●不死の国から 街はハロウィン一色であった。本番はもちろん、月の終わりなのだがしかし、その前からこの街では連日イベントが開催されていた。よほどハロウィンが好きなのだろう。商店街にはかぼちゃが吊るされ、ショッピングモールはホラーテイストの飾りつけ。 そんな街中を、悠々と歩く女性が1人。黒いドレスに銀の髪。血色の悪い肌色をした、少々異質な女性である。見る者が見れば、彼女が普通の人間ではないことに気付いただろうか。 アザーバイド、と呼ばれる異世界から来た存在。不死に近い特性を持つ(クラリモンド)と言うアザーバイドである。 ふふふん、と鼻歌を歌うクラリモンド。ハロウィン真っただ中の街中がお気に召したらしい。 コツコツと、厚底を鳴らして進むクラリモンド。興味をそそる物を片っ端から覗きこんで行く。 そんな中、一際彼女の目を引くものがあった。それは、路地の奥で蹲り、しくしくと泣いているまだ幼い少年である。暫くじっと少年を見ていたクラリモンドだったが、何を思ったのか、満面の笑みで彼に近づいていく。 『少年。どうしたの? 泣いているの? 迷子なの?』 そう訊ねるクラリモンドに、少年は頷くことでイエスの返事を返した。そう、と呟きクラリモンドは少年に手を差し伸べる。 『わたし、貴方の事、お気に召してよ。いいわ、連れて行ってあげる』 少年は、恐る恐るクラリモンドの手を取った。血の通っていない氷みたいに冷たい手に、少年は目を丸くする。くすりと笑って、クラリモンドは歩きだした。 『連れて行ってあげるわ……。えぇ、連れて帰ってあげる』 クラリモンドからすれば、出かけた先でお気に入りの侍従を手に入れて帰還する、というだけの話しだろう。事実、彼女は少年に危害を加えるつもりはないようだ。 だがしかし、この世界でそれは立派な犯罪。誘拐である。少年の両親も、彼の事を探しまわっていることだろう。 『そうね……。毎回邪魔をしてくれる方達も居るし』 パチン、と指を鳴らすクラリモンド。彼女の周囲に、見えない何かの気配が集まる。その気配に向け、クラリモンドはこう告げた。 『邪魔をする奴らの邪魔をすること……。それが貴方達の仕事』 クラリモンドを始め、彼女達不死の軍勢は深夜12時までしかこの世界に留まれない。 タイムリミットまで、まだ3時間ほどある。 もっとも、クラリモンドが悠長に事を構えているとも思えない。きっと彼女は、まっすぐDホールから元の世界へ帰ろうとするだろう。 生憎と……。 この街のどこにDホールがあるのか、今のところ分からないのであった。 ●不死の国へ 「アザーバイド(クラリモンド)。異世界から来た不死の女王。この世界で見つけた迷子の少年を、連れて帰ろうとしているみたい。気に入ったのかしら?」 とにかく連れて行かせるわけにはいかないから、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。 「配下の(リボーン・ボーン)を数体、街に放っているみたい。リボーン・ボーンはかぼちゃや人形に取付いて、骸骨の形を得ることで行動が可能になる。身体を破壊しても、暫くすれば別の人形に取付いて蘇るみたい」 現状、討伐の方法は判明していない。こちらの邪魔をして来るだろうが、相手をするだけ時間の無駄、ということにもなりかねない。どうせクラリモンドを始め、不死の軍勢は真夜中になったら帰っていくのだ。 優先すべきはクラリモンドだ。彼女の連れた少年を回収することが最優先である。 クラリモンドは、街のどこかにあるDホールへ向かっている。Dホールの場所は不明。クラリモンドの能力か、結界に覆われ探しにくくなっているらしい。 注意を凝らせば、発見も可能だろうが一見しただけでは分かりにくい。 「少年の救出、クラリモンド及び不死の軍勢の送還、Dホールの破壊。クラリモンドは小細工を弄するのが得意みたいね。気をつけて」 そう言って、イヴは仲間達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月27日(日)00:41 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ハロウィンに浮かれる街 かぼちゃの飾りに火が灯る。仮装した集団が、街中に溢れ返った。中にはアニメのコスプレをしている者たちもいる。現実の中にあって、ある種異常なその空間においては、異質こそが正常だ。 だから……。 「ねぇ、どこへ行くの?」 『んー? 素敵な所よ。すごく素敵な所。ちょっと、寒いかもしれないけど』 クスクスと笑う、銀髪の女性。豪奢なドレスに身を包んだ彼女はクラリモンド。死体そのものといった冷たいその手は、1人の少年の手を握っていた。 異世界から来たアザーバイドが、どういうわけか迷子の少年・和人を気に入り、自分達の世界へと連れ帰ろうとしているのである。 『さぁ、急ぎましょう……。やっぱり今回も、邪魔もの達がやって来たわ』 そう呟いて、クラリモンドは歩調を早めた。 ランタンの火に照らされたその横顔が、一瞬骸骨のそれへと変わる。その事に気付いた者は、しかしこの場にはいなかった。 ●ハッピーナイト 道行く人々が仮装をしている。ここぞとばかりに普段着にするには派手すぎるパーティ衣装のような服や、貴族染みたドレスを纏っている者もいる。頭にかぼちゃを被った者もだ。どちらかといえば異質な存在であるリベリスタ達より、尚異質。 「懲りねぇ姫さんだな……。一般人巻き込むなよ」 仕方ないな、と溜め息を零す『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)。白いローブに、髑髏の面。鎌を手にした死神のような姿。メキシコの聖人、サンタ・ムエルテの仮装なのだが、きっと皆気付いていない。 隣を歩く『薄明』東雲 未明(BNE000340)は黒いゴシックドレスを纏っている。捜索対象であるクラリモンドに似せた服装だ。道行く人に声をかけ、クラリモンドの居場所を探す。 「すみません。私と似た格好をした、小さな男の子連れの女性見ませんでしたか?」 捜索開始から幾らか時間は経過した。今のところ、有力な情報を得ることはできていない。思いの外、ドレス姿の女性が多いのが原因だ。ここぞとばかりに、普段は着ない派手めな洋服を引っ張り出してきたのだろう。 やれやれ、と溜め息を零すプレインフェザーと未明。 2人は気付いていない。そんな2人は、遠目に眺める骸骨の存在に。 「任務と無関係なら、ハロウィンデートを満喫できるのだけど」 仕方ないか、と『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)は呟いた。 一刻も早く、クラリモンドを見つけて事件を収束させてしまおう。そう考え、聞きこみを開始。ミュゼ―ヌとは少し離れた場所では、ドラキュラ伯爵の仮装をした七布施・三千(BNE000346)が苦笑い。 「クラリモンド、見つけやすくなるといいんですけど」 困ったような笑顔を張りつけ、三千は言う。彼の周りには人だかりが出来ていた。ワールドイズマイン。E能力を持たない一般人の注目を自分に集めるスキル。 擦れ違う者が次々足を止め、三千へと視線を送る。一般人の注目を集める一方で、この効果はクラリモンドや、その配下には通用しない。 事実、ミュゼ―ヌの眼は捉えていた。 遠目にこちらの様子を窺う、2体の骸骨が居ることに。 恐らくアレは、クラリモンドの配下(リボーンボーン)だ。そう判断し、ミュゼ―ヌはそっと愛用のマスケット銃を取り出した。 剣が一閃。風圧でランタンの火が揺れる。燕尾服をなびかせて、空中で一回転。タン、と小気味の良い音を鳴らし『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が地面に着地。斬りつけられた骸骨が数歩後じ去るのを確認し、牙緑はフッと笑った。 「アクション映画っぽくみえただろうか」 剣を旋回させ、再度構える。後じ去った骸骨、リボーンボーンがカタカタと音を鳴らし、その身を無数に分割させた。 「ハロウィンに本物のオバケが出てきたとか、笑えそうで笑えないですねぇ」 視線をじっとリボーンボーンへと向ける『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)。リボーンボーンは全部で2体。エネミースキャンでリボーンボーンの解析を始めた。 クラリモンド捜索中に、牙緑とシィンの2人はリボーンボーンに襲われた。クラリモンドがこちらの存在に気付き、邪魔者だと認識した証拠だ。 街中で派手に暴れる訳にもいかず、2人は黙ってリボーンボーンの動向を窺う。 リボーンボーンの受けた指示は、邪魔者の邪魔をすることだ。しかし、先ほど攻撃を受けたとはいえ、リボーンボーン達では牙緑とシィンが、主であるクラリモンドの邪魔をしているのか否か、判断が付かない。 現状をクラリモンドに報告すべく、後退する2人を追跡するリボーンボーン。いつの間にかリボーンボーンの数が4体に増えている。 「それなら……」 踵を返し、駆け出すシィン。牙緑が後に続く。突然逃げ出した2人を追って、骸骨達も走りだした。何事か、と道行く人々が彼らを見やるが、すぐに興味を失ったように視線を逸らす。 ハロウィンに活気づいたこの街では、多少の異常事態など雑踏に紛れて瑣末事に変わる。 駆けること数十秒。2人が駆け込んだのは河原であった。2人を追って、骸骨たちが橋から飛び降りた。 「隊列を崩します!」 叫んだのはシィンだ。骸骨達の頭上に魔方陣が展開。火炎弾が降り注ぐ。 夜闇を赤く切り裂いて、骸骨達を襲う火炎弾。轟音、業火。川に落ちては水蒸気をばら撒く。 白く染まった視界の中で、蠢く影がいくつか。 「帰る前に、ちょっと遊ぼうぜ」 霞の中に飛びこむ牙緑。舞うように剣を振るい、骸骨兵を切り裂いていく。 だが、しかし……。 「なにっ!?」 手応えが軽い。それもその筈、霞の中で骸骨たちは、その身を無数のパーツに分解し、空中をふわりと漂っていたのだ。動きの止まった牙緑の頭上。骸骨の1体が、その身を組み換えハンマーを形作る。 気付いた時にはもう遅い。 圧倒的な存在感と共に、髑髏のハンマーが叩きつけられた。 「もう結構だから、お引き取り願ってもよろしいかしら?」 ミュゼ―ヌの銃が火を吹いた。弾幕。放たれた弾丸は、まるで蜂の群のようだ。リボーンボーンは、身体を分解し回避に移る。しかし、一分の隙もない弾幕の中では意味を成さない。 銃声が途切れる頃には、すでにその身は木端と化して地面に散らばっていた。置物や飾り物を媒介にその身を形成しているリボーンボーンに死という概念はない。 また何処かで、新たな身体を手に入れて復活するだろう。 しかし、なんとかこの場は凌ぐことができた。それに、どうやらこの付近にクラリモンドはいないようだ。ミュゼ―ヌが銃を仕舞うと共に、盛大な拍手が鳴り響く。 三千がワールドイズマインで集めていた一般人たちのものだ。 「こ、このアトラクションは実際に火薬を使用していますので、近づき過ぎないようにしてください」 慌てたように三千がフォローを入れる。見せ物ではないのだけど、とそう思いながらもミュゼ―ヌはふっと溜め息を零す。 仕方ない、というように笑って、観客に向け一礼をしてみせた。 そんな客たちも、三千がワールドイズマインを解除すると、三々五々散っていく。 それを見届け、2人は再び、クラリモンドの捜索へと戻っていった。 『思ったよりも近くまで来ているのね……』 そう呟いたクラリモンド。リボーンボーンからの報告を受け、すぐ近くにリベリスタが来ていることを知る。クラリモンドと手を繋いだまま、和人は首を傾げてみせた。 場所は路地裏。人気のない小道を行く。 「どうかしたの?」 『いいえ。どうもしないわ。ただ、そうね。少しだけ、帰るのが遅くなるかもしれないわ』 「ぼく、我慢できるよ」 『そう。それは偉いわね。さ、急ぎましょう』 和人の手を引き、歩調を早めるクラリモンド。コツコツと音を鳴らしながら歩く。 クラリモンドの口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。 「………。見つけた」 耳を押さえ、未明は呟く。集音装置を駆使し、彼女はやっと、クラリモンドの声と足音を発見した。クラリモンド達の居場所が、人気のない路地裏だったということも有効に作用しただろうか。 未明を先頭に、プレインフェザーがそれに続く。急に駆けだした2人を追って、リボーンボーンが駆け出した。迎えうつか、否か。 僅かに考え込んだ後、2人はそのまま走る事にした。 迎え打つなら、クラリモンドと纏めてだ。やがて、視線の先にクラリモンド達の影が見えて来る。 「知り合い発見。位置は……」 AFを通じ、プレインフェザーはクラリモンドの居場所を仲間に連絡する。 暗闇の中、プレインフェザーの瞳は捉えていた。 優しく笑うクラリモンドと、楽しそうな和人の笑顔を……。 思ったよりもリボーンボーンの動きが早い。それもその筈。身体を分解して、飛んでいる。地形の影響を受けないと、これほどまでに動作が軽いものなのか。 ちッ、と舌打ちを1つ。全力で小道を駆け抜け、未明とプレインフェザーはクラリモンドを飛び越し、その正面に回り込んだ。滑るようにして急停止。土埃が舞う。 ぜぇはぁと息を切らす2人を見て、クラリモンドは小さく嘆息。 『いらっしゃぁい……。あとちょっとなのになぁ』 2人の背後にはDホール。そして、Dホールの護衛をするようにリボーンボーンが立っていた。 謎の乱入者と、立って歩く骸骨を見て少年・和人は怯えている。そんな彼に向かって、未明は語りかける。 「ハイ、少年。その女は、パパとママの所に連れてってくれるって言ったか?」 「お散歩は構わないけれど、その子とはここで別れて頂戴な」 剣を引き抜く未明と、魔導書を取り出すプレインフェザー。物騒な気配を感じ取って、少年はクラリモンドの背後に隠れた。冷たいその手をきつく握る。 『お姉さん、ちょっとあの人達とお話があるから』 そう言ってクラリモンドは、和人の頭を撫でて前へ。和人を守るように、リボーンボーンが移動する。怯えた顔をする和人だったが、クラリモンドが大丈夫だから、と言うと、和人は大人しくリボーンボーンの護衛を受け入れた。 「貴女はその子を、一体"どこへ"連れて行くつもり?」 大上段から剣を振り下ろす未明。容赦のない1撃。それを受け止めるのはクラリモンドの影の腕。じわり、とクラリモンドの足元からそれは染みだすように伸びて、未明の身体を締めあげる。 ギシ、と骨の軋んだ音。そこへ割り込むプレインフェザー。気糸によるピンポイントがクラリモンドの喉を突いた。 『あぅ!?』 バランスを崩すクラリモンド。その隙に、未明の剣が1閃。クラリモンドは胴を切り裂かれるが血は零れない。彼女の身体は偽りのそれだ。本来は骨でしかない。血など通ってはいないのだ。 『あぁもう……。この世界は、ガードが厳しいわ』 でも楽しい、と笑ってみせてクラリモンドは禍々しいオーラを噴出させる。クラリモンドの援護をするように、リボーンボーンが1体飛び出す。 否、1体ではない。どこか近くで復活したのか、先ほどミュゼ―ヌに破壊された2体も乱入してきた。飛び交う骨たち。視界を埋め尽くす白い影が、クラリモンドの指揮を受け、的確に未明とプレインフェザーを襲う。 敵が多い。手数が足りない。クラリモンドの指揮は的確で、意地が悪い。 攻勢に出ることができない2人。と、その時だ……。 頭上に展開する魔方陣。火炎弾が撃ち落とされた。 「一般の方に迷惑かけないのなら、歓迎してあげたいのですけれどねぇ……」 困ったような声。火炎弾が飛び交う骨を撃ち落とす。現れたのはシィンであった。リボーンボーンを撃破し、この場に駆け付けたのだろう。頭を掻きながら、クラリモンドをじっと見据える。未明とプレインフェザーが、落ちてきた骨を念いりに砕いた。 『あら……。邪魔者はまだまだ増えるわけ』 困ったわ、と影の腕を展開するクラリモンド。うかつに近寄れない。それに、クラリモンドの背後には和人も居る。 攻撃に巻き込んでは大事だ。リボーンボーンは、和人を連れて1歩後退した。 そんなリボーンボーンの肩を、ポンと叩く人影が居た。 「オマエのお母さんが探してたぞ。もう家に帰りな」 リボーンボーンの腕から、素早く和人を引き剥がす牙緑。いつの間に接近を許してしまったのだろうか。和人を奪い返そうと、リボーンボーンが飛び出した。その腕を避けながら、牙緑は逃げる。和人をシィンに預け、剣を振るう。骨と剣とが火花を散らした。 『あっ……!? え、嘘?』 えぇ、と情けない声をあげるクラリモンド。周囲を見回すが、この場に居る自身の配下は僅か1体。その1体も、牙緑と交戦中だ。 『わ、わたしがやるしかないのかしら?』 戦闘に自信があるわけではない。配下がいてこそ真価を発揮するのがクラリモンドという女王だ。しかしその配下も今は使えない。 『このまま引くのも癪だものね』 仕方ない、と呟いて。 影の腕が、触手のように飛び出した。 飛び出す影の腕。空気を切り裂き、地面を這うように襲い掛かる。それを受け止めたのは未明の剣だ。僅か数秒にしか満たないが、無数の腕を受け流す。 それで十分。腕の隙間を縫うようにしてプレインフェザーが飛び出した。 「あんたにピッタリのよるだが……パーティは終わりだぜ」 無数の気糸が、クラリモンドの全身を貫く。関節を撃ち抜かれ、或いは縛りつけられて、クラリモンドは動けない。一瞬の出来事だ。諦めたようにクラリモンドは視線を伏せた。 トドメの1撃を覚悟し、目を閉じる。どうせ死にはしない。動けなくなるだけ。時間が経てば、蘇生する。痛みなどとうに感じない。それでも負けるのは悔しいものだ。 「まって!!」 クラリモンドを庇うように、和人が割り込んできた。シィンがそれを追いかける。 「お姉さんを苛めないで!」 涙目で、それでも和人は怒っていた。純粋で、強い眼差し。唖然とするクラリモンド。 自分を助けようとしてくれたクラリモンドを、今度は和人が守るのだ。 ●そして夜は更けていく 淡い光が降り注ぐ。少し気の早い雪のようだ。その場に居た全ての者を癒す光。 「間に合いました」 そう言いながら、三千が路地裏に顔を出す。その後ろにはミュゼ―ヌの姿。それだけではない。2人の男女を伴っている。 「和人っ! こんな所に居たのか!」 男性が叫ぶ。どうやらこの2人、和人の両親らしい。 「和人君を探しているのを、見つけたんです」 そう言って笑う三千であった。場違いなほどに穏やかな笑顔。それでも彼は、いざという時庇えるように、和人の両親よりも前に立つ。 「貴方も保護してくれてありがとう」 地面に座り込んだクラリモンドへ向けて、ミュゼ―ヌは言う。片手に持ったマスケット銃の銃口は地面へ向いている。しかし、クラリモンドが怪しい動作をすればすぐにでも銃弾を放てるように、引き金に指をかけていた。 『分かったわよ、もう……。大人しく帰るとするわ』 その一言で、終幕。 敗者はただ要求を受け入れるのみ。それがクラリモンドのモットーであった。 『少年。貴方はきっと私のことを忘れてしまうのでしょうけど。それでもこれだけは忘れないでいて欲しい。貴方は、私みたいな死人の為に、その身を張って戦おうとしたことを……』 なんて、柄にもないわ。 そう呟いて、クラリモンドは踵を返す。最後に1度、和人に向けて手を振って、リボーンボーンを伴いDホールを潜る。 ホールを潜るその瞬間、彼女の姿は骨へと変じた。和人とその両親は、それを見て目を丸くする。その記憶も、後で消されてしまうのだろう。プレインフェザーの記憶操作で。 ただ1人。 プレインフェザーだけが、クラリモンドを見て目を輝かせていたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|