● その日はよく晴れて居た。 美しい街並みの石畳の上を走れば靴底がこつん、と音を鳴らしていく。 その日のアグニシュカは街並みを眺めては優雅な午後を過ごすつもりであったのだろう。 折角の晴天なのだから、どこかに出かけよう。 段々と肌寒くなってきたこの気候は何処か過ごしやすい。 「……あれ?」 瞬いた少女が顔を上げる。どうしてだろう、凄く大きな雲がかかって。 首を傾げた少女が差して居た日傘を降ろすと同時、其の侭『口』を開ける様に雲がぱかりと開き、その中に吸い込まれて行った。 その場に残った物は何もない。 何故だろう、教会の上からラッパの音が響いた様な気がした。 まるで『あの日』、危険を知らせる為に鳴り響いていた音と何処か似て―― ● 「外国、かぁ……やばい、日本語以外喋れないんだけど」 『サルでも分かるいんぐりっしゅ』等という本を手にしながら『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) は『或る国』のブリーフィングルームでリベリスタに言い放った。 「皆、集まってくれてありがとな。俺の外国語スキルがない話しは置いておいてミッションを説明するぞ!」 へらりと笑った蒐がフォーチュナから預かってきたという資料は簡単な情報しか書いていなかった。 「あ、所で『混沌組曲』――ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが起こした一連の事件――で大きな打撃を受けた国って何処か分かる?」 少年リベリスタは問題ですと小さく笑う。にこにこと笑う彼に首を傾げるリベリスタ達に齎された答えは『ポーランド』であった。『白い鎧盾』というリベリスタ組織が死体軍団の物量に押し潰され惨敗した事はリベリスタも記憶して居るだろう。 「てなわけで、『オルクス・パラスト』からの要請でポーランドへ行こうってお誘いだぞ。 最近、ほら、バロックナイツをズバーンってして、アークも世界で目立つっていうか、なんかそんなだし! 行けばすっごい歓迎されると、思う。アークのリベリスタ凄い! って感じ……これは俺達がいままで戦ってきた成果ってやつかな? た、多分。」 ――詰まる所、バロックナイツと度重なる闘いの中でも、名声の高まりつつある『アーク』へ他組織からの依頼が舞い込んだということだろう。特に、『白い鎧盾が被害を被った凶行』の元凶――『ケイオス』を破った『アーク』に是非とも助けて欲しいというのが先方・ポーランドの考えだろう。 「古都クラクフに突如現れたアザーバイドを倒して欲しい、とのことだ。 現在、ヴァヴェル城の上空に特殊空間を作り、一般人を取り込んでは犠牲者を増やしてるそうだぞ」 まるで雲の様な外見をしているというアザーバイドの写真をモニターに映し出す。 『オルクス・パラスト』を介して送られてきた写真であろう。黒い雲は曇天の空を思わせるが、その周囲は晴れ渡り、明らかに『異質』なものでしかない。 過去の大戦で影響をうけなかった旧市街地は異国情緒を思わせるがそれを台無しにする様な『どんより』とした雲の存在に蒐が唇を尖らせた。 「万華鏡は国内専用だそうだ。外国では役に立たないし、不測の事態が起きる可能性は十分にある。 情報は向こうの人も頑張ってキャッチしてくれてるんだけど、あんまり情報が多くないのは勘弁してくれるかな」 申し訳ないと肩を竦める蒐が『サルでも分かるいんぐりっしゅ』をぎゅ、と握りしめリベリスタを見回した。 「誰かが犠牲になるのは見過ごしてらんねーだろ? 向こうの手が足りないなら貸してやりゃいい。 言葉が通じない街の人でも同じ人間だ。いっちょ人助けと行こうぜ!」 ● 日本津々浦々、アークのリベリスタ達は何時だって忙しい。 日本から半日以上。時差は8時間の場所でプラチナブロンドの白人女性が優しく微笑んでいる。 「Dzień dobry!」 「……え、あ、うー……」 何語ですかと真顔で告げる蒐に小さく微笑んだ女性――現地のリベリスタは首を傾げ「アークの皆さん」と何処かたどたどしく日本語で告げた。 「いらっしゃいませ、『アーク』の名は此処では良く聞きます。凄い、ご活躍だとか! この度は宜しくお願いします。ヴァヴェル城へ、参りましょうか」 こちらへ、と微笑む女性、マウゴジャータは『オルクス・パラスト』のリベリスタであり、アークのリベリスタに信頼と期待を寄せる一人のポーランド人だ。落ち着き払ってはいるが紅潮した頬が本当に期待を寄せているという事をよく分からせる。 ――わたしは皆様を信頼しておりますから、応援しておりますから……! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月23日(水)00:35 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● その日は良く晴れて居た様に思う。 案内役である現地のリベリスタ、マウゴジャータにツァイン・ウォーレス(BNE001520)は人の良い笑みを浮かべて案内を促した。 観光案内は任務の後で頼むと微笑みかけるツァインに頷いたマウゴジャータの期待は歪夜の使徒を撃退した戦士達に贈られる栄光の様にも感じる。何処かくすぐったさを感じて身を揺らした『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)と比べ、その期待と信頼を全て受け止めた様な誇らしげな顔をした『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は首から下げたロザリオに触れて頬を薔薇色に染め上げて笑みを浮かべて居る。 「此処がショパンの国かあ。ボク達は全力を尽くさなくっちゃね」 「勿論っすよ。さっさと終わらすっすよ」 石畳の上を歩みながら此方ですと手招くマウゴジャータに従いながらツァインは訪れる前に勉強したポーランド語でマウゴジャータに話しかけて居る。 そんな様子を横目に身体を固くする『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) に『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が可笑しそうに笑った。言葉が通じない事が不安なのは誰だってそうだ、だが、『言葉が通じなくともリベリスタが為す』事に違いが無い事を両者共に知っている。 「ふふ、言葉も国も違っても自分たちのやりたい事は変わらないです。ね、あーちゃんさん?」 「あ、ああ、そうだな」 役に立たない英語のテキストを握りしめる蒐に「だから何時も通り」と励ます亘。そんな様子を可笑しそうに見つめる『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)の表情は戦闘時と比べ優しげだ。 「桜庭は外国初めてか? ウハハ、そう緊張すんなって!」 「するって! うわー、外人さんだーって!」 なるじゃん! と観光客の様にはしゃぎ立てる蒐の声を聞きながらズレる眼鏡を直した『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は『観光』とはまた違った視点でポーランドの街並みを見詰めている。まるで値踏みする様な視線は『福音の指揮者』の起こした混沌事件の傷跡を探すかのような視線である。 「リベリスタ、此方です」 考え込むかのようなイスカリオテに掛けられた声は『傷跡』に住まう女のものだ。その『傷跡』を感じさせない町並みは死者の群れが占拠したとは思えないほどに美しい姿を保っている。 今まで晴れて居た美しい青空を覆う様な雲が前方に見える。素朴な城を見詰め、淑子が感嘆の息を漏らすが、その情景を台無しにする程に黒く、大きく発達した雲が掛けられている。 「あれがヴァヴェル城か。生存者がいればいいんだが……」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)が何時もの如く『変身』を行う様にアークフォン3Rを握り見通しの立たない『雲』の中を思い呟いた。万華鏡(カレイド・システム)の効かぬ日本の『外』での危険を思ってただろう。 表情を硬くした淑子が両手を組み合わせ鮮やかな桃色を伏せる。戦闘前に行うのは両親への祈りだ。 (お父様、お母様……どうかわたし達を護って) 少女の華奢な身体には似合わぬ大戦斧が日光を受けて煌めいた。防寒用のレインコートを羽織り亘はマウゴジャータから聞いた最近の行方不明者――このアザーバイドの被害者であろう人物の名前を聞いていく。 イスカリオテがマウゴジャータに差し出した幻想纏いは彼女の不安を取り除く為か、それとも他の意思があるのか分からない。連絡手段として信用がおけるとして彼がマウゴジャータの腕に抱かせた『偽典/ユダの福音書』は彼女にとって何処か重みのある様な物に感じていた。 「Trzymaj się……」 ● ふわりと浮きあがりながらAura -Flügel der Freiheit -を握りしめた亘は周囲を見回した。どのような形でアザーバイドが存在するかも見通せない特殊な空間内で彼が探して居たのは一般人だ。 (さて、何処でしょうか……) 真っ先に特殊な空間内に踏み込んだ亘は浮き上がっている都合上、敵からも味方からも目立つ立ち位置になる。魔力剣を手に、ゴーグルを使用し、持ち前のバランス感覚を元に動きまわるフラウは晴天の空と打って変わった豪雨に肩を竦めて見せる。 「うへー、聞いてた通り面倒な場所っすね。んで、何か分かった事はあるっすか?」 千里眼を用いて周囲を確認するアンジェリカではあるが、豪雨の中では視界がやはり歪んでいる。魔的な雨は普通の雨ではない特殊な生物の物なのであろう、黒姫と名付けたゴシックロリータのドレスが肌に張り付く感覚が何とも気色悪い。 「……前方に何人か、居るよ。あと、あの大きな雲はアザーバイド……?」 大きな赤い目を凝らしてアンジェリカは特殊空間の中を見据えている。彼女が暗澹としたこの空間で暗視ゴーグルを付けて居ないのは遠くを見通す為の瞳を役立てる手法に他ならない。イスカリオテの声により完全に武装したリベリスタではあるが、不安が拭え無いままである。 「この空間の核なる存在の位置を、内部で吸収される生気の流れと到達点の推理の軸を――」 囁く様に頭の中のデータを処理するイスカリオテ。真理を見通す為に得た瞳が雨の中をじっくりと見回して居る。豪雨に寄って聴覚までもが雨音に支配される感覚の煩わしさにイスカリオテは黒の書のページを捲くり眼鏡の位置を指先で直した。 「どうも、生き物というより……生物兵器、という印象が拭えませんが」 「アザーバイドってのは、俺らの知らない生物だからそう思うのもありっちゃありじゃないかな」 指示を仰ぐように視線を送る蒐がトンファーを握りしめイスカリオテの隣で小さく笑う。状況を確認するアンジェリカ、イスカリオテの言葉に耳を傾けながら『ヒーロー』へと変身した疾風が地面を蹴りふわりと浮きあがった。 簡易飛行の姿勢のまま、ARK・ENVG3Rで視界を確保した彼は前進し雲の塊が生気を吸いとらんとしている事に気付き前進する。 それは淑子も同じであったのだろう。熱感知を使用した淑子はノクトビジョンと名付けられた軍用の暗視ゴーグル越しに一般人の姿を捉えている。 タワー・オブ・バベルを身に付けた淑子にとって『外国語』は理解できない言葉では無い。例えるならば、この『雲』が言葉を話せるのであれば淑子は対等に対話出来る言語センスを持ち合せて居ることになるのだ。 「さあ、はじめましょう。女の子は優雅に。……素朴なお城をゆるりと観光、させて頂く為にね」 ふわ、とワンピースの裾を揺らし、雨に濡れた地面の上を走っていく。亘と交わる視線、頷いた亘が翼を広げ、一般人の元へと駆けていく。 ツァインがその目で見ておきたかった『ポーランド』の街並みを穢す存在に彼も黙っては居られない。雲のアザーバイド『流星雨』を中心に囲む様に見据えたツァインは仲間達へと加護を与える。十分な回復手の居ないメンバーの中で彼の存在は大きな支えになっているのだろう。 雲の手が伸びる。蝕む事を目的に伸ばされる腕を避けたフラウがアンジェリカが視認した方角へと全力で走る。持ち前の俊足を生かした徹底的な攻勢に出たのだろう。 「さっさとぶっ飛ばしに行くっすよ。一般人がいるんだ。命の危機に悠長なことしてらんねぇっす」 踏み込んで、魔力剣をその細腕が振るう。光りの飛沫を上げる華麗な剣捌きに痛みを訴える様に『流星雨』が暴れだした。腕が伸ばされる。 その存在の隣に座り込んでいた女の生気を吸い取らんと腕が真っ直ぐに振り下ろされ―― 「貴女がアグニシュカさんですか? お待たせしました。……助けに、来ました」 亘が、優しい笑みを浮かべて翼を広げる。攻撃を上手く避け華奢な少女の体を抱えながら雲の伸ばす腕を受け止め続ける。 「大丈夫よ、助けに来たわ。わたしたちの指示に従って下さるかしら?」 「―――」 こく、と頷く少女を抱え上げた亘が後退する。一般人を出来うる限り離す。生気を蝕まれ続けた亡骸も存在して居る事だろう。それでも淑子は諦める事はない。何処かにまだ『生きている』人が居る筈なのだから。 暗視ゴーグルを付けたアンジェリカはLa regina infernaleで蝕腕を受けとめながら頭によぎる存在を思い出した。 日本で出会ったことのある『白い鎧盾』のリベリスタ。ユゼフと名乗った男の事を思い出す。彼だって一人のリベリスタであったのだろう。その姿が脳裏にちらついている。 分裂する様に姿をバラけさせる雲にアンジェリカが昇らせた疑似的な赤い月。豪雨の中でもひときわ目立つその月の光を浴びながら、濡れて肌に張り付く髪を気にせずにアンジェリカは大鎌を振るった。 「ボクは、ボクの全てを以ってこの地と――この地の人々を救うと、心に誓うよ!」 家族を、仲間を、人々を護れなかった事を悔む人が居た。苦しみ続ける余りに人は変貌するという。彼の代わりになれる訳もなく、彼になれる訳でもない。けれど、自分自身が闘う事はできる筈なのだから。 「全く……何かを見落として居る気がしてならない。かの指揮者はこの国の演奏に何故この場を選んだのか」 北欧で音楽ならばオーストリアであろうに、と呟くイスカリオテ。音楽家であるケイオス・カントーリオの住まう国であるオーストリア。自身の屋敷のある場所では無く音楽に精通するアンジェリカがポーランドに足を踏み入れた際に告げた『ショパンの国』に攻め込んだのは彼に何らかの考えがあったからだろう。 何れにしても彼の足跡(きずあと)はこの国にはない。あるのはその子孫らがリベリスタに向ける期待と、歓迎――そして少しばかりの好奇の眼差しであろうか。 頭の中で計算を整えたイスカリオテは黒の書の頁を捲くる。第一節、書かれた言葉を読み上げる様に唇を歪めて、眼鏡の奥で小さく笑った。 「さて、神秘探究を始めましょうか」 ● 低空飛行を行ったままに『変身』を行った疾風は諸悪の根源たる『流星雨』の本体を叩く為に自身の体を強化しVDアームブレードを装着した身体で一気に飛び込んでいった。 苛烈な攻撃を受け続けることになれど、彼を支援するツァインのラグナロクの加護は壊されなないままだ。雨でぬかるむ大地を踏むことが無い彼が一手下がった所へと真っ直ぐに攻め立てるとフラウが剣を振るった。 「おっと、うちを相手に余所見なんて妬けるじゃないっすか。そっちがその気ならうちも好き勝手させて貰うだけっすけど!」 フラウの言葉に淑子が笑いながら斧を振り翳し、雲の攻撃を避ける。震える子供を見詰め、大丈夫よと囁く淑子をサポートする様に蒐が氷を纏った拳を叩きこんだ。 「桜庭さん、お任せするわ」 「りょーかい!」 動きを止める様に氷の腕を相殺する覇界闘士の背を越えて、淑子が子供を庇い連れて逃げる。亘と淑子、その両者が一般人を助ける為に尽力する中、傷ついた一般人を癒すツァインもぬかるむ足場の上で懸命に敵の弱点を探っている。 「神父さんよぉ、何か分かんないのか? このままずぶ濡れじゃあいい男でも台無しだぜ?」 「そうですね。それでは一つ。――あの雲、数を増やして居ますが『眼』は一つだけ」 大いなるチャンスだと言わんばかりのイスカリオテに頷いてツァインが地面を蹴る。魔力盾が蝕腕を受け止め、ブロードソードが鮮烈な輝きを纏い腕を切り裂いた。 歌う様に祈り、鎌を振り翳すアンジェリカが周囲の存在全てへと不吉を告げる中、イスカリオテの砂嵐が苛烈に雨の中で舞った。豪雨の中で砂嵐はその存在を確固として知らしめる。雨を含むそれが吹き荒れ、見通しが悪くなる中でもノクトビジョン越しにイスカリオテは『真実』を見極めんと目を凝らしていた。 苛烈になるのは砂嵐だけではない。雨もである。インヤンマスターの氷雨と似た攻撃が突き刺さらんと降り注ぐ。翼で受け止めながら亘は座り込んだアグニシュカに子供の世話を任せると緩やかに笑った。 「大丈夫です。自分は皆さんを支える為に来ましたから。大丈夫、もう痛くはありませんから」 青い大きな六枚の翼は亘が得た力の象徴だった。ぎゅ、と握りしめた掌は雨のせいだろうか冷え切っているように思える。手を繋ぎぬくもりを伝えればきっと安心してくれる。そう信じる彼の元へ淑子が再度救助人を連れてくる。 「遣られてばっかりじゃ、いられないわ。物語はハッピーエンドが素敵ですもの」 緩く微笑んだ淑子の長い白髪が闇の中で水気を含み煌めいた。言語の壁も無く、国境など感じない。自身のやるべき事を第一に見すえた淑子が斧を振り翳し、襲い来る存在を攻撃する。多角的な攻撃を自由に行う淑子が足場の不安を感じる中、リベリスタ達は戦線を押し上げる。 「核となるべきが何か。生物の『眼』を物質と捉えるならばまさしくそれが核でしょう――」 イスカリオテの言葉に頷いて、周囲を巻き込み時を刻む様に攻撃を続けるフラウの髪を縛りあげて居たリボンが引き裂かれる。金糸が一本、宙を舞い、愛らしいかんばせを少し歪ませた。 「おっと? モテる奴は辛いっすね」 「それはお互い様みたいだ」 疾風が身体を捻り蝕腕を避けんとする。一般人だけでは無いリベリスタも『流星雨』にとっては捕食対象であったのだろう。疾風が周囲を巻き込み雷撃の武技で攻撃を仕掛ける中、仲間達をサポートして居たツァインが一気に戦闘攻勢へと転じた。 「ここでヘマったらなぁ……ユゼフのおっちゃんに顔向けできねぇんだよぉぉ!!!」 だん、と地面を踏みしめる。慣れないポーランド語に、慣れない町並み、しかと目で見ておきたかったこの国全て。この国を愛した人が居たのをツァインは知っている。 身体を捻り上げ、一気に振り翳す切っ先がアザーバイドの眼へと食い込んだ。抉る感触がその両手に伝わり、腕が真っ直ぐにツァインへ伸ばされる。その腕を切り刻む様に淑子の斧が攻撃を加え、暴れんとする巨体のアザーバイドその物をフラウが切り刻む。 時をも切り刻むその斬撃を受けて、身体をくねらせるアザーバイドの攻撃を避け前線へ復帰した亘が光りの飛沫をあげてナイフを振り翳す。鮮やかな飛沫は彼の翼と同じ蒼を――彼が焦がれる空の色をしている。 「貴方の氷雨に負けない刃の飛沫を……とくとご覧あれ!」 宙を舞う亘へと大きな瞳がギョロリと向けられる。その隙をつく様に、地面をとん、と蹴り持ち前のバランス感覚を生かして忍び寄ったアンジェリカが死の刻印を刻みこむ。 前線へと押し上げられる攻撃の中、後衛位置で見極めるイスカリオテの声は彼等にとって一つの支えだ。『面倒な場所』であるのだから、頭の中で情報を一人で整理するだけではない。仲間からの指示を受けて、フラウは本体の急所たる『眼』を潰しにかかる。 大きな『眼』はこの本体にしかない。その巨大な腕を蹴る様に足場にした疾風が目の端を傷つければ、瞳が注意を向ける様に動き回る。 浮かび上がった亘がその速度を生かして角膜を傷つけることで響き渡ったのは絶叫。 耳を劈く声を聞き、淑子が鮮烈な光りを放つ斧を振り翳す。雨水を含むワンピースが重たく感じ、ぬかるむ大地に足を取られ掛けても彼女は止まらない。 ここがチャンスだと言う様にイスカリオテは見極めた。 大きく見開かれた『流星雨』――雲のアザーバイドの瞳。ぎょろりと血走ったそれが『核』であることは見極め切った。砂嵐が止み、質量のある雨が抉る様に落ち続ける中、背後で身を縮こまらせ恐怖におびえる姿にアンジェリカが鎌を握り締め直す。 「あと一押しだ。さて、行きますよ――!」 イスカリオテの放つ気糸が伸びあがり目玉を抉りこめばアザーバイドの動きが停止する。氷の腕を相殺する蒐と亘を受け、地面を蹴り、羅刹の如き勢いで間合いを付けた疾風がその眸――『核』を一気に破壊した。 『――リベリスタ、皆さん、ご無事ですか?』 幻想纏いを通して聞こえる声に淑子は息を付き小さく相槌を返した。透明な『壁』でもある様に思える空間の『内』と『外』では何かが違うのだろうか。外のざわめきが聞こえて居る。 マウゴジャータへと今回の事件に巻き込まれた一般人の保護を頼む亘が濡れ鼠になった自分の姿を見て小さく笑みを漏らす。 「亘さん、びしょびしょだ!」 「あーちゃんさんこそ、伊達眼鏡が濡れてますよ?」 あ、と声を漏らす蒐に小さく笑う亘を見詰めながらスカートの裾を絞り淑子が息を付く。震える手でロザリオを握りしめたアンジェリカが何処か緊張した様に問いかけた。 「可能ならで、いいんだけど……ユゼフという人の家族の御墓の場所、解らない……?」 『ユ、ゼフですか。さあ……』 直ぐには分からないと答えるマウゴジャータはまた探しましょうと気前良く返事する。彼女にしてみれば『噂通り、期待通りの戦士』達であったと言うところだろう。 「あ、もしかしてマウゴジャータさん、『白い鎧盾』って再結成したいとか、思ってたり……する?」 『わたし個人の希望でしたら』 出来うるならば、と緊張した様に小さく囁く声にツァインは何処か嬉しくて、応援したいと微笑んだ。 頑張った、と何処か慣れない言葉で告げるフラウがそっぽを向き小さく伸びを漏らす。 「さーて、終わり終わり。戦いもイイっすけど、ソレだけじゃつまらない。観光案内とか、頼めないっすか」 喜んで、と返答を受けた時、ふと淑子は空を見上げる。降り続いていた雨はもう止んだ。 空はその黒さを消し、段々と晴れ渡っていく―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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