利用すればいい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月31日(木)22:32 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 黒と銀に包まれた獣は、人の言葉を解す。しかし、それは獣として生きられないということとイコールではない。 高らかに響く咆哮は獣のそれ。完全な一体の獣として、鬨の声を高らかに響かせた。 戦場は既に神秘なる者だけの場所。既に彼に自らの矛を収める義務もなし。眼前の異形は大きく傷つきながら、しかしその覇気を失っていない。 リベリスタ達もまた、その殆どが更なる戦闘への意識をあらたにし、身構えた。戦局は未だ中盤。 既に動くことままならず、旅客機の外壁に身を預け微動だにしない『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)は顧みられる暇はない。戦えないものに割く時間すら、この戦場では口惜しい。 「こちとら喧嘩できなくて苛立ってたんだよ、楽しませてくれんだよなぁ?」 聞き慣れたリズム、森のなかではより強く響くそれを口笛で奏で、中途で切った『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)の目の輝きはいや増していた。目の前の戦いには貪欲に、しかし義務は忘れぬ若者の有り様は、「侠」としての芯が通っていると言って過言ではない。 その光景に、更に色を添えるのはイリア・ハイウインド(BNE004653)の掲げる槍の旗印。要救助者の精神に静かに働きかけたそれが、明確な形をとってリベリスタ、加えて黒銀の行動の幅を広げる。 『ァァァァァァァァ――!!』 地を揺らす咆哮が、振り下ろされる爪に乗せて放たれる。近場のリベリスタを巻き込みかねない一撃を向けて尚、黒銀も、リベリスタも、そして百種獣も戦意を些かも削がれない。 油断ならない戦場で、一切の余談も無く。戦端を開くまでに、時間をやや遡る。 狼の如き顎が割れんばかりに大きく開き、黒銀の毛並みを朱に染めようと襲いかかる。機動力は蛇。全体像は鳥。得体のしれないそれに怯えることは無いが、遅れをとる、という直観は確かに獣には存在した。 「加勢させて頂戴、あいつを倒したいのはあたし達も同じなのよ」 だが、その顎先を弾いたのは獣の爪ではなく人智の結晶、一個のリベリスタの経験の結実。『薄明』東雲 未明(BNE000340)の経験値が生み出した『鶏鳴』と呼ばれるバスタードソード、その鋒であった。 彼女の言葉は確かに届いている。それに同意するかは、獣の感情一つに任されるだろうが。 「ありがとな、おかげで間に合った!」 そのやりとりを更に庇う形で、防御姿勢を前面に押し出して構えたのは『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。他者に対して時に軽く、時に真摯に向き合う彼であっても、やはりこの獣にはロマンめいたものを感じざるを得なかった。自分と変わらぬ、『護ること』に心を割いた獣に感じた共感は嘘ではない。欺瞞ではない。湧き上がるそれを否定する謂れはどこにもない。 『ニンゲンだけど、違う。アレに近いのに、ニンゲンの側に居る。……敵じゃない?』 「あのっ! 一緒に戦わせてくれませんか?」 思考が単純な獣の頭上には、敵前であるにも関わらず疑問符が尽きない。それでも更に言葉を重ねた『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)は、ここを逃すのは良くないと悟ったからだろう。 一呼吸逃せば、百種獣は対象を多くとって戦闘を仕掛けてくる。それに先んじて体制を整えなければ、助けられるものも助けられなくなる。早急な判断は確実な結果を生むことを、彼は経験で理解している。リュネットのブリッジを押し上げ、改めて周囲に視線を投げかけた。 「俺について来い。あ、ガスが発生してるから、口元を布で覆ってな」 「えっ……その、貴方は、何かその……」 「いいから。付いて来いよ、まだ死にたくねぇだろ?」 「でも、さっきの……」 「あ? 怪獣? そんなもん幻覚だって、おう、頭を低くしろや」 二言三言、反論を口にしようとした一般人に対し、甚之助はぴしゃりと言い放った。唯でさえ不本意な救助活動に身をおいているのだ。早めに終わらせて戦いを楽しみたくもあるが、それ以前に些事で動かぬ一般人を庇うなどしたくもない。 緊急時は、タフでなければ生き残れない。別に死なれて困る質ではないが、役目を果たさなければ何も出来ないことも知っている。役目を忘れて痛い目を見たことは数しれぬだけに、堅実であることを否定しない。 彼が救助を続ける傍ら、イリアは消火活動を油断なく進めていく。手元の消火器、更には旅客機内に残された設備を用いて順当に作業を進めていく目には必死さがありありと伝わり、どれ程この状況に強く意識を振り分けているかが理解できるというものだろう。 何者かを打ち倒すだけが戦いではない。何者かを生き残らせ、或いは何事かを沈静化させることこそリベリスタとしての戦いの一環なのである。下手を打てば燃料引火に発展する部位を適切に消して回りながら、視線を戦場に向ける。時間は、無駄にできない。眼前で爆ぜる火を見据える空と翠の二色は、より強い決意の火を其の奥に収めていた。 超音速を叩き出す翼膜が衝撃波を叩き込むのと、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)の携えた銃……『Missionary&Doggy&Spoons』が銃弾を真っ直ぐ吐き出すのとはほぼ同時だった。 驚くべきことに、亜音速と超音速との衝突で先んじたのは後者だ。前者は、エルヴィンの携えた盾が受け流し、再少ダメージに留めている。加えて、神秘に拠るブーストがかかったそれが確実に穿けば問答無用でダメージに転化されるだろう。 ユウが、仮に翼の先を狙っていたならば、貫通に足る威力を与えられたかは五分五分だっただろう。だが、根本を狙ったのがこの期に及んで功を奏した。面積だけで言えばこちらが上。単純に狙うだけならそちらが容易。無意識ながら、良い結果を選びとっていたということになる。 それとは別に……彼女にとって、彼のアザーバイドは敬意以上に好奇心をそそられる相手でもあったことは確か。浪漫が見合うかどうかは別問題として、確かに外面だけみれば可愛げのあるアザーバイドと言えなくもない、か。 『こうしている場合ではない……アレは敵だ、ここにいてはいけない……!』 「でしたら尚更、無駄に暴れまわる事は避けるべきです」 吠え声に乗せ、自らの義務とばかりに戦いを挑む黒銀の動作。地面を穿って周囲を巻き込む一撃を避け、間合いに踏み込んだ『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、極めて冷静に黒銀を諌めた。 味方であるとアピールすることは出来ても、荒削りな戦いしかしらない彼に『共に戦う』やり方を教えなければ、実のところ彼だけで戦っているのと大差無い。何れ滅ぶのは変わりなく、無差別に徒に被害は増えていただろう。 「貴方が本当に人を護りたいと願うなら、従って下さい。そうするべきです」 『…………』 彼女の言葉は直接的で辛辣ですらある。だが、概ねにおいて正しい。加えて言えば其の声色。上に立つ者として、至極当然に相手を組み伏せる言葉の重みは、アザーバイド相手であっても変わりはない。 「攻撃には参加せず壁役に専念して下さい」 「……なに、攻撃はこっちに任せてくれりゃあ大丈夫さ! 怪我なら幾らでも癒してやれる!」 彩花の言葉を引き継いだエルヴィンは、既にその言葉通りに行動している。黒銀が認識するには十分すぎるほどに、其の肉体を癒やしきっている。 『私が止める。出来るのなら、あれを代わりに倒して欲しい』 「心得たわ」 やや逡巡による間を置いて、黒銀がその口を開く。其の言葉が早いか、前進した未明の一撃は百種獣を大きく弾き飛ばし、旅客機との距離を確実に広げた。甚之助の手による脱出完了まで些かの時間はあれど、現状をもってすれば何とかなるレベルだ。 光介も、機を見る視線に油断は一切ない。下手を打てばエリューションは味方の多くに被害を与える。そうでなくとも、戦力に穴を開ける程度の性能は持ち合わせている事実は、事前情報から認識済みだ。 彼の心に触れるためには、ここを切り抜ける必要があった。ここで敵を倒す必要があった。故に油断は無い。 蛇の如き尾が閃き、前に出た数名を絡め取ろうと蠢く。無様に動きを縛られる面子は(立っている者には)居なかったが、それでもそのひと撫でが大きかったのは認識できた。 「術式、迷える羊の博愛!」 息を吸って吐くように、神秘の術式を紡ぐ。前衛が一歩も引かずに前方へ縛り付ける戦いを強いられているのならば。 癒やしと状況判断を託された後衛は、彼らを一歩も退かせぬ布陣を護る戦いを強いられていることに変わりはない。 ● 槍は、突きのみの武器ではない。なぎ払い、打ち据えることにこそ真価がある。 例え旗印を据えていても、その機能は基本的に『棒』である大部分に於いて失われる事はない。 イリアの横殴りの打撃は、その類の攻撃だった。 百種獣の身が傾ぐ。ユウの精密射撃により、身体機能を徐々に削られつつあったそれにとっての身体バランスは大きく崩れつつあり、脅威はあっても戦闘開始直後ほどの融通は効かなくなっているのが現状だった。 当然、そのタイミングを捨て置く甚之助ではない。既に空いた穴を広げるように、ソードオフ・ショットガンの散弾をまとめて翼の根本に叩きこみ、次射体勢に移りにいく。 無事な方の翼膜を広げた百種獣の射線を、しかし黒銀が覆い被さるようにして塞ぐ。当然、それに係るダメージ量は尋常なものではないが、光介とエルヴィン、二人の神聖術師を擁すこのメンバーに於いて、一時的な戦闘の不利はあろうと、倒れるということはそうそう起こりうることではない。加えて、後衛を狙い打つべく構えた百種獣が、其の尽くを黒銀に止められていればなおのこと。 小さく息を吸い、重い一撃とともに深々と吐き出す。彩花の拳に充てがわれた武装が、その動作をサポートし、最大効率の一撃を叩き込ませる。 爆ぜた反動で、更に一撃。穴の開いた翼膜を維持するには、その電撃は強力に過ぎた。右翼が焦げ落ち、バランスを大きく崩させる。 その隙を見逃すまいと踏み込んだ未明の刃は、彼女の渾身の一撃を支え、存在感を増してその胴へ迫る。両断――までは成らずとも、深々と食い込んだ刃の重みは慮外のものだ。 肉体の可動限界を超えた一撃は、当然未明自身の身を傷つけるが、費用対効果において遥かに相手への成果が上回っている以上、躊躇する理由すら存在しない。一瞬の後に塞がるであろう傷に頓着するなど無意味だ。無意味だと断言出来るほどに、仲間は頼もしく誇らしい。 「カタギの相手でストレス溜まってんだ、もう少し遊ばせろや」 同様な言葉を繰り返す程度には、甚之助のフラストレーションは溜まっているようだ。カタギに触れることが面倒なのではなく、戦いの醍醐味を楽しむには余りに時間が足りないのが口惜しい、と言わんばかりな辺りが彼らしくもあろう。その銃口から吐き出される弾丸の雨が、良い証拠だ。 「興味があります。黒銀さんのお心に」 『おかしいことを言うものだ、ニンゲンは』 癒やしの手を止めず、ぽつりとひとりごとのように口にした光介は、黒銀の反応があるとは露とも思わず、また、それによる衝撃に打たれてすら居た。 『ココロというやつは分からん。分からなくてもいいと思う。だが……』 弱り始めた百種獣は、膂力においても徐々に黒銀に力負けするレベルへと落ちていた。 『こうして戦うことはやぶさかではない。倒せるなら、文句は言わない』 無骨な返答だった。決心とか努力とか交渉とか、そんなものが馬鹿馬鹿しく思えるほどに、無関心に聞こえもする。 だが、裏を返せばそれは、共に戦うことを十分すぎるほど認めているということにもなる。 黒銀に押し倒される格好となった百種獣に、最早戦闘をまともに継続できる覇気も性能もありはしない。それは、すでにリベリスタ達とて看破している事象である。 故に、か。リベリスタ達は僅かに身を引いた。確定的な状況で自らの決着を執拗に望むほど、彼らは稚気じみた意地は無い。 下手に巻き込まれるくらいなら、決着程度譲るのも悪手ではないだろう。 咆哮。 地面に向けて叩きこまれたそれが、百種獣を貫いて地面を波打つ。形をほぼ残さず粉砕されたそれが、立ち上がる訳もなく。 航空機の残骸を背景に、うっすらと空が暗がりに向かいつつあった。 ● 「黒銀さんは、人間がお好きなんですか?」 『好きだ、と思う。空を飛べること、飛ばせることを世界に許容させるのは、凄いことだ』 丁寧に謝辞を述べ、頭を下げたイリアにたじろぎつつも、黒銀の返答は素直だった。協力者として認めたことも、その大きな要因になっているのだろう。 『空には憧れる。でも、飛べるわけでも飛びたいのとも、違うだろうな』 「よー熊さん、どっから来たの。もしかして、この辺に知り合い居んの?」 自嘲気味にごちた黒銀に向けられた甚之助の問いは、彼を暫し黙考させることとなった。ややあって彼が応じた答えは、 「『此方側の』知り合いは居る。元の仲間はとうに世界に嫌われてしまった」 という、彼の感情がいまひとつ見えないものだった。 「クマさん、空を飛びたいんですよね?」 『飛びたいかどうかは別問題……だと……?』 その質問は唐突だった。 ユウの冗談めかした言葉からはとても考えられないほどにあっさりと。黒銀は、地上から浮き上がっていた。 といっても、たかだか数センチメートルだが。それですら、ユウが顔を真っ赤にしてやっとのレベルだったが。 確かに彼は、その一時だけ重力の軛から逃れる体験を成し遂げたのだ。 「やっぱり私一人じゃ無理ですね、またこんど、仲間をもっと連れて遊びに来ますよー」 『…………!』 飄々とした調子で疲労を感じさせず口にした彼女の言葉が、黒銀にとってどれだけ大きかったかは言うまでもないだろう。 「貴方はこれからどうするの?」 僅かな傷口を手当てしつつ、未明が問う。いつまでもここには居られない。事件が起きた。鎮魂を求める物もいるだろう。 何処かへ、或いはアークへ。彼の身の振り方を問う必要がある。 『ニンゲンに頼るつもりはない。ここがだめなら次に行く。こちらで生きてきて、何時もそうしてきたことだ』 「そう。止めないけど、寒くなるから体を大事にね」 黒銀の判断は素早かった。どこかに与することはしたくはない。獣と同様、流れるままに生きていく。それが解答。アザーバイドを捕獲するために来たのではないリベリスタ達にとっては、実に理にかなった交渉結果であるとも言えた。 背を向け、のそりと動き出す黒銀へと視線を向けていたのは、光介だ。躊躇いを多く以て戦いに挑む事が多い彼は、無骨で乱暴で、それでも自分が正しいと貫き通した獣の有り様が眩しかった。 彼の一挙一動を見続けることで、何か得られるのではないか、などとも思った。それが正解だったかどうかは、きっと彼しか知らないことだが。 外を歩くに寒すぎて、雪が降るには暖かすぎる。 そんな夕暮れに、月が昇ろうとしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|