● 閉館時間を過ぎた博物館の中。 暗闇の中で蠢くのは、一つの彫刻だった。その彫刻は騎士が馬に乗ったものだ。古い鎧をまとい、妙に大きい剣で天を指していた。それはまるで英雄をかたどったような、とても立派で美しい彫刻だった。 だからなのだろうか。 その彫刻が動いている姿がとても美しく見えるのは。 彫刻であるにもかかわらず、それはとても猛々しく、凛々しく地面を歩いていた。彫刻の騎士が馬を鞭で叩くと、馬が一つ鳴いた。その鳴き声に合わせて、周りに展示してあった鎧たちもひとりでに動き出す。 まるでそれは、軍勢のように。 博物館を進行していく。 その物音に気付いた見回りの人間が、懐中電灯でその軍勢の一角を照らして、驚嘆の声を上げた。 「な、なんだこれは……!」 その声に反応し、彫刻の騎士が警備員のほうを向く。なぜかその警備員は、彫刻から圧倒的な視線――いや、プレッシャーというべきだろうか――を感じ、動けなくなっていた。彫刻の騎士は馬を走らせ、そして、 「うっ、うわああああああああ!」 断末魔の叫び。 彫刻の騎士は警備員の身体を真っ二つにした。 さぁ。古代の軍勢の反逆の始まりだ。 ● 「今回は……ほんの少し不思議なミッションです」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が言った。 「今回のミッションの目標はE・ゴーレムなんですが、そのゴーレムというのが博物館の彫刻なんですよ。その彫刻、とってもきれいなんですが……残念ですね。E・ゴーレムになってしまっては破壊するしかありません」 彼女はそう言いながらリベリスタに資料を配る。 「資料をご覧ください……今回の目標は彫刻のほかに、鎧騎士ですね。これもE・ゴーレムです。ちなみに、この彫刻と鎧は昔、古代の戦争で使われたものをモチーフに作られています」 和泉が眼鏡をかけなおしながら言う。 「そしてこのE・ゴーレムたちは今や博物館の外に出てしまっています。このままでは付近の町に被害が及ぶ可能性が出ています。あなたがたはこれを速やかに排除してください」 リベリスタたちは言うまでもなく、彼女のその言葉に頷いた。 「現在のE・ゴーレムたちは町の郊外の道路を進んでいます。これを撃破してください。E・ゴーレムのフェーズは、彫刻の騎士がフェーズ2、鎧騎士がフェーズ1となっています。注意してください」 和泉は資料を置き、 「どうか、お願いします。町の人々の生死はあなたたちにかかっています……ミッションの成功を祈ります」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:河道 秒 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月31日(木)22:31 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「さて、と。そろそろ始めましょうか」 そう言いながら、『History of a New HAREM』雪白 桐(BNE000185)は愛剣――まんぼう君を抜いた。彼はリミットオフを発動し、自身の肉体の制限を外した。 やる気満々、といったところだ。 「そォだなァ! オレも早く戦いたいぜ……彫刻の騎士とやりあいてェ!」 戦いたくてウズウズしているのは『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)だ。その仕草は、良くも悪くも彼らしい行動だった。 「落ち着きなよ、コヨーテ。今からハイになるのはちょっと早いね」 そう言ったのは、『戦ぎ莨』雑賀 真澄(BNE003818)だ。コヨーテの頭をぽん、と叩いて、彼のことを少し落ち着かせようとする。 「お、おう……わかったぜ」 「いい子だね」 真澄は少し笑った。 「すみません、遅れました」 そう言いながら来たのは『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)だ。狐耳をぴこぴこと動かしながら、リベリスタたちのもとに近づいていく。 「神谷、今日もよろしく頼みます」 「は、はいっ、雪白さん!」 「それじゃあ、皆さん、挨拶はほどほどにしてそろそろ行くとしましょうか」 そう言ったのは『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)だ。彼女のあほ毛は今日も立っている。 「そうだね。もう僕は準備整ってるよ」 『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)が平坦な口調で言った。 「そうですね。それじゃあ、私は結界を張りますね。万が一の可能性があるんでね」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)はそう言って、周囲に結界を張った。これでこの道に一般人が近づく心配はなくなったと言っていい。 「これで遠慮なく戦えるね。よっし、やるぞー!」 そう言ったのは、『チャージ』篠塚 華乃(BNE004643)だ。彼女もまた、リミットオフを使って己の肉体の制限を外した。準備万端、といったところだろう。 「それでは、行きましょう。戦いをしに」 シィンがそう言うと、リベリスタたちは頷き返し、敵がいる場所へと向かっていった。 ● リベリスタたちの目の前には彫刻の騎士を先頭に、鎧の騎士たちの軍勢があった。鉄の音だけを響かせながら歩くその姿はかなり不気味だった。そんな中、疾風は道路を見渡し、 「被害者を生み出すわけにはいかないからな……ここで食い止めてみせるッ!」 「もちろんです。そのために自分たちはここにいるんですから」 シィンがそう言いながら、エネミースキャンを発動した。少しして、 「……できました。彫刻の騎士が先頭で後ろにきっちりと鎧の騎士たちがついています」 「それじゃ、作戦通りに。私と真澄さん、シィンさんと華乃さんで鎧の騎士を。残りのメンバーで彫刻の騎士の足止めです。こちらが片付きし次第、援護に向かいます」 「わかりました、雪白さん。私はみなさんの回復に徹します」 小夜がそう言い、 「へへッ……彫刻の騎士か……楽しい夜になりそうだぜ」 コヨーテがとても楽しそうな表情で言った。 「それじゃあ、行こうか」 伊藤さんの声とともに、リベリスタたちは古代の軍勢へと向かっていった。 ● シィンがジャンプし、上空でエル・バーストブレイクを放つ。雨のように火炎弾が降り注ぐ。鎧の騎士たちはそれを避けて、彫刻の騎士の後ろを一旦離れた。 「陣形が崩れました! 今です!」 「任せろォォォ!」 鎧の騎士と彫刻の騎士たちの間に割って入ったのは、コヨーテだ。 「僕もいるよ」 「私を忘れてもらっては困るな」 伊藤さん、疾風とともに彫刻の騎士の足止めを行う。 「お前ェ、デカくて強そうだな。遊びに来てやったぜ……だからお前も俺に答えろ! よし、やるぜェ!」 コヨーテの掛け声とともに、三人は彫刻の騎士へと向かう――。 三人が足止めをしている時。 「コヨーテはいつもどおりだ……まあしばらくは大丈夫だろうよ」 「そうですか……それでは、こちらも!」 桐たちが鎧の騎士たちのもとへと駆ける。まず真澄がハニーコムガトリングで、連続射撃を仕掛け、敵を動かした。敵が散開したところに、桐と華乃が突っ込んでいった。そんな中、華乃が、 「一箇所に固めて!」 「了解です」 桐が答えると、肉体が膨張した。その膨張した肉体で、剣をバットのように使って吹き飛ばした。そして、シィンに向かっていく鎧の騎士が桐の視界に見えた。 それを認識した瞬間、桐の身体が動く。信じられない程の速さで移動し、シィンの前に出て、全身のエネルギーを集中させたまんぼう君で鎧の騎士を斬り飛ばした。 「ありがとうございます、桐さん」 桐は軽く頷き、再び前線へと戻った。 「こっちもいいとこ見せないとね!」 真澄が弾丸をより多く撒いていく。彼女の足元には空になった薬莢が無数に転がっていた。それだけの弾丸を撒いているのだ。しかし、その弾丸は敵を倒すためのものではない。敵を一箇所にまとめるように彼女が調整しながら撒いているのだ。 残り二体がまだ一箇所に固まっていなかった。そんな時―― 「そっちにぶっ飛ばすよー!」 自分のエネルギーを集中させた魔力槍で簡単に鎧の騎士を吹き飛ばしていく。一瞬で、二体とも目標のポイントに固められた。 「まとめてやります」 桐がそう言うと、自分の剣を高速で回転させて、激しい烈風を発生させた。その烈風を鎧の騎士たちにに叩き込んだ。そして、シィンが、 「まだ倒れませんか……!」 彼女が手を前に出す。自分の魔力を集中させ――解き放つ。すると、離れた空間に凝縮させた魔力を秘めた光弾が現れ、鎧の騎士たちに向かって炸裂した。 一瞬の光。 再び、彼女たちが目を開けた時には鎧の騎士たちは綺麗に消え失せていた。そして、シィンは独り言のように、 「芸術品を壊すのは少し心苦しかったですが……仕方ありませんね」 ● 「クソォッ! 思った以上に強いじゃねェか、こいつ……」 コヨーテが言った。 「皆さん、もう一度、翼の加護を与えます。頑張ってください……!」 小夜が疾風、コヨーテ、伊藤さんに翼を与え、一時的な飛行能力を与えた。そして、小夜のほうはマナコントロールで周囲に存在する魔的な力を取り込んで、自らの力を回復した。 そして、まず疾風が飛び、羅刹の如き闘気をまとった。そして、彫刻の騎士の斬撃を避けながら、強引に間合いを詰めていき―― 「うおおおおおおおおッ!」 馬を攻撃しようとするが、その前に彫刻の騎士が動いた。馬を動かし、その巨体を突撃させた。攻撃動作に入っていた疾風はよけられず、その巨体に撥ねられた。 「祭雅さん、大丈夫ですか!? 今、回復しますね……」 小夜が疾風を神の愛で回復させているうちに、コヨーテと伊藤さんは彫刻の騎士に向かって飛びかかる。 伊藤さんが頭上に魔力によって作り出された炎を帯びた矢を出現させた。その数は四本。それだけでも、敵を焼き払うには十分な数だ。そして、それを彫刻の騎士に向かって落とした。その矢が一本だけ当たり、業火が騎士を襲う。 そして、飛んだコヨーテが、自らの拳に炎を纏う。その燃え盛った炎で、騎士に向かって拳を繰り出した。一撃当てたところで、コヨーテは翼を使って騎士から離れた。 「ようやくってとこだね……これじゃキリがない」 「あァ……これからどォすんだ?」 「そりゃ、正面から倒しちゃうでしょ!」 不意に後ろから声が聞こえた。その声は、華乃のものだった。 「悪いね、コヨーテ。少し遅くなっちまったかい?」 「真澄……」 「みんな揃ったところで、反撃と行こうよ!」 華乃の声とともに、リベリスタたちは立ち上がった。さぁ。これから、反撃の始まりだ。 ● 「あんたたち、まずは馬だ! 彫刻の騎士から機動力を奪うんだよ、いいね!」 「私は皆さんに翼の加護を……怪我をしたら私のもとにすぐに来てください! 治しますから!」 小夜が祈り、全員に一時的な飛行能力を与えた。 しかし、華乃にその必要はなかった。ふぅ、と息を吐き出し、集中し、全身に闘気を集中させた。そしてその闘気を裂帛の気合とともに爆発させ、一気に飛び上がり、 「全力でブチ抜く! いっけぇえええええええええ!」 槍を馬の頭に向かって突き出した。爆裂する一撃。圧倒的な破壊力が馬を襲う。その破壊力に彫刻の騎士が怯む。その隙を見逃さなかった伊藤さんは飛び上がって、一気に間合いを詰め、雪崩の如き威力を持って彫刻の騎士を地面へと叩きつけた。 そこに、 「今度は外さないッ!」 疾風が一気に間合いを詰め、羅刹の如き闘気を纏い、馬へと襲い掛かった。絶えることのない、嵐のような連続攻撃。そして、馬にひとつの亀裂が入ったが、なおも疾風は攻撃をする。 そして―― 「はぁっ!」 気合の雄叫びとともに、馬の頭が砕けた。小夜がガッツポーズをしながら、 「やりました! 祭雅さん、さすがです……みなさん、残りは騎士本体だけです。全力でやっちゃってください!」 「はい!」 シィンが答える。彼女は飛び上がって、騎士に向かって、火炎弾を放った。雨のように降り注ぐ火炎弾を騎士は避け続けるが、一つの火炎弾が騎士の肩を抉った。 だが、まだ、終わらない。 今度は真澄が銃弾の雨を騎士に降らせる。容赦のない銃弾。 それに耐えかねた騎士は自らの大剣を真澄に向かって投げた。剣の大きさからいって、真澄は避けることができない。だが、そんなことは織り込み済みだと言わんばかりの、真澄の笑み。 弾丸のような速さで、桐が剣の上に来て、メガクラッシュで大剣を叩き落とした。 「あんた、ずいぶん力持ちだねぇ」 「……それほどでも」 桐がいつものような、無表情で答える。真澄は今の衝撃でタバコを落としたことに気づいて、新しく一本取り出した。 「さて……相手も疲弊してきてるし。ラッシュをかけようか」 伊藤さんがそう言い、鎧に向かって駆ける。コヨーテも一緒だ。 「アイツも素手だァ! ならこっちも素手でやらねェと!」 コヨーテは叫びながら、自らの拳に炎を纏わせる。両手に炎を纏わせ、彫刻の騎士の顔のあたりに飛んでいく。そこからは、攻撃と攻撃の応酬だった。コヨーテが殴り、それを彫刻の騎士が殴り返す。そしてまた空いた方の手でコヨーテが殴る。 そんな攻撃のやり取りが高速で行われていた。普通の人間ならば、それは残像にしか見えない。 そんな中、伊藤さんが、 「コヨーテさん、楽しんでいるところごめんね! 足場を奪う!」 伊藤さんが彫刻の騎士の足の部分に掌打を当て、その内部に破壊的な気を叩き込んだのだ。一発で砕け散りはしなかったが、ヒビを入れることはできた。これを何回も繰り返せば――と伊藤さんが思ったとき、 「やべっ……」 コヨーテの声。そしてその一瞬の後、彼の腹を正確に彫刻の騎士が捉えたのだった。コヨーテが地面に叩き付けられる。 彫刻の騎士は飛び上がって、先ほど投げた自分の剣を取りに行った。 「バッドフェローさん、今治しますね……そう簡単に戦闘不能にさせるわけにはいきませんからね……!」 小夜がコヨーテのもとへ低空飛行で素早く移動し、回復を始めた。 「戦場が欲しいのでしたらここでやりあいましょう……あるがまま戦う姿を私達に見せてください。私も全力で答えますから」 彼女はそう言い放ち、自らの得物を構えた。彫刻の騎士もそれに応じるように、剣を構える。 桐の身体が膨らむ。一気に敵が駆け、斬撃が飛んでくる。桐はそれを余裕の表情で受け止め、弾き返した。巨大な剣に華奢な体で挑んでいる桐のその姿は、一種冗談のようなものにも思えた。 そんな中、騎士の動きが変わる。それに気づいた桐は剣を突き刺す。 「ゴアアアアアアアア!」 騎士は自分の中の闘志を爆発させ、エネルギーへと変えたのだ。それを放出し、破壊的なエネルギーを作り出している。桐はそれを察知し、剣にしがみつくことによって、吹き飛ばされないようにしているのだ。 そこに、華乃が飛んできて、 「大丈夫? 抑えるよ」 桐の背中を抑えて、吹き飛ばされないようにした。エネルギーの放出が止まると、華乃と雪白は一旦騎士のもとから離れた。 「あとは僕たちに任せて。いっくぞー!」 華乃は移動した。 「弾が尽きちまったようだね。あとはこの拳で分からせてあげようじゃないか」 「さっきは仕留められなかったけど……今度こそ仕留めさせてもらうよ。こう見えても、僕は負けず嫌いなんだ」 伊藤さんがそう言い、敵へと駆けていく――。 ● 足元に取り付いたのは、真澄と伊藤さんだ。右足の方に真澄、左足に伊藤さんがいる。 「一気にぶち込むよ!」 彼らはどん、と足をめり込ませ、息を吐いて集中している。足が動き出さないのは足止めをしているリベリスタたちのおかげだ。己の中の心を研ぎ澄ませ、 「これでぶち抜く!」 「壊れな!」 二人の声とともに、騎士の足に掌打が叩き込まれた。そして、破壊的な気は内部からその構造を壊しにかかる。しかしそこにはまたもやヒビが入っただけだ。 「もう一回いくよ!」 伊藤さんが叫ぶ。二人とももう一撃掌打を叩き込む。すると今度こそ足が両方とも砕け散り、彫刻の騎士が後ろに倒れた。 「私の役目はこんなもんかね……おっと、タバコが切れちまった。帰ったら買いに行かないと……」 「タバコは身体に良くないよ」 「うるさいね。とりあえずこれでも控えてる方なんだよ」 倒れた騎士は未だに、抵抗する気力があった。これぞ闘争本能というやつだろうか。シィンが呆れた表情で、騎士を指さし、 「全く……戦争がしたい感情は別に個人感情ですから構いませんけど……そういうのはどこかほかの場所でやって欲しいものですね。現実世界では迷惑千万ですし」 「美しい彫刻だったろうに……だが、ここで終わらせる」 疾風がそう言い、胴体部分を連続攻撃で破壊していく。巨体ゆえに、部位ごとに破壊していかなければならないのだ。 「そんじゃ、最後は僕の全力、受け止めてね!」 華乃が笑いながら、そう言うと、オーラを纏い、そのまま勢いと全体重を乗せた一撃を騎士に食らわせた。破滅的な破壊力は騎士の頭を簡単に砕いた。 騎士は跡形もなく砕け散ったのだ。 「なんとか、一般人に被害が出る前に倒せましたね……皆さんお疲れ様でした。怪我をした方、ほかにいらっしゃいませんか? いれば今治しちゃいますよ?」 「僕は大丈夫だよ。はー今日は疲れた……帰って早く休みたいよ」 華乃が答えると、リベリスタたちはすこし表情を緩めた。 ちょうどその時、夜が明けた。きっと、彫刻の騎士はこんな綺麗な夜明けにぴったりだただろうに、とリベリスタたちは思いながら、その場から消えたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|