●『山神さま』 「今回は少し遠方でのミッションになるわ」 ブリーフィングルームに集められたリベリスタたちを前に、真白イヴは今回のエリューション「山神さま」について説明を始める。 「エリューションが出現したのは山間部のある集落。道路も街も山一つ隔てた向こう側で、集落へ行くには山道を車で三十分てところかしら。人口約二百人、生活インフラも最小限しか整ってない、とても閉鎖的な場所よ」 「あの、すみません」 一人のリベリスタがおずおずと手を挙げる。 「それで、出現したエリューションというのはどのようなモノなんでしょうか……?」 「そうだぜ。集落がどーのこーのなんて、俺たちの仕事と関係ないだろ?」 隣に座るリベリスタも同調する。 「・・・・・・いいえ、この集落と今回のエリューションとは、決して無関係じゃないの」 イヴは神妙な面もちで説明を続ける。 「この集落には昔から、山に棲み山と集落を守る神様、通称『山神さま』と呼ばれる信仰がある」 モニターに光が宿る。映し出された映像には、御神体らしき石像をまつる神殿のような施設と、そこに集まり頭を垂れる集落の住人たちだった。 「今回出現したエリューションは、この御神体が変質したものなの」 映像が切り替わる。今度は、先ほどの御神体らしきモノが山中を歩き回る姿だった。らしき、という表現の理由はフォーチュナのヴィジョンを投影した映像がぼやけ気味だからというだけではない。 山の茂みの中を闊歩していたのは、およそ人型の、高さとしては三メートルほどはある岩の固まりだった。その胴体に、注連縄や印象的な文様など「御神体」としての特徴を辛うじて残している。手足は子供が粘土で作った人形のそれのようで、体全体がボコボコと沸騰しているかのような歪なシルエットだった。 「見た目はこの通り、人型のゴーレムタイプ。高い耐久力と腕力が厄介だけど、油断さえしなければ倒すのにそう苦労する相手じゃないと思う」 「なら、サクっと行ってサクっと倒しちまえばいいな」 血気盛んな青年リベリスタが快活に言う。しかし、イヴはまだ微妙な顔をしている。 「それが、少し厄介でね。住人たちは、このエリューションを「山神さま」だと思ってるの」 一般人の目から見れば、エリューションはいわば超常現象だ。毎日拝んでいる「御神体」が外を歩き回るその姿から、住人たちがそれを「山神さま」だと勘違いするのも無理はない。そして、信心深い住人たちに「神様を倒しに来た」ことが知れれば住人からの妨害を受けかねない。 「住人を説得するっていう手段もあるけど、難易度がかなり上がるからお勧めはできないわ。やっぱり登山客か何かになりすまして少人数で秘密裏に処理するのがベターだと思う」 現段階ではエリューションと住人の両者とも互いに不干渉だが、フェーズ進行と共にエリューションの活動範囲が広がる可能性は十分ある。あるいは、信心ゆえに住人から接触しようとする事態も想定できる。 「それと、懸念事項がもう一つ。数日後、近隣に住む女児が行方不明になるわ。「お山に行ってくる」と言って家を出たきり、戻らないそうよ」 ルーム内に緊張が走る。 フォーチュナの視たのヴィジョンは歩き回る岩塊だけではなかった。そこに写っていたのはを逃げまどう小さな女の子、そして木々を折り倒しながら狂ったように少女を追いかける「山神さま」の姿だった。 「このまま放っておけば取り返しのつかないことになる。事態は急を要するわ。この仕事、お願いできるかしら」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:遊人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月05日(火)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●登山 日の出前の山間地帯は凛とした静寂の空気で包まれていた。早朝の冷え込みが心地いい。山々を覆う木々の葉が色づく季節。峰には白い朝靄がかかり、山肌の色彩に薄いヴェールを掛けている。 素朴でありふれた、しかし美しく雄大な景観。心が洗われる様な大自然の景色を前にした面々の心には、少なからず自然への敬意が生じていた。 自然信仰。 広大な海原に、齢幾百の大樹に、そして高く連なる遥かな峰に神々を見出す人々。 リベリスタの一行もまた、彼らと同じ高揚感と緊張感を感じていた。 「んー、やっぱ山の空気はいいねえ」 「これが仕事じゃなく、行楽の山登りだったら最高だったんだがな」 すー、はー、と深呼吸を繰り返す改造巫女服姿の『外道龍』遠野御龍(BNE000865)を横目に見ながら、『侠気の盾』祭義弘(BNE000763)が苦笑する。 「ほな、ぱぱっと行こか」 「そろそろ山も色づく頃合い。山登りも悪くないわ」 「昼頃には対象に接触したいわねー」 エセっぽい関西弁で一同を鼓舞する『ビートキャスター』桜咲珠緒(BNE002928)と、それに賛同する蔵守さざみ(BNE004240)、『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)。 「では行こうか。登山ルートはこっちだ」 下調べで得た情報を端末で確認しながら『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が先頭を歩きはじめる。 リベリスタ達は、『山神さま』が待ち構えているであろう山へ足を踏み入れた。 一行は周囲を警戒しながら登山道を進む。『山神さま』が人間と同じ登山道を利用しているとは思えないが、わざわざ整備されたルートを外れて険しい山林を歩くのも不自然に思われるだろう、という判断だ。 一般の登山客に扮して登山道を進み、まずは真白イヴのヴィジョンに現れた『神殿』を目指す。これが一先ずの行動指針だ。 「ネットで調べたところ、この登山道の先に『神殿』はあるらしい。このペースなら昼前には到着するだろう」 「下調べありがとな、ユーヌの嬢ちゃん。よし、ここらでちょっと休憩を挟んでおこう。女子も多いし、体力温存だ」 傾斜は緩やかだが先は長い。人並み以上の体力を備えるリベリスタ達だが、この後戦闘が控えていること、下山することを考えるならば余力を残しておく必要がある。エリューションは速やかに排除しなくてはならないが、焦りは禁物だ。 束の間の休息。リベリスタ達はそれぞれ近くの石に腰かけたりストレッチをするなどして休憩を始める。 「今の所、目視できる範囲に『山神さま』はいないわ。集落の住人や、例の女の子も」 言いながら樹上から降りてきたのは、高所からの捜索を買って出た『痛みを分かち合う者』街多米生佐目(BNE004013)だ。集音装置で周囲の警戒に当たっていたユーヌと珠緒も同意する。 「俺は探索とか探知は専門外だ。そのあたりは頼りにしてるぜ」 仲間たちに温和な笑みを向ける『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は持参したコーヒーを啜っている。 「しかし、地霊信仰ねえ。あれだけ姿形が変わってなお拝み続けるのは、果たして信仰心と呼べるのかしら」 私には関係ないけどね、と興味なさげに付け加えるさざみ。 「まあ確かに、妄信的ではあるかもねえ。集落も聞いてた通りずいぶん閉鎖的な雰囲気だし、こういう場所って都会とは違った意味で怖いよねえ」 普段なら外部の者は登山客でさえ集落には近づかないのだろうが、今回はそういうわけにはいかない。エリューションの脅威はそういったものとは文字通り「次元が違う」のだ。 「何にせよ、明るいうちに事を済ませよう。神様か、相手にとって不足無し、だ」 御龍は不敵に笑いながら新たなタバコに火をつける。休憩を終えた他の面々も立ち上がり、神殿への行軍を再開した。 ●『かみさま』との対峙 「……!!」 幸いにも、神殿までの道中で住人と接触することは無かった。 神殿に到達した一行は、そこを中心に『山神さま』を捜索、発見次第包囲して戦闘行動に移る、という手筈だった。 その『山神さま』が、異形の岩塊と化したエリューションゴーレムが、突如リベリスタ達の眼前に現れた。 「セレアの姉さん、陣地を!」 義弘の声を合図に、それぞれ戦闘態勢となる。 異変を感じたのは、一同が『神殿』の敷地に足を踏み入れた時。神殿というより神社の造りをしたその領域に入った瞬間、即ち鳥居を潜ったその時、異形は姿を現した。 侵入者の迎撃。それが『山神さま』の性質、あるいは『御神体』の機能なのだろうか。 御龍、ユーヌ、カルラ、生佐目、さざみの五人が直ちにエリューションを包囲する。後方に控えるのは陣地を作成するセレア、ギターを構え回復の用意をする珠緒、そして珠緒を護衛する義弘の三人。 「見れば見るほど、子供の作った泥人形みたいだな」 スピードで一歩前に出るユーヌ。Eゴーレムの周囲に呪印が展開され、それがそのまま厳重な拘束となる。 動きの鈍ったところに、カルラのソニックエッジが叩き込まれる。ゴーレムは一瞬よろめいたが、すぐに体勢を立て直す。 続いて生佐目とさざみも攻撃に参加する。黒い霧がゴーレムを覆い、やがて押し潰すように箱を形作る。瘴気に閉じ込められた『山神さま』に、四色の魔力が込められたさざみの拳が叩き込まれる。 「どうだ……?」 先手、先制攻撃としてはまずまずの段取りだった。これで、どの程度ダメージが通ったか。 不意に黒い霧が掻き消される。呪印の拘束を振り解いたゴーレムが、力任せに巨腕を振り下ろす。落石の如き拳の先には、攻撃を終えたさざみが立っていた。 「っ!」 素早く体を反転させ、ゴーレムの攻撃を回避する。勢いのまま地面に突き立てられた石柱は地面を派手に陥没させる。その威力たるや、工事現場の重機を連想させる程だった。 「しかし効いてない、ってわけじゃなさそうだな」 攻撃の当たったゴーレムの体表がボロボロと崩れている。リベリスタ達の技は確実にダメージとなっているようだ。呪印による足止めも一時とはいえ有効だった。まだまだファーストコンタクト、エリューションがこの程度で倒れる相手ではないことはこの場の全員が認識していることだった。 「呪印も無効というわけではなさそうだ。ならもう一度、こいつをくれてやる」 パーティ内最速のスピードを誇るユーヌの術が再びゴーレムを捉える。一度は引き剥がされた呪印だが、やはり有効打ではあるようだ。 ゴーレムの動きが止まった隙に、カルラのソニックエッジ。重量級の巨体を支えている足元へ、容赦の無い剣撃が叩き込まれる。続けざまに生佐目の奈落剣とさざめの魔曲・四重奏を乗せた拳が繰り出される。 「ハーフムーンの業をもってすれば――得物を振るう地を選ぶ必要無し!」 「神だろうがなんだろうが関係無い。砕け散りなさい!」 怯むゴーレム。そこにゆらり、と歩み寄ったのは、紫煙を流しながら大剣を担いだ御龍。 「いいねえこの身が焦がれるような焦燥感! アドレナリンどっぱどぱだ!」 ビルドアップも終わりエンジン全開となった『外道龍』の渾身の一撃がゴーレムの身体を大きく削る。 唸り声を上げながら両腕を振り回し抵抗するゴーレムが、地面に手を下ろした。弱っているようにも見えたが、リベリスタ達はそれが反撃のための予備動作だと直感した。 持ち上げられたゴーレムの腕の先には、地面を抉り取って作られた巨大な砲丸が握られていた。ゴーレムはそのまま腕を振りかぶってブン、と振り下ろす。直径2メートルはあろう土と岩の塊が、後方で控えていた珠緒の方向へ一直線に飛んでいく。華奢な少女の身体に直撃したらひとたまりもない。 「危ない!」 前列の五人は息を呑む。 しかし、岩石が珠緒に届くことは無かった。 「……ふう。怪我は無いかい、珠緒の嬢ちゃん」 射線を遮って珠緒を庇ったのは義弘だった。砲丸の威力は凄まじく、義弘は相応のダメージを受けた。しかし、この程度で倒れる『侠気の盾』ではない 「おおきに! すぐ回復するさかいな!」 近接戦闘中の仲間と陣地作成を終えたセレアがゴーレムを攻撃する。珠緒は手にしたピックで六弦を弾き、治癒術を発動する。傷ついた義弘の手や足が瞬く間に回復していく。 「ありがとうな、珠緒の嬢ちゃん!」 治療を終えた義弘が攻撃に加わろうとした時だった。 咆哮と共に、ゴーレムが両腕を高く上げる。先程の砲丸投げ同様、危険を察知してリベリスタ達が身構える。 ドォン、と地面に振り下ろされた両腕。土埃が舞い上がり、地響きが鳴る。少し遅れて、地面が小刻みに揺れ始める。 「おい、これってまさか……地震?」 「そんな……山を操ってるとでも言うの!?」 余裕たっぷりな振る舞いを見せていたセレアもさすがに動揺する。一時的、ごく限定的とはいえ、自然現象を操っているのだ。 揺れは激しさを増し、ついには立っていることすら困難なほどになる。 リベリスタ達のうち何人かは既に地面に膝をついている。身動きの取れない今のうちに攻撃されれば、防御すら難しい。 揺れの収まらないうちに、ゴーレムは動き出した。このままでは危ない。 走り出すゴーレムの前に立ちふさがる人影。辛うじて転倒を免れたカルラが、先程と同じくゴーレムの足元を狙って剣を振り下ろす。 「これでもう動き回るのも、誰かを追いかけまわすのも出来なくなる。それだけでも、岩を殴り続ける意味があるってもんだぜ!」 ゴーレムの膝が砕ける。その場に倒れたゴーレムは、起き上がることが出来ない。 今しかない。リベリスタ達は渾身の一撃を、ゴーレムに叩き込む。 轟音、そして断末魔と共にゴーレムは崩れ落ちた。 ●一件落着 リベリスタ達は、身を隠すようにしながら山中を歩いていた。『神殿』の異変を察知した住人に見つかるのを避けるためだ。 セレアの陣地の効果で、戦闘後すぐに『神殿』に近づく住人はいなかった。おかげで、「後片付け」の時間は十分にあった。 ゴーレムの残骸は、さざみが一片も残らぬよう丁寧に砕いた。「せめて欠片だけでも神殿に残そう」という意見もあったが、戦闘による損傷が激しかったためそれは難しかった。人工的な破壊痕があれば、住人は要らぬ疑念を抱くことになる。 「で、どうだい? 見つかったかい?」 「うん。この足音、歩幅のリズム……間違いないやろ。こっちや」 そろそろ日が傾き始める時刻。リベリスタ達は薄暗くなりつつある山道を急いだ。 「どこ行ってたの? 心配したじゃない」 「ごめんなさい、ママ……おばあちゃんにお花をとってこようとおもって……」 「お山に行ったの? ダメでしょ、危ないんだから」 「でもね、やさしいおねえさんがお家までおくってくれて……あれ?」 「お姉さん? ……まあいいわ。晩ご飯にしましょう」 そんな親子のやり取りを、御龍や生佐目、リベリスタの面々は少し離れた場所で見守っていた。母親に手を引かれてドアの向こうへ消えたのは、ブリーフィングルームで見た映像に映っていた少女だった。 エリューションの脅威が無くなったとはいえ、陽が沈み暗くなった山の中で子供が遭難しては一大事だ。夜はぐっと気温が低くなる。そうなっては命が危ない。 少女を見つけだして無事家まで送り届けた一向は山をあとにする。 人々を脅かすエリューション。 帰るべき家。親子。 それぞれがぼんやりとそんなことを考えながら、リベリスタ達もまた三高平市を目指して帰路についた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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